天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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バイト先での扱いが酷い。


第七十七話 私の名は.....

常陸国。現在では茨城県と言われる。

常陸国は佐竹家の領土。当主は佐竹義宣。

だが3年前、当時はまだ武田の軍師だった羽柴天竜秀長によって小田原征伐が行われた際に、天竜の影武者を務めていた羽柴朧軍1万によって攻め込まれ、小田原城が落ちる時と同じ時期に常陸国は落とされてしまう。

その件についても、朧が手っ取り早く佐竹義宣を自身の吸血鬼兼パシリにし、常陸国を明け渡させたとも言われている。

その後の常陸国の運営を義宣に丸投げにしてしまった為に、常陸国における吸血鬼の大量発生が引き起こされたという逸話もある(まぁ、事実だ)。

朧は逆らう部下は人間だろうが吸血鬼だろうが容赦無く切り捨て、有能な部下を集めた吸血鬼軍団にて常陸国の勢力を拡大させ、ここ数年、常陸国は不可侵地帯となっていた。北は蝦夷から南は四国までが統一されている日本国における、唯一の独立国だったのだ。

 

朧王国の象徴とされる太田城。元は佐竹家の居城であったが、朧が城主となった際に彼女と藤堂高虎によって大幅な改築が行われ、大坂城、安土城に負けず劣らずの天守閣を用いた巨城。堅城となっていた。

その太田城も、2匹の化物による壮絶な大戦によりほぼ壊滅状態にあった。

 

互いに力が弱っているとはいえ、2匹共ドラキュラ。この世で最も邪悪な妖怪。悪魔に最も近づいた人間。最早、悪魔と呼んでも過言ではない。

どうせ尽きる命。勝てば本来以上の力を取り戻し、負ければもう片方に吸収され、存在そのものが消滅する。力と記憶だけが相手の身体に残り、それまで形成だれていた人格や思いは全て消えてしまう。

それ故に2匹共必死であった。自身を死の縁まで追い込んでまで戦った。下手をすれば魔力切れで力尽きるかもしれないというのに.....まさに背水の陣。勝たなければ生き残れないデスゲーム。

途中邪神たちの介入もあり、その闘争は泥沼となるかと思われたが、アマテラスに精神を追い込まれた朧の猛攻の前に、天竜はついに敗北した。信頼していたツクヨミを消された今となっては、彼の勝機は失われていたのかもしれない。

 

だが彼は諦めていなかった。朧が彼を吸血する為に最大限に近づいたのだ。わざわざ抱き寄せてまで。己の分身とはいえ美少女に抱きつかれれば、男子としては気分の良いものであるが、今のこの状況では関係がない。

彼は朧の首筋に噛み付いた。彼女が己の首筋に噛み付いたのと同じように。朧は天竜を吸収する為に、首筋から彼の血を。天竜は生き残る為に彼女の首筋から.....

 

 

その吸血勝負は、それが始まってからものの1分で着いた。最後まで生き残り続けていたのは.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朧だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁ〜やぁ〜!!やっと終わったでありんすねぇ朧ちゃん!いや、新しい天ちゃん?

まぁ、元々はそちが本物の天竜であったのだから、こう言うのも可笑しなものでありんすねぇ』

 

 

アマテラスの口調がまた元に戻る。

 

 

「..........」

 

 

勝者の朧は、生まれ変わった自身の身体をまじまじと見つめていた。

 

 

「天竜.....」

 

 

彼女は呟く。敗者の天竜は、着用していた衣服のみがそこに残り、それ以外は完全に消滅していた。まるで、最初からそこにいなかったかのように。

 

 

「天竜...........様ぁぁ」

 

 

宗麟はその場に崩れ落ちる。無理もあるまい。やっと見つかった信頼できる主君を目の前で失ったのだから。

 

 

「朧.....様」

 

 

その真逆に、高虎はホッとした。同時に、元主君の死を心の片隅にでも望んでしまっていた自分自身を少し恨む。

 

 

 

 

 

 

「どういう事!?..........天竜様が.....消えた!?」

 

 

遠くの山中にてスコープを覗いていた三成は、天竜が消えた謎の現象を見て困惑していた。

 

 

 

 

 

 

『さぁ、勘解由小路天竜よ!わっちと共に欧州に戻るでありんす!そして、遅れた世界征服を成し遂げてみせよ!!』

 

「...........えぇ、そうね」

 

 

朧は不敵な笑みを浮かべる。そして.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気が変わった」

 

 

朧は素手でアマテラスの胸を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なっ!?』

 

 

太陽神は理解できなかった。

妹のように可愛がっていた朧の突然の裏切り。

それ以前に.....

 

 

「痛いかぁ?痛いのぉ?アマテラスぅ!

不老不死の神といえど、腹を貫かれれば死ぬ程痛いみたいねぇ!ふくくくくくくく.....!!」

 

 

奴は.....この朧は、姿と声こそ朧のものであるが、その滲み出る雰囲気はむしろ.....

 

 

『天.....竜.....!?』

 

「くふふふ.....」

 

『貴様は天竜か!朧から生まれしゲロカス妄想か!!』

 

「口が悪いわね。化けの皮が剥がれてるわよアマテラス」

 

『黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇ!!!

朧は死んだのか!?妄想如きに殺されたのか!?』

 

「半分あってて、半分間違えている」

 

『何っ!?』

 

「私は私であって、"俺でもある"」

 

『っ.....!?』

 

 

この混ざりあった口調。これはつまり.....

 

 

『同化したのか!?』

 

「That's light!」

 

 

"その天竜"には天竜と朧の二つの気配があった。

 

 

「"俺"も実際一か八かの賭けだったわ。吸血勝負ではどう考えても"私"に分がある。だから俺は吸血ではなく『給血』したのよ」

 

『給血!?』

 

「あぁ。吸うのではなく、逆に血を注入したのよ。そうなればどうなるか分かる?」

 

 

天竜は得意げに言う。

 

 

「綱引きの要領よ。私は俺が張り合ってくれるとばかり思って精一杯の吸血をした。ところが、俺が無理矢理に入って来た為に、想定外の事が起こったのよ。

吸血は体内に血が入った瞬間に私の養分として吸収される。だが俺は、私が認識できない程の速度にて侵入してきたわ。だから、しばらくの間は俺は吸収されずに私の体内を動き回る事ができた。だが永遠ではない。見つかれば即OUT。内から食い尽くしても良かったけれど、リスクが高過ぎる。

だけれど、それ以上にいい案を思いついの」

 

 

そこで天竜は女の身体から、男の身体へと変質した。同時に声もやや低くなる。

 

 

「それが同化だよアマテラス。俺は最後の策として私の血液に混ざり込んだ。それは最早、化合と言ってもいい。俺と私はお互いを認識できない程に混ざりあった。やがて俺という天竜も、私という朧も時の間のうちに消えて、新たな存在が誕生した。

それがこの俺、ウラディスラウス・ドラグリアだ」

 

 

『ドラ.....ドラ.....ドラキュラァァァァァ!!!』

 

「誤算だったなアマテラス!

あんたの私はすでに俺のものだ!

たかだかゲロカス妄想如きの俺に邪魔されるなんてなぁ!

ふっくくくくくくくくくく..........!!!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

『ドラキュラァァァ!!貴様をもう身内の者とは思わぬぞぉ!!末代に至るまで一族郎等根絶やしにしてくれる!

神に刃向かった愚かさを思い知れぇ!!!』

 

「神に挑む覚悟はとうの昔に出来てるよ。

じゃあな.......................消え失せろ!!!」

 

『げひゃっ!!!?』

 

 

アマテラスの胸に突き刺さった腕が眩く輝き、次の瞬間にはアマテラスをバラバラに引き裂いていた。

 

 

「...........ふぅ」

 

 

散らばったアマテラスの死体を見る。するとアマテラスの死体が彼女のものではなく、別の人間のものへと変質していく。

 

 

「憑依していたのか。器用な奴め」

 

 

アマテラスの退場により、高虎達を妨害していた障壁が消滅した。

 

 

「朧さん!!」

 

「天竜様!!」

 

 

高虎と宗麟がそれぞれ叫ぶ。

 

 

「すでに俺は朧でも天竜でもないよ。

本当の名前も忘れてしまったただのドラキュラさ」

 

「まさにピッ●ロ.....」

 

「Shut up!!」

 

 

サンジェルマンがまたふざけている。

 

 

「おやおや伯爵。塩ちゃんの口癖移ってませんか?」

 

「黙れよ伯爵。それから俺はもう伯爵じゃあない」

 

「?」

 

「一応は天竜の意志を受け継ぐつもりだ。

そして、朧の意志もな。

だが、しばらくは豊臣秀長を続けてやる」

 

「「「...........」」」

 

 

高虎も宗麟もサンジェルマンも、そこにいた数百人の常陸国の兵達も、全員が天竜に注目していた。

 

 

「俺はただのウラドさ。なんなら"ドラキュラ陛下"と呼んでもいい!」

 

 

伯爵よりランクが上がっている!?

サンジェルマンは心中で叫ぶ。

 

だが同時に思った。この日本国において、陛下という名称が使われるのはただ1人。それを天竜が使ったという事は.....

 

 

「俺の目的は世界征服だ。

世界平和のための世界征服だ」

 

「「「!?」」」

 

「俺は征服するよ。大きなものから小さなものまで。殺さず、討たず、滅ぼさずに倒し、我が傘下に加える。人類の虐殺が世界征服に繋がるわけではない。全人類を導いていく事こそが世界征服なのだ」

 

 

天竜は傍に落ちていた男天竜が着用していた白軍服の拾って羽織る。

 

 

「俺について来るがいい。俺が貴様らを導いてやる」

 

「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」

 

 

そこにいた誰もが叫んだ。天竜という人間は史上最悪の

『人たらし』かもしれない。この世の誰よりも他人の心を読み取る事に長け、それを様々な状況に応用できる天才。人心掌握術を最大限に引き出されれば、落ちない人間などいない。

 

 

「彼こそ"メシア"の再来か」

 

 

サンジェルマンは呟く。

そして暖かい目で彼を見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで高虎。生まれ変わった記念に一発ヤラない?」

 

「えぇぇぇ!?」

 

 

朧の姿に変質して誘惑する。

 

 

「天竜様.....Men(男)もOKなのですか?」

 

 

宗麟が信じられないという表情で見てくる。

 

 

「今の私は男と女両方の性別を持っているわ。

だから孕む事も孕ます事もできるの。

なんだったら...........君もどうだいベル?」

 

 

今度は美少年の姿で誘惑する。

 

 

「うぅぅ.....」

 

 

 

 

「メシアと同等と言うには少々無理がありますかね」

 

 

サンジェルマンが言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日後、大坂城に戻ってきた天竜。

廊下を口笛を吹きながら能天気歩いていると、目の前に見慣れた女性がヒョコヒョコ歩いているのが目に入る。

 

 

「だ〜れだ♪」

 

「ひゃわっ!!!?」

 

 

目ではなく、胸を覆う天竜。

 

 

「このっ!!!」

 

 

女は刀を抜き振り上げる。

 

 

「無礼者ぉぉ〜!!!」

 

「落ち着け十兵衛!私だ!天竜だ!」

 

「えっ!?」

 

 

十兵衛は刀を天竜の顔面が斬り裂かれる寸前で止めた。

 

 

「天竜.....です.....か?」

 

「私じゃなかったら誰なんだよ」

 

「その口調といい、長髪といい、いつもよりも女らしい顔つきといい、高い声色といい.....」

 

「ひゃんっ!?」

 

 

突然十兵衛が股間を触ってきた。

 

 

「じゅっ.....十兵衛!いくら夫婦だからって大胆だよ!

十兵衛が昼間からって言うなら私はそれでも.....」

 

「やっぱりですね」

 

「ん?」

 

「天竜。また女になってるですね?」

 

「うぅぅ....うん」

 

 

天竜は備中にて一度、村上武吉に殺されている。その際に芦屋道海に貰った10年分の寿命にて彼は若返った。だがそれは、眠っていた朧を起こすキッカケになった。

身体に朧がいる影響により、天竜は満月の夜のみ女体化するようになった。前述した通り、正確には満月の夜のみ本来の姿に戻っていたのだ。

それを間接的に知っていた十兵衛。何度死んでも生き返り、どんどん人間離れしていく天竜だけあって、彼女もそういうものであると納得していた。

やがて天竜が武田に寝返り、そこで朧と分離。

その日を境に女体化は起きなくなった。

十兵衛には"病気"が治ったと適当にボヤかしていた。

 

 

「また"病気"になったですか?にしてもまだ昼間ですし、満月でもないです」

 

「あぁ、いやぁ.....今回のは病気じゃないんだよ。肉体変質を自由にコントロール.....操作できるようになってさ。こんな風に」

 

 

すると天竜の身体が全体的に筋肉質になり、声も低くなる。長髪と顔達以外は全体的に男性体になった。

そして、十兵衛の手の中にある物体が出現する。

 

 

「うっ.....」

 

「ところで十兵衛、なんだって大坂に?良晴達と九州攻めしてるはずだろ?」

 

「奥方に一物握らせた状態で話す内容ですか!」

 

「いいじゃん。僕らはいつも以心伝心だよ」

 

「意味わかんねぇです!

..........向こうでちょっとした問題が起きて

こちらに戻って来た所なんです」

 

「どんな問題?」

 

「えぇと.....後で話すです」

 

「ふ〜ん。あぁ.......................十兵衛?」

 

「なんですか?」

 

「セックスしねぇ?」

 

「なっ!?」

 

「いやぁ〜!前にレオを抱いたんだけど、俺が満足しきる前にあいつの方が力尽きちまってよ。お前見てたらムラムラしてきたんだ。ヤろうよ」

 

「何考えてるんですか!!!!

...........って、なに大っきくしてるですか!!!」

 

「お前もなに律儀に握り続けてんだよ。」

 

「そっ、それは『何』と『ナニ』を掛けているですね!!?そんな下らないお遊びで誤魔化せると思ったら大間違いですよ!!!?」

 

「いや.....別に」

 

 

いけない。ウブな十兵衛が暴走している。

 

 

「お前も結婚して1年以上経つのに、これぐらいの下ネタで狼狽えてんじゃねぇよ。それ以上の事何度もヤってるだろ」

 

「うっ.....」

 

「全く、お前は"どの世界でも変わりないよ"」

 

「.....はぁ?」

 

「いっ、いや!!何でもないよ!?」

 

「んん??」

 

 

まだだ。まだ彼女に教えるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはともかくとして興奮しました。やらせて下さい」

 

「だ〜か〜ら〜!!」

 

「いいじゃん。ヤらせてよ」

 

「嫌です!!!貴方とはしませんです!!」

 

「...........」

 

「..........天竜?」

 

「(´;ω;`)」

 

「え?え?え?えぇ!?」

 

「十兵衛は"僕"が嫌いなんだ」

 

「ちょっ.....ちょっと!?」

 

「お姉ちゃんは僕が嫌いなんだ!」

 

 

いつの間にか天竜がショタ化している。

中身だけではなく、見た目から変質している。

身長も十兵衛の腰ぐらいに縮む。

 

 

「僕はお姉ちゃんが大好きなのに。お姉ちゃんは僕が嫌いなの?本当は僕と結婚するのも嫌だったの?」

 

「いやいや!!そこまで言ってないですよ!?」

 

「じゃあ僕とエッチしてくれる?」

 

「うっ.....」

 

 

何年も天竜と付き合い、エッチやセックス等の単語も十兵衛は理解してしまっている。

 

 

「おチ●チン勃っちゃった。お姉ちゃんが諌めて」

 

「童はそんな台詞言いませんです!!」

 

「ちっ!」

 

 

天竜が元に戻る。

 

 

「ならこいつでどうだ!」

 

「!?」

 

 

天竜が顔を押さえてうずくまる。やがて顔を露わにしたかと思うと.....

 

 

「十兵衛ちゃん.....」

 

「っ.....!!?」

 

 

天竜は良晴に変身した。声まで一緒だ。

 

 

「酷いよなぁ十兵衛ちゃん。俺の事はもう好きじゃないのかよ?」

 

「せっ、先輩に変幻したって騙されません!」

 

「信奈は捨てるよ。あんな女より君の方がずっと魅力的だ。俺のもんになれよ十兵衛ちゃん」

 

 

良晴(天竜)は十兵衛を壁際に追い込む。そして、少女マンガにおける必殺技『壁ドン』を繰り出す。これで落ちない人間などはいない。

 

 

「なぁ、我慢の限界なんだ。そんなヤラしい身体付きで挑発しやがって。抱くなっつうのが無理な話さ」

 

「わっ、私は!愛する夫と×××がいるから無理です!」

 

 

十兵衛もノリノリだな。

.....一部聞き取れない所があったが。

 

 

「もう何も言うな」

 

「ンっ.....!?」

 

 

強引に彼女の唇を奪う。

 

 

「甘いな。君の唇は」

 

「ンンッ....れろ.....ぷちゃ.....むちゅ.....ンンンッ....!!」

 

 

舌を絡めた熱いディープキスをする。端から見れば良晴と十兵衛が不倫しているようにしか見えない。

 

 

「ぷはっ!..........だめですっ!..........先ぱっ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってるのよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはっ!..........のっ、信奈様!?」

 

 

十兵衛が叫ぶ。

 

 

「あんた一体何やってるのよ!!」

 

 

信奈は拳銃を構え、銃口を良晴(天竜)に向けていた。

 

 

「おいおいよせよ信奈。俺達夫婦だろ?」

 

「ふんっ!」

 

 

だが、信奈は問答無用で発砲してきた。

 

 

「ぐがぁっ!!?」

 

 

良晴(天竜)の頭部が弾け飛ぶ。

 

 

「何をやってるのか聞いてるのよ天竜!!」

 

「ぐぐぐ...........見破られてたのね。これは失敬」

 

 

天竜は瞬時に良晴の顔を再生させる。

 

 

「アイツの顔で、アイツの声で喋るな!

虫唾が走るわ!」

 

「何言ってんだか。お前が夫婦の情事を覗いてっから、

からかってやっただけのに」

 

「気付いていたの!?だからって良晴の姿で十兵衛にせっ.....接吻するなんて!!」

 

「覗きは否定しないのな」

 

「うるさいっ!!」

 

「ちっ.....」

 

 

天竜の様子が変わった。

 

 

 

 

「口の聞き方がなっちゃいないな」

 

 

 

 

次の瞬間、天竜は信奈の目前に瞬間移動した。

 

 

「っ.....!?」

 

 

慌てて拳銃を構えた信奈だが瞬時にソレを弾かれ、首を掴まれ、宙吊りにされる。

 

 

「がっ!?.....ぐぅ.....」

 

「誰の好意で生かされているのか理解していないよう

だなぁ、このマヌケがぁ!!!」

 

「こっ、この.....下衆っ!」

 

 

天竜はさらに首を掴む腕に力をを入れる。

 

 

「げほっ!!がはっ!!?」

 

「やめるです天竜!!

そのままでは窒息してしまうです!」

 

「うるさいなぁ。今調教中なんだから静かにしてよ」

 

「てっ......天竜?」

 

 

天竜の性格が変だ。前とは別人のように。

 

 

「そうだ!趣向を凝らしてみよう!」

 

 

すると良晴の顔がグニャリと歪み、別の顔が形成される。その顔は.....

 

 

「わしは失望したよ信奈」

 

「っ.....!!?」

 

 

それは彼女の義父、斎藤道三の姿だった。

 

 

「わしはお前こそが天下を取れるものだと信じてわしの全てを託したというのに。とんだ拍子抜けじゃよ。所詮はうつけ姫だったか」

 

「うっ、うるさいうるさいうるさぁい!!!

その声で喋るなぁぁ!!!」

 

「うふっ。私も貴方には失望しましたわ信奈様」

 

 

今度は松永久秀に化ける。

 

 

「私が爆死してまで貴方を盛り立てたというのに、それも無駄になりましたわね。本当に屑虫な女ですわね」

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!」

 

「吉.....」

 

「!!!!?」

 

 

今度は土田御前、信奈の実母に化けた。

 

 

「本当に貴方は.....とても私が産んだ子とは思えない程に汚らわしい思想の者に育った。本当は悪魔の子なんじゃないかしらとよく思いました。でも貴方は間違いなく私から産まれた存在」

 

「はっ.....母上.....?」

 

 

「あんたなんて産むんじゃなかった」

 

 

「あぁぁぁっ.....!?」

 

 

信奈に異変が起きた。身体的には強い彼女も精神面はすこぶる弱い。姫武将でも姫大名でも天下人の風格も消え失せて、ただの少女となって大粒の涙を流した。

 

 

「いっそこのまま首をへし折った方が私はどれだけ幸せかしら?」

 

「がっ!?.....かぐあぁ!!?」

 

 

ミシミシと首の骨が唸りを上げる。

 

 

「さようなら。我が愛しの娘」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のお腹には赤子がいるです!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..............................え?」

 

 

叫んだのは十兵衛だった。土田御前(天竜)は信奈から手を放し、元の姿に戻る。

 

 

「今何て言ったんだ?」

 

「本当はもっと別の形で伝えるべきでした。でも、こうでも言わないと貴方は私の声すら届いてませんでした」

 

 

天竜は振り返って足元を見る。涙、鼻水、唾液、嘔吐物を撒き散らし、赤い顔から青い顔に変化してしまっている瀕死の信奈を。天竜が女性に対してここでしたのは初めてかもしれない。

 

 

「俺は.....なんて事を.....」

 

 

無意識だった。信奈を拷問する事を心から楽しんでた。

 

 

 

 

「俺は.....誰だ?」

 

 

 

 

その時だ。十兵衛が天竜に抱きついてきたのは。

 

 

「貴方は私の夫です」

 

「十兵衛?」

 

「貴方は昔から何も変わっていませんよ。貴方は大きな力を手に入れる度に本来の自分を見失いつつある。私だって似たような状況に陥った事がよくありました。

正室は殿の子をを産むための存在だなんて時代遅れな風習がありますですが、夫の弱い部分を補佐し、補佐され、互いに支え合っていく事こそが夫や妻の役目だと私は思いますです」

 

「十兵衛.....」

 

「天竜にとって私は子孫残す為だけの借り腹に過ぎませんか?」

 

「そんな事はない!俺は.....」

 

「分かってるじゃないですか」

 

「..........」

 

「私は貴方の事をなんでも出来る完璧超人だとか神様だとかなんて思った事はないです。皆と同じように悩み、皆と同じように苦しみ、皆と同じように前に進んでいく。貴方も私も同じなんです。同じ人間なんです。

だから一緒に話し合うです。

これからの事も、この子の事も.....」

 

 

十兵衛は自らの腹をさすった。

 

 

「..........ありがとう十兵衛..........君という尊い存在が俺を認めてくれる事が何より嬉しい。こんな壊れた俺を愛してくれて.....」

 

「私もです。手間のかかる旦那様」

 

 

2人は改めてキスをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十兵衛、信奈は?」

 

「別室で寝かせたです。貴方から貰った薬を飲ませた所、嘘のように落ち着いたのですが、この薬は?」

 

「あぁ、そいつは俺の血だ」

 

「..........むぅ、いまいち吸血鬼とやらの生態が分からないです」

 

「安心しろ。俺も分からん」

 

 

その時。

 

 

「よろしいかしら?」

 

 

とある女が物陰から現れる。

 

 

「おぉ、オルトロス!久しいな!」

 

「ん!?ちょっと混ざってるじゃん!

まさかしくじったの天竜!?」

 

「いんや。これが正解だったんだ」

 

「もぉ。どうなってもしらないよ?」

 

「あの.....」

 

 

話についていけない十兵衛。

 

 

「貴方は誰ですか?」

 

「ん〜。私はオルトロス。ベルセルクとも呼ばれてる。天竜の大親友だもん!」

 

「十兵衛。詳しい話は向こうでするよ」

 

「向こう?」

 

「あぁ、目指すは九州だ!」

 

 

 

 

魔王動く。

 

 




こうして、天竜と朧は新天竜として生まれ変わる事になりました。しかし、そこに新たな問題が発生。まだまだ続きます。天駆ける龍の伝記。
次回予告
九州での血戦
〜俺はそれでも...〜

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