ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

18 / 100
16.Zeno 先輩

 赤い髪に、顔を斜めに通る傷。近接用に動きやすい機能を持つ戦闘服――アドヴェントスを着た一人の青年であった。

 

 手に持つガンスラッシュは一般市販されている武器であり威力も並。だが、その射撃モードの一射で、フォンガルフの身体を大きく吹き飛ばすほどの威力を持つフォトンは、相当な熟練者であると容易に想像できた。

 

 「なんつーか、思ったより原生生物が活発化してるな。やっぱり、ダーカーの件でアークスの出入りが多くなってるからかねぇ」

 

 気を失ったガルフの群を見ながら、彼は余裕の様子を崩さずに歩み寄って来た。

 

 「あんたは?」

 「おいおい。この時期のナベリウスに居るんだぞ? アークス意外にありえないだろ?」

 

 二ッと笑って、自らがアークスであると告げる。年齢的にはシガと同じくらいだが、顔の傷は、敵と至近距離で肉薄しなければつかないモノだろう。必然と、修羅場をくぐったであろうと推測できた。

 

 「それに、アークス歴は7年だ。もうすぐ8年だけどな。一応、先輩だぞ?」

 

 身長的には少しだけ彼の方が高い。シガは、頭をガシガシ撫でられる。

 

 「無茶苦茶恥ずかしいんで、止めてくれますか? 先輩」

 

 左手で、その手を弾きながら、嫌がる意志を見せる。

 

 「ん? お前……左腕に何か巻いてるのか?」

 

 と、弾かれた際に義手の様子を感づかれてしまった。僅かな違和感にも敏感に反応している。7年のアークス歴は伊達ではないようだ。

 

 「ちょっと、怪我をしてましてね。でも動きに問題は無いので」

 

 適当にあしらって、本来の目的を果たそうと歩を進める。男に用は無いのだ。

 

 「ルーキー。動きは悪くない。だが、立ち回りはダメだな」

 

 その言葉に、シガは足を止めた。それは、オーラルにも言われた事だったからだ。

 

 「アークスには、新人が無茶な依頼を受けない様に、一定の制限がある。最初に新人が当る“壁”がそれだ」

 

 新人と熟練アークスとの違い。それは、フォトンの能力的な特徴だけでは無く、より柔軟な立ち回りを要求される。

 

 ダーカーとの交戦に加え、原生生物との対峙、原住民との交流など、新人では容易く折れてしまう事柄がアークスの活動であるのだ。

 戦いにおいてはもちろん、思考的にも柔軟に立ち回る事で、調査員としての適性を認められ、多くの任務を言い渡される事で一流となれる。

 

 反対に、いくらフォトンの扱いに長けたとしても、その辺りが不完全ならば、いつまで経っても重要な任務を渡される事は無い。

 

 「見た所、武器も見た事の無いやつだし、お前、アークス嘗めてるだろ?」

 

 彼の言う事はもっともだ。ただでさえ、左腕(フォトンアーム)が無ければ、アークスとして活動できない上に、武器も現段階では試験武器とも言えるカタナ。ソレをアークスになって一ヶ月も経っていない新人がデータを集めている。不真面目と見られても仕方がないだろう。

 

 と、このように冷静に考えられれば、仕方ない、と踏ん切りがつくのだが。

 

 「言うじゃないっすか」

 

 冷静に見られないシガは、彼の安い挑発に歯ぎしりしながら怒りを抑える。

 確かに、アークスとして活動するにはハリボテだらけだが、オーラルさんやアザナミさんに託された装備を馬鹿にされたような気がして、冷静な判断を失っていた。

 

 「証明できるか? お前自身が、アークスであると」

 

 対する彼は、余裕の様子で腕を組み、シガを見下すような視線を向けている。第三者がいれば、明らかに彼が煽っていると見て取れるが、悲しきことにここにはシガしかいない。

 

 「目の前で証明してみせますよ?」

 

 

 

 

 

 アークス歴7年(もうすぐ8年)の先輩は、確かに強かった。

 出会った敵に合わせて、間合や、攻撃手段を変える立ち回りは、確かな熟練者であると、面をきって証明し続けている。

 

 「! そっちに行ったぞ!! 躱せ!」

 

 多種の原生生物の混ざった数を相手にしていると、奥に居るガロンゴが回転しながら、前で戦っているゼノを無視してシガへ向かう。

 

 「躱す!?」

 

 シガは彼の言葉に無造作に横にステップ。ガロンゴを通過させた後で、背後を突かれるのではと、立ち回りの失敗を気にして振り向いた。

 しかし、ガロンゴは、回転攻撃の勢いのまま壁にぶつかると跳ね返る様にひっくり返って倒れている。

 

 「止めを刺せ!」

 

 あまりにあっけない光景に、どうしていいか身体が硬直していたシガへ、再び彼から指示が飛ぶ。そのまま、カタナを裏側の腹部を斬り裂いてトドメを刺すと、次のエネミーと対峙した。

 

 ガルフの群に囲まれた時とはまるで違う。前線にいながらも、適切な指示と、ラインを作り、後方が安全に戦えるように、彼は“盾”になっていた。

 

 「――――」

 

 最初は、口だけのアークスかと思っていた。しかし、彼は確かな実力を持ち、尚且つ後方の新人(オレ)に対して的確な指示まで行っている。

 

 個人での遊撃では無く、集団の――群を意識した立ち回り。

 現在、直接見た強者(ゲッテムハルト)指導者(オーラル)とはまるで違う立ち回りにシガは思わず口に出てしまう。

 

 「強い……」

 「後ろを片付けたなら手伝え! この群を突破するぞ!」

 

 流石に押し込まれ始めたのか、彼は全て討伐するのではなく、突破することを選んでいた。状況による判断も早い。

 

 「了解、先輩!」

 

 その背中に憧れと尊敬を抱きつつ、シガは彼と共に群を突破するために前線でカタナを振った。自然と彼の事を敬意を持って接するようになる。

 

 

 

 

 

 「ハァ、ハァ……撒きましたかね」

 「たぶんな」

 

 シガと先輩アークスは、一気に群れの中を走り抜けると、少しだけ拓けた広場までたどり着いていた。

 荒く息を吐くシガに対して、先輩アークスは特に息を切らしていない。身体能力的にもだいぶ差がある様だ。

 

 「…………」

 「どうしたんすか?」

 

 先輩アークスは何かを警戒しているようである。逃げてきた原生生物の群は、最初の内はしつこく追って来ていたが、今では一匹も存在していなかった。シガは、若干、不思議に思ったが、上手く逃げ切れたと安堵している。

 

 「こんなものかな」

 

 ロジオより託された地質データを確認する。行けるところは、まんべんなく回ったので、これで十分だろう。後は、簡易転送装置(テレパイプ)でキャンプシップに戻るだけだ。

 

 「! 悪いな、ルーキー。俺の標的と遭遇しちまったようだ」

 「へ?」

 

 その時、大地が震動する程の衝撃に何事かと、シガは先輩アークスと同じ方向を見る。

 巨大な岩が目の前に“二つ”降ってきていた。そして、その“岩”はゆっくりと起き上がると、武骨な腕や足を伸ばして立ち上がる。ソレは生物だった。

 

 「大型原生生物(ロックベア)。俺の標的だ」

 

 そう言いながら先輩アークスは、目の前で両腕を打ち鳴らす動く巨岩――ロックベアに視線を向けていた。用いる武器は、今まで使っていたガンスラッシュから、巨大なフォトンの大剣――ソードに変わっている。

 

 「お前は休んでろ、ルーキー。ここからは、俺の戦いだ」

 

 彼は、本日遭遇した敵の中で、最も脅威となる存在に対し、一片も委縮していなかった。




 タイトルを回収し忘れた回。結局先輩アークスの名前は不明ですが、タイトルでピンとくる人はいるでしょう。ていうか、それ以外ありえないです。
 次は、先輩アークスの名前が判明します。それと実力もです。

次話タイトル『Assaulted will 彼の目指すアークス』

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。