天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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新学期のバタバタや、
バイトの面接で更新が遅れました。


第七十一話 蒲生氏郷という女

臼杵城天守。

そこで睨み合う良晴と島津姉弟。

 

 

「和睦.....だと?」

 

「そっ。そっちが臼杵城及び豊後を放棄して、

撤退してくれるのなら、俺らはこれ以上島津軍を追い詰める事はねぇ。見逃してやるってこった」

 

「ふざけるなっ!!」

 

 

良晴の提案を義弘は真っ向から反論する。

 

 

「我らはまだ負けておらん!

そげん気遣いされる筋合いはない!」

 

「あぁ、あんたらはまだ負けてないさ。

だが押されている事には違いない。

このままじゃ消耗戦になる。

勢力豊かな俺の軍と違って、

あんたら島津軍には地獄の戦争だ」

 

「くっ.....!!」

 

 

それは図星であった。

 

 

「義弘。俺はそんな戦は好まない。

どうせなら真正面から本気でぶつかりたいさ。

だが、あんたらがこの豊後に頑固にしがみ付き続けるとなると、只々死者を増やすだけの糞戦になり兼ねない」

 

「おのれ.....言わせておけば」

 

「俺は戦が嫌いだ。

戦なんて無くなればいい。

なんで戦なんかがあるんだと思ってる。

だけれども、俺はその戦の中心にいる。

俺の命令一つで多くの命が露と消える。

俺が人を直接殺した事はない。

だが、間接的に殺した人は数多くいる。

俺はその責から逃げるつもりはない。

それしか対処法が無いのなら、

これからも人を殺すだろうさ。

もう甘い考えだって捨てた。

お前らがちゃんと正面からぶつかってくれるのなら、俺だってそれに受け答えてやる!

俺は誇りあるある合戦がしたい!

お願いだ!

今だけは退いてくれ!!」

 

 

 

 

良晴はその場に腰を落とし、頭を下げた。

 

 

「うっ.....!?」

 

 

義弘はそれを見て大きく揺らいだ。

文武両道で武士としての誇りを何より大事にしている彼がだ、誇りある合戦を求められたのだ。

さらに関白という目上の職にもかかわらず、良晴は格下である義弘らに頭を下げたのだ。

これを断れば、自分達の品格が問われる。

 

 

「あっ.....姉上」

 

 

だが、最終決定権は義久にある。

良晴の願いを聞いた義久は.....

 

 

「تويوتومي هيديوشي(豊臣秀吉)」

 

 

義久はスッと良晴の方へ歩み寄り、

頭を下げる良晴の前に立つ。

 

 

「くっ.....」

 

 

良晴は冷や汗をかく。

自分はまだ島津義久がどんな奴か知らない。

信奈のように傍若無人な大名かもしれないし、

隆景のように話せば分かる大名かもしれない。

天竜のように邪悪な奴かもしれないのだ。

 

 

 

 

「※やっと見つけた!私の理想の"嫁"!」

 

 

※翻訳済み

 

 

 

 

「「はっ!?」」

 

 

これには良晴も義弘も驚くしかなかった。

 

 

「※薩摩のような田舎では、

其方のようないい男には中々ありつけなかった!

せめて弟の義弘ぐらいにはたくましい男と望んでいたが、高望み過ぎて見つかりはしなかった!

お陰で齢28になった今でも処女だ!

だが見つけたぞ!理想の男を!

志しも良し!家柄も良し!顔も良し!

おまけに文武両道で大将の器もある!

これ程完璧な男もいなかろう!

是が非でも"嫁"にしたい!」

 

「嫁って.....」

 

 

ベタ褒めされて悪い気はしない良晴。

 

 

「姉上!!何でそげんこっと!?」

 

「※薩摩大名の嫁が関白豊臣秀吉というのも面白いものでしょう?」

 

「第一、奴は人間じゃなかと!

奴は狼の化け物じゃろうに!」

 

「※あら?男は皆、狼でなくて?」

 

「意味が違う!」

 

 

なんだか良晴そっちのけで姉弟喧嘩を始めてしまった。

 

 

「※とにかく。其方が私の嫁になってくれるのなら退いてやってもいいぞ?」

 

「いやいや、嫁にはなれねぇよ。

色んな意味で.....」

 

「※仕方あるまい。婿で妥協してやる」

 

「妥協しているように聞こえる。不思議だ。

本質は一切変わってねぇよ。

俺はあんたが思ってる程凄い奴でもねぇぞ?

文武両道たって、合戦時のみだし」

 

「※私はそれでもいい!

私が生まれて初めて惚れた男だ!

維持でも手にしたい!」

 

「顔だって良くねぇよ!?

会う奴会う奴皆からサル顔サル顔って言われて、自分でも納得するくらい醜男だって事は分かってんだ!」

 

 

自分で言ってて悲しくなってくる!

 

 

「※私にはド直球(ドストライク)だ!

田舎臭い顔立ちがもろ好みだ!」

 

「おぉふ.....」

 

 

ここまで真っ直ぐに惚れられたのは初めてだ。

信奈を含めた多くの女子はツンデレだし。

半兵衛やフロイスは恥ずかしがってここまで俺を褒めてくれる事なんてない。

俺もちょっと好きになりそうだ。

 

 

「いや、俺は4分の1は人狼だし.....」

 

「※構わん!

私はそんな細かい事は気にしない!

第一私と其方との間に子が生まれれば、

その子は8分の7は人間。

普通の人間と対して変わらない!」

 

「てか、俺は既婚者だ!

勝手に結婚なんてしたら.....」

 

「※気にするな。私は心が広い。

其方に何人妻がいようが、

何人の妾をはべらせていようが、

全く気にする事はない!」

 

「いやいや!俺じゃなくて、

俺のカミさんがヤバいんだよ!

きっと俺もあんたも殺される!」

 

「※なら大坂から薩摩に越してくるがいい。

薩摩にいる限り、私も其方も絶対安全だ」

 

 

いや.....信奈の事だろうから、

大軍で攻め込んで来そうだ。

 

 

「いや、待てよ?

ここで政略結婚してしまえば、

九州戦は終わるんじゃないか?」

 

 

少々卑怯で天竜的であるが、それが犠牲を最小限に抑える最善の方法であるのなら、この縁談実に良い。

 

 

「※いや、それはないよ」

 

「はぁ!?」

 

 

じゃあ何だってこうも結婚をしたがる?

 

 

「※其方が言ったのだぞ?

真正面から誇りある合戦をしようと」

 

「でも.....!」

 

「※私は情けなどで施しを受けるのが嫌いだ。

この合戦は島津家と豊臣家の維持の張り合い。

それはどちらかが滅びるまで続くだろう。

私は本気で合戦を行って、その結果島津家が滅びるような事があってもそれを受け入れようと思っている。

だからこそ、政略結婚による同盟でこの合戦を終わらすのは限りなく惜しく感じるのだ。

だからこそ、私は勝ちたい。

勝った上で其方を手に入れたい!」

 

「義久.....」

 

「※この合戦.....

私が勝った暁には其方を嫁.....

いや、婿に貰うとしよう!」

 

「..........俺達が勝ったら?」

 

「※しょうがあるまい。

私は其方の側室になるとしよう」

 

「変わんねぇじゃねぇか!!」

 

「※いや、違いはあるぞ?

私が其方を娶るか、其方が私が娶るか。

どちらかが上位に立つかを決めるのだ。

まぁ、夫婦になる事には変わらないけどね」

 

「うぅ.....」

 

 

完全に屁理屈だ。

 

 

「少しいいか?」

 

 

義弘が口を挟んだ。

 

 

「姉上は1度決めた事は絶対にやり遂げるお方。

それはわしにも止められぬ。

そこでだ豊臣秀吉。

おまん、島津家に入る気は無いか?」

 

「なっ!?」

 

「わしも男だ。貴様が敵方として応対してくるんなら、

それなりの態度取らせてもらうが、

味方になるんなら話は別じゃ。快く受け入れようと思う。

貴様.....いや、君の率いる軍さえ協力してくれれば、島津軍の勝率も限りなく上がるだろう。

君の義弟になる事だって受け入れるさ」

 

「意味わかんねぇよ!!

俺に皆を裏切れってのか!?

てか、さっきまで戦うって話だったろ!?」

 

「※あ、それもいいかも」

 

 

信念曲げないんじゃなかったか!?

 

 

「どうだ豊臣秀吉?

島津に寝返る気はないか?

姉上の婿として、大いに歓迎するのだが?」

 

「断る!!

俺には、俺を信じて付いてきた数多くの大事な仲間がいる。そいつらの期待を裏切るような事は、俺は絶対にしたくない!!」

 

「「..........」」

 

 

これで.....いいのだろう。

 

 

「※ふっ.....ふっくくくくくく.....

それでこそだ.....

それでこそ私が見込んだ男!

やはり其方こそ我が嫁に相応しい!」

 

「!?」

 

「全く.....姉上には困ったものだ」

 

「試したのか!?」

 

「※ふむ。だが将来の愛妻にすべき事ではなかったな。

謝罪しよう」

 

「だから妻って.....」

 

 

俺は男として見られてないのか?

 

 

「※仕方あるまい。当初の予定通り、

私が勝てば、私は其方を嫁に。

其方が勝てば、其方は私を嫁に。

これで良いだろう!」

 

「全く納得いかん!!」

 

 

そうしてそのまま、良晴は義久と婚約関係を結んでしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「※ではだ。約束通り、

島津軍は豊後を放棄しようと思う」

 

「本当か!!」

 

「※うむ!私も"漢"だ!

二言などは存在しない!」

 

「男!?」

 

「"漢"だ!!(怒)」

 

 

義弘に怒鳴られた。

 

 

「びっくりした.....

間違ってオカマと婚約したのかと思った」

 

「※失礼な人だな。私の性別は雌だぞ?」

 

「いや、男を"嫁"にしようとしたり、

全体的に男勝りだからさ」

 

「すまぬ義兄上。姉上は由緒正しき島津家の大当主いもかかわらじ、中身は昔から田舎娘。

今じゃ、他の姫大名だってどんどん近代的になっとうのに、姉上だけがいつまでん古いお人じゃ」

 

「※お前はお前で失礼だのう」

 

 

義兄上と呼ばれたのはスルーか!?

 

 

「※とにかくだ。約束は絶対に守ろう!」

 

「あぁ、ありがとな義久」

 

「※そっ.....その.....」

 

「ん?」

 

 

急に義久がモジモジし始めた。

 

 

「※"虎寿丸"と呼んではくれないか?」

 

 

義久の幼名であった。

 

 

「あぁ、虎寿丸」

 

「※(≧∇≦)」

 

 

なんかすっごい嬉しそうだ。

 

 

「※これからよろしくな良晴!」

 

 

こちらも名前で呼んできた。忘れがちであるが、まだ戦争は終わってなく、2人は敵方同士である。

 

その時だ。

 

 

「叔母上!叔父上!大丈夫か!?」

 

 

島津家久が娘、豊久が飛び込んで来た。

 

 

「おっと、じゃあ俺は帰らせてもらうわ」

 

「※うむ!」

 

「させるかぁ!!」

 

 

豊久が鉄砲を構えて発砲してきた。

 

 

「よっ!」

 

「なっ!?」

 

 

良晴は弾丸を軽々避ける。

『玉よけのヨシ』もパワーアップし、

『弾丸よけのヨシ』になっていた。

彼に捉えられない物は存在しない。

 

 

「ほんじゃ帰るな!」

 

「※また会おう!」

 

 

出入り口が兵によって塞がれていた為、

天守閣から飛び降りる良晴。

落下の途中で人狼に変身し、

そのまま臼杵城を後にした。

 

 

「※やっぱりカッコいい〜♡」

 

「そうかぁ?

姉上が選んだなら従う他ないがや」

 

「!???」

 

 

よく分からない豊久だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴軍本陣。

 

 

「良晴!!」

 

 

留守を任されていた官兵衛が迎える。

 

 

「喜べ官兵衛!島津が豊後を放棄してくれたぞ!」

 

「何っ!?一体何をしたんだい!?」

 

「島津義久と直接会って説得してきた!」

 

「!?....................全く」

 

 

官兵衛は呆れ顔をする。

 

 

「つまり君は、たった1人で臼杵城を制圧して、

島津義久に会って来たのかい?」

 

「あぁ!」

 

「君は凄いのか馬鹿なのか全くもって理解しがたいのだが良晴?」

 

「いやぁ〜」

 

「褒めてないよ」

 

 

それでも官兵衛は納得してくれたようだ。

 

 

「一体どんな事を条件に島津義久を説き伏せたんだい?

幾ら何でも、タダで彼女を動かす事はできないだろう?」

 

「政略結婚」

 

「へぇ〜政略結婚....................は?」

 

「島津義久と結婚する事になった」

 

「はぁ!!?」

 

 

官兵衛は驚くしかないだろう。

 

 

「何がどうなってそうなった!?

なんだってあんな田舎大名と!?」

 

「虎寿丸を馬鹿にすんな!

あれでもいい子だったぞ!?」

 

「敵と仲良くなってんじゃねぇ!!(怒)」

 

 

相当キレてる。

 

 

「とにかく落ち着け!一から説明すっから」

 

 

良晴は先程の会談の内容を伝える。

 

 

「シム。理解はしたけど納得はしない!」

 

「やっぱりねぇ〜」

 

「なんだってそんなややこしい結果になった!?

政略結婚したならそのまま同盟を結べば九州戦は一発で終わりだったさ!」

 

「俺だって思ったさ!でも、誇りある戦いをしたいっていう相手側の意見を尊重した結果、こうなっちまったんだ!」

 

「君は昔から何にも変わらないねぇ!!

馬鹿だから自分勝手な行動ばかりして、

いつも周りに迷惑をかける!

君がした約束のせいで、

島津はより一層本気で来るんだぞ!?」

 

「あっ.....」

 

「それにだ!

島津は勝とうが負けようが、

君と結婚して確たる地位を保てるから、

メリットしかないだろうさ!

だが豊臣が負ければどうだ?

関白である君が島津に連れて行かれ、

日本の支配権が島津に移るんだ!

豊臣秀長によって整理された日本国が、

再びバラバラになるんだ!

デメリットしかない!!」

 

「どっ.....どどどどどうしよう!!?」

 

「最悪の場合、島津家の者を全員皆殺しにすれば何とかなるかもしれない」

 

「!?....................官兵衛!!

お前.....また!!」

 

「あくまで最悪の場合だよ」

 

「!?」

 

「今あげたのは負けた場合だ。

勝てばそんな心配はないさ」

 

「官兵衛.....」

 

「だから維持でも勝ってもらう。

シメオン達も全力で君を支える。

勝った上で、島津義久を自由に側室にすればいいさ。それについては君のご褒美でいいよ」

 

「官兵衛.....ありがとう」

 

「全く.........."シメオンとだってたまにしか付き合ってくれないのに".....」

 

 

小声でボソッと呟く官兵衛。

 

 

「なんだって?」

 

「何でもないよ!」

 

 

フラグクラッシャー良晴。

 

 

「でもそんな事より心配なのは

....................信奈様だよね」

 

「そうだよっ!!

最近益々浮気がバレかけてんのに、

敵方の姫と結婚したなんて言えば、

絶対に殺される!!」

 

「まぁ、それに比べれば浮気なんて

可愛いけどね」

 

「どうしよう!!あぁ、どうしよう!!」

 

 

完全にパニックになっている。

本当に恐妻なのだ。

 

 

「全く。浮気するだけの度胸はあるくせに、

小心者なんだからなぁ。

しょうがない。シメオンが仲介してあげるよ」

 

「本当か!?」

 

「なるべく怒らないように説き伏せてあげるよ。成功率は低そうだけれどね」

 

「サンキュー官兵衛!!」

 

「そっ.....その代わり.....

今度、花見に行かないかい?

.....その、いい桜が見れる場所があるんだ」

 

「おっ、いいぜ!"皆で"行こう!」

 

「そうじゃなくて..........

........................................."2人きりで"」

 

 

又もやボソッと呟く。

 

 

「....................成る程!デートか!」

 

「はっきり言うな!!」

 

 

今回のフラグは回収したようだ。

 

 

「2人きりだなんて。

可愛いなぁ〜官兵衛は」

 

「五月蝿い!!」

 

「いいなぁ〜。良晴さんとお花見」

 

「半兵衛いたの!?」

 

 

いつの間にかいた半兵衛ちゃん。

 

 

「君も来るかい半兵衛?」

 

「いいのですか!?」

 

「いいのかよ官兵衛」

 

「いいよ。シメオンと半兵衛は2人で1人だしね。半兵衛くらいなら大丈夫さ。ただし、調子に乗ってこれ以上増やさないように良晴!」

 

「わーい両手に花だ〜♬」

 

「調子に乗るな!!」

 

「うふふ.....」

 

 

 

 

 

その後、島津軍は約束通り臼杵城から撤退し、豊後を放棄するに至った。

こうして、大友家領土の豊後国奪還戦争は大勝利にて幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、会津若松城。

 

 

「はぁ.....」

 

 

会津国当主、蒲生氏郷は苦悩していた。

 

 

「もうヤダ..........こんな生活」

 

 

それは先月の事である。

隣国同士という事もあり、

陸奥の伊達と会津の蒲生はよく会談を行う事が多かった。

ただ伊達政宗、蒲生氏郷の代表同士が大変不仲である為、セッティングをするのはいつも家臣達である。

この日も、

伊達の家老片倉小十郎と、

蒲生の家老関一政が共同で企画した、

伊達と蒲生の食事会が開かれていた。

 

今回は伊達家が会津に呼ばれていた。

上座にて不機嫌そうな2人が黙々と食事をし、

両国の家臣らが冷や冷やしながら見守るという、全く会話のない葬式のような食事会となっていた。

 

 

「ククク。どうだ蒲生氏郷?

"元伊達領土"だった会津の住み心地は?」

 

 

梵天丸が含みある言い方で話題を振る。

 

 

「えぇ、そちらさんの領土だった頃はどうだったかは定かではありませんが、"蒲生領土"になってからはとても良国となっておりますよ?」

 

 

氏郷も含みある言い方で返した。

 

 

「そうか、ククク」

 

「ふふふ」

 

 

お互い笑顔ではあるが、殺意が籠っている。

 

 

「そうだ!会津の名産を用意させたのですよ。

どうぞ召し上がって下さい」

 

 

氏郷がそう言って用意させたのは、

郷土料理『あんこう鍋』だった。

 

 

「ふんっ、会津が伊達領土だった頃には飽きる程食べていた。新鮮さも何もないな!」

 

 

そう言いつつ、香ばしい匂いにヨダレが出そうになる梵天丸。

 

 

「"それは毒入りです"」

 

 

氏郷が言った。今にも口にしようとしていた梵天丸は慌てて箸を止める。

 

 

「なっ!?」

 

「そのあんこう鍋は毒入りです。

食べない方がよろしいですよ?」

 

「..........なんのつもりだ蒲生氏郷」

 

「別に。事実を明確に提示したまで」

 

「ふざけるなっ!

そんなハッタリ通じるか!」

 

「はてさて、どうでしょう?」

 

「ちっ!」

 

 

すると梵天丸は自分に運ばれたあんこう鍋と、氏郷に運ばれたあんこう鍋を交換した。

 

 

「おや?」

 

「クークックック!

貴様の妄言を信じるわけではないが、

我はこっちの方が食べたくなった!

こっちのあんこう鍋を食べるとしよう!」

 

 

梵天丸が豪快に鍋を食べようとする。

 

 

 

 

 

「貴方がこのような選択をすると予見した上で、あえてどちらの鍋にも毒を入れていたとしたらどうします?」

 

「..........」

 

 

周りに沈黙が走る。

 

 

 

 

「波っ!!!」

 

 

 

梵天丸は眼帯を外し、天竜より移植された悪魔の目より『空裂眼刺驚』が発射された。彼女は『魔帝波状鮮血刺殺光線』と命名したらしいが.....

 

梵天丸が放ったそれは、目の前の料理を皿やおぼんごとバラバラに切り裂いた。

 

 

 

「不愉快だ!!帰る!!」

 

 

そう言って、プンスカしながら梵天丸は部屋を後にする。

 

 

「待って下さい姫!」

 

 

それを片倉小十郎を始めた多くの伊達家臣団が部屋を後にした。

 

 

「ふふふ.....バーカ」

 

 

そう言って、自らが"毒入り"と宣言したあんこう鍋を堂々と食す。

 

 

「うん。美味美味」

 

「「「..........」」」

 

 

只々溜め息をつく蒲生家臣団達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

 

「うぅ.....」

 

「ククク」

 

 

氏郷は今度、陸奥に1人で呼ばれていた。

梵天丸が居住する岩出山にある茶室。

実は梵天丸は最近茶道にも興味を示しており、指名手配されているはずの千利休にも弟子入りしている。

ちなみに氏郷も弟子の1人で、

梵天丸とは姉妹弟子という事になる。

 

 

「ククク」

 

「むぅ.....」

 

 

先日の事もあり、氏郷は不安だった。

 

 

「ククク」

 

 

氏郷は違和感を覚えていた。

普通茶の湯は茶を立てる際、身体の側面を相手に向ける事によって、作法や茶器などを評価し合うものだ。

だが、梵天丸ずっと氏郷に背中を向け、

茶を立てる様子を見せようとしない。

 

馬鹿なのか無知なのか、

とても利休に習ったとは思えない。

それとも、何か企みを?

 

 

「ほら、できたぞ」

 

「..........」

 

「これは毒入りの茶だ」

 

「!?」

 

 

数日前に氏郷が言ったのと全く同じ事を言ってきたのだ。

 

 

「これはこれは、なんとも物騒ですね」

 

 

馬鹿かコイツ?先日やられた腹いせに全く同じやり方で仕返しか?阿呆としか思えない。何だって自分がこいつに対抗心を燃やしたのか信じられなくなる。

 

 

「毒は怖いですが、伊達殿の立てられた茶を飲まないのは礼儀に反します。飲ませて頂きましょう」

 

 

梵天丸の誘いには乗るまいと、

ドヤ顔で茶を飲んだ氏郷。

 

 

「!?」

 

 

だが、異変が起きた。

氏郷が茶を吹き出したのだ。

 

 

「苦ああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

 

 

あまりの苦さに転げ回る氏郷。

 

 

「はい水」

 

「かたじけない!!.....ゴクッ、ゴクッ、

....................辛ああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!?」

 

 

再び転げ回る氏郷。

 

 

「クーーークックックックック!!!

始めに飲ませたのは、

5倍に濃くした抹茶に青汁を混ぜたものだ!

次に飲ませたのは、唐辛子、獅子唐、山椒等の

様々な香辛料を混ぜ合わせたもの!

この2つをどちらも飲むなど、

毒を飲むのとも匹敵するであろう!

だから申したはずだぞぉ?

それは"毒入り"だと」

 

「きっ.....貴様ぁ!!」

 

 

梵天丸は先日の氏郷の嫌がらせを見抜いた上で、同じ事を彼女にやり返す事で、彼女が絶対に茶を飲むと予見していたのだ。

 

 

「このクソアンチがあぁぁぁ!!!」

 

 

氏郷がブチ切れ、茶碗を梵天丸に投げつけた。

 

 

「痛った!!?」

 

 

茶碗は梵天丸の額に直撃する。

 

 

「何すんだこの耶蘇があぁぁぁ!!!」

 

 

梵天丸もブチ切れた。

 

 

「異端者の分際でこのレオンにぃ!!

神の名の下に死ねぇ!!」

 

「サタン教すらも認めない分際でぇ!!

悪魔の名の下に死ねぇ!!」

 

 

そこからは殴り合いの喧嘩となり、

家臣団が止めに入るまで大乱闘となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は現在に戻る。

 

 

「痛たた.....」

 

 

まだ傷が痛む。

殴られた頬ではない。

ゲンコツされた頭が痛いのだ。

 

実は2人の大喧嘩は天竜を大坂から呼ぶ程までの騒動になっていたのだ。一歩間違えれば、戦争になっていたからだ。

 

 

「このたわけ共がぁ!!」

 

「「痛った!!?」」

 

 

喧嘩両成敗でどっちもゲンコツされた。

 

 

「さぁ抱き合え!

抱き合って仲直りしろっ!!」

 

「「..........」」

 

「抱き合えぇい!!!」

 

「「うぅ!?」」

 

 

天竜の怒りの威圧に2人ともビビって、

慌てて抱き合った。

 

 

「全く!!

くだらん事でわざわざ大坂から寄越しやがって!!

ふざけんじゃねぇぞ貴様ら!!

いつまでもガキでいやがって!!」

 

「「はっ.....ははぁ!!!」」

 

 

2人は歯痒い思いをしながら土下座をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ!」

 

 

実は傷は氏郷の方が多かった。

無理もあるまい。

氏郷は隻腕なのだ。

腕一本足りない分殴る回数も減るし、

防御もしづらくなる。

 

 

「もう.....ヤダ。私が何をしたの.....」

 

 

問題は外だけではない。

内にも大きな問題があった。

 

ガスパール・コエリオ。

指名手配犯の1人だ。

 

彼が会津に住み着いてもう1年以上になるが、

ハッキリ言って邪魔だ。

 

自分では何もせず、面倒事は全部氏郷にやらそうとし、

生活面まで他人に世話させようとしてくる。

本当に自分では何もしようとしないので、

日に日に肥えていき、

見るも耐えないような外見になっている。

昔の威厳など欠片もない。

おまけに常に文句ばかり言っている。

「面倒臭い」が口癖なのだ。

前に、

「息をするのも面倒臭い」

と言った時には絞め殺してやろうかと思った。

しかも風呂嫌いなので臭い。

ほとんど豚だ。

 

いや豚は清潔好きと言うから、

奴はウンコ以下だな。

 

 

「..........」

 

 

氏郷の右手にはサタン教の黒聖書が握られていた。

 

 

「サタン教か.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜?サタン教に興味にあんのぉ?」

 

「!!?」

 

 

全く気配を読めなかった。

まるで背後霊の如く、

天竜は真後ろに立っていた。

 

 

「なんだ。お前も興味あるのかぁ」

 

「ハッ、まさか!

これは破って山羊に餌として与えるんです!」

 

 

そう言って黒聖書をビリビリに破く。

 

 

「山羊に紙食べさせたら腹下すぞ?

ていうか、豊臣家で発行してる書物を、

太閤の目の前で破くじゃねぇよ」

 

「すっ.....すみません!!」

 

 

つい謝ってしまう。

 

 

「まぁ、スペアあるし」

 

 

そう言って別の黒聖書を出す。

 

 

「..........」

 

「なぁ、氏郷」

 

「なっ、なんでしょう?」

 

「くっくっくっく.....」

 

 

天竜の笑いは死神の微笑にも聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺のものにならないか?」

 




久々のギャグ回です。
戦争回や鬱回よか、
書いてて気が楽ですね。
さて、どう収集つけようか.....
次回予告
宣教師との決別
〜正しい道を進むか、悪魔に魂を売るか〜

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