短編集   作:りょと

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一体いつから遊戯王しか投稿しないと錯覚していた?

と言うことでスマートフォン用MMORPG、剣と魔法のログレスーいにしえの女神ーを原作として投稿します。

とは言え剣による白兵戦はありませんが……。更に言えばオリジナル要素も世界観をくずさない程度にありますので注意をお願いします。


ログレス王国軍の日常風景 《剣と魔法のログレス》

 梅雨が明けかけの曇りの日、ログレス王国演習場では二人の魔術師が向かい合っていた。ナジルとレイヴ、どちらも王国トップクラスの魔術師であり、またレイヴに至ってはその膨大な魔力と実力から《英傑》とも呼ばれている。そしてナジルはその第一の弟子である。

 

「久しぶりだね、今日こそはあなたに勝ってみせるさ──レイヴ」

 

 いつに無くやる気のある顔をしたナジルがレイヴを睨む様に見る。それもそのはず、今日は訓練の一環として月に数回行われる《部隊内模擬戦闘》の日であり、普段は王国内には滅多に姿を現さず、自前の研究室に篭もりきりであるログレス王国トップの魔導師、英傑レイヴが参加している。

 

直接の弟子であるナジルはこの日の為に一週間も前から対策を講じていた、とも噂されており、それに向ける熱は魔法部隊全体に知れ渡っていた。

 

「ふん、そこまでの大口を叩くか。もし口だけならば容赦無く天錘の魔力にでもしてやろうか……」

 

「口だけじゃないし、魔力になる気も無いさ──こっちから行くよ……! 来い、ダークオシリスフォリア」

 

 ナジルが先制の宣言と共に呼び出し握った──戦闘時にはいくつか武器を予め自身の魔力による空間へと納めることができ、適時それを交換し戦う、というのが一般的な戦闘スタイルである──武器は、王国内でもトップクラスのレアリティと性能を誇る六属性の《オシリス》種の一つ、闇を統べるダークオシリスであり、周囲の観客兼魔法部隊員からもざわめきの声が出る。

 

オシリス種の武器は太古の光と闇、混沌の力の残滓とも呼ばれており、王国最高の鍛冶屋をもってしても製作は不可能とされている。その武器をナジルが使用、さらには開始直後に出したというのは、周りにとってもかなりの衝撃となった。

 

「いくよ、《ペルセポネフリューゲル》」

 

 握った杖から闇属性の魔力が急激に高まり、溢れた魔力が翼となりナジルの背中へ具現化、地面を軽く蹴りふわりとバックジャンプをし翼を広げる。その翼から魔弾がいくつも形成され──杖の一振りで一斉に放たれた。

 

一点を集中的に狙うのでは無く広範囲を均等に狙う事により確実なダメージを与える作戦。しかし──

 

「博打の高ダメージより堅実な低ダメージを狙ったか……そんな教えをした覚えは無いのだがな。この程度、容易に散らして見せよう。《滅亡の闇》」

 

天錘から闇属性の魔力、ナジルのとは違い、波のような魔力がナジルの魔弾と衝突する──と同時にナジルの魔弾が呆気なく掻き消され、その勢いのままナジル自身を襲う。

 

「ぐっ……相変わらず下級魔術とは思えない威力だね……」

 

「貴様が弱いだけだろう。圧倒し、全てを殲滅するのがネクロマンサーのポテンシャルだと言ったはずだ。……教えてやる、この一撃で沈むがいい、《ダークソウルブラスター》」

 

 武器にはそれぞれ二つの魔術の素因が埋め込まれており、レイヴの天錘の場合《滅亡の闇》が低魔力消費の低威力、《ダークソウルブラスター》が高魔力消費の高威力となっている。

 

 先程の《滅亡の闇》が波紋だとすれば、《ダークソウルブラスター》は大波。波紋ですら津波クラスとなりうるレイヴの力で大波を受けたならば、例えログレス王国に巣食う危険種と呼ばれしモンスターもただではすまない、そのレベルの魔力を漂わせレイヴが僅かに体を浮かす。

 

「終わりだ、行け」

 

 闇の魔力がレーザーとなってナジルを貫く。地面への着弾の衝撃による爆風でナジルを砂埃が隠したが、誰もが彼の敗北を確信した……しかし。

 

 ──その攻撃は読んでたさ。

 

「《輪廻転生》」

 

 輪廻転生、自身の耐久を無視して文字通り全ての攻撃から術者を隔離する魔術であり、術者の手にはネクロマンサーの主武器とも言える天錘、《ラビスフォート》が握られていた。

 

「ほう、貴様が天錘を使うか。魔力消費が激しいと日頃から言っていたので使わないと思っていたがな」

 

「流石に貴方のように三本も四本も振り回せはしないけど、一本、二本だけなら使い方とタイミングさえ気をつければ使えなくもないさ。最もあれくらいなら受けてもまだ何とかなったけどね」

 

 でも──とナジルは言葉を続ける。

 

「──これで得た時間、今の大技のチャージ、そしてショット後の隙は大きい。利用させてもらうよ、《ホーリーポリューション》」

 

 光属性の魔弾がナジルから放たれ、レイヴの周囲を囲むように舞う。散らさんと放つ魔導波を回避しその魔弾がレイヴへと打ち込まれる。咄嗟に左腕で魔弾をガード、大きく後ろにジャンプしダメージを最小限に抑える。

 

「──効かんな、《ダークユニヴァース》」

 

 左腕を振り上げふわり、と右腕の天錘を浮かし術式を唱える。平均的な詠唱より遥かに速く術が組み上がり、それにつれナジルの周囲に魔法陣が展開、唱え終わり手を振りかざすと共にナジルを闇の魔力による爆発が襲う。

 

「手応えが薄い……? 輪廻転生の効果は切れているはず……魔弾に何か仕込まれていたか」

 

「術式から手応えを感じられるとは……流石だね、考察通りだ。あなたの闇魔術は脅威だから、少し細工させて貰ったよ」

 

 ほぼ無傷のナジルが爆風から現れ、服に着いた砂埃を払う。

 

「僕は闇属性の才能があなたほどない代わりに他の属性はあなたより使えるからね、闇魔術を光魔術で相殺……とは行かなくても軽減くらいなら出来るさ」

 

 少し得意気になったナジル

 

「《ベルセルクレイジ》」

 

 

「……ほう。それなら少し、本気で行こう」

 

 目を開きナジルを睨む英傑。その威圧感と魔力は先程までとは比べものにならず、地面が恐怖するかの様に軋む。しかしその弟子はその魔力に怯む事なくニヤリと笑う。

 

「やっとあなたを本気にさせる事が出来たかい。それにしても軽減してこれか、直撃したらタダじゃすまなそうだね……。」

 

「これが本気? 笑わせ……る────っ!」

 

 こちらに向かう魔力を感じ頭を左に傾けるレイヴの右頬を魔弾が掠める。ナジルの方を見るが──既にナジルの姿は無く、()()場所に置かれた数発の魔弾が時間差で撃ち込まれる。すかさず命中弾のみを見切り左腕を振る。スイングの軌跡に合わせ空間が歪み、そこを通った魔弾が掻き消される。

 

「小賢しい……」

 

 周囲ごと薙ぎ払わんと左腕に魔力を集中させ──再び数発の魔弾が撃ち込まれ、その魔力を防御に使う事を強いられる。発射元を見るがやはりその場所にナジルの姿は無い。

 

「──遅い!」

 

 背後からの声、闇の魔力を帯びさせた拳を振り向きつつ払う。ナジルは既に大きく距離を取り、レイヴの頭上に光の魔力で形成された玉が浮いており────

 

「くっ──!」

 

 ナジルが唱えると共に光の玉が破裂、レイヴの視界を白色に染める。目を覆うレイヴに対しナジルが話す。

 

「ようやく焦ってくれたね……この勝負、貰ったよ!」

 

 碧色を薄めた色を基調とし、羽のような意匠を施した天錘を構え、勝利を確信した笑みを浮かべつつ術式を唱える。レイヴは未だ視力を奪われその術に対応する事は出来ない。

 

「──《ダークスターフォール》」

 

 流星群の様に闇魔力の塊がレイヴへ降り注ぐ。その塊一つ一つが必殺の威力を持っている事を着弾した地面を大きく抉っている事が証明する。その大多数が命中するであろうレイヴが無事では無いだろう──命中したならば。

 

「……無傷だって……!?」

 

──ダークオシリスの加護を受けた最高火力なんだけどね……。

 

 レイヴの居た場所を囲うように灰色の剣が地面から飛び出ている。ダークスターフォールの直撃を喰らったのにも関わらず傷一つ無い事に驚愕する。

 

「やれやれ、まだ調整が済んでいなかったので使いたくは無かったのだがな。成長している、という訳か……認めよう。それを称し……奥の手だ」

 

 剣が地面から次々と抜け、レイヴの姿が現れる。横に出した左腕の先には見覚えのない武器が浮遊している。黒の刀身に橙の線が入ったそれは魔術師、ネクロマンサーが持つはずのない武器、《剣》だ。

 

「その剣に籠る意味不明な魔力はともかくとして……調整が終わってない?」

 

「ああ、その通りだ。」

 

「って事は────」

 

「安全圏内で制御しきれるとは限らんな、せいぜい死なない事だ」

 

 その台詞と共に浮いていた剣が一斉にナジルへ刃を向ける、そして。

 

「《ダークオブエンド》」

 

 剣が放たれる。必殺の威力を持つはずの魔弾さえ無傷で受け止めた剣の一撃は、輪廻転生をもってすら耐えられるか定かでは無い。

 

 ──けど、制御しきれてないのは本当みたいだ、狙いに剣が収束しきれてない。これなら手はある。だが……。

 

 万が一直撃したら。反撃に意識を集中している分防御する場合と比べてダメージは差が出る。下手をすると大惨事さえ招きかねない選択を取るよりは、堅実に輪廻で耐えるべきでは無いか。

 

 ──堅実な低ダメージを狙う教え方はしていないのだがな──圧倒し、殲滅するのがネクロマンサーのポテンシャルだ。レイヴの言葉が頭によぎる。

 

 ここで耐えてもジリ貧か、ならば──

 

「「死なない事だ」だって? 舐めないでくれ。この程度……無傷で超えてみせる。来い、アビスカーム」

 

天錘──ウルメネスを消し、新たなロッドを呼び出す。その間にも魔剣は近付いてくる。その距離、5m。

 

「《ダーク──キーパー》!」

 

術式を完成させるとほぼ同時に魔剣が着弾、地面を放射状に消し飛ばしていくが──その中心にナジルは立っていた。魔剣の全てがギリギリでナジルを捉えきれておらず、その周りへと深々と突き刺さっている。

 

避けることはできた……だがここからレイヴ相手に有効打となる技をどうやって出そうか。

 

──大技を出すには時間不足、完全に優位に立っての最大火力でさえ防がれたんだ、この状況から放った所で難なく無力化されるだろうね。とはいえほぼノーモーションで出せる技じゃ英傑クラスの魔力を前にろくなダメージを与えられるわけもない……せめて物理ダメージなら不意を付けば可能性はあるんだけど──

 

刹那の間に思考を巡らせ、逆転への一撃を模索する。だが周囲を見回しても辺りにはレイヴが操る魔剣から呼び出された剣が刺さっているのみで、起死回生の手段は見つからないまま回避で得た貴重な隙を消費していってしまう。しかし。

 

──レイヴが操る……? いや、レイヴは魔剣を操りきれてはいない。ならその不安定な魔剣の産物である剣ならばもっと不安定、場合によってはこちらの魔力で制御権を奪えるくらいには──ならこれしか────

 

「──ない!」

 

ナジルは手を伸ばしレイヴが操る剣、その刃を掴む。とナジルが放った黒い魔力が魔剣を包み、その剣を別の形へと形成し直した。その形はレイヴの魔剣と酷似しているが、レイヴの魔剣が黒の刀身に灰色の線が入っているのに対して、ナジルの魔剣は黒の刀身に黄金の線が入っている。

 

──これ、なら……行ける!

 

「う……ぉぉぉ!」

 

ナジルが一歩踏み出し魔剣をレイヴへ突き出す。そのモーションに合わせ地面から一本の剣が、技の反動で動けない獲物の首元へ突き出る。

 

「剣の制御権を強奪し、それで新たに魔剣を生成した……?」

 

「まあ、試製──狂劇の獄剣、とも言ったところかな?」

 

「……降参だ、お前に()()()事は何も無い」

 

「嬉しいね、これからはあなたの技を()()事としようか」

 

レイヴの魔剣、そしてナジルの魔剣とそれぞれが操る剣が消えたのを引き金に観戦者から大きな歓声が上がる、この瞬間に演習とはいえ弟子が師匠を、それもかの《英傑》を越えたのだ。弟子(ナジル)の部下を始めとして、会場全体が盛り上がっている。

 

「最後の技は……正直想定外だ。回避するか防ぎきるかしてくるとは思っていたが、そこからまさか俺の武器を奪うなどと言う奇策を取ってくるとはな」

 

「正直成功するといいかな、程度だったけどね。制御しきれてないって事は、魔力でのコントロール、権限認証も上手くいってないって事だから、自分から離して攻撃した瞬間、コントロールを解いた瞬間を狙えば操作権限を一時的に奪い取れるかも──って訳さ」

 

まあ成功こそしたけど、魔剣によって呼び出された剣の権限を奪い取って魔剣に上書きしたから、当然限界火力は小さいし出せる剣も一本か二本が限界だろうけど──と続ける。

 

「とはいえ、いくらネクロマンサーが物理攻撃に弱いと言えど、あの攻撃でダメージを負うとも思えないけどね」

 

いくら不意を突いた、そしてレイヴに効果的な物理攻撃だったとはいえ、あれが勝負をひっくり返すほどのダメージを与えられはしないだろう。あの時、ナジルはそう判断し、咄嗟に剣を寸止めにしたのだ。

 

技を当てると言うのは、決して攻め手だけに有利な事ではない。その軌道、威力、スピード。そして対応可能かという情報を守り手に与えてしまう。見た目と動きばかり派手で、実際に喰らってみれば大した事はないと判断されてしまえば、ダメージ覚悟でカウンターを仕掛けられてしまう事もあるだろう。

 

「もしも実際に当ててきたならば、その時はそれに対応する。だがあの大きさ、加えて詳しい性能が不明の刃物を当てることなく首に突きつけられる感覚、圧迫感は時として本来その武器が与えられるダメージを超える事もある。その辺りの駆け引きで負けは認めた」

 

まあ──とレイヴは繋げる。

 

「それが偶然か、必然かは置いといて、だ」

 

「…………」

 

──完全にバレていたか。

 

あの瞬間、ナジルは意図的に寸止めにした訳では無い。寸止めにしか出来なかったのだ。コントロールを奪い生成した魔剣はオリジナルの分身とは言え、そのじゃじゃ馬っぷりはオリジナルと大差ない程だった。

 

あれ以上剣を伸ばしたならばコントロールを失いレイヴを捉えきれず、下手すると消滅しかねない。自身の残り魔力的にもあの長さが限界だったのだ。

 

「ともあれ、お前の実力は本物だ。勿論驕るなど以ての外だが……誇っていい」

 

盛り上がる観衆の中心で、レイヴが小さく呟いた。周囲の声と比べれば無いにも等しい程の声だったが、ナジルにとってのそれは、何よりも嬉しい言葉だった。

 

***

 

草木も眠る丑三つ時、とまではいかないものの大体の生物は活動を止め、魔法生物やゴースト系が動き始める時刻の雪山某所、一人の死霊術師が祠のようなものの前で座っている。

 

「久しぶりだな、────。お前が逝ってから随分と時間が経ったな……お前の息子も一人前となった。俺もそろそろ引退を考えるべき、か……」

 

祠の前で一人語る男、その言葉には悔いの感情が微かに混ざっているようにも聞こえた。

 

「──また来る。次はあいつも連れてこようか……?」

 

返事の無い問いかけを行い、男はその祠を去っていった。

 

「……頼みます」

 

誰もいない筈の石碑から返事が届いた事に、気が付いたものは誰もいない。




雪山某所の祠はレイヴの親友、恋人等の近しい人の墓と推測。この小説ではそのキャラがナジルの親となっています。



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