ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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今回で、EP1-1は終了です。


10.Next steps 次の歩み

 「二度も発動しただと? しかも、二度目は制限解除(オーバーフロー)したのか?」

 「あはは。すみません……」

 

 額に汗を浮かべながら、シガは、オーラルのマイルームにて義手の調整を受けていた。使用した状況を簡潔に話したのだが、二言目で怪訝そうな声を出されてしまった。

 

 「確かに、ナベリウスにダーカーの出現はあったし、フォトンアームの出力は極端だった。だが、フォトンアームを上限以上に引き上げなければ倒せない敵と遭遇したのか?」

 「はい。なんというか……変な仮面を着けたアークスみたいでしたよ」

 「? アークスみたいだった?」

 

 シガは、後に知るであろう情報をオーラルに話す。フォトンアームのデータを見れば、どれほどヤバイ奴と遭遇したのかを理解してもらえるハズだ。

 

 「なるほどな。とりあえずは、ソレで納得しておこう」

 

 シュー、と空気が抜ける様な音がして左腕が外れる。そして、近くの作業台に置くと、ソケットに繋ぎデータの抽出を開始した。そして、変わりの義手をシガに投げる。

 

 「フォトンアームと違って戦闘用じゃない、普通の義手だ。次が出来るまでの変わりに着けておけ」

 「あれ? 新しい『フォトンアーム』は?」

 「そんなに簡単に造れるモノじゃない。お前の取ってきたデータを元に次型をこれから組み立てる」

 

 『フォトンアーム』は、基本的にオーラルが個人的に調整を行っている兵装である。無論、一部は研究部にも有益なデータを流しているらしいが、本格的に実用が可能であると容認されなければ、仕事場の設備を使う事も資金も出ないらしい。

 

 「なんか、世知辛いですね」

 

 受け取った義手を嵌めると、指が動くか確認する。

 

 「ある意味、まだ趣味のレベルだ。とは言え、中途半端な事はせん。それで、要望はあるか?」

 「触覚って付けられます?」

 「可能だが、どうしてだ?」

 「いや、麗しき美少女の方々を触った時に感覚が無いと残念じゃないですか?」

 

 そのシガの要望に、オーラルは腕を組んで睨む様に無言で彼を見下ろす。当人は、要望が叶うと思ってワクワクしていた。

 

 「……ハァ。解った。付け加えておく」

 「マジで!? ひゃっほー!」

 「ただし、手術を受けてもらう」

 「え?」

 

 喜んでいたシガは、不意に物騒なオーラルの発言に、表情が固まる。

 

 「神経を肩部のソケットに通さなくてはならない。加えて、義手を損傷した時は左腕が抉られる痛みを毎回の様に味わう事になる。取り外したり、取り付ける際も同様だ。毎回腕を切断される痛みが――」

 「……やっぱり、いいです……」

 「そうか。とてつもなく、残念だ」

 

 オーラルは悪戯に成功したような雰囲気で告げた。表情があれば、黒い笑みを浮かべている感じだろう。

 

 「他にはもう無いか?」

 「特には……あ、出来るなら出力を小分けに出来ませんか? 一回使う度に倒れてたらシャレにならなくて」

 

 今回はアフィンが居たので、ある程度は無茶が出来たが、一人で戦う場合は少し不安だ。

 

 「その仕様は既に考えてある。次で実装するから安心しろ」

 

 シガは不備に思った事は無いかを思い返して、特に無いと告げる。ソレを聞いたオーラルは即座に必要事項として、資料の山積みになっているデスクに座りキータッチで入力していく。

 

 「あれ? キー打つんですか?」

 「別に直接入力しても良いが、反応速度を上げる為に(オレ)は基本的に手打ちだ」

 

 外見が全身無機質なので、てっきり身体のどこかにプラグを繋いで、一瞬で文字を打ち出すのかと思ったが、彼はそう言うのは遠慮しているようだ。

 

 「ふーん……っと」

 

 帰ろうかと思った矢先、シガは資料の山の一つにぶつかり、上半分がバサバサと落ちてしまった。

 

 「あ! すみません!」

 「何をやっているんだ」

 

 仕事関係の資料だった。確か、オーラルさんは『オラクル』でも特に重要な役職である『虚空機関(ヴォイド)』に所属している研究員なのだ。中でも、研究部の室長を務めているとの事で、この辺りに在る資料も、他言できないようなモノばかりだろう。

 

 意味の解らない単語が多く並べられた資料を拾い集めて、まとめると最後に拾った用紙を見て目が止まった。

 

  『新クラス【ブレイバー】の設立について』

 

 と書かれた資料。その横には、六芒均衡、一の印が押されている。簡易的な内容を把握するのなら、試験的に実装し、その成果によってフォトンアーツを用意し実装する、との事。

 

 「オーラルさん、これって……」

 「ん? ああ、それか」

 

 オーラルは、特に視線を外すことなくシガの言いたい事に応えて行く。

 

 「発案者は、アザナミというアークスだ。ナベリウスに出現したダーカーのおかげで、今は保留中の案件でな。元々、実績も少ないと言う事と、新しい武器の開発概念から特に重要視されていない。今は、そのクラスの専用武器となる“カタナタイプ”と“バレットボウタイプ”を少数量産して、当人に必要性を証明してもらってる段階だ」

 「へぇ……」

 

 近接では、カタナと呼ばれる独特の形状をしたソードタイプの武器と、遠距離の手段としてバレットボウと呼ばれる飛び道具を使い、女性でも立ち回りを考えられているクラスであった。

 

 「興味があるなら、話を通してても良いぞ?」

 「え、そんな簡単に出来るんですか?」

 「まぁ、認定するにしては実戦のデータ不足が一番の課題だ。本人(アザナミ)としては、未だ実用性の説明で各地を回っている所だろう。元々、一人で新たなクラスを設立するには限界がある」

 

 更に、ナベリウスに、今まで出なかったダーカーが現れた事も本件の後回しの原因となっており、更なる遅延となっている。

 

 「雑務と、現場を分担できればそれに越したことはない。『アークス』としても、有益なクラスが出来るのは賛成だ。だが、それなりの“証明”が無ければ、他のクラスの責任者が納得せん」

 「それなら、ぜひ連絡を――あ、オレって片腕ないんですけど、歓迎されますかね? 弓なんて弾けませんよ?」

 「別に問題ない。まだ、試作的なクラスだ。近接武器(カタナ)の情報だけで十分だろう」

 

 もっと、ガチガチの規制や、規則があるのかと思ったら以外にも必要性を示せば良いらしい。

 

 「なんか……結構適当なんですね」

 「新しい物事なんて、そんなものだ。皆、期待しているんだよ。“新しい力”にはな」

 

 オーラルは、用が済んだらもう帰れ。フォトンアームが組み上がったら、こちらから連絡する、と告げる。

 シガ自身も何もできる事は無いと察しているので、一度礼をしてオーラルの言葉に従い、アザナミの連絡先を聞いて、彼の部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 「手に戻って来るとは、思いもしなかった……」

 

 シガが帰り、新たなフォトンアームを組み上げる最中、一つのデータに目を止めて、極秘に管理される事になった一つのカタナを見ていた。

 その武器は、フォトンの一片も漏らさない程に厳重に封印され、『虚空機関(ヴォイド)』の研究部の極秘倉庫に収められている。その倉庫は、未だに所持者が現れない『創世器』を保管する為だけの場所だった。

 

 「…………(オレ)の選択は……正しかったと思うか? シオン……」

 

 最も答えてほしい存在に伝わらないと知りつつも、オーラルは後悔する様に弱気な言葉を吐いた。




次はちょっとした用語紹介とオリキャラ、オリジナル装備の紹介。

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