ソードアート・オンライン〜白夜の剣士〜   作:今井綾菜

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始まりの一歩(*)

第4話

 

翌朝、目を開けると眼前に広がったのは可愛らしいアリスの寝顔だった。昨夜の赤面もののやりとりを思い出してくすりと笑う。前々世と前世を思い出して俺にも性欲ってあったんだとどこか遠いものを見るかのように思う。

 

それにしても、なんと可愛らしい寝顔だろうか。

今までの人生で恋人というのがいなかった分、抑えきれないほどの愛情が彼女に湧いてくる。

 

「……今度こそ、俺は自分のために生きていいのかな」

 

一人でに呟いたその言葉に返ってくるものはない。

この答えにたどり着くまで随分と時間がかかった。

前回の20年間。そして今回の18年間。

もう、精神年齢だけならば60を超える爺さんになるというのに、体がずっと若いままだから俺の精神的な最高齢は26歳で止まったままだ。今回は長く生きられたら……隣に眠る少女とともに

 

「……ん、うん……」

 

いや、違う。

どんな手を使ってでもこの大切な人(アリス)だけは守らないといけない。時を超えて俺を追いかけてきて来れたこの少女を何をしてでも守り抜かないといけない。

 

不思議と今までのような重みは感じなかった。

湊と楓を育てた時、あの世界でたくさんの命を背負った時とは違う背負っていて心地よいそんな重みだった。

 

きっと彼女は俺を支えてくれるし、俺は彼女を支えていける自信があった。これほど気持ちのいい気分になれたのはいつ以来だろうか。一番最初の命で親友たちと最後のライブをした時だろうか、思いつくのはそれくらいしかない。

 

そう考えると、不思議と笑みがこぼれる。

俺は前の20年間一体何をしてたんだか

だけど、それも彼女と出会えたことを考えれば大切な20年だったのだろう。今なら、胸を張って言える気がする

 

そう言えばあの逆行の瞬間、女神様が俺の名前の由来を知っていたのは何故なのか……それに湊と楓をお願いって言ってたよな。

 

可能性としては少しだけ考えていた。

転生した時のあの慈愛に満ちた目と逆行した時に見せたあの悲しむ目が俺の母さんにそっくりだった。

 

両義咲良

 

通りがかる人が見れば10人中のほぼ全員が振り向くような美貌を持った母親だった。

よくよく思い出せば顔立ちも、その振る舞い方も全てが似ていた、いやそのままだった。

 

だからなのだろうか、俺の幸福に異常なまでに固執するのは。

嬉しいか、と問われれば嬉しい。

だが、それ以上に自分の母親が女神だったというのに驚きを隠せない。あくまで可能性としての話だし、彼女がそれを演じた可能性だってある。

 

神が人間界で人に紛れて生活する、というのは昔からお伽話でよくある話だ。そういう場合は大抵が周りに幸福を振りまくか、周りに不幸を振りまくのが常だ。

 

……考えていても仕方ないか。きっとあの人に会える可能性は限り無く少ない。もし、今度会えるとすれば指輪の力を使った時だろう。

 

正直、貴女の正体を教えて欲しいとかって特典を使ってもいいのだろうけどそれはそれ、今度直接聞いてみてダメだったら使ってみよう

 

「……んむぅ」

 

可愛らしい声が聞こえたと思ってアリスの顔を見れば、ちょうど目が覚めたようで互いの目があった

 

「おはようございます。ソラ」

 

「うん、おはよう。アリス」

 

昨日までは想像すら出来なかった幸せが目の前にはあった。

 

 

 

互いに微妙に来る睡魔にウトウトしながら過ごしていたのだが、時間も既に8時を回っている。

 

ユージオやベルクーリとももう一度話した方がいいだろう。

まあ、それもこの先の方針を決めるための話し合いになるのだろうが

 

「ソラは、この後どうするのですか?」

 

「俺はこの後は攻略に加わる。俺のスキル欄を見てもらってもいいか?」

 

えっと、こうでしたっけ?

 

そんな風に慣れた手つきでウインドウを操作するアリスにALOでもやってたんだなと苦笑いが出てくる

 

「見慣れないスキルがありますね。《刀二刀流》と文字化けしててよくわからないものが1つと」

 

「そう、《刀二刀流》は《二刀流》スキルと対になる魔王に対する勇者の役割を持つスキルになる。その役割を与えられた俺が最前線に行かないという選択肢はないんだ」

 

「ですがそれはあなたの意思ではありませんよね?状況は以前アスナから聞いたものよりも良いものだと私は思っています。ならば、少しソラが離れたところで支障は出ないと私は思います。私たちは私たちのペースでこの城を登っていけばいいんです。それが結果として最前線にいることになるかもしれないだけで」

 

そう言われたことでようやく気がついた。

たしかに、前回より状況は遥かにいい。

ヒースクリフが全プレイヤーを導く役を引き受けたのなら恐らく自身の象徴ともいえる《神聖剣》は所有しているはずだ。

確かに、この先に結果として最前線にいることにはなるだろう。だが、その過程は少しゆっくり進んでもいいんじゃないか

 

この愛おしいまでに一途な少女とずいぶん頼もしくなった親友と共に

 

「それも……いいかもしれないな」

 

「ええ、私はどこにでもついていきますよ」

 

微笑んだ彼女は窓から差し込む朝日に照らされて普段の何倍も美しく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

それから2時間くらいゆっくりと過ごした後、ユージオとベルクーリがエントランスで待っているとのことだったので2人で降りていくとそこにはこの宿でしか売っていない桃水のような味のドリンクを飲んでいた

 

「おう、目が覚めたかソラ?」

 

「お陰様で、元気になりました」

 

俺の返答を聞くと力ずよく頷き席を立つ

 

「これからの予定は決まった?」

 

同じく席を立ったユージオが俺に尋ねてくるので俺は軽く頷きこの後の方針を口にした

 

「取り敢えずは生き残る為にフィールドに出てレベルを上げる。ぶっちゃけ整合騎士だった3人からしたらこの辺のモンスターなんて相手にならないかもしれないけどHPが0になったら本当に死ぬんだから慢心はせずに戦っていこう。そして、この先にあるであろう階層攻略戦にも積極的に参加していく、それが今後の方針かな」

 

「まぁ、それでいいと思います。叔父様やユージオは如何ですか?」

 

「俺も異論はない」

 

「僕もだよ」

 

2人の回答を聞いたところで俺は口を開く

 

「ありがとう、それじゃあ早速フィールドに向かおう。この世界で戦う上で必要なこと、全部教えなきゃいけないから」

 

みんなが頷くのを確認してフィールドに向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィールドに出ると多くのプレイヤーが街の近くのモンスターと戦っているのが見える。俺はそれを見て人があまりいない場所に移動してこの世界で戦う為に必要なことを教えていく。

アンダーワールドでは秘奥義と呼ばれていたソードスキルというものが存在すること、そしてこれが戦う上で最も重要な鍵を握ってくること、そして、自身のスキル構成。他人に見せてはいけないというのも付け加えて。その他にも魔法がないこと、アイテムを使うことで色々な効果を得られることなど一通りの説明を終える

 

「っと、質問いいか?」

 

剣を片手に持ちながら口を開いたのはベルクーリだった

 

「なんですか?」

 

「そのソードスキルってのはユージオやキリトやお前が使ってたような連続剣ってのも含まれるのか?」

 

「それは私も気になってました。如何なのですか?」

 

そう言えば、この2人は二連撃以上の秘奥義……ソードスキルを使ったことがなかった。ならば、気になるのは当然か

 

「端的に言えば使えます。いろいろなスキルの中で武器のスキル。つまり、片手剣や刀、短剣や曲刀、細剣や大剣、などのスキルを成長させていくことで自然とスキルスロットに自動的に追加されます。後はそれを使うだけですが……まぁ、後は慣れですかね。ユージオなんかはあっさりと覚えていったけど」

 

「あはは、まぁこの世界じゃ始めからやり直しなんだけどね」

 

「なるほど、つまり連続剣自体は出来るのですね」

 

「うん、割と簡単にね。刀二刀流なんかは始めから3連撃だし」

 

「へぇ、やっぱ武器によってそのソードスキルってのは変わるのか?」

 

「勿論、刀では片手剣のスキルは使えないし、細剣では短剣のスキルは使えない。それぞれ専用に用意させた剣技があるのでそれを使いこなすしかないって感じですね」

 

「なるほどな。そんじゃまぁ、適当にモンスターでも狩ってみますか」

 

俺からそれを確認した瞬間ベルクーリはイノシシの群れの中へと走っていきそれを蹴散らしていく

 

「僕も負けれてられないな。ソラ、アリス先に行ってるよ!」

 

腰に装備された初期装備の剣を抜き放ち、ユージオも別のイノシシの群れに突撃していく

 

「まったく、あの2人は……」

 

少しため息をつくと横にいたアリスがクスッと笑う

 

「それじゃあ、私も行ってきます。後ほど合流しましょう」

 

「了解、そんじゃ俺も行くかね」

 

アリスが走っていったことで俺も腰につけていた二刀を抜刀し、イノシシの群れへと接近し蹂躙していく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果として集合したのは5時間後で全員のレベルは4を超えるというびっくり数字になっていた。

この後、次の村ホルンカへと向かい。アリスを始めとする3人のために【アニールブレード】と呼ばれる武器を獲得するクエストを4時間以上ぶっ続けで行ったせいか更にレベルが2ほど上がったのはいい思い出なのかもしれない

 

 

 


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