ソードアート・オンライン〜白夜の剣士〜   作:今井綾菜

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subepisode1 白夜の剣士と金色の剣聖編(原作: 黒の剣士編)
迷いの森


このSAOに戻ってきてから既に1年と数ヶ月が経過していた。

キリトとアスナは結婚して同じ家に住んではいるもののキリトはソロに戻り、アスナは前回と同じく『血盟騎士団』に加入した。みんなで話し合った結果、皆それぞれ出来ることをしようという決断に至ったのだ。キリトはソロで活動し、誰よりも早くマップや情報を集めそれを公開し、アスナは攻略組の副団長として指揮を執り、このゲームを攻略していた。そんな中、俺は相変わらずアリスとともに行動しており、今は中層にある森に来ていた。この森は一定時間が経過すると、マップが変化するという仕様のせいで『迷いの森』と呼ばれている

 

「それにしても、本当に深い森なのですね。なぜこんなところに来たのですか?」

 

隣を歩くアリスが不思議そうにそう尋ねてくる

 

「まぁ、いろいろ訳はあるんだけど、先ずは依頼達成の為かな」

 

「依頼の為……?あの依頼をこなす為にこんな森にくる必要はあったんでしょうか」

 

「それがあるんだよ、俺の記憶違いでなければ今日この日ここにはあの子がいるはずだから」

 

「あの子?」

 

少しそのワードに反応したアリスは『むっ』と頬を膨らませる。

彼女自身は拗ねているつもりなのだろう、だが、めちゃくちゃ可愛い。超癒される

しばらくそうして歩いた頃、近くで戦闘音が聞こえてくる。

俺とアリスは同時にその方向へ走って行くと、小柄な少女が、美しい水色の羽を抱えて涙を流していた。背後には三匹のドランクエイプが彼女にトドメを刺そうと近寄っていく。

少女もそれに気がついたのか、一層羽を抱きしめ、ドランクエイプを見た。

 

俺とアリスはほぼ同時に抜刀し、三体のドランクエイプのHPを一撃で消しとばした。

 

「え……?」

 

「大丈夫ですか?」

 

アリスは少女の前に立ち、声をかけた。

少女は頷くと、その瞳からは、再び涙が溢れ出した。俺は、その原因を知っている。俺が声をかけようとするとアリスはそれを手で止めた

 

「その羽は、あなたの使い魔……のものでしょうか?」

 

アリスは泣いている少女に尋ねる。

 

「……はい、ピナっていう、私の……大切な……」

 

「その羽に固有名はありますか?」

 

アリスにそう聞かれて、少女はその羽の名を見る

『ピナの心』少女は小さくその名を口にする。アリスは頷くと

 

「よかった。ならば、その使い魔は生き返らせることができます」

 

「本当ですか!?」

 

少女はガバッと立ち上がり、アリスに近寄る

 

「ええ、四十七層の南にある『思い出の丘』という場所があります。そこに、使い魔を蘇らせる『プネウマの花』という花が咲き、それをそのアイテムに使うと、生き返らせることができると聞きました」

 

「四十七層……でも、いつかは」

 

「だけど、その心アイテムは3日経つと『ピナの心』から『ピナの形見』に変化して、蘇生させることは出来なくなる。代わりに俺たちが行ってもいいんだけど、その花は使い魔を亡くしたプレイヤーがいないと咲かないんだ」

 

「そんな……!」

 

少女の顔が絶望に染まる。

今の最前線は五十層、そして四十七層は十分前線と言える階層なのだ

 

「ソラは意地が悪いですね。大丈夫ですよ、私たちが貴女をそこまで送ってあげますから」

 

アリスはそう言いながらもコンソールを操作して余っている武器や防具、アクセサリをトレード欄に入れる

 

「なるほどね、これなら7〜8分くらいはレベルを底上げ出来るか」

 

「なんで……そこまでしてくれるんですか?」

 

少女その言葉に、俺とアリスは互いに顔を見てクスッと笑ってしまう

 

「自分たちよりも小さな子を助けるのに」

 

「理由は必要ですか?」

 

それを聞いた少女はついに泣き崩れてしまった。

アリスは泣いてしまった少女をそっと抱きしめた

 

 

数分後、少女は泣き止んで、まっすぐに俺とアリスを見つめる

 

「丘へ私を連れて行ってもらえますか?」

 

俺たちの回答はイエスだった

 

「それと、こんなんじゃ全然足りないと思うんですけど……」

 

コンソールを見ると中層にいた彼女では数日かけて稼ぐ額のコルが表示されていた

 

「いや、装備の対価は要らないよ。俺たちじゃ、使えないドロップ品だから」

 

「でも……」

 

「いいんですよ」

 

アリスは強制的にコルを少女へと返し、一方的にトレードを完了させる。

一方、少女はそれが気に入らないようで、頬路膨らませた

 

「あぁ、そういえば、私はアリスといいます。貴女は?」

 

「あっ、私シリカって言います。その……よろしくお願いします!」

 

「よろしく、シリカさん?俺はソラっていうんだ。好きに呼んでいいよ」

 

少女──シリカは「はいっ」と言って差し出された二つの手を握った

 

「あ、ソラさん、私のことはシリカって呼んでくれていいですよ?」

 

「あ、うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三十五層主街区『ミーシェ』

 

街に入ると待ち構えていたのか、シリカのファンらしき男二人が「シリカちゃーーーーん」と大声をあげて走ってくる

 

「組んでたパーティー抜けたって本当?だったら前から誘ってた俺らと組まない?」

 

まぁ、この光景は予想してた。

アリスはイライラしているようだが顔には出していなかった

 

「お気持ちはありがたいんですけど、私はこの2人とパーティー組むことになったので、ごめんなさい」

 

シリカが断ったことで、2人の男はアリスを見てから、俺をガン見する

 

「なぁ、俺たちはシリカちゃんには結構前から誘いをかけてるんだ。抜け駆けはやめてほしいな」

 

「そんなこと言ってもねぇ」

 

言われるとは思ってたけど、めんどくさい状況だよな。

周囲はなんだか騒がしくなっていた。

 

「だいたいな、あんたみたいな弱そうな奴がシリカちゃんと一緒にパーティーなんて……」

 

「ねぇ、あの金髪の人ってアリス様じゃない?」

 

突然、1人の女性プレイヤーがボソっと呟いた

 

「ってことは、隣にいるのって……」

 

ガヤガヤとギャラリーは騒いでいく

 

「とにかく、私はこの2人と組むことになったのでっ!」

 

シリカは俺とアリスの手を握って強引にその2人から離れていく

 

「そういえば、お二人はホームって……」

 

「普段は二十二層の離れに住んでるんだけど……」

 

「今日はここに泊まっていこうかと」

 

なにぶん朝早くからここまで迎えに来るのは面倒なのだ

 

「本当ですかぁ!ここ、チーズケーキが美味しいんですよっ!」

 

よほど、俺とアリスが一緒にいるのが嬉しいのかシリカはまた俺たちの手を引っ張って宿へ入ろうとする

 

「あれぇ、シリカじゃない」

 

耳に触る声がシリカの名前を呼んだ

 

「……なんでしょう」

 

当のシリカはとても嫌そうに返事をする

 

「彼女と何かあったのですか?」

 

アリスは気になったのかシリカに小声で尋ねる

 

「お二人に会う前までパーティー組んでたんです」

 

同じく小声でアリスに返答する

 

「本当に1人で森を抜けられたんだぁ?でも、アイテムの配分終わっちゃったわよ?」

 

「そんなもの、いらないって言ったはずです!」

 

もう話すことはないとばかりにその場を離れようとした瞬間

 

「あれ?あのトカゲどうしちゃったの〜?」

 

「っ!」

 

わざとらしく、隣にいるはずの使い魔がいないことを嫌味ったらしい声で聞いてきた

 

「あららぁ〜もしかしてぇ〜」

 

本当にわざとらしくシリカの傷を抉り楽しんでいるこの女を見ていると今すぐにでも斬り殺したくなってくる。自然と、あの女の至る所に“線”が見え始める

 

「やめなさい。既に貴様とこの子に関係はないでしょう」

 

「あんた誰よ。見すぼらしいローブなんか着ちゃって、弱そうなくせにデカイ口叩いてんじゃないっての」

 

アリスの肩が小刻みに震えている。

どう見てもキレてる。そう思った俺は急いで眼を元に戻す

 

「この子を連れて、明日蘇生アイテムを取りに行くんです」

 

なんとか引っ込めたのかアリスは言葉を続けた

 

「っは、四十七層に?あんたら程度で攻略できるはずがないわ」

 

ようやったと心の中で褒めてから俺は口を開く

 

「出来るよ。あそこは(攻略組の俺とアリスには)低難易度のダンジョンだからね」

 

大事なところだけ言わないで、そう告げる

 

「ふーん、あんたも同行者なんだ?あんたも強そうには見えないけど…… 体でたらし込まれでもした?」

 

それを聞いたシリカは羞恥で顔が真紅に染まる。

何を言ってるんばこの女は

 

「流石子供を嗤う事しかできないあんたみたいな大人はいうことがクズだな」

 

「っな!」

 

シリカは耐えられなくなり握っていた手をさらに強く握る

 

「行きましょう、アリスさん、ソラさん」

 

何か言いたげにしていたがシリカが思いの外早く移動したのでそのまま宿に入っていった

 

 

 

 

 

 

 

 


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