エイジ・オブ・ウルトロン:ニュー・ワールド   作:サンダーボルト

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妖精の尻尾

「ふ~む…つまりお前はフェアリーテイルに入りたいのか?」

 

「は……はい…」

 

 

サラマンダーを軍隊へと引き渡したウルトロンは、待ち合わせていた喫茶店でルーシィの話を聞いていた。ルーシィは話をしている間、ずっと自分を訝しげに見ているウルトロンにすっかり萎縮してしまっている。相手は人間ではないのだから、当然といえば当然の反応なのだが。

 

 

「入るかどうかは私の一存で決められる事ではないが…まあ大丈夫だろう」

 

「ホント!?」

 

 

勢いよく身を乗り出すルーシィをウルトロンは手で制した。

 

 

「ああ……だが、一つだけ聞いておきたい」

 

「え?」

 

「……お前、ハートフィリア財閥のご令嬢ではないか?」

 

「!?」

 

 

ルーシィの目が驚きで見開かれた後、気まずそうに視線を落とす。

 

 

「あはは…よく知ってたわね…」

 

「ハートフィリア財閥といえば、この国有数の大富豪の一つだ。私の情報網を甘く見ない方がいい」

 

「そうみたいね…。お察しの通り、私の名前はルーシィ・ハートフィリアよ。まさかこんなに早くばれるとは思わなかったけど」

 

 

ルーシィは陰鬱な表情をしながら、ストローでアイスコーヒーをぐるぐるとかき混ぜる。

 

 

「財閥のお嬢様がわざわざ危険を伴う仕事がしたいとはな」

 

「何それ、嫌み?」

 

「そう聞こえたなら謝るよ。ただの純粋な疑問だ」

 

「……ま、普通はそう思うわよね。あたしって、昔から外で遊んだり冒険したりってのが性に合ってるっていうか…好きなのよ。でも家にいるとそんな事許してくれないし…」

 

「…つまりお前は、絶賛家出中というわけか」

 

「そういう事ね」

 

 

ルーシィがそう答えると、ウルトロンはいきなり笑いだした。ルーシィはあっけにとられていたが、すぐに顔を真っ赤にして怒りだした。

 

 

「ちょっと!なにも笑わなくてもいいじゃない!」

 

「ハハハ…いやすまない、年頃の娘らしい理由だと思ってな」

 

「もう、馬鹿にして!」

 

 

ひとしきり笑ったウルトロンを、ルーシィはムスッとしながら睨む。

 

 

「まあ身分を偽っていたのは可愛い理由だから見逃すとしよう。もしや、どこかのギルドからのスパイかと思ったが、取り越し苦労だったようだ」

 

「……ちなみに、スパイだったらどうするつもりだったの?」

 

「聞きたいか?」

 

「……え、遠慮しておきます…」

 

 

不敵に微笑むウルトロンに対し、ルーシィは悪寒に身を震わせながら質問を引っ込めた。

 

 

「さて、コーヒー1杯で長居するのは店に迷惑がかかる。さっさとギルドへ行くとするか」

 

「うん!……ねえ、私の家の事は…」

 

「隠したところでいつかはバレると思うがな。まあ安心しろ、マスター以外には知らせないでおく」

 

「……ありがと」

 

「いえいえ」

 

 

喫茶店を出た二人は他愛ない話をしながらフェアリーテイルのギルドへと向かった。ルーシィが星霊を操る星霊魔導師である事、ウルトロンが人工知能である事など、お互いに驚くような話題が続いた。

 

そして歩いている最中、ウルトロンが立ち止まってある建物を指差した。それを見たルーシィは感動の声を上げた。

 

 

「わあ…おっきいね…」

 

「どうかな?ここが我等の城、フェアリーテイルだ」

 

「凄い凄い!なんか私、感動しちゃった!」

 

「それは何よりだ」

 

 

ウルトロンはルーシィの反応を見て満足そうに頷くと、ギルドの入口の大きな扉を開けた。

 

 

「いま戻った…ぬおっ!?」

 

「ガッ!?」

 

 

中に入ろうとした途端、何故か半裸の男が飛んできてウルトロンの体に激突した。

 

 

「いってぇぇぇぇ!!?何だ!?殴られたとこより壁にぶつかったとこの方がいてえぞ!?」

 

「おい、グレイ…私が生き物ではないとはいえ、壁と一緒にするな」

 

「突っ込むとこ、そこ!?」

 

「なんだ、帰ってたのかよウルトロン……っと、んな事よりナツてめえ!!」

 

「へっへーん、悔しかったらやり返してみろってんだ!」

 

「上等だオラァ!!」

 

 

先程ウルトロンと一緒にいた少年、ナツ・ドラグニルの挑発に乗り、半裸の少年、グレイ・フルバスターはナツに向かって殴りかかる。

 

 

「ったく、ピーピーギャーギャー騒ぎやがって……漢なら拳で語れ!」

 

「「うるせえ!!」」

 

「ごはっ!?」

 

「そうだルーシィ、紹介しておこう。あの喧嘩している二人のうち、服を着ているのがナツ、着ていないのがグレイ。今、殴り飛ばされた大漢はエルフマンだ」

 

「騒がしいわね…これだから品のない男は嫌だわ」

 

「あの樽ごと酒を飲んでいる品のない女がカナだ」

 

「なんだ、騒がしいな…喧嘩か?よし…混ざってくるね~!」

 

「「頑張って~!」」

 

「両脇に女を侍らせた眼鏡男はロキだ。ま、奴はたびたび雑誌に出ているから知っているかもしれんが……おい、どうした?」

 

 

矢継ぎ早にウルトロンがギルドメンバーを紹介していくが、ルーシィが頭を抱えてうずくまったので言葉を止めた。

 

 

「はは…なんか凄い騒がしいギルドだなって…」

 

「騒音アレルギーでも患ってるのか?ならここに入るのは止めておけ。毎日蕁麻疹に悩まされるぞ」

 

「いや、そうじゃないけど…ここってまともな人はいないの…?」

 

「私みたいなのを雇うギルドだぞ?まともなわけないだろう」

 

「自分で言う!?」

 

「お帰りなさい、ウルトロン。…あら、そっちの子は?」

 

 

ウルトロンに声をかけたのは、ギルドの看板娘であるミラジェーン。雑誌のグラビアに載っている事もあり有名なので、ルーシィもその顔を知っていた。

 

 

「わ、ミラジェーン!本物だ!雑誌で見るより綺麗~!」

 

「やあ、ミラジェーン。このギルドに入りたいという物好きを案内していた所だ」

 

「初めまして、ルーシィです!よろしくお願いします!」

 

「ええ、よろしくね♪」

 

 

自己紹介をするルーシィに笑顔を返すミラジェーン。そのすぐ後ろでは、ナツとグレイの喧嘩に触発されたギルドメンバー達が大騒ぎしていた。

 

 

「ところで…あれ止めなくていいんですか?」

 

「ああ、いつものことだから気にしないでいいわよ」

 

「あらら…」

 

「少しは…気にしてほしいんだが…なっ!」

 

 

飛んでくる椅子やら瓶やらを盾で弾き、ルーシィ達を守っているウルトロンが愚痴をこぼす。そうしている間にも、喧嘩は更にヒートアップしようとしていた。

 

 

「……あー!うるさい!落ち着いて酒が飲めないじゃないの!」

 

 

カナが持っていた酒樽を置いてカードを取り出すと、そのカードに魔力が込められる。それを皮切りにして数人の魔導士達も魔法を使う下準備を始めた。

 

 

「もうアッタマきたぞ…!」

 

 

グレイは両手を合わせ、冷気を纏わせる。

 

 

「ぬおおおおおお!!」

 

 

エルフマンの右腕が、服を突き破って変貌していく。

 

 

「まったく、困った奴らだ…」

 

 

ロキの指にはめた指輪から、閃光が発せられる。

 

 

「かかってこいやっ!!!」

 

 

ナツが両腕を振り上げ、炎を吹き出させた。

 

 

「魔法!?」

 

「これはちょっと不味いわね…」

 

「火消しを呼ぶか雨が降らなければ、炎の勢いは止まらんからな…」

 

 

ウルトロンは呆れたように溜息を吐くと、背中から盾とハンマーを取り出した。

 

 

「すまん、ミラジェーン。頼めるか?」

 

「ええ、いいわよ。アレをやるのね?」

 

「でっかい冷や水をぶっかけなくては、収まりそうにない」

 

 

盾をミラジェーンへと渡し、ウルトロンはハンマーを強く握る。ハンマーの頭部から電撃が迸り、ミラジェーンは盾の裏の取っ手に腕を通してしっかりと構えた。ルーシィがそんな二人のやり取りに困惑していると、ミラジェーンが優しく声をかけた。

 

 

「ルーシィ、耳塞いで伏せていた方が良いわよ?」

 

「え?え?」

 

 

訳の分からぬままミラジェーンの言う通りにその場に伏せるルーシィ。ミラジェーンはそれを見て頷くと、ウルトロンに視線で準備OKと伝える。ウルトロンはそれを合図に大きく腕を振り上げ、ハンマーを盾に思い切り叩きつけた。

 

青い閃光が走り、喧騒を吹き飛ばす程の衝撃波と重低音がギルド内に響き渡る。

 

 

「「ギャーーーー!!!」」

 

 

喧嘩の中心にいたナツとグレイが、盾に反射された電撃と衝撃波を食らって吹き飛ばされた。周りにいた者たちも、その余波を食らって吹き飛んだ。巻き起こった煙が晴れると、衝撃波によって床がめくれ上がった光景が広がり、それを目の当たりにしたルーシィは口をパクパクさせて絶句していた。

 

 

「くぅ~…ちょっとシビれたわ…。でも止まったわね♪」

 

「そうだな、世話のかかる連中だ」

 

「いや、ギルド滅茶苦茶なんですけど!?いいの!?」

 

「どうせ止めなくてもああなってたさ」

 

「そうそう♪」

 

 

惨状を目にしても動じない二人にルーシィは軽く戦慄を覚える。

 

 

「まぁた派手に壊したのぅ…」

 

「あら、いたんですかマスター」

 

「うむ。そっちは新入りかね?よろしく」

 

「マスター!?は、はい…よろしくお願いします…」

 

 

しれっと現れたフェアリーテイルのマスターであるマカロフ。その手には紙束が握られていた。マカロフは回転ジャンプで二階へと跳び上がると、大きく咳払いをして皆の注目を集めた。

 

 

「まーたやってくれたのう貴様ら。見よ、評議会から送られてきたこの文書の量を!」

 

 

マカロフは見せつけるように紙束を振り上げ、一枚一枚読み上げる。

 

 

「まずはグレイ!密輸組織を検挙したまではいいが、その後、街を素っ裸でふらついた挙句に干してある下着を盗んで逃走」

 

「いや…だって裸じゃマズイだろ…」

 

「まずは裸になるなよ」

 

「人の事は言えんぞエルフマン!貴様は要人護衛の任務中に要人に暴行」

 

「男は学歴よ、なんて言うからつい…」

 

「カナ・アルベローナ。経費と偽って某酒場で飲むこと大樽15個分。しかも請求先が評議会」

 

「バレたか…」

 

「そりゃバレるだろ…」

 

「ロキ…評議員レイジ老師の孫娘に手を出す。某タレント事務所から損害賠償の請求がきておる」

 

「……」

 

 

ここまで一気に読み上げ、マカロフは大きく肩を落とした。

 

 

「そしてナツ…デボン盗賊一家を壊滅するも、民家七軒も一緒に壊滅。チューリィ村の歴史ある時計台倒壊。フリージアの教会全焼。ルピナス城一部損壊。ナズナ渓谷観測所崩壊により機能停止。ハルジオンの港半壊」

 

「ナツとハッピーだけ行かせたのは失敗だったか…」

 

「しゃーねーだろ、あいつら逃げようとしたんだから…」

 

「あいっ」

 

 

その後も、マカロフは問題を起こしたギルドメンバーの名前を次々と読み上げる。

 

 

「貴様らァ……ワシは評議員に怒られてばかりじゃぞぉ…」

 

 

黙り込み、ぷるぷる震えるマカロフ。ギルド内を嫌な空気が支配し、ルーシィもその空気に呑まれてどうすればいいか分からずに怯えてしまう。そんな空気をぶち壊したのは、他ならぬマカロフ自身であった。

 

 

「――――だが、評議員などクソくらえじゃ」

 

「……え?」

 

 

マカロフは文書を燃やすと、それを放り捨てる。ナツが捨てられた炎を食らっている間もマカロフの話は続いた。

 

 

「理を超える力はすべて理の中より生まれる。魔法は奇跡の力なんかではない。我々の内にある気の流れと自然界に流れる気の波長があわさり、初めて具現化されるのじゃ。それは精神力と集中力を使う。…いや、己が魂すべてを注ぎ込む事が魔法なのじゃ」

 

 

マカロフは言葉を切ると、にん、と笑った。ウルトロンは目を細め、マカロフと初めて出会った時のことを思い出していた。

 

 

「上から覗いてる目ン玉気にしてたら魔道は進めん。評議員のバカ共を怖れるな。自分の信じた道を進めェい!!!!それが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士じゃ!!!!」

 

 

マカロフの演説が終わると、大きな笑い声がギルドに響いた。それまで喧嘩していた連中も、関係なく笑っていた。怯えていたルーシィの顔も、自然に笑顔になっていた。

 

 

「……そういえば、言っていなかったな」

 

「?」

 

 

ウルトロンがルーシィへ手を差し出す。

 

 

「――――フェアリーテイルへようこそ。これからよろしくな」

 

「――――こちらこそ、よろしく!」

 

 

ルーシィは差し出された手を固く握る。金属の体である筈のウルトロンの手が、ルーシィにはとても温かく思えた。


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