天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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第七十話 島津軍との死闘

「何っ!?あの鬼が負けた!?」

 

 

臼杵城にて、島津義弘が言う。

島津軍が切り札として送り込んだ松山主水は、良晴とクロウのタッグの前に敗北。形成は逆転。島津軍は良晴軍の圧倒的戦力の前に押されつつあった。

 

 

「一騎当千の鬼が負けるとは.....

おいどんながら、なんて大誤算」

 

「يوشيهيرو(義弘).....」

 

「姉上。申し訳ありんせん。

鬼に頼るという、非人道的方法を取ったぁばかりに、こな結果だしてもうて」

 

「لا تهتم. قد بدأت للتو الحرب. أنا دائما لأن الفشل هناك نانت، وأنا لا أحاول أن تشمل ما يلي

(気にするな。戦はまだ始まったばかり。失敗なんていつだってあるのだから、次に備えて努力すればいい)」

 

 

島津軍総大将、島津義久が励ます。

 

 

「???」

 

 

だが、伝わらなかった。

 

 

「مو يو ~(むぅ).....」

 

 

義久は紙と筆を取り出す。

そこにスラスラと文字を書いた。

 

 

「えぇ....................と.....?」

 

 

この時代の日本の文字は一筆書きのように繋がって、現代人には読みにくいものであるが、義久の文字はこの時代の人間にも読みづらい程下手なようだ。

 

 

「分かり仕った!

めげずにこのまま戦えっちゅう事ですね!」

 

「أم(ふむ)」

 

 

なんだか久しぶりにちゃんと会話できた気がする。義弘は姉の言葉を少しぐらいなら翻訳できなくもないが、長文だとさっぱりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴軍、本陣。

 

 

「はっ!?」

 

 

総大将豊臣良晴は突如目覚めた。

 

 

「ここは.....」

 

「良晴さん!」

 

「良晴!」

 

 

最初に目に飛び込んできたのは自分の大切な家臣、半兵衛、官兵衛、だった。目覚めた良晴に歓喜し、2人に同時に抱きつかれる。

 

 

「そっか.....俺変身してたんだっけ」

 

「「「..........」」」

 

 

2人は黙ってしまう。

その時、

 

 

「我があげた人狼の力はどう?」

 

「..........後鬼」

 

 

奴もまたそこにいた。

 

 

「これからは身体だけじゃなく、

精神力も鍛えなきゃね。

じゃないと、またあぁなるよぅ?」

 

「あぁなる?」

 

「後鬼さん!」

 

 

半兵衛が制止しようとするが、

 

 

「そこにいる主人様や黒田官兵衛を食べようとしてたのよぉ〜?覚えてない?」

 

「なっ!?」

 

「後鬼さん!!」

 

 

半兵衛が怒る。良晴が覚えていないなら、それでやり過ごそうとしていたようだ。

 

 

「俺が..........半兵衛と.....官兵衛を.....」

 

「うん!あの時の君は人狼そのものだったからねぇ。我が止めてなかったら、今頃君は血の海の中で泣いていたか、そこの神父さんに首を取られてたかもねぇ」

 

「..........」

 

 

クロウは陣幕によしかかり、じっと後鬼を睨みつけていた。怒りが篭った鋭い瞳で.....

 

 

「精神力..........それを鍛えれば人狼に変身してる間でも、ずっと理性を保ってられるのか?

また暴走したりは.....」

 

「それなら大丈夫よ。

普通の人狼なら難しいけれど、

君はそれが可能なの」

 

「!?..........どういう事?」

 

「君は人狼の紛い者。半人狼なのよ」

 

「「「「!?」」」」

 

 

この言葉に良晴は勿論、両兵衛もクロウも驚く。

 

 

「人狼っていうのはそもそも、

人間と狼神の間に生まれた存在。

つまり半人半妖なの。

まぁ、今でこそ人狼も純粋な妖怪として扱われているけどね。

我が君に注いだ人狼の血は、

"本来必要とされる量の半分"。

だから君は人狼の半分なの。

人狼になりきれない人狼。だから半人狼。

妖怪としてなら、君は4分の1だけ妖怪。

半々妖。クウォーターウルフなの」

 

「クウォーターウルフ..........

つまり俺の4分の3はまだ.....」

 

「うん。君は4分の3人間よ。

本来ならそんな存在は驚く程弱いはずなんだけれど、血が我のものだけあって、通常の人狼にも引けを取らないけどね。

この"ベルセルク"と呼ばれた我の血をその身に4分の1も入れてるのだからね」

 

「なんか、ぬら孫みたいな話だな」

 

「「?」」

 

 

半兵衛官兵衛にはさっぱりだ。

 

 

「あ〜!我も知ってるぅ!

未来であの子が読んでたのを、

膝の上に座って、一緒に見てた!」

 

 

急に後鬼のテンションが上がる。

 

 

「あんた.....未来から来たの?」

 

「言ったでしょ?私はドラキュラの親友。

竜ちゃんとは子供からの仲。

"人間"の友達がいなかったあの子の、

唯一無二の大親友」

 

「..........」

 

「後鬼さん」

 

「ん?」

 

 

半兵衛が尋ねてくる。

 

 

「貴方は何ですか?」

 

 

再度その問いを投げかける。

 

 

「我は後鬼だよ?それで持ってオル.....」

 

「それはさっき聞きました!

今私が知りたいのは、

何故貴方が私に仕えるにあたり、

何故貴方が良晴さんを.....人狼に.....」

 

「何故って、貴方が私を式神とし雇った。

ただそれだけではないですか」

 

「!?」

 

「我は欧州で聖職者共とのの抗争に敗れ、

故郷であるこの国に逃げ帰った。

全身ボロボロで、死にかけの我は、

美濃近辺にて行き倒れ状態だった。

そんな時に主人様、貴方と出会った」

 

 

もう7年近く前の話だ。

 

 

「その時私は、ともかく消耗していた。

霊力も切れかけ、死に損ない状態。

だから貴方は我の正体に気付けなかった。

さしずめ、人間か強妖怪に襲われた

弱妖怪程度にしか見えなかった。

だが、我は主人様の式神になった。

向こうじゃ、サーヴァントとも言いますがね」

 

「式神.....」

 

「我には休息が必要だった。

まだまだ未熟の童女に仕えるのは、

とても居た堪れなかったが、

それでも我は主人様に頼る他なかった。

弱ってる間に人間に襲われては、

元も子もないですからね。

しかし、貴方には参りましたわ。

貴方というより、貴方の式神.....

前鬼にはね」

 

「前鬼さん!?」

 

「彼はすぐに私の正体に気付いた。

ですが、我に何かしらの行動を行うだけの霊力が残ってない事を知って、大目に見てくれましたわ。

ただ、血の契約をする羽目になった」

 

「血の.....契約?」

 

「血の契約は魂の契約。

破れば魂を失う事となる。

 

一つ目は、主人様が許可しない限り、主人様の式神である事を放棄しない事。

 

二つ目は、主人様とその周囲の人間には手出しをしない事。

 

三つ目は、食事は人間の食料のみにし、人間を餌にする事を禁じる。

 

四つ目は、主人様には絶対に正体を明かさない事。

 

以上の四つですね。

これさえ守れば我は安全を保証された。

まぁ、契約相手はあくまで前鬼なので、

彼が昇天した時点で契約は破棄されましたがね」

 

「前鬼さんが.....そんな事を」

 

「その後は道楽で貴方の式神を続けましたわ。

勿論契約も守り続けてね。

一時期の貴方には肝を冷やしました。

あちこちで龍穴を潰して回って、

我の霊力までどんどん奪ってくのですから、

まぁ、その後に蘭奢待や房中術でちゃんと自分の分の霊力を回復してくれたお陰で、我も霊力を回復させる事が出来ましたがね。

現在の日本は竜ちゃんのお陰で、

再び龍穴が増えて住みやすいですわ」

 

「何ですって!?」

 

 

半兵衛と前鬼が必死になって破壊した龍穴を天竜が再び開いた!?

 

 

「どうして.....」

 

「主人様。龍穴の定義をご存知で?」

 

「定義?」

 

「龍とは何か.....

龍は"黒龍"。つまりは月読命。

ツクヨミ神の力の発動こそ、龍穴の生まれ。

『不滅の法灯』を始めとする数々の龍穴にはツクヨミ神が関わっています。

あの子はそのツクヨミ神の仔。

あの子がドラキュラとして力を引き出す事は、

ツクヨミ神の力の発動に等しい。

すでに備中、十津川口、播磨、甲斐、箱館、この豊後の地には強力な龍穴が開きつつある」

 

「そんな.....」

 

「あの子を責めては駄目よ?

多分あの子も気づいてない。あの子も自分の正体は6割程度にしか理解していないようだしね」

 

「..........」

 

 

半兵衛は急激落ち込んでしまった。

自分が死ぬ気行った努力を水の泡にされたのだ。無理もあるまい。

 

 

「話を戻させてもらうわ」

 

 

後鬼が言う。

 

 

「良晴。貴方は半人狼。

その気になればいつでも人間に戻れるわ」

 

「えっ!?そうなの!?」

 

「先程も言ったように貴方は4分の3人間。

ただの人狼では無理でも、半人狼であるなら、人狼の血だけ我が吸い取ってしまえば、貴方は人間に戻れるわ」

 

「..........」

 

「同時に、簡単に人狼になる事もできる。

でも一度それをやっちゃったら、

もう二度と人間には戻れないけどね」

 

「人間に.....戻る」

 

「戻りたい?」

 

「!?」

 

「今じゃなくてもいいよん?

貴方が人狼として全ての事をやり終えた暁には、君を人間に戻してあげても.....」

 

「いい!」

 

「良晴さん!?」

 

「良晴!?」

 

 

良晴は即答した。

 

 

「いいの?戻れなくて?

後になってやっぱりってのは、

無しだよん?」

 

「構わない。俺は人狼さ。

これは俺が選択した道。

俺は守る為に人間を辞めた!

俺が守りたいと思う大切な人達皆をの為に俺は人間を辞めたんだ!

私欲なんて捨てた!

俺はもう見てるだけ人生を捨てた!

人間であり続けたいだなんて、

無意味なプライドなんて持つ気はない。

何かを得る為には何かを失わないといけない。

それを俺は"敵"から教わった。

だから俺は皆の幸せの為に、

人間としての幸福を捨てたんだ。

間違っているか?」

 

「良晴さん.....」

 

「良晴.....」

 

 

半兵衛も官兵衛もそれ以上良晴を責め立てる事はできなかった。

 

 

「あいつを倒すには、

あいつの全てを理解しないといけないんだ。

あいつを否定ばかりしていては、

多分絶対に倒せないと思う。

あいつの考えを理解するべきなんだ。

あいつの苦しみを理解するべきなんだ。

納得はできなくても、

理解だけなら悪い事じゃない。

むしろ無知の方が、それだけで罪だ。

あいつが人外になったのなら、

俺も人外になってやる!

そうまでして初めて、

あいつと同じ土俵に立てる気がする!」

 

「良晴.....」

 

 

それは先のクロウの受け入りだった。

 

 

「グッド。グッド。ベリーグッド♬」

 

 

後鬼が愉快そうに唄う。

 

 

「いいねぇ〜。見込んだだけの事はあるよ。

その答えを待っていた!

これ以外の答えなら殺してたよ〜♬」

 

「怖っ!?」

 

 

そんな重大な質問だったのか!?

 

 

「中途半端に人間に戻りたいだなんて思ってたら、途中で我の計画を潰される可能性もあるからねぇ。

少なくとも全てが終わるまでは、

君には人狼でいてもらう。

絞り切ったボロ雑巾になるまでわねぇ。

ふくくくくくくく.....」

 

 

後鬼は邪悪な笑みで言った。

 

 

「もういいか?」

 

 

クロウが割って入った。

 

 

「ここからは私が問う。

答えろ人狼オルトロス。

貴様はこの国に何しに来た!!」

 

「言ったでしょ〜。

ここは我の故郷。

ただの里帰りだよん」

 

「ふざけるなっ!!

教えろ!貴様の計画とは何だ!?」

 

「豊臣秀長を殺す事」

 

「なっ!?」

 

「「「!!?」」」

 

 

これには良晴らも驚愕した。

 

 

「馬鹿な!?貴様はドラキュラの片腕のはずだ!

その貴様が何故豊臣秀長を殺す!?」

 

「だからだよ。あの子の為に、

我は豊臣秀長を殺すんだ」

 

「はぁ!?」

 

 

豊臣秀長の為に豊臣秀長を殺す!?

 

 

「あのドラキュラを騙る偽物を殺す。

それさえ達成できれば、

あの子は本来の力を取り戻せる」

 

「あっ.....」

 

 

良晴は理解した。

後鬼が言っている事を.....

 

 

「"カーミラ"も協力してくれてる」

 

「なっ!?」

 

 

驚いたのはクロウだった。

 

 

「奴が.....生きてる!?

奴がこの国に来ているだと!?」

 

「まぁね。"カーミラ"も日本生まれだしね。

オスマン帝国との戦争や、

十字教との抗争を中断してる間、

ドラキュラとその双璧の3人は全員、

この国で療養している。

まぁ、カーミラは元から生きてるのか死んでるのか分からない奴だから、休む必要もないけどね」

 

「くそっ!!まさかあいつまで.....」

 

「クロウ.....カーミラって誰だ?」

 

「.....そのオルトロスと同じく、

ドラキュラの片腕の化け物だ。

"ノスフェラトゥ".....不死者の名を最も表現したような奴だ。ドラキュラと同じ吸血鬼。

だが、ドラキュラとはまた違う強さを持つ」

 

「ひょっとして.....」

 

 

良晴には心当たりがあった。

 

 

「それも気になるが、まだ合戦中だ。

今は対島津戦を優先すべきだと思うよ」

 

 

官兵衛がこの話に区切りをつけた。

 

 

「そう.....だな。

いつまでも長々と戦を続けるわけにはいかない。

互いの軍の為にも、

早急に島津を鎮圧すべきだ」

 

「「..........」」

 

 

半兵衛も官兵衛も思った。

良晴は本当に変わった。

昔の彼とは比べ物にならない。

三木城の兵糧攻めにて、飢え死にさせるのは可哀想だという理由で、こっそり兵糧を分け与えるという、訳の分からない行動を取っていた時には驚愕したものだが.....

やはり太閤秀長の影響か。

 

 

「良晴さんは.....いつから太閤殿下と戦おうと決心されたのですか?」

 

 

半兵衛が尋ねる。

 

 

「いつからだって?」

 

 

そして、良晴は答える。

 

 

「"元春を殺したのが"あいつだという事を知ってからだと思うよ」

 

 

良晴は静かに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『囲師必闕の戦法』でいこうと思う」

 

「いしひっけつ?」

 

 

松山主水が敗走したのを機に、良晴軍は一気に島津軍を追い詰め、形勢を逆転された島津軍は臼杵城に立て籠もってしまったのだ。

 

 

「孫子の兵法ですね」

 

 

官兵衛の軍略に半兵衛が付け加えた。

 

 

「シム。臼杵城を四方八方から攻めれば、

島津軍はより一層根気強く抵抗してくる。

だがあえて三方だけを囲み、

あえて一方を開ける。

すると敵さんはそこから逃走を図り、

無駄に戦闘をせずに城を手に入れられる」

 

「うん。いいんじゃねぇか?」

 

 

良晴も納得する。

 

 

「ふぅむ。東洋の戦法も馬鹿にはできないな」

 

 

西洋人のクロウも関心した。

 

 

「この場合は南方を開けた方がいいね。

ついでにこの南方に伏兵を仕込めば、ひょこひょこ逃げて来た島津軍を一網打尽にできるよ」

 

「官兵衛さん.....くすんくすん」

 

「許可できねぇ」

 

「何故だい良晴。

ここで島津義久を討ち取れば、

この九州攻めは終結するんだぞ?」

 

「今回の目的は豊後の奪還だ。

今ここで島津義久まで討つ必要はない」

 

「さっきと言ってる事が違うじゃないか。

君は先程、島津軍早急に鎮圧すべきだと言ったんだ。だが、今の君は矛盾しているよ?」

 

「ここで島津義久を討てばどうなる?

九州は豊後だけじゃないんだ。

島津に負けて従う羽目になった連中だって大勢いる。そんな奴らがいきなり武力放棄すると思うか?いきなりこちらの味方になると思うか?

島津家という枷が外れた途端、

各々で独立しようとして、

一斉に蜂起するに違いない。

そうなれば九州は火の海血の海だ。

それを避ける為に、

島津家をあえて生かす事で、

他の勢力も徐々に抑え、

まとめて鎮圧してしまった方が効果的だ」

 

「!?」

 

 

天竜仕込みの軍略を披露する良晴に、

官兵衛は驚愕する。

 

 

「官兵衛さん。私も殿と同じ考えです。

くすんくすん」

 

 

半兵衛が同調してくれた。

 

 

「ちっ!..........賢くなったね良晴」

 

 

馬鹿だ馬鹿だと思ってた良晴に一杯食わされた事に頬を膨らませる官兵衛。

 

 

「ん〜?いじけてんのか官兵衛〜?」

 

「うっ、うるさい!!」

 

「可愛いなぁ〜官兵衛は〜」

 

 

良晴は官兵衛に背中から抱きついて、

ウリウリとおちょくる。

 

 

「調子に乗るな!くっ付くなぁ!!」

 

「ふふふ.....羨ましいです」

 

「笑ってないで助けろ半兵衛〜!!」

 

 

今度は頬を真っ赤にさせる官兵衛だった。

 

 

「初々しいねぇ〜」

 

 

後鬼がその光景をニヤニヤしながら見ていた。

 

 

「むぅ..........分からん」

 

 

それと、色恋沙汰には疎いクロウ。

 

 

「ひょっとしてまだ童貞〜?」

 

「なっ!?.....貴様まで何だ!?」

 

「あ〜、主水にも言われたのね?

顔はいいのに可哀想(笑)」

 

「黙れオルトロス!斬るぞ!!」

 

「はっはっは〜♬」

 

 

結構愉快な本陣であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臼杵城。

 

 

「姉上、北と東と西は関白の軍に包囲されもうした。じゃけんども、南方は手薄な様子でごわす」

 

 

義弘が言う。

それに対して筆談で応答する義久。

 

 

【お前ならどうする義弘?】

 

「うむ。恐らくこれは『囲師必闕の戦法』

迂闊に南方より撤退すれば、

伏兵に一網打尽にされるじゃろうに。

少なくともわしは、

南方から逃げるは避けるべきじゃと思う」

 

【そうか、あい分かった】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴軍、本陣。

 

 

「島津軍が動かないだって!?」

 

 

知らせを受けた良晴は愕然とした。

 

 

「恐らく策を読まれたね。

いもしない伏兵を疑ってるんだろう。

相手は恐らく.....島津義弘。

文武両道で有名だからね」

 

 

官兵衛が推理した。

 

 

「ちっくしょう!どうすればいい?

島津軍に撤退してもらわないと、

膠着状態が只々続くだけだぞ!?」

 

「シム。敵さんに、南方が安全である事を伝えられればいいけれど、そう簡単には.....」

 

「そうか、それだ!!」

 

「はっ?」

 

「ちょっと行ってくる!

ここは任せたぜ官兵衛!」

 

「ちょっ..........どこ行くんだい良晴!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして.....

 

 

「城内に敵が侵入しました!!」

 

「「!?」」

 

 

島津姉弟に異例の連絡が入る。

 

 

「して、数は!?」

 

「いっ..........1体です!!」

 

「体!?」

 

 

人間の単位は「人」だ。

「体」は通常、動物等に使われる単位。

 

 

「もっ、もの凄い速さで暴れ回っています!

刀も槍も矢も鉄砲も何も効きません!

あれは..........化け物です!!」

 

「化け物だとぅ!?」

 

 

我らが鬼を使ったように、

関白も妖怪の類いを飼っているのか!?

 

 

「うわぁ!?来たぁ〜!!?」

 

『ガアアアァァァ!!!』

 

「ぎゃっ!!?」

 

 

その兵は何か異形な存在に吹っ飛ばされた。

凄い勢いで壁に打ち付けられたが、

死んではいないようだ。

 

 

「くっ.....!?」

 

「ما هو هذا الوحش(なんだこの化物は)!?」

 

『ガルルルルルルルル.....』

 

 

獣のような唸り声。

七尺以上はある長身。

全身に覆われし黒い体毛。

耳まで裂けた口から覗く鋭い牙。

二足歩行の巨大狼。

 

 

「ばっ.....化物め!!」

 

『心外だな。これでも4分の3は人間なんだ』

 

「「!?」」

 

 

狼の化物は口を聞いた。

 

 

『ちょっと待ってろ』

 

 

そう言うと狼の化物は何か構えた。

次の瞬間狼はみるみる内に小さくなり、

身体中の体毛は抜け落ち、

異形な面相も、より人間に近いものとなる。

 

 

「なっ!?.....お前は!?」

 

 

義弘は彼を見た事があった。

そして、散々馬鹿にしてた奴でもあった。

成り上がり関白。お飾り関白。

傀儡関白。サル関白などと.....

そして、今戦にて争った敵の総大将でもあった。

 

 

「とっ、豊臣秀吉!?」

 

「لكم هو تويوتومي هيديوشي

(お前が.....豊臣秀吉)!?」

 

「あぁ、そうだよ。

そっちのお姉さんとははじめましてだな。

あんたが島津義久か?」

 

「يا...تويوتومي هيديوشي. أنت أو إنسان؟

(あぁ.....豊臣秀吉。お前は人間か)?」

 

「さっきも言ったが、4分の3は人間だ。

だが、残りは狼の血が入ってる。

俺は人狼だ。半分だけな」

 

「......أنا لا أعرف تماما، ولكنك لا يمكن فهم مشترك

(..........よくは分からないが、お前が普通ではない事は理解できたよ)」

 

「そりゃどうも」

 

「なんて事だ.....」

 

 

義弘は驚愕した。

自分でもたまにしか翻訳できない姉の酷いなまりを、豊臣秀吉は完全に理解できている。何者だこの男!?

 

人狼というとてつもないような存在が現れた事以上に驚く義弘。

 

 

「الناس البيض في الذئب الأبيض للإنسان،

وظهور أو كيف شيء أمام النساء؟

(人にしろ人狼にしろ、女子の前でその格好はいかがなものか)?」

 

「おっ、すまんすまん」

 

 

良晴の格好は服が人狼化に伴って破れ、

残った布の一部が腰に巻き付き、

大事な部分だけを辛うじて隠している、

そんな状態で、ほぼ裸だった。

 

 

「ごめんな。人狼になってる最中って、

恥じらいとかそういうのが無くなるから、

自分が今どんな格好なのか気づけねぇんだ」

 

 

良晴はそこらに張ってあった陣布を身体に巻く。

 

 

「انها جانبا. ما مجموعه العام للالعدو كان الخروج هنا كل وسيلة؟(それはさておきだ。敵の総大将がわざわざ何でここまで来たのだ)?」

 

「ふっ.....」

 

 

良晴は似合わない微笑をしてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は一時的な和睦を提案しに来た!」

 




良晴は半人狼。
場合によっては人間に戻れる。
でも彼にその意思はない。
そういう設定にしてみました。
次回予告
蒲生氏郷という女
〜私は誰だ?〜

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