天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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最近、天竜を悪人にし過ぎた。


第五十一話 宣教師

関東を平定し、

元上司の武田を勢力下に置き、

上杉とは仮同盟を結んだ。

中部・関東地方における絶対的な権限を得た天竜軍。本来ならば、一早く東北征伐に向かいたかったが、あえて小休止をして、勢力を整える事にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

越後、湯沢温泉。

 

 

「何故こうなりました」

 

 

謙信が言った。

例の流血事件から数日もしないうちに、天竜はまた越後を訪れた。

色々と連れてきて.....

それでいて、さらに混浴だった。

 

 

「貴方はいつから羽柴秀長の家臣に成り下がったのですか?」

 

「馬鹿言うな!誰が家臣だ!その時が訪れるまで仕方なく大人しくしているだけだ。

此度の戦で少々私も頭を冷やされてな。家臣の裏切り一つで壊滅する軍なんかで天狗になっていた己が恨めしい。暫くは反省し、いずれ再び大将に返り咲き、この男をも驚愕させる大将軍になってやるさ!

あっはっはっはっはっはっは!!」

 

 

完全に吹っ切れた信玄は、

あえて今の状況を受け入れ、

修行の一貫か何かと捉えている。

 

 

「私を生かしておいた事を後悔させてやろうではないか!この裏切り魔将軍が!」

 

「そうか。俺は後悔するのか。

じゃあ今のうちに殺しとくか」

 

 

天竜は拳銃を召喚し、信玄に突きつける。

 

 

「ばっ.....馬鹿者!!」

 

「バーン」

 

 

だが銃口から飛び出て、信玄の顔面に直撃したのは、鋼鉄の弾丸ではなくただの水だった。

 

 

「水鉄砲だよ」

 

「ぐぐぐぐぐ.....!!」

 

「ほれっ。お前らにやる」

 

 

一緒に入浴していた四郎と卯松に渡す。

火花を散らす姉達とは違い2人は何のわだかまりもなく、普通に仲良くしていた。特に四郎は年下の卯松を妹のように可愛がっている。2人はお互いに水鉄砲を撃ち合ってキャッキャとはしゃいでいた。

 

 

「あれが本物の鉄砲にならない事を願いたいねぇ」

 

 

天竜が独り言を言う。だがそれは、信玄謙信双方の心へと突き刺さった。

四郎が武田家後継者の武田勝頼として、

卯松が上杉家後継者の上杉景勝として、

2人が憎しみ合い、戦を重ねている光景を想定してみると、心が締め付けられるようにチクチクと痛む。

 

 

「もうさ、いいんじゃね?」

 

「「!?」」

 

「戦力及び戦術に自信を持つ武田。

戦略に絶対的な自信を持つ上杉。

その両者が互角であるがゆえ、いくら争っても決着がつかない。だが、両者が組めば天下などあっという間だろう。無駄な血を流すくらいなら、その方が手っ取り早いんじゃあねぇの?」

 

 

 

 

「「お前が言うな!!」」

 

 

 

 

「へぐぅっ!!?」

 

 

珍しく息の合った虎と龍に顔面を殴られる天竜。

 

 

「痛っ〜...........ぶったな!?

親父にしかぶたれた事ないのに!」

 

 

そう言いつつ、天竜は無傷だった。むしろ、彼女ら2人の方が拳を痛めたようであった。

 

 

「くっ.....!!なんて硬い顔だ!

岩を殴ったみたいだ!」

 

「うぅ.....」

 

「すまん。とっさに勘解由小路家伝統の防御拳法を使ってしまった。功夫と合気道を組み合わせた応用技で、殴ってきた相手の拳を複雑骨折させる技で.....」

 

「貴様は全身凶器か!!」

 

「大丈夫。本気でやったわけじゃないから捻挫程度だよ」

 

 

信玄はつい涙が出るほど痛がっている。

 

 

「うぅ.....」

 

 

謙信も同様であった。

 

 

「謙信〜、何で左腕で殴った?

その悪魔の手で殴れば俺の頭ぐらい吹き飛ばせたんじゃねぇのか?」

 

「...........」

 

 

謙信は右手が濡れないように、布でぐるぐる巻きにしている。

 

 

「それは悪魔の右手。

生命を奪う、死の右手。

どんな生物であろうと、その右手で触れたものは全て死滅する。まぁ、元の持ち主である俺には効かないが、それでも通常の千倍近い怪力が出るぞ。

まぁ、そんな使い方したら肩が耐えきれずに脱臼するだろうけど.....

他人の腕に接着させた時にしかその効果が出ないから、俺も羨ましいんだぜ?」

 

「.....天竜。謙信に何を植え付けたんだ?」

 

「いりませぬこんなもの!

すぐにでも斬り落としてくれる!」

 

「別にいいけど、

それ取ったら死ぬぞ?」

 

「!?」

 

「お前は見た目以上に重病人だ。

ほんの少し握っただけで割れてしまうような脆いガラス玉だ。だが、死なせるには勿体無いから応急処置をした。あくまで応急処置だ。

それを外せばお前は再び白色化し、

そのまま灰になって消える。

俺も一時期似たような症状だった事があるから、あの辛さはよく理解している」

 

「...........」

 

 

天竜は謙信の右手を引き、

お湯の中に漬ける。

 

 

「なっ.....何を!?」

 

「その目で見ろ。

自信が何者であるかを」

 

 

そうして天竜は右手の布を取ってしまう。その中から出現したものに、信玄も直前までキャッキャと遊んでいた2人の妹も驚愕する。

謙信の右手はまさに悪魔の手。

異形なものへと変化していた。

謙信は目を逸らしている。

 

 

「ちゃんと見ろ。これがお前だ。これが千切れかけたお前の生命の糸を紡ぐ唯一の希望だ。こいつはもうお前自身のようなもの。自分の右手を認めてやれ」

 

 

 

 

 

 

 

「貴方が言うな!!!」

 

 

 

 

 

 

今度は右手で殴られた。

痛そうなので流石に避けた。

 

 

 

 

 

「うぅ.....」

 

「血もちゃんと飲めよ?

人間のが無理なら牛でも豚でもいいから。

あと3つ目の約束もな。

あれを破ると、右手の変態が全身に廻って人間としての原型を無くし、心も悪魔になって周囲の人間を無差別に食い殺すようになってしまうからな」

 

「何故そんな事を黙っていた!!

尚更この右手を外したい!」

 

「食わなきゃいいだろ。

そんなに夜中に食べたいのか?

太るぞ?」

 

「黙りなさい!私は常に爆薬を背負って生活するのが不安なのです!」

 

「血さえちゃんと飲んである程度まで回復すれば、悪魔の手を外しても大丈夫な風になるから」

 

「うぅ.....」

 

「なんか大変だな。お前も」

 

 

信玄に同情される謙信。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても.....」

 

 

話も終盤の頃。

 

 

「謙信って胸小ちゃいな」

 

「殺します!是が非でも殺します!」

 

 

右手で構える謙信。

 

 

「天竜.....幾ら何でも失礼過ぎるだろ」

 

「違う!小ちゃくて可愛いらしいと言おうとしたのだ!」

 

「殺します!」

 

「落ち着け!俺は貧乳好きだ!」

 

「殺します!!」

 

「だが、お前は氏康よか大きいだろ!」

 

「ご主人様.....私は誰よりも

小さいのですか?(泣)」

 

「お前いたの!?」

 

 

一緒に入浴していた事をすっかり忘れられていた記憶喪失中の氏康。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、頭部を吹き飛ばされた

天竜であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲斐。

 

 

「ちっ.....!俺は光と違ってバラバラにされたら結構ヤバイってぇのに.....」

 

「自業自得じゃないですか」

 

 

織部にツッこまれる。

 

 

「今の天竜様の評価は賛否両論なんですよ?武田信玄を勢力下に置いたからといって、武田家を服従させたわけじゃないんです。反発者なんていくらでも出てきます。

私なんてさっき石投げられましたよ」

 

「すまんな.....一体誰に投げられたんだ?」

 

「もう殺しましたよ全く.....」

 

「...........そう」

 

 

こいつもこいつだな。

 

その織部。何の衣装か知らないが、

随分ボロボロな黒ドレスを着ていた。

 

 

「なんつー格好してんだ?」

 

「よくぞ気いて頂きました!

これは利休殿の『ごす・ろり』を私なりに解釈し、応用を重ねた完成形です!利休殿とはあんな決別の仕方をしてしまいましたが、あの方の茶人としての実力は本物!

今も尊敬しています!」

 

「お前どっちの味方だ」

 

「そして!

私なりの『ごす・ろり』がコレ!

新品にも美しさはあります。

しかし私的には、

使い古されたものにこそ趣がある!

だから壊れてるものの方が美しい!

まずはこの南蛮服を始めとし、

茶道具や自宅も壊したり、

歪ませたりしてみせます!」

 

 

それでこの服装か。なんか決戦が終わった魔女のような

中2的ファッションにも見えなくもないが.....

 

 

「なんか貧乏人か、乞食みたいだぞ?」

 

「ガーンΣ(゚д゚lll)」

 

 

 

 

 

 

それはさておきである。

天竜らはとある市場を訪れていた。

 

 

「ここらへんだな」

 

「本当にここでしょうか?

堺などならまだしも、

こんな甲斐の田舎市場で.....」

 

「いや、当たりだ!

あそこにいたぞ!」

 

 

その先にいたのは商人。金色の髪に碧眼を持つ40歳前後の中年の南蛮商人。

奴が売っていたのは.....

 

 

「日本人の皆様方見てください!

昨今は戦争ばかりが起きて、

とても心苦しいでしょう!

イライラが溜まるでしょう!

そんな時にはコレ!魔法の薬!

コレを煙草のようにスッと吸えば!

気持ちもスッキリ!

怪我や病気の痛みも消えます!

本来なら高価な薬ですが、

日本人さんになら特別にお安くしますよ!

さぁ買った買った!」

 

 

そうして男は謎の薬物を

市民に売りつけていた。

 

 

「あれが例の

『阿片売りの男』か」

 

 

甲斐では阿片被害がジワジワと広がりつつあった。南蛮商人が持ち込んだ阿片が、日本人を壊しているのだ。

山本勘蔵に阿片を売ったのも奴だ。

 

 

「気を付けろ!

それは毒薬だ!吸ったら死ぬぞ!」

 

 

天竜は周りの市民にも聞こえる程大きな声で叫んだ。

 

 

「ひぃっ!?」

 

「いやぁっ!!」

 

 

つい今買った市民や武士が、慌てて阿片を捨てる。

 

 

「ちょっとちょっと!

デマカセ言っちゃ駄目ですよお客さん!」

 

「客じゃない。

俺は役人としてこの店の調査をする」

 

「だっ.....誰ですか!?貴方は.....」

 

 

天竜が帯刀している所から、

商人は始めと武士が来たのかと思ったが、

服装は西洋式の軍服。

キリシタンかとも思った。

 

 

「ここ、甲斐の新大名羽柴秀長だ」

 

「だっ.....大名様でしたか。

どうです?羽柴様も一服」

 

「黙れ。阿片は人も国も壊す。

そんな物を危険と知りながら売り捌く貴様を俺が許すと思うか?」

 

「うっ.....うぅ.....」

 

 

弱った素振りを見せながら、

男は懐に手をかけた。

 

 

「小癪な!」

 

 

天竜はすかさず男の腕を斬り落とす。

 

 

「ぎゃあああああぁ!!!」

 

 

落ちた男の手には小型の鉄砲が

握られていた。

 

 

「商人が武器なんか携帯してんじゃねぇ」

 

「いぃ.....痛いぃ!!

痛い痛い痛い痛いぃ!!!」

 

 

天竜は男の襟を掴んで引き上げる。

 

 

「貴様のせいでどれだけ多くの人間が苦しめられたと思う?どれだけ多くの人命が奪われたと思う?貴様に今日を生きる資格はない!よってこの俺が裁く!」

 

 

天竜は阿片の束を掴み、着火させる。

 

 

「そんなにいい薬なら自分で吸え!」

 

 

それをそのまま男の口内に詰め込んだ。

 

 

「もがっ!もががががが!!」

 

「爛れて死ね!」

 

 

すると今度は男の身体全体が炎に包まれる。もがき苦しむも、数十秒後には動かなくなってしまった。

 

 

「ふくくくくくくく.....

麻薬の煙は百害あって一利なしだが、

人間の煙はなんとも香ばしいものだ」

 

「!?」

 

 

織部が何かに気付く。

 

 

「天竜様。アレ」

 

「ん?」

 

 

織部が指した方向。

そこには西洋人の男女が3人程いた。

 

 

「宣教師.....か?」

 

 

だがいつもの奴らとは違う。

いつになく猛々しい。

 

 

「お久しぶりですなぁ。

かれこれ3年ぶりだ」

 

「知るか。誰だ?」

 

「またご冗談を。ガスパールですよ。

ガスパール・カブラルですよ」

 

 

あっ、こいつがそうなの?

名前は聞いてたけど顔を見るのは始めてだ。随分と屈強なおっさんだな。しかし、史実ではフランシスコ・カブラルじゃなかったか?

 

 

「後ろのは?

特に左の美人さんが気になる」

 

 

だが先に答えたのは右の男。

 

 

「ワタシハカブラルノ弟子、

ロマーニオ・コルテス!」

 

「知らん」

 

「私はミッシェル・ラル・アンダーソン」

 

「ミッシェルさん。

これからちっとお茶でもしないかい?」

 

「お断りします」

 

「ちぇっ」

 

「貴方様はドラキュラ伯爵!

.....で、間違いないですね?」

 

「そうだけど?」

 

「じゃあ死ね!」

 

 

カブラルは懐から鉄砲を取り出した。

 

 

「短筒。中身は銀の弾丸か?」

 

「その通り!鉄砲の速さだ!

避けられまい!」

 

 

カブラルが発砲する。

 

 

「避けるまでもない」

 

 

天竜の正面に、鋼鉄の盾が出現する。

弾丸はその盾に防がれてしまう。

 

 

「流石俺の織部だ」

 

「キャッ。天竜様のものだなんて

そんな!」

 

 

それは織部のナノマシンだった。

 

 

「なるほど、ドラキュラ以外にも厄介な奴がいるようだ。

ミッシェル!ロマーニオ!

もう1人から先に片づけろ!」

 

「「了解!」」

 

「行け、織部。

大和撫子の力を見せつけてやれ」

 

「はっ!」

 

 

宣教師2人と織部の交戦が始まる。

 

 

「全く。手前ぇらはエクソシストか?

宣教師ってこんな強いものなん?」

 

「私達の任務は、

このジパングの植民地化と

ドラキュラの討伐!

其れ相応の専門家だよ」

 

「ハッキリ言っちゃったよ。

キリシタン共が聞いたら泣くぞ?」

 

「貴様がオルガンティノに良からぬ事を吹き込んだせいで、私のこのジパングにおける行動が少々制限された!いい宣戦布告を貰ったよ」

 

「そりゃ願ったり叶ったり」

 

「よもや貴様の本拠地がこんな極東の地で、その血筋もまたこんな『ジャップ』共と同じとは笑い者だな!」

 

「...........」

 

 

急に天竜の様子が変わる。

 

 

「手前ぇ、今なんつった?」

 

「このジャップめ!」

 

 

次の瞬間、

刀を抜いた天竜が目の前に現れた。

刀を振るうがカブラルには避けられる。

 

 

「おっと危ない危ない。

ジャップが怒ったぞ」

 

「黙れよ『白豚グリンゴ』がぁ!!」

 

 

天竜は連続して刀を振るう。

だが、その全てを避けられる。

 

 

『時よ止まれ!』

 

『時よ動け!』

 

「なっ!?」

 

 

時を止めて確実に殺そうとしたが、強制的に再び動かされた。

 

 

「はっ、最近の宣教師は魔法も使えるのか。

.....全く便利なものだなぁ!!」

 

 

マグナム銃を取り出し、カブラルに向ける。だが、その時にはもう彼は天竜の背後に回っていた。

 

 

「死ねぇい!!」

 

 

カブラルは天竜の背中を拳で殴った。

ただの素手の攻撃.....

かと思われたその拳は、

そのまま天竜の胸まで突き抜けた。

 

 

「がはっ!?」

 

「急所を外したか。

だが、かなりのダメージを与えたはずだ」

 

「げふっ!!」

 

 

吐血し、地面に手を着く。

 

 

「はっはっはっは!!!

3年前の戦いで力の全てを使い果たしたという話は本当だったようだなぁ!」

 

 

カブラルは天竜の頭を上から踏み付ける。

 

 

「がぁっ!?」

 

「ふっくっくっく!

我らイエズス会積年の恨みを私が晴らせると思うと、とても愉快だ!」

 

 

するとカブラルは十字架を取り出し、その長い部分を天竜の背中の傷穴に突き刺した。

 

 

「はぐぅあぁ!!!?」

 

「苦しめ!苦しめ!苦しめ!」

 

「おぐああああああああぁぁ!!!」

 

「はっはっはっはっはっは!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、飽きた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっはっは................へ?」

 

 

次の瞬間、カブラルはその場から

吹き飛ばされた。

 

 

「何っ!?」

 

 

数メートル飛ばされ、尻餅をつく。

だが、そんなものはどうだっていい。

先程まで苦しんでいたはずの男が、

今は平気そうに立っており、

不気味に微笑んで、見下している。

 

 

「お遊びで乗ってみたけど飽きた。

もう死んでいいよ?」

 

「何だと!?」

 

「時間停止が出来ない事と手前ぇが異常に速い事を確認できれば、後は問題なし」

 

「くっ...........くくくくく。

問題ないだと?馬鹿め!

私はまだ5割の力しか見せていない!」

 

「そうか。俺は2割だ」

 

「ほざけっ!!」

 

 

カブラルから出てくる。

 

 

「術による身体の強化及び硬化か。

これじゃあ弾丸も通らないな。

魔法以外に科学も混じってやがるな?」

 

「分かったからどうなる!3年前と比べて我々は見違える程強くなった!死にかけの貴様が勝てる道理などない!」

 

「だから知らねぇって。

それは朧に言ってくれ」

 

 

カブラルの拳闘による攻撃に、

最低限の動きで対処する天竜。

 

 

「式神!」

 

 

カブラルの目の前に鉤爪竜が出現する。

 

 

「むっ.....眷獣!?」

 

 

カブラルは裏拳で鉤爪竜の頭を砕く。まるでポップコーンのように脳が飛び散らせ、霧のように消えていった。

 

 

「化け物かよ.....

俺も人の事言えねぇけど」

 

「げひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「式神召喚!召喚!召喚!」

 

 

鉤爪竜を使い捨てのように次々召喚するが、その度に撲殺され、消えていく。

 

 

「無駄無駄無駄無駄ぁ!!!」

 

「無駄じゃねぇよ。

式神、特殊召喚!!」

 

 

再び鉤爪竜が現れる。しかし、明らかにそれまでの個体とは違った。首だけで十本近くあり、鉤爪もまた数十本あった。それでいて巨体である。

 

 

「手前ぇがバカスカ考えなしに砕いてくれたお陰で簡単に召喚できたよ。死んだ鉤爪竜を融合させた特殊式神

『鬼魔已羅』。暴れて来い!」

 

「ちっ.....蜥蜴の魔物め!」

 

「さてさて、

式神任せて俺は退かせてもらおう」

 

「待てドラキュラァ!!!」

 

 

だが無視をして天竜は消えてしまう。

 

 

「ギャアアアア〜!!!」

 

「邪魔だ雑魚がぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、織部。

 

 

「よう、織部」

 

「天竜様!」

 

 

織部の方はすでに戦闘が終わっていた。

 

 

「おふ.....服がボロボロだから、

壮絶な戦闘があったみたく見える」

 

「やっぱり格好いいですよね!」

 

「それでも、貧乏臭さが抜けないな」

 

「えぇ〜.....」

 

「んで、宣教師共は?」

 

「1人殺して1人を捕虜にしました」

 

「ご苦労。捕虜の方は?」

 

「みっしぇるという女です」

 

「上出来だ」

 

 

ナノマシンにスライムのように巻き込まれ、ロマーニオはバラバラに。ミッシェルは下半身と腕を拘束されていた。

 

 

「やぁミッシェル。また会ったな」

 

「.....ドラキュラ」

 

「なぁ、俺って3年前にもあんたらと戦ってたみたいなんだけどどういう事?」

 

「ふざけるな!我が父の仇め!」

 

「本当に身に覚えがないんだけどなぁ」

 

 

天竜はミッシェルの首筋に近づき、

そこをペロリと舐める。

 

 

「うっ.....殺してくれ」

 

「やだ♡

美女殺しても意味ないし、

勿体無いし、後が悪い。

殺すくらいなら服従させる。

こんな時に眷属作りは便利だ」

 

 

口を開け鬼歯をちらつかせる。

 

 

「.....兄さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドラキュラァァァ!!!」

 

「あん?」

 

 

今にも噛み付こうとしたその時、

カブラルが戻ってきた。

 

 

「もう倒しちゃったのかよ」

 

「逃がすかジャップがぁ!!」

 

「うざっ。織部やっちゃって」

 

「はっ!」

 

「カブラル様!来ちゃ行けません!

ここは.....」

 

 

すると突如、地面から鞭のようなものが生え、カブラルの両足を切断した。

 

 

「ぐはぁっ!!?」

 

「バーカ。ここら一帯はナノマシンの舌の上だ。手前らなどいつでも始末出来たのだ」

 

「がぐぐぐぐぐ.....!!!」

 

 

天竜がにやにやしながら近づいてくる。

 

 

「俺が何の用意もせずに手前ぇらの相手をしたと思うか?敵がどんな奴らであっても対応できるよう、織部にナノマシンを忍ばせた。それに気付かず、手前ぇらはまんまと地面に擬態したナノマシンに乗っかっていたんだよ」

 

「この.....ジャップが.....」

 

「織部、両腕も」

 

「はい」

 

 

カブラルの両腕が宙を舞う。

 

 

「かぐあっ!!?」

 

「ダルマになる気分はどうだ?

え?この白豚が」

 

「おのれ.....おのれ.....」

 

「予想していたのより呆気なかったな。

宣教師などこんな程度か」

 

「...........ふっくくくく.....」

 

「ん?」

 

「貴様を倒そうと狙っている宣教師が、私だけだと思っているのか?」

 

「『私が倒れた以降も、

第2、第3の魔王が.....』パターンかよ」

 

「先日連絡を取った!

長崎より甥のコエリオが!

そして、勇者ガブリエルが!」

 

「.................................誰?」

 

「なっ!?」

 

「1人はガスパール・コエリオだろ?

もう1人はガブリエル?天使?」

 

「馬鹿な!

ガブリエル・クロウ・アンダーソン!

本気で忘れたと言っているのか!」

 

「聞いた事ない」

 

 

史実でも知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガブリエルですって!?」

 

 

全く別の所から声が聞こえる。

振り返った所にいたのは、

 

 

「朧っ!?」

 

 

一応裏切った事になっている現常陸大名。

 

 

「ガブリエルは大天使の名を持った神父

.....私を1度殺した男よ」

 

「なっ.....!?」

 

 

それがこっちの天竜が目覚めたキッカケ。

 

 

「まさか.....ドラキュラが.....2人!?」

 

「あ〜.....とりあえずこいつは

殺していいか?」

 

「好きにしなさい。どちらにせよそれを生かしておいた所で、害しか残らないでしょうね」

 

「おっしゃ殺すわ」

 

「くっ.....」

 

 

すると、天竜の見た目が大きく変容する。

 

 

「前妻に教わった技使いますかね」

 

 

筋肉が倍の大きさに隆起する。

鋼鉄にて鋭利な爪が伸び、

猛々しき角が出現する。

猛獣のように口を裂かす。

そして背中には巨大な蝙蝠の翼。

 

 

「あ.....あ.....あ.....」

 

 

それは3年前に見た、

ドラキュラの真の姿。

悪魔に最も近づいた人間的怪物。

 

 

『くたばれ白豚が』

 

 

右腕をカブラルの胸に突き刺す。

 

 

『弾けろ』

 

「イエス様〜〜!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カブラルの身体が粉々に消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長崎。

 

 

「今しがた、叔父が死んだようだ」

 

「...........」

 

「ガブリエル。これはやはり.....」

 

「本物の.....ドラキュラだ」

 

「叔父程の者を倒したのだ。

以前の傷など、等に治っているだろう」

 

「関係ない。倒すだけだ」

 

「妹のミッシェルは?

どうやら死んでいないようだが?」

 

 

2人はこの長崎にて、甲斐で起こった事の様子を不思議な力で感じ取っているらしい。

 

 

「ドラキュラに捕まったのだ。

恐らくもう眷属になっているだろう。

次会う時には倒すべき吸血鬼の1人だ」

 

「いいのか?」

 

「.....父を殺された時より覚悟はしてる。

吸血鬼と戦うとはそういう事だ」

 

「いざとなれば、この九州のキリシタン大名を使って奴らを押し潰す方法もある。本国より援軍を呼び、このジパングごと滅ぼす事も可能だ」

 

「俺は反対だ。植民地ばかり作って、弱者を力で押さえて何になる?弱い者虐めは好かない」

 

「お前は宣教師ではなく、ただの神父だ。

この国においては私が上司。

ドラキュラ退治の英雄といえど、

私に従ってもらう」

 

「...........分かった」

 

 

長崎より2人の刺客。

ガスパール・コエリオ。

ガブリエル・クロウ・アンダーソン。

来る。

 




カブラルよりガブリエルを目立たせたかったので
早めに死んでもらいましたアーメン。
新ライバルのガブリエル。
果たして天竜を倒してくれるのか!?
(恐らくファンの希望)
次回予告
東北征伐
〜伊達と最上。味方をするならどっち?〜

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