「わりぃ、オレよ。全部思い出しちまった」
その言葉に俺とその言葉の意味を知るものは黙ってしまった。だが、それを許してくれるものはここにはいない。
「悪い、実は俺もなんだ。ソラ」
クラインの横にいたエギルも俺をまっすぐに見ながらそう告げたのだ。
「思い出した……ってのはきっとここでの記憶ってことじゃないんだよな」
「ったりめぇだ!」
涙を流したクラインは半ば叫ぶように答えた。
逃げることは許されない。あぁ、こうなる可能性はあるってキリト達が来ていた時点で気づいていたさ。
何がトリガーになって思い出してしまったのか、そんなことはどうでもいい。俺には説明する義務があるんだろう。
「わかった、全部話すよ。でも、その前に場所を変えよう。うちのギルドホームでいいか?全員、30分後にそこに集まってくれ」
きっと思い出したのは2人だけではないだろう。
だったら、他に思い出した人も見つけて伝えなければいけない。
「……わかった。30分後だな?必ず行く」
クラインはそう言い残して転移して言った。
それに続いてエギルも転移していったのを見て俺はため息をついた
「いつかこうなるのはわかってたことだろ?」
キリトが俺の近くに来て問いかける
「あぁ、わかってたさ。でもさ、クラインのあの顔見るとやっぱ辛いわ。やったことは後悔してないし間違ったことだとは思ってない。けど……それでみんなを悲しませたのは十分知ってる。だから、俺はきちんと話すよ」
キリトの目をまっすぐに見て俺は答えた。
それにキリトは頷いてアスナと一緒に転移する。そこにはもちろんロニエも付いて行って
「リズには声を変えておくからちゃんと怒られてね?」
去り際にそんなことをアスナは残して行った。
「さて、私は状況をあまり飲み込めないでいるが、どういうことなのかは気になるのでね。後で君のギルドホームへ立ち寄らせてもらおう」
「そう言えば、あんたはどうやってこの世界に?」
「私自身が望んだわけではないのだがね。確か彼女の名はステイシアと言ったかな。女神を自称する女性に此処へ転生、もとい逆行させられてね。君のサポートをするようにと。もちろん、GMである私が一プレイヤーである君を贔屓することはできないがやりようはあると思っていた矢先にこのデスゲーム化だ。正直私も驚きを隠せないよ」
「俺はあんたがデスゲーム化させようとしてなかったのが一番の驚きだよ」
俺の言葉にヒースクリフはふっと笑って転移結晶を取り出す
「なんにせよ。君がどういう最後を遂げたのか、私にも知る権利はあると思うのでね。30分後、君のギルドホームにてまた会おう」
そう言い残してあいつは転移していった
あと残ったのは俺とユージオ、アリス、ベルクーリにアリシア、ティーゼだった。
「ごめん、ちょっとだけアリシアと2人になってもいいか?あれとは別に話したいことがあるんだ」
「わかっていますよ。私だってそのくらいの配慮はできます。さて、小父様。ユージオ、それにティーゼ。私たちはそのままギルドホームへ向かいましょう」
アリスの言葉に3人が頷き、転移していった。ユージオとティーゼは仲良く微笑んでいたところを見ると転移先やら何やら教えていたのだろう。全員が部屋からいなくなり、此処に残ったのは俺とアリシアだけになった。改めて、成長した後輩を見る
「ごめんな、アリシア」
たった一言、だけどそれだけでアリシアは崩れ落ちてしまった。
「……先輩はずるいです」
泣き崩れてしまった彼女を抱きしめて頭を撫でる。
「あぁ」
「私は、先輩の傍付きだったのに……私が、あの時ウンベール上級修剣士に抗議していなければ!先輩はカセドラルに行くことはなかったのに!」
泣きながら自分を責めるアリシアはあの頃から変わらない少女のままだった
「自分を責めないでくれ。あの結末は俺が選んだ結果だったんだ。アリシアは悪くないよ。だから、泣き止んでくれ」
「無理です!私がその知らせを聞いた時、何日泣き続けたか知っていますか?その時キリト先輩がどうなったか知っていますか?あれだけ気丈なアリス様がどれだけ涙を流したか知っていますか!?」
それだけじゃないと、俺が傍付きをしていたアルトリウス先輩、彼は今考えると転生者だったのだろう。彼も大いに悲しんだという。それこそ聞いた瞬間に涙が流れるほどに、他にも仲のいい上級修剣士はいた。学院の生徒、街で仲良くなった露天の店員や子供たちも皆泣いたという
「あぁ、本当にごめんな」
だけど、俺にはこれしか言えることはなかった。
ただ、腕の中で泣き続ける彼女の頭を撫で続けることしか俺にはできなかった
彼女が泣き止んだのはそれから10分経った頃だった。
「ごめんなさい。先輩」
目元と顔を真っ赤にしてアリシアは謝ってきた
「いや、謝るのは俺の方だ。何も言わないで置いていって悪かった。アリシアにはまだ教えてないことがいっぱいあったんだ。話したいことだってたくさんあった。だから、また俺の傍付きになってくれないか?」
彼女がどんな道を歩んだか、それは紅音を通じて見てしまった。紅音がアリシアがマスターとなった瞬間に自身の能力を上書きしてかつて読み取った『両義蒼空』としての全てを完全再現するのが、記憶解放の力に変わっていた。それを使ったアリシアが俺の使う技をマスターしているのは知っている。だけど、それはきっちりと段階を踏んでから教えるはずのものだったのだ。今度はちゃんと俺という人間の全ての技を彼女に託したい
「答えなんて決まってるじゃないですか……私は、先輩の傍付き錬士ですから!」
そういった彼女は先ほどの泣き顔とは変わって、笑顔になっていた。
「あと10分か……」
「そろそろ行かないといけませんね」
アリシアにそう言われて俺はそうだなと返す。
「そうだ、アリシアに渡すものがあるんだ」
「え?渡すものですか?」
そう、アリシアのその眼を見た瞬間に渡すことを決めていたものがある。それは嘗て俺が掛けていた眼鏡を投影して彼女に渡す
「これは……眼鏡ですか?」
「そう、その眼鏡少し掛けてみな」
俺に言われるがままその眼鏡をかけたアリシアは再びその眼に涙を浮かべた
「これは……私の視界からあの線が見えなくなって」
「それは魔眼殺しって言ってね。アリシアは魔眼の切り替えができないからそれをかけて欲しいんだ。その眼を手に入れたのは……俺の責任だから」
紅音の完全武装支配術は2つある。
1つは俺じゃない使用者。つまり俺以外の人間が使った時、紅音を使うに相応しいか選定する為のもの。それが『直死の魔眼』の疑似再現。これは死の線を使用者の視界に発現させることでその者に適性があるかを調べるそうだ。乗り越えられなければ待っているのは発狂してからの死。それはそうだろう。直死の魔眼が見せる世界は視界の全てに死の点と線が見える終末の光景だ。そんなもの通常の人間が耐えられるはずがない。紅音が先程アリシアをマスターと呼んでいたのは彼女が耐えきったからだろう。
オマケで言えば記憶解放も2種類ある。
これも完全武装支配術と同様に俺以外の人が使った場合。『SAO』時代のソラのステータスの完全再現。これは前の世界のソードアート・オンラインで俺が育てたステータスや装備を完全に再現するものだ。そして、最も凶悪なのはそれを使った瞬間、俺という人間の特異性を全て上書きされることだろう。いわば転生特典をその身を受けるということだった。なぜ、そんなことになるのか、それは嘗てあの世界での俺は転生特典で得た剣術をフルで使用して攻略に励んでいたのだから。そのいい例が『無明三段突き』だろう。とにかくそういうわけでアリシア自身は既に両義蒼空と同等の剣術を扱うことになっているのは紅音から記憶を見せられた時に理解した。
だから、アリシアがその眼で苦しんだのも知っている。
そんな俺がアリシアに出来ることはその眼に映る終末の風景を見えないようにしてあげることだけだった。なにせこの眼は何をどうしたところで消えることはない。それこそ目を潰そうがその視界から点と線が消えることはないのだから
「俺も前の世界で普段は、焦点をズラして物事を俯瞰することで異様な視界と折り合いをつけていたからあまり見えなかったけど、気をぬくとすぐに視えてたからね」
「私にもそれが出来る日が来るでしょうか?」
「正直厳しいと思うけどね。まずはその眼と向き合わなきゃいけないわけだし。それにもともと持ち主てなかったアリシアにはかなり負担がかかってたと思うけど?」
「……それは、はい」
「だろう?だからその眼鏡で我慢して欲しい。なに、眼鏡かけたアリシアは知的な感じがするから賢く見えるよ」
「むっ!それはどういう意味ですか先輩!私、これでも頭はいいんですからね!」
ちょっと膨れたアリシアは俺の知ってるあの頃のアリシアとなにも変わらなかった
「ははっ、ごめんって」
そう言いながら俺は立ち上がる。
それと同時にアリシアも俺の隣で立った。
「さぁ、そろそろ時間だ。行こう」
「はい、どこまでもお伴します。ソラ先輩」
笑顔でそう告げるアリシアに俺は学院でのことを思い出す。確かに前もこんな感じで付いてきてくれていたな。そんなことを考えながら俺たちは22層のギルドホームへと向かった。
エギルやクライン、他にはリズやシリカが集まる中次はお話会です。
そう言えば、HRで今日クレクレ厨に出会いました。
本当にいるんですね。見てて驚きました