天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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第五十九話 日本の生き神

会津。陸奥から切り離した元伊達の領地。蒲生氏郷はその会津における最大の都市黒川に居城を建築する。

やがて、この地を伊達でも天竜でもない、蒲生流に上書きするかの如く、都市名を改称。

そう、『若松』と。

会津若松城に帰参した氏郷は激昂していた。

 

 

「くっ.....!!」

 

 

またしてもだ!

3度目の年越しを迎えても、

私はまだ奴に頭を下げ続けている!

 

 

「こんなものの為に.....!」

 

 

氏郷の手には、天竜が新年会の出席者全員に土産として配った『天正大判』があった。

 

 

「こんなもの欲しさに奴の下僕になったのではないわっ!!」

 

 

氏郷は天正大判を床に叩きつける。

だがそのつもりだったのが、

大判は氏郷の右手からすっぽ抜け、

そこらに転がる。

 

 

「おのれ.....」

 

 

それも当然、氏郷に左腕はなかった。

バランスが取れにくくなっているのだ。

3年前の箱館海戦において天竜に左腕を喰われ、それ以降ずっと隻腕のままなのである。

 

 

「.....未だに傷が痛む」

 

 

身体的傷の痛みではない。

それは天竜の陰陽術で完治した。

問題は精神的傷である。

 

確かに腕は喰われた。だが、その直後に術をかけられ、出血死する事も破傷風にもならずに済んだ。

あのドラキュラに情けをかけられたのだ。

私は彼を殺そうとしていた。

そのまま放置して私が死んだ方が、

奴には好都合だったはず。

なのに、奴は私を助けた。

討伐対象に助けられた。

これ程の屈辱があってたまるか。

 

さらに伊達政宗。

彼女もドラキュラを倒さんとする同志であるにもかかわらず、異端者。私の行動をしつこく邪魔してくる腹立たしい存在だ。

 

だが、それよりも大きな問題がある。

 

 

「奴の様子はどうであったレオン」

 

「コエリオ様.....」

 

 

利休、クロウと同じく指名手配犯。

3人はバラバラの場所で匿われているのだ。

 

 

「奴を殺してきたのか?」

 

「.....できるわけないではありませんか。

奴は今や太閤。ただでさえ守りが固いのに.....奴をあそこで仕留めたら、私まで殺されます」

 

「ドラキュラの討伐は名誉あること。

それで死んだ者は殉教者として、

聖人として称えられよう。

お前は刺し違えてでも、奴を殺すべきだった」

 

「!?」

 

 

氏郷は愕然とした。

この男は私に死ねと言ったのだ。

 

 

「もっ.....申し訳ございません」

 

「次会う時は必ず殺せ」

 

「くっ.....」

 

 

氏郷は歯痒い思いをしていた。

 

 

「叔父が殉教されてから3年。

貴様らはいつになれば、

その仇が取れるのだ?」

 

「申し訳ございません」

 

 

手前ぇが自分でやれ!

 

 

「私をいつまでこんなカビ臭い地にいさせる気だ?」

 

「申し訳ございません」

 

 

匿われてる分際で偉そうに!

 

 

「家はボロボロ。食は不味い。

文化は未発達。争いしか知らぬ阿呆共め」

 

「申し訳ございません」

 

 

何故私が謝る必要がある!?

日本文化を理解しようともしない奴に!?

 

 

「謝るしか能がないのか?

これだからジャップは.....」

 

「.........」

 

 

カチンッ!

 

 

「ふざけんなよこの白豚ぁ!!!」

 

「!!?」

 

 

氏郷が急に暴言を吐いた。

 

 

「はっ!?」

 

 

ハッと、今自分がしでかした事に気づく。

 

 

「れっ.....レオン!?聞き違いか?今とんでもない言葉を聞いた気が.....」

 

「きっ.....聞き違いです!

やだなぁ!私がコエリオ様に暴言なんて言うわけないじゃないですか!」

 

「ならいいが.....」

 

 

ちっ.....!

 

コエリオは白豚の名をそのまま当てはめたような百貫太りの宣教師。つい本音が出てしまった。

 

 

「全く、ジャップはこれだから」

 

「くっ.....!」

 

 

カブラルの時もそうだったが、

この宣教師らの人種差別行動は目に余るものがあった。いくらキリシタンとはいえ、流石の氏郷もこれには怒りを覚える。図々しくこの若松城でわがままばかり言うコエリオに、氏郷はそろそろ限界に来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲斐、躑躅ヶ崎館。

ほぼ没落したに等しい武田家の最後の領地である。武田の領地や兵卒の多くが真田家に吸収され、信玄の後継者である武田勝頼こと四郎も、幸村預かりなのだ。だがそれでも、武田家が完全に滅亡しなかったのは、天竜の善処によるものであろう。

 

 

「これは、太閤殿下様!」

 

「おう、久しいな昌景」

 

 

山県昌景。未だに小柄の彼女は、多くの将が真田に流れた後も武田家に残り、信玄を支えていたのである。

高坂昌信や馬場信房は真田家へ。

内藤昌豊は豊臣家へ行った為、

武田四天王は消滅したと言える。

 

 

「勝千代は?」

 

「芳しくありません。

ずっと寝込んでいて.....」

 

「そうか」

 

 

過去に裏切られ、恨みを抱いていた昌信も、身分の差だけはキッチリしているようで、天竜に対しては礼儀を尽くしている。

 

問題は信玄だった。

 

 

 

 

 

 

天竜は彼女の寝室を訪れる。

 

 

「あっ、太閤殿下様!」

 

「よい、そのままで」

 

 

信玄を担当していた医者が治療を中断して慌てて頭を下げようとしたのを天竜はやめさせた。

 

 

「玄朔、勝千代の様子は?」

 

 

曲直瀬玄朔。ベンジョールこと道三の姪にして、養子にして、後継者である。

 

 

「はっきり言って、

信玄様は重病にかかっておられます。

熱は高体温にもなれば低体温にもなり、

嘔吐を繰り返し、下痢が止まりません。

たまに吐血をする事もしばしば。

父さえいれば.....」

 

「いや、道三でも無理だろう。

恐らくこれは病ではなく、

呪いの類いだ」

 

「呪い!?」

 

「あぁ、俺の専門分野だ」

 

 

そう言い、天竜は苦しむ信玄の傍に座る。

そして、彼女の胸部に手を添えた。

 

 

「慈鬼流!」

 

 

突然、天竜の手が鮮やかに輝きだす。

 

 

「どんな術による呪いかさえ分かれば治しようもある。陰陽術か幻術か魔術か.....」

 

 

天竜は特殊な術によって、信玄にかかった謎の呪いの正体を探る。

 

 

「むっ?」

 

 

とある異変に気づく。

 

 

「どれも当てはまらない。

陰陽術でも幻術でも魔術でもない。

これは一体.....」

 

 

その時一筋の電撃が流れ、

天竜の手を強制的に弾いた。

 

 

「つっ!?」

 

「殿下!?」

 

 

玄朔が案じたが、天竜は気に留めなかった。

 

 

「まさかとは思ったが.....これは」

 

 

天竜は冷や汗をかく。

 

 

「これは『神術』だ」

 

「しん.....じゅつ?」

 

「神の呪術と書いて神術。

神術は世の中の運命そのもの。

世の中の流れそのものなのだ。

あらかじめ決められていた事。

変更は不可能」

 

「不可能?」

 

「歴史の特異点の修正?帰られし記録がが本来のあるべき姿へと戻るというのか!?」

 

 

天竜が言っている意味が分からない。

 

 

「良晴によって死を回避した武田信玄。

だが、それすらもなかった事に!?」

 

 

死の回避の事実が消滅。

 

 

「俺の記憶と史実が正しければ、

武田信玄は病死する。

この神術が確実に発動すれば、

多少の時差があろうとも、

勝千代は死ぬ。絶対に.....

くそっ!!」

 

 

天竜は床を殴りつけた。

 

 

「神はこの俺からまた奪うのか!!

.....いや、そうはさせない!

絶対にさせてやるものか!

抗ってやるぞ!

神の定理という奴に!」

 

 

この時代が武田信玄を必要としていないのならそれでいい。その代わりに俺はその定義ごと全てを叩き潰してやる。

 

 

「勝千代よ。

貴様の死はこの太閤が剥奪する。

もう少しこの愚かな世にて、

もがき苦しんででも生きてもらうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、

九州島津家より使者が参った。

 

 

「はじめますて。豊臣秀長殿」

 

「太閤殿下に無礼であろう!」

 

 

使者に対し、三成が叫ぶ。

 

 

「我が主君はやそよ認めていませぬ。

『成り上がりの太閤に対し、礼儀をすっぱいす必要なし』とのこと」

 

「馬鹿にも程がある!」

 

 

三成は激怒していたが、

天竜はニヤニヤと笑っていた。

使者にここまで言わせるか.....

島津とは面白いな。

 

 

「確かに俺は成り上がった。

没落した貧乏陰陽師が、

大名の位にまで跳ね上がり、

多数の部下共を従え、

戦国最強とまで言われた武田上杉北条を倒し、伊達毛利を抑え、蝦夷の地まで制覇した。最後には織田を屈服させ、太閤となり、それまでの貴族制度を変革させた。

去年には四国を落とした。

北九州の大友宗麟は既にこちら側。

世の流れも知らずに、田舎大名がこの天下人に牙をむいているのだぞ?

これ程愚かな事が他にあろうか」

 

 

天竜は天下人の風格でそれを言う。

 

 

「確とそうかもしれん。けども、あたいどん島津にも誇りがある。 強き者に従ごは世の習いかもしれんが、 お前如きに媚びを売っのだけは嫌でごわす」

 

 

鹿児島弁が強いが、

なんとなくは理解できる。

だが、この使者の男.....

たかが使者にしては、やけに口が達者だ。

 

 

「なるほどな。

ところで、貴殿の名を聞くのを忘れていた。名を何と申す?」

 

「.....おいどんは」

 

 

使者は名乗る。

 

 

「16代頭首島津義久が弟、

島津義弘でごわす」

 

「くはっ!」

 

 

天竜は邪悪な笑顔で吹き出した。

 

 

「島津義弘といえば、

島津軍の副司令ではないか!

その副司令自ら使者として参ったと?」

 

「だからそう言っちょる」

 

「ぷっくっくくくくくくくくくくく.....

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!

お前のような奴を見るのも久々であるが、お前を送り出したお前の兄はどんな奴であろうか!」

 

「姉者は女子でごわす!」

 

「そうかそうか、すまぬ。

ふっくくくくくくくくくくくくくく.....」

 

 

天竜は腹を抱えて爆笑している。

三成は、しばらく見なかった天竜のこの姿を見て唖然としていた。

 

 

「お前らのような愉快な馬鹿は、

元親依頼の久しぶりだ!

あぁ.....武者震いがしてきた。

お前らと直接戦ってみたい!

お前らを叩き潰してみたい!

お前らを屈服させてみたい!

お前らを征服してみたい!

滅さず、陥れず、ただただ征服したい!」

 

 

天竜は力強く語った。

その表情は無邪気な子供にも見える。

 

 

「ふっ.....

やれるやいがなっものならやってみな!」

 

「勿論!九州は全力で征服させてもらう!

よき戦であらんことを!」

 

「ふっ.....」

 

 

義弘は改めて宣戦布告されたにもかかわらず、満足気で大坂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一つお聞きしても宜しいですか?」

 

「ん?」

 

 

義弘が去った後、三成が尋ねる。

 

 

「太閤殿下様は、この日の本を統一され次第、どうされるおつもりで?」

 

「天竜でいい。

今更気遣う必要もなかろうに」

 

「では失礼ながら.....天竜様」

 

「うむ。それが1番落ち着くよ」

 

「..........」

 

 

三成はやや頬を紅潮させた。

 

 

「まず最初の目標としては、

アジアの統一だな」

 

「亜細亜の?」

 

「そっ。手っ取り早く、

『大日本亜細亜帝国』を作りたいな」

 

「だっ.....だいに?」

 

「『大日本亜細亜帝国』だ。

まっ、あくまで目安なだけで、

目的はアジアを一つの国家にする事だ」

 

「亜細亜を.....国に?」

 

「あぁ。佐吉、アジアで重要な国とされる三国はどこか分かるか?」

 

「重要な国ですか?

.....明と.....天竺と.....朝鮮ですか?」

 

「随分卑屈だな。

この国はどうしたこの国は?」

 

「あっ!」

 

「朝鮮は昔から支那の属国。

朝鮮と明は合わせた国であると考えて、

三国は明、天竺、日本と言える。

ここで昔話をしよう」

 

 

天竜は話を続ける。

 

 

「この国にはとある天下人がいた。

その者は、俺と同じくアジアの統一を目指していた。その第一目標として、明を狙った。

だが、彼は明を攻める上で、朝鮮を先に落とすべきと考えたんだ。

当時、世界における最強の軍隊は日本兵とされた。1度に十数万の兵を動かすような奴は日本ぐらいだからな。

圧倒的物量により、初戦は日本軍の圧勝だった。だが、大きな問題が起きた。分かるか?」

 

「.....病ですか?」

 

「正解。流石佐吉だ。

日本と朝鮮では気候も衛生面も大きく変わる。現地人には普通のものも日本人には猛毒だったりしたんだ。

向こうにもそれなりの知識があったようで、糞尿をぶっかけられて強制的に病気にさせられたらしい。

あとは食糧問題なども重なって、

朝鮮侵略は失敗に終わった。

だが、失敗理由は前述以外にもう一つある。それは分かるか?」

 

「明ですかね」

 

「はたまた正解。

朝鮮をいくら攻めようが、

明が無尽蔵に援軍を送り出すために、

いくら奮戦しようが終わらない。

火の粉をいくら振り払おうが、

燃え盛る炎は消せない。

降りかかる炎は元から断つ!

明を直接叩く!

そうなれば属国の朝鮮も自然と落ちる!」

 

「ですが.....明は強国です。

今の日本の国力で倒せるのでしょうか?

病と食糧の問題もありますし.....」

 

「だからだ、ギリギリまで日本兵は使わない。もう一つの強国を明にぶつけさせる」

 

「まっ.....まさか!?」

 

「天竺.....インド・ムガン帝国を調略する。

なんとか日本の味方につける。

実力が近い両国をぶつけ、

両国が衰退した所で漁夫の利する!

これが天竜太閤の策略よう」

 

「なっ.....なっ.....!?」

 

 

この御方は他国すら手の平で踊らそうとしているというのか!?

三成は驚愕する。

同時に、憧れの念が強くなる。

 

 

「何処までも着いて参ります!」

 

「ふふっ.....」

 

 

跪く三成の頭を天竜はそっと撫でてやった。

 

 

「俺はアジアを制圧次第、

日本国領土を陛下に返上し、

支那の地に首都を移そう。

アジアさえ統一できれば、

世界征服も夢ではなくなるのだ」

 

「はい。貴方様なら不可能ではない。

いえ、必ずできるでしょう」

 

「ふっ.....今の俺は日本国王。

だが、いずれは日本を神の国に、

生き神たる陛下に大日本を、

そして俺は世界王に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にできるのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

その女は現れる。

この国に3人といない、

純血のヴァンパイア。

 

 

「はろろ〜ん!」

 

「光.....!」

 

 

天竜は怒りが混じった静かな声をあげる。

 

 

「貴様.....何しに来やがった!」

 

「む〜ん。折角愛妻が来てあげたっていうのに。つれないな〜」

 

「黙れ!」

 

 

天竜の彼女に対する怒りはさらに増していた。

 

 

「貴様のような汚物は見とうない!

さっさと立ち去れ!!」

 

「消えてほしいのなら、

文字通り消してしまえばいいじゃない?

さぁ、どうぞ?」

 

 

光は両手を広げて、無抵抗を主張する。

 

 

「いくら不死者といえど、

消し方は存在する。

貴方だって知っているでしょう?」

 

「くっ.....!」

 

 

天竜はそのまま部屋を出て行ってしまった。

 

 

「天竜様!」

 

 

三成がその後を追う。

 

 

「ふふふ.....」

 

 

ドラキュリーナはただただ微笑する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜様!」

 

「そう叫ぶな。俺はここにいる」

 

 

天竜はすぐ外の縁側に座っていた。

 

 

「やはり.....あの.....」

 

「あぁ、俺は二度とあいつと和解するつもりはない。例え生まれ変わってもな」

 

「では、何故奴を討とうとされないのですか?奴の言う通りならば、天竜様は勘解由小路光を倒せるのでしょう?」

 

「あぁ」

 

「なら、何故?」

 

「ふっ.....俺にも分からん」

 

 

天竜は遠くを見てそう言う。

 

 

「.....やはり、まだ彼女らの事が忘れられないのですか?」

 

「...........忘れられるわけないであろう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、天竜が太閤に就任した翌年の事である。とある2人の姫武将は重装備にて身構えていた。

 

 

「よし!やるぞヒコ!」

 

「合点承知!」

 

 

天竜軍古参の将、宮本武蔵。

室町幕府管領、今川氏真。

天竜に残された2人の弟子がある人物を倒さんと意気込んでいた。

 

 

「「打倒左馬助!!」」

 

 

明智左馬助光春。十兵衛の従姉妹。

武蔵や氏真の姉弟子にもあたり、

天竜の一番弟子。

だが、天竜に恋をしたのが

悪夢の始まりだった。

十兵衛との恋を成就させたかった天竜は、ある意味邪魔者である左馬助を無意識に遠ざけていた。それが、左馬助の精神を壊した。いや、元々壊れていたのかもしれない。

彼女は失恋の悲しみを打ち消そうとしているかの如く、人斬りを始めた。多くの女子供が犠牲になったと言われる。

その結果、その毒牙は天竜の側室らにも及び、十兵衛も襲われた。

すんでの所で十兵衛は救われたが、

代わりに佐々木小次郎が餌食とされた。

怒り狂った天竜は討伐軍を出し、

最後は彼自身の手で左馬助を異次元に追放し、その事件は幕を閉じる。

だが数ヶ月後、左馬助は風魔小太郎として戻って来た。400年の恨みを携えながら.....

以前愛した妻であるという秘密を抱えて.....

 

左馬助こと光は、死ぬ事を望んでいた。

最愛の者から拒絶され、この世への未練など残っていないにもかかわらず、死にたくても絶対に死ねないのだ。

だからこそ、自身の殺害を天竜に依頼した。

天竜も言われた通り、彼女に対して考えうる全ての殺害方法を試した。あるたった一つの方法を除いて.....

ある時、その最後のたった一つの方法こそが、光を殺せる唯一の方法だと気づいてしまった。

光は頼み込んだ。

その方法を実行してほしいと、

だが何故か、天竜はそれを断った。

殺せるはずなのに.....

殺したいはずなのに.....

 

 

 

 

 

 

 

だから光は.....

天竜に殺意を沸かせる為に、

再び人斬りを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでもなお、光を討とうと動かない天竜に痺れを切らし、2人の剣豪が行動に移した。

 

 

「もう放っておけない。

左馬助討つべし.....」

 

「あぁ、あたしも同感だ!

本来ならもっと早くにあいつを止められるはずだった!あいつに情けをかけた天竜の責任だ!」

 

「天竜は悪くない。

悪いのは悪行の限りを尽くす左馬助」

 

「けどな.....天竜がこうも非協力的だと、

あたしらは命令違反してるのと一緒になるじゃんか。あいつと心中するなんて嫌だぞあたしは!」

 

「天竜、最近ちょっと冷たい。

特に昔話しようとすると、

天竜凄く怒る」

 

「あぁ、特に左馬助関係の話か」

 

「もしかしたら天竜は.....」

 

「まだあいつの事を.....」

 

 

2人はある想像をする。

 

 

「あいつは今病んでる。あたしらがその原因を取り除いてやんないと!」

 

「.....左馬助を殺す!」

 

 

2人は刀を持つ。

 

 

「「いざ、出陣!」」

 

 

2人だけの討伐隊が今動いた。

 




3年でキリシタンらの思いも変化。
そして九州島津にも動きが.....
さて次回は2年ぐらい前の話です。
次回予告
姉妹弟子
〜あの頃にはもう、戻れない〜

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