天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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今回はなんだか、シリアスとシリアスの間の
遊びの回です。どうぞ楽しんで下さい。


第七話 天竜塾

私が内閣総理大臣になった。

もちろん策略と脅しで違法にである。

まず、内政を整えた。

廃止寸前に追い込まれた全国の発電所を全面駆動させた。もちろん世論の批判は無視だ。廃止ではなく、災害対策を強化することによって、再事故防止率を99%まで引き上げたのである。これで石油依存は防がれた。地球温暖化対策にもなり一石二鳥!

次に保障金不正受給者を徹底的に処罰した。与える必要性のないと判断した者らへも一銭も払わなくした。

ある時、戦争が起きた。第2次挑戦戦争だ。両者はほぼ互角。片方の国から救援を求められた。だが、私は無視した。代わりにどさくさで梅島を完全に取り返した。

結局、両軍が廃れきった所をシナ共和国による横槍によって両国は壊滅。漁夫の利で挑戦両国はシナに吸収される。

しばらく後、シナ共和国とロミア連邦の間に戦争が起こった。シナは劣勢で、我が国に救援を求めた。案の定私は無視する。その代わりにどさくさで泉画諸島を完全に取り返した。シナは敗北し、連邦に吸収された。

その後、ロミア連邦とメリケン合衆国との間で第3次世界大戦勃発。ロミアは私に救援を頼んだがもちろん無視する。代わりにどさくさで南方領土を完全に取り返した。ロミアは激戦の末、大敗。領土をガッポリ取られ、首都のモスウワのみとなった。我が国はメリケンに協力していたお陰で亜細亜全域の支配権を手に入れた。本当はメリケンのものだが、そこは私の策略である。

ここに大日本亜細亜帝国が誕生する。メリケンは現在、南下に夢中になっている。さぁ、次は君らの番だ。我が国の国力は当時の数十倍。私がいる限り敗北は

ありえないのだ!

ふはははははははははははははは!!!

 

 

 

という夢を見た。最近疲れてるのかな。

 

 

 

 

第七話

「サルとシロが義兄弟に!?どういうこと?」

 

 

安土城にて信奈の前に現れる天竜と良晴。天竜は派閥の話を上手く隠しながら、「信頼」「絆」などの言葉でどうにか誤魔化し、信奈に説明する。といっても派閥の話も天竜が良晴を唆すために考えたデタラメなのだが.....

 

「ふ~ん.....シロは六と万千代と十兵衛からそれぞれ一字貰って、羽柴秀長ね.....サルもそれに合わせて、羽柴秀吉かぁ~.....あれ?『吉』は?」

 

良晴はハッと気付く。史実で秀吉は幼名の「日吉丸」からとったと言われている。だが、良晴にはそんな幼名などない。

 

 

「あっ....あのな、信奈!実は俺の幼名がひよし....」

 

「『よし』じゃありません。『きち』です」

 

 

良晴の下手な言い分を天竜が遮った。

 

 

「へ?..........い!?」

 

 

信奈がそれに気づき、顔を赤くする。良晴は未だに理解しておらず、その光景を見ていた長秀は頭を抱える。

 

 

「私も応援していますよ信奈様。可愛い教え子.....いえ、弟のお嫁さんがこんなに美しい方とは、兄として誇りです」

 

「おおおおおおお嫁さんなんて!私はそんな!!」

 

「何言ってんだよ天竜せん.....さん!」

 

「私は教師です。貴方がたの年頃の恋路は粗方理解しているつもりですが?」

 

「むぅ~.....」

 

「良晴と結婚するという事は私の義妹にもなるんですね。信奈様の義兄になれるなんて感激だなぁ」

 

「だぁ~も~.....うるさい!!」

 

 

結局、信奈の爆発によってその場は流されてしまった。だが、内心信奈は嬉しくもあった。自分の恋を応援してくれるのは万千代と弟の信澄夫婦ぐらいだったからだ。1番応援してくれていた義父母の道三と久秀はもういない.....

 

 

「でっ!.....山城に寺子屋を建てたいんだって?」

 

「はい。それはかくかくしかじか.....」

 

 

天竜は十兵衛に説明した理由と同じ説明をする。

 

 

「いいわ!許可する!ただし条件が2つあるわ」

 

「条件とは?」

 

「どうせ作るなら堺にしなさい。あっちの方が市民で賑わってるし、その寺子屋は身分、性別問わず入学自由なんでしょ?だったら断然堺の方がいいわ!」

 

「確かにそうですね。検討しましょう。して、2つ目は?」

 

「サルの強制入学が条件よ!」

 

「何でだよ!」

 

「算術もできないサル人間をしつけてやるのよ?もっと喜びなさい」

 

「いや!未来の義務教育を終えた俺様に今更勉強なんて必要ないのさ!」

 

「何を言ってる。『日本史の評定4、国語3以外はオール2!数学に至っては1』のお前から勉強をとったら何が残る?将来は確実なNEETだぞ?」

 

「それがサルの成績?数学って算術のことよね?最悪じゃない」

 

「ぐわっ.....!ここにリアル担任いた!.....天竜さん、俺はこの時代でバリバリ大名やってるから勉強は.....」

 

「アホか!もし急に未来へ強制送還された場合どうする?お前がこの時代に来てから一度でも勉強したか?してないだろ?1年も勉強サボってたんだ。だったらお前は遅れた1年分以上の努力が必要なんだ!別に受験に勝てとまでは言わない。だが、日本人学生としてやるべき事はやって貰う。

『いつやるか?今でしょ?』」

 

「うわ~ん!天竜さんが教師モードに入っちゃった!」

 

 

「いつやるか?今でしょ?」

 

 

「2回言うなぁ~!そのセリフは俺のトラウマなんだ!」

 

「..........この2人本当に未来人だったのね」

 

 

2人の会話が全く理解出来ない信奈は改めて良晴の言っていた事を信じる。1人が言えばホラだと言われるが、2人になればその話にも信憑性が出てくる。

こうして良晴の『天竜塾』の強制入学が決定した。そして、何故か勝家と犬千代の強制入学も決定する。

 

「平手のじいが死んでからあの2人に勉強教える人いなくなっちゃったからね。特に勝家はそろそろ何か対処しないと危険よ」

 

 

軍神とうたわれる上杉謙信に対し、未だに特攻しかできてない柴田軍。放っておけば全滅の可能性もあるのだ。

 

 

「良晴を含めて3人にはそれぞれ大きな仕事がある。何も毎日登校しろというわけじゃない。ある程度余裕ができて、気が向いたらでいい。だが、登校拒否は許さん。来い!教師.....いや、兄としての命令だ!」

 

「どっちだよ!」

 

 

 

 

それから暫くして、堺に寺子屋「天竜塾」が開講する事になる。市民達は最初、怪しげな宗教屋と思って近づかなかった。だが、この塾のモットーは「入学条件」「入学料・授業料」が存在しないという事だ。興味本意で見学をする内に本気で入学を考える市民も現れた。その情報を聞きつけて、我が子を入学させたいとわざわざ遠くの地方からやって来る親子まで現れたのだ。始めは商人の若者や子供を積極的に取り入れた。武家の子では、市民達が遠慮をするからである。そのうち農村からも入学者希望者が現れるなど、開講1ヶ月で大にぎわいだった。成績に合わせて「壱・弍・参」で教室を分けるなどし、信奈の許可を貰って敷地を増やしたりし、経営費も出してくれたお陰で寺子屋はより一層豪華になっていった。

 

ただし、ここで問題が生じる。教師が足りないのだ。生徒が10人足らずだった頃は天竜1人でもなんとか出来た。しかし20、30と増えてくると、流石の天竜も手が回らなくなる。天竜は寺子屋だけでなく、己の軍の整備も同時に熟していたのだ。

天竜軍は志願兵もまとめて吸収したために、当初の倍以上、3500にまで膨れていた。中には丹波出身の兵もおり、丹波平定を成し遂げた天竜に憧れてわざわざ仕官をしたのだ。一家臣が個人で領有するには充分過ぎる兵力だ。彼らへの指導の問題、給料、次の政策。これに加えて寺子屋だ。この年で過労死するかもしれない。

 

 

「どっちか専念した方が良くね?」

 

 

前に良晴が俺を案じてそのような言葉をかけていた。確かにそうかもしれない。そこで天竜は策を練る。

 

 

「お前らにも手伝って貰う。ハルは国語、小次郎は数学、ヒコは体育を担当してくれ!」

 

 

弟子に手伝いをさせる事にした。卜伝の下にいた際、彼女らに勉強を教えていたのは天竜である。特に小次郎は教師としての才能があったのか、一際人気の講師になった。おっさんの入学希望者が増えた気もするが.....

ちなみに体育も導入した。普通は剣道などを教える所だが、商人や農民の子供に教えてもしょうがない。その為、未来の体育の授業を採用する。至ってシンプルな駆けっこやサッカーだ。偶然にも、良晴が南蛮蹴鞠としてこの世界に導入していてくれたお陰で生徒は皆楽しく授業を受けた。むしろ教師である氏真の方がウキウキしていた。

 

 

「あたしはっ!!?」

 

「お前は成績悪いだろ!とても教師にはできん。生徒としてちゃんと授業受けろ」

 

「うぅぅぅ~.....」

 

 

昔からサボりがちの武蔵は生徒として強制入学に.....

 

 

「テン兄様は頑張りすぎなのです。ちょっとはお家で休んで下さいなのです!」

 

 

とある少女が天竜に言う。天竜を兄と呼ぶ少女。読者ならもうお気づきであろう、彼の新たな義妹のねね.....

 

 

 

 

 

 

 

 

ではなかった。

彼女の名は木下秀俊。通称は辰之介。

え?だれ?オリキャラ?と思うのが普通だろう。それもそのはず、彼女の名は別の名前で有名だからだ。

 

 

 

 

時は遡り、長浜城。

良晴と天竜が義兄弟になった事を伝えるべく、唯一の親族であるねねに伝えに行った時のこと。

 

 

「兄様は羽柴秀吉になられたのですか?

兄様に兄様ができたのですか?」

 

 

いくら頭のいいねねといえど、突然の事で少し混乱している。すると天竜がねねをスッと持ち上げて抱っこをする。

 

「はじめまして。今日からねね殿の義兄となった羽柴天竜です。始めは慣れないかもしれないが、ゆっくりでいいから心を開いてくれると嬉しいな」

 

 

そう言って天竜はねねに笑顔を見せる。ねねはポッと頬を紅潮させ、うっとりした顔で返す。

 

 

「ねねにござる.....天竜殿.....どうぞよろしゅう.....」

 

「なんか俺の時とだいぶ違くねぇか?」

 

 

良晴の時は元気の良い返事の後、サル殿と呼ばれながらお玉で頭をポコポコ叩かれてたっけ?

 

 

「兄様が2人になりましたな!では、これからはそれぞれヨシ兄様、テン兄様と呼ばせて貰いまするぞ!」

 

天竜が穏やかな表情でねねを撫でていると.....

 

 

「天竜.....殿?」

 

 

部屋の奥からか細い声が聞こえる。良晴と天竜がその方向を見ると、小さな女の子が襖の影から覗いている。

 

 

「ねね、あの子だれ?」

 

「ねねの従姉妹にござる!辰之介、こっちに来なされ!」

 

 

すると、辰之介と呼ばれた少女がオドオドしながら出てくる。雰囲気が半兵衛に似ているなと思う良晴。

 

 

「木下秀俊なのです.....」

 

 

彼女がボソッと答える。名前からすれば姫武将なのだが、イマイチ名前にピンとこない良晴は後世にも名を残せなかった武将なのだと思った。だが、天竜は.....

 

 

「すまない。もう一度名前を言ってくれるか?」

 

「?.....木下辰之介秀俊です.....」

 

「やっぱり.....」

 

「あの.....?」

 

「辰之介!今日から俺の義妹になれ!」

 

「..........ふぇっ!?」

 

 

天竜が突然、謎の提案を持ち出す。ついに死素魂(シスコン)に目覚めてしまったのか?

 

 

「おいおいおいおいおい!ちょっと、天竜さん!それってどうゆう.....」

 

「天竜殿の義妹になれるなんて光栄なのです!あぁ、私はまだ神に見放されてなかったなのです!」

 

 

辰之介が急に元気になる。さっきとは打って変わり、今度はねねみたいだ。

 

 

「今日から4人兄弟だ!一気に賑やかになるな!」

 

 

「ちょっと、待て!勝手に妹増やすなよ!」

 

 

良晴が天竜に指摘すると、辰之介はまるで死刑宣告をくらったかのようなどん底の顔をして良晴を見る。

 

 

「そんな.....秀吉様.....私に死ねと.....?」

 

「いやいやいや!言ってないよ?そんな事」

 

 

すると辰之介は涙を流し、酷く落ち込む。

 

 

「あ~あ~良晴。小さい子泣かした~」

 

「ヨシ兄様.....最低ですぞ!」

 

「が~!!いいよ!妹になってもいいよ!」

 

「ぐすっ.....ありがとうございましたなのです」

 

 

 

 

それ以降も辰之介は良晴を怖がり、天竜やねねにしか心を開かなかった。彼女を一度、その場から外した良晴は当然天竜を問い詰める。

 

 

「どういうつもりだよ天竜さん!いきなり得体のしれない子を義妹に引き取るなんて!」

 

 

彼女、木下秀俊の両親はつい最近に病で亡くなったらしく、孤児になっていた所でねねを頼ったのだ。そのような境遇を同情する所もあるのだが、良晴には独断で契りを済ませてしまった天竜には納得できる所がない。

 

 

「歴史好きのお前でもあの子の正体は流石にわからんか」

 

「正体?あの子が後に名を残す武将に成長するのか?」

 

「あぁ、かなり有名だぞ?」

 

 

良晴は思考を探る。木下秀俊、木下秀俊.....全く出てこない。

 

 

 

....................あれ?木下って.....

 

 

 

 

 

 

 

「あの子は小早川秀秋だ」

 

 

 

 

 

 

 

「...............えぇぇぇぇぇ!!!?」

 

 

読者の中には濃いマニアとして気づけた者もいるかもしれない。

「小早川秀秋」元の名は木下秀俊。史実ではねねの甥として誕生し、豊臣家長男「鶴松」が死んだ際、秀吉に養子入りし、将来は関白職も約束されていたのだが、秀頼が生まれてしまったために、現在は敵方にいる小早川隆景の養子に出されてしまった悲運の武将である。この世界なら、いずれは隆景の義妹と出されるであろう。

 

 

「あの子は外には出さん。俺の後継者として立派に成長させてみせるさ!」

 

 

天竜は高らかに宣言するが、良晴には小早川秀秋に対していい印象を持ってない。もちろん史実の方だが、朝鮮出兵では大将にもかかわらず前線に出て多くの首をとったと言われる。だが、そのうちの殆どが非戦闘員の女子供であった為、秀吉にわざわざ呼び戻され、領地没収というきついお仕置きを受けている。

関ヶ原では当初、西軍についたが家康からの裏切り状も貰っており、優柔不断でどっちにしようか迷って、最後は家康に鉄砲を撃たれてビビり、東軍の味方をする事となる。最期はその時に裏切った大谷吉継の亡霊に呪い殺されたという逸話もあるのだ。良晴には天竜が何故、秀俊をしきりに側に起きたいのか理解できないのだ。

 

 

「辰は天竜殿にずっと憧れてたなのです!大将が前線で戦う姿はカッコイイのです!」

 

「だよな!やっぱ『王から動かないと軍も動いてこねぇんだよ!』やっぱ気が合うなぁ~」

 

「私もねねちゃんと同じくテン兄様と呼んでもよろしいですか?」

 

「おぉ、呼べ!代わりに俺もお前をシンと呼ぶ」

 

「ありがたき幸せなのです!」

 

 

とびきりの笑顔を天竜に見せる秀俊。もしかしたら朝鮮出兵の時の原因は天竜かもしれないと思う良晴。どうやら初期の反応は家族を失って落ち込んでいたのだろう。だが、新しい家族が出来て、本来の彼女に戻ったのだ。彼女の年齢はまだ10歳。戦場に出るにはあと2年待てと天竜に言われ、現在は天竜塾に通っている。

 

 

 

 

そんなある日、

今日は南蛮語の授業だった。主な生徒はキリシタンの子供。南蛮寺からフロイスも駆けつけ、授業の助手をしている。

 

「なぁ~天竜さん。俺も南蛮語覚えなきゃだめか?英語しか分からないんだけど.....」

 

「ほぅ、お前が英語を分かるのか?」

 

「アタ坊よ!英検5級持ってるぜ!」

 

 

自慢になるか?

 

 

「では.....

Your face resembles the monkey truly.

Carrying out an orthopedic surgery  it is ?」

(君の顔面は本当にサルそっくりだねぇ。

整形手術をオススメするよ?)

 

「うぇっ?.....Yes, I do!」

(はい。します)

 

「全然だめじゃねえか」

 

「難し過ぎるわ!っていうかモンキーって聞こえたぞ?今なんて言ったんだ?」

 

「勉強して理解するんだな」

 

 

その光景をフロイスが笑いを我慢して、真っ赤になりながら見ている。

 

 

「すみませんフロイスさん。布教の仕事もあるのに、わざわざ来て下さって.....」

 

「いえ、これも布教の一貫です。天竜さんが我が国の言語を子供達に教えて下さるお陰で、これからは聖書の原文を教える事もできますし、いずれはこちらから信者を本国までお連れする事もできます」

 

 

史実、1582年には宣教師ヴァリニャーニの勧めで天正遣欧使節として4人の少年が旅立っている。個人的に好きなのは中浦ジュリアン。

 

 

「それにしても良晴さんにこんな素敵なお兄様がいたなんて知りませんでした」

 

「できたのつい先日だがな」

 

 

天竜、良晴兄弟化の話は良晴の改名と合わせて各地を回る事となる。その中でも一際驚いていたのが十兵衛だ。

 

 

 

「天竜が相良先輩.....いえ、羽柴先輩の義兄に!?.....という事はいずれは天竜は私の義兄にもなるですか!?..........なんか複雑な気分です」

 

 

彼女の脳内ではすっかり良晴との縁談は当たり前となっているようだ。

話は織田家に留まらず、敵方の大名にも、伝わる。

 

 

「相良良晴が羽柴良晴にか.....やはりあの男は面白い」

 

「兄ですって!?風魔!すぐに奴の素姓を洗い直しなさい!」

 

「相良良晴の兄に白い鬼が?こうしちゃいられない!」

 

 

それぞれ武田信玄、北条氏康、伊達政宗は思う所があったらしい。梵天丸に至っては何かやらかす気だ。

 

 

 

「にゃみゅにゃみゅにゃぶつ。にゃみゅにゃみゅにゃぶつ.....」

 

突然、あやふやな念仏を唱えながら、ボロボロの格好の少女が寺子屋の中に入ってくる。キリシタンばかりの教室に突然仏教徒が入ってきたので、生徒は皆驚く。

 

 

「伝えないと.....相良良晴に.....伝えないと.....」

 

「呼ばれてるぞ良晴!」

 

 

少女のか細い声を聞き取った天竜がこっそり居眠りしようとしていた良晴を叩き起こす。

 

 

「ふぁっ!?..........ふぁれ?」

 

「おぉ.....相良良晴.....」

 

 

良晴の顔を見た少女は救われた表情で近寄ってくる。

 

 

「やっと見つけた.....ここまで長い道のりだった。歩いて、歩いて、途中何回も転んで.....でも、やっと見つけた!」

 

 

弱々しいが満面の笑みで良晴に近寄ってくる。.....が、そんな彼女に対し良晴は.....

 

 

 

 

「あんた誰?」

 

 

 

 

ガーンΣ(゚д゚lll)

少女はその場で力尽きた。

 

 

 

 

「.........良晴さん。この子顕如ちゃんじゃないですか?」

 

「えっ?.........言われてみれば.....でも、何で猫耳も尻尾もないんだ?」

 

「そんなことより早く手当てしてやんないと!

皆すまん、緊急事態のようだ。今日の授業はここまでとする!」

 

 

天竜の号令で寺子屋は一度閉じられる事となった。

 

 

 

 

「人斬りだぁ~!!」

 

 

その晩、また叫び声が聞こえた。実はここ最近、堺では夜になると突如人斬りが現れ、無差別に市民を斬り殺すという事件が多々発生していたのである。その近辺を蠢く4つの影。

 

 

「ちょいと待ちなよお前さん方」

 

 

その移動は一人の男によって制止される。4人は即座に刀を向ける。顔は頭巾を被っていて、正体不明。返事はない。

 

 

「いきなりかい。話す時間ぐらい欲しいね」

 

 

4人はまるであらかじめ決められていたかのようにフォーメーションを組み、前後左右を挟むように男を囲む。そして一斉に斬りかかって来た。逃れるすべない。

....................この男以外には。

 

 

「皐月」

 

 

彼の放ったのは至極単純。敵の刀を刀で弾いて敵にカウンターを返す。だがそれは一瞬だった。一瞬で4人全員にかけたのだ。目にも留まらぬ俊足で.....

 

4人が一斉に退いた。だが、天竜の攻撃は確実に彼らに効いていた。まだ殺さない。正体を知るためだ。頭巾のみを斬ったのである。

月明かりによって彼らの顔が晒される。彼らは男女2人ずつの人斬りであった。そして、彼らの目は光のない虚であった。

 

 

「貴様らが昨日斬った兄妹は俺の生徒だ。どっちも歴史の成績が悪いから、これからみっちり教えてやろうと思ってたのに.....」

 

 

天竜が話している最中に、男2人が斬りかかってくる。だが.....

 

 

「神無月」

 

 

その直後一方的に斬りつけられたのは男達の方だった。斬りかかって来たのに合わし、刀を置き、流し込む。男達は自ら刀に斬られ、倒れていった。だが、峰打ちのため死んではいない。

 

 

「人の話は最後まで聞け.....次は殺すぞ」

 

「うっ.....あれ.....ここは.....?」

 

 

男達はまるで別人のように様子が変わる。

 

 

「つっ.....!?まさか.....術か?」

 

 

そう思うのもつかの間、もう2人の女人斬りも襲ってくる。

 

 

「.....やっぱ女の子に峰打ちはちょっとな.....」

 

 

天竜は刀を鞘にしまう。そして、俊足にて女人斬り達に近づき、鳩尾への突きを繰り出す。それは身体に傷や痣が残る程の強力なものではなかったが、確実に彼女らを戦闘不能にした。

 

 

「うっ.....あれ?.....わたしは.....何を?」

 

 

彼女らの怪しげな術も解けたようだ。いったい誰が術をかけ、人斬りなんかをしていたんだ.....

.....と天竜が思案していた矢先の事である。

 

 

「あれ?..........鼻血が.....」

 

 

女の一人が鼻血を出していた。始め、天竜が誤って傷つけてしまったのかと思ったが、どうやら違うようである。

 

 

「あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?どうして?」

 

 

鼻血どころの騒ぎではなかった。血は口から耳から目から次々に溢れ出すではないか。

 

 

「いや.....いやっ!怖い!」

 

 

彼女が両手で顔を覆う。だが、その手の爪はすでに割れて赤く染まっている。

 

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

彼女の全身から鮮血がまるで噴水のように噴き出す。天竜や他の3人はただその光景を見ている事しか出来なかった。そうして、体内の血液を全て出し切ったその骸はばたりとその場に倒れた。

 

 

「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 

その直後、男2人も同様の症状が出る。残された女が天竜を見つめた。そして、こう訴える。

“私もアレと同じようになるのか?そうならないように助けてくれ”と.....

天竜はそれを感じとったにもかかわらず、何も返答出来なかった。彼自身、何が起きてるのか分からなかったのだ。

 

 

「いやっ!いやあぁぁぁぁぁ!死にたくない!死にたくない!!」

 

 

男達が絶命した後、彼女にも同様の症状が現れ始めた。

 

 

「くそっ!.....一か八かだ!」

 

 

天竜は彼女に向けて印を組む。

 

 

「南無大慈大悲救苦救難広大霊感白衣観世音!

保護結界発動!!」

 

 

女の周りを不思議な膜が覆う。これで、外部からの干渉は防げる。しかし.....

 

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

彼女の出血は止まらない。

 

 

「くそっ!外部からの術じゃないのか!?ならば!

貧狼巨門隷大文曲廉貞武曲破軍!

時軸結界発動!!」

 

 

すると女の周りが別の膜で覆われた。同時に彼女の出血は止まる。それだけでなく彼女そのものが止まってしまった。

 

 

「この子の周りだけの時間を止めた。この子の対処はその間に済ませよう」

 

 

天竜はすでに血の塊と成り果てた3つの骸を見つめる。

 

 

「これはまさか.....呪い?..........『背水の呪い』か!」

 

 

「背水の呪い」

古くは古代中国の呪術で、任務に失敗した部下への粛清として使われたものだ。主の情報を吐かせないためである。鉄砲玉が銃口に戻る事はないということだ。

 

 

「しかもさっきのは、恍惚の術。いったい誰だ.....俺の計画の裏で何がどうなってるんだ!!」

 

 

結局、その3人は翌日、同じ人斬りの被害者として町人に葬られたのであった。

 




天竜は良晴の担任なのでどうしても良晴の勉強回はやりたかった!
新キャラの木下秀俊。これからいい味を出していけるように楽しく執筆したいです。
いつ書くか。今でしょ!
次回予告
天竜包囲網
~絶体絶命の天竜!まさかの死!?~

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