天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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一流は孤独を好む。
二流は群れを好む。


第四十二話 忍城のでくのぼう

あれから数日。

孫市率いる紀伊軍が大量の鉄砲や大砲を持ち込み、天竜軍と合流。

その後、九鬼と毛利の連合水軍が江戸湾沖に集結。

西方からは徳川軍が攻め、

北方には武田軍本体が構え、

駿府・甲斐・相模の境界に

天竜軍が陣を張る。

 

 

「後に柴田軍も合流するらしい。

この兵力とあの戦略を使えば.....」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「なめられたものだわ。

私を倒すですって?

ふざけるのもいい加減にしてほしいわ」

 

「既に地下に風魔を潜ませています」

 

「よろしい!本当の戦というもの見せてあげようじゃないの!

氏長達に連絡を取りなさい!」

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小田原城よりやや離れた地。

忍城下。

 

 

「長親〜!長親〜!」

 

 

透き通った綺麗な声が響く。

 

 

「長親〜!何処に行った〜!?」

 

 

その姫武将は馬に乗り走り回り、

長親と呼ばれた人物を探す。

 

 

「そこの者、すまん!」

 

「おぉ!丹波様!」

 

「長親を知らないか?」

 

「のぼ.....ごほん!

長親様なら向こうの田圃で見ましたが?」

 

「すまぬ。.....長親〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある田圃にて。

 

 

「いやいや!のぼう姫は

見てて下され!」

 

「そうそう!手伝わなくても.....」

 

「よいではないか。よいではないか」

 

 

一際大柄な女性が、農民達が田植え作業をしている中に混ざろうとしていた。

 

 

「先日は失敗したが、

今日は大丈夫だぞ!」

 

「何処にそんな自信があるのですか。

以前のぼう姫のせいでめちゃくちゃになった田圃を直すのにどれだけかかった事か.....」

 

「すまん。すまん。

今度はちゃんとやるから.....」

 

「だから結構ですって!」

 

 

 

 

 

 

 

「長親〜!!」

 

「のぼう姫、丹波様が来ましたが?」

 

「おぉ丹波!

.....のわっ!?..........ぎゃっ!!」

 

「「「あ〜あ.....」」」

 

 

振り返ろうとしたが、足をぬかるみに取られ転んでしまい、泥塗れになる。

 

 

「何をやってる長親!」

 

「どったの丹波?」

 

「どったのじゃない!戦だ!

武田が攻めて来た!!」

 

 

丹波のその言葉に農民達がざわつく。

 

 

「大声を出すな丹波。

皆怯えてるだろう?」

 

「お前が城内にいれば、こんな大声を出すこともなかったわ!

兎に角戻るぞ!乗れ!」

 

「..........どうやるんだっけ?」

 

「いい加減覚えろ!馬に乗れないなんて城内でもお前ぐらいだぞ!」

 

「いいじゃないか。戦が起きなければ馬に乗る事もあるまいて」

 

「話を聞け!!

その戦が起きとるんだ!!」

 

「ありゃま」

 

「いいから急ぐぞ!氏長様をいつまでも待たせるわけにはいかぬ!」

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍城。

そこに、長親に比べるとかなり背の低い少女が待ち構えていた。

 

 

「ただいま〜」

 

「遅い!!」

 

「何をそんなカリカリしてるの?」

 

「あんたがチンタラ

田植えなんてしてるからよ!

仮にも私の従姉妹なんだから

キッチリしなさい!!」

 

「は〜い」

 

「見下ろすなぁ!!」

 

「?」

 

 

この2人。年はそんなに変わらないのに、

身長差は親子と見間違う程ある。

女にしては驚く程高身長の長親と、

そろそろいい年頃なのにちっとも

大きくならない氏長。

 

成田氏長と成田長親。

城主と城代である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は氏康様に呼ばれ、

小田原城に行くことになっている。

留守は任せたわよ丹波」

 

「はっ!」

 

「私は〜?」

 

「あんたじゃアテにできないわよ!

ろくに城代もできないくせにでしゃばるな!」

 

「ひどいなぁ」

 

 

2人の仲は悪い。というか一方的に氏長が長親を毛嫌いしているのだ。

 

 

「長親をいじめるな!」

 

「うっ.....甲斐.....」

 

 

現れたのは甲斐という少年。

氏長の実弟だが、

むしろ長親に懐いている。

これが2人の仲の悪さの原因なのだ。

 

 

「ありがとなぁ甲斐〜」

 

「お前もヘラヘラしてんじゃねぇ!」

 

 

長親を蹴り飛ばす。

女性が多い忍城では逆紅一点だが、

なかなかパワフルである。

 

 

「あと.....一つだけ言っておく。

敵は2万の軍勢で支城の陥落をしている」

 

「へぇ」

 

「敵が来たら.....

ただちに降伏し、開城しなさい」

 

「....................へ?」

 

「氏長様!?今なんと!?」

 

 

成田家家老、正木丹波守利英が叫ぶ。

 

 

「敵軍の将、大谷吉継殿より書状が届いた。速やかに開城すれば、それ以上の追撃はしないそうよ」

 

「それは.....氏康様への裏切りでは

ありませんか!?」

 

「そうよ。文句ある?」

 

「なっ!?」

 

「忍城の.....成田家の勢力では

敵軍2万を防ぐ事は不可能。

しかも半数以上を小田原城に参列させるから、残せるのは精々500騎。

一日ともたない。勝てたら奇跡よ」

 

「でっ.....ですが.....」

 

「いい?裏切りは内緒よ?

私の勘では、今度の敵は一筋縄ではいかないと思う。恐らくこの戦で氏康様は.....

裏切りに加担すれば、戦後もある程度の地位を保てる事を約束されているわ」

 

「そんな.....己が保身の為に

主君を見捨てるというのか!!」

 

「丹波、よせ」

 

「長親!!」

 

「死人を出さず平和を保てるなら、

それでいいじゃないか」

 

「くっ.....!」

 

 

長親はひどく落ち着いている。

 

 

「姉上は腰抜けですね」

 

「うっ.....」

 

 

弟には弱い氏長だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、三成の軍。

 

 

「何ですかこれは.....」

 

「..........」

 

「私は天竜様に2万の軍勢を与えられ、

支城の陥落という大役を担った。

なのに.....なのに.....」

 

 

石田軍はまだ一戦もしていなかった。

城を囲んだら直様敵が開城するからだ。

渋々了解するも、

三成には不満しかなかったのだ。

 

 

「.....兵を減らす事なく任務を達成できるなら、いい事じゃないか」

 

 

大谷吉継は真実を語らない。

 

 

「それでも!2万の兵力を見せただけで降伏するのなら、私が総大将を務める意味がないじゃないですか!

何のために私が選ばれたのか.....

天竜様に認められた以上、

私はその責務を果たしたい!

例えそれで敗北しようとも、

不戦勝よりましです!」

 

「三成.....」

 

「その為に協力して下さい吉継ちゃん!」

 

「うっ.....

その呼び方どうにかならないか?

調子が狂う」

 

「ん?じゃあ紀之介ちゃん?」

 

「紀之介と呼び捨てでいい。

私も佐吉と呼ぶ」

 

「分かったよ紀之介!」

 

 

吉継は仮面の下で少し頬を赤らめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「降伏とはどうゆうことだ丹波!!」

 

 

丹波は筋肉質で大柄の姫武将に詰め寄られていた。

 

 

「決められたのは氏長様だ!

我らがどう言おうと意味がない!」

 

「くっ.....!!」

 

 

この姫武将は柴崎和泉守。

成田家きっての剛将だ。

 

 

「全く.....僕なら2万の軍勢なんて敵じゃないんだけどね」

 

 

この少女は酒巻靱負。僕っ娘である。

自信過剰で自称毘沙門天の再来だが、

初陣はまだである。

 

 

「おい小娘!

口先だけ達者だな!」

 

「.....脳筋のくせに」

 

「ああん!!?」

 

「というか城代はのぼう姫でしょ?

彼女を擁立して戦っちゃいましょうよ」

 

 

靱負は冷静に己の意見を立てる。

 

 

「そうなれば我々は武田と北条の板挟みになってしまう!

第一、長親に大将は無理だ。

武芸もなければ、知略もない。

人望だけで何もできぬ!」

 

 

何もできない、

でくのぼうなお姫様。

だから『のぼう姫』

 

 

「呼んだ〜?」

 

「全く.....」

 

 

長親本人が開城に賛成派なのだ。

 

 

「お伝えします!石田三成軍がこの忍城を囲んでおります!」

 

 

使者が状況を説明する。

 

 

「石田方の軍使、長束正家殿が

入城を求めております!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐吉!何であんな男を軍使にした!

奴は天竜様が織田を抜ける際に、どさくさで追てきた元丹羽長秀の家臣だ!

天竜様は仕官を許したが、

まだ日も浅い為に、忠義もまた浅い!

性格も悪い!

強い者には弱く、弱い者には強い。

軍使の器ではない!」

 

「大丈夫ですよ。

それも計算のうちです」

 

「.....!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゃっちゃと開城して下さいよ〜」

 

 

正家は最初から態度が悪かった。

 

 

「知っての通り、

石田三成率いる我が軍の勢力は2万。

そちらは精々500騎程度。話にならん。

だからさっさと降伏しろということ。

なお、開城の際に城内の者は兵も農民も己が所領を捨て、出てゆく事。その際、食糧は置いてゆく事」

 

「なっ.....!?

我らや農民に餓死せよと言うのか!?」

 

 

丹波が叫ぶ。

 

これは誰の命令でもない。

長束正家の単独行為だ。

 

 

「さぁ、どうなんだ?成田長親」

 

「..........」

 

「お前.....噂通りの美しさだな」

 

 

長親は確かに美しい顔達をしていた。

だが、性格や行動のせいでそれが影を潜め、美しさは目立たなくなってしまっている。

 

 

「よし決めた。

成田長親は天竜様に捧げるものとする!」

 

「なっ.....!?」

 

 

それは長親を戦利品扱いしているのと同じ扱いだった。

 

 

「..........」

 

 

周囲の家臣達がざわつく中、

長親はじっと黙っていた。

 

 

「さぁ、答えを出してくれよ長親さんよう。

どうせ決まってんだから、

ちゃっちゃとちゃっちゃと!」

 

 

正家の言い方はどんどん悪くなっていった。

そこで長親がようやく口を開く。

 

 

「.....貴方とお会いして、あやふやだった考えがさらにバラバラになってしまっていましたが.....

ようやくまとまりました」

 

「あぁん?

じゃあさっさと言ってくれ」

 

 

 

 

 

「戦います」

 

 

 

 

 

「..............................へ?」

 

 

「戦います。石田軍と」

 

 

「ちょちょちょ....................

冗談だろ!?

いくら戦力差があると.....」

 

 

 

 

 

 

「聞き分けのない男ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

すると長親はぬらりと立ち上がり、

正家の前に立つ。

 

 

「忍城の城代、成田長親は参戦を決意した!さっさと自軍に戻って大将の石田三成に伝えよ!戦力差が戦の全てではないという事をな!!」

 

「ひっ.....!?」

 

 

高身長の長親に上から叫ばれ、

正家の方が毛脅されしまう。

 

 

「なっ.....長親!?」

 

 

丹波もまた困惑していた。

幼馴染ではあるが、幼少時から長親が怒った所など、一度も見たことがなかったのだ。その彼女が、鬼の形相で正家を睨みつけている。

 

 

「小田原城に継ぐ難攻不落の浮城!

忍城の恐ろしさを思い知るがいい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?忍城が宣戦布告を!?」

 

 

開城の手筈をしていた吉継としては異例の事態である。

 

 

「もっ.....申し訳ありません!」

 

 

正家は深々と頭を下げる。

 

 

「やった〜!」

 

 

反対に三成は陽気である。

 

 

「まさか!?

この為にこの正家を!?」

 

「ふふっ.....」

 

 

三成はわざと長束正家を軍使として送り、挑発したのだ。全ては戦争を起こす為に.....

 

 

「この戦にて、

私は歴史に名を刻む!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「長親!!!」

 

「うっ.....」

 

 

長親は丹波に締め上げられていた。

 

 

「何故あんな事を!?

今ならまだ間に合う!宣戦を撤回しろ!」

 

「イヤだ!」

 

「長親!!」

 

「絶対イヤだ!!」

 

「長親〜!!」

 

 

長親は意地でも意志を曲げない。

 

 

「私が降伏すれば百姓らに迷惑をかける!

そんなのは許されない!」

 

「だが戦になれば多くの者が死ぬ!

しかも相手は石田三成!毛利を降伏に追い込んだ羽柴秀長の参謀だ!

勝てるわけがない!勝てた所で今度は羽柴軍。その後ろには武田軍だ!

待っているのは地獄のみ!」

 

「それでもイヤだ!!」

 

「この分からず屋め!!」

 

「皆が皆腰抜けだな」

 

「なっ!?甲斐様!?」

 

 

氏長の弟。

その甲斐が鎧と甲冑を装着し、

臨戦態勢をとっていた。

 

 

「今の主君は腰抜けの姉上ではない。長親だ!長親の言う事を聞けないなら忍城を出て行け!誰も動かないのなら、俺と長親だけでも戦って見せる!」

 

「甲斐様.....」

 

「あたしも姫に賛成だ!

久々に戦で暴れられる!」

 

「僕もだよ。

僕の素晴らしき戦略でね」

 

「和泉.....靱負.....」

 

「丹波。私に命を預けてはくれないか?

この戦.....お前無しでは勝てない」

 

「.....勝つ気なのか?」

 

「負ける気で戦を仕掛ける者がいるかい?」

 

「ふっ.....そうだな」

 

 

あの長親が、

大将の顔付になろうとは.....

 

 

「いいだろう!

やってしまうか!」

 

 

丹波もまたやる気になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「わしらも戦うで!」」」

 

「なっ!?」

 

 

丹波が戦が始まる事を農民達に伝えに行った所、最初は戦に反対をしていた彼らだったが.....

 

 

「のぼう姫のためならわしら命を張る!」

 

「のぼう姫だけは死なせちゃいけない!」

 

「のぼう姫!のぼう姫!」

 

 

宣戦布告をしたのが長親であると知った途端、彼らは態度をころっと変えたのだ。皆が笑い、戦に前向きになっている。

 

 

「のぼう姫は馬も乗れねぇし。

畑や田圃の手伝いもできねぇ。

どれだけ失敗しようが、

どれだけ責めたてられようが、

いつもニコニコしちょる。

そんな姫が決戦を決意するなんて一大事だ!

わしらが支えねぇで誰が支えるんじゃ!」

 

 

長親の人望は驚く程高かった。

彼女の意志が非戦闘員であるはずの

農民達にも闘志を与える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、忍城の農民全員が

長親達の前に集結する。

 

 

「すっ.....凄い。

3000人はいるぞ!?」

 

 

長親の一声で半数以上の農民が集まる。

 

 

「しかし全員ではないな.....他の農民は?」

 

「何人かは石田方に降伏したよ。

私が少量の食糧を与えて逃がしてあげた」

 

「.....いいのか長親?」

 

「うん。私のわがまま全部を聞いてもらえるわけにもいかないもん」

 

 

その大将こと、

長親がまず初めにしたのは.....

 

 

 

 

 

 

 

謝罪だった。

 

 

「ごめんなさい!!

私の.....私なんかのわがままで.....

皆を危険に追い込んでごめん!!」

 

 

農民達に向け、深々と頭を下げる長親。

その瞳からポタポタと雫が零れる。

 

 

「多分たくさん死ぬ!

私の命令で皆が死ぬ!

きっと地獄のような戦になる!」

 

「よせ長親。それ以上は士気が.....」

 

「のぼう姫が泣いてる.....」

 

 

ある農民が呟いた。

次の瞬間、農民達が咆哮をあげる。

 

 

「のぼう姫を泣けせるとは許すまじ!」

 

「長束正家討つべし!石田三成討つべし!」

 

「泣かんでくだされのぼう姫様!!」

 

 

逆に士気が上がったのだ。

 

これは長親が美人であったというのは全く関係ない。普段から農民の事を気にかけ、友好関係を築き続けた人望の厚さがこの結果を生んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

石田軍。

 

 

「相手はたかが500騎程度。

されど、たったその戦力で

我が2万の軍に対抗してきた!

それだけ士気や自信があるという事!

絶対に油断してはならない!

躊躇わなく、全力で戦いなさい!」

 

「「「承知!!」」」

 

 

こちらの士気もまた高かった。

意気込んで出陣したにもかかわらず、ずっとその機会を伸ばされ、不満を言い出す兵もいたからである。

 

 

「紀之介。先陣をお願いできる?」

 

「分かった。引き受けよう」

 

 

仮面の少女吉継。

 

 

「天竜様.....貴方は全てご存知だったか.....」

 

 

彼女は呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは支城陥落に乗り出す数日前の事。

 

 

「支城勢に対して、降伏状を送れと!?」

 

「あぁ、その役をお前にやってほしい。

当然、佐吉には内緒でな。そうすれば、血を流す事なく計画を遂行できるだろう?」

 

「はぁ.....

ですが、あいつは?」

 

「そう。佐吉は今度の戦で武勲を立てようと必死だ。それが不戦勝続きともなれば、奴もいい加減我慢ならなくなる。

そのうちわざと嗾けて挑発し、

無理矢理戦の舞台を作るだろう」

 

「そんな事が!?」

 

「きっとそれが奴の初の大将戦にして、

初の敗退戦となろう」

 

「なっ!?」

 

 

ほとんど予言。

予め知っていたかのような.....

 

 

「精々、佐吉が死なんよう

守ってやってくれ.....」

 

「はぁ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦。佐吉が負ける?

城主が抜け、城代が治める忍城勢。

たかが500騎の小物に.....

2万の兵を持つ佐吉が負ける!?

 

 

「佐吉」

 

「どうしました紀之介?」

 

「君は賢いけど、ズル賢さはない。

それもいい所ではあるけど、

正直過ぎる者は足下を掬われる。

君の賢さは財政で通じても、

戦では通用しないよ?」

 

「..........私が忍城に負けると?」

 

「そっ.....そうは言ってない!」

 

「かもねぇ。本当に負けるかも」

 

「え!?」

 

「でもそれは、

己に慢心した時。

敵を侮った時。

作戦を練らなかった時。

それだけ油断してれば、相手がどれだけ弱くても負けると思う。今まで敗れていった英雄達は皆それが原因。

でも私はそんな愚は行わない!

より周到に作戦を練り、

全力で敵を殲滅する!」

 

「佐吉.....」

 

「紀之介。貴方が裏で何をやってたかはこの際責めないけど、戦では隠し事はなしでね」

 

「.....気付いていたのか?」

 

「うん。隠し事してる時の紀之介って、

口がへの字になるもん」

 

「うっ.....」

 

 

反射的に口を押さえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて。戦はするのも好きだが、

見るのもまた一興。」

 

 

この2つの軍の戦を見物する異端者が.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小田原戦線。

 

 

「天竜様。この作戦ですが.....」

 

「どったの高虎?」

 

 

小田原攻めに際し、大将の天竜に作戦を訪ねる高虎。だけれどその返答の声色は思ったより高くて.....

 

 

「朧さん!?」

 

「はろろ〜ん♡」

 

「えっ!?嘘っ!?

天竜様はいずこへ!?」

 

 

大将がいるべき本陣に大将がいないのだ。

 

 

「忍城に遊びに行ったよ?

だから私はその間の影武者♡」

 

「そんな!?

大将が戦線を離れたのですか!?」

 

「戦もまだ序章の序章だしね。

本戦の前には帰るって。

まぁ、忍城も小田原征伐の一種だからいいんじゃないの?

やる時はちゃんとやるだろうし」

 

「でも.....」

 

「..........ねぇ高虎。

貴方はどうして天竜に付いたの?」

 

「え?」

 

「貴方の目的は姫武将制度の廃止。

でも天竜は無類の女好き。例え日本の頂点に立っても、これからも多くの姫武将を雇うでしょうね。

それって矛盾じゃない?」

 

「...........」

 

「貴方が頂点に立てば?」

 

「はぁ!?」

 

「その手伝いならしてあげていいよ?

私が日本を壊すから、

貴方が新日本を作ればいい」

 

「てっ.....天竜様を裏切れと!?」

 

「貴方も天竜には

疑問を持ってるんでしょ?」

 

「...........」

 

「私はいいよ〜。

貴方と一緒でも♡」

 

「朧さんは女色者では?」

 

「だって高虎可愛いもん。

普通の男は嫌いだけど、

高虎は仔犬みたいだし」

 

「むぅ.....」

 

「可愛いって言われるのは嫌い?

意地でも格好いいって言われたいの?

そこもますます可愛いもん♡」

 

「うぅ.....」

 

「いいよ。初めてになってあげても♡」

 

 

朧が高虎に抱きつく。

 

 

「ちょっ!?ここは本陣ですよ!?」

 

「大丈夫よ。人は遠ざけたから♡

.....結界も張ってるしね」

 

「でっ.....でも!!」

 

「私も滾ってるの♡

血と生肉の匂いなんて嗅いだら.....私!

だから戦場は大好き♡

戦場で犯ると最高の絶頂を迎えられるわ」

 

「おっ.....朧さん!」

 

「しよっ。高虎♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜。いるですか?」

 

「ん?」

 

「ひっ!?」

 

「...........」

 

 

なんとも場の悪すぎる十兵衛だ。

 

 

「君は人の交尾を邪魔する趣味

でもあるの?」

 

「天竜〜!!

貴方は浮気だけでは飽き足らず、

男にまで手を出すなんて〜!!!」

 

「ザ〜ンネン。

私は天竜じゃなくて朧ちゃん♡」

 

「だから天竜じゃないですか!!」

 

「いや、分離したんだって.....

おっぱいもちゃんとあるし、

ちん.....」

 

「五月蠅いDEATH!!」

 

 

というかどうやって

結界抜けたんだろ?

 

朧はふと疑問に思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「いざ、開戦!!」」

 

 

2人の大将の号令で、

忍城戦が今、始まる。

 




十兵衛が前回と同じ扱いに.....
敵でありながら悪ではない成田長親。
天竜から視点を離したこの物語。
どうでしょう?
参考文献は当然、「のぼうの城」です
次回予告
石田堤
〜戦に必要なのは戦力と戦術と戦略とあとは.....〜

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