ソードアート・オンライン〜白夜の剣士〜   作:今井綾菜

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『白夜の剣士』と『金色の剣聖』

翌朝、目を覚ました俺とアリスは着替えを済ませ2人で朝食の準備を始める。ちなみに言っておくと俺とアリスは二人とも料理スキルをそこそこ上げており、二人揃って習得度は750オーバーだ。完全習得まで残り4分の1といったところまで来ている。

そんな中、今日の朝食はリアルではオーソドックスではあるがSAOでは珍しい『白米』を出し、更にはこの間釣った『紅鮭』これも素材のレアリティでいえばB+ランクくらいの物だ。あとは適当に豆腐の味噌汁とたくあんなんかを追加して朝食の準備は終了。そして俺はアスナから教えてもらった『醤油』のレシピをさらに改良し毒々しい色から完璧な醤油の色へと変化させ、完璧な醤油を作り出した。それを食卓へと並べた所で扉がノックされた。するとエプロンをしたアリスがシリカを迎え入れ、食卓へと座らせる

 

「すごい……完全に日本食だ」

 

目の前に並べられる食事にシリカは釘付けになっていた

 

「取り敢えず、食べようか」

 

俺とアリスもエプロンを外し席に着き、箸をとり

 

「「「いただきます」」」

 

食事の過程は省かせてもらうが、シリカの反応は俺とアリスを十分満足させてくれるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿から出て俺たちは47層『フローリア』の主街区から少し離れ目的地である『思い出の丘』へと向かっていた

 

「そう言えば、お二人は普段どの辺で活動してるんですか?」

 

モンスターをある程度駆除してしばらく歩き続けた頃、シリカはそんなことを尋ねてきた

 

「そうだね、基本的には何処ででも活動してる。下層に行くこともあるし前線に出ることもあるかな」

 

「私たちの場合は攻略、というよりも『人助け』の方を優先して進めていますから」

 

今言ったのは半分事実で半分は嘘だった。

本来なら下層に行くときでもこんなボロ切れみたいな布なんか二人とも被ってはいない。それでも彼女は目を輝かせて言葉を返して来る

 

「うわぁ……確かにソラさんもアリスさんもすごく強いですもんね!」

 

そんな彼女に俺は少しだけ心が痛んだ

 

 

 

そこからさらに10分ほど歩いた頃、目的の花が咲く場所へやってきた

 

「シリカ、あそこの祭壇にあなたが近寄れば花が咲くはずですよ」

 

アリスが視界に入ってきた祭壇を指差してそう言うと、シリカはすごい速度で祭壇へ走って行く。それを見た俺とアリスは少し顔を合わせて一瞬クスリと笑ってから追いかけた。追いつくと、祭壇には未だ花は咲いていないようでシリカがかなりショックを受けていたが、俺は祭壇に変化が起きたのを指で刺して伝えるとシリカはそれに釘付けになった

 

祭壇から発せられた光が収まると、其処には一輪の花が咲いていた。実物は初めて見るがこれが『プネウマの花』なのだろう。シリカはそれを壊れ物を扱うかのようにそっと取り、少しだけ抱いてからストレージの中へ入れた

 

「ソラさん、アリスさん、ここまで連れてきてくれて本当にありがとうございます!」

 

深々と頭を下げる彼女にアリスは「頭をあげてください」と言うと彼女は頭をあげた

 

「取り敢えずピナの蘇生は街に戻ってからにしよう。なんだかんだ言ってもここは最前線に近い場所だから危険がないわけではないから」

 

「その方がいいでしょう。安心してください、街に帰るまでは私たちが責任を持って身の安全を守りますから」

 

「はい!お願いします!」

 

そして、俺たちは今まで来た道を戻って行く。

しばらく歩き『思い出の丘』と主街区との距離が半分くらいになったところまでやって来て遂に『索敵スキル』に複数のプレイヤー反応が引っかかった。それはアリスも一緒だったのだろう。隣に並んで歩いていたシリカを止めて俺の三歩後ろで止まった

 

「ソラさん?アリスさん?」

 

「私たちを待ち伏せていた人たちがいたみたいですね」

 

俺はそれに静かに頷き、声をあげた

 

「そろそろ出てきたらどうだい?14……いや15人か。全員スキルに引っかかってるからお見通しだ」

 

それを聞いた瞬間、前方の木の陰からぞろぞろとプレイヤーが現れる。一人を除いて全員のカーソルがオレンジ色に染まっていた

 

「私の隠蔽スキルを見破るなんてなかなか高い索敵スキルじゃない」

 

そう口にしたのは集団の中で唯一グリーンカーソルの女。そう、昨日俺たちに声をかけてきたロザリアだった

 

「うそ、ロザリアさん……?」

 

シリカのその言葉はどう言う感情が含まれていたのかは俺たちには分からない。驚愕か、哀しみか、はては怒りか、それを関係ないとばかりにロザリアは甘ったるい声でシリカに話しかける

 

「はーぁいシリカ、無事『プネウマの花』取れたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃあ、それ私にくれない?」

 

「……え?」

 

今回ばかりは本当に驚いたと言わんばかりの声がシリカから発せられた。それに構わずロザリアは言葉を続ける

 

「その花、今が旬なんだよね。売ったら高いんだけど、アタシじゃあどうしても手に入れれないからさ」

 

旧知の友に語りかけるようにロザリアはシリカに話しかける。昨日とは大違いなその対応と、突然言われたことに頭が追いつかないのかシリカは俺とアリスを交互に見る

 

「悪いけど、それは出来ないな。これは彼女が自力でとったものだ。あなた達のタチの悪いアイテムの獲得の方法とは違う。そう思うだろ?オレンジギルド『タイタンズハント』のリーダー・ロザリアさん?」

 

シリカを隠す様な位置に立ち、そのギルドの名を言った瞬間、ロザリアは一瞬呆けた顔になったが、すぐに笑い始めた

 

「あっはは!頭の悪そうなガキだと思ってたけど、アタシのことは知ってたんだ?それをわかっててそいつについてきてたってことは本当に身体でたらし込まれたクチ?」

 

「残念だけど、後半は完全に否定しておこう。俺があんたを知ってた理由は1つだけだ。今の最前線50層の転移門で仲間の敵討ちをしてほしいと一日中御願いをしているプレイヤーがいてな。その人のギルド『シルバーフラグス』は一週間前に『タイタンズハント』ってギルドに全滅させられたと、だから敵討ちをしてほしいと言っていたよ。あんたにそんな気持ちは理解できないししろとは言わないけど……依頼は敵討ちでありながら『拘束』だ。だから、はじめに言っておくよ」

 

そして、ポケットに入れてあった回廊結晶を取り出し、『タイタンズハント』全員に告げた。

 

「この結晶の転移先は一層の黒鉄宮の監獄エリアに繋がっている。依頼人が全財産を叩いて買った代物だ。大人しくこれを潜る奴はいないか?」

 

一瞬の静寂のうち、ロザリアが声をあげて笑った

 

「あっははははは!あんたバカじゃないの!?!?あんた一人と女二人で14人のプレイヤーに勝てると思ってんの!?!?」

 

「さて、やってみないと分からないな」

 

おどけて言ってみせるとシリカが涙声の声をあげた

 

「ダメだよ!ソラさん!一人であの数を相手なんてソラさんが死んじゃうよ!」

 

「大丈夫ですよ、シリカ。ソラが負けることはありませんから」

 

その横で静かになだめたアリスの声は集団には聞こえなかった……しかし

 

「ソラ?それって『白夜の剣士』の?」

 

シリカの一言は集団に動揺を生ませた

 

「攻略組がこんなとこにいるわけないだろ!仮にそれが本当だったとしてもこの数でかかれば殺れるに決まってる!」

 

ロザリアの一言に14人はハッとしたのか一斉に下卑た笑いを浮かべて一斉に抜刀した

 

「そうだよな。攻略組なら凄えレアアイテムとかもがっぽり持ってるだろ!」

 

その言葉がキッカケとなり全員が俺へと殺到する。

体を切り刻まれるVR特有の不快感が身体を覆う中、俺は自身のHPバーを注視した

 

攻撃を始めて10分が経過しても俺のHPが全損することはなかった。逆に言えば攻撃していたプレイヤーの方がバテているくらいだ

 

「ソラさんのHPが……減ってない?」

 

それに気がついたのはずっと涙を流していたシリカだった。そして、それと同時に誰かが当てた刃が被っていたボロ布のフードを破壊した。それがなくなった瞬間、現れたのは黒を主色として所々に白いラインが入り、背中にはとあるエンブレムが刻まれたコートが代わりに現れる。隠れていた二本の刀は出番を待ち望んでいるかのようにそれ自体が威圧を放っているかのような存在感を放っていた

 

「…………『白夜の剣士』」

 

「ってことはあの女は………」

 

その言葉に反応したように全員の視線がアリスへと注がれる。すると彼女は着ていたボロ布のフードを捨て去った。其処には彼女の髪と同じブロンドを主色として所々に青いラインが入り、そして背中には同じエンブレムが刻まれたコートを羽織り、その下には彼女らしい白いシャツ、そして藍色のミニスカート、太腿まであるオーバーニーソックス、そして、焦げ茶色のロングブーツという出で立ちの彼女が凛とした目で『タイタンズハント』を見据える

 

「……『金色の剣聖』アリス」

 

誰かがそんなことを呟いた。

その言葉を一度でも聞いたことがあったのか彼女に抱きしめられていたシリカは改めて俺たち二人を見た。

 

「ええ、ギルド『イノセントエクセリア』副団長アリス、そして」

 

「『イノセントエクセリア』ギルドマスター・ソラ」

 

攻略組の、それも階層主撃破主力ギルドのトップ二人がなんでこんなところにいるのか、彼らは理解できない。ただ、どうしてもこいつらを殺さなければ自分たちはこのゲームが終わるまで永遠に監獄から出ることはできなくなる。そう考えた誰かが一歩動いた瞬間

 

「無駄なことはやめた方がいい。あまり言いたくないが教えておくよ。俺のレベルは79、HPは最大で19500あり、更には高レベルの『戦闘時自動回復(バトルヒーリング)』スキルで10秒に800ポイント回復する。それに対してあんた達は1分で700ってとこかな。もちろん一人でなく全体での話だけど」

 

「そんなの、ありかよ!」

 

「ありなんだよ。レベルの差だけでこれだけ理不尽な戦力差が起きるそれがこのSAOの本質であり、VRMMOの理不尽さなんだよ」

 

吐き捨てるようにいうと『タイタンズハント』のオレンジプレイヤー達は黙り込んでしまう。それを見て、俺は再び問いかけた

 

「さて、もう一度問おう。この回廊結晶を開く、大人しく入って行く奴はいるか?あぁ、安心してくれ。入ってくれなくても手持ちの麻痺ナイフで麻痺させてから全員叩き込むから。自分で入るか叩き込まれるか、好きは方を選ぶといい」

 

そう言ってから俺は回廊結晶を開く、すると14人のプレイヤーは黙って回廊を潜って行く

 

「ちょっと、あんたら!」

 

ロザリアは急な展開についていけず、回廊へ入って行く仲間達へ声をかけたが、最後の男が入って言ったのを見て勝ち目がないとポケットから転移結晶を取り出した瞬間、その首元には金色の剣が突きつけられていた

 

「逃すと思っているのですか?」

 

昨日の分とさっきの分と色々溜まっているアリスがロザリアへ剣を突きつけ問いかけた

 

「アタシはグリーンだよ!いくら攻略組のあんただって私を傷つければ……」

 

「1つ言っておきますが、1日2日オレンジになるくらい私にとってはなんの影響もないのですが?」

 

そして、更にロザリアの心を折る決定的な一言をアリスが口にした

 

「私はソラのように優しくはない。貴様一人殺したところで私は何も思わない」

 

整合騎士として彼女は数多もの暗黒騎士や暗黒界の異種族を戦いを広げてきた。其処で培った殺気が目の前にいるロザリアに降り注いだのだ。

 

ロザリアは一瞬で体を震わせ、そして小さい声で

 

「アタシも入るよ」

 

そう、口にしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロザリアが回廊へ入ったことで『タイタンズハント』の件が片付き、35層へ戻ってきた俺たちはシリカと別れることになった

 

「やっぱり行っちゃうんですね……」

 

「そうだな。もう一週間も最前線から離れたからそろそろ戻らないと」

 

「でも、大丈夫ですよ。フレンド登録はしてありますから、いつでも会えます。今度、攻略が落ち着いたら家へ招待しますね」

 

シリカの頭を撫でながらアリスは微笑んでいた

これは俺から見ても姉妹のようにしか見えないが、微笑ましいのでいいとしよう。

 

そして、俺たちはシリカに見送られ自宅兼ギルド本部のある22層へと転移した

 

 

 

Side シリカ

 

転移門から二人の姿が消えるまで私は手を振り続けた。

そして、いなくなったのを確認してから宿の部屋へ戻り、二人のおかげで取れた『プネウマの花』と『ピナの心』を実体化させる

 

「ピナ、生き返ったらたっくさん聞かせてあげるね。私の……1日だけのお兄ちゃんとお姉ちゃんの話を、そして今日の冒険の話を」

 

そして、花に溜まっていた雫を一滴羽にかけると羽は光を放ち、やがて小さな竜のような形をとっていく。それと同時に少女は兄と姉の様な二人がいなくなったことに一抹の寂しさを覚えた。

 

「二人で、アリスさんとソラさんに恩返しできる様に頑張ろうね」

 

生き返る使い魔に言ったそれは、小さな少女がこの世界に来て初めて明確に持った目的だったのかもしれない

 

 

 




まずは原作とは少し離れていることや拙い文や表現に謝罪を(今更)これでシリカ編である“黒の剣士”編は終了となります。
まぁ、黒の剣士出て来てないですけどね!

次回の投稿は軽い設定をと思います。
ソラやアリスのステータスや今回出て来た『イノセントエクセリア』の所属メンバー等紹介していきます。
その後は若干のオリジナル展開である50層階層攻略戦を投稿させていただきます。原作では勝手に離脱するものが多かったと言われている50層のボス攻略、どう変化するのかお楽しみに待っていただけるとありがたいです

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