更新が難しくなりますね。
『やった!
やったでありんす!
天ちゃんの記憶が戻ったでありんす!!』
はるか上空で様子を見ていたアマテラスが愉快に叫んだ。
『これであとは.....』
『貰うぞ!その右腕!!』
「!?」
目の前に突風が吹いたかと思えば、次の瞬間には右腕を引き千切られていた。
『液体に物理的攻撃は不可。
だが、それ以外はどうだろう?』
「!?」
『例えば炎』
すると、天竜の持っていた左馬助の右腕がボウッと燃え上がり始めた。
『こうやって蒸発させれば、液体の身体でも殺せるではないか?』
「くっ.....」
右腕は完全に蒸発し、煙になってしまった。
「甘いですね」
すると、煙が生きているように動き回り、左馬助の右腕の切り口に集まり、腕の形をとる。そしてまた元の腕に戻ってしまった。
『魔人ブウか貴様は』
「あはっ♡ 何それ?」
蒸発も効かないらしい。
『それじゃあ色々試してみようか。
こちとら3年振りで、
身体が鈍っているのだ』
「?」
天竜は足元に落ちていた「童子切り」を拾い上げる。
『細切れに刻んでその血を葡萄酒にして飲んでやろう』
「貴方も吸血鬼じゃないですか」
『そうだが?』
「?」
天竜の様子は異常だった。
普段から異常ではあるが、これは殆ど別人.....
『あぁ、私ともあろう者が興奮している!
貴様は.....本当に素晴らしい女子だよ。
今までは貴様には何の感情も湧かなかったのにどうだ?
殺人鬼として覚醒した貴様を見ている興奮が止まらぬ!
性欲が高まる!
貴様を押し倒して無理矢理犯してみたい!
そうすれば最高のエクスタシーを感じられるかもしれぬ!
貴様は超絶に勃起モノだ!」
今度は天竜がよがる。
普段のクールな面影がどこにもない。
「ちっ!」
『それじゃあ次は蜂の巣♡』
両手にアサルトライフル2丁が召喚される。
『うわははははははははははは!!!』
「くっ.....!」
鬼義景の猛攻を紙一重で避け続ける凪。
『小娘が!!
私に刃向かうなど100早い!!』
「すみませんね。
人外を相手にするのは初めてなので」
凪は元忍の特性である身軽さを活かして華麗に義景の棍棒を避けていた。
『ちっ!
蠅のようにちょこまかと!』
「ふっ.....ふっ.....ふっ!」
ただただ、彼女は避け続ける。
そのチャンスが巡ってくるその一瞬まで。
『せいぜい逃げ惑え!体力が尽きた時こそ、貴様の最期!!』
「ふっ.....ふっ!」
ただ避けているわけではない。
鬼義景の動き一つ一つを観察して、そのリズムと癖を見分ける。
「そこか!」
『!?』
棍棒を握っていた右腕が飛んだ。
『何っ!?』
鋼の肉体を持つはずの鬼の肉体に刃を立てるなど容易にできるはずもない。また、そんな刀も存在するはずもない。
だがこの女は.....
「私を小娘と罵ったな餓鬼。その御大層にくっ付けてる角へし折るぞ糞虫」
『ぐぐぐ.....!』
義景は焦っていた。人間を辞め、鬼となり、土御門の使い魔となったものの、天竜に冥界に強制送還され、数ヶ月死ぬ思いをしたものの、左馬助に再召喚された。
波乱の半生を送ってきて、そんのちょっとでは驚く事などあるはずのなかった。
だが、その義景が恐怖していた。
攻撃も通じず、絶対の防御すら通じない。
こいつが本物の化物。
「いやあぁ!!」
脇腹を切り裂かれた。
「うらぁ!!」
角を折られた。
「でぇあ!!」
目を抉られた。
四肢を斬られ、芋虫のようになった義景。
彼は鬼にも関わらず、ただの人間に負けた。
『何者だ貴様』
義景が最期の問いをする。
すると凪は和かな表情で答えた。
「私の名は石川五右衛門。
ただの泥棒です」
全ては天竜のため。
情報を盗み、
信頼を盗み、
命を盗み、
全てを奪う泥棒。
その相手が人間だろうと鬼だろうと。
それは大泥棒石川五右衛門。
『ふっ.....見事だ』
「残鉄剣」
義景はここで初めて命を落とした。
その時の彼の顔は思いの外、
朗らかだったという。
「さて、私の主人様のは終わったかしら?」
鬼の首を手に持ち、血塗れの少女は言う。
「くそぉぉぉ!!!」
『くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!』
左馬助は不死身。だから、天竜は考えられる全ての殺し方をを彼女に試す。
刺殺。
斬殺。
銃殺。
絞殺。
焼殺。
圧殺。
毒殺。
電殺。
爆殺。
全部無駄だったが、
少なくとも左馬助に対し圧力は与えていた。
「しつこいなぁ!」
『あー。
いい加減お前の殺し方分かんなくなった』
すると天竜が妙な鎖を召喚する。
『手っ取り早く終わらせますか』
「!?」
紫色に光る鎖。
『喰らえ地獄の鎖』
まるで鎖鎌の如く天竜はそれを放った。それは真っ直ぐと、左馬助の左脚に巻き付く。
「!?」
すると、鎖が意志を持っているかの如く左馬助を引き摺り出した。
「あぐっ!?」
『続いて餓鬼の鎖』
橙色に光る鎖が左馬助の右脚に巻き付く。
「このっ!!」
彼女は無理矢理それを引き剥がそうとする。
「!?」
だが駄目だった。
鎖が剥がれない。千切る事も出来ない。
鬼の力を持ってしても鎖をどうにもできない。
ただの鎖じゃない。
『畜生の鎖』
緑色の鎖が右腕に巻き付く。
『修羅の鎖』
紅色の鎖が左腕に巻き付く。
『天界の鎖』
黄金の鎖が首に巻き付く。
真の強者は、
無意味に決めゼリフを言ったり、
大声で気合いの声を上げたりしない。
ただただ、その相手を倒す。
圧倒的な実力差によって。
よく分らない空間から生えた鎖5本が左馬助を拘束する。左馬助を空中に磔にしたのだ。
「くそ!!!
何なんだこの鎖は!!!」
ギチギチと全身に力を入れるが、鎖はびくともしない。
『ざまあないな。
あれほど豪語していた鬼子が、
今ではただの少女のよう』
天竜が邪悪な表情で言う。
漆黒の鎖をヒュンヒュンと振り回しながら。
「くそ!!くそ!!くそ!!
くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!
くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!
くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!
くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!
くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!
くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!
くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!
くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!
くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!
くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!
くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!
くそ!!くそ!!くそ!!くそ!!」
『何を悔しがる?
約束通りに私が貴様を殺してやるのだぞ?』
「違う!!
お前は天竜さんじゃない!!」
『いんや。
私も天竜だ。勘解由小路天竜だ。
ただし貴様が先程まで会話していた私とはややズレた私だがな』
言っている意味が分からない。
『もうよい。
後は向こうの話だ』
天竜が漆黒の鎖を放つ。
『人間の鎖』
「ぐがっ!?」
漆黒の鎖は左馬助の胸を貫いた。
「あれ?」
天竜の様子が急に変わった。
「俺.....何を?」
さっきまで左馬助と戦い、
押され、喰われ、諦めた。
そこから先の記憶がない。
だが、そんな事はどうでもいい。
今、目の前で起きている現状に比べれば.....
「ぎぃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「左馬助!!?」
左馬助が燃えていた。
それも普通の燃え方ではない。
虹色の炎で、何十分にも渡って燃やされ続けているのだ。
しかも、普通ならものの数分で意識を失うか死亡するかのに対し、左馬助は長時間意識を保ち続け、苦しみ、叫び続けている。
「これは.....一体誰が.....」
『それは貴様だよ朧』
ツクヨミが現れた。
「ツクヨミ!?」
『地獄、餓鬼、畜生、修羅、天界、人間。
6種類の鎖。6つで一つの鎖。
これは
六道輪廻の呪縛。
通称、輪廻の鎖』
「輪廻の.....鎖?」
『貴様はこの小娘を殺すつもりで、
真逆の事をしでかしてしまったようだな』
「え?」
『輪廻の鎖は対ゼウス用に作った、
魔界の兵器の一つ。
管理者は我だった。
対神用兵器。
神を殺せる道具。
だが人間に使えば、
また別の効果が出てくる。
それは
「死」の剥奪。
この世で最も辛い罰は、
「死」ではなく「生」。
生き物に与えられた平等の権利、
「死」を取り上げられるのだ』
「..........」
「ぎぃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
左馬助はまだ叫び続けている。
『死の苦しみを先に味わっているのだ。
この先味わう予定だった、
一生分の死を.....』
「そんな.....」
『この小娘は、
これから貴様が縛った、
地獄道、餓鬼道、
畜生道、修羅道、天界道を回る。
そして最後はこの人間道に戻ってくる。
その時、この小娘は真の不死者になる。
だが、
それはどれくらい先の話か分からん。
ひょっとしたら、
明日か、100年後か、1億年後か、
どちらにせよ、
小娘は永遠に孤独の道だ』
「そんな.....だって!」
『誰が貴様に輪廻の鎖に渡したかは
知らんが、
しくじったな。
恐らく、
武器かなんかと偽って渡したのだろう』
「ぎぃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
業火に燃やされる左馬助の叫びはまだ続く。
「違う!
俺はこんなつもりじゃ.....」
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
天.....竜さ.....
あああああああああああああ!!!!」
「ごめん!
ごめんなさい!!
ごめんなさい!!!」
耳を塞ぎ、ただただ泣きながら謝る天竜。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「ごめんなさい!!!
ごめんなさい!!!!
ごめんなさい!!!!!
ごめんなさい!!!!!!
ごめんなさい!!!!!!!
ごめんなさい!!!!!!!!
ごめんなさい!!!!!!!!!
ごめんなさい!!!!!!!!!!
ごめんなさい!!!!!!!!!!!
ごめんなさい!!!!!!!!!!!!」
バチンッ!!!
その時、鎖のうちの1本が千切れた。
千切る事は不可能の筈の鎖を.....
「天竜.....天竜.....天竜.....天竜.....」
左馬助は黒コゲの身体で、
必死に名前を呼びながら手を伸ばした。
「........................................ハル」
天竜もまた手を伸ばし返す。
再び彼女の愛称で呼びながら.....
「ありがと」
次の瞬間、左馬助の身体は消えた。
死んだのではない。
移動したのだ。
次なる世界へ.....
「ハル..............................ハル..........」
天竜の瞳から大粒の涙が流れ落ちる。
「こんな.....................つもりじゃ.....」
『全て貴様の選択だ。
意識があろうがなかろうが、
全て貴様が仕出かした事だよ』
「うぅ.....あああぁぁ!!」
呻き声をあげる。
いつから俺は人間を辞めた?
いつから非情になれた?
いつから他人の不幸を無視出来た?
いつから大切な者の死を悲しまずにいれた?
否。いずれも出来ていない。
俺は化物じゃない。
俺は化物になりきれない。
俺は......
人間だ。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
人目も憚らず、天竜は泣いた。
心配して凪が近寄ったが、
思わず躊躇ってしまう。
倒れている武蔵や織部もそれを見る。
泣いた白鬼。
小次郎の死でさえ、
天竜はここまで大声では泣かなかった。
それはずっと膨らみかけていた風船が、一気に破裂したような.....
普段彼が見せる事など絶対にない、
素の天竜。
誰一人として、
彼が泣き止むまで、
彼に声をかけられた者はいなかった。
数日後。
『アマテラス!!
アマテラス何処だ!!』
天竜の居城信貴山城にて
ツクヨミの怒号が響く。
そして、話し声がする部屋を見つける。
『ここか!』
だが、ツクヨミはその光景を見て驚愕する。
『貴様..........................何を!?』
確かに奴はそこにいた。
だが、姿形が全く違ったのだ。
成長している。
いや、戻っている。
力を溜めるために幼児化した身体が元に.....
それは、姫巫女や一益が10歳程成長したような姿。背丈も高く、胸も豊か。面妖も美しさに磨きがかかっていた。
そして、その下に天竜がいた。
まるでいじめられて、
傷心な所を母親にあやしてもらっているように、彼は眠っている。
目蓋の荒れ具合から、ずっとアマテラスに縋って泣いていたのだろう。
「儡阿...........儡阿......」
天竜が寝言を言う。
『アマテラス!!』
ツクヨミが耐えきれずに叫ぶ。
『し〜。
この仔が起きちゃうじゃない』
喋り方が違う。
アマテラスは天竜を布団に寝かせると、ツクヨミの元にやって来る。
『どうしたつーちゃん?』
『つーちゃんじゃない!
どうゆうつもりだ貴様!!』
『というと?』
『輪廻の鎖を渡したのは貴様だろう!
それと、
何故奴の記憶が戻った!!』
全てはアマテラスの策略。
『そもそもつーちゃんが天ちゃんの記憶を消したから、面倒臭い事になったんじゃない』
『あのまま放置していれば
奴が壊れていたからだ!
だから最悪の終わり方をする前に.....』
『ふ〜ん。
いつからつーちゃんは天ちゃんの
お母さんになったの?』
『くっ.....』
完全にアマテラスが押している。
『....................マグラを小娘に憑かせたのも貴様だな?』
『御名答♡』
『何故そんなことを.....』
するとアマテラスは思わぬ事を言い出す。
『蠱毒って知ってる?』
『なっ!?』
『天ちゃんは強過ぎるからね〜。
似た実力の者が少ないのよ。
だから、明智左馬助を強くさせて、
天ちゃんにぶつけた』
『............』
『お陰で天ちゃんはさらに強くなったね。
後は織田、武田、上杉あたりかな』
『その為に.....
その為に天竜を呪ったのか!?』
六道輪廻の呪縛は呪いの鎖。
人を呪わば穴二つ。
左馬助を呪った天竜にも、
呪いは降りかかる。
『天ちゃんは我らの後継者。
いつまでも寿命があっては困るの。
まぁ、そうなるのは天ちゃんが人間としての一生を終えてからだけどね』
『............もし、小娘が朧を倒していたらどうするつもりだった?』
『当然、明智左馬助を後継者にしてたね』
ツクヨミは身震いをする。
彼女も魔王ではあるが、
このアマテラスという悪魔は.....
魔神の域に達している。
少女は目を覚ます。
「ここは?」
あれから何年経っただろう?
100年目ぐらいから数えるのを諦めた。
その時、
「お目覚めですかお嬢様?」
突然、西洋風の服装の日本人の老人が現れた。
「貴方は?」
「爺にございます。
お嬢様は記憶喪失と聞きました。
ですが.....
本当に生きていてよかった!」
老人は布を目に当て、涙を拭く。
「まさか自家用機が落ちるとは.....」
あぁ、なんか思い出した。
私はある空飛ぶ鉄の鳥の中にいて、
そこで少し暴れたら、墜落してしまった。
私は不死身なので無事だったが、
そこには西洋風の服装の日本人が何人も死んでて.....
その中の1人に.....
「私に....................そっくり」
私はその後、
有無を言わずにその少女を喰った。
肉片一つ残らないぐらいに.....
そして今に至る。
「旦那様も奥様も心配なさっていました。
明日お見舞いに来るようでございます」
私は事故の生き残りとして扱われている。
気付けば、西洋風の寝巻きを着せられて.....
「ここは.....日の本ですか?」
「ん?.....ここは日本ですよ?」
う〜む。
あれから何百年も経って風俗が和式から洋式になったのか?
「私の名前.....」
「あぁ、思い出せないのですね。
お嬢様の名前は.....」
すると老人から、
聞き覚えのある、
とても驚くべき名前が出た。
「へぇ〜」
少女の顔が急に邪悪なものに変わった。
「お......お嬢様?」
「爺さん。
私.....結婚したいです」
「え!?」
「お見合いをします。
相手は決まってますよ。
あっ.....でもその前に、
この時代の情報を全て教えて下さいます?」
「ちょっ.....ちょっ.....ちょっ.....
この時代って.....
第一、誰と見合いするというのです?」
「勘解由小路。
勘解由小路天竜。
私は天竜さんと結婚します」
新しき居場所を得た少女は.....
再び、地に足を降ろす。
グダグダな展開ですいません。
取り敢えず、左馬助回はこれで終わりです。
次回から新展開に持ち込む予定!
次回予告
裏切りのファンタズム
〜ごめんなさい〜