天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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天竜アンチ急上昇中!


第五十話 謙信との会見

武田包囲網。

四方八方を敵軍に囲まれた武田軍は、逃げる事もできず、只々減り続ける自軍の行く末を見守る他なかった。

 

つい先程まで共闘していた戦友が、気がつけば敵軍に寝返っている。戦友が自分を殺しに来る。その恐怖に耐え切れず、気がつけば自分も敵軍に寝返っていた。

方法は簡単だ。武田軍を象徴する旗を折ればいい。赤塗りの鎧を脱げばいい。それだけで連合軍に加えてもらえた。

 

 

 

 

 

織田軍。

 

 

「どっ.....どういう事よ十兵衛!?」

 

「天竜の指示です。織田軍はこのまま武田包囲網に参加して下さいです」

 

「馬鹿言わないで!

どうしちゃったのよ十兵衛!」

 

「不満があるのですか?そうなれば、織田は武田と同じ扱いとなりますです」

 

「なっ!?」

 

 

十兵衛は真顔でそれを言う最中、

拳をギリギリと握り締めている。

 

 

「どうしますですか?

武田の同盟国として屠られるか、

今は仮に共闘するか。

徳川殿はとうに攻め込む準備を済ませていますです」

 

「...............あんたも、天竜側の人間になっちゃったのね」

 

「..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徳川軍。

 

 

「待った。長らく待ち続けた。

だからこそこの機会を得た!

武田への復讐の機会を!!

..........あの羽柴天竜に味方するのは少々癪ですが、今は.....」

 

「遠江、駿河の兵を整えました。

武田軍への全面侵攻はいつでも.....」

 

 

服部半蔵は言う。

 

 

「よし、進軍!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関東。

 

 

「まさか......貴方達と共闘するとは......」

 

 

三成は呆気に取られた。

 

 

「私もです。

よろしくお願いしますね石田殿」

 

「羽柴天竜の指揮下にある以上、

仕方ないと言えば仕方ないが......」

 

「あたしは暴れればそれでいいや!」

 

「奇しくも僕も脳筋さんと考えが

被りました」

 

 

それは忍城メンバー。

長親、丹波、和泉、靱負だった。

先の合戦で争い合った両者が手を組むなど、前代未聞である。

 

三成は、未だ腕を吊っている長親を見て心を痛めてしまう。

 

 

「そんなに悪いのですか?」

 

「はい。傷が完治しても、もう肩より上には上がんないみたいで......」

 

「ごめんなさい」

 

 

三成は咄嗟に謝ってしまう。

 

 

「そんな、石田殿に心配してもらうまでの事じゃないですよ。のこのこ前に出てきた私が悪いんです。そんなとこで呑気に踊ってるから撃たれたんですよ」

 

「..........かたじけない」

 

 

合戦を通して、

両者に友情が芽生えたのだろうか。

 

 

「結束が高まったのなら、その団結力を武田にぶつけようじゃないか」

 

 

吉継が言う。

 

 

「よし!ついでに羽柴秀長も倒して長親も取り戻す!」

 

 

成田甲斐だけが勝手な野望を膨らませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常陸。

 

 

「作戦は〜で〜で〜がいいんじゃないですかね?」

 

「うん。流石は元戦略参謀。

その戦略、上出来だよ」

 

「............言わないで下さい」

 

「なんだ。

まだ裏切った事を気にしてるの?」

 

「私は......天竜様の前で髷を落とし、その忠誠を誓ってみせた。ですが裏切った事で、あれは嘘だという事になってしまう」

 

「ふふっ......」

 

 

朧は高虎を抱き寄せる。

 

 

「私だって天竜だよ。

私は貴方が共に来てくれて、

とても嬉しい」

 

「うぅ......」

 

「私は貴方を弟のように想ってるわ」

 

「..........」

 

「あら!?余計だった!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻って天竜軍。

 

 

「武田に謀反する!?なんと愚かな!!」

 

 

当然昌幸は反対した。

 

 

「前々から連絡は付けてある。

西から織田軍。南から徳川軍。

東南から関東天竜軍。東から朧軍。

そして北からこの羽柴・真田と上杉の連合軍が追い詰める事で、武田を完全に包囲できる。

もう武田に勝ち目はない」

 

「貴方の裏切り行事に付き合えと

仰るのですか!」

 

「その通りだ」

 

「そんな事.....私は耐えられませんわ!

信玄様を.....主君を裏切るくらいなら!

私は死を選ぶ!」

 

「馬鹿が!!何故、忠誠だとか友情だとかで気軽に命が捨てられる!

何故己ではなく、他人の命を優先できる!」

 

「それが家臣というものです!だから私が、刃を向けるのは信玄様じゃない!魔将軍に利用されようとしている自分自身だ!」

 

 

昌幸は小太刀を抜く。

 

 

「自害するのか!

それが武士の志というものか!

素晴らしい!

素晴らしいまでに虫唾が走る!!

俺は陰陽師だ!武士の志など知らぬし、

知る気もないさ!

幸村!!」

 

 

すると、昌幸を後ろから何者かが押さえ付け、自害を防いでしまう。

 

 

「のっ.....信繁!?」

 

 

自分の娘ながら、簡単には抜け出せない程、彼女のホールドは固い。

 

 

「今は幸村です母上。

天竜様に付けて貰いました。

親から貰った名を捨てるのは心苦しいですが、想い人から与えられた初めての贈り物。大事に使わせて頂きます」

 

「可愛いぞ幸村。

後で頬に口付けしてやる」

 

「この親不孝者!!

魔将軍に魂を売るなんて!」

 

「ごめんなさい母上。

私も母上には死んでほしくはないのです」

 

「その通り。お前はまだまだ使える。

俺は面喰いでな。

美人なら中身は正直どうでもいい。

調教.....教育次第でなんとでもなる。

君をみすみす殺すくらいなら、

俺は教育を選ぶ」

 

 

天竜は昌幸に噛み付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅玉の瞳を持った彼女は今、

俺の隣りにいる。

 

 

「その.....すまない」

 

「私は貴方の下僕ですわ。

貴方の敵は私の敵ですわ」

 

「あぁ。その通りだ」

可愛い俺の眷属だよ」

 

 

天竜は昌幸の唇にキスをしてやる。

 

 

「主様?」

 

「詫びのつもりだ。

親子を又にかけた事のな。夫は?」

 

「4年前に戦で.....」

 

「なら安心だ。寝取るのは趣味じゃない...........覗いてんじゃねぇぞ幸村!」

 

 

側で隠れてた幸村が出てくる。

 

 

「うぅ.....私の約束がまだです」

 

「年功序列だよ。

たまには熟れた果実も美味いものだ。

だがこの武田征伐の功績次第では、

若い果実も食べたくなるかもな」

 

 

 

 

 

それを聞いた瞬間、

幸村は槍を掴んで出撃してしまう。

 

 

 

 

 

「可愛い奴だ全く」

 

「えぇ。源四郎は私の娘ですもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武田軍。

 

 

「報告します!馬場軍壊滅!

信房殿は捕らえられました!」

 

「報告します!高坂軍壊滅!

昌信殿は逃げ.....撤退戦を敷いていたようですが捕らえられました!」

 

「くっ!!昌景を本陣に戻せ!今更進軍した所で返り討ちになるだけだ!

今は甲斐に戻って態勢を整える」

 

 

信玄は2つの報告を聞き、愕然としていた。四天王はほぼ全滅。今自分に着いて来ている兵だっていつ裏切るか分からない。

 

 

 

 

 

 

「報告します!

甲斐が落ちました!」

 

「馬鹿な!!?」

 

 

 

 

あそこは逍遥軒.....自分の分身とも言える者に任せていたのだぞ!?

 

 

「城内に間者が出たようです。

その者が逍遥軒殿と勝頼殿を一早く確保し、人質に取ったようです。それで、降伏を.....」

 

「馬鹿な!!

何故私が戻るまで耐えられなかった!!」

 

 

とはいえ、妹が2人も人質にされている。

これは.....圧倒的に絶体絶命。

 

 

 

 

 

 

ピリリリリリリ!!!

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

信玄の懐から、

この時代には似合わない機械音が鳴る。

天竜から与えられた携帯電話だ。

これをかけてくるのは1人しかいない。

信玄は恐る恐る電話に出た。

 

 

「...........お前か?」

 

『そうだよ勝千代ちゃん』

 

「ぐぐぐっ.....!

一体私に何の用だ!」

 

『昌景の援軍を期待してるようだが無駄だ。昌景ならたった今俺が捕らえた』

 

「なんだとっ!?」

 

 

となれば、武田軍はもう数千程度の本陣しか残っていないのか!?敵は元武田の精鋭も吸収した十数万の大軍だぞ!?

 

 

『今ここで武力を持って君の本陣で潰す事は容易だ。だがそれでは面白くない。

降伏しろ勝千代。

妹らの命が惜しければな』

 

「貴様っ!!」

 

『甲斐の躑躅ヶ崎館にて待つ』

 

 

そう言って天竜は電話を切った。

 

 

「おのれおのれおのれ〜!!!!」

 

 

信玄は怒りのままに

携帯電話を握り潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、躑躅ヶ崎館。

 

 

「赤丹と月見ができたぞ」

 

「猪鹿蝶と四光です」

 

「うわ〜負けた。強いな四郎は」

 

 

あろうことか、天竜は四郎と花札をやっていた。逍遥軒はその様子を何とも言えぬ表情で眺めている。とても人質になっているようには見えない。

 

 

「姉上は来るでしょうか?」

 

「当たり前だろ。お前の姉ちゃんだぞ。

確実に来るさ」

 

「はい.....」

 

「安心しろ。

『みんな仲良く革命大作戦』だ。

だれも不幸にはしない。

そうだ!革命で思い出したから、

次は大富豪教えてやる」

 

 

天竜は右手にトランプを召喚する。

 

 

「ありがとです」

 

 

その時、そこへ使者が訪れる。

 

 

「報告します!

武田信玄殿、降伏致しました!」

 

「やっとか.....」

 

 

天竜は腰を上げる。

 

 

「おいで四郎。

お姉ちゃんに会ってこよう」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特に拘束もされず、まるで客のように奥に通された信玄。元館主という事もあり、不思議な気分だ。

 

 

「よう勝千代」

 

 

天竜はそこにいた。

本来は信玄がいるべき席に、

膝の上に四郎を乗せて.....

 

 

「四郎!無事か!!」

 

「はい!

天竜さんにずっと遊んでもらってました!」

 

「はっ!?」

 

 

予想していた状況と全く違い、戸惑う信玄。

 

 

「勝千代。四天王を始めとする大多数の幹部を奪われ、最後は残った数千の兵にすら見切られ、直前まで仲間だった者に捕らえられ、手土産のように差し出されたとか。難儀なこった」

 

「ぐぐぐっ!!一体誰のせいでこうなったと思っている!!」

 

「勿論俺のせいだな」

 

 

天竜は始めから開き直っている。

 

 

「どうだ。父親を追放して権力を奪ったお前が、逆に権力を奪われる気分は?

自分自身が下剋上に逢う気分は?」

 

「ぐっ.....!」

 

「何故俺が謀反を起こしたと思う?

それはお前が弱いからだ」

 

「なっ!?」

 

「武田には到底倒せなかった北条家。俺は難なく倒し、関東を平定してみせた。

武田が何度挑んでも、逆に攻め込まれ、ほとんど歯が立たなかった上杉を、俺はいとも簡単に退けてみせた。

多くの武田兵が思ったであろう。

『武田信玄最強説など、

マヤカシではなかろうか?』とな。

お前は優れた将に頼らねば弱い。

四天王などの猛将がいなければ、

戦もできない。

山本勘助などの智将がいなければ、

戦略も中途半端。

戦力差で押し潰せる徳川は倒せても、

奇怪な戦略と戦術を用いる織田には到底敵わないのだよお前は。

たった1人になってしまえば、

ただの、か弱い乙女に過ぎぬ。

お前はもう、『武田信玄』という幻の最強大名の姿をしているだけの、ただの雌餓鬼だ」

 

「......................天竜。

お前の目的は何だ?

何を目標にしている!?」

 

「世界を征服して、

世界平和を作り上げる」

 

「その先は.....お前は何をする?

一つになった世界の王になるのか?

それとも、やりたい放題好きなだけ人を殺し続けるのか!?」

 

「ふふっ.....平和になった世界に、

俺の姿はないよ」

 

「なんだとっ!?」

 

「何故なら.....俺は平和になる直前に死亡するからだ。いや、俺の死を切っ掛けに平和になると言った方が正しい」

 

「...........」

 

「俺は今まで多くの罪を犯してきた。

これからも多くの罪を犯すだろう。

俺は重罪人だ。重罪人が国の頂点に立つ事は許されない。俺が国を一つに無理矢理にでもまとめ上げ、俺が認めた後継者に俺を殺させる。そうすれば、世界は真の形で平和になる」

 

「天.....竜.....」

 

「最初はその役に良晴を推薦しようと思っていたが、この際お前でもいい。俺を殺したまえ」

 

 

天竜はそう言って懐から小太刀を取り出し信玄に投げ渡した。

 

 

「銀製だ。それを心臓を突き刺せば多分死ぬと思うぞ」

 

「...........」

 

「それに納得いかないなら、

この場で俺を殺してもいい。

君にはその権利がある」

 

「わっ.....私は.....」

 

 

信玄は小太刀を拾い上げる。

 

 

「姉上?」

 

 

信玄は天竜の膝の上の四郎を見つめる。この場で天竜を殺せばきっと、四郎は悲しむだろう。

 

 

「羽柴.....天竜。この悪魔め!!」

 

「俺は魔将軍だ」

 

「ふっ.....」

 

 

 

 

 

信玄は微笑み、

小太刀をその手から落とす。

 

 

 

 

 

 

「降参だ。

私の負けだよ天竜」

 

「信玄.....」

 

「だが約束したぞ!全てが終わった時、お前を殺すのは私だ!」

 

「あぁ」

 

「隠居する気だってない!

お前と私の上下が逆になるだけで、私はこれからもお前の隣りで口出ししてやる!機会を待って下剋上を仕返してやる!!」

 

「あぁ、その方が俺も気が楽だ。

四郎。姉ちゃんの所へ行ってこい」

 

「はい!」

 

 

四郎は天竜から離れて、

信玄のもとに駆け寄った。

これは人質解放と取ってもよかった。

 

 

「.....いいのか?」

 

「俺は織田信奈じゃないからな」

 

 

そう言って、天竜はその部屋を後にする。

その直後、天竜はその場に崩れ落ちる。

 

 

「天竜様!」

 

 

側に付いていた幸村が支えた。

 

 

「我ながら脆い神経だ。

裏切る度にこれか.....」

 

「天竜様.....」

 

「俺はこれからも人を騙し、

多くの者を絶望させるだろう。

お前はどうする幸村?」

 

「源.....私ですか?」

 

「将来的に俺はお前も裏切るだろう。

どうせそうなるのなら、

今のうちに俺から離れろ。

俺は気にしない」

 

「それはありません!」

 

「キッパリだな」

 

「源四郎は!.....源四郎は!.....」

 

 

天竜は幸村の頭を撫でてやる。

 

 

「本当に馬鹿だよ.....お前は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして前代未聞の武田政変は、

軍師だった羽柴秀長が下剋上にて駆け上がり、元主君の信玄が彼の勢力下に入るという革命騒動となった。

 

此度の武田包囲網に共闘する事となった織田と徳川には、信濃国を分割して献上する事となり、両者に借りを作る事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、仮ではあるが同盟を組む事となった上杉謙信。天竜は次にこの後始末をつけるに当たった。

 

 

 

謙信の居城、春日山城。

 

 

「むしゃむしゃむしゃむしゃ」

 

「「「...........」」」

 

「ガツガツガツガツガツ!!!」

 

「「「...........」」」

 

 

謙信、兼続、慶次を前にして、

出された料理を遠慮なく頬張る天竜。

 

 

「あの〜.....羽柴殿?」

 

「んん〜!やっぱ米は越後が1番ですね!」

 

 

謙信の問いかけも無視し、

天竜は料理に夢中だった。

 

 

「おいおいおい!!

調子に乗るなよ軍師さんよう!」

 

 

痺れを切らした慶次が叫ぶ。

 

 

「もう軍師じゃねぇ。

下剋上で競り上がった今、

俺が甲斐や関東の大名だ」

 

 

飯を頬張りながらも返答する天竜。

 

 

「羽柴殿。貴方はどのような要件でこの春日山城へ?」

 

「ん?あぁ.....」

 

 

天竜はここで驚くべき提案を言い出す。

 

 

「上杉家は我らに降伏し、

勢力下に入る事」

 

「「なっ!?」」

 

「...........」

 

 

両脇の兼続と慶次が驚愕し、

謙信は黙って天竜を睨み付けた。

 

 

「羽柴殿。自分が何を言っているのか理解をして申しているのでしょうな?」

 

「あぁ。そうなれば、上杉が持つ越後の支配権は俺に移る。あんたの関東管領職も失われる。俺様の下僕としてあんたらは世界の彼方此方に連れ出される。

そんなの納得いかないあんたらは、俺に対して尋常じゃない程の殺意を抱いているだろうね」

 

「理解していないようではなさそうですね。それで、そこまで分かっておられる貴方は私達をどう説得するおつもりですか?」

 

「俺は異能の力を持っている。いざとなればお前達全員を服従させる事も可能だ」

 

「へぇ。ふ〜ん」

 

 

謙信は頬杖をつき、余裕の表情を見せる。

 

 

「ふくっ.....くくく.....

義理の将、上杉謙信か」

 

「何がおかしいのです?」

 

「お前の偽善に塗れた伝説に

虫酸が走ってな」

 

「へぇ〜」

 

「お前の代表的とされた義が、

織田朝倉の対立時であろう。

上杉は始めの姉川合戦の頃は、まだ弱い立場であった織田に味方した。ところがだ。小谷合戦の時期になると、今度は立場の弱くなった朝倉側に味方するようになった。

この事から、

上杉は弱い者の味方。

真の義将を大々的に表現できた。

 

だが、違うだろ?

お前の本当の目的は.....

 

お前は最初から織田を潰す気満々だったんだ。だから、始めは織田に味方する事で油断をさせ、織田の虚を突くつもりだったのだろう?結局失敗したがな」

 

「...........」

 

「なぁ偽善者。俺にゃあ、お前さんが何をしたいのか分からんのさ。領地やら金が欲しいわけじゃない。だが、織田は討ちたい。どういう事?」

 

「織田はどの大名よりも他国への繋がりを持とうとした!この日の本の風潮を滅ぼそうとした!それは絶対にならない!」

 

「分かる!宣教師なんかこの国を征服する事しか考えてねぇ。奴らを信用しきって国を植民地にされた亜細亜の諸国が多数ある!

宣教師に好き勝手させるのは俺も反対だ!」

 

「ほう」

 

 

 

珍しく利害が一致した事に驚く謙信。

 

 

 

「.....だがな。港の開き過ぎも国を滅ぼすが、閉じ過ぎもまた国を衰退させる。

鎖国は俺は反対だ。俺なら、宣教師は入れずに貿易だけを継続させる方法を考える。

謙信よ。お前の保守思想を理解していないわけではない。だが、保守に走って後々後悔するのは目に見えている」

 

「.....貴方に何が分かる!」

 

 

「分かるさ。お前さん。

異国の血が入ってるだろ?」

 

 

「!!?」

 

「その目を見れば分かるさ。

亜細亜人に特有の茶黒い瞳ではなく、

紅く輝く瞳。

そう、我ら吸血鬼と同じ瞳だ」

 

「でっ.....デタラメを!!」

 

「だから戦場ではお前は顔を隠す。

日の本を死守しようとしている者の面相が1番日本人離れしているのだからな。だからお前は認めたくないのだ。自身の血筋を!追い出してしまいたいのだ。異国の血筋を!」

 

「ちっ.....違う!!」

 

「所詮は貴様も己の為に刀を振るうのだ。多少は民の事を思っても、結局の所はただの外人嫌いから始めた戦争だ!」

 

「違う!!違う!!」

 

「お前は怪物である事を認めたくない。だからこそ、それを証明してしまう異国人を日本から追い出したい」

 

「デタラメを言うな!

貴方に私の何が分かる!!」

 

「色々知ってるぜ?

直江兼続がお前の腹違いの妹だという事。

お前に生き別れの姉がいる事。

2年前に拾った捨て子を自らの義妹にし、その子に溺愛している事」

 

「...........」

 

 

そこにいた者全員が唖然とした。

特に反応していたのは兼続だった。

 

 

「わっ.....わわ私が.....謙信様の.....妹!?」

 

「だっ.....騙されるな兼続!

虚言に惑わされるな!!」

 

「うるさいなぁ百合のくせに.....

ひょっとして妹を抱いてるのが暴露されるのを恐れて、その事実を隠したのかぁ?」

 

「黙れぇ!!」

 

「実はお前の姉さんと知り合いなんだけどさぁ、あいつは凄えよ?自身が鬼である事を知った上で、その血の定を守ろうとした。俺が唯一認めてる宿敵の1人だ。

あまりにもお前と顔がそっくりだから、まさかと思って問い詰めたらあっさり吐きやがった」

 

「一体.....誰が.....」

 

 

飛騨の鬼.....

 

 

「それからその捨て子。

 

実は俺の子供なんだよね」

 

 

 

 

 

 

 

「......................は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「Έλα.Για τον πατέρα του.

Αγαπημένε μου κόρη του.

(おいで。父のもとへ。私の愛しい娘よ)」

 

 

天竜が謎の呪文のようなものを唱える。すると、まだ3つか4つ程度の可愛らしい幼女がヨタヨタ歩きで入室する。

 

 

「卯松!!

何故入ってきた!?」

 

 

上杉景勝。

幼名は卯松。上杉謙信の後継者として越後を治め、豊臣政権五大老の1人に選ばれた。

 

 

「卯松か.....

俺はこの子に影(かげ)と名付けた。

景勝にちなんでな」

 

「おと.....しゃ」

 

「おぉ。ちゃんと覚えていたか。

犬は3日の恩を3年忘れないと言うが.....

いやいや、娘を犬扱いしちゃいけないな」

 

 

天竜は卯松を膝に乗せた。

 

 

「おやおやおや〜?

そうなってくると面白いなぁ。

影は俺の実子。

んで、この子は上杉謙信の義妹。

つまり上杉謙信は、

俺の義娘という事にならないかなぁ?」

 

「なんと!!?」

 

 

この男.....これを目的に自分の子供を!

 

 

「我が子を政治の道具に使うなど!

貴様が親を名乗る資格はない!」

 

「この時代じゃあ普通だろ。

この子は俺の分身のようなものだ。

どう使おうが、知った事ではない」

 

「この外道がぁ!!!」

 

 

謙信がついに刀を抜く。

だが天竜は待ってましたとばかりに微笑み、膝の上の我が子の頭に拳銃を突き付けた。

 

 

「!!?」

 

「動くな!可愛い妹の頭を吹き飛ばされたくなかったらなぁ!」

 

「くっ.....!!

どこまで腐っているのだ貴様は!

自分の子供を撃てるわけがない!」

 

「撃てるさ。この子を撃ったら、直後に俺も自害するからな」

 

「おと.....しゃ?」

 

 

卯松は何も分かっていないようだった。親である天竜を完全に信用している。

 

 

「おのれ.....!!」

 

 

謙信の卯松を本当に溺愛していた。一目見た時から、その捨て子を育てる事を決意した。卯松もまたそれを受け入れてくれた為、謙信はまるで宝のように卯松を愛した。

前に一度、信玄とどっちの妹が可愛いか口論になり、それがそのまま戦に繋がった事もあった(正直、あの時の私は少々幼かったな)。

 

 

「どうする謙信」

 

「わっ.....私は.....」

 

「どうする?どうする?どうする?

殺すのか?生かすのか?

お前に妹が見捨てられるか?

できるわきゃねぇよな〜??

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

な〜にが毘沙門天だ!

な〜にが軍神だ!

妹1人の為に国を売り渡す愚将め!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

 

悪魔の高笑いをあげる天竜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああ!!!!」

 

 

ある少女の掛け声と共に天竜の高笑いが止まった。そして、直前まで口を聞いていた顔が、宙を舞う。

 

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

 

 

天竜の後ろ、その刀を振るったのは.....

 

 

「兼続!!」

 

 

油断していた天竜の首を刎ねた兼続。

 

 

「申し訳.....ありません。

でも!.....でも!」

 

 

返り血と涙が一色担になり、

兼続の顔がくしゃくしゃになる。

謙信は慌てて兼続に駆け寄り、

彼女を抱き寄せた。

 

 

「もういい。もういいんだ。与六」

 

「謙信さまぁ.....私は例え.....

謙信様が姉であっても、

お慕い申しています.....」

 

「与六.....」

 

「謙信さまぁ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『馬鹿!手元狂って撃っちまったらどうすんだ!首チョンぱって痛いんだぞ!

.....まぁ弾なんて入ってないけど』

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!?」」

 

 

2人が振り向く。

すると、天竜の首を抱く慶次が.....

 

 

「慶次ぃ!!」

 

『大丈夫大丈夫。喉が使えなくて喋れないから口を借りてるだけだ。催眠術を解けば元に戻るさ』

 

「お前.....人間か?」

 

『限りなく悪魔に近い、な。

.....ったく、撃つわけねぇだろ。

俺は身内にだけは優しいんだぜ?

本気にしやがって』

 

 

操られた慶次は、

天竜の首を元の位置まで運んでゆく。

 

 

『最近血を飲むようになってから、益々死に難くなってな。いくら術を使っても、寿命が減る気配は全くないし、力もドンドン増幅している。

吸血鬼様様だよ』

 

 

そうして接着される。すると切断跡も消え、始めから何も起きなかったようになる。その瞬間、慶次の催眠が解けた。

 

 

「あっ.....あれ!?

あたしは.....」

 

「影、気絶してんじゃねぇか。

まぁ、父親の頭が跳ぶ所見ちまったらしょうがねぇか。トラウマになったらどうするつもりだ?」

 

 

直前まで首を斬られていた者の

様子とは思えない。

 

 

「俺、帰るわ」

 

「!?」

 

「信玄と同じように脅せば何とかなると思っていたけど、無理っぽいしな。

虎も龍も虐め過ぎると後が怖い。

クワバラクワバラ」

 

「羽柴.....?」

 

「まぁ、越後は保留にするわ。

首斬られて興が冷めたし、

だから邪魔すんなよ?

これから東日本を統一すんだから」

 

 

天竜は気絶している卯松を隣りにいた慶次に渡す。

 

 

「人質として預けとくな。

どっちにしろ、あんたの所の方が安全そうだ。影.....卯松を頼むわ」

 

「...........」

 

 

天竜はさっさと帰り支度をする。

 

 

「お腹すいた.....

血半分くらい出ちまったし.....」

 

「羽柴秀長.....貴方の目的は?」

 

「.....俺は悪党だ。

今更偽善に走るつもりはない。

だからこれからも凶悪に卑怯に下劣に生きてやるさ。いつか倒されるその日まで」

 

「?」

 

「魔王織田信長を裏切った悪党明智光秀を討った羽柴秀吉が、平和を手に入れたように、世を支配した平氏を倒した源氏が実権を握ったように、独裁を行う蘇我入鹿を討った中大兄皇子と中臣鎌足のように、俺を倒してくれる者を。引き返せなくなった俺を解放してくれる者を、俺は待ってるよ。

虫がいい事は理解してる。

だが、その者は確実に現れる。

俺は魔将軍。『倒される者』だ」

 

「...........」

 

「お前はどうする?

義父の俺を殺してみるかい?」

 

「なっ!?」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

怒るな怒るな。

やっぱ『龍虐め』っておもろいわ」

 

「くぅ.....」

 

「俺は一刻も早く、

日本を統一させなければならない。そしてその権利を次の者に引き継がねばならない。

あの御方の為にも.....」

 

 

あの御方?

 

 

「さてもう一つ」

 

 

意味あり気な言葉を言った直後である。

天竜は刀を抜く。

 

 

「えっ?」

 

「お前の為だ。許せ」

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜は謙信の右手首を切断した。

 

 

 

 

 

 

 

「あぐあぁっ!!!?」

 

「謙信様!」「謙信!!」

 

 

兼続と慶次が動こうとしたが、

その直後。

 

 

「ぐっ.....!」

 

 

天竜は自らの手首をも切断した。

 

 

「「「!?」」」

 

 

そうして天竜は無言で切断した自分の右手首を謙信の右手へと接着する。そしてそのまま結合させてしまった。

 

 

「なっ.....何を!?」

 

「お前のそのアルビノは、血を飲まな過ぎた吸血鬼に特有の症状だ。そのままだと、今更血を飲んだ所で手遅れになる。

だから俺の肉片を植え付けた。これならお前の寿命も多少なら伸ばせる

まぁ、前妻の受け入りだがな」

 

 

すると謙信の髪の色が、白色から黒色へと変化していった。

 

 

「あくまで応急処置だ。

これからは定期的に血を飲め。

でないと左手も付け替える事になる」

 

「血だなんて.....」

 

「それとだ。

3つ約束を守ってもらう。

まず一つ。その手を日光には当てるな。焼け爛れるぞ。

二つ目。その手を濡らすな。別に怪我するわけじゃないが、多分酷い目に遭う。

三つ目。0時.....夜中の子の刻が過ぎたら朝の午の刻まで何も食事をしない事。そうなったら俺でも助けられなくなる。

それさえ守れば結構使えるぞ。

その悪魔の右手は」

 

「悪魔の.....右手?」

 

 

天竜は謙信の元の右手首を拾い上げ、バリバリと食べてしまう。それに伴い、天竜に再び右手が生える。

 

 

「それじゃ、俺からの贈り物を大事に使えよ。アデュー」

 

 

そう言って煙のように消えてしまった。

 

 

「羽柴秀長.....一体何者だ?」

 

 

 

 

 

 

流血事件となったこの会談。

この会談に意味はあったのだろうか。

 




だいぶ長くなりました。
前回ので天竜を外道にし過ぎたので、
少し抑えようと努力しましたが、
結局外道になりました(泣)
信玄と謙信を又にかけた脅し。
信玄はどうにかなったが、果たして謙信は?
次回予告
宣教師
〜どうした?貴様らの標的はここにいるぞ〜

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