天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

82 / 124
風邪を引いて更新が遅くなりました。

免許受かりました!


第六十六話 サタン教

富士山頂上付近で和解した天竜と宗麟。

これからまた豊後に戻らなければならない。

 

 

「ぷっ.....」

 

「ん?.....どうした宗麟?」

 

 

宗麟は再び微笑する。

 

 

「だって今思い返せばFunny(可笑しい)なんですもの」

 

「何がだ?」

 

「直前まで言ってたのが、

『HumanはHumanにしか救えない』

なんて言っていたのに、

『Meは助けない。Youが勝手に助かるんだ』

だなんて、完全にContradiction(矛盾)してます」

 

「ふふっ.....矛盾なんてしてないさ。

だってSave(救う)とHelp(助ける)だぜ?」

 

「Vocabulary(語彙)の違いでしょう?」

 

「いいや。俺にとっちゃ中身も違う」

 

「Why?」

 

「さぁな。俺にも説明できん。ふふっ.....」

 

「?」

 

 

よく理解できない宗麟だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、帰るか。

.....と言いたい所だが、どうすっかなぁ」

 

 

2回も完全再生した上に、マッハ越えの高速飛行により、天竜は帰るだけの余力を残していない。

 

 

「ヘリ1機でも出せればいいが.....」

 

 

そんな中、天竜は後ろで弱々しく佇む宗麟を見る。

 

 

「なぁ、宗麟。

お前に錬金術を教えたのは誰だ?

それと俺の悪口振りまいたのは?」

 

 

昨今の日本において、錬金術を習得をしていると思われるのは3人。1人はこの大友宗麟。後の2人は千利休とその弟子の古田織部だ。

織部は千利休から技を盗んで応用し、

ナノマシンを手に入れた。

そして利休は.....

 

 

 

 

 

 

 

「お前の師匠はひょっとして.....

『サンジェルマン伯爵』か?」

 

 

 

 

 

 

 

「!?..........何故ご存知なのですか!?」

 

「やっぱりか.....」

 

 

サンジェルマン伯爵.....謎多き男。

宗麟がナノマシンを使い出した時から、

奴の名前が脳内でちらついていた。

利休に錬金術を教えたのは奴。

なら宗麟も同じではないかと.....

 

そこでまた疑問が残る。

俺は当初、利休は味方であると思っていた。

それは、黒魔術師のサンジェルマンが彼女の師という事を知って、その考えは濃くなった。

だが、利休は根っからのキリスト教信者だった。そして、宗麟も言うまでもなくキリスト教信者であった。

 

なら、サンジェルマン伯爵とは何者だ?

 

伯爵もまた、実はキリスト教信者なのか?

仮にそうでなかったとして、

何故自分に不利のような事をする?

『敵』に力を与える?

目的は何だ?何なのだ?

 

 

「少なくとも、私にAlchemy(錬金術)をお教え下さったのはEarl Saint-Germain(サンジェルマン伯爵)様です」

 

 

宗麟が含みのある言い方をする。

 

 

「すると、お前を唆したのは.....

サンジェルマンとは別の人間か?」

 

「.....Yes」

 

「誰か教えてくれないか?」

 

「Found(分かりました)。

そのお方は宣教師様です」

 

「まぁ、予想はしてたよ」

 

 

となると、容疑者はあいつか?

 

 

「ガスパール・コエリオか?」

 

 

天竜は尋ねる。

 

 

「いえ、確かにあのお方も関わってはいますが、Center(中心)となった方ではありません」

 

「じゃあ、誰だ?」

 

 

宗麟は答えた。

更なる恐怖となる答えを.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Francisco de Xavier

(フランシスコ・デ・ザビエル)様です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豊後、臼杵城下。

4体に分裂した(させた)マーキュリーとの決戦をしていた良晴ら。

官兵衛以外生身の一般人であるこのキャラバンで、果たしてこの鋼の化物を倒せるのか!?

とはいえ、生身で化物並のアサシンが4人もいるのだが.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というか、こっちの方が化物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あはははははははは!!!!」」

 

 

昔から変わらない、無邪気な笑い声と共に残虐に身体を動かす双子。

 

 

「ねぇ〜!待ってよぉ!」

 

「ギギィッ〜!?」

 

 

逃げ惑うマーキュリーαを鉄砲を乱射しながら追いかけ回す阿斗。いや、鉄砲と言うにはそれは、あまりに簡潔過ぎる。

彼女は機関銃を装備していた。

『トンプソン・サブマシンガンm1928A1』

世界大戦において、アメリカ軍が製作した機関銃だ。1分で600発は撃てるフルオート機能を持っている。

第二次世界大戦において日本人を何万人も蜂の巣にして殺害したこの兵器を阿斗が使用するのは、皮肉なものだが.....

 

 

「きゃははははははははははははは!!!」

 

 

阿斗は至って楽しそうだった。

恐らく天竜の召喚によるものだが、

何てものを子供に渡すのだ!

 

 

「あはははははははははは!!!!」

 

「ギギャッ!?」

 

 

一方の吽斗。

彼は特殊剣にてマーキュリーβしつこくを追いかけ回し、撫で払っていた。

その特殊剣は.....

かつて今川氏真が使用した剣。

『蛇腹剣』であった。

対左馬助戦の唯一の生き残りである吽斗がこの剣を受け継いだのだ。

マーキュリーβがどれだけ距離を離そうと逃げ惑っても、蛇腹剣はしつこく対象者を追い回し、必要以上に傷を付ける。

 

 

「いやぁ!!へあぁ!!かあぁ!!」

 

「ゲギャッ!?」

 

 

 

石川五右衛門こと凪は、マーキュリーγをまるで絹ごし豆腐の如くスパスパ斬っている。刀の斬れ味がいいのか、剣士の腕がいいのか.....

いや、両方だろう。

ただの鉄刀ではないのか?

だが斬れ味が良すぎて、小型のマーキュリーがどんどん増えてしまっている。

 

 

 

「くたばれっ!!」

 

「ゴギャッ!?」

 

 

仙千代もまた、マーキュリーδを斬り裂く。

先程は斬り裂けなかった鋼鉄の糸だが、

今度は悠々とマーキュリーを斬り裂いている。

それは何故か?

糸を束ねて使っているからだ。

輪ゴムは数千個重ねれば西瓜も砕く。

それと同じように鋼鉄の糸を何重にも重ねて大きな鞭を錬成しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺らいらねぇな」

 

「シム」

 

 

見学者の良晴と官兵衛。

役に立っていないというか、

入り込む余地すらない。

生身で化物とタメを張れる4人とは違うのだ。

 

 

「天竜どこいったんかなぁ」

 

「分からないね。東に行ったようだけど、

姫路城あたりにいるんじゃないかい?」

 

 

いや、富士山にいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ギギギギガガガガガ!!!」」」」

 

 

突然、4体のマーキュリーが叫び出した。

次の瞬間、マーキュリーらのいる地面がどんどん銀色に変色してきている。

 

 

「まっ.....まずい!!」

 

 

官兵衛が言う。

 

 

地面は変色しているというよりは、

変化しているようだった。

同じ水銀に.....

 

 

「「「「ギャギャギャギャギャ!!!」」」

 

 

水銀に変化した地面をそれぞれのマーキュリーが捕食している。それに乗じて4体のマーキュリーが巨大化している。

 

 

「馬鹿な.....ナノマシンが自ら錬金術を使って地面を変化させた!?あり得ない!!」

 

 

官兵衛が否定する。

だが、現実に起きてしまっている。

 

 

『「ギギィギギィギャギャギャギャ!!!」』

 

 

更に、4体が再び融合した。

最初の時の10倍ぐらいの大きさになっている。

 

 

「キングスライムかよ.....

いや、この場合はメタルキング?

それともゴールデンスライム?」

 

「何を馬鹿言っているんだい!」

 

 

緊張感のない良晴を一蹴する。

 

 

「これは私にも無理だ!」

 

「くっ!天竜はいつ帰ってくる!?」

 

「まるで怪獣だね」

 

「獣じゃないから怪金属じゃない?」

 

 

4人のアサシンにもお手上げのようだった。

 

 

 

「何をやってるんだい豊臣秀長!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

富士山頂。

 

 

「馬鹿な!!

フランシスコ・ザビエルだと!?

ザビエルは10年以上前に死んでいるはずだ!」

 

「No。ザビエル様はLive(生きて)しれおられます。数日前にもMeet(会う)しました」

 

 

どういう事だ?

 

 

「ザビエル様は.....本気でこの日本をDestroy(滅ぼす)おつもりなんです」

 

「何っ!?」

 

「以前Meetした時は.....

あんな方ではなかったのに.....」

 

「詳しく教えろ!

一体何が起きてるんだ!?」

 

「げほっ!.....

そもそものTrigger(キッカケ)は.....

私の義妹が.....

Anti-Christian(反キリスト教徒)に.....

なったから.....」

 

 

だんだん宗麟の息遣いがおかしくなっている。

 

 

「義妹!?」

 

「...........すまない奈多.....

これは私へのPunishment(罰)だろう.....

げほっ!!げほっ!!」

 

「奈多夫人か!?」

 

 

『奈多夫人』

史実において、宗麟の正室にあたる。

あまり知られていないが、

大友宗麟の正室はアンチなのだ。

彼女は八幡奈多宮の生まれであり、

神道を重んじている。

だが、宣教師が持ち込んだキリスト教によって、夫や息子がキリシタンになってしまい、彼女の運命は変わった。

周りがどんどんキリシタンになっていく中で、彼女だけが神道を貫き通し、決してキリスト教を許さなかった。

多くの者に棄教を勧め、

従わぬ者には廃嫡処分を与えた。

宣教師とも真っ向から対立し、

激怒した宣教師が彼女に、

当時キリスト教の敵である、

イスラエルの王の妃の名をとって、

『大悪女イザベラ』と渾名を付ける事もあった。

宣教師達は、宗麟に奈多夫人と離婚するよう訴えかけた。宗麟はそれにまんまと乗ってしまい、一族の大反対があったにもかかわらず、あっさりと離婚してしまう。

その後、侍女であり宗麟の愛人でもあったキリシタンのジュリアが、宗麟の新しい正室になったという。

奈多夫人は離婚後も、宣教師らからの嫌がらせを受ける事があったが、決してその信念を曲げる事はなかったようだ。

 

この世界では、奈多夫人は宗麟の義妹として登場しており、史実と似たような出来事があったのだろう。

 

 

「ごめん奈多..........ごめん澪琴(みこと)」

 

 

どうやら名前は奈多(大友)澪琴らしい。

 

 

「宣教師様達ばかりをPriority(優先)して、

あの子を大友家から追い出したから、

だから...........Damnation(天罰)が下ったんだ.....

げほっ!!げほっ!!げほっ!!」

 

「宗麟!?」

 

「太閤様.....後はお頼みします.....

げほっ!!!」

 

「!!?」

 

 

宗麟は吐血した。

 

 

「宗麟!!!」

 

「折角Settlement(和解)できたのに.....すみません」

 

「まさか.....まだマーキュリーとの接続を切っていないのか!?」

 

 

豊後と富士のある駿河では1000km以上も距離がある。それだけ離れているにもかかわらず、まだ霊力を送り続けているとなると、術者への負担は相当なものとなるだろう。

 

 

「一体何故!?」

 

「Mercuryは私とのLink(接続)が切れれば、

近くのDragon pulse(龍脈)から

Spiritual power(霊力)を吸収する習性がある.....

だからMercuryは無敵.....げほっ!!

手っ取り早く消滅させるならば、

必要以上にSpiritual powerを送り込み、

Overheat(オーバーヒート)させれば.....

MercuryはCessation of activity(活動停止)する.....

げほっ!!げほっ!!」

 

「宗麟.....」

 

「島津との戦.....

きっと貴方様ならWin(勝つ)するでしょう.....

そして、この国のRepresentative(代表)である貴方様なら.....げほっ!!

キリシタンの行く末もFree(自由)にできる。

だからお願いです.....

この日本を.....Peace(平和)な国に.....

げほっ!!げほっ!!」

 

 

なおも吐血し続ける宗麟。

 

 

「ふざけるなっ!!

天下統一を目の前にして、

一足早く退場するというのか!

俺は認めないぞそんなもの!

死ぬのなら全てやり切ってから死ね!

何もかもを中途半端にして死ぬな!

言ったじゃないか!

これからは共に協力し合おうと.....

勝手に死ぬ事は許さない!

人間を捨ててでも生きてもらうぞ大分宗麟!」

 

 

天竜は宗麟を抱き寄せる。

 

 

「.....太閤様?」

 

 

天竜はふと、2年前の出来事を思い出す。

あの時ヒコを吸血鬼にしていれば、

ヒコはまだ生きていただろうし、

義元が壊れる事も、

義昭と対立する事もなかった。

ヒコの反対など聞かず、

無理矢理にでもやっておけば.....

 

 

「お前を吸血鬼にする」

 

「Vampire!?

駄目ですそんなの!!」

 

「黙れ。俺は二度と同じ轍は踏まない!

これ以上大事な奴を.....

死なせるわけにはいかない!

お前を救う為なら、

俺は鬼にも悪魔にもなる!」

 

 

天竜は宗麟の首筋に歯を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臼杵城下。

巨大化したマーキュリーを前に、

6人は動けずにいた。

 

 

「くそっ!」

 

 

良晴が呻く。

 

 

『「ガガガギギギギゲゲゲ!!!」』

 

 

巨大マーキュリーが攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Τεράστια εμφάνιση κύβος

Terástia emfánisi̱ kývos!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「!!?」」」」」」

 

 

何者かが呪文のようなものを唱えた。

次の瞬間、マーキュリーの上空に金属製の巨大な立方体が出現する。

 

 

『「ギルガガガガ!?」』

 

 

鉄製の立方体はそのまま真下に落下する。

 

 

『「ギュペッ!!?」』

 

 

マーキュリーは押し潰されてしまった。

 

 

「くふふふふふふ.....

塩ちゃんもまだまだ未熟だな」

 

 

宗麟の幼名は塩法師丸。

 

 

「あんた...........は?」

 

「ん?」

 

「あんた誰だ?」

 

 

その男は、南蛮服に金髪。

40代の中年の外国人。

胸には逆十字。

 

 

「私の名前はサンジェルマン」

 

「サンジェルマン?」

 

 

良晴には聞き覚えのない名前であった。

 

 

「君が未来からもう1人来た、

相良良晴君だね?」

 

「俺を知ってるのか!?」

 

「私は何でも知っているからね」

 

 

堂々言い放つ。

 

 

「伯爵様。そろそろ.....」

 

 

伯爵の隣にいた少女が言う。

 

 

「君は?」

 

「私の名は奈多。渾名はイザベラ。

どちらでもお好きな呼び方をどうぞ」

 

 

なんと宗麟の妹だ。

服装は日本の神道式の巫女服。

だが、胸には伯爵と同じく逆十字が。

 

 

「気軽にベラちゃんって呼んであげな」

 

 

伯爵が言う。

 

 

「はぁ.....」

 

 

「ところで良晴君。

早くこの豊後の地を離れた方がいい」

 

「?」

 

「南方より島津が攻めて来た」

 

「!?」

 

「史実上、豊後は島津に一時的に奪われる。だが、豊臣本軍の介入によりすぐに奪還できる。

それまでは筑前に避難すべきだ」

 

「...........」

 

 

この感じ、何処かで.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギルガガガガ!!」

 

「「「!!?」」」

 

 

9割が金属の立方体に押し潰されたマーキュリーだったが、残りの生き残った1割が良晴の方へ襲って来たのだ。

 

 

「うわぁっ!!?」

 

「おやおや。

塩ちゃんを侮り過ぎたか」

 

 

伯爵は余裕の表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギニャッ!!?」

 

 

マーキュリーは再び押し潰された。

だが、やったのは伯爵ではない。

 

 

「大友宗麟!!?」

 

 

良晴は驚愕する。天竜と共に何処かへ飛び去った宗麟が戻って来たのだ。

だが決定的に違うのは、

翼を生やした天竜が宗麟を

連れて行ったのに対して、

『翼を生やした宗麟』が天竜を

連れて来たのだ。

 

 

「おやおや。塩ちゃんも眷属デビューかい?」

 

「...........伯爵様」

 

 

宗麟は物静かに呟く。

彼女の瞳は紅に染まっていた。

 

 

「ただいま良晴」

 

「天竜...........宗麟に一体何を?」

 

「何って.....ほっといたら死んじゃいそうだから、人間を辞めてもらったんだよ」

 

「!?」

 

「丁度良かったんだ。

魔力を全部使い果たしたのに、

周囲には供給できるものが何もない。

帰るに帰れなかったんだよ。

『だから宗麟を吸血鬼にした』

その上で俺の翼を植え付けたんだ。

驚いたよ。

まさか俺より5倍も早く飛べるたぁね。

行きに1時間かかったのに、

帰りは10分足らずだよ」

 

「なっ.....!?」

 

 

宗麟は天竜の眷属になっていた。

 

 

「自分の都合の為だけに.....

宗麟を化物にしたっていうのか!!」

 

「口を慎め。

それは宗麟も侮辱する事になる。

.....まぁ、否定はしないがね」

 

「腐ってやがる!」

 

「お前と対して変わらんよ」

 

「ちっ!」

 

 

表では協力し合う仲良し兄弟も、

裏ではこうも歪み合っている。

 

 

「.....姉上?」

 

 

奈多は、人間ではなくなった元義姉に話しかける。白いコウモリの翼を生やした宗麟は、哀らしい表情を浮かべていた。

 

 

「澪琴...........ですか。

笑えるでしょう?

貴方を異端と言って追い出した私が、

異端の象徴である吸血鬼になるなんて」

 

 

宗麟は妹相手に、あえて日本語のみで語る。

 

「笑えませんよ.....」

 

「.....澪琴...........ごめん」

 

「何故謝るのです?」

 

「だって.....」

 

「姉上は昔から駄目人間じゃないですか。ちゃんと見てないと何をやらかすか分からない阿呆です。

挙句の果てに悪徳な異国宗教に惑わされて.....

人間を辞めた以前に、姉上は人間としてトコトン終わってたではありませんか」

 

「うぅ.....」

 

 

奈多はかなりの毒舌だった。

 

 

「だから.....

今更吸血鬼になった所で、

嫌いになったりしませんよ」

 

「!?」

 

「むしろ目が覚めたんじゃないですか?

今までの愚者としての人間から一新、

新しい人生が開けたんですから。

いや、吸血鬼生ですかね?」

 

「...........澪琴」

 

 

宗麟は泣いた。

 

 

「泣けるうちは姉上は人間ですよ。

姉上は心が純粋なんです。まぁ、純粋過ぎてすぐ騙される馬鹿ですけどね」

 

「ごめんなさい!」

 

 

やっぱり怒っている!?

 

 

「心が人間であるだけマシですよ。

人間の分際で悪魔の心を持った屑もこの世には巨万といるのですから」

 

「...........」

 

 

奈多が天竜と同じ事を言った。

それで、何だか安心してしまった。

 

 

「姉上。私は貴方が異国宗教の虜になった事だけに怒っているのではありません。

伯爵様に習いましたが、

確かにキリスト教にも、

日本にはないいい教えはあります。

私が怒っているのは、

耶蘇に土地を売り渡した事。

我ら家族を蔑ろにした事です」

 

「うん」

 

「姉上は馬鹿ですから、

私がまた見てやらないといけませんかね」

 

「それって.....」

 

「どうしてもと言うのなら、

戻ってあげてもいいですよ?」

 

「!?」

 

 

奈多の朗らかな表情での言葉に、

暗かった宗麟はパァーッと明るくなる。

 

 

「Thank You!!」

 

「ふざけているのですか?

この状況で正気を疑いますよ?

本当に馬鹿で愚かですね。

そんなんだから耶蘇に利用されるんです」

 

「あうあう.....」

 

 

完全に頭が上がってない。

追い出してしまった負い目があるのか、

それとも昔からこんな関係なのか.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、とりあえず逃げね?」

 

 

天竜が言う。

 

 

「さっき空から見たけど、

島津の大軍が豊後に攻め込んできてる。

今の戦力じゃ勝つのは無理だ。

ここは退いて、後で取り返そう」

 

「...........」

 

伯爵と全く同じ考えを示した天竜。

良晴は改めて天竜の実力を知る。

 

 

「あんたとの話も後回しだ伯爵」

 

「構いませんよ伯爵」

 

 

ドラキュラもサンジェルマンも同爵位。

 

 

「一時的に領地手放しちゃうけど、

いいか宗麟?」

 

「構いません。

第一もう、私は貴方に逆らう事ができない」

 

 

それが吸血鬼の眷属。

 

 

「んじゃ、とっととずらかろう」

 

 

彼の4人のアサシンはその時にはもう姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

その後、島津は豊後を占領。

大友家の領地は筑前のみに留まり、

九州の九割が島津に奪われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筑前、岩屋城。

 

 

「これどう思う?」

 

 

天竜がとある書物を宗麟に渡す。

 

 

「What Is This(これは)?」

 

「黒聖書だ」

 

「Bible Black!?」

 

 

その名前の割には聖書の表紙は白だった。

 

 

「俺が編纂したんだ」

 

「これは.....」

 

 

宗麟は軽く聖書をめくる。

 

 

「その内容ならキリシタンも安堵されるぞ」

 

「ですがこれでは宣教師様が.....」

 

「何か問題でも?」

 

「いえ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜が作った聖書。

それは.....『日約聖書』だった。

 

 

日本人が作った、

日本人主導による、

日本人の為の聖書。

 

 

宣教師が植民地支配の為に持ち込んだ聖書を没収し、改めてこの聖書を与えるのだ。

 

 

「教えるのはキリスト教ではない。

『サタン教』だ」

 

「SATAN教!?」

 

「別に悪逆非道を行えという意味ではない。

聖書が伝えている事はそんなに、

普通の奴とは変わらんさ。

だが、その本質が違う」

 

「Essence(本質)?」

 

「キリストの天使としての姿がミカエル。

ミカエルとルシファーは同一天使。

ルシファーはサタン。

サタンは月読命。

この聖書における絶対の神は、

月読命。俺の母親だ」

 

「太閤様の.....」

 

「だからって神の子として教祖に崇めたてられるつもりは、塵程もない。

崇めたてられる役目は、

『正親町の天皇陛下』ただ1人」

 

 

この言い方を生み出したのは天竜。

『姫巫女』という名称から『天皇』という名称に変更したその真意とは?

 

 

「この行為の目的は、

キリシタンと宣教師の引き離し。

それと、キリシタンの保護だ。

宣教師の為のキリシタンじゃない。

日本人の為のキリシタンなんだ」

 

「日本人の為.....」

 

「これから暫くは南蛮人とは貿易のみでいこうと思っている。少なくとも鎖国するつもりはないさ。

キリシタンには異国の神ではなく、

この国の神を信仰させる。

尊敬の対象は宣教師ではなく、陛下にさせる。

キリシタンはあくまで、

外国人ではなく、日本人なんだ」

 

「Yes」

 

「『キリシタン』という名称もだ。

キリスト教信者を表すクリスチャンから来ているが、あくまでキリスト教としてのクリスチャンではなく、サタン教としてのキリシタンなんだ」

 

「Yes」

 

「日本の頂点に国家神道を。

その派生としてサタン教と仏教を置く。

サタン教と仏教が仮に対立しても、

神道によってそれを諌められるようにな。

宛らユダヤ教の派生で、

キリスト教とイスラム教が生まれたように」

 

 

異国の宗教ではなく、

日本の宗教にしてしまう。

これこそが最良策。

 

 

「白人主義のキリスト教と違い、

サタン教に差別思想は全くない。

白人も黒人も黄人も。

皆が平等で皆が同列なのだ。

人間としての差は存在しない。

それらの境界を破壊する事が俺の目的。

国境など必要ない。

世界を一つに俺はしたい」

 

「太閤様」

 

 

宗麟は尊敬の眼差しで天竜を見た。

 

 

「太閤様。Please(お願い)がございます」

 

「なんだ?」

 

「私に改めてChristian name(洗礼名)をBestow(授ける)してはもらえないでしょうか?」

 

「洗礼名?」

 

「私は今は亡きカブラル様にChristian nameを頂きました。しかし、貴方にKin(眷属)にされた事で、貴方の思いもTravel(伝わる)してきました。

そのResult(結果)、カブラル様がいかにLowest(最低)な男であったかを知りました。何故ああもRespect(尊敬)していたのかをWonder(不思議)に思う程.....

だからWiping(払拭)して、

New nameが欲しい。

是非貴方に付けて頂きたい」

 

「俺がか?

そんなのは趣味じゃないんだが、

ポチとかタマとかじゃ駄目か?」

 

「Serious(真面目)に!」

 

「そうさなぁ.....だったら」

 

 

天竜は答える。

 

 

「『ベルフェゴール』」

 

「えっ!?」

 

「サタン教に因んで悪魔の名から取った。

お前の妹さんがイザベラで、

愛称が『ベラちゃん』だろ?

ベルフェゴールだから、

愛称は『ベルちゃん』。

ベルとベラで対になってるからな。

...........駄目か?」

 

「Wonderful!!」

 

 

気に入ったようだ。

 

 

「それじゃあ、

『活版印刷術』で黒聖書を増刷するからさ。

お前さんはできる限り多くのキリシタンにサタン教を広めてくれ。国が本腰をあげてキリシタンを認可してやったんだ。きっと多くの賛同者が出るはずだ。

頼むぜベルちゃん!」

 

「Yes Your Majesty!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして宗教嫌いだった男は、

誕生した新興宗教の創設者となった。

 




サタン教は別に悪魔信仰はしません。
あくまで和式のキリスト教。
いわゆるツクヨミ教です。
果たしてこの行動がどのような結果を生むか?
良晴との歪み合いも気になる所。
次回予告
主人公豊臣良晴
〜第一次九州戦線〜

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。