エイジ・オブ・ウルトロン:ニュー・ワールド 作:サンダーボルト
時は遡り、ウルトロンがフェアリーテイルに加入してから数年後。その実力と昼夜問わず働き続けたための依頼解決数の多さから、ギルド内でもそれなりの地位と信頼をウルトロンは勝ち取っていた。
今日もS級クエストと呼ばれる高難度の依頼を片付けてマグノリアの街へと帰還した。そしてギルドへと戻る途中、1人の少年が公園のベンチに座って泣いているのを見つけた。
少年の名はロメオ。ギルドのベテラン魔導士であるマカオの息子だと前に紹介されていたので、ウルトロンともそれなりに親交があった。最初は当然、怯えられていたが。
「どうした、目にゴミでも入ったか?うん?」
「……ウルトロンの兄ちゃん」
ウルトロンが声をかけると、ロメオは目をゴシゴシ擦って涙を拭く。しかし目は真っ赤なままで、また泣き出してしまいそうだった。
「公園で一人泣きとはセンチメンタルだな。パパと喧嘩でもしたのか?」
「違うよ!ただ……」
「ただ、何だ?言いたくないなら聞かないが、言いかけたのなら吐き出したいんじゃないのか?私に遠慮はいらないぞ」
ウルトロンが隣に腰かけると、ロメオは鼻をすすりながら事情を話し出した。
「みんな、父ちゃんの事を馬鹿にするんだ…。ううん、父ちゃんだけじゃなくて、フェアリーテイルのみんなの事も…。魔導士は酒ばっかり飲んでる奴等だとか、魔導士は腰抜けだとか…」
「……酒ばかり飲んでいるのは否定できないな」
「だからって言われっぱなしなんて、オレ悔しいよ!魔導士なんかより騎士の方がカッコいいとか、好き放題言われたままなんて!」
ロメオは握りこぶしをつくり、悔しそうに歯を食いしばる。その大きな目からまた涙が零れ落ちる。ウルトロンはそんなロメオに静かに言葉をかける。
「見せびらかす事と自慢する事は違う」
「…え?」
「私の元いた世界にも同じように言われている連中がいた。人のために身を粉にして働き、時には命すら懸けて仕事をまっとうする。それでもその存在を否定される連中を。しかし、奴らは存在し続ける。何故だか分かるか?」
「…ううん」
「奴らに感謝し、認めている者がいるからだ。たとえ世の中の大多数の人間に認められなくとも、その存在を求め、信頼している人間がいる限り消える事はない。…お前のように慕う者がいるからこそ、あの飲んだくれどもは魔導士でいられるのさ」
ロメオはハッとして、ウルトロンの顔を見上げる。
「何を言われようが気にするな。お前のパパと愉快な仲間を誇りに思え。そうしている限り、あいつらはずっとお前の思うカッコいい魔導士だ」
「……うん!」
さっきまでの悔しい気持ちを吹き飛ばし、ロメオは無邪気に笑いながら走り去っていった。ウルトロンはロメオの姿が見えなくなるまで見送った後、公園の大きな木へと視線を移した。
「盗み聞きか、ラクサス?」
「……」
木陰から姿を現したのは、ウルトロンをフェアリーテイルに入れたマカロフ・ドレアーの孫であるラクサス・ドレアー。ギルドでも指折りつきの実力者であり、ナツと同じく滅竜魔法を使う魔導士である。
「近くにいたのなら励ましてやればよかっただろう。知らぬ仲でもあるまいし」
「……」
話しかけても何も返さないラクサス。ウルトロンは目を細めて、しばらくラクサスの様子をうかがっていた。
「…てめえ、あの言葉は本気か?」
「なに?」
ようやく口を開いたラクサスの言葉が何を指すのか理解できず、ウルトロンは聞き返す。ラクサスは苛立ちからか、体から雷を迸らせていた。
「あのガキに言った事は本気かって聞いてんだよ」
「嘘など言って何になる」
「……けっ、そうかよ。てめえもジジイ達と変わんねえな」
「変な魔法でも拾い食いしたか?今日のお前はどこかおかしいぞ」
ラクサスの態度に困惑を隠せないウルトロン。ラクサスは更に強く雷を迸らせながらウルトロンに向かって叫んだ。
「てめえもジジイも、ギルドがナメられてて腹が立たねえのか!そこらの雑魚魔導士がでけえツラして、フェアリーテイルはクソギルドだとかぬかしやがる、このクソみてえな現状が見えてねえのか!」
「噂話なら耳にしているし、そういう輩も目にした事はある。だが、それが何だ?さして気にする程でもーーーー」
ウルトロンの言葉は雷鳴によってかき消された。ラクサスがかざした右手から放たれた雷は、ウルトロンが咄嗟に構えたハンマーへと当たり、青白く発光しながら吸収された。
「……オイオイどうした?随分と喧嘩っ早いじゃないか、ええ?」
「オレは気に食わねえ。ぬるま湯に浸かったままで満足してるジジイも、一緒になってる奴等も、オレの雷を簡単に受け止められるくれえ強えくせに、今のギルドに疑問も持たねえてめえも!!」
ラクサスは叫ぶ。その怒りが雷となって体から放出され、バチバチという音が鳴り響く。ウルトロンは無言で背中の盾を手に取り、ハンマーと共に構えた。
「オレがギルドを変えてやる!弱い奴なんていらねえ、誰にも文句は言わせねえくらいの最強のギルドにしてやる!!」
「お前じゃ無理だよ、クソガキ」
「何だと…っ!?」
ウルトロンが構えたハンマーからさっき吸収した分も上乗せされた雷が放たれ、ラクサスを襲う。自身も雷を使う故に、片手でそれを打ち払ったラクサスだったが、多少はダメージを負ってしまった。
「というか、変えてもらっては困るんだよ。私は今のギルドがそれなりに好きなんでね。馬鹿な事を考えてないで、帰って一杯飲んで寝ていろ」
「嫌だ、って言ったらどうすんだ?」
「力ずくでも、と言わせたいのか?」
お互いににらみ合い、相手の出方を窺う膠着状態が続く。が、それに焦れたラクサスが雷を纏い、同時にウルトロンがハンマーをグルグルと円を描くように回しだした。
「…オラァッ!!」
雷と化したラクサスがウルトロンめがけ突進し、一撃を見舞おうと右腕を振るう。ウルトロンは回していたハンマーを頭上に掲げ、慣性で空へ飛んでラクサスの攻撃をかわす。
ラクサスの攻撃が地面を大きくえぐる。またマスターに叱られそうだ、と呑気に考えながらウルトロンは更に高く飛び、街の外へと向かう。街の中で戦えば叱られるだけで済まない被害を出しそうなので、街の外へと舞台を移すために移動しているのだ。
頭に血が上っているとはいえ、ラクサスもそれは分かっているらしく、ウルトロンを追いかけながらも街の上空では攻撃を仕掛ける事はなかった。
街から十分離れたところで、ラクサスは速度を上げてウルトロンを強襲する。ウルトロンは振り向きざまに盾を投げつけるが、ラクサスはそれを余裕の表情で受け止めた。
「けっ、こんなフリスビーでどうにかなると思ってんのかよ」
「世界大戦を生き抜いた男の盾だ。甘く見てると痛い目にあうぞ?」
「なら、あわせてみろってんだ!」
ラクサスが盾をウルトロンに投げかえす。それを合図に戦いの火蓋が切って落とされた。