天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

34 / 124
原作崩壊で、別作品化している今日この頃。


第二十七話 高松城水攻め

「うひ~。身体ガチガチで動けん」

 

ツクヨミ化を解いた天竜は起き上がる事すらままならず、ずっと船上で仰向けに倒れている。

 

 

「てんてんはもう人間じゃないの~。

くすくすくす」

 

 

一益が側で彼を眺めている。

 

 

「あぁ、一益。

そういや明の時も今回も御礼は後回しにしてたわなぁ.....三成、持ってきて」

 

「はい、天竜様」

 

 

そう言って三成は船内に入っていった。

 

 

「こちらの損害は?」

 

「全くないぞよ。てんてんのお陰じゃな!」

 

「こちらが用意したのは攻撃手段のみ。鉄甲船の防御力が無ければなしえなかっただろう。感謝するよ一益」

 

「...........」

 

 

一益は仄か頬を赤らめる。天竜は基本は恐ろしく、意地悪しいが、時々このように優しくなるのが、これが乙女のツボにハマるのだとか。

 

 

「お持ち致しました」

 

 

三成が戻って来た。

ある包みを持って......

 

 

「この戦で勝利した暁には、君にあげようと思ってた」

 

「なんじゃ!茶器か!?」

 

「うん。そんなとこ」

 

「前の『金正日』はその.....紛失してしまてのぅ。またあれ並の価値の茶器を欲するのじゃ!」

 

「あぁ.....あれの事?

あの話はデマカセだよ」

 

「!!?」

 

「金正日は未来の朝鮮半島(北側)を支配した独裁者の名前。テポドンは国王の名前じゃなくて、兵器の名前。それでもって、あの茶器は二束三文の安物」

 

「なっ.....ななっ!?」

 

「反応が面白くてイタズラしてみたが、まさかあそこまで信じ込むとは滑稽だ」

 

「よっ.....よくも.....よくも!!」

 

 

プルプルと震えながら、怒りを引き出そうとする一益。

 

 

「姫を騙したなてんてん!!」

 

「だから。

その謝礼を込めて、

今回は『本物』を用意した」

 

 

三成は一益に包みを渡す。

 

 

「本物!?」

 

「開けてみよ。期待に添えるものである事を望むよ」

 

 

一益は恐る恐る包みを開けた。

そこにあったのは一つの茶入れ。

 

 

「!!!?」

 

 

名茶器に詳しい一益はすぐに分かった。その形、素晴らしさ、歴史感、神々しさから気付けた。

 

 

「楢.....柴?」

 

 

『楢柴肩衝』

天下三肩衝の最後の一つ。

信奈の持つ『初花』『新田』に並ぶ名茶器中の名茶器。

元は室町8代将軍足利義政の所有物であったが、死後は持ち主を転々とし、最終的には博多商人の島井宗室で落ち着いた。

史実では、織田信長が彼を脅して半分強奪のような形で手に入れようとしていたが、本能寺の変が起きたため、それは成し得なかったという。

 

 

「楢柴肩衝!!?」

 

 

一益は己の小さな掌の上に

約3000貫(数億円)もする高価なものが乗っているという事実を受け入れられずにいた。

 

 

「弥助.....村重に感謝しろよ?

早い段階で島井宗室から手に入れてくれたんだからな」

 

「村重!?アラッキーと親しいのか!?」

 

「だって逃亡した弥助を匿ってんの俺だもん」

 

 

灯台下暗しである。

 

 

「これを.....姫に.....楢柴を姫にくれるのか!?」

 

「前に騙しちまったしな。

それ以降も色々とただ働きさせて、船も一つ潰しちまって.....

しかも全部ツケにしてたからな。

よく考えたら、俺お前に酷いことしてたんだよ。それら全部の謝礼として、それやる事にしたんだ。

足りなかったら、なんか付け足すぞ?」

 

 

だが、そんな心配は無用なようで、一益は楢柴に完全に魅せられていた。感動のあまり、涙まで出ている。

 

 

「今までの事なんて気にしてないのじゃ。姫はそんな事よりてんてんの姿勢に猛烈に感動しておる!」

 

「かなり高価な物らしいから、他の使い方も考えてたんだけどな。

嘉隆も側室に貰うし、この際いいかなって.....」

 

「よいよい。くっきーの1人や2人くらいいくらでも...................へ?」

 

「あ.....言うの忘れてた」

 

「どうゆうことじゃ!?」

 

「あぁ、まぁ。嘉隆を説得する上でそんな話になって.....そうなりました」

 

「むむむ.....

嘉隆の姫として複雑じゃが、よい!くっきーの1つや2つくれやるぞ!

ほっほっほ!」

 

 

人から物になった。

 

 

「姫さま~。私の扱い雑過ぎません?」

 

 

その後、嘉隆は船員に女子達に胴上げされ、その場は賑やかになったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時進み、播磨三木城内。

 

開城された城内に、城落としの功労者古田佐介。本来城攻めの任を受けていた羽柴良晴。近くに来ていたのでついでに寄った総大将織田信奈が入城する事となった。

 

佐介が入城して始めに行ったのは解毒作用であった。本来なら、水銀中毒は簡単に治せるものではなかったが、これは錬金術を介してのものだった為、術の解除によって皆が皆助かったのだ。

不思議な事に、水銀中毒での死者は1人も出なかった。命を取らずに戦闘不能にさせ、その介護に労力を使わせる。まるで地雷のようなやり口だ。

 

 

「別所家は所領を放棄。

直ちに三木城を去る事」

 

 

佐介が言う。まぁ、それは当然の事であったので、良晴も信奈も納得した。

だが.....

 

 

「なお、この騒動の発端である別所夫人は死罪。夫人側に加担した者は流罪に処する。

それを条件として、他の兵の命は見逃しましょう」

 

「そんな!?」

 

 

その処遇を聞いて、別所夫人は愕然とする。

同時に、良晴、信奈が反論に出た。

 

 

「ふざけないで梅千代!そんな命令、貴方の独断では下させないわ!」

 

「古田佐介です(怒)!!

この署名がある限り天竜様、及びその命を受けた私の行動は承認されます!

そ・れ・と・も。

裏切り者の浅井長政を殺した時のように、信奈様がやりますかぁ?」

 

 

佐介が例の署名を取り出し、堂々と見せた。

 

ところが、信奈はパッとそれを奪い取り、即座に破り捨ててしまった。

 

 

「どう?これで文句ある?」

 

「おい.....それまずいんじゃ.....」

 

「いいのよ!私の許可なく取った署名なんて認めないわっ!!」

 

 

それでは例え姫巫女の署名であっても、却下されるというあまりに理不尽なものとなってしまう。

 

 

「..........」

 

 

佐介は信奈を黙って見つめる。

 

そうだ!これが織田信奈だ!

傍若無人に己の考えで動く!

私はこの人に惚れて着いてきた.....

 

 

 

 

「あ~あ。やっぱり破っちゃったか」

 

 

 

 

一堂が一斉に声がした方向に視線を向ける。

 

 

「久しぶり。信奈様に良晴」

 

「「天竜!?」」

 

「天竜様!!」

 

 

天竜は車椅子に乗った状態で現れた。それを押すのは三成。

 

 

「何してるのよ!

あんたは左近達と海路から攻めると命令したはずじゃ.....」

 

「もうやりましたよ」

 

「!?」

 

「村上水軍600隻は壊滅。

大将の村上武吉は討ち取った。

お陰で大坂湾の制海権は我らのものです」

 

「..........」

 

 

信奈は愕然とする。

手柄を取らせないために、陸戦が主の天竜軍を海戦に混ぜた。一益には悪いが戦はもっと長くなると予想していたのだ。

ところが、天竜は自軍の兵の一部しか海戦には用いず、残りは三木城と鳥取城包囲に回したのだ。

それと.....

 

 

「お陰で仕事無くなっちゃって。

暇なんですよ。鳥取城もわざわざ手伝わんでも時間次第で落ちるだろうし.....

ここあたりで高松城でも狙おうと考えてます」

 

「ダメよ!

その役は良晴に.....」

 

「署名ある限り、私の毛利攻めにおける自由は大いに保証される」

 

「署名は私が破棄したわ!」

 

「ざ~んね~ん♬

実は署名は2枚あるんです」

 

「何ですって!?」

 

「1枚だけでは心持たなかったのでね。ほらここに.....」

 

 

天竜が懐にある署名を取ろうとしたが、未だ腕がガタガタで、懐まで動かない。

 

 

「三成、代わりに取って」

 

「ふぇっ!?」

 

「腕が動かないんだ。お願い」

 

「うぅ.....」

 

 

三成は赤面しながら恐る恐る天竜の懐に手を入れた。

それを佐介が羨ましそうに見つめる。

 

 

「これこれ!

これさえあれば、何でもやれるんだよ」

 

「くっ.....!」

 

「それとさぁ、うちの家臣虐めないでくれない?

元はあんたの小姓かもしれないが、今はもう俺の大事な家臣だ。主君面しないでもらおうか」

 

 

天竜は既に被っていた猫の皮を剥いでいる。

 

 

「ふざけないで!

梅千代はあんたの家臣。

あんたは十兵衛の家臣。

十兵衛は私の家臣。

あんたも梅千代も私の家臣よ!」

 

「さらにざ~んね~ん♬

俺の今の主君は、正しくは足利義輝。

俺が副将軍なのはその為だ」

 

「なっ!?」

 

「つまり、十兵衛と俺は今や同等。むしろ俺の方が立場は上だ。

前までは出来なかった結婚が、今はできる」

 

 

天竜は邪悪な顔で語る。

 

 

 

 

 

 

「十兵衛は僕のものだ」

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、耐えきれずに天竜に飛び込んだ者がいた。

 

 

 

良晴である。

 

 

「ふざけやがって!!

お前なんかに.....お前なんかに.....

十兵衛ちゃんを!」

 

 

良晴は天竜の胸ぐらを掴む。

 

 

「怪我人相手に容赦無いな」

 

「うるせぇ!

十兵衛ちゃんはお前なんかに.....」

 

「その十兵衛を放置していたのはどこのどいつだ?」

 

「っ!?」

 

「お前は女心を分からな過ぎる。

恋心をあやふやにされた女子がどのような行動に出るかなど、お前には分かるまい」

 

「なんだと!?」

 

「問題が起こる前に俺が介入して、救ってやったのだ。むしろ感謝してほしいね」

 

「てめぇ!!」

 

「それと。

今の自分の状況も確認したらどうかな?」

 

「!?」

 

 

良晴は恐る恐る後ろを見る。すると、三成が今にも良晴を刀で突き殺さんとする体制を取っていたのだ。

 

その時、信奈と目が合う。

彼女はアイコンタクトを取っていた。『今はまだやめておけ』と.....

それを感じ取った良晴は天竜の首元から手を離した。

 

 

「そう、それでいい」

 

「くっ.....」

 

「ところでだ。

別所夫人の処分についてだが.....」

 

 

先程、佐介は処刑を指示し、

信奈と良晴は反対した。

果たして天竜は.....

 

 

「言わなくても分かるわよ。

どうせ.....」

 

「俺は直家から『姫武将殺し』を受け継いだ。だからこそその真意も守る気でいる」

 

「「「!?」」」

 

「女を殺す気はない」

 

 

その言葉を聞いて、別所夫人はそっと胸を撫で下ろす。良晴と信奈は意外という表情をする。

一方、佐介はワナワナとあり得ないという表情で絶望している。

 

 

「だ・か・ら」

 

 

天竜は佐介の前まで車椅子を動かさせ、彼女の前で語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから処遇はお前に任すよ佐介。俺は一概に命令は出さん。だからこそ、その権限をお前に丸投げしようとしよう」

 

 

その瞬間、佐介の表情がパァーッと明るくなった。真逆に、別所夫人の表情はドンッと暗くなった。

 

真の希望とは絶望が転じて生まれるもの。

真の絶望とは希望が転じて生まれるもの。

 

 

「あぁ.....」

 

 

佐介は希望の頂点にいた。

これぞ真の混沌!

織田信奈など比べ物にならない程の.....

だからこそ私は彼に惚れ込んだ。

これが天下人の風格。

不格好な車椅子でさえ、玉座に見える。

生まれながらの王。

生まれながらの革命者。

 

 

「さぁ、行こう。

目的地は姫路城かな。

佐介は収集付けたらおいで」

 

「はい!」

 

 

佐介は笑顔で答える。

そして、その笑顔のまま刀を抜き、別所夫人の前で刀を振り上げる。

 

 

「ひぃっ!!!?

お助け.....お助けおぉ.....」

 

「よしなさい!」

 

 

信奈の忠告を無視し、佐介は最後の瞬間、邪悪な顔で吐き捨てた。

 

 

「地獄で直家に口説かれてろアバズレ」

 

 

そうして刀は振り下ろされた。

良晴は思わず目を閉じた。

 

 

肉を掻っ切る嫌な音が聴こえたせいで、目ではなく耳を塞げば良かったなどと考えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、

吉継が攻めていた鳥取城は陥落。

同時期に、天竜による高松攻めが始まった。

 

 

 

 

 

「此度の三木城の水攻めが中途半端になってしまった理由.....

何か分かるか佐介?」

 

「はい。

やはり堤防の低さでしょう。

三木城を脅す為だけの簡易なものでしたので、そこまでの水も貯めれませんでした」

 

「やはり人員でしょうね。

古田殿は持ち兵を使って堤防を作ったようですが、人数的に足りなさ過ぎる。自軍の警護の為の兵も必要ですからね。それでは数が限られてしまう」

 

 

三成も考察する。

 

 

「大谷殿の方の兵を加えても心持ちしませんね」

 

「何故兵を使う事にこだわる?

百姓を使えばいいだろう?」

 

 

天竜がサラッと言う。

百姓なら総動員すれば天竜軍の倍以上になる。

 

 

「しかし.....毛利方の百姓がすんなり言うことを聞くでしょうか?」

 

 

三成が率直な疑問を出す。

 

 

「そんなの、金でもばら撒けばいい。百姓は仕えてるわけじゃないからな。金払いのいい方に味方するさ」

 

「天竜様のお金を敵方の百姓ごときに流すんですか.....ドブに捨てた方がましです」

 

 

佐介が毒づく。

 

 

「そう言うな。

どちらにせよ、戦勝すれば金がガッポリ入るんだ。がめつく取って置いても仕方が無いだろう。金は使える時にじゃんじゃん使う方がいいんだ」

 

「はぁ.....」

 

 

未だ納得できずにいる佐介。

そんな彼女に天竜は.....

 

 

「そういや佐介。三木城攻略の褒美をまだ与えてなかったな?」

 

「そっ.....そんな!

まだ戦も終わってないのに、

私だけ貰うなんて出来ません!」

 

「まぁな。

信奈がケチンボなせいで、金も土地も己で取らなきゃ、食ってけないからな」

 

 

自業自得であるが.....

 

 

「金も土地も今は与えられる余裕がない。だから、ある褒美を用意した」

 

「なっ.....なんでしょう?」

 

「お前.....『古田佐介』という名には今一締まりが無いとぼやいていたよな?」

 

「はい.....そうですが.....」

 

「俺が代わりに新しい名前をくれてやる」

 

「!?」

 

 

 

 

「お前の名は.....

 

 

『古田織部』だ」

 

 

 

 

「古田.....織部?」

 

「従五位下織部正。

古田織部正重然。

この官位なら俺が直接上と掛け合ってやる。

古佐(ふるさ)より古織(ふるおり)の方が締まりがあっていいだろう?

気に入らなければ別のにしてもいいが......................!?」

 

 

佐介は涙を流していた。

 

 

「気に入らないなんてとんでもない。嬉し過ぎて不覚にも感動してしまいました.....

では古田佐介.....いえ、この古田織部!

天竜様の為に今後より一層忠義を尽くす事を誓いましょう!」

 

 

短期間に2人の娘に泣かれるとは.....

なんだか調子が狂ってしまう。

 

 

こうして茶人武将にして錬金武将、

古田織部が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、合流した吉継隊と共に高松攻めが始まった。

天竜はここで、久しぶりに全軍を集結させた。

大和、紀伊の主軍。

播磨、丹波からの援軍。

明智の援軍。

しめて兵力2万。

さらに宇喜多軍1万を加え、

天竜軍は総兵力3万の軍集団となった。

 

 

「堤防は門前村から蛙ヶ鼻までにしよう。

東南約1里(4km)、

高さ4間(8m)、

底部13間(24m)、

上幅6間(12m)ってとこだな」

 

 

天竜は家臣らに堤防の設計図を見せる。

 

 

「利用する川は足守川だ。

丁度今は梅雨時。増水してるからかなりの量を堰き止められるぞ」

 

 

続いて、人員として導入する百姓の話。

 

 

「農民には、土の俵一俵ごとに銭100文と米1升だ」

 

「それは与えすぎでは!?」

 

 

織部が反論する。

 

 

「前も言っただろう。

それだけ大らかにいかねば、百姓の信用は取れまい。

 

 

 

............取り敢えず計画は以上だ。

何か質問は?」

 

 

三成が問う。

 

 

「計画通りなら高松城は短期間で水没するでしょう。しかし、その後はどうするのです?」

 

「高松城は今や毛利方の最重要拠点だ。ここを取られれば、毛利はもう攻め続けられる運命に転じてしまうからな。

だから、毛利本陣は頑なに高松城に物資を送り続けている。しかし、水攻めで城が没すれば、それも出来なくなる。

物資も受け取れず、兵糧も限りができ、これ以上の反撃は無理だと毛利方に思い込ませる。

その上で、毛利方に講話を持ち出す」

 

「講話!?」

 

「こちらに有利な講話をな。

高松城の陥落は毛利の負けを意味する。だが、そこで講話で手を打てば、毛利と織田の争いは消滅する。上手くいけば、同盟を組む事もできるかもしれない」

 

「そこまでのお考えで.....」

 

 

否、これは史実の受け入りだ。

史実が味方である限り、天竜は無敵。

むしろ大事なのはその先だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月8日に取り掛かった工事であったが、農民以外にも士卒も協力してくた事もありわずか12日、計画以上に上手くいき、あとは決壊させるだけに至った。

 

 

「お身体は大丈夫ですか?」

 

 

三成が心配そうに言う。

 

 

「なに。これぐらいは恰好つけさせてくれ」

 

 

堤防の上に車椅子ごと移動した天竜は、ゆっくりとそこから立ち上がる。

産まれたばかりの鹿のようにフラフラである。

 

 

「危ない!」

 

「手を出しては駄目です石田殿!」

 

「つっ.....!」

 

 

織部に指摘され、三成は畏まる。

 

 

「三成を責めんでくれ織部。

これは俺のわがままだからな」

 

 

右手に軍配を持ち、純白の着物に白烏型の新撰組の羽織を着た、全身を白衣で包んだその魔王は、全軍に響き渡るように叫ぶ。

 

 

 

 

 

「決壊せよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の十兵衛。

天竜から届いた手紙を読み、朗らかな表情をしていた。

 

 

「天竜は本当に凄いです.....

村上水軍を滅ぼし、

三木城を落とし、

鳥取城を落とし、

今や高松城攻めに転じている.....

本当に凄いです」

 

 

だが同時に、毛利攻めの全権を持っていたはずの良晴が蔑ろにされている事に心を痛めていた。

 

 

「先輩.....

最近はどんどん天竜と仲が悪くなってしまって.....

私が天竜と関係を深める度に先輩は離れていってしまう.....

私はいったいどうすれば.....」

 

 

天竜と出会う以前までは、良晴に対し一方的に求婚し、彼を困らせていた事を、今では昔話のように懐かしく感じてしまう。

 

 

「あんなに好きだったのに.....

もちろん今も好きですが!

.....今ではどうもそれが薄いのです.....どうしてなのでしょう.....」

 

 

1人なのをいい事に、今日も元気な十兵衛だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところが、

 

 

 

 

 

 

「相変わらずですね姉上」

 

「ふぇっ!?」

 

 

慌てて振り向くと、そこには左馬助がいたのだ。

 

 

「さっ.....左馬助!いたのですか!」

 

「ずっとです」

 

 

1人なら平気の独り言も、他人に聞かれていたとなると相当恥ずい。

 

 

「羨ましいですね。天竜様と秀吉殿の板挟みになって悩めるなんて.....」

 

「羨ましい!?

はっ.....!まさか左馬助!

先輩の事を!?」

 

「その正反対の解釈を改めて下さい」

 

「うぅ......」

 

 

従姉妹同士にも関わらず、どうも2人には壁がある。

 

 

「ところで、左馬助。

今日はなんの用で?」

 

「現在毛利攻めと同時進行で行っている『四国遠征』において、斎藤利三殿の娘を四国大名、長宗我部元親殿の義妹にし、長宗我部家と正当な同盟関係を結ぼうと考えていたので、その許可を姉上に貰おうと.....」

 

「ちょっ.....ちょっと待つです左馬助!

.....四国遠征!?

初めて聞いたですよ!?」

 

「当然ですよ。織田信奈にも内緒の極秘事項なんですから」

 

「..........」

 

 

十兵衛は現在行っている、細川氏との協力による丹後侵略を行っていたが、それが終われば、四国にも目を向ける予定であった。

よもや、天竜が既に着手しているとは思わなかった。

 

 

「それと、もう一つ.....」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死んで下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

油断していた十兵衛は、その身体をバッサリと斬らす事を許してしまった。

 

 

「がふっ!!?

....................左馬助......

................どうして!!?」

 

 

すると、彼女は邪悪な表情でこう言った。

 

 

 

 

 

 

「まずは姉上から......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十兵衛はその一言で理解する。

このままでは、

雑賀孫市や九鬼嘉隆が危ない!

 

 

 

 

 

 

 

 

左馬助が余所見をしていたその隙をついて、一目散に逃げ出す。胸の大きな傷口を押さえながら、溢れ出る鮮血を辺りに散らしながら.....

 

 

 

 

 

その光景を邪悪な笑みを浮かべながら、慌てふためく十兵衛を眺めていた左馬助は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づくと闇の中に消えていた。

 




今話は次の章との繋がりの為に設けました。
十兵衛を斬った左馬助の真意とはいかに!?
次回予告
天竜の1番弟子
〜天竜様は私だけのもの
私は天竜様だけのもの〜

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。