愛国者としてこれ程嬉しい事はないです。
「これ邪魔」
左馬助は身につけていた兜や鎧を剥ぐように脱ぎ捨てる。
着物一枚に角を生やした女鬼。
これぞ般若。
「ふふっ.....面白い」
織部は持っていた竹筒の栓を抜く。
「錬金妖術は最高峰は精霊の召喚。
利休様は火・水・土・風の精霊を呼び出した。
でも私は.....」
すると、竹筒からはねずみ色のドロッとしたような液体が出てくる。初めは何か分からなかったが、それがやがて人のような形になっていっている。だが、それでもまだスライムのような形の定まっていないような状態である。
「四精霊は、
火の精霊サラマンダー。
水の精霊ウンディーネ。
風の精霊シルフ。
地の精霊ノーム。
利休様はこれらの精霊を同時に操ってみせた。でも、私にはどれだけ努力しても無理だった。
精霊術は努力でも才能でもない。
精霊との相性が一番大事なんですよ」
だが、織部の精霊は火水風土地のどれにも属していないようだった。
「だから私は、視野を広くしてみた。
四大元素以外に応用できるものはないか、私は独自に調べ上げましたよ.....
そして見つけた」
竹筒には陰陽術の星印があった。
「まさか東洋術にあったとは.....
灯台下暗しですね。
つまり五行思想。
西洋の四大元素と比較される、
同等の考えです。
火水土木金。
西洋との違いは木と金。
ですが西洋でも、
ドライアドという名の木の精霊が存在する事から大きな相違点はたった一つ!」
それがこの精霊。
「これぞ金!金の精霊!
金は金銀だけを示さず、
金属全般を表します!
錬金術の基本にも関わらず、
四大元素から弾かれた精霊!
私との相性が最も良好であった精霊!
天竜様の協力も得て、
やっと具現化に成功した精霊!」
「長い説明ですね」
左馬助は欠伸をしている。
「これぞアルカヘストの最強武器。
流体多結晶合金。
液体金属の身体を持った最強の精霊!
その名は
鋼の精霊『ナノマシン』!!
ナノマシンよ!
あの女鬼を縊り殺せ!!
斬り殺せ!!刺し殺せ!!
押し殺せ!!撃ち殺せ!!」
「わーお♡
そんな玩具で私を殺す気なんだ?
それ寝言?あんた寝てんの?」
「お昼寝してる間に終わっちゃうかもね」
「その五月蝿い口を裂いてあげるよ♡」
左馬助が巨大包丁を構える。
「いい加減、貴方と同じ空気を吸ってるのが苦痛になって来ました」
織部はナノマシンをランスのような巨槍に変えて持ち、構える。
「死んで地獄で震えてろ」
「死んで生き返ってもう一回死ね」
お互いに毒を吐いた後、一気に前に出た。
「仮とはいえ、鬼族の生き残りが僕以外にいたなんて少し嬉しくもあったな☆」
「宿儺一族以外に鬼族はいないのか?」
「宿儺一族だって僕1人だよ☆
多くの親戚は人間共に虐殺されたし、
僕の両親も、僕を助ける為に
人間共に捕まったしね☆
父上は斬首の後に晒し首。
母上は角を折られて、犯されて、
その後に火炙りにされた」
「.....ごめん」
「気にする事ないよ☆
君は人間じゃなくて龍族。
僕ら鬼族と違って、
皇族の後ろ盾を得られた君の一族は、
姫巫女の後ろで確実な実権を握ったんだからね☆」
「.....本当にごめん」
影の圧力を感じる。
だが、この圧力こそが傷心していた天竜に新たな目標を与えた。
「鬼も悪魔も英語でDemon。
同じ種族だ。
ただ俺達は時代や風習で別れてしまったんだ。龍族も鬼族も同族だ!
俺は作るぞ!
天下統一の暁には、
鬼も俺らも人間も平等の世界を!」
敵であるはずの主水に救いの言葉を与える。
「あの.....その.....
君から言われるなんて.....
その.....その......
...................................ありがと☆」
顔を真っ赤にして、俯きながら言う。
「人間共は僕らの食糧だから、
完全な平等は無理だけど、
これからは一日一食(一人)から
三日に一食(一人)にするよ☆」
「お前らも大概だな.....」
自業自得と言われても仕方がないかもしれない。
「でも君とは真の意味で平等な友達になりたいな☆」
「......それでも、いつか一騎討ちで殺し合うのか?」
「ん〜.....
その気持ちもだいぶ薄れてるんだよね☆初めは皇族の背中に隠れる君ら龍族が憎くて仕方がなかったけど、思ってたより君はいい人.....いや、いい悪魔だったしね☆」
「むぅ.....」
「ひょっとしたらこれって恋かも.....
僕もお嫁さんに立候補してもいいかな?☆」
「よせ気持ち悪い。
同性愛に興味はない!」
なんだこいつ?
ホモなのか!?
「さっきから同性同性って.....
君は実は女の子なの!?☆」
「はぁ?」
「だって僕、女子だよ?☆」
「....................え?」
は?は?.....松山主水が女!?
だって、『僕』って.....
「口癖だもん。しょうがないじゃん☆」
嘘だろ!?
これが『ボクっ娘』という奴か!?
現実にいたんだな!?
「酷いなぁ。ずっと男だと思ってたの?☆」
「だって!
ずっと厚手の着物着てるし、
声も低めだし、
顔も中性的だから.....」
「胸はサラシ巻いてるしね☆」
すると主水は前を広げてそのサラシを見せる。確かに豊かな胸がそこにあった。
「うっ.....」
今まで男だとばかり思ってた者が実は実は女の子だった!?
どんなラブコメだ!
なんか急に主水が可愛く見えて.....
いやいや!こんなフラグがあってたまるか!
第一俺はもう子持ちだ!
「ねぇ〜。私も溜まってるんだ〜。
辛抱たまらんからやろ?☆」
こいつ.....急に女になったぞ!?
「.......................すまない」
「どうして?☆
やっぱり佐々木小次郎?」
「...................うん」
「君は本当に不可思議だね☆
外面ではすでに落ち着いてる様子を装って、内面は今もなお殺気に満ちている」
「気づいてたか」
「まぁね☆
殺気の矛先がこっちに向いてなくても、ビリビリ伝わってきてゾクゾクしちゃうよ☆」
ビクビクじゃなくてゾクゾクなのか?
「君に殺される明智左馬助がが気の毒だよ☆
同時に羨ましいよ☆」
こいつはMなのか?
「ちっ!!」
左馬助は全力疾走で駆けていた。
「くそっ!!」
ジグザグに逃げようが、
一直線に逃げようが、
ソイツは追いかけて来る。
「行けナノマシン!!」
人間の上半身のような形態と、両手の刃。初めはランスの形だったナノマシンは、逃げる左馬助をいつまでも追いかけてくるのだ。
「これは中々厄介ですね」
「あはははっ♡」
ナノマシンの尾にあたる部分を持つ織部は実に愉快な表情である。
猫のように軽やかに避け、
豹のように猛スピードで疾走する左馬助をどこまでも追い詰めるナノマシンだ。
「ふっ!」
左馬助が急に方向転換をする。
そして、ジグザグに走り抜けながらも確実に織部の方へ歩を進める。
「降りかかる火の粉は元から.....」
「無駄です」
すると、ナノマシンが織部の正面で盾の形を取り、左馬助の斬撃を防いでしまう。
「何っ!?」
「やっちゃえナノマシン!!」
ナノマシンが左馬助に対し再度攻撃の態勢を取る。
「ならこちらから!!」
左馬助はナノマシンに無数の手持ち包丁をまるで投げナイフの如く放つ。
だが、包丁は鋼の身体に全て弾かれてしまう。
「くくくくく.....
それは召喚術ではなく、幻術ですね。天竜様は本物を召喚しますが、貴方が出したそれは幻術が作り出した偽物。
本来ならマヤカシであるはずの包丁も、術をかけた相手がソレを本物と感じてしまったら、偽物も本物となる。本物と感じてしまった分だけその強度を増す.....」
「分かった所でどうなるんです。
いくら偽物とはいえ、
本物より劣るとは限らない!」
左馬助の巨大包丁がさらに倍の大きさになる。
「今こそ偽物は本物となる!」
純粋な血族である本物の鬼を、呪いで鬼化した偽物の鬼武者が超える。
本家土岐源氏明智家頭首の十兵衛を、分家土岐源氏明智家代表の左馬助が超える。
「消えろクズ鉄!」
振り下ろされた巨大包丁は、ナノマシンの強靱な身体を真っ二つに斬り裂いた。
思えば明智左馬助も古田織部も、
似たもの同士なのかもしれない。
だが、ヤンデレだからというわけではない。
思想や生き方がそっくりなのだ。
左馬助も織部もある人物に拾われて、
人生が変わった。
長良川の戦いで総大将の斎藤道三は織田へ敗走。従姉妹の十兵衛は朝倉、織田と、居場所を転々とし.....
左馬助は完全に落武者と化した。
元は使者として仕事をこなし、
『綺麗だから』という謎の理由で梅千代という名を付けられ、好きでもない信奈の小姓にされた。
いい交渉材料とされ、もしかしたら殺されるかもしれない朝倉の下へ使者に出される事もあった。
そんな2人はある男によって召し抱えられた。
左馬助はその剣技に目を付けられ弟子に。
織部は与力として送られたにも関わらず、その才能に目を付けられ正式に家臣に。
羽柴天竜への感謝の心と憧れ、そして恋心が彼女らを突き動かした。
左馬助は親衛隊として天竜の傍らでその剣技を振るい、
織部はそのズル賢さで天竜と共に、名将の引き抜きに務めた。
そんな天竜が彼女らに与えた任務が、
三木城の攻略と四国の攻略。
城落としと国落とし。
誰がどう見ても、どう考えても、
左馬助の四国攻略が重要だった。
当然、天竜自身も左馬助を信頼しているからこそ、彼女を四国に送ったのだ。
だが、彼女達には任務の大きさなどは関係無かった。
どちらがどれだけ愛しの彼の近くの.....
より近くにいられるかが重要だった。
織部は三木城攻略で天竜と同じ中国を舞台に戦えた。三木城を落とせば、すぐに彼に褒めて貰える。
さらに、すぐに高松城攻めに参加できる。
対して左馬助は、
海を越えた先の土地に送られ、
例え手柄を立てても直ぐには褒めて貰えず、一緒に戦えるのも中国攻めが完了してからなのだ。
同じ任務を与えられていた小次郎や武蔵、氏真の気がしれないと思っていたのだ。
その氏真は管領として京に戻った。
武蔵は左馬助のいう事は全く聞かず、長宗我部元親と交渉で攻略しようと計画してるにも関わらず、勝手に攻めに転じようとしたり、
小次郎は一見左馬助に協力的だったが、結局は武蔵派。彼女と競う為にいつも武蔵と同じ行動していた。
未開の地で味方は誰もいない。
愛しの天竜も同じ土地にはいない。
これが彼女を苦しめた。
彼女の夢を奪った。
希望を奪った。
彼女を壊した。
壊れた彼女はそのうさ晴らしに人斬りになった。彼女の居場所でもあった大和や紀伊の地で.....
彼女は斬った。目に入った気に食わない女共を。
彼女は斬った。姉のような存在の十兵衛を。
彼女は斬った。己にとって泥棒猫のような女達を。
彼女を斬った。味方であるはずの小次郎を。
そして左馬助は、
人間を辞めて鬼武者になった。
「なるほど。渾身を込めた強い斬撃ならそのクズ鉄を斬れるようですね」
ナノマシンは、巨大包丁の斬撃の前に、つむじに当たる部分から胸の部分まで真っ二つに斬り裂かれた。
「ふくくくく.....
貴方は何も理解していない。
ナノマシンの本体は肉眼では視認不可の超極小の蟲の集合体。
その群れを斬った所でナノマシンへの損害は皆無!!」
すると、半分に別れたナノマシンの上半身が、それぞれうねうねと変動し、二つの上半身を作ってしまった。
「ぎりしあの神話に似たような魔物がいるようですね。
百の首を持つ妃駑螺(ヒドラ)。
例えその首を斬っても、そこから2本の首が生えてきて、それらを斬ったら首が4つになって.....
ねずみ算式に首を増やす化物に」
「その神話なら私も天竜様に聞きましたよ?確かその魔物は中央の首を斬った事で退治出来たんですよね?でしたらこの場合の中央の首は貴方となる♡」
「でも女鬼はそこに辿り着く前に、他の首に食い尽くされる♡」
お互いに病んだ後、織部のナノマシンが先に動いた。
「撃てナノマシン!!」
ナノマシンが己の身体の破片を弾丸のように撃ち出してくる。
「がっ!!?」
流石に予想出来なく、弾丸は左馬助の肉体に無数に撃ち込まれる。
「あははっ♡」
それでも、致命傷に至らない。
「もうこれくらいで結構。
そのクズ鉄の攻撃は見切った」
「何っ!?」
「少なくとも、ソレには2つの弱点がある。それを見つけられた時点で貴方の負けは決まった」
「何だと.....?」
ワナワナと震える織部。自分の方が押しているにも関わらず、何だこの左馬助の自信は.....
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!
ナノマシンは超級の精霊!!
弱点などあるはずがない!!!
ナノマシン!!
あのクズ鬼をぶっ殺せ!!!」
ナノマシンが左馬助に向かって突き進む。彼女はそれを微笑しながら待ち構えた。
「さっきの神話ですが.....
妃駑螺を倒した戦士は、
斬り口を焼く事で、首の無限増殖を防いだそうです」
「!?」
「ですが、ソノ精霊は鋼。
燃やしても柔らかくなるだけ
だから.....
『凍らせればいい』
左馬助は、包丁の切っ先を地面に付けた。
『鬼光氷舞!』
左馬助の周囲の気温が一気に下がる。
絶対零度。
今まさに左馬助を斬り殺そうとしたナノマシンをも凍りつくさせる程の威力。
「ナノマシン!!?」
織部が異例の事態に慌てる。
「これは極小の蟲の集合体。
打撃や斬撃での攻撃は無意味でも、それら全てに当てるような攻撃は鋼の精霊にも有効。
焼く側でも、溶岩並の熱なら破壊も出来そうですね」
「ナノマシン!!」
必死に声を上げるが、ギギギという機械音だけで、動けそうにない。
「そのお喋りが命取りでしたね。
弱点をベラベラとくっちゃべってくれたお陰で弱点が容易に掴めました」
「............」
織部は無言になり、そっと懐からある物を取り出す。そして、それを左馬助やナノマシンの方向へ投げた。
それは.....
「焙烙玉!?」
それは忍が使うような小型のものだった。左馬助は、慌ててその場から離れる。焙烙玉はナノマシンを巻き込んでその場で爆発する。
その衝撃で、氷結していたナノマシンが粉々に砕け散る。
「.....!?...........なるほど」
焙烙玉爆発の熱風で、砕け散ったナノマシンの欠片が溶けた。溶けた液体金属は次々に集まり、また一つの塊となった。
「氷結は対策済みでしたか。
ですがいくら鋼の精霊といえど、
短期間に氷結と溶解を繰り返したりなんてすれば、確実に身体にガタがくるはず」
その通りだった。
復活したナノマシンは先程までと違い、いびつな形態を取っていた。それにまだ、凍っているかのようにガタついている。
「それに.....そろそろ.....」
「げふっ.....!?」
織部が吐血したのだ。
「がはっ!..........はぁ.....はぁ.....」
「目に見えぬ蟲の集合体.....
という事はその数は、
億か!兆か!京か!垓か!
それだけの数の精霊を一度に操るということになる!
千利休は4つで抑えたという.....
逆に言えば精霊は多く出し過ぎれば、術者側にしっぺ返しを喰らうという事となる。
それが弱点の2つ目。
それも理解出来ず、千利休の忠告も無視し、慢心に満ちた心で愚かにも私に挑んでくるなど.....」
「黙れよ『裏切りオニギリ』」
「!?」
口元の血を拭い、織部は言う。
「負担がかかる事ぐれぇ、
百も承知なんだよ!!
でもな、それでもやらなきゃならん!
私が愛した男性、天竜様の為に!」
「.............」
「いけない恋だって事も理解してる!
でもな.....でもな!!
そんな事もどうでもいいくらい惚れ込んでんだ!!あの方の為ならいくらでも命投げ打ってやれるぐらいの覚悟だってある!!
だから.....だからこそ!
私は貴様が許せない!!
たかが失恋如きで逃げた貴様が!
逆恨みで暴れる貴様が!
天竜様を不幸にする貴様が!」
「ほざけよクズ錬金術師」
「私が天竜様を守るんだ.....
私だけ彼の側にいるのだ.....
貴様のような化物に任せられるか!!
ナノマシン!!!」
ナノマシンが織部に纏うように被さる。そして、両腕で猛獣のような巨大な爪を形成する。
「バーカ!
死にかけのゴミ蟲が!
天竜様の飼犬の分際で!
犬が鬼に勝てるかよぅ!!!」
「黙れ黙れ黙れ!!!
その飼犬にもなれず、
天竜様の手を噛んだ貴様が!
私を語るな!!!!」
織部が左馬助に向かって飛び込む。
倒せなくてもいい.....
ここで死んだっていい.....
ただ.....
この命が彼の為に使われるのなら!
「ここで共にくたばれ明智左馬助!!!」
「惨めに1人で死ぬのはお前だけだ犬!!」
「本当に左馬助を殺せるの?☆」
話の終わり際に主水が問う。
「殺すさ。絶対に!」
「無理でしょ☆」
「何っ!?」
主水が思わぬ事を言い出す。
「僕が女だと言えば君がどのような反応をするか.....見てみたくてね☆
さっきの様子で確信がいったよ☆」
「おまっ.....まさか!」
「心配しないで☆
女なのは本当だから」
べっ.....別に!
心配なんてしてないんだからな!
「君は女性を殺す事を嫌っている☆
いや、女の命を奪う事を恐れている☆」
「そっ.....それは.....
俺が姫武将殺しだから.....」
「違うね。
君はそれを言い訳に、
本当の理由を隠している☆」
「.............」
「一体何があったんだい?☆
君の過去に.....」
「それは.....」
「.....ゅう...........天竜!」
突然何処からか声がする。
「やばい!十兵衛だ!
すまん主水!
今日はもう帰ってくれないか!?」
「ぷっ.....運に救われたね☆
別にいいけど。
.....でもね天竜くん。
それが解決しない限り、
君は一生左馬助を殺せないよ☆」
「...........」
そう言い残し、主水は煙のように消え去っていった。
「勝負あり♡」
左馬助は見下ろしていた。敗退し、惨めに地面に這いつくばる織部を.....
「くっ.....くそ!」
辺り一面にナノマシンの残骸が散らばっていた。倒された織部の身体から引き剥がされたのだ。
「おのれ.....おのれ.....」
「一つだけ言っておきましょう。
貴方には私を倒せない」
「!?」
「何故なら私を倒して、
殺してくれるのは天竜様だからだ」
その瞬間、織部は気づいた。
左馬助の暴走の理由が.....
「お前.....そのために!?」
「ここからは生者のみ知る事です」
左馬助は織部の真上で包丁を構える。
「...........斬れ」
「ふふっ.....言われた通りに」
そうして包丁は織部の首目掛けて振り下ろされた。
ザシュッという音が響いた。
「!?」
織部はそこから消えていた。
包丁はそのまま真下の地面を抉っていた。
「これは...........まさか!?」
「吸血鬼」
「!?」
「仕える者もいなく、
闇から闇に移り、血を啜り続ける。
お前は最早鬼武者でも鬼でもない。
吸血鬼ヴァンパイアだ」
左馬助の真後ろ。
その者は立っていた。
「なぁ、ヴァンパイア。
お前が今まで殺した者の分だけお前を殺す場合、お前を何回殺せばいいんだ?
何回殺せばお前は死ぬんだ?」
「天竜.....様」
「今更お前に様付けされても嬉しくないね」
天竜は立っていた。
両腕に織部を抱えながら。
「天竜様.....ごめんなさい。ごめんなさい」
織部は頑なに謝っていた。
「凪!武蔵はどうだ?」
「大丈夫。傷は深いようですが、
致命傷にありません!」
武蔵は凪に介抱されていた。
「様付けなしですか.....
ではこれからは『天竜さん』とでも呼びましょうか?」
「.....それ以上口を開くな。
殺意が湧き過ぎておかしくなりそうだ」
「...........」
「お前は暴れ過ぎた。
もう充分楽しんだろう?
悪い事した後は、大人が叱ってやらんといけない。苦しい思いをしてきた分だけお前に思い知らせなければならない。
仕返し程度では生温い。
倍返し!
10倍返しだ!!!」
刀を抜き、左馬助に向ける。
魔王と呼ばれた男と、
吸血鬼と呼ばれた少女。
その2人の対決が今、始まる!
ナノマシンのモデルはターミネーター2のT1000です。
あれを操れたら無敵かなって.....
でも左馬助には効きませんでした。
さぁ、吸血鬼と称された左馬助と
魔王と称された天竜の戦いが始まります!
次回予告
サタンJr.vsヴァンパイア