「『シフタ』」
エコーの補助テクニックがゼノとシガに対して発動した。取り込むフォトンが活性化し、一時的に取り込む量も増加。高い攻撃変換へフォトンの特性が変えられる。
「オラっ!」
有無を言わさずにゼノは斬り込んでいた。
重く、鋭いソードの一撃を【仮面】は正面から
「邪魔を……」
その一撃で相当な実力者と感じたのか、【仮面】の口調から苛立つような焦りが聞こえる。
「へぇ、ソイツを受け止められる奴はそうはいねぇってのによ!!」
次にゼノはソードを寝かし、横なぎの斬撃を見舞う。その一撃も振り下ろした一閃と同じ“質”で放たれていた。【仮面】は耐える様にコートエッジDで受け止める。
そして、至近距離で二つの武器は鍔迫り合いをしながら、一呼吸が置かれると――
「――――」
青い軌跡と紫の軌跡が、互いに、その所持者を捉える為に乱れ放たれた。高速の斬り合いは、武器の中でも相当の重量を保持するソードタイプでは想像もつかない速度を生み出している。
お互いに躱さない。受け、その返して斬りつけ、ソレを受け、返して斬りつける。
その場から一歩も動かずに、他の参入を許さない乱刃の中心にいる二人は、目の前の敵を討つ事だけを考えていた。寧ろ、それ以外に思考を使う事は死を意味している。
相手の挙動を見誤れば、一撃で命を持っていかれるのだ。
相手の腕の動き。剣の挙動。下半身の力の入れ方による上半身の返す速度。武器の速度と軌道を見切る上で必要な情報に意識を集中する。
「――――」
その戦いは、瞬きさえも、優劣を決める一因となっていた。
ゼノの顔や服に浅く【仮面】の攻撃が掠り始める。人が一定の間で出せる“全力”には限界がある。更にゼノは元々、フォトンの特性がハンターにでは無い。そのため、今は長く様子を見て敵と相対する戦う戦法をとっていた。
しかし、今の乱刃は高い集中力を維持し続ける斬り合い。自ずと、努力では埋められない“差”が露呈してしまうのだ。
「ッチ!」
ゼノは、一度ソードで
「――――」
【仮面】にとっては決定的な隙でしかない。移動をするゼノを両断する為に、
「わかってるよ。この選択は死ぬ。だが……お前は忘れてたか?」
側面を追った【仮面】の思考は、背後を向ける形になったシガの存在を、一時的に忘れ去ってしまっていた。
「任せるぜ。シガ!」
カタナを抜き、渾身の『シュンカシュンラン』。【仮面】の頭部を狙う一撃は、完全に“虚”を――
「――――」
突いていなかった。下半身のバネと、上半身の体移動から背後のシガに対して、【仮面】はコートエッジDを回すように旋回させたのだ。
防御するのではなく、攻撃。その刃は片目で距離感を見誤っていたシガにこそ、当らなかったが、範囲に入っていたカタナを完全に粉砕する。
【仮面】は砕けて散るカタナを見て、咄嗟に思考が混乱した。
この武器は……壊れていたハズ。いや、そう見せる為に演出した? フォトンの発光が……ない? 壊れているだど――
なぜ、シガが
その決定的な“隙”を、ゼノが強襲する。
「隙あり!」
“質”を取り戻したソードの振り下ろしに対して、【仮面】は不恰好ながらも反応するとコートエッジDで受け止める。
「小賢しい真似を……」
壊れた武器による混乱を狙う事が奴らの勝ち筋だったのだろう。しかし、【仮面】はギリギリで反応し、決定打であるゼノの一撃を受け止めていた。そう、思っていた――
「ずっと避けてたからな。
戦闘形態に再び展開した
「『フォトン・ショック』」
そう全て囮。壊れた
「おのれ――」
尚も反応する【仮面】。しかし、今度は躱しきることは出来なかった。【仮面】の身体にシガの
「
刹那、爆発するような音共に、
右に左に意識を振って、ようやく『
この場で放てる出力70%の一撃は、シガに確かな感触を左腕から伝えてくる。
「――――」
空間が弾け、巻き上がった雪煙が晴れると、そこには三つの影が存在した。
左腕の反動で力が抜け、踏ん張りが利かなくなった為、思わず衝撃で弾けて倒れてしまったシガ。
そのシガの『撃』に巻き込まれないように咄嗟にソードを盾にしてその場で立っているゼノ。
そして――
「おのれ……」
『撃』が直撃した【仮面】は片膝を着いて、ひびの入った仮面に手をかけていた。
「おいおい。業物がいかれちまったよ……」
ゼノは『撃』を防いだソードが、その衝撃で損傷し、刃の一部が不確かに明滅してる様子に感嘆していた。
「だが、そっちも相当キてるみたいだな」
ソードが損傷するほどの『撃』を【仮面】は直接その身に受けたのだ。胴部にはシガの叩き込んだ緑色のフォトンが未だに消えない軌跡として残っており、その威力を裏付けている。
「……ちっ」
【仮面】は周辺の状況から、未だに“目的”が達成可能か思考を巡らせた。
未だ体力、能力共に無傷に近いゼノ。片膝を着き、息も荒いが、既に立ち上がっているシガ。その二人を細かく回復させ、補助まで重ねがけするエコー。
「――――シガ……貴様は必ず殺す。彼女も、だ」
彼女。それが誰を察しているのかシガは瞬時に判断した。やはり……コイツは――
それは挑発にさえならない、ただの捨て台詞だったのだ。しかし奴の狙いがハッキリした事で、シガ強い激情に支配されると同時に【仮面】へ踏み込んでいた。
「待て、シガ!」
ゼノが静止する。それは、あまりにも迂闊な接近。感情に支配された戦い方は膨大な力を生むが代わりに繊細さを失ってしまう。今、シガの踏込みは【仮面】からすれば――
「『
瞬時に『撃』を
ゼノは慌てて割り込もうとするが、【仮面】は既に向かって来るシガに対して横なぎに
コートエッジDがシガの脇腹に斬り込まれ、そのまま胴を薙ぐ――
死は避けられない。それでも、シガは己の死を考えていなかった。ここで、【
「
『撃』を纏った左腕が【仮面】の顔面に叩き込まれる。しかし、既にコートエッジDはシガの身体を両断する為に浅く入り込み――
「――――」
その場に居る全ての人間の視界が、爆発するような『撃』で発生した雪煙によってホワイトアウトした。
「くそ……エコー! 無事か!?」
いち早く、その場で視界と思考が戻ったゼノは、ソードを背に直し、倒れているエコーへ駆け寄る。
「ゼノ……痛っ。何が起こったの?」
彼女は無傷。一番、“衝撃”から離れていた為、軽い衝撃を頭に受けて気を失っただけのようだ。その様子に、安堵の息をゼノは吐く。そして、最も至近距離で『撃』に巻き込まれたシガと【仮面】は――
「――――」
目の前は、ただ遠くの景色が見えていた。正面の丘が抉られた様に吹き飛び、そこに立っている者は、ただ一人――
「出力……100%だ。ざまぁみろ……これで……マトイは……護っ――」
中腰で何とか立っていたシガは、跡形もなく消え去った【仮面】へ、そんな捨て台詞を吐き事切れる様に倒れた。
「シガ!? エコー!」
「あ……れ?」
僅かに途絶え途絶えの思考でも身体が全く動かない事を、シガは理解できなかった。彼が認識しているかどうかは分からないが、【仮面】の
「……臓器には達してない。でも……出血と体力、フォトンの低下が激しい――」
エコーは医者ではない。しかし、回復法術を使う関係上、人体の欠損には詳しいのだ。無論、どれほどの致命傷を受けると人が死ぬかも知っている。
「こちら、ゼノ! アークスが一人負傷。重体だ! ただちに救出艇を! ポイントは――」
「シガ! 返事をしなさい! シガ!!」
そんな慌ただし二人の声も、シガにはだんだん聞こえなくなっていく。
ただ、彼の目の前に映っていたのは、護ると決めていた――
これで凍土の調査は終わりです。私の考えでは【仮面】の武器は相当なダーカー因子を含んでいると見ているので、深くくらえば毒になる様なイメージを考えています。
次でEP1-3はラストです。オーラルとマリアが接触します。
次話タイトル『Necessary sacrifice 犠牲者』