ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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35.Counterattack 合流

 驚いたのはお互い様だった。

 

 出力50%の『フォトン・ショック』を【仮面】は警戒していた。だから、最後の最後まで、確実に打ち込める瞬間を狙ったのだ。

 相討ちになるつもりはない。だが、腕の一本は覚悟していた。そうしなければ、遥か先の実力を持った【仮面】を倒す事は出来ない――

 

 「だから……この結果は必然だ」

 

 正面は衝撃で発生した雪煙に包まれていた。間違いなく【仮面】は『フォトン・ショック』を食らっている。戦闘不能にしたのかどうかは分からないが……ただでは済まないハズだ。

 

 「…………必然か――」

 

 雪煙が晴れる。そこには、何も無かったかのように【仮面】が立ち尽くしていた。

 

 「!」

 

 マジか……こいつ――

 妙に、『フォトン・ショック』を当てた際の左腕に対する衝撃が浅いと思っていた。こいつ……拡散(インパクト)の瞬間に身体だけ半歩後ろに下げて威力を半分以下に……した? だが、あの刹那で出来るのか? そんな事が……可能なのか?

 

 「……あの時と同じだ」

 

 低く、およそ人のモノとは思えない声がシガに向けられる。シガは片膝を着いて荒い呼吸を整えていた。発生した左腕の反動である。

 

 「動けなくなるのは知っている……体力が戻る前に決めろ」

 

 いつの間にか接近した【仮面】の武器(コートエッジD)が首筋に当てられている。あと僅かに動かすだけで、シガの首は容易く飛ぶだろう。

 

 「貴様の手に入れたモノを寄越せ」

 「…………」

 

 シガにしてみれば、先ほど手に入れた“壊れた武器”は命を張る程の価値のあるモノでも無い。【仮面】からすれば、シガの死体からも例の武器は奪える。しかし、所持者以外がアイテムポーチを開くには手間がかかる為、差し出してくれる方がスムーズに済むのである。

 

 「……お前が何者で、何の為にコレを探していたのかは知らない」

 「時間稼ぎのつもりか? 命が飛ぶぞ――」

 

 【仮面】の腕に力が入る。刃の当っているシガの首筋からは血が流れ出ていた。

 

 「違う……宣言だ。オレはお前だけには絶対に屈さない」

 「死ね」

 

 左腕は動かない。後……数秒あれば――。その願いも空しくコートエッジDはシガの首を両断する……刹那だった――

 

 「!?」

 

 咄嗟に何かを察した【仮面】が、シガから跳び離れる。そして間を置いて目の前が爆発した。

 

 「どわ!?」

 

 シガは、相当近い所で起こった爆発によって、ごろんごろんと後ろに転がる。フォトンの特性から、その爆発は火属性中級テクニック――ラ・フォイエであると認識した。

 

 「シガ! 大丈夫!?」

 「エコー先輩!?」

 

 こちらに杖を持って走り寄ってくるニューマンの女性――エコーの姿を残った片目に写す。

 

 「――――」

 

 もはや猶予は無いと判断した【仮面】は、多少の被弾覚悟で、シガを始末する為に再度、踏み込んだ。

 

 「後輩が世話になったな――」

 

 その【仮面】を阻む様にソードを振り下ろした者も、シガを護るように割って入る。

 

 「ゼノ先輩!」

 「危ない所だったな、シガ! もう大丈夫だ――」

 

 その言葉が偽りでないと、証明する背中が目の前に存在していた。

 

 

 

 

 

 今更になって、右眼と殴られた腹部に疼痛が走る。腹部に至っては、骨が折れている様だ。

 

 「――『レスタ』」

 

 シガが回復薬を飲もうと取り出すと、エコーが更に重ねて回復テクニックである『レスタ』を発動してくれた。

 彼女はシガの右眼と脇腹に手を添える。集中して流れ込むフォトンは、発光と共に代謝能力を促し、問題なく動けるところまで傷を回復させた。

 

 「ありがとうございます」

 「気にしないで。この程度しか出来ないから」

 

 慣れたように右眼を簡易の医療キットから包帯を取り出して手当てする。

 基本的に『レスタ』は、回復薬と同じくらいしか効果は無いと言われているが、エコーの『レスタ』は根本的に質が違っていた。

 エコーもゼノと同じくらいの経歴(キャリア)を持つ、熟練のアークスであり、それに恥じぬ技量を証明するように、出血と痛みを完全に停止させている。流石に右眼は開けないが、今はそれだけで十分だった。

 

 「先輩たちが、援軍ですか?」

 

 シガは立ち上がりながら、ゼノとエコーを交互に見る。

 【仮面】と交戦を始めた当初、ロジオに周囲に居るアークスに状況を連絡するように頼んだのだ。今の不自然な凍土の状況から、様子を探っているマリアさんが真っ先に来ると思っていたが……

 

 「先輩、マリアさんとは会いませんでしたか?」

 

 「姐さんは、遺跡に行くって言ってたぜ。丁度、連絡と入れ違いになったみたいでな」

 

 ゼノは目の前の【仮面】から意識を外さずにシガの質問に答える。

 

 「ゼノ。その人……アークスなの?」

 

 エコーは、得体の知れない【仮面】を見て素朴な疑問を抱く。シガとしては、敵としての認識が強いが、何も知らない人間が見れば、アークスと間違えても不思議ではない。

 

 「そういうのを調べるのは、お前の役割だろ」

 

 ゼノとエコーのペアは、基本的には調査を軸に置いた、接触と離脱を主な立ち回りとしている。そのため、アークスの正規依頼を受ける形が多く、その達成率はアークスの上層部から、かなりの信頼を得ているらしい。

 

 「――――ええっと」

 

 手慣れたように、エコーは【仮面】の映像を端末に取り込み、その姿やフォトンの特性から一致するアークスを検索していく。そして、数秒ほどで結果は出た。

 

 「全件検索完了。該当するデータは……無し。無し!? どういうこと!?」

 

 と、目の前に表示された結果に驚きつつエコーは何度も見直していた。

 

 「おい、お前――」

 

 今度はゼノが【仮面】に直接問う。

 

 「どこの所属だ? 名前とIDを言え」

 「…………」

 

 当然の様に【仮面】は答えない。そのゼノの横へ、シガが代わりに答える様に並び立った。

 

 「敵です。少なくとも、あの武器もアークスの物じゃない。形だけを模倣したダーカーです」

 「なに? 前からナベリウスで噂になっている、人型のダーカーか?」

 

 ゼノは数週間前からナベリウスで数件の目撃証言のある事柄を掘り下げた。何人かのアークスが襲われている事もあり、調査と現場の判断にて殲滅も言い渡されている。

 

 「……邪魔をするなら、殺す」

 

 【仮面】はゼノとエコーの参戦を大した障害とは思っていなかった。彼らを殺し、シガから例の武器を奪う事に固執している。

 

 「……退く気はなさそうだな。どうする、シガ。お前さんが狙いみたいだが?」

 「縮こまるつもりはありませんよ。右眼をやられましたからね。借りは早めに返す主義なんです」

 

 左腕(フォトンアーム)はまだ戦闘状態を維持している。多少体力も回復したし、このまま行ける。

 

 「なら遠慮する必要はねぇな。三対一だが、力尽くで、ご退場願うぜ!」

 「二人とも、サポートは任せて!」

 

 そう、ダーカーがこちらに対して“力”で奪いに来るのなら――

 

 「こっちも、“力”で防衛するまでだ!」

 

 第二回戦。【仮面】との戦いの火ぶたが切って落とされた。




 シガ、ゼノ、エコーVS【仮面】です。この辺りは、本編ストーリーでもあった戦いとなります。
 次回で【仮面】戦は決着です。

次話タイトル『Winner 目的を達成したのは』

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