ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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32.One arm ARKS vs Persona 怨敵対峙(★)

 【仮面】は得体の知れない敵だ。

 その素性も定かではないし、何を目的に動いているのかわからない。それでも、一つだけ確かな事がある。

 

 奴は、マトイを殺そうとした。だから、オレの中では明確な敵なのだ。

 

 彼女の命を狙っている。護る為に、そして自分自身が越えるべき“壁”として、いつかは決着をつけなければならないと思っていた。しかし、今は無理だ。認めたくはないが、奴は……まだオレよりも強い。

 

 「…………またか」

 

 歩を進めていると、例の音をより鮮明に捉えた。

 

 『また、例の音ですか?』

 「いま、直接鳴ってるけど、やっぱりそっちには何も?」

 『はい』

 

 相変わらずロジオの方では何も観測できないらしい。オレにだけ聞こえるってのも妙な話だ。まるで呼んでいるような……そんな気がする。

 

 『あ! シガさん! 前方を見てください』

 

 少し傾斜のある坂を上り、視界が開けた。視界には少しだけ平坦な広場が映し出され、その中央に――

 

 「……氷?」

 

 ひし形の巨大な物体が不自然にも浮いていた。

 

 

 

 

 

 『なんでしょうか。これは……人工物?』

 

 ロジオは冷静に、目の前のひし形の物体を分析していた。彼の言い様から、氷に似ているが自然物ではなく、何らかの人工物であるらしい。

 

 「…………」

 

 なんだ? なんだが、懐かしい感じだ。

 シガは、その物体へ触れる様に手を伸ばしていた。そうする為に、この場に来たように、目の前の不確かな物体に対し何の警戒は要らないと、確証があったのだ。

 

 「……っ」

 

 物体に触れた瞬間、直視できない光に思わず目を細める。理由のわからない発光は数秒で消え、シガは一つの細長い武器を握っていた。

 

 「……は?」

 

 これまた即座には解明できそうにない状況から、そんな声と、また変な事に巻き込まれたのでは? と手に持つ杖の様に細長い棒状の物質を見ながら嫌な予感がする。

 

 『パラメーター的には、武器のようです。杖に近い形のようですけど……見た事の無い形状ですね』

 「折れたみたいな断面だな」

 

 不自然に割れた様な断面は、何らかの攻撃によって折れているようだ。と言う事は、上半分もどこかに?

 

 『壊れているようですね』

 「……壊れてる……」

 

 と、シガは頭に、ピコンッ、と電球が着いたように何かを思いつく。

 

 「ロジオさん、この武器の形状から推測できる完成系って検索できます?」

 『いま、確かめています。――――おかしいですね。アークスの武器なら、検索で出て来るはずなのですが』

 「元の形も不明って事ですか?」

 『そのようです』

 

 おあつらえ向きじゃないか。丁度いい、コレは持って帰ろう。と、シガは、ある人の悩みが意外と早く解決出来る事に少しだけ上機嫌だった。

 

 「だからよ、出来るなら会いたくなかったぜ」

 

 そんな捜索終了モードも束の間、背後から冷えた気配をシガは感じ取っていた。その気配は振り向かずとも解る。

 

 「…………それを放せ」

 

 【仮面(ヤツ)】だ。額に嫌な汗が流れるのを感じた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 「ロジオさん――」

 

 そこから、シガの行動は早かった。拾った例の杖を武器ストックへ収納し、【仮面】が接近するよりも早くテレパイプを取り出すと、スイッチを押――

 

 「――――」

 

 しかし、【仮面】は予想を超えた行動に出た。咄嗟に自らの武器(コートエッジD)を投擲して来たのである。

 

 野郎、武器を……

 テレパイプの起動は一旦止め、身体を反らして武器(コートエッジD)を躱す。嫌な汗と苦笑いだけが止まらない。何が何でも、逃がさないつもりか!?

 

 「だが、武器を捨てるのは――――」

 

 間違いだったな! そう言いながら振り向きつつ、カタナの柄に手を伸ばす。しかし、言い切る前に、【仮面】はシガの眼前に接近していた。カタナを抜けない様に、柄尻に手を乗せて抑え、反対の拳はシガの腹部へめり込む。

 

 「ぐっ……」

 

 予想以上の威力に、シガは途切れそうになる意識を寸前で繋ぎとめた。そして、逆に左腕で【仮面】の腕を掴む。そして、柄尻に乗せている腕を無理やり引きはがす。

 

 「掴まえた。『フドウクチナシ』!!」

 

 残った右手でカタナを抜き放つ。発生する波は、生き物である限り決して逃れられない衝撃波である。この距離なら【仮面】は確実に食う距離にいた。

 慣れたようにシガは納刀。そして、左手を【仮面】からカタナ鞘に掴み直し、中腰で“間合い”を図る。

 

 「ふー」

 

 それは独特の呼吸。僅か1秒足らずの初動作であり、ロックベアを仕留めた時と同じ集中力をこの場に引き出す。

 

 「『サクラエンド』」

 

 『フドウクチナシ』から2秒もかからずに繰り出された『サクラエンド』。高速の抜刀と返しの剣筋が、動きを止めた【仮面】に緑色のフォトンの軌跡が×字を刻む。

 

 

 

 

 

 「おいおい。今のを、避けるか……」

 

 シガは妙に軽い手応えだけをカタナを握る手に感じていた。太刀の入りが軽かったのだ。

 ほんの僅かに硬直した様子からも『フドウクチナシ』は間違いなく、くらったハズ……原生生物でさえ気を失う程の衝撃波だ。あの仮面が何か特殊な作用でも及ぼしたのだろうか?

 

 【仮面】は『サクラエンド』を、一歩だけ下がって直撃を避けていた。服の表面に浅くついた傷跡は、決して届かない距離では無かったとシガに認識する。

 

 「…………」

 

 しかし、次には【仮面】に残った斬り跡は、まるで逆再生されるように修復され、どこについていたのか、わからなくなった。

 

 「化け物め……」

 

 不敵に笑いながらも、シガは対峙してから嫌な汗が止まらない。こいつは、もはや人の枠に入るかどうかも不明だ。キチンッ、と音を立ててカタナを納刀する。

 

 「すー」

 

 シガは荒波の様に動揺する心を一つに沈める為に息を吐く。対する【仮面】は距離を取り、カタナの間合いから更に五メートル以上は離れている。

 二人の間に洗練された緊張感が張りつめていた。武器と無手。当然無手の方が不利だ。

 しかし、シガの“居合い”の構えからでは、明らかに届かない距離と油断したのか、【仮面】は意識を自らの武器(コートエッジD)へ向けた。

 

 「――――」

 

 まさに、ソレはコンマ5秒にも満たない“隙”だった。

 フッ、と【仮面】に影がかかる。眼前にはカタナの切っ先を突きだすシガが、渾身の刺突を行っていた。

 

 「知らないだろ? 『シュンカシュンラン』って言うんだぜ――」

 

 シガは一瞬で“間”を潰していた。それは決して近づけぬと判断した間合い。その予想を上回ったシガの接近に対して【仮面】の挙動は明らかに遅れている。

 そして、攻撃が当った事を証明するように、フォトンの反発する衝撃が、周囲の木々と雪を吹き飛ばす。




 vs仮面の始まりです。ソロでは中々厳しい相手だと聞くので、かなりの強敵として描かせてもらっています。

次話タイトル『Eyes of a confrontation 戦士の眼』

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