エイジ・オブ・ウルトロン:ニュー・ワールド   作:サンダーボルト

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魔法世界のAI

魔法が当たり前に使われている世界。その世界のどこかの岩場に腰掛けている者が一人。赤い瞳は空を見上げ、自分がここにいる理由を考える。

覚えているのは同胞とも呼べる存在が放った金色の光線をその身に受けた事。そして木っ端微塵になった筈の自分の意識と体が元に戻っていた事だった。しかし死を免れたとしても、彼の気分は晴れない。何故なら、この世界は彼の生まれた世界ではないのだから。

別世界へと蘇生した理由が考え付かず、諦めたように視線を落とすと、一段程低い場所で小柄な老人がこちらを見ている事に気づく。

 

 

「どうした、じいさん。私の顔がそんなに珍しいか?」

 

「珍しくはないのう。ワシのとこのガキ共も、お前さんと同じ顔をたまにしておるよ」

 

「老眼が進んでるんじゃないのか?老婆心ながら、老眼鏡を買うことを勧めよう。あんたは老婆ではなくじいさんだがな」

 

「余計なお世話じゃ!」

 

 

ぷりぷりと怒る老人に興味を無くし、彼は顔を背ける。老人はそんな事お構いなしに話を続けた。

 

 

「お前さん、こんな辺鄙な所で一人で何をしておったんじゃ?」

 

「自分の存在理由を考えていたよ」

 

「そうかい。しかし答えは出んかったようじゃがな」

 

「……何故分かる?」

 

「ほっほっ、伊達に長生きしておるわけではないわい」

 

 

老人はそう言って笑うと、くるくると回転しながらジャンプして岩場に飛び乗ってきた。

 

 

「ならば、その年の功を頼りに一つ聞きたい事があるんだが、構わないか?」

 

「ふむ、ええじゃろ。言ってみなさい」

 

「――――人間とは何だ?」

 

 

予想だにしなかった質問に老人は一瞬おどろくが、すぐに笑みを浮かべて答える。

 

 

「残念ながら、それはワシにも分からんわい。じゃが、一つだけ言えることはある」

 

「それは何だ?」

 

「その答えは聞いて得るものではない、己の目で見て答えを探すモンじゃわい」

 

 

老人は彼の瞳をじっと見据え、浮かべていた笑みを引っ込めて真剣な表情になった。

 

 

「どうじゃ、お前さん。答えを探したいのなら、ワシのギルドに来んか?」

 

「……ギルド?」

 

「そうじゃ。ワシはこれでもギルドマスターっちゅうのをやっておってな」

 

「物好きだな。私達は今、初めて会ったのだぞ?得体の知れない奴を自分の懐へ入れるつもりか?」

 

「心配するでない。問題児を抱えるのには慣れておるわい」

 

 

老人は、にん、と笑い、彼に手を差し出した。

 

 

「ワシの名はマカロフ。ワシの申し出を受け入れてくれるのなら、お前さんの名前も教えてくれぃ」

 

 

彼は老人の手を取らずにそのまま立ち上がった。そして老人を見下ろすと、その口がゆっくりと開かれる。

 

 

「私の名は、ウルトロン。そのギルドとやらで私の答えを探させてもらうとするよ、マスター・マカロフ」

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

時は流れ、ハルジオンの街。あるギルドに憧れる魔導士の少女が大声を上げながら店の看板を蹴り飛ばしていた。

 

 

「あたしの色気は1000(ジュエル)かぁー!!!」

 

 

どうやら女の武器で値切り交渉をしたが、自分が思う程まけてもらえなかったようである。そんな怒り心頭の彼女の脇を次々と街の女性が走っていく。目をハートにしながら口々にサラマンダーと叫ぶ女性達。その単語に少女は聞き覚えがあった。

 

 

「あのお店じゃ買えない火の魔法を操るっていう火竜(サラマンダー)!?この街にいるんだ!」

 

 

魔導士としての好奇心から一目見ようと、女性達の集まりに向かう少女。中心に立つ男性の姿を目にした瞬間、少女は自分の胸が高鳴っていくのを感じた。

 

 

「……ん?君、ひょっとして魔導士かい?」

 

「…え!?は、はい!」

 

 

どうして自分が魔導士だと分かったのか、少女は疑問に思ったが、腰に下げた鍵の事を思い出して納得する。この少女は星霊魔導士であり、契約した星霊を呼び出すのに鍵を使うのだ。

 

 

「なら、どこかのギルドに入っているのかな?もしまだなら、僕のギルドに入ってくれないかい?」

 

「へ!?そ、そんないきなり言われても…確かにギルドには入りたいけど…」

 

「僕のギルドは妖精の尻尾(フェアリーテイル)って所なんだけれど…知らない?」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)。この少女が憧れていた魔導士ギルドであり、しょっちゅう問題を起こす事で有名だった。

 

 

「今夜、僕の船でパーティがあるから答えはそこで聞かせてくれ。皆も是非来てくれよな?」

 

 

サラマンダーがキザにウインクを決めると、火竜(サラマンダー)様ー!と黄色い歓声が上がる。少女は渡りに船な提案に二つ返事で答えようとした。

 

 

――――しかし、後ろから聞こえた声がそれを遮った。

 

 

「失礼、お嬢さん方。道を開けてもらえるか?」

 

 

後ろを振り向いた少女は、今まで感じていた胸の高鳴りも忘れて息を飲んだ。それと同時に自分が魅了(チャーム)の魔法にかけられていた事に気づく。人々の心を術者に引きつける魔法で、数年前に販売禁止になっているのである。

だが、そんな事は今の彼女にとっては些細な事であった。目の前には自分の背ををゆうに超える男……否、男と呼んでいいのかも分からない。深紅のマントを羽織ったその体は普通の人間とはかけ離れており、銀色の眩い光沢が彼の体が金属でできているであろう事を容易に想像させる。

 

 

「そこのお前、今なんて言った?サラマンダー?フェアリーテイル?奇遇だな、私もそいつを知っているぞ」

 

 

硬い音を響かせながら悠々と歩いて近づいていく。肩には桜色の髪をした少年と、羽の生えた青い猫が乗っかっていた。

 

 

「なんでもそいつは火を食うんだってな。ほ~ら、こんな風に」

 

 

どこからか水晶を取り出してそれを握りつぶすと、そこから炎が発生した。そして肩に乗っかっていた少年が、その炎にかぶりついて食べてしまった。

 

 

「ぷはー、ごっそさん!……で、こいつがそうなのか、ウルトロン?」

 

「間違いないな。フェアリーテイルの魔導士と名乗って女をさらい、奴隷に仕立てるゲス野郎はこいつだ」

 

「あい、チャームも使ってたしね」

 

「ま、待ちたまえ!いきなり何を言い出すんだ君達は!?そもそも誰だ!?」

 

 

声を荒げたサラマンダーを少年は憤怒の形相で睨みつける。そして少年は服を一枚脱いで右肩を見せ、青い猫は背中を向け、ウルトロンはマントで隠れている左肩を見せつけた。

 

 

「俺は妖精の尻尾(フェアリーテイル)のナツだ!!!おめぇなんか見た事ねェ!!!!」

 

「同じく妖精の尻尾(フェアリーテイル)のハッピーです。よろ~」

 

「まあ想像ついてるだろうが、私も妖精の尻尾(フェアリーテイル)のウルトロンだ。Do you understand?」

 

 

まさかの本人登場にサラマンダーは少しの間呆けていたが、状況を理解するや否や手のひらに炎を作りだす。

 

 

「クソッ!何でこんなとこ――」

 

 

吐こうとした悪態が強制的に遮られる。ウルトロンが大きく腕を振るうと、鈍い音を立ててサラマンダーは吹っ飛び、壁に激突した。その手にはハンマーが握られている。

 

 

「こんな街中で魔法を使うな。近所迷惑だ」

 

「家の壁は壊れちゃったけどね」

 

「火傷より直すのは簡単だろう?」

 

「ウルトロンてめぇ!!俺がやる前に終わらせんじゃねー!!」

 

「ナツ、お前は船の方へ行け。奴隷船なら仲間がいるだろうしな。今は動いてないからお前でも酔わんよ」

 

「マジか!?よっしゃー!行くぞハッピー!」

 

「あいさー!」

 

 

ハッピーはナツの背中を掴み、そのままナツを連れて飛び去っていく。その場に残ったウルトロンは気を失ったサラマンダーを縄で縛りあげていた。

 

 

「さて、後はこいつを警察に突き出すか…あ、いや、軍隊だったか…?この国の治安維持機構は役割が曖昧であてにならん…」

 

 

何やらブツブツ呟いているウルトロン。チャームの魔法が解けた女性たちが訳の分からぬまま退散していく中、魔導士の少女はウルトロンを見つめていた。そして、意を決して話しかけた。

 

 

「あ、あの!」

 

「ん?何かなお嬢さん」

 

「わ、私、ルーシィっていうんですけど、前からあなたの、その、ギルドに入りたいって…」

 

「あー……長くなるなら後でもいいか?奴隷船の船長片手に持って話はしたくないのでな」

 

「あ…そ-ですよね…あはは」

 

「そこの喫茶店で待っていてくれ。目印にこれを預けておく」

 

 

ウルトロンは後ろに手を回し、背中にある星が描かれた丸い盾を少女へ手渡した。

 

 

「お、重……くない。あれ?意外と軽い…」

 

「多分、ハンマーは君には持てないだろうからな。少々派手だが、目印にはちょうどいい」

 

 

少女に盾を預けると、ウルトロンはサラマンダーを抱えて飛んで行った。

 

 

「噂通りっていうか……噂以上にとんでもないギルドね…」

 

 

盾を大事そうに抱えた少女は、人知れず笑みを浮かべていた。


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