天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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お客様は神様だと?
神は死んだ!!


第四十五話 成田長親

小田原城。

天竜の策略により、小田原城は文字通り落城した。城の半数以上が壊滅し、まだ形を残しているのは天守閣程度であった。

 

 

「ふっくくくくく.....

小田原城程の巨城を支え、

その下には膨大に広がっている地下通路。

そんな状態では当然、城を支える地盤は緩くなっているはず。そんな薄くなった地盤をダイナマイト程の爆薬で破壊してやれば、あとは流れだ。

俺の計算通りの位置で爆破し、小田原城を支える地盤を破壊。そうなると、莫大な重量を持つ小田原城は地下へと吸い込まれてゆく。この衝撃で小田原城下の石垣は破壊される。

小田原城といえど材質は木だ。下部にそんな衝撃が加われば、上部にも連鎖的に負担がかかり、崩壊してゆく。城がそんな具合にグチャグチャになれば、当然城内の兵も全滅。

生き残れるのは精々天守閣にいるであろう氏康ぐらい.....

 

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

小田原城天守閣。

 

 

「痛っつつ.....一体何が?」

 

 

天守閣内部もまた、壁も床も天井もボロボロになり、以前まで姿は全く残っていなかった。本来の高さから数メートルも下に落とされたのだ。

蛙のようにべチャリと潰されなかったのが奇跡のようだ。

いや?.....これも天竜の計算か?

 

 

「姫様.....御家族は風魔が全力で保護した為、なんとか命を取り留めましたが.....

それ以外の兵は.....」

 

「死んだの?

城内にも数万といたのに!?」

 

「ほぼ全滅です。

生存者もいるかもしれませんが、

恐らく戦える状態ではないでしょう」

 

「うっ.....嘘よ!!

お爺様から受け継ぎしこの城が!!」

 

「そうか!

奴は本陣を.....自らを囮にして視線をあちらに向けさせ続けたのか!?

なんて奴だ!

戦争を掌で自由操っている!?」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ふっくくくくく.....

予想程綺麗には壊れなかったな。こちらにも少々の被害が出てしまっている。

やはり理数系は苦手だな。

これは物理の教科かな?

ふっくくくくく.....」

 

 

天竜は拡声器を召喚し、声を上げる。

 

 

『生きているか北条氏康!!

小田原城が崩壊した今!

貴様に勝利は無くなった!!

直ちに降伏せよ!!』

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ぐぐぐぐ.....

兄ザルがいい気になって!

構うことはない!

残存勢力を全て攻め込ませなさい!

刺し違えてでも羽柴秀長を討て!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍城。

石田三成の水攻めにより、本丸のみがボツんと湖にある浮城となっていた。

 

 

「これは.....」

 

「なんて事だ!」

 

「............」

 

 

石田方より一艘の小舟が流れ着く。

そこには百姓が3人程乗っていた。

 

 

「これが.....これが石田方のやり方か!」

 

「さっきはあんなに元気だったのに.....」

 

 

長親は乗員のうちの1人の、

小さな童子を抱き上げる。

 

 

「お〜よちよち」

 

「くっそ!!

こんな子供にまで手を出すなんて!」

 

 

和泉が叫び、床を殴る。

 

 

「長親。こいつらはお前が?」

 

 

丹波が問う。

 

 

「うん。降伏したいって言うから少しの銭を与えて逃がしてやったんだ」

 

「くっ.....その銭とやらは持ってないようだ。銭欲しさに石田方の兵の手に.....」

 

 

3人は夫婦と童の親子だった。先程までは共に忍城軍として共闘していたが、今は変わり果てた姿になってしまった。

童ですら殺された.....

 

 

「よちよち.....丹波。

この子.....さっきまであんなに泣いてて、

抱こうとすると凄く暴れてたのに.....

今はすっごく大人しい。

まるで眠ってるみたいだ」

 

「くっ.....!」

 

「玩具が好きそうだったから.....

そのうち、でんでん太鼓でもくれてやろうと思ってたのに.....何でかな」

 

 

長親は涙を流さなかった。

その代わりに内心にある覚悟を生む。

 

 

 

 

 

 

「丹波.....水攻めを破るぞ」

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の石田三成。

 

 

「佐吉。兵が堕落しているぞ」

 

「ですね」

 

 

石田軍は、水攻めが成功し後は忍城勢が降伏するのを待つだけとなっている。数日間やる事がなくなり、暇を持て余していた。

中には勝手に酒や肉を食い、

三成の見えない所で好き勝手やっているのだ。一部では盗みや強姦などもやらかしている者まで.....

 

 

「我らの軍の半数は武田や徳川などから借りた兵力だ。統一された天竜軍と違い、金でしか動かないゴロツキ共まで混じっている。

忠誠でついて来ている兵が殆どいない。

それでは一人前の大将とは言えない」

 

「分かっています!でもそれは忍城が中々降伏しないのが悪い!高松城の水攻めは既に全国的に広がっている!水攻めの恐ろしさは分かっているはずです!

なのに何故落ちない!?」

 

「百姓まで兵として従っている連中だ。

成田長親の意志が絶対なのだろう。

戦況の優劣に関わらず、

大将としてはあちらが上に見える」

 

「貴方はどっちの味方なんですか!」

 

「ただ第三者の立場からの見解だ。

だが、このままでは忍城勢は疲弊するばかり、優れた大将は退き際も知っているはず。

このまま不能の大将となるか、それとも.....」

 

 

その時、兵が駆け込む。

 

 

「報告します!

忍城から一艘の小舟が!」

 

「「?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍城から現れた小舟は、

乗員実に2名。

石田方の真正面まで移動してくる。

 

石田軍の兵も何だ何だとそれを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お集まりの皆様!

忍城勢も石田方も!

こうも水攻め続きで退屈でしょう!

何となれば、私の十八番!

『田楽踊り』にて、

この場を盛り上げてしんぜよう!」

 

 

船の上に乗った大柄な女性がそう言う。

船漕ぎの男はビクビクと怯えていた。

 

 

 

 

「何だあれは?」

 

 

三成もまたそれが気になる。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「♪ 酒は元薬なり 世はまた人の情けなり 浮世を忘るるも ひとへに酒の徳とかや 」

 

 

扇を用い、敵前で踊り出す女。

 

 

「♪ ゆんべは酒を飲みすぎて、

わしゃぁ、一寝に寝ションベン、

かかぁに隠れてほそうとしたら、

西のおサルが大放尿!

おっとっと〜。おっとっと〜。

おっととっ。とっとっととと〜」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ぷっ.....何なのですかあれは?」

 

 

三成も思わず吹き出してしまう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「♫水でお城が責められて、

月がお城の下にでた!

月のお皿に白粉といて、

みず白粉で、どう白い?

がってかぁ!がってんじゃあ!

がってんがってんがってんじゃあ!」

 

 

身体の大柄の女子が、

全身を使って田楽踊りをする。

始めはバカバカしく思えたそれも、

次第に面白く、

時に美しく感じてしまう。

 

 

「♪どう白いといったって、

あんたが好きにゃあ、

お前に惚れた。

あんたが好きじゃ、

お前に惚れた。

今宵ふたりで大放尿!

今宵ふたりで大放尿!

れろれろれろやぁ〜!

ひょろろんひょろろん!

れろれろれろやぁ〜!

ひょろろんひょろろん!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

観客となっていた忍城勢だけでなく、

石田軍の者らまで楽しそうに観る。

 

 

「あっはっはっはっはっはっは!!

『我らは水攻めなどヘッチャラだ』

とでも主張したいのか!

面白い!

誰か、彼女が何者なのか、そこらの百姓を捕まえて聞いてきて下さい」

 

「はっ!」

 

 

近くの兵に命じる。

 

 

「その必要はないぞ石田殿」

 

 

だがそれをある男が遮る。

軍使役だった長束正家だった。

 

 

「どうゆうことですか?

あの女性を貴方はご存知で?」

 

 

正家は冷や汗をかいていた。

 

 

「存じてるも何も.....

あの女こそ!

忍城勢総大将、成田長親だ!」

 

「なっ!?」

 

 

朗らかだった三成の心情が

一気に引き戻された。

 

 

「敵の総大将が自ら

あそこで踊っていると言うのですか!?」

 

「そう言っている」

 

 

三成は驚愕して彼女を見る。

 

 

その時、長親がギロリとこちらを睨みつけ、三成と目が合った。

 

 

「みっ.....見ている!?

奴は私を見ている!?

これは景気付けの踊りなどではない!

 

布告!?

これは成田長親の宣戦布告か!?」

 

「落ち着け佐吉!」

 

「我が主よ、落ち着いて下され!」

 

 

動揺する三成を吉継と左近が

宥めようとする。

 

 

「うるさい!うるさい!

うるさい!うるさい!

うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!

これは私の戦!

私の忍城戦!

私の水攻め!

誰にも邪魔させない!」

 

「佐吉、お前は戦に酔っている!

慣れない状況で気が動転しているのだ!

ここは一度退いた方がいい!

でないと.....」

 

「黙れ紀之介!!

貴方も私を責めるのですか!?」

 

「落ち着いて下さい主!」

 

 

石田三成。

戦に出る経験も少ない為か、

この突然の展開に頭が回らないのだ。彼女の実力が発揮されるのは天竜といる時であり、サポートに適している。

 

 

 

吉継はふと思っていた。

天竜はこの状況に陥るのを予見していた?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....人間」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、長親の田楽踊りが止まる。

そして、別の踊りが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間二十年、

 

化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり〜」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「!!!?」

 

 

これは.....

 

 

「敦盛!?」

 

 

それまで敵も味方も、長親の田楽踊りで盛り上がっていた中で、突然の状況。

急に皆々がしんとする。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「〜一度生を享け、

 

滅せぬもののあるべきか

 

これを菩提の種と思ひ定めざらんは、

 

口惜しかりき次第ぞ〜」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

この時代において、『敦盛』の代名詞と言ってもよい人物がいる。

 

それが織田信奈。

 

この天竜軍石田隊に対し、

この『敦盛』を踊るという事は、

 

織田と決裂した天竜への

挑発と取ってもいい。

 

しかし、問題なのは長親の視線だ。

田楽踊りをしていた時はジッと三成を見つめていた彼女は、今度は全く見当違いの方向を見ていた。

石田軍でも、

忍城勢でもない、

完全な空虚を只々見つめていた。

あの方向は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、小田原城か!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長親が見つめる方向は確かに小田原城の方向である。そこにいるある人物に向けて、敦盛を踊り続けているのだ。

 

 

「其方にとっての敵は、天竜様ただ1人!

この石田三成は

敵とすら認識されていないのか!!

ふざけるなふざけるなぁ!!」

 

 

成田長親というオチコボレが、

石田三成というエリートへする、

超絶的な反逆。

 

これだけで三成に

火を付けるのは充分だった。

 

 

「誰ぞ雷怖瑠を!」

 

「佐吉!」

 

 

三成は彼女専用のライフル銃を家臣から受け取ると、真っ直ぐ長親に向けた。

 

 

「馬鹿かよせ!!

こんな状況で奴を殺せば、

狂った農兵共が死兵となって

襲いかかるぞ!」

 

 

史実において、

長島一向一揆で、降伏した百姓の虐殺を命じた信長は、死兵と化した一向軍に壊滅一歩手前までに追い込まれた事がある。

 

 

「知った事かそんな事!!!

奴は天竜様を挑発し、

この私を侮辱した!!

いずれ天竜様もこの戦の視察に来られる!その際に、こんな状況を見せると言うのか!!

そんなこと.....

恥ずかしくて、

死んでも死に切れぬ!!」

 

 

その時、島左近が三成を羽交い締めにした。

 

 

「なっ.....!?

左近!離しなさい!!」

 

「もうよいのです我が主!

この戦.....

主が身体を張らずとも勝てるのです.....」

 

 

 

 

 

 

「..............え?」

 

 

 

 

 

 

左近は悲しげな表情で言う。

 

 

「実は主に内緒で、

忍城勢と降伏の約定をしていたのです。

ですが、

城主成田氏長が抜けた後、

城代の長親が新城主を名乗って宣戦布告してきた.....奴らには後ろ盾となっているものなどないのです!

天竜様が小田原城を落とし次第で

忍城は連鎖的に落ちるのです!」

 

「そんな.....」

 

「本当だ佐吉。

降伏の約定は天竜様自ら命じられた事だ。

天竜様はこうなる事も予感していたらしい」

 

 

吉継が言う。

 

天竜様は知っていた?

私が負けると?

最初から戦など勝てないと?

私は.....

彼にとって役立たずだと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「島、離しなさい」

 

「主よ!」

 

「離せっ!!!」

 

「うっ.....」

 

 

三成の威圧に圧され、

つい三成を解放してしまう。

 

三成は再び雷怖瑠を構える。

 

 

「佐吉!!」

 

「紀之介。

これは私の戦です。

私の忍城戦です。

全ての行動に我が誇りを賭けている。

その誇りすら貴方は否定しますか?」

 

「くっ.....」

 

 

三成はスコープを覗き、

そこで初めて長親の顔を見る。

 

 

「ふっ.....噂通りの美しさ。

ついつい妬けてくる。

天竜様が欲しがるのも分からないでもない。

でも、踊りの時間はもう終わり。

ご覚悟を成田長親!」

 

 

その時、スコープの先でまた長親と目が合った。彼女が何やら口を動かしている。それは敦盛の歌詞ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハヤクウテ?」

 

 

 

 

 

 

 

長親は確かにそう言っている。

 

その時、

長親の踊りがまた激しくなる。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「いえぇぇぇぇぇぇああぁぁぁ〜〜!

♫それっ!それっ!

それそれそれ、それっ!

それっ!それっ!

それそれそれ、それっ!

それっ!それっ!

それそれそれ、それっ!

それっ!それっ!

それそれそれ、それっ!

それっ!それっ!

それそれそれそれそれ、それっ!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

『それっ!早く撃て!』

 

とでも言っているのだろうか?

 

 

 

「ふっくくくくくく.....

初の大将戦がいきなり其方とは.....

私もつくづく運が悪い!」

 

 

三成は引き鉄に指をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「あっ.....あいつ.....何を?」

 

 

長親のずっと後方、影に隠れた地にて、別の小舟が待機していた。そこに、丹波と甲斐が心配そうに長親を見守っていた。

 

 

「あの馬鹿.....

一体.....何をする気だ?」

 

「あいつ.....死ぬ気だ」

 

「何っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダーーーーンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

1発の銃声が鳴り響く。

 

 

 

 

そしてその後、ある1人の女性が湖にドボンと落ちる。

 

 

「「長親!!」」

 

 

反射的に丹波が湖に飛び込み、

長親の元へ泳いでゆく。

 

 

「そんな!!そんなぁ!!」

 

 

甲斐もその場で崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長親は丹波の素早い救出により、

奇跡的に命を取り留めた。

弾丸も辛うじて急所を外し、

命に別条は無かった。

だが左肩を砕かれ、

もう二度と左腕を上げられなくなるだろうという結果に至る。

 

 

「痛っつつつ.....」

 

 

床に就く長親は、以前までの優しさを失っていた。

 

 

「まんまとお前の目論み通りになったな。

これで百姓達は皆死兵になる」

 

「それはないよ」

 

「?」

 

「長親!!」

 

 

そこに突然、甲斐が飛び込む。

 

 

「ぐぐぐ.....

勝手に死にかけやがってぇ!

俺が殺してやる〜!!」

 

「ぎゃあっ!!

痛い!痛い!!」

 

「甲斐殿落ち着いて!」

 

「なんだなんだ?」

 

「うるさいですね」

 

 

和泉と靱負までくる。

 

 

「俺が出陣する!

石田三成の首を取ってやる!」

 

「うわぁ!和泉、靱負!

甲斐殿を止めろ!!」

 

「「ひぃっ!?」」

 

 

次々に投げ飛ばされてゆく

成田家臣団であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膨大に広がる堤防。そのある地点にて。

 

 

「うんせ。うんせ」

 

「誰だ!そこで何やってる!?」

 

「くっ!?」

 

「へ?権蔵か!?」

 

「三上の旦那!?」

 

「そんな所で何をやっとる!」

 

「見てて分からねぇのか!

堤防を壊すんだよ!!」

 

「なっ!」

 

「くそっ!石田三成の奴め!

のぼう姫をよくも撃ちやがって!

痛い目見させてやる!」

 

「おいおい。

お前もわしらと同じで、石田に金貰って、自分で堤防作ったんじゃないか」

 

 

彼らは降伏した百姓達であり、

堤防作りに参加していた連中だった。

 

 

「確かにそうだ。でも間違っていた!

俺達は自分達の手で大事な家族を追い詰めていただけなんだ!

まさかのぼう姫に

気付かされるなんてなぁ.....」

 

「へっ、お前も同じ考えか」

 

「.....ってゆうと、旦那も!?」

 

「あと太郎の小僧と武もな」

 

「ぷっ.....ぷっくくくくく.....

じゃあ、ここを掘るの手伝ってくれ!」

 

「おうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、堤防の一部が破壊され、連動的に堤防が損壊するという事件が起きた。

水の力は凄まじい。

ほんの小さな穴でもダムは損壊する。

忍城周辺に湖として溜まっていた水が全て石田軍側に流れ込んだのだ。

忍城を壊滅寸前に追い込んだ利根川の濁流が石田軍を襲う。

 

 

「こっ.....これは!?」

 

 

丹波が驚愕する。

 

 

「私達の味方は何も、

城内だけじゃないって事だよ」

 

 

長親がそっと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「どう責任取るつもりだ?

被害はざっと数千だぞ」

 

「我が主よ」

 

「..........やっぱりね。

私、戦争下手くそだわ」

 

「佐吉!」

 

「やっぱり財政で使えても、

戦争では無理かな〜、

私の頭は.....

少しばかし出しゃばり過ぎたかなぁ。

同僚から嫌われてるのもその為かな」

 

「..............」

 

「さてさて。預かった兵の3分の1を失っちゃいましたが、

この先どうなるやら?

この戦争、戦況は既に五分五分ではなく、

相手に有利。

だが、時間的にはこちらが有利。

果たしてどうなるのやら?」

 

「佐吉.....」

 

 

三成は吹っ切れた表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小田原。

 

氏康のイタチの最後っ屁。

それは

『死んでもいいから、羽柴秀長を討て』

もう北条方の勝機は消滅した。

それは北条勢の全員が、風魔衆が、

そして氏康自身が確信していた。

だからこそせめてものと、

北条家としての誇りを守る為、

死ねと言われているのだ。

『背水の陣』

この地を自らの墓地に定めた

北条勢の敗残兵が襲いかかる。

 

 

「『生』を諦めた者らに、

この戦場を駈ける資格はない!

早急に鎮圧せよ!

一切の情けをかけるな!!」

 

 

天竜が命じる。

 

その呼応に答えるように、

天竜軍陣営が出る。

 

 

「うららららららっ!!!」

 

 

武蔵が斬り裂く。

 

 

「突き刺せナノマシン」

 

 

地面に擬態したナノマシンに足を付けていた兵が真下から伸びてきた触手に串刺しにされてゆく。

 

 

 

 

 

そして、

 

 

「避けて避けて避けて下さ〜い!!

でないとぉ〜〜

首取れちゃいますよ〜!!

くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ!!!!」

 

 

それは筒井順慶。

普段の温和な様子が嘘のように、

別人に豹変していた。

 

あれでも、元は興福寺の僧兵。

松永久秀の妹弟子。

当然、その実力は高い。

弾正と同じ宝蔵院流。

十字槍を持たせれば右に出る者はいない。

では何故、

今までそれが見えなかったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは我慢である。

 

信じていた弾正に裏切られ、

信奈に追い詰められた。

天竜と出会うまでの間

ずっと我慢し続けてきた彼女。

我慢に我慢を重ね続けてきた彼女。

 

 

その溜まりに溜まったストレスが、

この戦争で一気に発散された。

 

 

「跳んだ跳んだ!生首跳んだ♡!!

跳べ跳べ跳べ跳べ跳べ〜!!

生首跳んじゃえ〜♡!!

くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけっけけ!!!!」

 

 

『首狩り順慶』

 

 

「怖えぇ.....」

 

 

もう彼女を怒らせないようにしようと誓う天竜であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おのれ!おのれ!おのれ!

羽柴秀長め〜!!!

貴様程恨んだ相手がいたであろうか!

許さない許さない許さない!!

冥土へ行く前に、

貴様の首を討ち取ってやるわ!!」

 

 

憤る彼女の隣りで、風魔小太郎は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我々は負けた。

全軍に武装解除を命じよ。

もうこれ以上の戦闘は許可しない」

 

 

小太郎は無線機にてそう呟いた。

 




ほとんど映画のパクリになってたので、
少しだけ自分なりのアレンジを加えてみました。
どうでしたかね?
次回予告
未来からの使者
〜お久しぶりです勘解由小路天竜〜

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