「動きはどうだ?」
「問題なしですよ。ボタンもかけられますし、紐も結べます」
シガは、二日の検査入院後、退院できるとお墨付きをもらい、オーラルから性能を上げた『フォトンアーム=アイン』を受け取っていた。
装着して、入院の間で動作を確認する。指部の動きや、手首、肘、肩関節の動作。そしてフォトン循環の効率化の向上を実感しつつ、今日からアークスとして行動できる事を素直に喜ぶ。
「今回から、機能が停止する事になっても最低限のフォトン循環機能を確立した。そして、出力に伴った疲労感も大幅に軽減している」
「凄く助かります」
今まで最大のネックだった、使用後の疲労が大幅に改善されたのは大きいだろう。後で、フィールドに降りて、その幅を確認しておかなくては。
「それと、例の人型ダーカーの件だ」
オーラルは、シガが襲われた経緯をゼノから聞いていた。敵は相当な腕前を持つらしく、三人がかりでも決定打を与えるには行かなかったとも報告を受けている。
「『フォトンアーム』の戦闘記録を見て、奴のフォトン因子からダークファルスであると結果が出た。奴らは一個人のアークスの攻撃では、どうやっても消滅させる事は出来ない。『創世器』並みの攻撃力がなければな」
「…………やっぱり」
ダークファルス。それは、ダーカーの中でも理性を持ち、特に突出した能力を持つことで知られる敵であった。一方的にアークスを敵として本能で襲ってくる普通のダーカーと違い、主に人型が基準の姿。そして、人としての理性と、それに伴った力を保持していると推測されている。
加えて、ソレは依り代でもあり、本当の姿となった時には、星一つが滅ぶ程の力を発揮するとも言われている、ダーカーの中でも得に危険な敵だ。
「奴がマトイを狙っている事も知っている。だが、アークスシップには、そう簡単には
オーラルの言いたい事は【仮面】が何と言おうが、アークスシップに入り込むことは不可能であると言う事だ。常にアークスが徘徊し『六芒均衡』もアークスシップへは定期警備のように移動している。
「もう大丈夫ですよ。その件は、オレ自身の中で片付いていますから」
「それなら言う事は無い」
オーラルは必要な事を終えた様子で、病室を出て行った。
「……嘘ついちゃったな」
彼が居なくなってから、シガはポツリと呟く。
もし、【仮面】ともう一度対峙する事になっても、よほどの事が無ければ退く事はしない。オーラルさんや、アークスを信用しないわけでは無いが……これは、オレと奴の因縁だ。
「次は絶対に遅れは取らない。届かないなら……届く領域まで手を伸ばしてやる」
今は、持っている技術を磨く。奴にはソレで届いていた。通じるかどうかは分からないが……アークスとして得た技術を使い、必ず、【仮面】はオレが倒さなくてはならない。
「お、やる気満々だねぇ」
と、オーラルの出て行った扉が開き、そこから赤髪のアークス――アザナミが入って来る。
「あ、アザナミさん~」
自分自身に浸っていたところを、聞かれてしまったらしい。結構恥ずかしいぞ、これ。
「フィリアさんに色々聞いたけど、右眼、大丈夫?」
アザナミはシガの右眼に縦に通るような傷跡を指摘する。
「大丈夫っすよ。視力も問題ないですし、傷もそんなに深くなかったので」
「なら良いけど。あんまり無茶はしないでよ? せっかく、手伝ってもらってるんだから、ブレイバーが認定された時、わたし一人なんて寂しいじゃない」
「まぁ、これくらいしか出来ないんで、武器は壊さないようになるべく無茶は減らします」
と立ち上がろうとすると、その額をアザナミが人差し指で押さえる。立ち上がる直前を容易く潰されて椅子替わりにしているベッドから起き上がれなかった。
「武器なんてどうでもいいの。何よりも、無事に帰って来てくれる方が良いんだからさ」
「アザナミさん……」
「人が無事なら、何度でもカタナを試験できるでしょ? これでも、人を捜すのって大変なんだよ?」
「そっちですか」
思わず苦笑いで、シガは彼女の発言が大した意味が無い事を認識する。そういえば、こういう人だったなぁ。真意を突いているように見えて、彼女としては特に深い意味は無かったりする。
「そういえば、朗報を二つ持って来たよ」
と、情報の入り辛いこの場に、最新の情報を持って来てくれたらしい。それも期待できそうな話を二つ。
「一つは、ブレイバーに脈がありそうな子が居てね」
「そうなんですか? 物好きなアークスもいますねぇ」
まだ新設されるのが不確かなクラスに、よくもまぁ……入る人がいたものだ。
「引っかかる言い方だねぇ。まぁ、それは置いといてと。その子、アークスじゃないよ」
「え?」
「正確には訓練生。一緒にナベリウスに連れて降りたんだけど結構筋が良かったからねぇ。バレットボウをプレゼントして渡してきた」
「…………え?」
えーっと、とシガはこめかみに指を当てて彼女の言葉を整理する。
「つまり、正規アークスじゃない人に」
「うん」
「認定されてないクラスの、数少ない試験武器を渡してきたと?」
「そう言う事になるねぇ。あ、でもジグさんに頼んで正式武器と同等の機能はついた奴だから問題ないよ。カタナとバレットボウを三つずつ作って貰った内の一つだけど」
「なにやってんすか」
思わず、そんな事を言ってしまった。ようやく、揃ってきた重要な
「あ、でもその子、女の子だよ?」
「じゃあ、仕方ないですね」
うん。なら仕方ない。
「それと、もう一つの朗報ね」
アザナミは自分のアイテムポーチから、一つの武器を取り出す。全体的に青色に染められた一本のカタナ。形は基準で使ってきた物とは変わらず、相違点は見た目の色だけだ。
「ま、まさか……」
「その、まさか」
シガは恐る恐る、触っても良いですか? とアザナミに言うと、はい、と彼女はカタナを渡す。
「お」
そして、ソレを手に取っただけで、今までと違う性能を持っていると把握できた。高性能で、高純度のフォトンを扱う関係上、色は青に変わっている。そのため武器全体の色を青にする事で外見の違和感を消しているのだ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「気に入った?」
「いい! すっごく、いい!!」
わーい、わーい。と玩具を貰った子供の様にシガは、はしゃぐ。本気で嬉しかった。
「今回ジグさんに作って貰った内、一つは雛型用。もう一つはわたし用で使っていく、つもりだからね」
「なんだか、本格稼働って感じがしますね!」
「そっちのカタナの名称は『青のカタナ』だってさ。基本的なカタナに比べて、かなり高性能に仕上がってるみたいだから、修理や改良はジグさんに話を通してね」
「イエッサー!」
「後、新しいフォトンアーツも渡しとくから試してね」
「イエッサー!」
「それと、来るついでに困ってる人から依頼を受けちゃったから、病み上がりついでにお願いね」
「イエッサー!」
あまりに嬉しすぎて後半からアザナミさんが何を言っていたのか、あやふやだった。
時間が戻るなら、数分前のオレを殴りたい。アザナミさんが依頼を受けたのは女性。いつもなら、問題なしにキリッと引き受けるのだが……
「もしかしなくても、依頼を受けてくれたシガさん?」
目の前に居るのは、凹凸の多い、重量感あふれる装甲を身に纏った女性キャスト。
「あ、ありがとうございます!」
「はは。どうも……」
知り合いに良い思い出が無い事もあり、キャストの女性は……どうも苦手だった。
新しい武器は『青のカタナ』です。友達に相談したところ、無難な武器を教えてくれました。かなり性能が良い武器だと聞いています。
次はフーリエさんの依頼を受け、惑星リリーパへ本格稼働します。作中でもお察しの通り、シガは女性キャストに良い思い出が無いので、少しだけ苦手意識が生まれています。
次話タイトル『Fourie 人の良心』