前回の投稿から約半年くらいですかね。
水樹奈々さんのライブとか地震とか、休みのない仕事とか色々ありましたが、投稿再開致します!
次章から74層編が始まる(予定)のでここからは閑話として過去編をやっていきたいと思います。
まずはこの作品の2人目のメインヒロインであるアリシアから
Ver.アリシア〜前半〜
「そう言えば、アリシアはソラにあったのは修剣学院でとのことでしたが……その時のこと、覚えてますか?」
突然、と言われれば突然だった。
アリス様は普段から私たちと一緒にいるがこう言った踏み込んだ話をして来ることは珍しかった。
「もちろん、覚えてます。思い出すだけでもあの頃の自分を殴り飛ばしたい気分に駆られますが……」
苦笑して答えるとアリス様はクスクスと笑う
「私、おかしな事言いましたか?」
「いえ、私も同じことを思ってたところです。あの頃の自分を今見たら真っ先に剣を向けてるかもしれません。それで……よかったら聞かせてほしいんです。私の知らないソラの時間を、嫌だったら全然構わないんですが……」
後半少しショボンとしながらそう言うアリス様を微笑ましく思いながら、私は頷いた。
「構いませんよ。少し長くなりますから、お茶でも淹れてきますね」
「それなら、私もちょうどお茶菓子にちょうどいいクッキーがありますからそれも食べましょう」
私が席を立つと、アリス様もウインドウからクッキーを取り出して、部屋にあったお皿にクッキーを載せていた。先輩が好んで飲む茶葉から淹れた紅茶は私も好きだったりするので、リビングにあるのとは別に私個人でも持っている茶葉を使用してお茶を淹れる。
「アリス様はミルクとお砂糖は要りますか?」
「では、ミルクだけ。少しでいいです」
「わかりました」
本当ならもう少し手間をかけて紅茶を淹れるのだが、ここはSAOの中なのでその工程そのものがかなり大幅にカットされている。30秒ほどで完成した紅茶を二つ、テーブルに並べると私はアリス様の対面に座る。
「……これは、ソラの好む茶葉で淹れたものですか?」
「はい、先輩はこれしか飲まないので……御一緒しているうちに私もこのお茶が好きになってしまって、自分用にも買っちゃったんです」
「確かに、私も長いこと飲んでますがその気持ちは分かります」
しばらく私は紅茶の余韻を楽しみつつも頭の中で先輩に会った時から別れた時までの出来事を整頓する。
「では、私と先輩が出会ったところからお話しさせていただきますね」
時は遡り、修剣学院中庭。
私、アリシア・アーデルハイトはここ央都セントリアの中でもそれなりに爵位の高い家の出だった。
そんな私も修剣学院に入学し、入学の成績も上位10人に入る成績を残した。入学成績が上位10位以内に入ることが出来れば、上級修剣士となる先輩方から直接指名され、1年間先輩方の身の回りのお世話をする代わりに、先輩方が身につけて居る剣技を指導していただける権利が得られる。
私を含める10人の全ての人が新しい生活に夢と希望で胸がいっぱいだった。
そんな中、先輩方が指名していく順番は彼らの中で成績が高かったものからになる。つまり、昨年の最終総合成績によって序列がつけられるのだが、私が選ばれたのは2番目だった。
指名した先輩の名はソラ、と言うらしかった。
下に苗字がないことから平民の出なのは一瞬で分かった。他にも平民出の先輩は2人いたが、私は正直、落胆の気持ちの方が強かった。
剣技とは、貴族や衛士などが代々扱い、継承される神聖なものだと私は父から教わった。実際、私もそれを信じて疑わなかったし、周りもそう信じていた。故に、平民など所詮大した剣技は使えないとタカを括っていた時期があったのは今になっては恥ずかしいことだった。
翌日、私は指名された先輩の部屋、上級修剣士のみが与えられる個室へと伺った。
部屋の中からは何やら甘い匂いが香り、更には安っぽい紅茶の匂いが漂っていた。
私はそれを気にせず、部屋をノックする。
「今日より、お世話になることになります。アリシア・アーデルハイト初等錬士です!」
第一印象が悪くてはいけないと、出来る中で一番凛とした口調で告げると中から声が返ってくることはなく、代わりに扉が開いた。
「初日の授業が終わったばかりでご苦労様、大したもてなしはできないけど取り敢えず入って」
出迎えてくれた人は黒い髪に黒い瞳、優しそうな顔立ちで少し身長の高い青年だった。
「失礼します!」
身分の差があるとはいえ、異性の部屋に招かれるというのは初の経験なので少しばかり緊張しながらも言われるがまま紅茶とクッキーの用意されたテーブルへと案内された
「まずは自己紹介から始めようか。これから一年、互いにお世話になるわけだし。君もそれでいいかな?」
私の名前を知って居るはずなのに、敢えて口にしないのは彼なりの気遣いなのか。
「先輩は、私の名前を知ってるん……ですよね?」
私が問いかけると彼は微笑みながら頷く。
「失礼ですが、その自己紹介に意味はあるんでしょうか?私にはあまり理解できません」
「そうだな……敢えて言うなら俺が人と会うたびにそうしてきたから、かな。人の出会いは『一期一会』全ての出会いに感謝して、最大限の敬意を持って俺は名乗ることにしてるんだ。そこに善悪は関係なく初対面であればそれは確かな縁となる。なんて、俺の意見を押し付けるわけではないんだけどね」
困ったように頭を描く先輩に正直、押しが弱い人なのかなと思った。だけど、私がこれから一年仕える人なのだ。ならば、この一年は彼に合わせればいいとその時は納得した。
「では、私から。アリシア・アーデルハイトです。一応、アーデルハイト侯爵家の長女です。下に妹が1人だけいて、来年、修剣学院に入学の予定です」
「じゃあ、次は俺だね。ソラだ。気づいてると思うけど俺には公的な地位はないから俺の元で教わるのが嫌であれば先生方に頼み込んでくれていいよ」
ただ、そうだなぁ……と先ほどとは違い自信に溢れた彼の顔に私は少しドキリとした
「だけど、それは一度俺と修練してからにしようか。今日の修練はそれぞれの流派の先輩がこれから教えていく剣技を後輩に見せるための時間でもあるんだ。だったら、俺も君に俺の剣を見せておかないと」
そう言って立ち上がった彼は立てかけてあった細身の剣を持って部屋の出口へ向かっていく。
「まずは修練場へ向かおう。上級修剣士が後輩へ指導するための部屋があるんだ」
「……はい」
そうして私とともに部屋を出てしばらく歩き続ける。
私たちのいる寮とは比べ物にならないほど長い廊下と豪華な装飾にそれに見合うようにキリッと背を正し、前だけを見据えて歩く彼に私は一瞬見惚れていた。
「さて、ここだね。上級修剣士の第2位、つまり俺に与えられた修練の為の部屋なわけだけど、実際俺も入るのは初だから堅苦しいのは無しで行こう」
目の前に現れたのは扉、というよりも木製の枠に紙が所々に張り巡らされているものだった。
彼はそれを横にズラすと、一方前に出る。
さらにそこで何かに一礼してそっと足音を立てずに部屋の中にはいる。
その一連の動作があまりにも完成されすぎていて私の中での庶民のイメージが一瞬で崩れ去っていった
せめてもと同じような動作をこなして見るが彼とは違いどこか覚束ない動作で、更には足音を消すこともできずにいた。
「最初は難しいよね、俺も出来なかったし。それとここで靴は脱いでね。畳の上は土足厳禁だから」
靴を脱いで床の上を歩いていく彼に私も習って靴を脱ぎ、その床の上に歩いていく。
彼が部屋の中央まで来たところで私の方に向き直り、凛とした顔で私を見つめる。
「今から俺が見せるのはこれから君に学んでもらうことでもある。そうだな、流派を名乗るとすれば“両儀一刀流”これを君が習うかどうかは君が決めることだ」
そう告げた彼は静かに鞘から細身の剣を抜き放つ。
漆黒の刀身に紅蓮の刃、それに込められた想いは私には分からないが、あれは整合騎士が持つといわれる神器に近しいものを感じた。
そこから私が見たのは今までにないほど綺麗な剣舞だった。今まで父に連れられ、パーティーで様々な剣舞を見て来た。そのどれもが私の胸を打ち、いつか剣を持つ日を楽しみにしていた。だが、今目の前で繰り広げられるそれはそれの比ではなかった。動作の一つ一つに目が奪われる。それを自身が身につけられるというのだからこれほど名誉なことはないとそう思ったほどだった。
しかし、それまでの穏やかで美しいものからそれは一変した。瞬間、私の目は信じられないものを写した。
力強く、芯の通り、その一刀に彼の意思が宿っているかのようなそんな舞だった。
一体どれほどの歳月をかければこれ程の剣を使えるのだろうか。私には彼の歩んで来たであろう時間が生半可なものではなかったのだろうとその時点で確信していた。
彼を知りたい。この領域に至るまでのその経緯を知りたい。
やがて、10分にも及ぶ剣舞は終わっていた。
最後に鞘に細身の剣を戻すことで彼の纏っていた空気は一瞬で穏やかなものになっていた。
「……どうかな。一応、全てではないにしろそれなりに披露できたとは思うけど」
自信なさげに聞く彼に、私は一目見たときから決めていた言葉を口にした。もはや私にはこれ以外の選択肢は存在していなかった
「そんなの、決まっています」
「やっぱりダメ、かな?」
少しナイーブな彼に私は微笑んで手を出した。
「よろしくお願いします、ソラ先輩。私が貴方に魅せられた剣舞は私の人生の中で一番心を打たれました。その剣技を学ぶ喜びを、私にください!」
私の言葉を聞いて、彼……先輩は暗い表情を一気に明るくさせて私の手を取ってくれた。
「勿論、君が望むのであれば、俺は俺の全ての技を君に授けよう。だから、よろしく……えっと」
「アリシア、でいいです。ソラ先輩」
「そっか、そしたら。あたらめてよろしく、アリシア」
「はい、お願いします!」
互いに微笑み合い、握手を交わす。
それが私と先輩の初めてあった日の記録。
「っと、初日の日のことはこれくらいですね……ううっ、話してるだけでも恥ずかしくて顔が熱いです」
「アリシアは昔は貴族主義が強い子だったのですね。なんだか驚きです」
「侯爵家、でしたからね。その全ての考えは先輩の傍付きになってから変わっていくことになりました。他の人が清掃してる間なんかは私は先輩と一緒に街へ出かけていたりしましたから。先輩は私の知らないことをたくさん教えてくれて、私に貴族以外の知識と経験をくれた人だったんです」
今思い出しても懐かしく、輝いていた日々だった。
私の世界をもっともっと広く教えてくれたあの日々を語るために私は口を開く
過去編はアリシアを含めた全3人の視点からやるつもりなのでよろしくお願いします。