天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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久々の投稿です。
自分より閲覧人数の多い最近出てきたばかりの
信奈のSS作品を見ると少しブルーになりますね(笑)

そういえば11巻発売来月に延期されましたよね。


第六十九話 人狼良晴

それは二足歩行の巨大狼。

衣服は引き千切れ、

猛々しき筋肉が隆起する。

全身に黒色の体毛を生やし、

怪物のような牙を裂けた口から見せ、

猿の尻尾を尾部に携えた、

人間のような狼。狼のような人間。

それが人狼、ウェアウルフ。

吸血鬼に対なるものとして、

または同一の存在であるとも伝えられ、

ヴァンパイアと同じように、

西洋における伝説の大妖怪。

 

そんな大層な存在に、

何故良晴はなってしまった?

ただの人間であった彼が、

伝説上の怪物になってしまった。

かつてない程の異常事態。

 

 

《良晴!》

 

『ん?』

 

 

頭の中にクロウの声が聞こえた。

 

 

《今からこれで君と会話する!

あのヴァンパイアと戦う前に教えてほしい。

君はウェアウルフになってしまったのか?

一体いつなったんだ!?

"誰に"させられたんだ!?

君は後悔していないのか!?》

 

『黙れよクロウ』

 

《!?》

 

『そんなのどうだっていい。

戦えればそれでいい。

血が滲むような戦闘ができればそれでな』

 

《..........》

 

 

なんだこの変わりようは.....

ウェアウルフの血は穏健な彼をここまで変えてしまうものなのか!?

 

 

「ねぇ、そろそろ戦おうよ☆

僕も人狼と戦うなんて久しぶりで楽しみなんだ!殺し甲斐があってね☆」

 

『俺も鬼と戦えるなんて楽しみだ。

天竜とはいつだって修行に付き合わせられるが、あいつはいつも手加減しやがるからな。

本気で殺意を向けてくる化物と相対するのは俺も本当に久しぶりなんだよ』

 

「へぇ〜。じゃあその通りに

僕も本気出しちゃおっかな〜☆」

 

《馬鹿な!あれが本気でないだと!?》

 

 

実際に戦ったクロウが驚愕する。

 

 

「君は本気の僕を更に超えられるから別に心配する事なんてないでしょ?☆

官兵衛さんはともかく、

半兵衛さんも本気では戦ってなかったよ?

まず殺意が全く無かったしね。

彼女が殺意を持って本気で向かって来たら、流石の僕も怖いね」

 

『いいからさっさとやろうぜ』

 

「分かってるよん☆

待っててねぇ〜...............がっ!!」

 

 

その変貌は急激に起こった。

全体的に細身の身体の主水。

圧倒的に変わったのはその威圧。

天竜のように見た目から変わる事もない。

しいて変わった点と言えば、

その面相ぐらい。まるで石仮面のようだ。

一本角を携え、鉄のような爪を持つ。

これが鬼の完成体なのだろうか。

 

さらに驚くべき事は、100人近くに増殖した分身全員が同じ姿になったという事だ。

 

 

「さぁ、やろうか★」

 

 

心なしか声色も低くなった気がする。

 

 

「この状態になるのは本当に久しぶりだ★

"あいつ"との戦い以来.....

君は"あいつ"の眷属でしょ?

まぁ、人狼に眷属って概念があるかどうかは知ったこっちゃないけ.....」

 

 

次の瞬間だ。一つの風が吹いた。

主水が気づいた時、良晴は己の後ろにいた。

両腕にあるものを抱えて.....

 

 

『そらっ、返すぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

返された2つの塊.....

それは主水の生首だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首の切り口から鮮血をあげる2人の主水。

血柱が2本上がる。

 

 

「流石天竜くんの最後の弟子だ★

彼と同じで容赦ないね。

いや、女性をいきなり殺す点は、

彼より野蛮かな?」

 

『同じにすんな。

俺はあいつとは違う。

どちらにせよその他大勢は分身で偽物だろ?

最後に残った本物を生け捕りにすればいい』

 

《..........》

 

「ふ〜ん★前に会った時よりだいぶ頭も良くなってるようだね」

 

《これは.....》

 

 

クロウは思った。

これは良くなっていると言えるのか?

まるで別人ではないか。

これは主水の言う通りではないか。

良晴が豊臣秀長に近づいている.....

 

 

『ガルルルル.....』

 

 

良晴は自身の腕に付いた主水の血を舐める。

 

 

『不味いな。糞みたいな味だ』

 

「中々失礼だね君は★

それはしょうがない事だよ。

鬼もとい吸血鬼は人狼と右と左。

陰と陽と関係。

そもそも受け入れられないんだ。

飲むだけなら不味いで済むよ。

胃でギリギリまで消化するしね。

まぁ、お腹下すかもだけど★

血液中なんかに直接入れたら大変だ。

細胞そのものを破壊されて、

絶命してしまうからね★」

 

『じゃあ今度は噛んで、

直接血を注ぎ込んでやるよ』

 

「じゃあ僕もやっちゃおうかなぁ。

でもすぐ終わっちゃうだろうから

まだやらないけどね★」

 

『黙れよモスキートが!』

 

 

良晴が再びその駿足を見せた。

 

 

「ぐえっ!!?★」

 

「ぎゃはっ!!?★」

 

「えがっ!?★」

 

「ぎんっ!!?★」

 

 

次々に主水が血祭りにあげられる。

 

 

「"土よ動け"★」

 

 

1人の主水が幻術を使った。

その途端に地面が突然盛り上がった。

それは次第に形作られ、

巨大な腕の形になる。

 

 

『所詮は幻覚だ。

本物と捉えなければ影響はない』

 

「本物にそれで大丈夫〜?★」

 

 

巨大な腕が良晴に向かって振り下ろされる。

良晴は特に構えもせず受け止めようとする。

だが.....

 

 

『つっ.....!?』

 

 

良晴が慌てて避けた。

するとその直後、振り下ろされたその場所の地面が抉られた。

 

 

「あら、失敗★」

 

『手前ぇ.....』

 

 

なんと岩石腕の幻覚に主水の分身が隠れていたのだ。避けていなければ斬られていただろう。

 

 

「僕は鬼だけれど、本職は幻術士。

幻術のぷろふぇっしょなるの僕に、

君如きが勝てると思うかい?★」

 

『400年前の日本の化物が英語使ってんじゃねぇよ』

 

「君もある意味400年前の化物だけどね★」

 

『言うな糞ったれ』

 

「口悪いなぁ〜.....★

女の子に言う台詞じゃあないよ?」

 

『女の子ってたちか?手前ぇが?』

 

「むっ.....」

 

 

良晴の言葉は主水の癇に障ったようだ。

 

 

「やっぱり君は天竜くんとは違うわ。

天竜くんは女の子に対してそんな腹立たしい言葉なんて吐かないもん。それはそこのクロウくんも同じだね。

君を心の底から下衆って感じたよ★」

 

『んだと?』

 

 

良晴は構える。

 

 

『あいつと同類と言われるならいざ知れず、

あいつよりも下衆だと?この俺が?

ふざけるなよ下等生物がっ!!』

 

「そうそれ★

そういう差別的な考えが幼いって言ってるの。

分かんないかな〜

君の評価だだ下がりだよ?★」

 

『黙れ!!』

 

 

良晴が再び向かう。

 

 

「むぅ単細胞は変わらないみたいだね★」

 

 

主水もまた再び地面の土を幻術にて操り、巨大な腕を出現させる。

 

 

『同じ手が食うかよ!!』

 

 

良晴は岩石腕の中に潜んでいるであろう主水を攻撃しようと突撃する。だが.....

 

 

『!?』

 

 

岩石腕には誰もいなく、

そのまま通過してしまう。

 

 

『しまっ.....』

 

 

まんまと罠にはまった。

今度はただの幻覚だった。

俺は敵の射程圏に自ら飛び込んだようなものだ。

岩石腕を通過した直後の事、

別方向より主水が攻撃してきたのだ。

 

 

「スッキあり〜★」

 

 

良晴は刀で背中を斬りつけられた。

 

 

『がぁっ!!?』

 

「やっぱ鉄刀じゃ厳しいか★

銀刀ぐらいは用意しないとねぇ★」

 

『この糞がぁ!!』

 

 

良晴はその主水を八つ裂きにした。

 

 

 

「まだ来るよ〜★」

 

『くっ.....!!』

 

 

良晴は今度ははなから近付こうとせず、

岩石腕から距離を取ろうとするが、

 

 

「後ろも見ないと★」

 

『なっ!?』

 

 

今まで姿を幻術で隠していた主水が突然斬りつけた。

 

 

『ガルググググ.....!!』

 

 

良晴の怒りがさらに溜まる。

 

 

「くひひひひひ!!★」

 

 

主水が再び斬りかかってくる。

だが、幻覚か本物かも分からない。

 

 

『くそっ.....』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《良晴〜!!!》

 

 

クロウが双剣を持って駆け付ける。

 

 

『!?』

 

 

だが、クロウが斬ったのは向かってくる主水ではなく、良晴の真後ろの空虚。誰もいないはず空間だった。

 

 

「えぐっ!!?★」

 

 

すると今までは見えなかった主水が胴体から真っ二つになった状態で出現する。

逆に今まで見えた主水は消えてしまった。

 

 

『クロウ!?』

 

《いい加減にしろ良晴。

あの吸血鬼は力で押し勝てる程、

易い相手ではないぞ!》

 

『ぐぐぐ.....』

 

《良晴よ.....お前は今まで何人との吸血鬼と死闘を繰り広げた?》

 

『..........』

 

《そんな事だろうと思った。

吸血鬼は1人毎にその特性が大きく変わる!

吸血鬼を全部理解する事はできない。

敵を侮るな!

敵を過小評価するな!

戦うなら!.....殺すなら!

誠意を持って殺せ!!

殺す相手を尊重しろ!

それができないのなら、

戦いなどやめてしまえっ!!》

『貴様.....言わせておけば.....』

 

《君に少しでも良晴の部分が残っているのなら、覚えておけ!

私は差別が嫌いだ!

だから、殺す相手にはいつも敬意を払う!

命を奪う事に大小などない!

元より我らに他者の命を奪う権利など存在しないのだ。だからこそ、その罪を見極めよ!

例え相手が虫風情でも、

どうしようもない極悪人でもだ!》

 

『くっ.....』

 

 

良晴の興奮状態がやや治まる。

 

 

『分かった.....心掛けよう。

代わりに教えろ。

どうやって奴の幻術を見破った!?』

 

 

それもまた気掛かりだった。

クロウは未だ目も耳も潰れたまま。

どうやったのだ?

 

 

《見て通り、目も耳も使ってないさ。

敷いて言えば、使ったのは直感。

捉えたのは姿でも音でもない。殺気だ》

 

 

殺気.....さっきも言ってたな。

 

 

《君ももうただの人間じゃないのなら、

あの豊臣秀長から修行を受けたのなら、

できるはずさ》

 

『殺気.....』

 

「もうういいかなぁ?

戦闘を再開せてもさ★」

 

 

クロウの言葉を受け、今までの荒々しい態度を改めて、ゆっくりと目を閉じた。

主水らはもう動いている。

 

 

『....................殺気』

 

 

使うのは目でも耳でもない。

使うのは第六感のようなものか?

 

 

「くけけけけけけけ!!!★」

 

 

前方より主水の高笑いが聞こえる。

だが良晴はその声をあえて無視した。

 

 

『....................殺気』

 

「くひひひひひ!!!★」

 

 

主水の声はさらに近づいてくる。

 

 

『........................................殺気』

 

 

そして.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『.....後ろ..........左斜め上』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所さえ掴めれば、後は簡単だった。

 

 

「げっ.....ぐがぁっ!!?★」

 

 

前方より聞こえた主水の声は幻聴。

本物の主水は姿を消して後ろにいた。

人狼のスピードは吸血鬼とは比べものにはならない。居場所を完全に捉えられてしまった以上、吸血鬼に勝ち目はない。

 

 

「がぐっ.....ぐぐぐぐ....★」

 

 

首を握られた主水は呼吸を無理矢理止められている。

 

 

『確かにそうだ。戦う相手には敬意を示さなければならない。さっきの俺はどうかしていたのかもしれない。

なにぶんこの身体には慣れてなくてな』

 

「げぎゃっ!!?★」

 

 

良晴は主水の首を握り潰した。

 

 

『少しだけだがコツは掴んだ。

.....いけそうだ』

 

 

良晴は動いた。

 

 

『ガアアアアアアアアァァァ!!!』

 

 

狂戦士は舞う。

ハチャメチャな戦闘にも見えたが、

圧倒的にその戦闘スタイルが違う。

それは視覚でもない、聴覚でもない。

使うのは第六感。

 

 

『ガアアアアァァァ!!!』

 

「ひぎゃっ!!?★」

 

 

良晴は幻覚主水の後ろに重なるように隠れていた本物の主水の胸を素手で貫いた。

 

 

『ガルルルルルルァァァ!!!』

 

「げはっ!!?★」

 

 

良晴がそこらに落ちていた刀を拾い、そのまま地面に突き刺した。すると、地面に擬態していた主水が浮かび上がった。

 

 

『ガアアアアアアアアァァァ!!!』

 

 

先程までの翻弄が嘘のように、

良晴は次々に主水を殺害する。

幻覚と本物を正確に捉え、

本物だけを確実に始末している。

 

 

《ふっ!!はっ!!たぁ!!》

 

 

クロウもまた同じように主水を斬っていた。

 

 

《..........》

 

 

だが、その視線はずっと良晴に向いていた。

 

 

《人狼.....豊臣良晴秀吉》

 

 

クロウはこの男の存在に恐怖した。

殺気で相手を捉える方法など、教えてすぐ習得できるような簡単なものではない。

だが、良晴は瞬時に行ってみせた。

 

 

《人狼.....ウェアウルフ》

 

 

彼がどのような経緯で人狼になったのかは定かではない。だが、彼が明らかに人狼とはまた違う人狼になっているのが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

本来の人狼は理性を持たないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

人間形態時は別として、人狼形態時は人間であった部分を全く残せないのだ。本能赴くままに殺戮の限りを尽くす化物。

それ故に吸血鬼によって使役させられてしまう事もあるが、時として吸血鬼を上回った力によって主人すらも食い殺す事もあるのだ。

にも関わらず、

良晴には野蛮ではあったが理性があった。

おまけに喋った。

人狼は今までにも斬った事はあったが、

こんな種を見たのは初めてだ。

 

 

いや....."あの人狼"以来か。

 

 

今は辛うじて味方.....か?

少なくとも共闘はできている。

おまけに人狼良晴は驚く程強い。

一時は魔法で優位に立っていた主水も、

見破られた途端に一気に劣勢に立たされた。

100人近くいた主水もどんどん数を減らし、ついには指で数えられる程になっている。

良晴がまるで風に見えた。彼だけ生きている時間軸が違うかのような駿足。

いや、あの気味の悪い移動方は.....

 

 

《コックローチ.....》

 

『誰がゴキブリだコラァ!!』

 

 

クロウのテレパシーを感じ取った良晴がこちらにツッコミを入れてきた。

以前良晴に豊臣秀長の弱点を聞いた事があったが、奴はゴキブリが苦手らしい。一目見ただけで一目散に逃げ出す程だとの事らしい。

 

まさか奴の弱点は良晴!?

 

なんて馬鹿な考えはともかくだ。

良晴が味方(?)であるだけでありがたい。

もし彼が人狼としての本能を覚醒させて、

人々を襲うような存在になれば.....

豊臣秀長と並ぶ脅威。

いや、それ以上の脅威となるだろう。

 

 

《願うばかりだ》

 

 

良晴が寝返らないよう願うばかり。

この手で彼を殺す日だけは来て欲しくない。

 

 

「「くけけけけけけけ!!!★」」

 

 

クロウの後ろから2人の主水が襲う。

 

 

《ふっ!!》

 

「「ぐえぇっ!!?★」」

 

 

双剣を2人の額に突き刺して始末する。

 

 

《勝負..........着いたか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ..........くそっ!☆」

 

 

たった1人残った主水が半殺し状態で倒れていた。恐らくこいつが本物だろう。

変身も解け、元の女子の状態だ。

 

 

『覚悟できたか?』

 

「くっ、くくくく.....天竜くんと戦う前に倒れちゃったのは残念だけど、君にすら勝てないんじゃ、彼にも到底敵わないってとこか.....ひょっとしたら、彼より君の方が強いのかも☆」

 

『ふんっ.....』

 

 

良晴が手刀を構え、

主水の胸を貫こうとしている。

 

 

『そのぉ.....なんだ。

お前との勝負は楽しかった。ありがとう』

 

「くふふふ.....

本当に面白いね君☆

今後の展開がどうなるかも気になるけどしょうがないね。いいよ。やれば?☆」

 

『そうさせてもらおう』

 

《..........》

 

 

クロウは目を逸らした。

主水よりコピーした鬼の力で目玉も耳も再生させたクロウ。後で再生できるとふんだ上で、この選択を取ったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って下さい殿!!」

 

 

遠くから声が聞こえる。

ポニーみたいな馬に乗った半兵衛と官兵衛だった。一度退いた2人は改めて戻って来たのだ。

 

 

「良晴さ..........!!?」

 

「これは.....!?」

 

 

2人は驚愕した。目の前より感じてくる霊気は確かに良晴のもののはずなのに、目の前にいるのは狼の化物。

敗れた主水を今にも殺そうとしている。

 

 

「良晴さん..........なんでっ!?」

 

 

半兵衛が叫ぶ。

 

 

「なんでなんですか!?

どうして..........そんな.....」

 

 

馬から降りた彼女はその場に崩れ落ちた。

 

 

「良晴..........何故黙ってたんだ。

本陣に戻ってから君の霊気が跳ね上がったから、何事かとは思ったが.....」

 

 

官兵衛も驚きを隠せなかった。

 

 

『半兵衛.....官兵衛.....』

 

 

良晴は低い声で言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前ら美味そうだな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

「いかん!!離れろ2人共!!」

 

 

クロウが叫んだ。

 

 

『喰わせろぉぉぉ!!!』

 

 

突如良晴が2人に牙を向いた。

 

 

「くっ.....!?」

 

 

慌ててクロウが双剣で止める。

 

 

『どけっ!!邪魔だ!!』

 

「落ち着け良晴!!

あの子らは君の大事な仲間じゃないか!!

あの子らを食べる気か!!?」

 

『邪魔だクロウ!!お前も喰うぞ!!』

 

「くっ.....!?」

 

 

この良晴はもう.....

悪魔や妖怪の食欲は、

その者の性欲や愛にも比例するという。

良晴は2人が好きなのだ。

だからこそ視線に入った瞬間、

彼の人間の部分が飛んだのだろう。

もう説得した所で意味はない。

こいつはただの人狼だ。

 

 

「お願いだ。これ以上は待てない。

これ以上は..........

君を殺さないといけない!!」

 

 

こんなにも早くこの時がやってくるなんて.....

恐らく簡単に殺せるだろう。

今の自分の力は良晴の人狼の力をコピーして、その1.5倍の力を持っている。

あぁ、自分はなんて不幸なのだ。

 

 

『ガルルルァァァァ!!!』

 

「Amen!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く.....未熟な子には困ったものね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 

その者は突如現れた。

 

 

「君、邪魔ね」

 

「!?」

 

 

それまで良晴を抑えてたクロウが、

その者に吹っ飛ばされた。

 

 

『ガッ.....ガルルル.....ガルルルァ』

 

 

良晴がその者を見て驚愕していた。

もう言葉にもなっていなかった。

 

 

「あれだけその力を過信するなって伝えておいたのに、君は全く..........えいっ!」

 

『ガッ!!?』

 

 

その者が人差し指を良晴の眉間に刺した。

その瞬間良晴はその場に倒れ、

元の人間形態に戻った。

息はしている為、死んではいない。

 

 

「なっ.....なっ.....」

 

 

半兵衛が言う。

 

 

「どうして.....貴方が」

 

 

その者は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてですか....."後鬼"さん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その者は半兵衛の式神、後鬼。

前鬼と並んで半兵衛を支えていた。

戦闘支援や軍略支援を前鬼が、

生活支援を主に後鬼が行っていた。

対した力は持たない為、

滅多に表には出てこなかった式神だ。

 

 

「ごめんなさい主人様。

召喚される前に出ちゃいました」

 

「後鬼.....さん?」

 

 

普段と少し様子が違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「離れろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロウが再び叫ぶ。

先程より大きな声で、焦った声で.....

クロウは後鬼に双剣を構えていた。

信じられない量の汗をかきながら、

歯をガチガチと鳴らしながら.....

 

 

「なんでお前が!!」

 

「あら?ガブリエル・アンダーソン?

お久しぶりね」

 

「えっ!?」

 

 

半兵衛は驚く。何故後鬼とクロウが知り合い!?

クロウはここ数年で来日したばかりの異国の神父のはず。自分の知る限りでは2人はあっていないはず。

 

 

「竹中半兵衛!!君は今まで何も知らずにこいつを使役していたというのか!?」

 

「えっ.....」

 

「うふふふ.....」

 

 

後鬼は不敵に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつは、あのドラキュラの片腕!

ドラキュラ軍の双璧と言われた奴だ!

ワラキア国をあそこまで強国にした大将軍。

オスマン帝国をあべこべに追い詰めた化物!」

 

 

史実では、ルーマニアはオスマン帝国の植民地状態にあり、何度も何度も独立戦争を起こすが、失敗。

正式にルーマニアとして独立したのは、

第一次世界大戦後との事。

 

だが、この世界では違うらしい。

むしろオスマン帝国を追い詰めている。

 

 

「その力はドラキュラにも匹敵する.....

伝説の最強のウェアウルフ。

その強さから"ベルセルク"の異名を持って、他の人狼からも分けられる人狼の中の人狼。

その名前はギリシャ神話の魔犬と同じ、

ドラキュラ軍の番犬とも言われた女!」

 

 

クロウは言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人狼.....オルトロス!!」

 

 

 

 

 

 

それは.....幼少期の天竜のペットの名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の顔だけは忘れない!!何故なら数年前にお前を倒したのは俺なんだからな!!」

 

 

クロウの一人称が変わる。

それだけ興奮しているのだ。

 

 

「あははははは!!!

この我が人間風情にやられるぅ?

馬鹿も休み休み言いなさい!」

 

「くっ.....!!」

 

「後鬼さんが.....ドラキュラの片腕?」

 

 

今の主人である半兵衛は驚くしかない。

 

 

「後鬼ぃぃ!!!

なんでお前がここにぃぃ!!!☆」

 

 

半殺し状態だった主水が急に怒りをあらわにさせる。2人共半兵衛の下で働いていたのだ。

 

 

「あら、主水さん。

前に喧嘩した以来ね」

 

 

主水の喧嘩相手とは、後鬼だったのだ。

 

 

「まっ、まさか!?☆

"奴"が仕組んだのか!?

"奴"が全ての黒幕だったというのか!?☆」

 

「はい、そこまでね」

 

 

後鬼が掌を主水に向ける。

 

 

「なっ!!?☆」

 

「失せろ」

 

 

後鬼が掌から何かを放った。

それは『妖力波』

自信が持つ霊力をそのまま放つ熱線だ。

全てを焼き尽くす最強の妖術。

案の定、主水は跡形もなく消し飛んだ。

 

 

「ふぅ、五月蝿いのが消えました」

 

「後鬼さん!!なんで.....

なんで主水さんを殺したんですか!!?」

 

「殺してませんよ?」

 

「!?」

 

「今のは彼女の分身。

多分最初の分裂の時点で8本の髪を抜いて、分身を8体誕生させて、本物はとっくに隠れていたんですよ。

よく探れば、ほら。

遠くの方に彼女の霊力を感じるでしょ?」

 

「..........」

 

「さっ、邪魔者は消えました。

さっさと島津軍を追い詰めて、

豊後国を奪還しちゃいましょう!」

 

 

後鬼は朗らかに言う。

 

 

「後鬼さん.....」

 

「はい?」

 

「あなたは誰ですか?」

 

 

今更になって言う。

彼女と会ったのは7年近く前。

それまでそんな事気にもしなかったのに.....

 

 

「ただの後鬼ですよ」

 

「!?」

 

「ただし、同時にオルトロスでもあります。

"ベルセルク"とも"番犬"とも呼ばれた。

ドラキュラの唯一無二の親友です」

 

「一体.....なんで.....」

 

「うふふふふ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人狼オルトロスは不気味に笑う。

 




ここで後鬼を使いました。
ついでに以前の過去編の伏線を回収しました。
後鬼の正体は人狼オルトロス。ドラキュラの片腕。
良晴を人狼にしたのも彼女。
その真意とは.....?
次回予告
島津軍との死闘
〜逆転された島津はやがて.....〜

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