天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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最近、私の作品の読者数が増えない理由の1つとして、一話あたりの文字数が多すぎると分かりました。でも、突然減らすと調子が狂うので、継続させることにします。
でも、少しずつ減らしていきたい。



第二十四話 将軍家

天竜の操縦ミスによって、日本海上に墜落したオスプレイ.....

かろうじて死傷者は出なかったが、このままでは溺れてしまう。

 

 

「はははっ!!

将軍家に生まれてこの方!

海で泳ぐなど初めての経験だ!」

 

 

何故か義輝ははしゃいでいる。

 

 

「てんてん!!(怒)

姫を殺す気か!!」

 

 

嘉隆にしがみ付いて、一益が叫ぶ。

 

 

「うぅ.....アメちゃんは落ちないって言ったもん!」

 

 

なんか言い訳をする天竜。

 

 

「帮助!!我不能游!!

是不是谁!!天龙!帮助!!!」

 

 

黄黄も溺れかけて、大変な事になっている。

 

 

『だから言ったでありんす。

操縦方法も完璧でないのに勘でやったりするから.....』

 

「ヘリの操縦なら分かってたんだけどね.....」

 

『慢心は今も昔も変わらぬのう』

 

 

2人だけプカプカ空中に浮く天竜とアマテラスが溺れている一行を見下ろしている。

 

 

「どうでもいいです!!

自分らだけ浮いてないで、助けなさい!!」

 

 

十兵衛の怒号が飛ぶ。

 

 

「お願いです姐さん。もっかいあれやって」

 

『どうしようかの~。

さっきバ神って言われたしの~』

 

「うぅ.....要件は?」

 

『私は天照大御神様の足下にも及ばぬ、蠅程度の価値しかないしがない人間です。どうかこの愚者に天照大御神様の遂行なる力をお貸し下さいませ。

.....と言って、わっちの爪先にキスするでありんす』

 

「ぐぐぐ.....私は天照大御神様の足下.....

足下..........くそっ!言えない!!」

 

 

 

「早くしやがれです!!!(怒)」

 

 

 

その後、アマテラスの力により、一行は日本海上から姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信貴山城にて。

 

 

「わらわは将軍なのじゃ!

この処遇は万死に値するぞ!!」

 

「うるっさいな~」

 

 

義昭の駄々は日に日に大きくなっていた。

 

 

「静かに!!天竜が帰宅するまでは捕虜らしくしていなさい!!」

 

 

まるで親のように義昭を叱りつける青蘭。

 

 

「捕虜!?このわらわが捕虜だと!?」

 

 

理解してなかったのか?

 

 

「うぐぅ.....わらわが自由なった時には覚えておれ!磔にしてやるぅ!!」

 

 

そこに青蘭のゲンコツが飛ぶ。

 

 

「ふぎゃっ!?」

 

「大人に向かってなんて口の聞き方だ!」

 

「この年増女め.....」

 

 

そこからさらにグリグリが追加された。

 

 

「ぎゃーーー!!!」

 

「だ~れが年増だってぇ?

まだ25だ!!」

 

「いや~~~!!!

ごめんなさい!!ごめんなさい!!」

 

「それでよろしい!」

 

 

これでは某アニメの親子のようだ。

 

 

「あの~。よろしいですかい?」

 

 

1人の男が現れる。

 

 

「誰だお前は!!敵か!!」

 

「いやいや!

あっしは鉄砲隊副長の大吾という者です!」

 

 

久々の登場である。

 

 

「すると天竜はんの?」

 

「はい。天竜様からの伝言で、『至急義昭を連れて二条城に来て欲しい。向こうで落ち合おう』だそうです」

 

「「二条城!?」」

 

 

現在、二条城には今川義元がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。二条城前で再会した天竜一行と青蘭一行。そこで、義昭の文句がさらに大きくなる。

 

 

「ああ!!羽柴秀長め!!

よくもわらわにこのような辱めを!

磔じゃ!切腹じゃ!」

 

「よしなさい!!

天竜は私の友人だ!!」

 

「うぇっ!!?義輝兄様!?」

 

 

しばらく会っていなかった兄と突然の再会である。

 

 

「どうして.....兄様が!?」

 

「兎に角、天竜に従いなさい。

彼は信用できる男だ」

 

「はっ..........はい.....」

 

 

今までの傲慢な態度が嘘のようにシュンとしてしまった。

 

 

「そうゆうこと!

さぁ、二条城に入るよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てっきり室内にいると思っていた義元は、あろうことか戦時中にもかかわらず、庭で蹴鞠をして遊んでいた。

 

 

「あっ!天竜さん!」

 

 

天竜に気づいた義元が蹴鞠を中断して、駆け寄ってくる。

 

 

「あら?天竜さん.....」

 

 

以前会った男が若返っていれば疑問にも思うだろう。

 

 

「髪の色が変わってますのよ?」

 

 

そっちかい!

どれだけ鈍感なのだこの能天気姫は.....

 

 

「あら?そちらは...................義輝様!?」

 

「久しいな、菊」

 

 

なんと2人は知り合いだった。

義元の幼名は「芳菊丸」義輝は縮むて「菊」と呼んでいるらしい。まぁ、今川家は足利家の分家。義元は実質、元々は義輝に仕えていたようなものだったのだ。

しかも、ただの主君と家臣の関係ではない事が2人から感じられた雰囲気から分かった。

 

 

「以外だな。知り合いなの?」

 

「菊とは我が父、足利義晴が12代将軍であった頃からの付き合いでのう。昔はよく遊び相手にしていたものだ」

 

 

つまり幼馴染みという事だ。

 

 

「だがな、私は『もののふごっこ』をやりたかったのに、菊はいつも『貴族ごっこ』をやりたいと喚いていたからのう。しょっちゅう喧嘩しておった」

 

 

義元らしい。

 

 

「ちょっと義輝様!!」

 

 

義元は赤面しながら、己の過去を恥ずかしがっている。

 

 

「私の幼名が菊童丸という事もあり、よく菊からは『わらべさん』なんて呼ばれていたのう。義藤に改名してからは何故か『富士さん』と呼ばれ、義輝になってからは『てるてる坊主さん』略して『てる坊さん』なんて呼ばれた事もあった」

 

 

己の黒歴史を暴露され、もはや反論すら出来ないほどに赤面してしまった義元。

 

 

「それはわらわがまだ幼少であった頃の事.....今は違いますわ!」

 

「はいはい.....しかし、菊が他兄弟との家督争いに参加してからはめっきり会えなくなったなぁ」

 

「..........」

 

「君が桶狭間にて織田に敗れたと聞いた時は心底心配したよ」

 

「妾も.....義輝様が久秀さんに襲われた時は、とても心配しましたわ.....」

 

「..........」

 

「..........」

 

「そんな事より屋内に入らないか?外で立ち話もなんだろう」

 

 

2人の昔話が長くなりそうだったため、天竜が話に区切りをつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此度の件は非常に厄介なものだ」

 

 

屋内に入り、天竜が高座に座る義元の前で頭を下げ、延べる。

 

 

「13代将軍足利義輝は松永久秀・三好党の謀反行為により京を追われ、明へ逃亡した。後継者たる足利義昭は義輝と共に明へ逃亡する事となる。松永らに擁立された傀儡将軍の足利義栄は1年と持たなかった。

そこで、織田信奈が足利分家筋である今川義元を15代将軍に盛り立てた。全ては己が京を支配するためのお飾り将軍としてな。

ところが、本来の後継者たる足利義昭が明から戻って来てしまった。その結果、将軍が2人いる羽目になり、今に当たる」

 

「はい.....」

 

 

この因果関係がある限り、どちらかが破滅しないと戦が終わる事はないだろう。

 

 

「そこでだ。今、一番の問題となっているのは君が分家筋だという事だ」

 

「はぁ.....」

 

「ここで逆転の発想を用いる。

逆に考えれば、義元が分家でなければ問題は消滅するという事だ」

 

「「「!?」」」

 

 

そこにいた誰もがその状況についていけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「義元.....お前、義輝と結婚しろ」

 

「...........」

 

「...........」

 

「「「..............................」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「えええぇぇぇぇぇぇ!!?」」」

 

 

特に1番驚きを挙げていたのは義元だ。

 

 

「義元が義輝と結婚しさえすれば、義元は正式な足利将軍家。足利義元となる。まぁ、今川ではなくなるが、今より良くなる事には間違いない。幼馴染みなら丁度いいと思ってな」

 

「そそそそそんな!!!

急に、天竜さん!!」

 

「無論、君が義輝とどうしても結婚したくないというのであれば、これを強制するわけにはいかなくなるが、どうだ?」

 

「あぅ.....」

 

 

そうして義元は天竜の奥に座る義輝をそっと見つめる。彼は多少天竜の言動に驚いていたが、彼なり何かを考え、じっとこちらを見つめている。何かを決意したらしい。

 

 

 

 

 

「.....その...........すわ.....」

 

「えっ?

もう一度言ってくれないか?」

 

 

 

 

「..........義輝様と結婚したいですわ!!」

 

 

これ以上ないというぐらいの紅潮な顔色で叫ぶ。天竜はそれを微かな笑みで受け取った。

 

 

「だとさ義輝。お前さんはどうだ?」

 

 

天竜は振り返り、後ろの彼に聞く。彼はしばらくの沈黙の後、やがて口を開く。

 

 

「私と天竜が真剣勝負をし、私が負ければある程度のいう事を聞くという約束であった。だから、私はこの縁談を断る理由がそもそもないのだ」

 

 

それを聞いて義元がパァーと明るくなる。

 

 

「ふっ.....見ず知らずの女性と結婚させられるならまだしも、菊との結婚なら私も大変うれしい」

 

 

その言葉に義元は再び紅潮する。

 

 

「兄上!!

それは本気ですか!?」

 

 

当然、義昭は納得いかないだろう。

 

 

「無論だ。第一、お前が将軍になりたいと我儘を申して、私が止めるのも聞かず、日本に戻って戦を起こさせたのだろう?

私はそのような、日本を戦火に落とすような行為を許すわけにはいかない!」

 

「だからといって、正規の将軍職を持たぬような奴に.....」

 

「おやぁ?正規の将軍職を持たぬのは貴方もでは義昭殿?」

 

 

天竜が言う。

 

 

「なんじゃと?何故わらわが将軍職を持たぬのじゃ!?」

 

「義昭殿。貴方、物心がついてすぐに寺に入れられなかったか?」

 

「うっ.....そうじゃが?」

 

「それは足利将軍家の家督相続者以外の者として慣例で仏門に入れたのだろう?つまり、貴方は生まれつき将軍にはなれんのだ!」

 

 

ガーーーンΣ(゚д゚lll)

 

 

「そっ..........そんな.....

わらわは将軍になれぬというのか.....」

 

 

心底ガッカリしている義昭。

まぁ、他に後継ぎがいなければ消去法で義昭にも将軍職が回ってくるのだが、義元同様に役職に疎い彼女にはすっかり騙されてしまっている。

 

 

「おいおい。私の妹をあまりいじめてくれるなよ」

 

「おぉ、すまん」

 

 

義輝と多少のアイコンタクトをとった後、再び義元に向き直る。

 

 

「結婚のお祝いに入りたいところだが、本題はこれからなのだ」

 

「なんですの?」

 

 

そこで驚くべき言葉を彼が発する。

 

 

 

 

 

 

 

「将軍職を辞してくれないか?」

 

「...............................は?」

 

 

今までの結婚話はなんだったのかというぐらいに驚くべき事だ。

 

 

「なっ.....なんでですの!?

なんでわらわが.....」

 

「未だ、今川義元を将軍と認めず、義昭こそ後継ぎだという者が多くいる。義昭をこのまま放置すれば、いずれまた擁立されて、戦を起こすだろう。それを防ぐためにも義昭を早いうちに押さえておかねばならん。その為に、今のうちに彼女を新将軍にしておく必要がある」

 

 

その言葉に、暗くなっていた義昭が急に元気になる。

 

 

「わらわが.....わらわが将軍になれるのか!?」

 

「えぇ、特例中の特例ですので感謝して下さいね」

 

「やった~~~!!!

感謝するぞ羽柴天竜!

わ~い!」

 

 

単純な義昭からの信用をがっちりと得る天竜である。

 

 

「よし!将軍様の命令だ!

今川義元は斬首なのじゃ~!」

 

「ふっ.....お戯れを義昭公」

 

 

そんな時、今まで黙っていたが耐えきれずに叫ぶ者が現れる。

十兵衛である。

 

 

「天竜!!それは確かに正論かもしれないですが、今川義元は信奈様によって擁立された身。貴方が一概に決められる事じゃないです!!」

 

「なんじゃ!?わらわが将軍になるのを邪魔だてする気か!?

羽柴天竜の敵はわらわの敵じゃぞ!磔にせよ!」

 

 

単細胞な彼女の中では、拉致の件はチャラになっているらしい。

 

 

「義昭殿は黙ってろです!!」

 

「ひぃっ!?」

 

 

かなりきてるらしい十兵衛。

義元と義輝の結婚話を取り上げたまでは天竜の行動に感心していたが、この件に関しては真逆。裏切られたような思いなのだ。

 

 

「何を熱くなっている?

話はまだ終わってないぞ?」

 

「何っ!?」

 

 

そこでもう一度義元に振り返り、天竜はやや頭を下げた。

 

 

「義元。君には将軍の次の位に就いて貰おう!」

 

「次の位!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「義元!君は『大御所』になれ!」

 

「「「大御所!!?」」」

 

 

この場で冷静であったのは天竜ただ1人であった。

 

 

「古くは、3代将軍足利義満、

6代将軍足利義教、8代将軍足利義政がなられた位だ。将軍職を辞した者のみが就ける偉大な位。将軍職を辞した後も、その権力を維持し、まつりごとに参加できる。これ以上ない位だ。大御所になるには分家では難しいからな。義輝との結婚はその布石さ」

 

「3代将軍が.....

わらわが.....大御所に?」

 

 

義元は俯き、プルプルと震えていた。

一瞬、泣いてるかとも取れたが、すぐに違うと分かった。

 

 

「『大御所今川義元』いえ、

『大御所足利義元』!!!

これ以上ない素晴らしい響きですわ!!」

 

 

義輝との結婚話以上の歓喜を見せる義元。義輝は複雑な気持ちである。やはり、3代将軍の名を出したのが効いたのであろう。足利義満は義元が憧れ、尊敬している偉人であるからだ。

 

 

「どっ.....どうゆう事なのじゃ??

このうるさい女を切腹にせよ!」

 

 

難しい話について行けなかった義昭がまた処刑命令を出す。

 

 

「おーほっほっほ!!!無駄ですわ!

わらわは大御所!足利義元!!

将軍、足利義昭さんよりも高い位で、偉大な者ですわ!

そんな命令など声なき声に等しいですわ!」

 

「そんな~!

..........というか、この女と兄上が結婚するという事は、この女がわらわの義姉になるという事ではないか!?」

 

 

ようやく理解する義昭。

 

 

「おーほっほっほ!

これからお義姉さまと呼ぶがいいですわ!」

 

「うぅ~!!」

 

「...........」

 

 

十兵衛は唖然としていた。ここで義元を大御所にするなど、心の片隅にも想像していなかったからだ。義昭も義元も天竜を支持している。

 

もはや、幕府すらも天竜によって支配されてしまったのだろうか.....

 

 

「そして、義輝。

お前には義昭の後見人になってもらう。あまり暴走し過ぎないように仲介に立ってくれ」

 

「あっ.....あぁ.....」

 

「続いてだ..........阿吽!」

 

「「あいよ!!」」

 

 

この2人の登場も久々だ。

 

 

「連絡通り、連れてきたか?」

 

「「連れてきたよ!」」

 

 

そこに現れたのは.....

 

 

「氏真!?」

 

 

義元の腹違いの妹、今川氏真である。

 

 

「遠征に行かせていたのを急遽、帰らせた」

 

「遠征?」

 

 

天竜の言葉に違和感を覚える十兵衛。

今はそんな事より.....

 

 

「おひさ....................姉様」

 

「どうして...........貴方が.....」

 

「俺が呼びました」

 

「天竜さんが!?」

 

「えぇ、ヒコには管領になってもらうので」

 

「「「管領!!?」」」

 

 

天竜の大御所発言と同様の驚きが一同に伝わる。

 

 

「通常、管領家は細川、斯波、畠山の三家だが、幕府が衰退している今、それにこだわる必要はないだろう。先代の管領であった細川藤孝殿とは話をつけた」

 

「藤孝と知り合いだったのか!?」

 

 

義輝の管領が藤孝なのだ。

 

 

「細川殿は私と同盟関係で、義父なんです。細川殿の娘である細川忠興を私が義妹にとる事で.....」

 

 

十兵衛がそっと説明を加える。

 

 

「義昭の暴走を義元が抑え、義元の暴走を氏真が抑える。義昭には、氏真が他人と溝を作らぬようにして貰う。この関係こそが、幕府再興に繋がると僕は予測している」

 

「けったいなもん考えるわなぁ」

 

「ふっ.....流石は私の愛弟」

 

「天竜.....」

 

 

誰も非の打ちようがなかったのだ。

 

 

「覚悟して下さいまし.....

大御所の権力で調子に乗れば

........................................殺す」

 

「ひぃっ!?..........わっ、分かりましたわ!」

 

 

天竜はこの時の為にずっと氏真を説得していたのだ。義元への恨みはとうとう解消出来なかったが、殺意だけは抑える事ができた。

天竜は、後は本人達の問題と判断し、このような形をとったのだ。後は時間だけが解決してくれると信じて.....

 

 

「義昭殿.........野良犬ぐらい.....騒いだら..........首チョンパだから.....」

 

「ひぃっ!?」

 

 

大丈夫..........だよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜..........若返った?」

 

「あ、説明すんの忘れてた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り際に、義輝に話しかけられた。周りには誰もいない。

 

 

「いいか、天竜?」

 

「どうした?」

 

「お前正気か!?」

 

「何が?」

 

「菊を大御所にしたことだ!!」

 

 

そりゃあ怒りたくもなるだろう。

 

 

「大御所とは、御所の上を行くという意味!つまり、姫巫女様を越えるという意味なんだ!

こんな馬鹿な事があるか!!」

 

「ほう、つまり義満や義政は馬鹿であったと?己の先祖を馬鹿呼ばわりとは、なんと嘆かわしい」

 

「違う!菊をそのような立場に立たせた事を言っているのだ!」

 

 

大切だから.....大切な存在であるからこそ、義元を唆した天竜に対し、一怒りをぶつける。

 

 

「これから菊は、多くの者から白い目で見られる事となる!御所すら支配しようとした愚か者として!

菊は強い女子だ。だが、同時に弱くもある!とてもその重圧に耐えられないだろう!その責を持つ資格がお前にあるか!!」

 

「それは夫である、貴様の仕事だ」

 

「何っ!?」

 

「第一、一度の敗北で全てを放棄した貴様が言える立場か?

真剣勝負で再度敗北した貴様が!

この俺様に文句を言える立場か?」

 

「貴様~!」

 

「先程、お前は俺に言ったな。

俺が戦を無くしたいと思っていると.....

否、それは違う。

戦争は無くならない。永遠に、永遠にな。

戦争の対義語は何だと思う?

平和?.....違う。

話し合いだよ。

そして、平和の対義語は争いだ。

戦争と争いは同じではないのか?

否、戦争こそが平和を作り出す布石となるからだ。戦争でどちらかが滅びる事で、二国間の歪み合いも無くなる。

.....俺は平和が好きだ。だから、同じくらい戦争も好きにならなければならない。応仁の乱以降、戦争が起こらなくなってから、戦国大名が現れ、日本中で歪み合いが続いている。

だが、織田信奈が義元を倒し、斎藤氏を倒し、京を制圧した。それで、近畿に平和が現れた。

だが、また次の敵が現れた。それらを倒す事でまた平和になった。

伊達の奥州制圧。

武田の中部制圧。

北条の関東制圧。

毛利の中国制圧。

長宗我部の四国制圧。

全て戦争のお陰さ。戦争こそが平和を作る。戦争こそが、今まで不幸であった多くの者を救える!」

 

 

天竜の演説が延々と続く。

これが天竜の思想なのだろうか。

 

 

「だが、制圧が進んだ事で実力が同等の強者ばかりが残って、近郊状態が続いている。これではいつまでも平和は訪れない!」

 

 

義輝も彼なりに反論するが.....

 

 

「だからこそ!

俺がそれら全て打ち倒し、日本を統一させる!!

上杉も!武田も!北条も!毛利も!

平和の邪魔になる障害は全て俺が排除する!

それが例え義元であっても、貴様であっても、十兵衛であってもだ!!」

 

「...........」

 

 

義輝はもう何も言い出せなくなってしまった。人の強い信念はどうやっても、他人が変えられるものではない。

 

 

「進むか.....修羅の道を.....」

 

 

怒りもすでに治まっていた。むしろ感心すらしていた。

 

 

「その思想を繋ぐ道は孤独の道だ。

それを突き進む覚悟があるのか?」

 

「是非に及ばず。魔神と契約したその日から、俺の決意はただ1つだ」

 

「そうか.....」

 

 

義輝は天竜に跪くよう促した。

彼は素直にそれに従う。

 

 

「13代将軍足利義輝として命じる。

其方、羽柴天竜秀長を副将軍に任ずる。

どうか、どうかこの日の本に平和を。天下を。其方の力で手に入れてほしい。

私と主従の関係を結べ。

さすれば、我が家宝『童子切』をくれてやる。受け取るがよい」

 

 

帯刀していた「童子切」を天竜に差し出す。

 

 

「その命、受けまする。閣下」

 

 

そうして、天竜は刀を受け取る。

こうして天竜は副将軍の位を手に入れる。

 

 

「日の本に平和が訪れた時、

もう一度私と真剣勝負をしてくれ」

 

「ふっ.....いいぜ!」

 

 

天竜は笑顔で返す。

 

 

 

少年天竜が成人した瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから半月後。

将軍足利義昭、大御所足利義元の命により、毛利方へ停戦命令が下された。これ以上織田と争えば、朝敵とみなし、討伐軍を送ると.....

 

 

「お久しぶりね天竜。

よくもまぁ、副将軍なんて位に勝手になったわね」

 

「義輝に直接任じられた。文句なら彼に言え」

 

「ふん!勝手にさせてもらうわ!」

 

 

2人の歪み合いは未だ続く。

 

 

「ところで、今日の要件は?」

 

「結局、毛利はまた攻めてきたわ。

そこで、貴方の所属を変更する。

左近らと共に海上から攻めなさい」

 

 

陸戦が主の天竜軍を船に.....

考えたな?

 

 

「いいでしょう。村上武吉は私自らが撃たねばならぬと思っていたので」

 

「ちっ!」

 

 

信奈は天竜の暗殺計画をとうに中止していた。代わりに、彼の勢力だけを著しく下げようと試みているのだ。そのために、凪という忍をもう一度天竜の下へ偵察として送っているのだ。

 

 

「あっ、そうそう。コレ土産です」

 

 

天竜は何やら風呂敷を彼女へ渡す。それは重く、丸い形の物だった。

 

 

「何よこれ?」

 

「開けてみて下さい」

 

「開けろたって..............................!?」

 

 

 

 

 

 

中から人の生首で出てきた。

 

 

 

 

 

 

「ひぃっ!!ひぃゃっ!!!

 

いやあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

信奈は脳内がグチャグチャに捻じれ、発狂する。

 

 

 

それは凪の首だった。

 

 

 

「私の周りをウロウロとしていた不審者です。恐らく毛利方の忍でしょう。

その様子だとご存知で?」

 

「しっ.....知らないわ!!!」

 

「本当に?」

 

「知らないって言ってるでしょ!!」

 

 

シラを切らなければ自分が殺される!

 

 

そうですかと天竜は言葉を返し、左近や嘉隆に共闘の挨拶に行くと、安土城を後にした。

 

 

「ごめんなさい.....

ごめんなさい!

ごめんなさい!!

ごめんなさい!!!

ごめんなさい!!!!

ごめんなさい!!!!!

ごめんなさい!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!!!!

ごめんなさい!!!!!!!!!!!!」

 

 

信奈は凪の首を抱き、ただただ誤り続ける。まるで壊れたラジオのように.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふくくくくくくくくくくくくく.....」

 

「.........」

 

 

そうして、あの高笑いがまた響く。

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!」

 

「...........」

 

「あそこまで錯乱するとはぁ!

なんたる酔狂!なんたる甘美!

面白いものが見れたなぁ、おい」

 

「くすっ.....そうですね」

 

 

天竜の影に潜む何者かが、返答する。

 

 

 

 

 

 

 

「まさか!

幻術を使ってるとはいえ、

 

人形の首を持って、ビービー喚き散らすとはぁ、笑いを堪えるのが至難であった!」

 

「.....はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくやったぞ凪。褒美を取らそう!」

 

 

 

 

 

 

 

天竜の影にいた存在、それは凪本人であった。

 

 

「よもや、二重間者がここまで上手くゆくとはな!これだから策謀は面白い!」

 

 

二重間者。つまり二重スパイである。

 

 

「作戦はまだ始まったばかりです」

 

「おうよ!

信奈は外から壊すのは難しい。

だが、内からなら.....

これ程容易な事はない!!」

 

 

完全に暗黒面に落ちた天竜。

彼はその目で何を見る?

 

 

 

「織田信奈.....

お前はこれより嫌という程精神を破壊されるのだ!覚悟しておくがよい!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 




とうとう、幕府まで支配させてしまった。
作者にもかかわらず、天竜が怖すぎる今日この頃。
次回予告
魔力封印解除
~この俺を殺したくば、世界ごと破滅させよ!~

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