天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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新章に伴い、
新キャラ登場の予感。


六章 堕天竜
第三十六話 引きこもりの悪魔


それは、天竜が左馬助討伐の為に兵を出していた頃。

 

 

「天竜の息子を人質にする!?」

 

 

安土城にて、天守閣で信奈と義妹氏郷との密談が行われていた。

 

 

「はい。先日産まれたという羽柴秀長の息子、拾を人質にすればいくら彼といえど、否が応でも降伏するでしょう」

 

「待って、駄目よ!」

 

「何を迷いますかお姉さま。

拾は羽柴秀長の第一子。羽柴秀長の後継者です。彼は絶対に拾の安全を望むはず。確実に降伏するでしょう」

 

「そうじゃない!

そんな卑怯なやり方を言ってるのよ!

私はついこの間、奴の暗殺を仕掛けたわ。でも失敗した。

お陰で凪を殺す羽目になった。

良晴に説教されたわ。

だから私はもう卑怯に生きるのは辞めたのよ!」

 

「.....果たしてあの男に卑怯が通じますかね」

 

「え?」

 

「この人質作戦は何も、

私個人の考えではないのです」

 

「.....どうゆうこと?」

 

「私が堺でお世話になった宣教師、

ガスパール・カブラル様のお考えです」

 

「ガスパール・カブラル?」

 

「はい。しばらく村上水軍によって捕らえられていたようなのですが、羽柴秀長によって村上水軍が滅ぼされ、解放された彼は堺まで来られていたのです」

 

「バテレンがなんだって天竜を?」

 

「宣教師様達の日の本での大きな目的は

2つあります。

1つが、日の本の支部化。

もう1つが、羽柴秀長の捕獲」

 

「えぇ!?」

 

 

驚くべき事実である。

 

 

「何でなのよ!?」

 

「この事実は今の所、カブラル様や限られたキリシタンのみぞ知る事です。ルイス・フロイス殿ですら知らされておりません」

 

「どうしてなのよ!?

天竜がどうしてバテレンに!?」

 

「お姉さまは羽柴秀長が何年前に未来から来たかご存知ですか?」

 

「え?.....確か、3年前でしょ?」

 

「それを論づける証拠は?」

 

「知らないわよ!

本人が言ってただけだもん!」

 

 

氏郷は何を言っている?

 

 

「そう。それは本人が言ったまで、

ですが羽柴秀長はペテン師。

真実とは限らない」

 

「それはそうだけど.....」

 

「真実を知る人物も少ないのです。

明智左馬助は長良川戦後に弟子入り。

今川氏真は桶狭間戦後。

宮本武蔵と亡くなった佐々木小次郎は

その間だそうです。

阿斗吽斗の双子は姉川の合戦当時だそうです」

 

「よく調べてるわね.....」

 

「彼の師匠である塚原卜伝氏は既に死去。

3年前の彼を正確に知る者は1人もいません」

 

「そうなるわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は.....3年以上前の彼の記録が残っているのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....................は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美濃、岐阜城。

 

 

「全く.....姉上にも困ったものだ。

左遷するのはしょうがないとして、

何で僕の所に.....」

 

 

信奈の弟、津田勘十郎信澄は苦悩していた。

なにしろ「信奈に代わる魔王」とまで言われた天竜が自分の元にやって来たのだから.....

織田家臣団の最下層まで堕ちた彼は既に信澄よりも格下。与力以下。一兵卒程度の権力しか残されていないのだ。

 

 

「やっ.....やぁ、天竜くん」

 

「お世話になります信澄殿」

 

 

天竜は深々と頭を下げる。

 

信澄も例の恩功論証の場にはいた。

あの光景を見ていたのだ。

彼自身、天竜に同情していたのだ。

同じ父親として.....

 

 

「くれぐれも問題を起こさないでくれよ!

市もまだ病み上がりだから負担をかけたくないんだよ」

 

「心得ています。

.....して、お子様はご無事に?」

 

「うん。とりあえずね。

可愛い女の子だったよ」

 

「お名前はもう?」

 

 

 

 

「うん。『茶々』とつけたよ」

 

「へぇ」

 

 

 

 

 

信澄ももう一児の父なのだ。

 

 

 

「同時期にそれぞれ男女の子得るとは何かの縁かもしれませんね。

どうです?

ここでお茶々様と拾の結婚の話でも」

 

「けっ.....けけけけ結婚!!?」

 

 

天竜は邪気の全くない朗らかな表情で言う。

 

 

「待ってよ!まだ産まれて間も無いのにそんな話は早いよ!」

 

「ですよね〜。もうちょっと大きくなってから考えましょうか」

 

「うっ.....うん」

 

 

茶々と拾が結婚なんかしたら、僕とこの男が家族の間柄になってしまうじゃないか!

そんなの絶対に嫌だ!

というか姉上が認める訳がないし.....

 

 

「勘十郎?」

 

「いっ.....市!?

駄目だよ入ってきちゃ!

こんな男と会うなんて、教育に悪い!」

 

「貴方も中々失礼ですね。流石は姉弟だ」

 

「ごっ.....ごめん!」

 

 

笑顔に殺されそうだ。

 

 

「おやおや、お市様。

ご無沙汰しております」

 

「どっ.....どうも」

 

 

市は茶々を抱いていた。

 

 

「ほう可愛いらしい。

抱いてもよろしいですか?」

 

「いや、でも.....」

 

「天竜くん!茶々に触れるのだけは辞めてくれないかな!」

 

「似た台詞を君の姉上に言いたいがね」

 

「うっ.....」

 

 

何も言い返せない。

 

 

「抱いてもよろしいですか?浅井長政殿」

 

「「!!?」」

 

 

天竜は市=浅井長政という事を知っていた。

 

 

「どうして!?」

 

「?」

 

「どうして市の事を.....

ひょっとして誰かが!?」

 

「違いますよ。

考えれば簡単です。

当時、浅井殿が男装をしていた事もあり、信奈様の弟の信澄殿が女装し、『お市』と名乗る事で無理矢理政略結婚を成立させたのは有名な話。

その後、織田と浅井の対立に伴い御二方は離縁し、敵同士となった。

そして、最期は元夫が元妻を斬るという悲惨な結末を迎えた。

その髑髏は信奈様によって黄金に加工され、盃にされた。

 

ここまでが一般人の見解でしょう。

 

ところが、信澄殿はその後再婚している。

その相手は、信奈様の義妹の『お市殿』

何故、信澄殿の偽名と同名の少女が急に現れたのか、答えは単純。

『実は密かに生かされていた浅井長政が浅井の名を捨て、ただの女お市となった』

どうです正解でしょう?

羽柴天竜にはこの程度の推理が可能です」

 

「..........」

 

「..........」

 

 

2人とも黙り込み、口を開けなかった。

いくら力を失ったといえど、

天竜は天竜なのだ。

陰陽家の産まれにもかかわらず、

武士として内から織田信奈をあと一歩まで追い詰めた天才。

 

 

「お茶々様を抱かせて貰いますか?」

 

 

市は渋々了解した。

もう反抗の余地がなかったのだ。

 

 

「おう本当に可愛いらしい。

これは将来が楽しみですなぁ」

 

「どうも.....」

 

「たかいたかい〜」

 

「あきゃきゃきゃ!」

 

 

茶々はご機嫌だった。

 

 

「いないいない..........ばっ!!」

 

 

ばっ!!の瞬間、天竜の頭がまるで龍のように変化した。

 

 

「うわぁっ!?」

 

「ひぃっ!?」

 

「あきゃきゃきゃきゃ!!」

 

 

茶々だけがウケていた。

 

 

「本当に..........人間?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一ヶ月程が経とうとしていた。

周りを驚かすような事が多々あったが、

天竜は至って大人しかった。

 

 

「そこは、伏兵を潜めればいいんじゃないかな。六が出来る所まで攻めた後、退くと見せかけて犬千代の伏兵部隊が上杉を横からつけばいい。

今まで特攻ばかりだったなら、

突然の事態に上杉も怯むだろうし」

 

「そうか!そんな手が!」

 

「いい考え」

 

 

天竜は越前にいた。

負け越しの柴田軍に策を与えているのだ。

 

 

「なぁ、越前に来てくれないか?

こっちで軍師やってくれよぉ」

 

「そうは言っても、

俺は美濃に左遷された身。

今日だってただの挨拶だ」

 

「それぐらい私が姫さまに許可貰ってやるさ!」

 

「勝家。空気読めなさすぎ」

 

 

勝家も犬千代も天竜に同情していた側だ。

天竜が左遷されて大人しくなった事もあり、最近は中々仲良くなっている。

勝家も始めは「六」と呼ばれる事に抵抗があったが、今では慣れてきている様子だ。

 

 

「はぁ.....」

 

「どうした天竜?」

 

「六..........おっぱい揉まして」

 

 

バシッと叩かれた。

 

 

「痛ったいなぁ〜。

冗談も通じないのかよ」

 

「うるさいうるさい!!

お前みたいに美形の奴に言われると

ドキッとするんだよ!」

 

「へぇ〜。じゃあ良晴に言われたら?」

 

「殴る!」

 

「ドキッとしない?」

 

「しっ.....しない!!」

 

 

時々、このように天竜が勝家をからかう事もある。あの天竜にしては珍しいと、周りの者は揶揄していた。

 

 

「天竜」

 

「ん?どうした犬千代」

 

「天竜はもう姫さまへの反逆はしないの?」

 

「なんだしてほしいのか?」

 

「違う。.....でも」

 

「したくともできんよ。

兵は持ってないしな」

 

「でも天竜は1人で1万の兵を突破した」

 

「懐かしいな。

でもあん時とは状況が違う。

拾が人質に取られてる。

それ意外にも三成、吉継、織部、

武蔵、順慶もだ。

迂闊に手は出せんよ」

 

「場合によってはやるの?」

 

「そう考えてるように見えるか?」

 

「..........見えない。

天竜は以前と違って覇気が無くなった。

とても謀反を起こしそうな顔じゃない」

 

「そうかい。カッカッカ!」

 

「..........」

 

 

 

 

覇気が消えた。

喜ばしい事なのか、哀しい事なのか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の夜、岐阜城にて。

 

 

「よろしいですか?」

 

 

なんと丹羽長秀が天竜のもとを訪れたのだ。

 

 

「あんたか」

 

 

天竜は1人酒を飲みながら読書していた。

 

 

「何をお読みで?」

 

「見るか?ホレッ」

 

 

本を手渡す。

 

 

「.....つっ!?」

 

 

それは春本(官能小説)だった。

 

 

「何を読んでるんですか!!」

 

「いやぁ、暇で暇で。退屈凌ぎに読んで見たが、結構面白くてな。

ほれ、春画(エロ本)もあるぞ?」

 

「いりません!!」

 

 

一体何を考えているのだこの男は!

 

 

「んで、本当に何しに来たの?

まさか夜這いってわけじゃねぇだろ?」

 

「あたりまえです!

..........実は姫さまの事でお話に」

 

 

信奈の側近の座はもう、長秀にはなかった。彼女の横にはいつも蒲生氏郷と千利休が付き、長秀には入る余地すらなかったのだ。

 

 

「安土城は今、面識のない宣教師が多く出入りしています。それもあの2人が手引きしているのです。.....このままでは姫さままでがキリシタンになってしまう。

どうにかならないでしょうか?」

 

「は?俺に相談してんの?」

 

「そうでなければ、ここまで来ません」

 

「んなもん。良晴にでも聞けよ。

なんで俺んとこに.....」

 

「俺からの願いでもあるんだ」

 

 

すると、扉の影から良晴が現れる。

 

 

「!?....................ちっ!」

 

「協力してくれ天竜さん!

なんだか、万見仙千代の時と同じような状況になりそうなんだ!」

 

「姫さまを助けたいのです!

お願いします!」

 

 

2人がそれぞれ頭を下げてくる。

 

 

「ふざけてんのか手前ら」

 

「「!?」」

 

「俺は手前らの言う信奈に全てを奪われたんだぞ。領地を取られ、結婚も破断させられた。1人息子まで取られた。大事な家臣は人質に取られてる。そんな奴を助けろだなんて本気で言っているのか!?」

 

「気持ちは分かるよ.....でも」

 

「ほざきやがれ!!

適当な事言ってんじゃねぇ!

息子を人質にされる経験なんてない貴様らに俺の苦痛が分かられてたまるか!!

.....いいよなぁ良晴。

貴様は信奈のお気に入りだ。

どんな事があろうとも、最後に美味しい思いをするのは貴様なんだ。

もういい。帰ってくれ!」

 

「でも天竜さん!」

 

「天竜殿!」

 

「帰れ帰れ帰れ!!!

もう俺から何も奪うなぁ!!!」

 

 

天竜は辺りにあるもの2人に投げつけた。天竜は想像以上に追い詰められていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「があああぁぁぁっっっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

2人が逃げるように去った後、

天竜はしばらく部屋に閉じこもって、

一晩中もがき苦しんだという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

 

「羽柴殿。羽柴秀長殿」

 

「あん?」

 

 

何者かの声で天竜は目を覚ます。

 

 

「すみません羽柴殿」

 

「誰だお前は?」

 

「私は津田信澄様の家臣。

藤堂高虎にございます」

 

「藤堂.....高虎だと!?」

 

 

突然の来訪者に天竜は布団から飛び起きた。藤堂高虎は妙に美しい顔達をしていた。

 

 

「信澄の家臣が何の用だ?」

 

「羽柴殿。協力をしてはくれませぬか?」

 

 

またか。

 

 

「良晴達が帰ったと思ったらまたか!

何度来ても無駄だ!俺は信奈を助けるような事は絶対にしない!!」

 

 

そう言うと高虎は不思議そうな表情をする。

 

 

 

 

 

「何を勘違いされてます?

私は信奈を討つ協力をしてほしいと

貴方を募ったのでございます」

 

 

「何っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤堂高虎。

元は浅井長政の家臣であったという。

だが、小谷城の戦いにて浅井家が滅び、

やむ負えず、高虎は織田に降伏したという。

 

ところが、浅井長政は生きていた。

津田信澄の妻お市として。

 

高虎は信澄の家臣となる事で、

お市との接点を持った。

そして何度も彼女に対し、

再び蜂起するよう募っていたのだ。

だが、信奈に絶大の信頼を置いているお市にそんな気持ちは全く起こらず、無視され続け、信澄家臣団の中でも孤立を深めていたという。

 

 

「それで今度は俺か。

俺は反信奈派の最大勢力だったからな」

 

「受けてくれますか?」

 

「断る」

 

 

こちらも即答だった。

 

 

「何故です!?」

 

 

天竜は最近散々している言い訳を、

高虎にもする。

 

 

「くっ.....」

 

「第一、お前は何故信奈を恨む?

まぁ、浅井家を滅ぼされたのは悔しいかもしれないが、当の浅井長政は健在だし、お前もそれなりの地位は保てているだろう。

何がお前を突き動かす?」

 

「それは.....」

 

 

この答えに天竜は驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「姫武将制度を廃止したいのです」

 

 

「....................え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は男尊女卑の主義者なのか?」

 

「違います。

ですが、戦は男子が率いるべきなのです!」

 

 

高虎の考えはこうだ。

姫武将が嫌いなわけではない。

女子は男子とは違う強さを持つ。

時には男武将すらも追い抜く力を。

だが致命的な欠点を持つ。

それは雌である事。

生物としての弱点だ。

力が弱いとかではない。

最近は男も張り倒す女も現れた。

そうではない。

恋をするという弱点だ。

子を産むという弱点だ。

医学的にも女子は男子よりも性欲が6倍強いと言われるように、

女子は求めてしまう。

そこを突かれれば、

姫武将は何よりも弱くなる。

主君の浅井長政がそうだったように、

織田信奈もいずれは恋に溺れ、

恋に滅ぼされるだろう。

 

 

「私は、恋すらも喰い己の力に変えてしまいそうな、貴方のような男子に主君になってほしい。

世を収めてほしい」

 

 

 

「それは.....

女子であられる姫巫女さまも

超えろと言うのか」

 

「はい」

 

「..........」

 

 

こいつ.....俺に似てるな。

 

 

 

 

 

「ふっ.....

口ではそう言っても本音では

『戦で女子に死なれるが嫌だから』

なのではないか?」

 

「そうかも.....しれませんね」

 

「というかお前.....男か?」

 

「男ですよ!!」

 

 

高虎は恥ずかしそうに怒っている。

 

 

「あまりに美しい顔達でな」

 

「人の事言えないでしょう」

 

「まぁな。

格好いいなんて言われるのは嬉しいが、

美しいなんて言われるのは嫌な気分だ。

俺だって男なのにな」

 

「同感です」

 

「全く。腐女子どもは、

俺らみたいのに『攻め』とか『受け』

とか付けてBL話に華を咲かせてるんだぜ?

ヘドが出るよ」

 

「何の話です!?」

 

 

こいつとは気が合いそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで.....受けて下さいますか?」

 

「..........少しだけ時間をくれないか?」

 

「何を待つ事がありますか!」

 

「お願いだ待ってくれ!

.....まだ気持ちの整理がつかないんだ」

 

「..........分かりました。

ではお返事はまた後日に」

 

「すまんな」

 

「いえ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?安土城に?」

 

「そう、君も来るかい?」

 

 

ある日、信澄に信奈から連絡が来た。

特に重要というわけでなく、

中国攻めの戦勝祝いを改めてするとの事。

それに信澄は天竜を誘っているのだ。

 

 

「安土城か.....」

 

「うぅ.....」

 

 

信澄は恐怖はありつつも、天竜と友好な関係を築こうとしていた。

というか、天竜の機嫌を損ねて蜂起された場合、1番始めに被害を被るのは自分達だからだ。

そのために敬語をやめさせ、

岐阜城内でもそこそこの地位をあたえていたのだ。

 

 

「分かった。俺も行こう」

 

「え!?行くの!?」

 

「お前が誘ったんだろう?」

 

「そりゃあ.....そうだけど」

 

 

実際の所、黙って行くとなんだか怒られそうだったため、一応確認をとったためなのだ。断られるという予想の上で.....

 

 

「大丈夫。

変に威張ったりしねぇよ。

あくまで護衛役だ」

 

「それならいいかな.....」

 

 

とことん臆病な信澄である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜が安土城に来たことは誰もが驚いていた。その度に信澄は針の筵な気分にされていた。

 

 

「つっ.....!?」

 

「お久しぶりです信奈様」

 

「えっ.....えぇ」

 

 

信奈の両脇には氏郷と利休が凛と立っている。

 

 

「..........ふん」

 

「「..........」」

 

 

2人はただただ天竜を睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は集まってくれてありがとう!

好きなだけ飲んでちょうだい!」

 

 

信奈の号令で一斉に宴会が始まった。

 

 

「勘十郎!.....ちょっと」

 

「姉上?」

 

 

やや離れた席にいた信澄と天竜だったが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてあいつがいるのよ!」

 

「あ。やっぱり?」

 

 

周りに聞こえない小声で会話する。

 

 

「いやぁ、半分冗談で誘ったら

本当について来ちゃって.....」

 

「全く.....」

 

「たぶん大丈夫なんじゃないかなぁ

最近、天竜くん大人しいし」

 

「何打ち解けてんの。

あんたには奴の監視の命も与えてるのよ」

 

「面倒事を押し付けられてるだけのような」

 

「最近、犬千代達が冷たいのよ。

万千代も良晴も.....」

 

「自業自得じゃ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆聞いて!

今日はある報告があるの!」

 

 

宴会も終盤に差し迫った頃、

信奈の声に一同が視線を集中させる。

天竜も静かに耳だけ傾ける。

 

 

「今日はこの為に集まってもらったというのも過言じゃないわ!」

 

 

今日は織田家臣団の殆どが集結していた。

勝家・犬千代勢。

信澄・美濃三人衆勢

(お市・茶々・天竜も参加)

良晴勢

(半兵衛・官兵衛が参加)

長秀勢。

 

そして珍しく一益も来ていた。

だが、いつもと違い彼女は元気がなさげだった。

 

反対に十兵衛は欠席していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は天下の三肩衝が揃ったのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..............................は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初花肩衝、新田肩衝、楢柴肩衝!

ついに念願の3つを揃えたわ!

天下統一への足がかりと言ってもいい!

これも皆のお陰よ!

ありがとう!」

 

 

「おおおぉぉぉ!!!」

 

 

家臣団らが感心の声をあげる。

 

 

 

 

 

その中で静かに俯く人物と、

ワナワナと震える人物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その男はあろうことか目の前のお膳をひっくり返す。

 

 

「「「!!?」」」

 

 

当然周りの人物は驚く。

 

 

「....................どうゆうつもり?

またあんたなの天竜」

 

「..........おかしいですね」

 

「いい加減にしなさいよ。

一体何の文句があるのよ!」

 

「おかしいですね!!

何故貴方がそれを持っている!?」

 

「!?」

 

 

そう、持っているなんてあり得ない。

 

 

「何を.....」

 

「楢柴肩衝をどこで手に入れた!!」

 

「どこって.....」

 

「てんてん!!」

 

「そいつは俺が一益にやったものだ!

何故お前が持ってる!?」

 

 

直前に一益が止めようとしたが、

天竜は貫いた。

 

 

「..............................左近の!?」

 

 

信奈は今初めて知ったような表情をする。

 

 

「利休!!」

 

「..........」

 

 

利休は黙っていた。

いつものようではなく、只々黙って.....

 

 

「その様子だと利休の糞が

一益から無理矢理強奪したようだな!

一益は優しいからな。

それが後にお前のものになるなら

しょうがないと諦めたんだろうな!」

 

「そんな!?」

 

「もういい.....もういいてんてん.....」

 

 

一益は今にも泣き出しそうな震え声で呟く。

 

 

「此度の茶番!御見物の皆様!

あれが!

あれがあの女の本性だ!

己の欲の為なら信頼する家臣すら騙し、

己の身の安全な為に有能家臣も蹴落とす。

己の欲望だけで、

家臣らを境地に追い込む!

そんな女だ!!

さぁ、皆様!!

 

こんな女に

仕える価値があるのでしょうか!!」

 

 

天竜の演説に、

誰もが口を噤っていたが、

 

 

「誰か!

その不埒者を追い出しなさい!」

 

 

氏郷が叫ぶ。

すると後ろの襖を開けて、真っ黒な肌の巨人2人がズカズカと入ってきた。

 

それだけで、何も知らない家臣達は大混乱である。

 

 

「はっ!

宣教師から買った黒人奴隷か!

人身売買にまで手を出すたぁ、

とことん終わってるな!」

 

「早く連れて行きなさい!」

 

 

氏郷の命令で、黒人2人は天竜の両脇を抱えて、無理矢理外へ連れ出してゆく。

 

 

「よく考えろ!

所詮そんな女なのだ!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オマエモウクルナ。

コレ、レオンノメイレイ」

 

「オマエノタメデモアル」

 

「よく躾られてんな。

お前達自由になる気はないか?

俺が奴隷から解放してやろうか?」

 

「!?....................イイ」

 

「ワレラレオンノメイレイニシタガウ」

 

 

少しガタつきながら2人は言う。

氏郷は恐怖でこいつらを従えているのか?

 

 

「まっ、そうゆう逃げ道もある事も覚えとけよ」

 

「イタミイル」「アリガトウ」

 

「あんたら名前は?」

 

「ワレワ紳助」「ワレワ喜助」

 

「じゃなくて本名の方」

 

「....................ドミニク」

 

「....................アンドレ」

 

「そうかい。俺は天竜だ。

じゃあ、またな」

 

「アァ」「マタイツカ」

 

 

天竜は1人安土城を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おのれえええぇぇぇ!!!!」

 

 

1人岐阜に戻った天竜は荒れていた。

 

 

「腹が立つ!腹が立つ!腹が立つ!

何が天下統一の足がかりだぁ?

ふざけんな泥棒女!!」

 

 

復讐したい!復讐したい!復讐したい!

 

ではどうする?

捨て身の特攻をかけるか?

 

いや、良策じゃない。

人質を盾にされて共倒れになるだけ。

 

どうすればいい!

どうすればいいのだ!!

 

 

ほしい!

あの女に一泡吹かせられるような

力が!策略が!

 

 

 

 

 

 

 

どうすれば手に入る?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私がやってやろうか?』

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

それは

ツクヨミでも、アマテラスでもない。

 

 

何を隠そう自分の声。

 

 

 

 

もう1人の自分。

 

 

もう1人の天竜。

 

 

 

 

 

 

 

『私が代わりにやってやろうか?』

 

 

 

 

 

 

 

迷いなどなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれるもんならやってみろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜に深い闇が襲った。

 




まず、題名詐欺を謝罪。
結構外に出てた天竜さんでした。
それと新キャラの藤堂高虎。
一応史実通りで、
浅井長政→津田(織田)信澄→羽柴秀長
ではあるんですよね。
黒人2人はしばらく出ません。
次回予告
私は朧である
〜見せようではないか。私の本気を〜

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