強さには多くの
オーラルさんや、マリアさんの様に高水準で負ける所が想像もつかない肉体的な強さ。
ウルクやマトイの様に多くの挫折があっても、次へ進む意志を持ち続ける精神的な強さ。
その他に出会った人たちが持つ“強さ”はどれも同じモノに感じた事は無い。十人十色なのだ。
「…………強ぇ――」
目の前で『トランマイザー』はバチバチとショートしながら不確かな明滅を繰り返して停止していた。アームの一つを潰され、キャタピラは破損し、表面装甲は至る所が凹み、その亀裂から黒い煙が漂っている。
「まったくよぉ……本当に味気のねぇ奴らだ」
ゲッテムハルトは、つまらなそうに吐き捨てながら『トランマイザー』だった鉄屑の上から降りた。
「お見事です。ゲッテムハルト様」
シーナは従者の様に丁寧な物腰でゲッテムハルトへ近づくと『トランマイザー』との戦闘でボロボロになった防塵コートの予備を手渡す。
「つまんねぇなァ。こんな鉄屑ぶっ殺しても嬲り甲斐もねぇ――」
彼は目立った傷を何一つ負っていない。無茶苦茶な戦い方に見えたのだが……高度な体運びで敵の攻撃を躱しきったのだろう。
「おい、ちったァ、マシな奴を連れて来い」
「そうですか……」
正直言って、苦笑いしか出ない。ゲッテムハルトさんは、オレが知る中でもトップクラスの
ゼノ先輩と同等かそれ以上の“強さ”……しかし、その特性は――
「チッ、ここにはうじゃうじゃダーカーが居ると思ったのによぉ。無尽蔵に湧いてくるくせに、こんな時に限って全然出てこねぇ」
この人は、まだ戦い足りないらしい。一人で
「……前よりはマシだが、まだ喰えるほどじゃねぇなァ」
お願いですから、その獲物を見るような眼でオレを見るのは止めてください。
「オマエもわかってるよなァ? ダーカーは見つけ次第殺せ。出来る限り、苦しめて、だ」
「……はい。わかってます」
その事に関してはシガも共感できる。オーラルより判明した情報――【仮面】がダークファルスだったからだ。ダーカーの中でも優先して排除される敵である以上、そこに一切の妥協は無い。
「くふふふ。良い雰囲気じゃねぇか……次に会う時が楽しみだ」
バサッと、ゲッテムハルトは予備の防塵コート羽織ると歩き出す。獲物としてのシガに対する優先順位が上がったのか、いやに上機嫌だった。
「……貴方様は、ゲッテムハルト様を残酷だと思いますか?」
シーナは、ゲッテムハルトを見るシガの様子からそう尋ねてくる。
「……正直に言っていい?」
「はい」
「恐いよ。ゲッテムハルトさんの持つ“強さ”は――」
強さには、様々な
「“狂力”。狂った力だ」
狂った力。そう表して何の遜色がないほどに、ゲッテムハルトの攻撃性は荒々しいのだ。
「…………そうかもしれません。ですが、それが必要であるのなら仕方ないと言えます」
「あらら」
どうやら、シーナちゃんは彼の力の在り方がどれほど危険かを知っているようだった。制限なくまき散らす“暴力”は、いずれ大きな隔たりを生む。それこそ、自分と他を切り離してしまう程に強大な“個”は一度孤立してしまうと、中々人の輪の中に戻れなくなるだろう。
「貴方様と、ゲッテムハルト様は考えが合わない様です」
お願いだから、オレに興味を持つのは止めてと言って欲しい。
「しかし、ダーカーの処遇については、私もゲッテムハルト様と同意見です」
すると、何かを思い出す様にシーナは冷たくなるような殺気を纏う。シガでも少しだけ悪寒を覚えるような雰囲気だった。
「殺しますよ。容赦なく殺します……」
その殺気は、身に覚えがあった。誰かから感じたのではなく、自分自身の心の奥底に沈んでいる
“謝らないでください……。そうじゃないと、オレは隊長の顔まで“見えなく”なる”
今のは……また、
「……それでは、失礼します」
最後にシーナは、丁寧にお辞儀をするとゲッテムハルトの後に続いた。
「……形はどうであれ、まだ“人”だな。あの人でも――」
シガは去っていく二人の背を見ながら、思う所があり、そんな言葉を呟く。
ゲッテムハルトさんに、賛同できる者は中々いないだろう。だが、彼にはシーナちゃんがいる。彼女が傍に居る限り、人とのつながりは切れることは無いハズだ。
「あらあ、こんにちは。よく会いますねえ、ですよねえ」
ピシッと凍りついたようにシガは硬直する。その声は、生涯を通して、なるべく聞きたくない人物の
「リサさん……」
思わずカタナに手をかけたのは、防衛本能として見逃してほしい。
「凄まじいですねえ。大きな音がしたと思ったら、終ってましたよお」
ふふふ。と笑いながら『トランマイザー』の残骸を嘗め回す様にリサは視線を動かしていた。
「一応、聞きますけど……何しに来たんですか?」
「撃ちに来たんですよお? アークスが惑星に降りてする事なんて、それくらいしかないじゃないですかあ」
それはリサさんだけです! と、思ったのは黙っておこう。
「あなたもよく戦っていますよねえ。もしかして死にたがりですかあ?」
予想を全く覆さない発言は、
「いえ、そんな事はありません。命、大好きです! マイライフ最高~!!」
「ふふふ。任務で無茶をして緊急手術をするほどの大けがを負った人の発言ではありませんねえ」
げ!? ばれている――
「アークスには時々いるんですよお。死に場所を探す様に戦う人が」
その言葉に、先ほど出会ったからか、ゲッテムハルトさんの事が強く頭をよぎった。彼女が言うまで気がつかなかったが……確かに彼の動き方は後先考えない――“後退”の無い戦い方のようにも考えられる。
戦いの中で、回避も考えているが、ソレが無力となった際の“手札”を何も用意していない。そこで死んでも構わないと言う狂戦士ぶりだった。
「有名な所ですと……ゲッテムハルトですかねえ。あれの思考は、相手を“殺す”か自分が“死ぬ”かのどっちかしかないです」
あ、やっぱりあの人は他の人にもそう見られてるのか。
「まあ、何を思うが、何を願うが、それはその人の自由ですしねえ。リサには止める権利も義務もありません」
とは言っても、“止める”選択を選んだ場合、ゲッテムハルトさんを止める事が出来る人間はヒューイやオーラルさんのレベルでも苦労するだろう。それほどに彼の持つ“狂力”は凄まじいモノだ。
「でも、どうせ散らすつもりの命ならリサが散らしてあげたいですねえ。ふふっ」
その“ふふっ”が恐いんですよ。と、思ったのは黙っておこう。
「もし、戦う事になったら苦労しそうですけど……それも面白そうです」
そのうち、この人は本当に人を撃っちゃうんじゃないのかな?
そんなリサのヤバさとは別に、シガはゲッテムハルトのステータスから戦った場合の勝算を考えてみる。
「…………普通に死ぬ」
正直、一対一は勝ち目がまるで見えない。出来れば敵対したくない
ちょっとした砂漠のイベントです。EP1でも特に目を見張る場面の無い箇所に入っているので、早く戦闘パートに入りたいですね。
次はようやくアフィンと合流し、ちょっとマリアが出てきます。
次話タイトル『Truth at hand 目の前の真実』