第3話
あれから10分ほど経過した時、俺もやっと落ち着いて来た。
「それで、ユージオが来た理由はわかったけど。他の2人はなんで?」
「俺はこの2人の付き添いだ。あとは保護者役ってとこか」
「なるほど、この2人突っ走るところありますからね」
苦笑いしながらベルクーリの言葉に同意する。
「……と、なるとあとはお嬢ちゃんだけなんだが。俺とユージオは席を外させてもらうぜ」
「うん。きっとアリスの来ることになった理由に僕たちは必要ないから」
そそくさと部屋を去っていく2人を不思議に思いつつアリスに向き直る。最後見た時と変わらない流れるような金色の髪に優しい青色の瞳。その瞳にはなにか決意が満ちたような気がしていた。
「では、私が来た理由を説明させていただきたいのですが」
「うん」
その言葉からアリスはさらに深呼吸をたっぷり4回行い。遂に口を開いた。
「私が来たのは至極単純な理由でした。もう一度ソラに会うため。それが私がここに来た理由です」
「……それだけの理由で?」
余りに簡素なその理由につい、問いかけてしまった。
「ええ、でもその原動力はたった一つだったんです」
アリスの真っ直ぐな瞳が俺を射抜く。
再び大きく一つ深呼吸したあとアリスは再び口を開いた。
「それは、私が貴方を好きになってしまったから」
瞬間、電撃が走ったような感覚に襲われた。
「どう、して。そんな理由で……君には、君には他の生き方もできた筈だ。きっと、ユージオと幸せに暮らすだろうって……そう思ってたのに」
「そうですね……でも、私は誰かと添い遂げるなら貴方が良かった。他の誰でもないソラが良かったんです。あの夜、貴方が語ってくれた世界を一緒に見たかった。あの夜、貴方が抱きしめてくれたぬくもりが忘れられなかった。そんな未練がましい想いがずっと続いていたんです。今だってそうなんです、本当は貴方に会ってはいけないはずの私が目の前にいるのもそんな未練から……でも、私が貴方のことを好きだと気づいたのはアスナがキリトに会いに来たときだったでしょうか。その時からこの想いは歯止めが効かないほど膨れ上がっていったんです。キリトとアスナの結婚式のとき、私の隣に立つ貴方を想像したこともありました。でも、きっと貴方からすれば迷惑な話……ですよね。それでも、私は貴方が、ソラが大好きです。貴方の隣で今度こそ貴方を守りたい。その一心でここにやって来ました」
「───っ!」
「この思いを伝えれば貴方から拒絶されるのはわかってます。でも、私はこの思いを伝えられずにはいられなかったんです」
すこし、下を向いて話すアリスの言葉を俺は信じられなかった。初恋をした女の子が、俺のことでこんなにも悩んでいたのだと言っているから
「…………して」
「ソラ?」
「どうして、そんなに俺のことを想ってくれたんだ……」
自分のものとは思えないほど弱々しい声がアリスに問いかける。その質問にもアリスは真っ直ぐにそして真摯に答えてくれた
「簡単なことですよ。それが私、アリス・シンセシス・サーティにとっての初恋だったからです」
その言葉が、信じられないほど心の中にすとんっと落ちて来た。だけど、それと同時に色んなものを塞ぎ込んでいたものが全部壊れた。
「俺も……君のことが好きになったから…君に死んでほしくなかったから……他の方法が思いつかなくて……でも仕方ないじゃないかっ!初恋だったんだ!君を死なせないことで頭がいっぱいだったんだ!きっと君はユージオと一緒に笑って行くんだって……だから……俺は……」
言葉が途切れる。
全部、全部俺の身勝手、俺の勝手な妄想。
それが、たくさんの人の生き方を変えてしまったことを今になって自覚した。
「ありがとうございます。でも、みんなはそれを望んでたわけじゃないです。ユージオとキリトは大切な親友を失って……私は貴方という好きな人を失った。きっと、みんなが貴方を含めた全員で笑える未来があるって信じてたんじゃないんですか?」
「俺は……君にどう償えばいい?俺は君に一体何が出来るかな?」
「私は償いなんていらないんです。私は貴方に一緒にいてほしい。生憎と、私の初恋はまだ終わっていなくて……貴方が許してくれるなら、私が貴方を支えたい。貴方の辛いこと、一緒に背負わせてください。貴方の幸せを一緒にかみしめたいです。勿論、強制はしません」
下を向き、俯く俺をアリスは優しく抱きしめた。
泣きそうになるが必死にそれを抑え込む。
「俺に君のそばにいる資格があるのかな?」
「資格なんてなくてもいいんです。私が貴方と共に居たい、それだけですから」
「俺は君と一緒にいてもいいのかな?君を幸せに出来るかな?」
「私は一緒にいてほしいです。それに、幸せになれるかはこの先にならないとわからないですから。でも、私はあなたと居られるだけで、こうして会話をできるだけですごく幸せな気分になれています」
抱きしめてくれているアリスから離れて正面に立ち、真っ直ぐにアリスの瞳を見る。
「俺と、これから先一緒にいてくれますか?」
「もちろん、喜んで」
「きっと辛いことや、悲しいことも沢山起きる」
「私はあなたがいないことが一番辛いし、悲しいです」
「やっぱり、俺は君と一緒にいたいみたいだ。こうしてもう一度、18年間生きてきて沢山の出来事があったけど、何か欠けたような。何か足りないような気がしてた。今になって気がついた。俺は君と一緒にいたい」
だから、と俺は今までにないくらい勇気を振り絞って声を出す
「アリス、俺は昔から変わらず君のことが大好きだ。だから……だから、俺と結婚してほしい」
色々と過程がぶっ飛んだ発言だと言うのは理解している。
でも、もう自分の気持ちを抑えきれない。目を瞑り、その答えを待つ。返答はアリスが俺の唇を塞ぐことで返された。たっぷり1分にも及ぶかと言うキスをしたあとアリスは微笑みながら
「勿論です。私で良ければ……どこまでもついていきます。いつまでもあなたの隣で支え続けると誓いましょう」
この瞬間から、俺とアリスは夫婦となった。
アリスに結婚申請メッセージを送るとアリスは物凄いスピードでOKボタンが押され、視界の端のログに現れた祝いのメッセージすら無視して、お互いに抱きついたままベッドに倒れこむ。
「ごめん、また会ったばっかりなのに」
「私もです。最後に会ったのはあの時、それでも、私はあなたを想い続けて来ましたから。それに、嬉しいですから。あ、で、でも……その、初めてなので……優しくしていただければ」
「……もちろん」
もう一度、今度は俺からキスをする。
長い間行われたキスは確かに2人を幸福にした。
そして、夜は更けていく。
ただ、史上最悪のデスゲームへと変化したその日は、長い間出逢うことのできなかった2人が出会い。互いに愛することを覚えた日でもあった。