ソードアート・オンライン〜白夜の剣士〜   作:今井綾菜

25 / 34
大変遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
今年も頑張って更新していきますのでよろしくお願いします。


束の間の休息

翌朝、俺は誰よりも早く起きると普段なら決してしない修練に明け暮れていた。昔、前回のSAOで繰り返ししたようなものではなく、昨日の戦闘から何かを掴めそうな気がしていた。

ただ無心で二刀を振るう。

『両儀蒼空』としての答えが、昨日得られた。

だが、解答を得てもそれをモノにできるかは別の話だ。

そう、中途半端に会得した剣術をデタラメに使いますから昨日のようなことが起こる。この先、それは明らかな致命傷となり得る。ならば、それを克服しなければならない。

得られるすべてを習得し、複数の視点からたった一つの正解を手繰り寄せる。

『無銘 金重』 『明神切村正』手に握るのは宮本武蔵が使用していた刀。

俺の知る限り宮本武蔵たる彼女が最も怪異と刃を交えた舞台。『屍山血河舞台 下総国』そこでの戦闘の経験を刀を通して学ぶ。

 

───憑依経験

 

俺の特典である『無限の剣製』から零れ落ちたものの一つ。

投影した武器に宿る本来の担い手の技量を完璧でないにしろその技量を一時的に自身へと憑依させ使えるようにするもの。

《剣技の支配者》と組み合わせて使うことにより体に染み込ませることにより、一層その精度を高めることが出来る。

 

「───ダメだな。今のまま(・・・・)だと究極には至れない。やっぱりもう一度本人と手合わせ願いたいけど……」

 

今、彼女と戦えれば恐らく何かをつかめる確信はある。

前回のアインクラッドではどう言うわけか流れ着いた彼女と手合わせをする機会があったのだが……だが、起こり得ないことを考えても仕方ない。

 

「───そろそろ1時間か……ダラダラやるのが一番良くないのはわかってるんだけどな」

 

効率がいいのは集中できる時間に出来る範囲で熟す。

以前はアリシアにもそのやり方で教えていたのに、答えが目の前にあるとつい周りが見えなくなってしまう。

 

「ふう、取り敢えず飯でも作るか」

 

投影していた二刀を魔力へと還す。

一呼吸置いてからホームの中まで戻った。

ホームに戻ると、ちょうど起きてきたのかアリスがリビングへとやってくる

 

「おはようございます、ソラ」

 

「うん、おはよう。アリス」

 

いつもの軽めの挨拶をこなすと自然とアリスは俺の隣に立ち調理を始める。

 

「今日は何にするんですか?」

 

「んー、簡単だからサンドイッチにしようかと」

 

「昨日もそうだったと私は記憶してしますが……」

 

「まぁ、ライヒがいるけどうちはうちってことだね。こんなこと言ったらアスナには怒られるだろうけど俺は正直朝食は食べなくてもいいと思ってるから……」

 

「いや、それは流石の私でも怒りますよ」

 

「ごめんって」

 

軽口を叩きながらテキパキとサンドイッチを作っていく。

本当にこのサンドイッチというのは楽ではあるのだが、こだわると一気に手間が増える両極端な食べ物だと俺は思う。

 

まぁ、今日作ったのはタマゴサンド、ハムチーズ、レタス&ベーコンといった簡単なものだけだが

 

「アリス、とりあえず出来たやつからテーブルに運んでもらっていい?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

出来上がったサンドイッチを人数分の皿に並べてテーブルに持って行くアリスを横目に、そろそろアリシアが起きてくる頃だろうと扉を一瞬だけ見ると、そこからは想像よりもバタバタとしたアリシアがリビングにやってきた

 

「おはようアリシア。随分とドタバタしてたけどなにかあった?」

 

「い、いえ!何もないです!おはようございます、先輩、アリス様!」

 

なんだか普段からは想像もできないほどテンパってるアリシアを新鮮に思いながらも朝食の準備は終わった。

 

全員が起きて朝食の席に着いたのが7:30頃だった。

全員が揃うまでの間にヒースクリフから「攻略は明後日から未明から。ライヒくんの編成で思いの外手こずっているため、ソラくんには迷惑をかけるが昼頃に少しだけ時間を割いてほしい。他のメンバーには休息を取らせておくといい」とのことで連絡が入っているため昼はヒースクリフと飯を食うのかなんて頭で考えていた

 

「なあライヒ!コンボ中の踏み込みの角度について聞きたいことが!」

 

「キリト……さん。食事中くらいその修羅な思考やめませんか」

 

若干、キリトの修羅思考に呆れながらも紅茶を一口飲む。

アスナに「そうだよ、キリトくん。それに食事中はそうゆう会話禁止ってルールでしょ?」と注意されているのを苦笑しながらも口を開く

 

「それでこれは業務連絡な。今朝ヒースクリフから連絡が来たんだけど、討伐準備にはもう少しだけ時間をかけるそうだ。そのー……思った以上にライヒの編成が難しいらしくてな」

 

「なんで?ここのメンバーに入れて貰えばいいじゃない」

 

不思議そうにそう口にするリズベットとそれに頷いて同意するシリカに少しため息をつく

 

 

「いや、最近ギルド間での戦力差が問題になっててさ。ウチがずっと叩かれててそういう訳にもいかなくなった。これを機に攻略組全体を均等に混ぜて、攻略組単位での編成にシフトして行きたいんだと」

 

「ほー、妥当な判断だな。てかどう考えてもこのギルド叩かれて当然だろ。強い奴らだけに強くなるきっかけがある状況はさっさと改善すべきだ。世論と対立したら攻略組なんて出来なくなる」

 

「その……お前が言うと余りにもその、何故だかわからないんだが含蓄がだな」

 

「そうか?」

 

そこで一度会話は途切れる。

また一口お茶で喉を潤して締めの言葉を口にした

 

「ああそれと、今日は各自で自由に過ごしてくれて構わない。たまにはゆっくりしてもいいと思うし」

 

「はあ……どうせソラは休むと言って修練に明け暮れるのでしょう?やめろとは言いませんが見ていて心配になります」

 

「あはは……それはそうとライヒは?用事が特になければちょっとだけ修練に付き合って欲しいんだけど」

 

受け流すようにライヒに会話を振るとアリスがぷんすかと怒りながら「ごまかさないでください!」と言ってきたのでそれを宥めるのに必死な俺とぷりぷり怒るアリス。いつも通りな光景を笑うメンバー

 

困ったように笑いながら紅茶を飲むためにカップを持ち上げの高さまで上げた時にそれは起きた

 

まっすぐに手を挙げたアリシアが控えめに口を開く

 

「あのっ……お暇なら私と何処かに行きませんか?」

 

思わず手に持っていたカップを地面に落としてしまった。

表情が笑っているのに何処か冷たいものに変わっているのが自分でもわかる。それもそうだろう、目の前のアリスでさえ一瞬、かなりの殺気を飛ばしたのだから

 

シリカやリズベットをはじめとした女子勢は「きゃー」とか「わー」とか黄色い悲鳴を上げている。アスナはすごく複雑そうな顔をしているが。

 

いや、まてまだ《そういうこと》だと決まったわけではない。

少しだけ様子をみないことには……

 

「ん、別にいいけど」

 

ライヒのその答えにさらに表情は凍りついた気がした。

アリスから放たれる殺気もかなりの密度のものになっている

心なしかさっきまで湯気を上げていた紅茶が一瞬で冷めた気がする。

 

「てか何でわざわざ俺? ソラとかアリスさんじゃ駄目なのか?」

 

「それは……はい。ライヒさんが、いいんです」

 

アリシアのその言葉がキーとなった俺とアリスは同時に立ち上がりライヒの腕をそれぞれ掴む

 

「よし分かったライヒ。ちょっと付いて来てもらおうか」

 

「ええ。《軽く雑談をするだけです》から。お時間は取らせません」

 

怖いほどにこやかなアリスと今までしたことのないような冷ややかな笑みを浮かべた俺はライヒを立ち上がらせる

 

「え? いや待てよ何で俺を何処かへ連行しようとしてんだよ。放せよ、落ち着けって、いやホントに待てって」

 

腕を掴んだままライヒを引きずり、ホームの裏まで連行した俺はニコニコと笑ったまま『明神切村正』を左手に投影していた

 

「なあライヒ。俺もアリスもお前のことはちゃんと信用してる、だから正直に答えてほしい。――アリシアにどんな色目使ったのかなぁ? んん?」

 

「いや怖いって。信頼してんならまずは剣を仕舞えよ、アリスさんもその殺気向けないでくださいよ。俺が何かする暇があったかどうかよく考えてくれ。そもそも何でリスク冒してまで色目使う必要があるんだよ」

 

その言葉に少しだけ考え込む。

だが、苛立ったままの俺の口からは見当違いな言葉な次々と繰り出されていく

 

「デュエルの前に何故かアリシアはお前を追って行ってたな。あの時は状況が状況だったから追及はしなかったけど、よく考えるとおかしい。《接点が微塵もないならアリシアはあんな行動はとらない》。違うか?」

 

「俺が知るかよ……」

 

俺はなにを考えているのか、そもそもライヒにアリシアが取られるとでも勘違いしているのか、余計な言葉だけが口から次々と出て行く。だが、それには流石のライヒも堪忍袋の尾が切れた。静かにしかし、確かに怒気の篭った声がその口から聞こえた

 

「それにだ。俺にはちゃんと好きな人がいる。相方がいるって話しただろ? そいつとは恋人だった。結婚だってしてた。あいつ(レイン)以外、絶対に好きになるわけがない。絶対に、絶対にだ。それでも信用できないならここで俺の首を跳ねればいい」

 

それを言われた瞬間、まるで冷水をかけられたかのように一瞬で頭が冷やされた。それと同時に先程までの無礼極まりない発言にとてつもない後悔が生まれる

 

 

「あ、あのええとごめんなさい。まさかライヒに恋人がいるなんて思わなかったんです」

 

「わ、悪かった。すまない色々と誤解してたみたいだ本当にごめん!」

 

若干取り乱したまま誤った俺とアリスにライヒはため息ひとつついた後、まあ、仕方ないよななんて口にしながら苦笑いして許してくれた。

 

 

 

正午を少し過ぎた頃、ヒースクリフとの会談済ませたのち俺とアリスは71層の街を観光していた。所謂、デートというやつである

 

「それにしてもこんなにゆっくりできるのは久しぶりですね」

 

「ああ、ここ最近は特に忙しかったから。こうして2人でいれる時間も少なかったから。こうやって時間が出来た時こそアリスと一緒にでかけたいなって」

 

「まったくもう、こんな人がたくさんいる中でそんな恥ずかしいこと言わないでください……そう思ってくれるのはすごく嬉しいですけど……」

 

顔を赤くして少し俯くアリスに軽く謝って歩き続ける。

歩いて行く中で、さり気なく手を繋いでみたが一瞬驚いた顔をしたもののなにも言わなかったのでそのまま歩き続ける

 

「そういえば、昨日のライヒとのデュエルで得られるものはありましたか?」

 

「ああ、あったよ。俺としての戦い方を昨日導き出せた。ライヒには俺の今までの戦い方の間違いを教えてもらって、そして《両儀蒼空》としての答えを貰えた。後は……」

 

 

そこで少し言葉が詰まる。

 

「後は……?」

 

その言葉を口にしていいのか悩んでしまう。

アリスは自分だけの戦い方を身につけている。

だが、俺がやろうとしているのはアリスのスタイルとは全く逆の《得られるものを全て会得し、戦闘状況を複数の目線からたった一つの答えを導き出す》もの。俺に足りないのはそもそも極めた流派が一つしかないこと、そして未だノータイムでの流派の切り替えが出来ないことにある。

 

「いや、なんでもないよ。ただ完全に習得できるまではまだ時間がかかるってだけ」

 

「なるほどやはりソラといえども剣の修練は欠かせないのですね」

 

「そうそう。俺だって扱える剣技があるってだけでそれら全てを極めたわけではないんだ。アリスや他のみんなみたいに究極の1を持ってるわけではない。今の俺は所謂半端者ってやつだね」

 

「……なんだか、悲しい言い回しですね。その言い方ではソラ自身が己の究極に辿り着けない。そんな言い方です」

 

シュンとしたアリスを見て、少し下卑し過ぎたかなと自嘲気味な笑みを浮かべる。

 

「さて、湿っぽいのは終わり!折角のデートなんだし思いっきり楽しもう?」

 

「……そうですね。ソラのオススメのお店なんかはないんですか?」

 

そう聞かれて思いついたのは何件かあった。

全て前回のSAOでお気に入りだった店とこの間ライヒについていって見つけた酒場。そして、最後にとある条件下でしか頼むことのできないメニューがある店

 

「アリスってさ、チーズケーキ……好きだっけ?」

 

「チーズケーキですか?ええ、好みではありますが」

 

「美味しいって評判のチーズケーキがある店があるんだけど、どうかな?」

 

内心、既に心臓が爆発しそうな勢いで緊張している俺を知ってか知らずか、アリスは微笑んで答えを返してくれた。

 

「ええ、それで構いませんよ。ソラと行けるならどこへでも」

 

その言葉で、俺は決心した。

 

 

 

 

向かった先は町の外れにある喫茶店だ。

町の外れにしては客の運びも悪くないのはひとえに価格の割に味が良いからというのはヒースクリフの談だ。

 

「ここですか?私も足を運んだことはありますが、チーズケーキなんてありましたっけ?」

 

不思議そうにメニューを眺めるアリスに意を決して口を開く

 

「ああ、あることにはあるんだ。裏メニューなんだけど……さ」

 

「……?なんだか妙に歯切れが悪いですね」

 

「注文の条件が……夫婦であることなんだ」

 

「……へ?」

 

その条件を察した瞬間にアリスの顔が真っ赤になる

 

「〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 

「ご、ごめんっ!やっぱ普通の店に行こうか!」

 

そう言って席を立とうとしたが、それが許されることはなかった。そう、俺の手を握ったアリスによって立つことは禁止されたのだ

 

「……頼みましょう。それに、夫婦としてというのも……何気に初めてですし……」

 

「う、うん」

 

そして、俺とアリスは数瞬見つめあったもののほとんど同時に店員のNPCを呼ぶのだった。その際、NPCが来たと思ったらバイトの女の子のプレイヤーだったり。その子の「お2人は結婚してますか?」の質問に再び顔を真っ赤にして答える俺たち2人。さらには頼んで出てきたチーズケーキに付いてきた フォークが一本だけだったりと様々なトラブルが多発した。

 

「そ、ソラから……どうぞ」

 

「え……あ、うん」

 

目の前にチーズケーキが乗せられたフォークが差し出される。

フォークを握るアリスは落ちても大丈夫なようにフォークの下にも手を寄せている。

 

「……あーん、です」

 

「あ、あーん」

 

口を開けるのと同時にゆっくりと若干震えた手つきでフォークが口の中に入れられる。それに合わせて口を閉じるとフォークが抜かれた。瞬間、口に広がるのは濃厚なチーズの味、だが、正直それを判断するレベルの余裕は俺には決してない。

 

口に入っていたケーキを飲み込んだ俺はアリスからフォークを受け取り再びチーズケーキをフォークに乗せてアリスに向ける

 

「わ、私は自分で食べますのでっ!」

 

「ダメに決まってるじゃないか!俺だって凄く恥ずかしかったんだから!ほら、あーん!」

 

そう言ってフォークを少し口に近づけるとアリスは少し戸惑ったものの

 

「あ、あーん」

 

結果としては口を開いたのだった。

 

「ううっ、恥ずかしいです……」

 

チーズケーキを飲み込んだ後、俺たち2人は悶絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果としてはあのチーズケーキは交互にあーんをすることでしか食べられないらしく、互いに顔を真っ赤にしながら完食した。その後はさっさと買い物を済ませ、赤面したままホームへ戻り、そのまま夕飯の支度を済ませ、食事についた。

そのまま、その日は終わりを告げる筈だったのだが……

 

「よっ、はっ、あっあれ……。また失敗しちゃった……」

 

先程から食事中にナイフを持つたびにアリシアがナイフ回しをしては失敗し、一度置くのだが、再びナイフを持つとまた挑戦するという奇行に走っていた。初めは見逃してたんだが、その原因であろう張本人を俺はジト目で見つめる

 

「ラ~イ~~ヒ~~~?」

 

俺のその声にライヒが一瞬肩を震わせたが、すぐに弁明に入る。だが、時既に遅し。修練をするのは構わないけど食事時に持って来ていいものではない

 

「いやごめん本当に申し訳ない! 最初はやめろって言ったんだけどアリシアが――」

 

「俺の大事な弟子に……何を吹き込んだんだ!!」

 

主にマナー面でっ!

そこから俺のぐちぐちとしたお説教にライヒは縮こまる中

 

「あ、ライヒさんライヒさん。三回連続で出来ました! 見てましたか、ねえ、ライヒさん!」

 

アリシアは怒られるライヒを傍目にナイフ回しを繰り返していた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。