天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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最早、史実通りですらなくなっているこの話。
皆さんはついていけますか?


第二十九話 明智左馬助光春

犯人探しの為、天竜は一度は本城である信貴山城に戻る。

 

 

「ふぅ.....」

 

 

正直、気が乗らなかった。

これから自分が信じた家臣を含め、多くの仲間を疑わなければならない。

 

 

「まず、十兵衛と仲が悪かった奴は.....やっぱ勝家や犬千代か。

山中鹿之介とは三木城攻めでよく言い争ったというが.....

ふぅ.....」

 

 

やはり、考えが向かない。

仮に目星をつけても、

直接『犯人か?』なんて聞けるわけないし、無実だとその後気まずくなる。

小次郎やハルには強気な姿勢を見せたが、とうの本人は気が重かったのだ。

 

 

 

 

「どうしたもんかな.....」

 

「どうしたのですか天竜?」

 

「げっ!」

 

 

そこにいたのは.....

 

 

「ジャッ.....ジャンヌダルク!?」

 

「気軽にジャンヌとお呼び下さい」

 

「あっ.....あぁ」

 

 

彼女はサンジェルマン伯爵から一方的に預けられた金髪碧眼の美女、ジャンヌダルク。

天竜は預かったものの、彼女の扱いに困り、毛利攻めが終わるまでは保留にしておこうと、ずっと放置していたのだ。

元死者であるというのが、扱いに困る1番の理由なのかもしれない。

彼女は和服が気に入ったようで、 最近はよく着物を着ているようだ。

 

「話は聞きました。

お仲間の方が襲われたとか?」

 

 

彼女はフロイス並に流暢な日本語で言う。

 

 

「お仲間の不運はさぞお辛いでしょう。それが想い人となれば尚更です」

 

「だっ.....誰に聞いた!?」

 

「順慶に」

 

「藤勝め.....」

 

 

普段は強気なはずの天竜も完全に他人のペースに持っていかれている。十兵衛の件のダメージがまだ残っているようだ。

 

 

「なぁ、ジャンヌ。

お前ならどうする?

仲間に裏切り者がいる時.....」

 

「そうですね.....」

 

 

彼女は暫くの思考の後、答えを出す。

 

 

「天竜は何故その裏切り者を見つける事にこだわるのですか?」

 

「何っ!?」

 

「何故、裏切り者側の心中を考えようとしないのですか?」

 

「それは、裏切り者の正体が分かるまで考えようがねぇだろ」

 

「そうですね」

 

 

やはり何を考えているか分からない。

 

 

「ジャンヌならどうする?

お前は身内に裏切り者がいるとしたらどうする?」

 

 

 

 

 

「私は.....相手の思いをよく感じ取った上で......誅します」

 

 

 

 

 

「結局殺すのか?」

 

「はい。

その者が軍の規律を乱すのなら、

容赦はしません」

 

 

こいつは何が言いたい?

 

 

「だからこそ.....

その者の真意をしっかりと受け取ります。そして、その思想をこの胸にいつまでも留めます。いつまでも.....」

 

「..........」

 

「それよりも私は貴方が心配です。今回は辛うじて命は取り留めましたが、もし想い人を失った貴方が奇行に走らないか心配でなりません。

『ジル』のようにならなければいいのですが.....」

 

 

ジル.....『ジル・ド・レ元帥』の事か?

ジャンヌが処刑され、気が狂った彼は黒魔術に走り、多くの子供を惨殺したという.....

 

十兵衛を失えば、俺も.....もしかしたら同じ命運を辿るかもしれない。

 

 

「お似合いですねぇ。おふたりさん」

 

 

順慶が来た。

 

 

「お前の自由気ままさが羨ましいよ」

 

「お互い様ですねぇ」

 

「十兵衛の話は聞いてるだろう?」

 

「それでぇ、天竜様が犯人探しをしてる事も知ってますぅ」

 

「お前は平気なのか?」

 

「私は自身持って犯人でないと言えるので平気ですぅ」

 

「その様子じゃお前は白だな。

安心したよ」

 

「それはそれは.....」

 

 

今日ものんびり屋な順慶だ。

 

 

「ところで、折角部屋に3人きりですのでぇ。ジャンヌ殿もご一緒にどうですぅ?」

 

「どうゆうことですか順慶?」

 

「おい!ジャンヌを巻き込むな!」

 

「知らないんですかぁ?

天竜様は可愛らしい女子は皆食べてしまう性豪なんですよぉ?しかも気に入った女子を次々に側室や愛人にする程の無類の女好き。

これからジャンヌ殿も食べられるご予定だったんでしょう?」

 

「そんなわけあるか!!」

 

 

半分事実なのが痛い。

藤勝が最近、変態というか淫乱というか、おかしな道に進み始めている気がする.....

 

するとジャンヌが急に顔を紅潮させ、胸元を隠しながら天竜を避けるかのように距離をとる。

 

 

「心配すんな!

外人は苦手だから手出しはしねぇ!」

 

 

我ながら焦って失礼極まりない発言をしてしまった。ジャンヌに白い目を向けられる。

 

 

「いや!和服の洋人はそれはそれで萌える.....じゃない!

ええと.....ええと.....

そこまで言うなら結婚してやってもいいぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グーで殴られた。

腰が入っていた。

流石はオルレアンの乙女.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜様にしてはらしくないですねぇ」

 

「俺.....あいつ苦手だ」

 

 

こうもパニクるとは.....

確かにらしくない。

 

 

「あいつ呼ばわりしないで下さい。位の差はあっても、年上に対しての礼儀ぐらい知ったらどうなんです?」

 

「年上?俺、27歳だぞ?」

 

「ふぇ!?」

 

「見た目は17だけど、中身は27歳。

まぁ、色々あってな」

 

「私的には前の方が男らしくて良かったですし、夜も激しかったですねぇ。.....ぽっ」

 

「てめぇは黙ってろ」

 

 

そんな順慶を余所にジャンヌは何だか気まずそうにしている。

 

 

 

 

 

 

「あっ!

私が生まれたのが1412年なので、

それで考えれば私は約170歳くらいなので、やっぱり私が年上です!」

 

 

死んでた期間を無視したメチャクチャな計算だ。

 

 

「お前はそれでいいのかよ.....

これからジャンヌ婆さんて呼ぶぞ?」

 

「それは嫌です!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはそれとしてぇ.....

天竜様、顔が酷いですよぉ?」

 

「顔は酷くねぇよ」

 

 

正しくは酷い顔色だ。

天竜に対してここまで冗談に言えるのは順慶ぐらいだ。

 

天竜は順慶から手鏡を受け取ると、己の面相を見つめる。奇しくも、未だ気に入らない美少女のような顔をしていたが、それも台無しにするぐらい、目の下のクマが目立っていた。

 

 

「確かに酷いな.....」

 

「天竜様、最近寝てますぅ?」

 

「5日前に半刻(1時間)ほど.....」

 

「死ぬ気ですか!!?」

 

「いや、忙しくて寝る間も惜しくて.....」

 

「駄目ですよ天竜!

よく食べ、よく動いて、よく眠る事こそが戦士には最も必要なんです!ほんのちょっとでもいいので寝て下さい!」

 

「うっ.....うん.....」

 

 

ジャンヌからも強く言われ、天竜がその場で横になろうとすると、

 

 

「ジャンヌ殿に膝枕して貰ってはぁ?」

 

「「!?」」

 

 

天竜とジャンヌ両方が驚く。

 

 

「そんな!私の足って、結構筋肉がついていて.....その、枕なんかにはなりませんよぉ」

 

「まぁ、大丈夫だ。個人的に枕は硬めの方が好きだ」

 

 

 

 

 

また殴られた。

駄目だな。俺疲れてる。

 

結局、ジャンヌの意地で無理矢理寝かせられる羽目に.....

 

 

 

 

 

「こんな事してる暇ないんだけどなぁ.....」

 

「天竜様は働き過ぎですねぇ。

このままでは明智殿どころか、天竜様まで倒れちゃいますよぉ」

 

「まぁな。

..........十兵衛の件でかなり参ってたみたいだ。お前達と話せて少し気が楽になったよ。

ありがとな藤勝。ジャンヌ」

 

 

ジャンヌはそっと頬を紅潮させた。改めて美少年を膝枕にしている事実に気づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1分としないうちに天竜は眠りについた。

 

 

「眠りましたね」

 

「本当に硬い枕で眠れるんですねぇ」

 

「うるさいですよ順慶(怒)」

 

 

ジャンヌはふと思いに浸る。

フランス王国の為に命を捧げ、敵国イングランドを相手に戦を起こし、必死に百年戦争を終わらせようと尽力した。だが、国内で起きた内乱により、本来なら協力すべきである、同じフランスの者に捕縛され、国王からも裏切られた。

そして、敵国イングランドに引き渡され、奇しくも異端として裁かれた。

男装を禁じられ、

女装をすれば、夜な夜な犯され、

処女を奪われ、

嫌になって男装に戻したら、

処刑を宣告された。

私は異端とされた。

魔女と言われ、罵られた。

ミカエル様のお言葉さえ、

悪魔の囁きだと否定された。

私は魔女とされ、業火の中に消えた。

 

それから150年経って、

私は現世に舞い戻った。

生まれ変わって初めて会ったのが、

サンジェルマン伯爵。

彼はジルに錬金術や黒魔術を教えた張本人だとか。ジルを魔道に引き込んだ張本人だとか.....

伯爵様こそ真の異端だった。

恨む事は無かった。

むしろ、彼をどう恨んでいいかが分からなかった。

 

彼は度々日本を訪れた。

こんな極東の地に連れていかれ、

言葉も分からず、苦痛だったが、

今では流石に慣れ、普通に話せるようになった。

ある時、千利休という少女が伯爵様に弟子入りしてきた。滅多に喋らない不思議な子だった。

だけれど、その目の奥は万年先も見通していそうな怖い子だった。

 

さらにある時、伯爵様が重要な人物に会うと言って来た。

彼は言った。

『魔王サタンの子孫に会う』と、

私は驚愕した。

そんな恐しい者が、

今ここに現れるだと、

そのように畏怖していたが、

その者は、女子のような美しい顔たちの若い少年のようであった。

どこにも、サタンの様子はなかった。

 

そして今、そのサタンの子孫は私の膝の上で寝息を立てている。

 

 

「これでは魔女と言われても仕方ないですね」

 

 

ジャンヌはそっと天竜の頬に手を添えた。

 

 

 

 

 

『中々似合いではないか』

 

「!?」

 

 

 

 

 

すぐ近く.....真横から声がする。

すると、そこには西洋風の黒いドレスを身に纏った女性が.....

 

 

『魔王を支えるは魔女の仕事。

明智の小娘よか、貴様の方がよっぽど似合うと思うぞ?』

 

「その声.....まさか!?」

 

『久しいなジャンヌダルク』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミカエル様!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声に天竜が目を覚ます。

 

 

「のわっ!?.....ツクヨミ!?

いきなりどうしたんだよ!?」

 

『指輪と十字架の修復が終わったから届けに出たのだ。貴様が飲み込んで吐き出したこれは、元の形から遠くかけ離れていたのでな?』

 

「そりゃ親切にどうも」

 

「あの〜」

 

 

ジャンヌが恐る恐る尋ねる。

 

 

「天竜はこの方とどのようなご関係で?」

 

「あぁ、俺はこいつの子孫なんだよ」

 

「............................は?

天竜は魔王サタンの御子孫なのでは?」

 

「知ってたか。そうだよ。

だからこいつがサタンなんだよ」

 

「何を言っておいでですか!?

この方は大天使ミカエル様です!!」

 

「はぁ!?お前こそ何言ってるんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どちらも間違ってない。

ミカエルもサタンも私の名だ』

 

 

 

 

 

 

 

「「は?」」

 

 

これには流石に、天竜もジャンヌも言葉が出なかった。

 

 

『正確には、

ミカエルとルシフェルが

統合されてサタンだ。

まぁ、転じてルシファーと呼ぶものもいるがね』

 

「どっ.....どうゆう事ですか?」

 

 

ジャンヌは狼狽えた。

無理もない。自分が聞いた声は、ミカエルの声。神の意思だと信じてきたのに、これでは.....

 

 

『ミカエルもルシフェルも同一人物。

我が気まぐれで行った善の行為がミカエルの名になったに過ぎない』

 

「では、あの時の.....神の声は.....」

 

『ふっ.....悪魔の声の間違いだ』

 

「..........」

 

 

なんという事だ.....

私は本物の魔女だった.....

 

 

『それよりも朧命よ。

貴様はこんな所で、悠長にしていてよいのか?』

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

『また斬られたようだぞ?

お前に近しい者が.....』

 

「..........なんだって!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紀伊。

 

 

「なんや自分!?

うちを殺す気か!?」

 

 

孫市は、布で顔を隠した何者かに襲われる。左腕を斬られ、そこからポタポタと血が流れ落ちる。

 

 

「全ては天竜様の為、私の為、

死ね、雑賀孫市!!」

 

「なんでやねん!!

うちを殺したきゃ、うちに分かる理由をぶら下げて来るんやな!!」

 

 

孫市は背中からウィンチェスターを取り出し、奴に向け発砲する。

弾丸は犯人の真横を抜けてゆく。

威嚇射撃ではあったが、始めから分かってたかのように、反応の1つも示さなかった。

 

 

「刀と雨陰千重洲陀。

どちらが有利か分かるわなぁ?」

 

 

ウィンチェスターは片腕で撃てるというのが最大の利点だ。

 

 

「勝てない事はないですが、骨を折ってまで挑むつもりもないです。さようなら孫市さん」

 

「!?」

 

 

そのまま、奴は黒い霧の中に消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事が.....」

 

 

翌日、早馬にて紀伊まで急いだ天竜は、孫市の下へ辿り着いた。

 

 

「でも、昨日の今日でもう見舞いに来てくれるなんて、うちの旦那さんは心配さんやな」

 

 

笑顔でデレる孫市を見て、居た堪れなくなった天竜は、そのまま孫市を抱き寄せる。

 

 

「ごめん.....

俺がいるのに.....

こんな怪我を.....」

 

「ふふっ.....うちはこれだけで元気100倍や。痛みも忘れるくらいドキドキしてまう」

 

 

孫市もまた、もう片方の腕を天竜の背中に回す。

 

 

 

 

その時である。

 

 

「天竜様!!」

 

 

現れたのは凪。

 

 

「どうした!?」

 

「それが、伊勢にて.....」

 

「まさか.....」

 

「九鬼嘉隆殿が.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからさらに伊勢にも訪れる。

孫市も天竜の反対を押し切って着いて来た。

 

 

「嘉隆.....」

 

 

嘉隆は昨晩、暗闇から突然現れた不審者に、いきなり背中から斬られ、危うく殺されかけた。

だが、近くにいた家来達が異変を聞きつけ、すぐに助けに出たため、止めを刺そうとする不審者をすんでの所で追い払えたのだという。

 

 

「天竜様ぁ.....どうして私が.....」

 

 

その理由はハッキリしている。

目的は十兵衛じゃない。

 

 

「目的は俺か.....」

 

 

側室の孫市と嘉隆。

正室候補(?)の十兵衛。

彼女らに共通するといったら一つしかない。

 

 

「確かに大当たりだ。

俺を精神的に殺すならこれが効果的面だ」

 

 

天竜は嘉隆の手を握ってやる。

全部俺の責任だ。俺が責任を取る。

 

もう一度事件を整理する。

・被害者は十兵衛、孫市、嘉隆。

・犯人は十兵衛のよく知る人物。

・犯人は剣術の達人。

・ここ数日を自由に動けた者。

・3人の刀傷。

・「天竜様」という言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「謎は全て解けた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丹波。

 

 

とある寺の一画が貸し切られ、

十兵衛の療養場所にされていた。

その一室にて、1人スヤスヤと眠る十兵衛。

そこに.....

 

 

「何も知らずよく寝てますね」

 

 

人斬り左馬助。

 

 

「雑賀孫市と九鬼嘉隆はしくじったが、まずはこちらから。奴らいずれ殺すとしよう。

.....まだ清水宗治も残っている。

それから、筒井順慶も

果心居士も、凪という忍も、

みんな殺してやる」

 

 

皆、天竜と男女の仲となった人物。

 

 

「さぁ、大忙しです!

あまり時間はかけられないので、

一刺しで楽にしてあげますね。

うふふふふふ.....」

 

 

左馬助が刀を抜こうと柄に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ。ハル」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 

慌てて振り返る。そこには天竜が.....

 

 

「何をしている?」

 

「..........姉上が心配になってお見舞いに来てたんです」

 

 

左馬助は柄から手を離し、芝居に出る。

 

 

「ほう。帯刀してお見舞いたぁ珍しいな」

 

「っ.....!」

 

 

だが、それを確信している天竜には通用しない。

 

 

「単刀直入に言う。

今回の事件.....十兵衛、孫市、嘉隆を襲った犯人は.....

お前だよ。明智左馬助光春」

 

「くっ.....!!」

 

 

 

 

「まず、第一の点。

被害者が明智光秀、雑賀孫市、九鬼嘉隆であったという所。

十兵衛だけじゃ分からなかったが、他の2人も襲われた事でその関連性に気づけた。

目的は俺だ。

俺に所縁のあるやつらを襲っていた」

 

「..........」

 

「そして、第二の点。

孫市が聞いた『天竜様』という台詞。

古今東西において、俺を様付けで呼ぶ奴といったらだいぶ限られる。

明智左馬助。

佐々木小次郎。

石田三成。

大谷吉継。

筒井順慶。

古田織部。

九鬼嘉隆。

凪。

ここから被害者の嘉隆を抜き、

孫市が襲われた時に俺と一緒にいた藤勝.....順慶も抜ける。

十兵衛との面識が殆どなく、

見知っていた仲でもなかった、

織部と凪も抜ける。

十兵衛が襲われたのは、高松水攻めの真最中。共に戦っていた三成も吉継も白だ。

残るは2人。

四国遠征の最中、十兵衛への用を足しに、戻ってきてたお前か小次郎.....

 

そして、第三の点。

3人に残った傷跡。

あれはどう見ても、

『鹿島新当流』による刀傷。3人共に、共通の傷口だったから分かった。

容疑者の中に鹿島新当流の使い手はたった1人。

お前だよ」

 

「..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふ.....ふふ.....

 

ふくくくくくくく.....

 

あはっ.....あはははははははははは

 

ははははははははははははははは

 

ははははははははははははははは

 

ははははははははははははははは

 

ははははははははははははははは

 

ははははははははははははは!!!!

 

 

天竜の高笑いにも負けない程の大笑い。

 

 

「大正解!!

その通りで〜す!」

 

「言い逃れしなかっただけ褒めてやる。大和や紀伊に現れたという人斬りはお前か?」

 

「それも当たりで〜す!

全部私が殺しました♡」

 

 

完全に吹っ切れている左馬助。

 

 

「どうゆう真似だ?

俺に何の恨みがある?」

 

「恨み?そんなものあるわけ無いじゃないですか」

 

「?」

 

「天竜様は素晴らしいお方です!

面相も素晴らしければ、

内心も素晴らしい!!

そしてその思想もです!!

だからこそ多くの者が憧れます!

でも.....その中には天竜様を誑かし、己のものにしようとする豚共がうじゃうじゃと混じっている!!

それでは、天竜様の害にしかならない!!だからこそ私が駆除するのです!!

 

 

意地汚い雌豚共は皆私が殺します♡

 

この世の雌豚は皆私が殺します♡

 

 

天竜様の側にいるのは私だけでいい。

全てを理解してあげられる私だけで。

 

 

 

さぁ、天竜様。

一緒に姉上を殺しましょう♡

臭い息を出し入れしてる口から漏れる、死に際の呻き声を一緒に聴きましょう♡

腹を引き裂き、腸(わた)を引き摺り出して、共に喰らい殺しましょう♡

あはははははははははははは!!!」

 

 

思わず天竜は後退りする。

 

こいつは狂ってる!

 

 

 

 

 

「さぁ!

さぁさぁ、!!

女なんて皆殺しましょうよ!!」

 

 

 

 

「やめろ!!」

 

 

 

「!?」

 

「それ以上口を開くな.....

お前にこれ以上失望したくない.....」

 

「え?」

 

「何がお前を狂わせた?

俺か?

俺が悪かったのか?

お前を避けた俺がこの惨事を引き起こしたのか!?」

 

 

天竜は彼女の両肩を掴んで叫ぶ。

まだ、自分のせいにしてほしかった。

そうでなければこいつは救いようが無くなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を言っているのですかぁ?

私は何も間違ってませんよぉ?

悪いのは全部あいつら。

死んで当たり前のあいつら。

殺されて当たり前のあいつらなんですよぉ〜!

あはははははははははははは!!!」

 

 

瞳から光も消え、理性が逝っている。

完全に病んでいる。

何処で選択肢を間違えたというのだ?

 

 

「そうか.....」

 

「はい♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竜は彼女の頬をおもいっきり叩いた。

 

 

「うぐっ!!?」

 

 

それは想像以上の強さであり、

左馬助はその場から吹っ飛ばされる。

一瞬、顔面が歪めた程のそのビンタにより、左馬助の鼻部からは多くの血がボタボタと落ちる。

 

 

「!?..........!?.............!?」

 

 

彼女は未だ状況を理解出来ていない。

 

 

「今の俺にとって.....

最大の害は貴様だ。

お前の存在が他人を不幸にする.....

害虫だ」

 

 

変わってしまった.....俺が変えてしまった彼女への対処はたった1つ。

 

 

「貴様を破門する。貴様はもう、

俺の弟子でも家臣でもない!

何処へでも消え失せろ!」

 

「天竜.....様?」

 

「二度言わせるな。

俺の眼中から消えろと言ってるんだハ..........明智左馬助」

 

「天..........さ.....」

 

 

瞳から大粒の涙がボロボロと零れ落ちる。それを見るのが辛くて、天竜は目を逸らした。

 

これが俺にとっての最大の良策。

本来ならば処刑が相応しいであろう左馬助の罪を許すのは難しい。

かといって、長良川からの仲である愛しき弟子を殺せるわけもなく.....

破門という選択肢を取った。

 

 

「うぅ.....!!」

 

 

嗚咽を漏らしながら、左馬助は出て行く。

 

出来れば止めたかった。

止めて、抱きしめてやりたかった。この子が生徒で、俺が教師ならそうしただろう。

だが、それは無理。

何故なら彼女は兵士で、俺は長。

追放という処断すら生温いと言われるであろう。

 

 

「これが俺ができる最大限の善処だ。

許せ」

 

 

歯を食い縛り、天竜は呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左馬助は覚束ない足取りで走っていた。

 

天竜様に怒られた!

天竜様に叱られた!

天竜様に見放された!

天竜様に蔑まれた!

天竜様に嫌われた!

嫌われた!嫌われた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

 

「天竜様に嫌われるなんて嫌だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハル!」

 

「..........小次郎?」

 

 

共に四国から出て来ていた小次郎が左馬助を見つけ、呼び止める。

彼女はまだ、事の真相を知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜様に嫌われた?

一体何したんだよ?」

 

「その.....」

 

「兎に角、直ぐに謝る事だな。

天竜様は私達には優しいお方だから.....」

 

「!?」

 

 

私達には優しい?

私だけが忌み嫌われ、

お前達だけが優しくしてもらえる。

それをわざわざ自慢しているのか?

 

 

「例え、それで上手くいかなくても、私達が仲裁してやるから.....」

 

 

それは同情しているのか?

 

お前ごときが同情を?

 

一度も私に勝てなかったお前が?

 

泣き虫のふりで天竜様の寵愛を勝ち取り、優越に浸っていたお前が?

 

 

「私達だけはハルの味方だからな?」

 

「..........」

 

 

 

 

五月蝿い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五月蝿い!

 

五月蝿い!!

 

五月蝿い!!!

 

五月蝿い!!!!

 

五月蝿い!!!!!

 

五月蝿い!!!!!!

 

五月蝿い!!!!!!!

 

五月蝿い!!!!!!!!

 

五月蝿い!!!!!!!!!

 

五月蝿い!!!!!!!!!!

 

五月蝿い!!!!!!!!!!!」

 

「!!?」

 

 

左馬助の被害妄想が爆散する。

 

 

「お前も天竜様を誑かす雌豚だ!!」

 

「ハル!?」

 

 

左馬助は刀を抜き、小次郎に向ける。

その瞳は血で染められたかのような紅蓮。

 

 

 

 

 

 

 

そして、刀は振り下ろされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミンナシンジャエ

 

 




ジャンヌダルクの見た目モデルはFateのセイバーです。
(実際に出てましたし)
ハルちゃんが完全にヤンデレモードに!
死傷者も出した彼女の行く末は如何に!?
次回予告
佐々木小次郎
〜生きてほしい。
お前の為に、俺の為に〜

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