天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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前半ギャグで、後半はシリアスです。


第四十八話 吉原

「ここか」

 

 

天竜は関東の支配者となった。

常陸国の朧に対抗するため、

元北条の地をそのまま受け取ったのだ。

小田原征伐に伴い、北条方の数万人が敗残兵となり、路頭に迷いかけていたが、天竜はその全員を迎え入れた。それは、一軍師が持つには多過ぎる程の戦力。そこらの大名より強力である。

天竜はその膨れ上がった人員を用いて、関東の改革を行ったのだった。

 

江戸。

 

天竜は、北条が勢力を誇っていた小田原ではなく、江戸に本拠地を置いたのだった。

 

 

「さてさて。都が出来上がるまでに何年かかるかねぇ」

 

 

天竜はとある地を訪れる。城やら堀やらを作る前にやっておきたい事が一つあった。

 

 

「三成。橋はいつできる?」

 

 

町づくりを担当するは石田三成。

 

 

「その.....来年までにはと.....」

 

「どうした?元気ねぇなぁ。

まだ忍城戦の事気にしてんのか?」

 

「そういうわけでは.....」

 

「言っただろ。

『失敗は成功の元』だって。

取り返しのつかなくなったわけじゃねぇんだから、次に挽回すればいいんだよ」

 

 

そう言って頭を撫でてやる。

三成は瞳に雫を溜めた。

 

 

「それじゃあ、

代わりにお願いしようかな。

今度長親に会いに行くからさ、

そのセッティング.....

いい雰囲気を作ってくんねぇかな?」

 

「は.....はぁ」

 

 

それはそれで複雑な心境だ。

 

 

「橋の名前はどうします?」

 

「日本橋」

 

「..........そのまますぎません?」

 

「いいんだよ。数十年後にはここが日本の中心になるんだから」

 

 

平成の世では、ここが東京の中央区になる。

 

 

「さて、彼女達は呼んだか?」

 

「言われた通りにはしましたが.....

本気ですか?最初に作る町ですよ?」

 

「北条時代の頃にはもう町並みはだいたいできてんだよ。都作りはこの先数年かけてやっていけばいいんだよ。

その前にここを仕上げたい」

 

「はぁ.....」

 

 

三成が命じられて某所から呼び寄せた者達.....それは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲斐。

 

 

「はぁ!?

天竜が遊女屋を作りまくってるだと!?」

 

「はい。遊女屋ばかりを集めた町を建築しているそうです」

 

「ぬぬぬぬ.....!!

常陸の朧とかゆうのを倒す為に関東を明け渡したというのに!そんな物を造らせる為に与えたんじゃない!

文句言いに行ってやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は戻る。

 

「天竜!!」

 

 

怒りが篭り、殺気立った信玄がドシドシとやって来る。

 

 

「あい?」

 

 

建築中の遊女屋を視察をしていた天竜。

 

 

「あぁ〜。駄目っすよ〜。

ここは女人禁制っすよぉ?」

 

「なんだと!?私は遊女屋を造らせる為に関東を与えたんじゃない!」

 

「ここは遊女屋じゃないっすよ?」

 

「はぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは『遊郭』だ」

 

「ゆう.....かく?」

 

「あぁ。遊女屋の町、遊郭。なぁ勝千代。俺が何故遊女屋の町を造ったか分かるか?」

 

「分かるか。

それと、その呼び方やめい」

 

 

 

 

 

ここから天竜の言い訳が始まる!

 

 

 

 

 

 

「古今東西、男が命を張る理由は大きく分けて3つある!

それは金と肉。それと女だ。

戦争で戦果を挙げれば金と肉は手に入る。だが女となれば、簡単には手に入らん。身分が高けりゃ、政略結婚でどこぞの姫をいくらでもズッコンバッコンヤレるが、低けりゃ自力で見つける他ない。だが、妻も恋人もできなければ、余り昂ぶる性欲は解消しきれない。

その為に遊女屋がある。

明日の戦で自分は死ぬかもしれない。

だからこそ今日、男は女の温もりを求めるのだ。どれだけ裕福だろうが、どれだけ武功を挙げようが、女がいなければ男は生きていけない!

金で色を買う。

何が悪いのか?

生活の糧を得ているのだ!

それは個人の問題。

他人にとやかく言われる筋合いは無い!

だが昨今の遊女屋ではとある問題のせいで枯渇問題に瀕している。

それこそ姫武将制度!

女性は遊女を極端に嫌う。

下品だ卑猥だとな。

好いた男も遊女に取られ、浮気騒動の原因にもなってしまうからな。

案の定近畿においても、

良晴が遊女屋に行かないように、信奈は京にも多くあった遊女屋をほとんど取り壊してしまった。お陰で蛇の生殺しになり、強姦事件が多発した事もあった。

勝千代。君だって遊女屋を嫌って、甲斐などには全く造らせていないだろう?

それでは兵の士気が低下するばかり。

そんなの駄目だ!!

俺は足利幕府、副将軍として宣言しよう!

幕府公認の遊女屋の町、遊郭を完成させ、全国区に拡大させてみせると!!

そうなれば、南蛮の奴らとて見逃す事もあるまい!自身が聖職者である事も忘れ、大和撫子の色気に翻弄され、すっかり生殖者となるだろうな!ハッハッハッハ!!!

更に!従来の遊女屋にて問題提起されてきた遊女の妊娠問題!通常ならば生理を避けるのが常識だが、店の都合で生理中も仕事させる場合もある!その為遊女が妊娠し、客が認知しなければ、遊女は無理矢理堕胎される事もある、それだけでなく、それよりも大きな問題は感染症だ。

その無理な堕胎や、

不潔な状態での性交により、遊女が梅毒に犯される件が多発してしまっている!

梅毒にはペニシリンが有効とされているが、『仁~JIN~』のように青カビから精製するには時間がかかりすぎる。

だからこそこの避妊具を開発した!」

 

 

天竜が取り出したのはコンドーム!

 

 

「ゴムが日本に来るのは1853年のペリー提督来航時。それまで200年律儀に待つわけにもいかぬので、今回は俺が大量に召喚した!

だが、今後も召喚し続けられるわけではないから、別の素材で検討しようと思う。

牛かなんか膀胱とかが柔らかくて丈夫だからなんとかなりそうだ。

まぁ、いざとなればゴム原産地のオランダから買い付けるとしよう。

この避妊具さえあれば、妊娠の心配も感染症の心配もなくなる!

遊女も客も安心して性交に集中できよう!

さらにその遊ぶ値段も極力下げさせた。それまでは大金を払える上級武士、地主、豪商などしか通えなかったが、これからは下級武士やはたまた百姓だって通えるような安価に設定させよう!

俺は織田時代から溜めた貯蓄が余り余るほどある!全部この遊郭を含めた関東改築の為に使って構わない!

俺は全人類の男の味方だ!

俺は最高の遊郭を造りあげてみせる!!」

 

「「「おぉ〜!!!」」」

 

 

演説を聞いていた男共から天竜への称賛の声が挙がり、拍手で迎えられる。

 

 

「ありがとう!ありがとう!」

 

 

天竜もまた丁寧に返した。

 

 

「もういい.....好きにしてくれ.....」

 

 

完全に論破された信玄は寂しげな背中を見せながら帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、この町の名前はどうされますか?」

 

「佐吉。お前なら何とつける?」

 

「そうですねぇ.....この地は多くの葦が生い茂っていましたので、『葦原』でどうでしょう?」

 

「いい名前だ。だがそれでは、『悪しの原』になり縁起が悪い。俺ならこうつける。

『良しの原』で『吉原』とな」

 

「『吉原』ですか。いい名前ですね」

 

 

こうして、徳川幕府が作るはずだった吉原を天竜が完成させてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

武田家臣団による会議が行われる。

 

 

「次は上杉を落とす」

 

 

天竜がそう切り出す。

上杉は小田原征伐の際も動きは見せていた。だが、甲斐に武田本隊が待機していた為に、上手い具合に進軍できず仕舞いであった。

 

 

「上杉はいざとなれば挟み撃ちも辞さない連中である事がハッキリしたであろう。そんな中途半端な思想の『義』を掲げる奴らを、俺達は許すわけにはいかない。ここで上杉を討つ!」

 

 

それは他の家臣団も同意であった。

だが、問題がある。

この宣言を、天竜がしてしまったのだ。

本来ならば信玄が言うべき言葉。

 

これでは、どっちが大将なのか分かったものではない。

 

 

「分をわきまえよ羽柴!

信玄様の前で!」

 

「特に何も意見を持たぬよりはマシであろう山本勘蔵殿」

 

「くっ.....」

 

 

今現在、

武田の中で最も対立してるのはこの2人。

現軍師である天竜と、

前軍師の嫡子の勘蔵。

だがその実力の差は明確だった。

 

 

「いっ.....今は、西に勢力を広げる織田を討つべきだ!同盟など関係ない!幕府を弄び、姫巫女様を蔑ろにする織田を、これ以上放っておくわけにはいかない!」

 

 

勘蔵の言い分も正しい。

勘蔵に賛同する者もいる。

だが.....

 

 

「背後に敵を置いてか?

織田を攻めた時に上杉に挟み撃ちされたらどうする?上杉だけではない。まだ伊達や最上、朧がいる。

それらを一掃し、東日本を制圧してからでも遅くはないだろう。むしろその方が織田が西日本で取った領土をまとめて手に入れられる。

我らが東日本を制圧するまで織田を抑える必要がある。

だからこそここで同盟を組んだ。

まっ、一種の休戦協定だがな」

 

 

天竜がそれを上回る考えを提示する。

しかも天竜のいい点は、

天竜の意見を全否定の勘蔵に対し、

勘蔵の意見も肯定しつつ、自身の意見を付け加える。案の定、天竜側に賛同する者が多く出る。

 

 

「では天竜の意見を採用しようと思う。

まだ異論があるか勘蔵?」

 

「ぐぐぐぐ..........承知しました」

 

 

これは、天竜こそが武田の軍師である事を決定づける出来事となる。

 

 

「おのれ羽柴天竜.....」

 

 

勘蔵が天竜を睨みつけながら、

ボソリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常陸国。

 

 

「ジッとしててね」

 

「ひぅ.....!?」

 

 

可愛らしい姫武将の首筋に噛み付く朧。

しばらくゴクゴクと吸血をしていたかと思うと、姫武将がビクビクと痙攣を始め、様子が変わる。

 

 

「ふぅ。ごちそうさま」

 

 

朧が彼女から離れる。

放心した姫武将の瞳は紅に染まっていた。

 

 

「これが、眷属作り.....?」

 

 

朧の側で、藤堂高虎は言う。

 

 

「そう。眷属になった吸血鬼は主人の吸血鬼の絶対忠誠を誓うようになるの。.....いえ、正確には『逆らわなくなる』が正しいわね。現に高虎は眷属となった今でも、以前と変わらないしね」

 

 

高虎の瞳もまた紅に染まり、

首筋には2つの噛み跡が残っていた。

 

 

「吸血鬼.....ですか」

 

「なぁに?貴方の人間の部分を殺した事を根に持ってるの?」

 

「いえ!滅相も!

..........ですが、裏切り者の私が、

人間であり続ける事に耐え切れなかった私が.....こんな異能の超常的力を持ってよいのでしょうか?」

 

 

高虎は本心からは裏切ってはいなかった。

 

 

「言ったでしょ。

独断で常陸国を取ったけど、

天竜に敵対したわけじゃない。

第一、天竜を殺せば私も死ぬしね」

 

「えっ!?」

 

 

それは衝撃の事実。

 

 

「私が別世界の天竜だっていうのは前に説明したでしょう?それぞれの世界では別々の生き方をしてるから、片方が死んだ所でもう片方には何の影響もないの。

でも、神のいたずらで私達は1人になった。

弾正のせいで肉体は分かれてるけど、

元より命は彼と私で一つ。

天竜が死ねば私も死ぬし、

私が死ねば天竜も死ぬ」

 

「..........」

 

「心配するな。

私も奴もドラキュラ。

そう簡単には死なない」

 

「はぁ.....

一つお聞きして宜しいですか?

その.....私達は、天竜様の.....

敵なのですか?味方なのですか?」

 

「ふふっ」

 

 

朧はそっと微笑する。

 

 

「天竜と私は同じ存在よ。

敵も味方もないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一月ほどが経って、

吉原にてとある事件が起きていた。

 

 

「人斬り?」

 

「はい。最近、夜になると遊女ばかりを狙う人斬りが出没し、大きな騒動となっています。このままでは、来客も減るばかりで.....」

 

 

三成が言う。

 

 

「ちっ.....」

 

 

俺は呪われているのだろうか。

俺が民衆の為に行動を起こすと、

決まって人斬りが現れる。

 

最初は堺にて、

俺の開いた寺子屋の生徒らが襲われる事件が起き、それは土御門久脩の仕業であり、伊賀忍者であった凪達を操り、俺を炙り出そうとしていた。

その次は大和や紀伊にて、

女子供が無差別に次々に襲われ、

終いには十兵衛や孫市等が襲われ、

大惨事となった。それは暴走した左馬助が起こした悲劇だった。

 

となると今回も俺絡みか?

その場合、

容疑者の第一候補は.....

 

 

「光か.....」

 

 

あいつならやりかねない。

左馬助としての前科があるし、

前に俺の風俗通いが露見した時も、

包丁を持ち出して危うく風俗嬢を殺しかけた事があった。

 

 

「私じゃないわよ。

私だったら、殺したら天竜さんが激怒するような人を殺しますもの」

 

「だよなぁ〜.....................

はっ!!!?.....光っ!!!?」

 

「御機嫌よう」

 

 

いつの間にか光が隣にいた。

 

 

「なんでお前がここにいる!?」

 

「なんでって.....

別にいなくなったわけじゃないですよ?

ずっと一緒にいましたし」

 

「一緒にいたなら、姿も現せよ!

背後霊か手前ぇは!!」

 

「あら?

実際そんなような存在ですよ私」

 

「ちっ.....じゃあ、お前じゃなきゃ、

誰が犯人なんだ?」

 

「そんなもの、目で見て確かめればいいじゃないですか」

 

「ふんっ!

言われなくてもそのつもりだったさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

 

 

「なんで私が.....」

 

 

結局、三成が遊女の格好をして待ち伏せする事になった。

 

 

「しょうがないだろ。

他の奴らは戦後処理で各地に出てるし、

光じゃあ信用できん。

演技とか上手そうなのお前ぐらいだしな。

本物の遊女にやらせるわけにいかないしな」

 

「私なら襲われて構わないと?」

 

「違う違う。

犯人を炙り出すだけだ。

お前に危害が加えられる前に、

俺が全力で犯人を止めてみせる」

 

「天竜様.....

すみません。私に武芸があれば、

その場で取り押さえられるんですけど.....」

 

「いいよいいよ。

吉原の町づくりでは世話になったし、

面倒な財務とか全部押し付けちゃったしな。

それに似合ってるぞ。その着物姿」

 

「うぅ.....」

 

「こんな可愛らしい女郎がいたら、

迷わず指名して抱きたくなる」

 

「えっ!?」

 

 

希望に満ちた返答。

 

 

「まぁ冗談だけど」

 

「なんでですか(怒)!!」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い夜道。

まだ町づくりの途中という事もあり、

遊女も客も日付が変わる頃には屋内に入っていた。ここ最近の人斬り騒動もその由縁であろう。

 

 

「..........」

 

 

その誰もいない町を遊女の格好をした三成が歩を進める。

 

 

「ふぅ.....ふぅ.....ふぅ.....」

 

 

その時!

 

 

「見っつけたぁ!!」

 

 

 

屋根の上から見張っていた天竜が飛び降りてくる。

 

 

「!?」

 

「天竜様!」

 

「よ〜う人斬りぃ。

誰かは知らねぇが、

俺様が退治しに来てやったぜぇ」

 

 

暗闇であるせいか、影に隠れて人斬りの顔が見えない。だが、奴は月明かりがある所まで歩いてくる。

 

 

「ふぅ.....ふぅ.....ふぅ.....」

 

 

何故か息切れをしている人斬り。

その正体が明らかになる。

 

 

「!!!?」

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

 

 

奴は.....彼女は.....

特別美人過ぎるわけでも、

特別不細工過ぎるわけでもなく、

特別な性格でもなく、

戦においても目立った動きもなく、

名前も特徴的でもない為、

存在そのものをよく忘れられる子。

 

天竜ぐらいがちゃんと覚えてあげていた為に、天竜にとても懐き、自身を愛称で呼ばせる事を旧友や主君以外で唯一許していた。

 

 

「修理.....」

 

 

内藤昌豊。武田四天王で最も目立たない子。

 

 

「何故だ修理。

何故、お前が人斬りなんか.....」

 

「はぁはぁ!.....がふっ!.....はぁはぁ!」

 

 

明らかに様子がおかしい。

動悸と息切れが激しく、

眼が充血している。

天竜はヤクザの組長をしていた経験から、これとよく似た症状を見た事があった。

 

 

「薬物による禁断症状か!?」

 

 

薬物中毒になった者を警察に引き渡すような仕事をやっていた事もあった為、天竜は目で見て中毒患者かどうかが分かった。

 

 

「がぁっ.....!」

 

 

昌豊が逃亡する。

 

 

「あっ.....待て!」

 

「いい。追うな」

 

「何故ですか!」

 

「多分奴の裏には黒幕がいる。

そっと着けて、それを暴くぞ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昌豊が逃げ込んだ先。

それはある人物の屋敷だった。

 

 

「バレたのか!?羽柴秀長に!?

それでオメオメと逃げ帰ってきたのか!!」

 

「うぅ.....」

 

「そういう時は奴を刺し違えてでも殺してくるのが当たり前というものだろう!本当に役立たずだなぁ貴様は!」

 

「げふっ.....それより.....ぐっ、

アレを..........アレを.....」

 

「ちっ.....!」

 

 

その男は懐から煙管と謎の薬物を取り出し、昌豊に投げ渡す。

 

 

「はぁはぁはぁ!!」

 

 

昌豊はそれに火を付け、煙草のように吸う。

だが、それはただの煙草ではなかった。

 

 

「ふん」

 

 

その男はソレに夢中になっている昌豊の袴を脱がし、褌も取ってしまう。昌豊は気づいていないのか、まだソレに吸い付いている。

そんな昌豊を他所に、男は昌豊をそのまま犯してしまう。

 

 

「ひうぅっ!?」

 

「挿入れられて初めて気づいたのかよ。

本当に壊れてやがるなぁ」

 

「はぁはぁ.....いやぁ.....

ひっ.....ひっ!.....はぐっ.....!」

 

「ちっ!まるで犬とヤってるようだ。

ほとんど人形だなぁ、コイツ」

 

「へっ.....へぁ!.....へぁ!.....

.....ぐぐっ..........たすけ.....」

 

 

涙やら鼻水やら唾液やら、

昌豊の顔がグチャグチャにされる。

微かに声にならない程の悲鳴をあげるが、

男はやめようとしない。

 

 

「はははははははははははは!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは阿片か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

男がそれに気づいた矢先、

駆けつけた天竜によって男は殴り飛ばされる。

 

 

「がぐぁっ!!!」

 

「三成。修理を」

 

「はい!」

 

 

男から解放された昌豊は

三成の手当てを受ける。

 

天竜は足下に落ちていた、昌豊が吸っていた煙管を拾い上げ、そっと臭いを嗅ぐ。

 

 

「やはり阿片だな」

 

 

阿片(あへん)。

麻薬の一種で、煙草のようにして吸う事が出来る。一時、快感のようなものを錯覚させるが、効果が切れると強い禁断症状が起き、再び阿片を求めるようになり、だんだん身体を壊してゆく魔の薬。

歴史的に有名なのはアヘン戦争。

イギリスが売りつけた阿片が原因で清国がボロボロにされ、戦争に発展したものの、国力の差に大敗し、清国が滅びる最初の原因にもなった。

アヘン戦争は幕末の事であるが、

阿片そのものは早くから日本にも多く出回っており、鎖国するまでは普通に売られていた。

 

 

「南蛮商人から買ったのか。

こいつを利用して修理を麻薬中毒にし、奴隷にする。その上で人斬りを行わせていたわけか。

遊女が多く死に吉原が没落すれば、

責任を取らされるのは俺だ。

そうやって俺の地位を追い、自身が武田家軍師に返り咲こうとしたのか?

 

え?どうなんだ?

山本勘蔵さんよう!」

 

「ぐぐっ.....」

 

 

全ての黒幕は山本勘蔵。

 

 

「全てお前が悪いんだ!

お前さえ現れなければ俺は父上の後を継いで、武田家軍師になれたんだ!

それなのに.....それなのに.....

お前なんかがいるから!」

 

 

 

「黙れ!!」

 

 

ドスのきいて、怒りのこもった声が響く。

 

 

「そんな事だけの為に修理を壊し、

偉大な父、山本勘助の名を汚したのか!

貴様はどちらにせよ、軍師にはなれなかったであろうな。もし、お前が武田家軍師に適任なら、勝千代は直ぐにでもお前に任命しただろう!

だがそれが無かったのは、

お前の中の腐った部分を彼女が見抜いていたからだ!だからこそ、良晴を軍師にと求めたのだ!」

 

「くっ.....!!」

 

「この下衆が!

人を騙す苦しみを知らぬ者が、

人を騙すな!

人を殺す哀しみを知らぬ者が、

人を殺すな!

戦争の愚かさを知らぬ者が、

戦争を起こすな!

貴様が今、この世で人として

生きている事が腹立たしい!

今日を生きる資格のない者が

俺の前にいる事が憎らしい!

貴様はただの肉だ!

外から内まで腐り切った駄肉だ!!

 

式神、鉤爪竜召喚!!」

 

 

ヴェロキラプトルを型どった式神が

5体程現れる。

 

 

「ひぃぃぃっ!!!?」

 

「俺は貴様に失望した。

肉は肉らしく、トカゲの餌となれ」

 

 

5体の鉤爪竜が勘蔵に襲いかかる。

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ.....」

 

「残すなよ。肉片一つすら、この世に残す事は許されない」

 

 

こうして、山本勘助の隠し子にして嫡子、山本勘蔵は生きたまま恐竜の餌となるという結末にて、生涯を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三成。修理は?」

 

「駄目です.....このままでは.....」

 

「がふっ.....ぎゃふっ.....」

 

「くっ.....」

 

 

昌豊はもう末期症状であった。

脳までもが蕩け、死を待つ状態。

むしろ今まで、誰にも悟られずにいれたのが不思議なくらいだ。

 

 

「なんて哀れで、惨めであろうか。

阿片で操られていたとはいえ、

君は自らの手で罪なき遊女を殺し、

自分の意志で阿片を吸い続けたのだ。

その罪は重い」

 

 

天竜はそっと昌豊を抱き寄せる。

 

 

「簡易ながら、裁判を行う。

内藤昌豊。君は多くの遊女を殺した。

また、違法的な薬物を摂取した。

その罪は許され難い。

よって有罪とし、

内藤昌豊を死刑と処する」

 

 

そうして、昌豊の首筋を.....

 

 

「俺が本当にドラキュラ.....

本当に吸血鬼であるのなら.....」

 

 

天竜は昌豊の首筋に噛み付いた。

そして血を吸った。

 

 

 

 

 

 

 

こうして、内藤昌豊は死亡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

「うっ.....ううぅ.....」

 

 

とある少女が布団から目を覚ます。

 

 

「起きたか」

 

「天竜.....殿?」

 

「まだ日中だからな、

ちょっとだけ怠いだろう。

吸血鬼も主と眷属では違いがあるらしい」

 

「吸血.....鬼?」

 

「あぁ。人間としての君を殺し、

代わりに吸血鬼にした。

初めての眷属作りだったが、

成功したようだ。

完全に壊れかけていた君を救うにはこれしかなかった。許せ」

 

 

昌豊にはもう、

阿片の禁断症状は消えていた。

だが、肌は死人のように青白く変色し、口には鬼歯。そして、瞳は紅色に輝いていた。

 

 

「ようこそ。人外の世界へ」

 

 

人間としての昌豊は死亡し、

吸血鬼としての昌豊が誕生する。

 

 

「主(あるじ).....様」

 

 

あぁ。俺はなんて罪深い。

怪物としての孤独が寂しく、

彼女を引き込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺こそ真の外道か.....

 




原作で全く目立たない修理ちゃんを
全面に出した会でした。
一部性的描写がありましたが、
規定に引っかからないか心配です。
次回予告
川中島の合戦
〜もう、武田と上杉は.....互角ではない〜

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