天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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原作の10巻っていつ出るのでしょうかね?
では後編です。どうぞお楽しみください!


第五話 丹波平定(後編)

私は父親が嫌いだ。

今までろくな思い出がない。

高校に入るまで、学校というものに行く事さえ許されなかった。ずっと家庭学習である。

食事はいつも内食。時々修行の一貫として蜘蛛やムカデなども食べさせられた。

早朝に起こされ、夜中に至るまで修行修行。勉強は中学ですでに大学レベルの内容を教え込まれた。

運動は空手、柔道、剣道、居合、合気道、功夫、カポエラ、太極拳、少林拳。習えるものは全て習わされた。何度も骨折した。何度も病気になった。

そして、よく分からない陰陽術。何が勘解由小路だ何が陰陽師だ。歴代の頭首は皆が皆、こんな辛い思いをしてきたというのか?

ある時、父が病で倒れた。

だから俺はそんな父を.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五話

「全軍!!八上城まで全速前進!!」

 

 

ブォォォ~!という法螺貝の音色と共に天竜軍一千の兵が出立する。

天竜は安土城の変の時同様に、白具足を身につけていた。出立前にすでに作戦会議は済ませてある。

作戦はこうだ。

 

 

「武蔵、小次郎、氏真に一軍の大将を任せる。

それぞれ二百騎ずつ従え、それぞれ城の南、西、北から攻めてほしい。隣の部隊が押され気味な際には手助けをするように!」

 

「そんな無茶です!

私、兵なんて従えた事ないし.....

しかも隣は武蔵だし!」

 

「なんだ小次郎、自信ないの~?

天竜!あたしは出来るぜ!」

 

「うっ.....私だって出来るぞ!

武蔵なんかに負けない!」

 

「そんな無理しなくていいよ。

あたしが四百騎持つから!」

 

「うるさい!

武蔵なんて攻め込まれて

全滅すればいいんだ!!

あんまり馬鹿にすると斬るぞ!!」

 

「あ~あ。ムキになっちゃって。

小次郎ちゃんは子供で困りまちゅね」

 

「ばっ.....馬鹿にしないでぇ~!!

うわぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

五つも年下の武蔵に泣かされる小次郎。

 

 

「うわぁぁぁぁぁん!!このチビ!」

 

「てめぇ!殺すぞ!」

 

「いい加減にしろ手前ぇら!」

 

 

天竜に怒鳴られて即座に喧嘩を止める二人。天竜は涙と鼻水でぐしゃぐしゃの小次郎にチリ紙を手渡す。

 

 

「この二人を隣にするのは危険だな。

ヒコ、小次郎と配置代わってもらえるか?」

 

「別に問題ない..........

私挟まれんのかよ.....

死ねばいいのに」

 

 

氏真がボソッと毒を吐いたが武蔵と小次郎には聞こえていないようだった。

 

 

「東方からは俺とハルの四百騎が本陣として攻める。これで敵さんは四方八方から追い込まれて逃げ場を失う。お前らいいな?」

 

「承知!」

 

「それとこの戦は敵さんが出て来ないと話にならない。炙り出すためにはコイツを使ってくれ」

 

「「「「これは!?」」」」

 

 

そうして朝方、八上城の東側に天竜軍一千の騎馬鉄砲隊が集結する。天竜は作戦通り弟子の3人に三方向からの布陣を任せる。そんな時。

 

 

「まさか、こんな短時間で兵を整えやがるとは.....

騎馬鉄砲隊とは恐れ入ったです」

 

「おぉ!光秀殿!来られたのですか!」

 

「当たり前です。

考えてみれば、丹波攻めを信奈様から任されているのはあくまでこの明智十兵衛光秀です!

新米に全権をやれるわけにはいけないのです!」

 

「ほう.....光秀殿は兵をいくら程?」

 

「二万です!」

 

「それでは麓で待機させていて下さい。

実戦に参加させなくても城からはそれだけの大軍が参戦していると錯覚させられます」

 

「むむっ.....あくまで己の手柄にする気ですか!」

 

「違いますよ。兵は良晴の為にも一人でも多く残さねばなりませぬ。八上城攻めの最中に毛利が進軍すればすぐには援軍には行けませぬ。

第一この戦はお借りした一千でも充分落とせます」

 

「相良先輩の為.....」

 

 

良晴の為と言われてしまえば十兵衛は何も言い返せない。

 

 

「さぁ!布陣は整った!大吾!」

 

「はっ!天竜様!」

 

「お前に残り二百騎の仮将軍の位をやる!

ハル.....光春の後手に回り、待機せよ!」

 

「承知!」

 

 

この大吾という男、

一千の鉄砲隊の中でもリーダー格であり、天竜の暗示による成長率が最も高かった男でもある。

 

 

「いざ、出陣!」

 

「「「おおおぉぉぉ~!!!」」

 

 

東西南北の全方向から八百騎の轟音が鳴り響いた。

 

 

「秀治、最初から籠城を選び高城山周辺の守りをつけなかった貴様の負けだ!

お陰で布陣が至極楽だったぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「秀治様!」

 

「直正か!戦況はどうなっている!?」

 

「敵は鉄砲を持った騎馬隊です!

見たことのない戦い方に守備兵は困惑し、押されています!」

 

 

城主、波多野秀治と家臣、赤井直正。

八上城を守る二人である。

 

 

「あいつはどこへ行った!」

 

「氏綱殿は援軍を連れて遅れて参陣されるそうです!」

 

「ふんっ、どうせ逃げたのであろう!」

 

「そんな訳は.....」

 

 

 

 

「おかしいです!

何なのですか、あの馬の速さは!」

 

 

足は短く、とても速くは走れないであろう織田の痩せ馬が武田の騎馬に匹敵する程の速さで山を駆け上がっているのだ。

 

 

「兵と同じく馬にも暗示をかけました。

理性のある人間よりだいぶかけ易かったんでね。気持ちはサラブレッドですよ」

 

「さらぶ?」

 

「説明をすると二刻半(5時間)かかりますよ?」

 

「結構です」

 

 

 

 

ドゴーーーーーンッ!!!!

高城山の4箇所から爆音が鳴る。

 

 

 

 

「なっ.....なんですか!?

敵の攻撃ですか!?」

 

「いえ、これもこちら側です。

『轟天号』大砲ですよ」

 

「大砲なんて何処から持ってきやがったですか!」

 

 

鳴り止まぬ爆音に耳を塞ぎながら十兵衛が尋ねる。

 

 

「堺にいる滝川一益殿から借りてきました。

本来は軍船用です」

 

「軍船用!?」

 

 

 

 

4日前。

 

「おぉ、そちが噂のてんてんか!」

 

「てんてん?」

 

「信奈ちゃんも家来雇うの好きだのぅ」

 

「それで、お借り出来ますでしょうか?」

 

「軍船用の『轟天号』を城攻めにか.....」

 

「完全に籠られてしまえば、

焼け石に水ですからね。

大砲で脅して敵を誘き出すのです」

 

「面白いのぅ。しかし丹波如きなら兵糧攻めでも充分勝てるじゃろう?」

 

「いえ、期限は七日ですので.....

それにこれは私の能力を『織田』に見せつける意味もあります」

 

「くすくすくす。本当に面白い奴じゃのう。

よっしーともどこか似ている。

いいじゃろう、四門貸してやろう。

その代わり.....」

 

 

天竜はニヤリと微笑む。

 

 

「先日、いいものが手に入りました。

平蜘蛛です」

 

「嘘をつくな。平蜘蛛はひさっしーと一緒に爆発したのじゃぞ?」

 

「焼け崩れた多聞城の跡地にて発見しました。本物ですよ」

 

「ふ~ん。それが本当に平蜘蛛なら大砲を貸してやってもよいぞ?」

 

 

そう言われ、天竜が懐から取り出したのは小さな何かの破片。

 

 

「なんじゃそれ?ごみ?」

 

「平蜘蛛の欠片ですよ」

 

「むむっ、騙したなてんてん!」

 

「いいえ、一益殿は『本物なら』

と仰られたまで。

姿形までは指摘しておりますまい」

 

「むぅ~!まるで一休さんじゃな。

.....しかたあるまい、その欠片で我慢してやるのじゃ」

 

「ありがとうございます。日を改めて別の土産をお持ちいたしましょう」

 

「くすくす。そうじゃ、ついでにくっきーを嫁に貰っていくか?」

 

「そんなっ!姫さまぁ~」

 

「くすくす。

よっしーと違ってそち好みの美形じゃぞ?

てんてん、そちの年は?」

 

「27です」

 

「同い年か~。あたしとしては年下の方が.....

じゃない!天竜殿とは今日で出会ったばかりなので!」

 

「親分、勿体無いですよ!

こんな美形逃すなんて!

理想高すぎると婚期逃しますよ!」

 

 

家来に忠告される嘉隆。

 

 

「うっ、うるさい!」

 

「信奈様が天下をとった際、

未だ私が独り身だったならば是非お願いします」

 

 

天竜は笑顔でそう返答する。

 

 

「そっ、そんな、照れるな~」

 

「くっきー.....

これは遠回しに断ってるんじゃないのか?

くすくす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃てーーーーぃ!!」

 

 

ボーリングの玉サイズの弾丸が次々に八上城に撃ち込まれる。木製の城は塀やら壁やらが発泡スチロールのごとく破壊され、次第に火の手も上がってくる。

痺れを切らした城主秀治は、

 

 

「ええい!全軍、織田兵を蹴散らせぃ!」

 

「やった!かかったぞ!」

 

 

刀や槍を持った足軽が城内から大量に出てくる。中には屈強な武士も出てきたが、天竜により鍛えられた騎馬鉄砲隊に敵うはずなどなかった。どれだけの気迫を持って突撃をしても、

皆、雨隠千重洲陀の餌食にされた。

ところが、

 

 

「あ~!!鉄砲って使いずらい!!

ちょっとお前これ持ってて!」

 

「はい?武蔵様?」

 

「あたしは剣一筋だぜ!」

 

 

そう言いながら南方将軍を務めていた武蔵が鉄砲を部下に放り投げ、己の愛刀2本を取り出す。

 

 

「剣技、二天一流!とくと味わいやがれぃ!!」

 

「武蔵様が一人で突撃してしまわれた!

皆のもの、間違っても武蔵様に当てるんじゃないぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正反対の北方にて。

 

 

「武蔵が刀で戦っているだって!?

こうしちゃいられない!」

 

 

小次郎もまた、部下に鉄砲を放り投げ、愛刀の大太刀を取り出す。

 

 

「奥義!燕返し!!」

 

「ぐわぁぁ!!」

 

「武蔵だけには絶対に負けてたまるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本陣。

 

 

「武蔵と小次郎が刀で戦っている!?

何やってんだあの阿呆共!」

 

 

彼女らが単独で突撃してしまった為に後方の者達が撃つのをためらっているという。

しかし、一見すると勢いはさほど変わっていないようである。

 

 

「あいつら強いのな」

 

 

競い合っている彼女らはある意味、

雨隠千重洲陀より怖いのかもしれない。

 

 

「天竜聞いていいですか?」

 

「何でしょう?」

 

「信奈様の願いは断って、己の戦では千丁の新鉄砲を抜け抜けと出すのはどうしてですか?

返答次第では信奈様への不満と見なしますよ?」

 

 

要するに殺すという事か。

 

 

「雨隠千重洲陀は拳銃ほど召喚が難しくありませんですし、これは認めて貰う為ですよ」

 

「どなたにですか?」

 

「貴方にですよ十兵衛殿」

 

「へっ?私ですか?」

 

 

十兵衛が急にポッと頬を赤くする。

 

 

「早く明智家の家臣として認めて貰うという事ですよ」

 

「そっ.....そうですよね。

というか、天竜!

なに勝手に『十兵衛』と呼んでいるんですか!」

 

「バレましたか。すみません」

 

 

十兵衛は焦った。良晴以外の男性に顔を赤らめる事などなかったというのに。

そんな時、一人の兵が天竜の元に駆けてくる。

 

 

「西方、氏真様!敵に挟まれております!」

 

「なんだと!?」

 

「敵の援軍は何処から湧いてきた!」

 

「荒木氏綱の軍七千です!」

 

「氏綱といえば丹波の豪将じゃないか!」

 

「天竜も知っていましたか.....あの男には何度も兵を撃退されていますです」

 

「いくら雨隠千重洲陀の騎馬鉄砲隊とはいえ、

数はたったの二百。

挟まれれば一大事だぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「必殺!電撃蹴鞠龍神波!!」

 

 

手持ちの蹴鞠を蹴って敵の顔面にぶつけ、

バウンドした蹴鞠は、

また別の敵の顔面にぶつかり、

それが五人程連結され、

怯んでいる所を氏真がバッサバッサと

斬りまくる。流石は義元の妹である。

 

 

「久しぶりの敵..........楽しっ!」

 

 

不気味な笑みを浮かべている氏真に部下達はビクビクと恐れている。

 

 

「氏真様!後方を敵に挟まれました!」

 

「うざ..........いい。私が行く」

 

 

氏真は急に方向転換し、下山する。

七千の兵を一人で相手をする気である。

 

 

「そんな、無茶ですよ!氏真様~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうするんですか天竜?

こうなったら私の二万で...............ん?

天竜?どこ行きやがったですか?」

 

「天竜様なら大慌てで前線に向かいましたよ?

なんでも

『十兵衛殿は何もしなくても大丈夫』

だとか」

 

 

近くにいた兵に伝えられる。

 

 

「大将が前線に出てどうするんですか!

あの馬鹿天竜!!.....というか!

また十兵衛って呼びやがったですぅ!」

 

 

天竜の部下に告げられ、顔を真っ赤にして怒る十兵衛。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、ハルゥ!」

 

「天竜様!?」

 

 

前線で戦っていた左馬助を発見する。彼女はちゃんと鉄砲で戦っていたようだ。

 

 

「お前は急いで二百騎で北方方面を回って西方のヒコを助けてこい!

南方方面からは大吾が向かうように指示は既に出した!

敵の援軍を左右から奇襲して足止めをしていてくれ!」

 

「しかし、東方からの攻めはどうするのです!」

 

「それは俺一人が引き受ける!」

 

「はぁ?」

 

「大丈夫だ!俺を信じろ!」

 

「..........分かりました。

ただし、危険と感じたらすぐに姉上に救援を頼むんですよ?」

 

「おぅ!」

 

 

本陣近辺の四百騎が全て西方の守りについた。そのせいで東方はほとんどガラガラである。

これを好機とばかりに秀治は東方の軍勢を増やした。

 

 

「どの方面よりも、この東側こそが最大の地獄だという事を見せてやろう!」

 

 

天竜は改めて兜を被り直す。

安土城の変と同様の兜だが、『白夜叉』と呼ばれるようになって、二本の角が追加された。

左手に雨隠千重洲陀、

右手に青龍偃月刀を持った、

白い鎧武者が現れる。

 

 

「我が名は、白夜叉!いざ参る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波多野秀治は焦っていた。荒木氏綱が援軍として駆けつけてきた時は狂喜したが、麓近辺で足止めされ、手薄になったはずの東方もなぜか押されている。

このまま時が進めば、破滅するのは.....

 

 

「気づけ、秀治!

貴様が今、決めなければならぬことを!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「嫌だ!丹波の伝統を私の代で終わらすなんて!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「このまま倒されるのがどちらか、

頭のいい貴様なら分かるはずだ!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「誰か、誰かいないのか!

織田を抹殺出来るような猛者が!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

その次の瞬間、

巨馬に跨った白い騎士が秀治の前に現れた。

 

 

「まっ.....まさか!

東方をたった一騎で押し返した、

白い鬼とは真の事だったか!」

 

「波多野秀治だな?」

 

「....................あぁ、お前は?」

 

「勘解由小路天竜。この戦の総大将だ」

 

 

秀治はつい吹き出してしまった。

 

 

「くはははははは!

敵の本陣に大将が乗り込んで来るとは.....

まるで上杉謙信のようだ」

 

 

隣りにいた赤井直正はこの絶対的状況で笑い出す主君を見て、敗北を実感する。

 

 

「時に天竜とやら。

安土城にて織田に刃を向けたお前が何故、織田に仕官した?

そして、何故この八上城攻めに協力した?

織田の為か?

それとも明智の為か?」

 

 

天竜はクックックと笑い出し、

こう答える。

 

 

「無論、俺の為だ!」

 

 

秀治は彼の目を見て、そのたった一言から何かを感じとったらしい。

 

 

「.....そうか。あとは任せたぞ?」

 

「あぁ」

 

「降伏したところで私は処刑されるだろう。

それよりは、お前に召された方がいい」

 

 

つまり、捕まるぐらいなら天竜に討ってほしいとの事。

 

 

「..........やだ。めんどい」

 

「とことん鬼だな」

 

「白夜叉だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「波多野秀治、赤井直正自刃!!

八上城敗れたり!!」

 

 

天竜が山頂で叫ぶ。

それに乗じて彼の軍勢も同じ言葉を叫ぶ。

それを聞いて、麓で奮闘していた荒木氏綱は持っていた武器を地に落とし、座り込む。戦っていた左馬助と氏真はキョトンとする。

 

 

「主亡き今、この戦に意味はない。斬れ!」

 

「それを判断するのは私達じゃないです」

 

 

こうして波多野軍は全員武装放棄する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりやがったです.....天竜。

たった千騎で八上城を一日で.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

「この戦はまだ序章に過ぎない!

これから三日間、

丹波中を駆け巡り、

この八上城攻めの英雄達の姿形を他の城主共に見せつけてやるのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの三日間、天竜軍騎馬鉄砲隊は丹波各地を駆け回り、その最新式の部隊を見せて回った。

八上城を一日で落とした伝説と白夜叉の伝説もまた噂として流れた為、城主達は恐れを抱き、次々に降伏。明智家傘下に入る事となった。

荒木氏綱もまた降伏したのだが、病を理由に娘の荒木行重を仕官させるに至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

 

「どうして姉上がついてくるのですか?」

 

「むぅ。私も天竜に用があるです。

左馬助についていかないと何処にいるか分からないです」

 

「鬱陶しいから離れて下さい」

 

「あぅ.....」

 

「あっ.....いた!」

 

 

 

天竜は八上城麓の木の下で眠っていた。ここ七日間、ろくに眠っていなかったのだろう。

 

 

「天竜。八上城にてもう一度明智家臣団が集まるから起きやがれです。

今度も喧嘩したら許さないですよ?

..........天竜?」

 

「天竜様?....................!?」

 

 

左馬助が天竜の口元に手を当て、異変に気付く。

 

 

「姉上.....天竜様.....息してない!」

 

「ふえっ!?」

 

「天竜様!起きて下さい!天竜様!」

 

「起きるです天竜!!

丹波の英雄がこんな所で死にやがるなです!!」

 

 

十兵衛の脳内にとある記憶が蘇った。

これと同じ事が昔あったではないか。

金ヶ淵の退き口の際の洞窟にて、矢を打たれて呼吸が止まってしまった良晴に対し、十兵衛が人工呼吸を行ったのだ。

 

 

「左馬助!天竜の身体を横にして下さい。

人工呼吸しますです!」

 

「えっ?」

 

 

十兵衛の頭にはそれしか無かった。

良晴ではないとか、言ってる場合ではない。

幸い心の臓は止まってない。私が、何とかしなければと.....

 

 

「だめ.....」

 

「えっ?」

 

「だめです!姉上に人工呼吸はさせません!!」

 

「左馬助!意地を張っている場合では.....」

 

「だめなんです.....私じゃ.....私じゃなきゃ.....」

 

 

左馬助は涙目で訴える。

十兵衛は咄嗟に理解した。

何故この子がずっと天竜に従い、

慕いつづけているのかを。

 

 

「分かったです、左馬助。

その代わり、絶対に助けなさいです!」

 

「.....ありがとう!」

 

 

左馬助は天竜の唇に自分の唇を重ね合わせ、息を送り込んだ。2回、3回と送り込むのを十兵衛はハラハラと見守っていると、

 

 

「げほっ!!がはっ!!」

 

「やったです!」

 

「天竜様!」

 

 

左馬助は脱力したように天竜に抱きついた。

 

 

「さっ.....左馬助?」

 

「待ってろです天竜!

すぐに医者を連れてくるです!」

 

 

 

 

その後、曲直瀬ベンジョールが丹波まで呼ばれ、天竜の診察をしたが、外傷等は全く無く、気管の異常も無かった。

彼の呼吸が何故止まってしまったのか、結局分からず終いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある朝、十兵衛は再び眠ってしまった天竜の寝室を訪れた。見張りの者は下げている。

 

 

「相当あの子に好かれているようですね。

夜中も寝ずに看病していたようですよ?」

 

 

左馬助は今、隣室で休んでいる。

その時、

 

 

「きゃっ!?」

 

 

突然、十兵衛の裾がグイッと引っ張られ、

抱き寄せられるように天竜の胸に倒れ込んだ。

そして、がっしりと腕で押さえ込まれる。

 

 

「おっ.....おのれ天竜!!

狸寝入りですか!!

人が心配してやったらいい気になって!!」

 

「好きだ.....」

 

「へ?」

 

「好きだ。愛してる」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」

 

「今までどこにいたんだ。寂しかったんだぞ」

 

「あうあうあうあうあう。

わたたたしは、しゅしゅ主君だだだから!!

いい色々いそ忙しいのでですぅ!!」

 

「もう.....離さない」

 

「だだだだめですぅぅぅ!!

私には相良先輩という将来を誓った殿方がぁ!!」

 

「愛してるよ.....ヒカリ」

 

「へ?」

 

「離してたまるものか、ヒカリ」

 

「いいや!離しやがれです!!

一体誰と間違って...............!?」

 

 

十兵衛が目の前に立って見下ろしている存在に気付く。左馬助だ。

 

 

「姉上.....そうだったんですね。

何故天竜様が明智家に仕官したか、

やっと分かりました」

 

「ちょっ.....左馬助!誤解です!」

 

「もういいです。どうぞ天竜様とお幸せに」

 

「待つです左馬助!勘違いしてるです!」

 

 

そうして扉の前で去り際に一言。

 

 

「姉上なんて大っ嫌いだ!」

 

「左馬助~!!」

 

 

 

 

折角少しずつ直そうと思っていた関係がまた振り出しに戻ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

「うわっ!十兵衛様、

何で添い寝されてるんですか!?」

 

「お前なんて丹波攻めで討死すればよかったですぅぅ!!!」

 

 

唐突に起きる天竜。当然この後、十兵衛に思いっ切りビンタされたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間後、天竜は良晴のいる姫路城を訪れ、再び二人きりの茶会が開かれる事となった。

 

 

「天竜先生、丹波落としたんだって?

仕官早々すげぇな!」

 

「ちょっと無理し過ぎてな。

今でも疲れが残ってる」

 

「ふーん」

 

 

この丹波攻め成功を機に明智家は信奈の判断次第で次に丹後や但馬も狙って行く事になるのだが、そうなれば織田家最大勢力となっていくだろう。

 

 

「そういえば、ここ一週間何してたんだ?」

 

「仲直りラッシュだよ。

明智家臣団やら柴田やら丹羽やら」

 

「へぇ~。勝家達と仲直りしたんだ。

なんか意外」

 

「ところで良晴」

 

「何?」

 

 

天竜が突然後ろから酒と杯を取り出した。

 

 

「飲め、良晴」

 

「酒じゃんか!

教師が未成年に酒飲ますのかよ!」

 

「俺が許す。それにこれは契りだ」

 

「契り?」

 

「義理兄弟の契りだ」

 

「へ?」

 

「良晴.....今日からお前は俺の義弟となれ!」

 

「は?」

 

「だから俺はお前の義兄となる」

 

「うん?」

 

「それから俺は今日から、

『羽柴秀長』を名乗る事になった」

 

「え?」

 

 

「だからお前は今日から、

『羽柴秀吉』と名乗れ」

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」

 

 

戸惑いを隠せない良晴。あまりにいきなりで状況が理解出来ずにいたのだった。

 




なんか急なシリアス展開とラブコメ展開が入ってきました。
調子が出てきて、今ウキウキしてます。
ちなみに今回出てきた荒木氏綱は荒木村重とは
別人なので勘違いしないよう気をつけて下さいね。
それから赤井直正は、史実ならこの頃すでに死んでいますが、思い切って登場させてみました。
次回予告
若狭の陰謀
~君が秀吉で秀長が俺で~

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