天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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緊急謝罪。
3話前だかに、天竜は義輝に『鬼切』を貰って
ますが、『童子切』に変更です。
単純な勘違いです。すいません。


第二十六話 魔王の品格

『焼けた鉛の味.....

意外とまぁ、甘美なことよう』

 

 

穴だらけの肉体から銃弾がぬるりと出てきて、ポロポロと落ちる。

 

 

『さて、次は我の番か?』

 

 

その次の瞬間、天竜が武吉の目の前に出現する。

 

 

「つっ.....!?」

 

 

武吉は反射的にその場から後退した。

が.....

 

 

『わっすれもの~♬

Foget.Foget.』

 

「なっ!?」

 

 

武吉は天竜を見た後、己の左腕を確認する。だが、そこには左腕と呼べるものが無かった。武吉の左腕は天竜が持っていたからだ。

 

あの一瞬で引き千切ったというのか!?

 

 

『所詮この程度か。

鬼の力を持ってしても我の足程にも及ばぬとはな。

その程度か鬼武者?』

 

「...............なめるなよ?

 

 

ぬわぁぁぁっ!!!!」

 

 

武吉が咆哮を挙げた途端、左腕の切り口から別の新しい腕が生えてくる。

 

 

『素晴らしい。

それでなければ、この姿になった意味がないというものよ』

 

 

すると、天竜の頭が一瞬魔物のような形相になり、武吉の左腕を一口でバリバリと食べたかと思うと、また元の美しい顔たちに戻る。

 

 

『こればかしでは満足できぬ。

もっとだ.....

もっとよこせ.....』

 

「はっ!.....鬼武者が俺だけだと思うなよ?この船に乗ってる50人全員が鬼武者だ!!」

 

 

すると、武吉を含めた船員に角が次々と生え、鋭い牙や流々とした筋肉も見える。

 

 

『Μεγάλος!

素晴らしい.....素晴らしいぞ!

そうでなければ.....

我が腹を満たせない!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、いつだかアマテラスと話した時のこと.....

 

 

「なぁ、アマテラス。

ツクヨミが月にいたってゆうの.....

あれ嘘だろ?」

 

『今更でありんすか』

 

「やっぱりな。俺が死んだ途端に俺の中から出てきたんだ。お月さんからご都合よくやって来たなんてあり得ないからな。

『元々俺の中にいた』って方が辻褄が合う」

 

『くすくすくす.....』

 

 

彼女は天竜の頭上でプカプカ浮きながら、彼の煙管でプカプカ吹かしている。

 

 

「『月』というものがそもそもの

アナグラム。この場合の月は天体ではなく、『肉月』を示す。

そう、俺の諱である『朧』から取ったんだろう。

『月にツクヨミがいる.....

つまり朧の.....俺の中いる.....』

.....ったく、ややこしい頓知考えやがって。.....んで、ツクヨミはいつから俺の中に?」

 

『最初からでありんす』

 

「最初?

この時代に来てから?」

 

『そちが産まれた時からに決まっておろう』

 

「まじか!?」

 

『そうでなければ、わっちはそちの力なぞ借りぬぞよ。

奴はそちの先祖であると同時に、生涯を共にする母でありんす』

 

「なるほどね~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふふっ。貴様の中での27年は暇で仕方が無かったぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」『!?』

 

 

天竜もアマテラスも驚く。

当然、アマテラスの声ではない。

 

 

『いい煙管だな。よこせ』

 

『あっ.....』

 

 

その人物はアマテラスから煙管を奪い、口に咥え、ニコチンの煙を肺に溜める。

 

 

『中毒とは恐ろしいな。今までは貴様の中で間接的に味わう事しか出来なかったが、やはり煙草は己で吸うに限る』

 

「ツクヨミ!?」

 

『何を驚く?

我の話をこそこそとしているので、本人が出てきたのではないか』

 

『うっ.....むぅ.....』

 

『どうした姉上?我が怖いのか?」

 

 

アマテラスはツクヨミに目を合わせないよう、怯えている。

 

 

「どっ.....どうしたんだよ?

お前の方が立場上なんだろ?」

 

『いや.....あくまで年齢で姉妹を決めたからの、欧州では同盟とはいえ、サタンの方が立場が上じゃったし.....

そちの肉体に此奴を封じ込めたのもわっちじゃから、かなり恨まれとるし.....』

 

「マジか!?」

 

 

すると、ツクヨミはクスクスと微笑む。

 

 

『流石にもう恨んではいないさ。

貴様のお陰で程のいい肉も手に入ったしな』

 

『それは良かった』

 

「おい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから後、ツクヨミは例の逆さ十字を渡す。

 

 

「なんだよこれ.....」

 

「我の力を制御させられるものだ。貴様が本気で『ツクヨミ化』をするというのであれば、これを使うといい。ほんの数分程度だが、我の偉大な力は貴様のものとなる。成功率は低く、失敗すれば戻れなくなるがな』

 

「.....信用できねぇな。

術式が成功して都合が悪いのはお前の方だろうに」

 

『仔の願いだ。母たる我がそれを無下にすると思うたか?そこまで外道ではない』

 

「外道でなくとも魔王だろう?」

 

『!?................ぷっ.....

 

 

ぷっくははははははは!!!!

あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!』

 

 

ツクヨミは急に高笑いを挙げたかと思うと、急に天竜に抱きつく。

 

 

「なっ!?」

 

『確かに、我は魔王。

されど、愛する仔の前では今一度、天使に戻るとしようぞ』

 

「お前から愛を語られるとはな。

不気味以外の何物でもないんだが?」

 

「そう言うな朧命(おぼろのみこと)よ。

悪魔にも愛ぐらいはあるさ。

 

...........が、死せば話は別。

貴様の魂が抜けたそれは貴様の形をした肉に過ぎぬ。問答無用に我が使わせて貰おう』

 

「それは別に構わん。

死後も晒し首などで辱めを受けるよか、お前に有効活用される方がよっぽどましだ。

.............まぁ、生きてる奴らが反対するかもしれんがな」

 

『ほう。てっきり拒否られるものかと.....可愛い仔を得て我は嬉しいぞ』

 

「そりゃどうも。

ひいひいひいひいひいひい(以下略)

婆ちゃん」

 

『.....可愛くないな』

 

「魔王様の可愛いの基準を教えてくれ」

 

『基本ツクヨミの思い通りになる奴が可愛い対象でありんすな』

 

 

その後も2人の神と1人の半人半神の談話は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふくくくくくくくく.....』

 

「がぁ~!!!!」

 

 

1人の鬼武者が天竜が襲いかかる。

 

 

『他愛無し!』

 

 

だが、天竜は戸惑う事もなく。手に持った刀をただそこに置く。

 

 

「ぎゃうっ!?」

 

 

敵の急進力を利用しあらかじめ刀を置く。敵はそのまま斬られる。

 

 

『朧月光流.....神無月』

 

 

だが、問題はその後だ。

 

 

「ぎえぇぇぇぇぇ!!!!?」

 

 

斬り口を中心に、その鬼武者は一気に燃え上がったのだ。

 

 

『刃長 二尺六寸五分。

 

反りはばき 一寸。

 

横手 六分半。

 

重ね 二分。

 

造り込みは鎬造、庵棟。

 

刀名、『童子切安綱』。

 

パーフェクトだ義輝!

 

鬼武者程度なら容易に灰と帰す!

 

これなら主水の宿儺とも同等に戦えるであろう!』

 

 

かの源頼光が酒呑童子を討伐した事で有名な名刀。鬼を斬る事に特化したその刀は最早、妖刀とも言えるだろう。

 

 

天竜は今人知を超越した、神に近い存在。

彼が持つは鬼殺しの妖刀。

対するは鬼の紛い物、鬼武者。

相性が悪過ぎる。

 

 

それでも鬼武者達は果敢に天竜に向かってゆく。だが、その度に鬼武者は童子切の餌食となり、灰と消えてゆく。

 

 

「もういい.....」

 

「ぐえぇぇぇぇ!!!!」

 

「もういい.....」

 

「たぼわぁっ!!!」

 

「もういい!」

 

「あべしっ!!!」

 

「もういい!!」

 

『くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!』

 

 

 

 

「もういいっ!!!」

 

 

 

 

武吉の怒号が響いた。

 

 

「これ以上は無駄だ.....

 

天竜!!俺様と一騎討ちをしろ!!」

 

『くひゅっ.....いいだろう!

燃やしてばかりではいつ迄も喰えぬ。貴様の身体を丸ごと喰えば、腹も少しは満たされよう』

 

 

天竜は刀を鞘に納め、居合の形を取る。武吉もまた、刀を構える。

 

 

『来い!一撃で貴様を殺してやる!』

 

「同じ台詞をそのまま返してやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは静寂。

この地球上に2人しかいないかのような静止時間が続いた後.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うらあぁぁぁ!!!」

 

『だあぁぁぁぁ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決着は宣言通り一撃で済んだ.....

 

相手の身体に刀を突き刺したのは.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武吉だった。

 

天竜の童子切を持つ左手はダランとしていた。

 

 

「へっ..........へへっ.....

刺したぞ.....おめえの.........胸に.....」

 

『あぁ.....』

 

「取れたかな.....直家の仇......」

 

『取れたさ.....』

 

「へへっ.....なら満足だ.....」

 

『...........』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『向こうで直家が待ってるぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確かに武吉の刀は天竜の胸に刺さっていた。だが、とうの武吉は四肢全てを斬り落とされ、天竜の右手もまた彼の胸を貫き、貫通した先の掌が持つは、ドクンドクンと鼓動する武吉の心臓が存在していた。殆ど虫の息であった。かろうじて、天竜に支えられる事でその体制を保っている。

 

 

「神と同化して不死になったか.....」

 

『不死ではない。

ただ死ににくいだけだ』

 

「............そうかい」

 

 

天竜は支えていた武吉の身体を放し、床に降ろした。同時に、己の胸に突き刺さった刀を引き抜く。彼の心臓は未だ手の中にあった。

 

 

「...........」

 

『..........』

 

「..........天竜」

 

『..........ん?』

 

「お嬢と.....元春も殺すのか.....」

 

『うんや?』

 

「...........」

 

『我は「姫武将殺し」だ。口説きはしても、可愛い子ちゃんを殺しはせぬよ』

 

 

その時、天竜の影に別の男が見えた気がした。

 

 

「あぁ.....お前もそうだったのか.....」

 

 

何かを感じ取った武吉はそっと最期の言葉を告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さらばだ我が悪友」

 

 

『さらばだ我が悪友』

 

 

 

 

 

 

そうして、武吉の肉体は次第に灰とも砂とも分からぬものに変わり消えた.....

 

 

 

 

 

 

『武吉...................馬鹿な男だ。

海賊の分際で、友情などにこだわり、最優先事項を放棄した。

ただただ、俺に勝ちたいがために人間を辞め、鬼に.....それも紛い物なんぞに姿を変えてしまった。

人間であった時の貴様は強かった。戦闘面も戦略面も貴様は優れていた。だからこそ、俺はこいつに倒されてしまうのではないかとさえ、思ってしまった事もあった。

だが、お前は鬼武者になった。

その瞬間から貴様の勝利は消滅した。

『魔王は倒される者』

『鬼も倒される者』

倒すものじゃない。

お前には俺を倒す事なんてそもそもが無理だったんだ.....

 

..........本当に..........大馬鹿者だよ』

 

 

天竜は手に持っていた心臓を握りつぶした。そして、眉間にシワを寄せた。

その表情は怒りというより、哀しいに溢れていたという。

 

 

「船長.....」

 

 

残された船員の者らは武器を落とし、鬼武者化を解き、完全に戦意を喪失していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時。

 

 

『武吉を喰い損ねてしまったではないか。仕方ない。他の雑魚共を喰うか』

 

 

それまで落ち込んでいた天竜の様子が一変。また邪悪な面様となる。

 

 

『うむ。うむ。

良さそうな質の肉が揃っておるわ』

 

「なっ!?」

 

 

そうしてまばたきをする間もなく、天竜は船員の1人の首を捥ぎとる。

そうして首元の柔らかい部分にムシャムシャとかぶり付く。

 

 

『足りぬ.....足りぬ.....足りぬ.....

血が足りぬ!!!』

 

 

天竜は船員達に向け、指を指す。

すると、

 

 

「「「うわあぁぁぁ!!!?」」」

 

 

次々に船員らが空に浮かび上がってゆくのだ。

 

 

「その皮に詰まった鮮血を全て我に!」

 

 

天竜が雑巾を絞るかのような手振りをする。その瞬間、船員らもまた雑巾のように捻じれてゆき.....

 

 

 

『弾けて混ざれ』

 

 

 

ある程度を過ぎた時点で、ボシュッと一斉に飛び散った。空中で破裂したそれは、全て地上の天竜に降り注ぐ。

 

 

『鮮血のシャワーとはなんとも贅沢なものよ!始めからこうしていれば良かったのかもなぁ!』

 

 

降り注ぐ血飛沫を口だけでなく全身で味わう天竜。天竜が1つの大きなスポンジのようになり、身体に降りかかった血飛沫以外の床に落ちた血液もまた吸い上げた。

 

 

『武吉を喰えなかったのは残念だが、安い肉をたらふく喰うのもたまには良い!』

 

 

すると、天竜もまた空中に浮かび上がる。そこからの光景には、大将の死亡に伴い、退却をよちなくされた軍船の残りが引き返しているのが見えた。

 

 

『たらふく喰うたら、たらふく運動もせぬとな!』

 

 

天竜が空に向けて手を大きく振り上げる。すると、天竜の上空に数十本のミサイルが出現する。

 

 

『言ったであろう。

一隻も残さず壊滅に追い込むと!』

 

 

そして、

天竜の振り下ろされた手と共に、ミサイルが一斉掃射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九鬼水軍からの光景は凄まじかった。

いや、凄まじ過ぎた。

天竜が飛んでいった先の武吉が乗っていた軍船は一時紅に染まり、その後中心にいた人物にその色は全て吸収された。

そして今、木津川口の海上は火の海と化している。文字通り。

各地で爆発が起こり、粉々になった村上水軍のは破片はこちらにも流れ着いてる。

 

 

「どういうことなのじゃ.....」

 

 

一益は驚愕していた。

人は惨事を見ると思考が停止する。

 

だが、三成はその惨事を望遠鏡でじっと観察していた。

 

 

「村上武吉は天竜様によって討たれました。現在は天竜様による残党の掃討が行われてます」

 

「それはなんとなく分かるのじゃ!だから何でてんてんがあんな黒々くなっておる!?」

 

「『ツクヨミ化』です。まともに戦っては前回の二の前になる可能性もあったようなので、賭けに出たとか.....まぁ、6分間は無敵なので圧勝は間違いなかったようですね」

 

「ツクヨミ化!?ぷん!?」

 

「あぁ、天竜様に時間軸を教わったんです。心臓の1心拍を1秒とし、60秒で1分、60分で1時間、24時間で1日.....」

 

「そっちよりツクヨミ化の方!」

 

「あぁ.....」

 

 

三成は彼女に天竜から教わった話はをする。

 

 

「そんな事が.....」

 

「ですが、限界は6分間。

それを過ぎると身体が月読命に乗っとられます。ですから5分経った時点で、こちらに引き返さねばなりませぬ」

 

「どうやって戻すのじゃ?」

 

「これで心臓を撃ち抜くそうです」

 

 

三成が持っていたのは、遠距離射撃用のスコープの装着されたライフル銃。

 

 

「ちょっ.....てんてんを殺す気か!?」

 

「いえ、弾丸は霊力補佐した特殊水銀弾頭だそうで.....これなら月読命の邪気だけは払って天竜様は救えるそうです」

 

「本当か!?」

 

「しかし、外せば.....弾は3発だけですし」

 

 

三成はスコープを覗き込み、じっと天竜に標準を合わせる。今、村上水軍は殆ど壊滅してしまい、天竜の動き止まっている。こちらにも気づいてはいない。やるのは今であろう。

 

 

「申し訳ありません天竜様。

多分凄く痛いでしょうが、

貴方様を救うためです!」

 

 

標準を天竜の胸部に合わせ、引き鉄に指をかける。

 

 

「南無三!」

 

 

引き鉄に一気に力を込める。

 

 

 

だが、発砲した瞬間天竜がこちらをギロリと睨んだ気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!?」

 

 

外した。天竜の反応の方が早かった為か、弾丸は天竜の右の肩に当たる。すると、天竜の右腕から黒々しい邪気が消滅した。

 

 

『ほう、ネズミがあんな所にも』

 

 

その後、目にも留まらぬ速さで三成らの前に移動してくる天竜。

 

 

「くっ!!」

 

 

直様2発目を準備し、天竜に向け発砲する三成。ところが、完全に認識している彼の前には最早無意味。容易に避けられてしまった。

 

 

「うぐっ!?」

 

 

三成の目の前に現れた彼は彼女の首を掴み、持ち上げる。

 

 

『処女の血肉か。少々幼いが、先程の男どもとは天と地の差の味であろう』

 

 

既に奴は天竜としての意識すら残していなかった。いや、それ以前の問題であった。

最早天竜の面影すら残していなかったのだ。

 

 

「げふっ..........月読......」

 

『どうやら我が仔は間に合わなかったようであるな。仕方あるまい。この肉体は我が貰うとするさ』

 

「させるか!!」

 

 

黒鬼が天竜に対し、攻撃を仕掛ける。

 

 

『まだ鬼がいるか』

 

 

ところが、簡単に弾かれてしまう。羅刹では鬼武者の半分に及ばない。

だが、お陰で標的が三成から黒鬼に移り、彼女は解放される。

 

 

「げほっ.....げほっ.....」

 

 

万事休す。今ここで撃ったところで恐らく避けられる。弾はあと1発。まだ5分38秒。あと22秒。

 

一瞬でいい。一瞬だけ奴を止めれば.....

 

 

 

 

 

その時、自分の足下にとあるものがいるのが、目に入った。

 

 

「これは.....」

 

 

これならいけるかもしれない。

もしまだ天竜の精神が残っているのなら.....

 

三成はそれを掴み、立ち上がる。

 

 

「いっしー!!こっきーが!!」

 

 

一益が三成に叫ぶ。

因みに、

黒鬼(くろおに)→こっき→こっきー

である。

 

 

「ぐっ......ぐあっ!!」

 

 

圧倒的な力を持つ奴の前に劣勢であり、ズタズタにされている。

 

 

「月読命!!」

 

 

三成は奴に向かって走り出す。

切り札のそれを掴んで.....

 

 

『なんだ小娘?死にに来たか?』

 

「私を喰いたいだとぅ?

代わりにコレでも喰らえっ!!」

 

 

三成が奴に向け、ソレを投げつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、ゴキブリを。

 

 

『ひっ!?』

 

「やった効いた!」

 

 

魔王たる奴がこの小さな虫を、何か化物を見たかのように表情を歪ませる。

 

 

「うおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

 

三成はそのまま奴に対し、突進を仕掛ける。そしてそのままの勢いで奴を船から突き落とし、共に落下する。

あと3秒!

 

 

「月読命!!

その身体は天竜様のものだ!!

返してもらう!!」

 

『つっ!!』

 

 

三成は奴の胸部に銃口をそのまま突きつける。ゼロ距離からの発砲。

残り1秒!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、1発の銃声が木津川口に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっしー!!てんてん!!」

 

 

船上から一益が叫ぶ。2人とも海に落ちてから上がってこないのだ。

その時、

 

 

「ぷはぁっ!!」

 

 

三成が上がってくる。

だが.....

 

 

「成功はしました.....

ですが天竜様は泳げないんです!」

 

 

現在進行形で天竜は海底に向かい、沈んでいる。

 

 

「姫も泳げないのじゃ!

誰か......誰かてんてんを助け.....」

 

 

その言葉を言い切る前に、とある人物が船から飛び降りた。

 

 

「くっきー!?」

 

 

それまで惚けていた嘉隆が何時の間にか正気を取り戻していたのだ。

流石は元海賊。どんどん潜り込み、天竜に向かって泳ぎ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数秒後。

 

「ぷはぁっ!!」

 

「げほっ.....がはっ!!!」

 

 

天竜を連れて嘉隆が上がってきた。

 

 

「酷いですよ!

折角結婚の約束してくれたのに.....

勝手に死なないで下さい!!」

 

「げふっ............ふんっ.....

今回初めて役に立ったな.....」

 

 

天竜の邪気は完全に払われていた。

 

 

「ちょっと九鬼殿!!

結婚の約束とはどうゆう事ですか!!」

 

「あぁ.....言ってなかったな.....

兎に角、船に上がろう。

.....というか上げてくれ。筋肉痛が酷くて動けん」

 

「むぅ.....羨まし.....」

 

 

その時、天竜がガタガタの手で三成の頭を撫でてやった。

 

 

「ありがとう...........佐吉。

俺なんかの為に命張ってくれて.....

本当にありがとう.....」

 

「きゅう.....」

 

 

顔を真っ赤にする三成であった。

 

 

 

 

 

 

 

こうして、

この『第二次木津川口の戦い』は九鬼水軍の大勝利に終わった。

村上水軍600隻を全て壊滅させ、

敵の総大将である村上武吉を討ち取った天竜の功績は、再び全国に回る事となった。

 

手柄を立てさせないようにこの配置にした信奈の策略はもろと崩れ去ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の信奈。

古田佐介のやり方に納得いかない良晴に連れられ、播磨まで来た信奈。

 

 

「それで、梅千代が出してきた署名ってのは本物なの?」

 

「よくは分からない。

一応、名前と拇印があったから本物だと思うけど.....

とりあえず本人に会えば

..........................!!?」

 

 

三木城までやって来た一行。

だが、その光景を見て驚愕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三木城が水没していたのだ。

 

 

「あっ、信奈様。お久しぶりです」

 

「どうゆうことよ梅千代.....これは.....」

 

「古田佐介です!

鹿之介殿の自滅作戦と以前天竜様に教わったやり方を参考に、

三木城は『水攻め』にしました」

 

「「水攻め!?」」

 

「とりあえず実験ですので、

キチンとしたものにはなりませんでしたがね。水銀中毒と合わせれば三木城側を脅すには充分でしょう」

 

 

その時、使者が佐介の下に来て、要件を伝える。

 

 

「お喜び下さい。

三木城は降伏。開城するそうです」

 

「なっ!?」

 

「此度の水攻め.....

中途半端になってしまいましたが、天竜様と相談してもっと大規模なものとして活用したいですね」

 

「認めないわっ!!

こんな人道に反したやり方なんて.....」

 

「いつから人道を気にするようになったのですか?」

 

「え.....」

 

「人道を気にせず、己の意思のままに突き進み、暴虐武人.....じゃなかった.....傍若無人な生き方は本当に素晴らしかった。美しかった。だからこそ私は貴方に着いて行こうと思えた。

ですが、貴方は日に日に腑抜けていった。そう、そこの畜生を飼い始めてからです!」

 

「何を.....言ってるの.....」

 

「いちいち何かを気にするような貴方にはもう幻滅です。とても目標にはできない。

とはいえ、貴方のお陰で素晴らしい主君に出会えた事には感謝せねばなりませんがね」

 

 

そうして佐介は邪悪な表情になる。

 

 

 

 

 

「天竜様こそ天下人に相応しい。

私はそう実感しております」

 

 

 

 

 

 

この言葉に、信奈も良晴も反論すら出来なかったという。

 




佐介の三木城の水攻めが、
備中高松城の水攻めのフラグとなりました。
さて、天竜の野望何処まで突き進むのか!?
次回予告
高松城水攻め
~勝てば官軍負ければ賊軍~

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