天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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濃姫見ました!
城田が信長役はちょっとミスチョイスだったかな?


第二十二話 少年天竜の冒険(後編)

安土城にて良晴、信奈、長秀による極秘会議が行われた。

 

 

「まさか、将軍を拉致するなんて.....」

 

「もう弁解の余地もありませんね。零点以下です」

 

「足利義昭は今何処にいるの?」

 

「大和の信貴山城にいるらしい」

 

 

良晴が答える。

 

 

「よし!直ちに兵を出して、監禁されてる将軍を救出するわ!」

 

「では私が」

 

 

こうして長秀率いる兵が大和出兵に赴く事になる。

 

 

「天竜は今、記憶を失っているのでしょう?どうして変わらずに暴れ回ってるの?」

 

「暴君竜が言ってたんだけど、天竜さんは順応力が高くて、説明しただけで理解しちゃったみたいで.....」

 

「あんたそっくりじゃない」

 

「おい!」

 

「ごめんなさい。

でも.....これは異常だわ」

 

「純粋な悪人か.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信貴山城。

 

 

「誰だ貴様は?」

 

 

門前にて仁王立ちする青蘭が長秀と鉢合わせする。

 

 

「先に貴方がお名乗りなさい」

 

「森水青蘭。天竜の姉と言えば分かるか?」

 

「羽柴天竜の姉!?」

 

「さぁ、名乗ったぞ。貴様は何者だ?」

 

「..........丹羽長秀です」

 

「丹羽.....すると若狭の?」

 

「随分と情報が古いですね。若狭の大名はとうに辞退致しましたよ?」

 

「ほほう。私の知る歴史とはだいぶ違うのか.....」

 

「私は羽柴天竜によって監禁されている、足利義昭殿を救出に参りました。直ちに門を開けなさい」

 

「確かにな~。将軍を拉致しただなんて知れたら、織田の信用はだだ落ちだからな~」

 

「なら!」

 

「だが断る」

 

「!?」

 

「せっかく天竜が従順になったのだ。今度は嫌われるわけにはいかないのでね」

 

「なんと愚かな。十点です」

 

 

長秀は薙刀を構える。

一方、青蘭は刀を構える。

 

 

「薙刀に刀で挑む気ですか?」

 

「リーチの長さは勝負に関係ねぇよ」

 

 

青蘭が迅速に動く。

 

 

「如月!」

 

 

「きゃっ!?」

 

 

長秀の薙刀が粉々に粉砕する。

 

 

「なっ!?」

 

「まだ来るか?」

 

「おもろそうやな~。うちも混ぜたってぇや」

 

「雑賀孫市!?」

 

 

孫市が巨大なウィンチェスターを担いで出てくる。

 

 

「この小姑は嫌いやけど、天竜はん守る為ならうちも身体張るで?」

 

 

ドーーーーーーンッ!!!

 

 

孫市が長秀の足元に向け、弾丸を放つ。そうして足元の地面が抉れた。

 

 

「妻として」「姉として」

 

 

2人が同時に声を上げる。

 

 

「天竜[はん]の前に立ちふさがる障害は私[うち]が排除する!!」

 

 

この仁王2人を止められる者など何処にもいない。

 

 

「このっ!!」

 

 

長秀はそれでもめげず、刀を抜こうとする。

 

 

「霜月!」

 

 

何時の間にか、長秀の刀は鞘ごと斬り飛ばされていた。

 

 

「私と真剣勝負なんて4世紀はえぇよ小娘」

 

 

長秀は思わずガチガチと震わせる。同じような台詞をあの天竜にも言われた。この姉弟はどこまで自分を陥れるのだろうか.....

 

 

「随分と妙な剣捌きやな。

どっかの流派かいな?」

 

 

「『朧月光流』。勘解由小路家伝統の剣技。だが、完璧に扱えた歴代一族は私を含めても3人だけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明。黄黄宅。

 

 

「これが明料理.....食するのは初めてです.....」

 

 

並べられたのは小籠包などの肉まん系。チャーハンなどの炒めし系。ラーメンなどの麺類だった。

その他にも、肉類や野菜類など数多くの食材が並べられた。

 

 

「久シブリノオ客サンダカラ張リ切ッチャッタアル」

 

 

料理を作った黄黄は照れながら傍らに立っている。

 

 

「このお肉美味しいです。何の肉ですか?」

 

「豚アルヨ」

 

「へぇ~豚ですか............豚っ!?」

 

 

十兵衛が食べたのは酢豚である。

 

 

「コッチハ牛肉アル。食ベルガヨロシ」

 

 

黄黄は牛肉の野菜炒めのようなものを十兵衛に出す。

 

 

「これは.....」

 

 

十兵衛は思わず涙する。

日本では食するのが禁止されている、牛豚の肉。それを初めて食べたのだ。言葉にならない程に猛烈に感動している。

 

 

「母上に食べさせてあげたい.....」

 

 

一方、天竜の方は.....

 

 

「この酢豚、味が薄いな。もう少し調味料を足したらどうだい?この麻婆豆腐も辛さは全然ないし、香辛料は何を使ってる?ラーメンは麺がパサパサしてて粉っぽいし、スープもはっきり言ってお湯のようだ。小籠包も蒸しが足りてない。中まで熱々だからこそ小籠包の美味さが染み出してくる。どれもこれも料理として人様に出すには未熟だね.....」

 

 

未来で完成された中華料理を食べていた天竜にとって、この時代の中華料理は未完成品。黄黄に対しダメ出しクレームを出しまくった。

 

 

「随分と辛口なことだ.....」

 

 

義輝も呆れる。

 

 

「ちょっと天竜!!なんて無礼な!!」

 

 

十兵衛が慌てて黄黄に向き直ると、彼女はプルプルと震えていた。

 

 

「謝りなさい!!せっかく作っていただいた料理を無下にするなど.....」

 

「アリガトウ!!」

 

 

思ってもいないような返答が来る。

 

 

「黄黄、ズット自分ノ料理ニ違和感持ッテタアル。黄黄ノ料理ハ本当ニ美味イカ、皆ソウ思ッテルカズットワカラナカッタアル。義輝は剣バッカデ味音痴ダシ.....」

 

「悪かったな味音痴で」

 

「ダカラコソ、キチントシタ味覚を持ツ人ニ感想ヲ聞キタカッタアル。アリガトウ!」

 

「そりゃどうも」

 

「...........」

 

 

どうも腑に落ちない十兵衛である。

 

 

「といっても、料理が下手というわけでもない。味付けさえ完璧に出来れば、これらの料理はようやく完成する。それに一部の料理には、この時代にはない新しいものまである。未だ未熟とはいえ、その若さでここまでの腕なら、将来有望の立派な料理人になれるだろうよ。今の年は?」

 

「17アル。コンナニ褒メラレルナンテ初メテアルヨ」

 

「上出来だ。ほんの10年努力すれば、君は世界一の料理人だ」

 

「ソンナ、世界一ダナンテ恥ズカシイアル」

 

 

これぞアメとムチである。

 

 

「むしろ誇っていい。

..........そうだ!!義輝、僕が勝負に勝てば黄黄も貰っていいかい?」

 

「別に彼女は私の所有物じゃない」

 

「天竜サンノ所ニ!?ソレハウレシイ誘イアル!天竜サンハ明料理以外ニ知識ハアル?」

 

「日本料理は勿論、朝鮮料理や印度料理、欧州料理、米国.....はまだないか。そんなとこ」

 

「ジャア沢山教エテアル!天竜サンガ沢山教エテ、黄黄ガ沢山作ッテアゲルアル!」

 

 

まるでこれから結婚するかのような会話だ。

 

 

「こら!堂々と浮気すんなです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜間。

 

 

「まさか同じ寝床だとは.....」

 

「ふっ.....夫婦と間違えられたみたいですね」

 

 

用意された寝床は日本にはないベットのようなものだった。ただし、1つだけ.....ここで初めて黄黄に感謝する十兵衛。

 

 

「しょうがない.....僕は床に寝るから十兵衛使っていいよ」

 

「は!?.....駄目です!!天竜は私と一緒に寝るんです!!」

 

「うっ.....うん?.....」

 

 

強引に押し切られ、一緒に寝る羽目に.....

 

 

「黄黄は本来、監視役として明政府に送り込まれたらしい」

 

「監視役?」

 

「義輝は前とはいえ元将軍。日本の上に立っていた男だ。明政府は彼を人質にして日本を取り込もうとしてたんじゃないかな。

......といっても、あの剣豪将軍を力で人質にするなんて不可能だからね。保護という名目で間接的監視してたんだろうねぇ」

 

「あの少女が.....」

 

「ところが、黄黄はそんな明政府に嫌気が刺し、命令を無視。事情を説明して義輝に逆に保護して貰ってたみたいだ。さっき僕にも事情を話してくれてた」

 

「へぇ.....」

 

「んで、明政府にも目を付けられちゃったもんだから、そろそろ旅行という名目で国外逃亡を計画してたんだと。僕が日本への亡命案出したら、喜んでたよ」

 

「相変わらず、勝手に物事を進めますね」

 

「でも条件は、僕が義輝との勝負に勝つこと。黄黄の為にも日本の為にも頑張らなくちゃ」

 

「貴方ならできますですよ」

 

「う~ん。剣豪将軍の実力っていうのがイマイチ分からないからなぁ.....姉ちゃん並の強さだったら僕勝てないよ」

 

「大丈夫です。私と今まで互角に渡り合ったのは松永久秀ぐらい。その久秀があの義輝殿を追い詰めたのです。ところが、貴方は私の実力を軽く上回っている。義輝殿よりも強いはずです!」

 

「どんな方程式だよ!?

それにそれって大人の僕でしょ?

今の僕でも倒せる保証ないでしょ!?」

 

「そりゃあ...........そうですけど.....」

 

「え~.....(~_~;)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぅ~.....すぅ~.....」

 

 

天竜も寝息立てるような真夜中。

 

 

「天.....竜.....」

 

 

十兵衛が寝ている天竜に口づけをする。

 

 

「えへへへ。いつものお返しですぅ!」

 

 

そうして十兵衛もまた満足して眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕が起きてたなんてバレたら殺されるかな.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦当日。

 

 

「昨夜はよく眠れたかな?」

 

「うん.....まぁ」

 

「寝不足を敗退の理由にはされたくないのでね」

 

 

義輝は完全に勝つ気だ。

 

 

「あのさ~。勝利報酬の確認だけどさ~。僕が勝てば、あんたは日本に帰国。妹を説得し、黄黄をくれるんだろ?あんたが勝てば、この話は無かった事に。僕らは大人しく日本に帰ればいいの?」

 

 

なんだか義輝側のメリットが少ない気がする。

 

 

「いや、日本にはどちらにしても帰るよ。この勝負はいわばけじめだ。剣豪将軍と謳われた私が、よくも知らぬ少年の言うことでノコノコ帰ったなんて.....笑われてしまうからな」

 

 

義輝は己の愛刀を鞘からゆっくりと抜く。

 

 

「男同志の真剣勝負の果て.....の方が格好良いだろう?」

 

「な~るほど」

 

 

一方、天竜の刀は。

 

 

「十兵衛、刀貸してくんない?」

 

「ふぇっ!?私の!?」

 

「慌てたから、自分の愛刀を日本に置いてきちゃったんだよ。持ってるのは、安物のナマクラだし、十兵衛のはそこそこの名刀でしょ?」

 

「そこそこなんて失礼ですね!

私の持つ刀「明智刀」は明智家に代々伝わる名刀であり、遡れば土岐源氏の時代の.....」

 

「じゃあそれでいいや。貸して」

 

「うぅぅぅ.....」

 

 

十兵衛は渋々天竜に刀を渡す。

 

 

「刃こぼれ一つでも付けたら許さないです!」

 

「剣豪将軍との真剣勝負で刃こぼれ無し!?そりゃ難し過ぎるよ!」

 

 

天竜は軽く刀を振ってみせる。

 

 

「まぁ、こんなとこか」

 

 

そして、両者が向き合う。

 

 

「準備はできた?」

 

「とうにできておる」

 

 

2人の剣士がその得物を構える。

 

 

「いくよ!」

 

「よし来い!」

 

 

次の瞬間、天竜が俊足にて義輝に急接近する。

 

 

「うりゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

右斜め上からの剣撃が義輝を襲う。

だが、義輝は何ともないようにそれを受け流す。

だが.....

 

 

「もう一丁!!」

 

 

手首のスナップを利用して直様刃を返し、左下に流れた刀がそのまま引返して来る!

 

 

「くっ!!」

 

 

義輝はそれを刀で防いで守る。

 

 

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」

 

 

同じように左斜めからの剣撃、そしてそこからの返し、真横からの剣撃とその返し、下からの剣撃とその返し、それが連続で行われ、義輝に隙を与えない。

これぞ高速剣。

 

 

「おりゃあ!!!」

 

 

とどめの突きが義輝を襲う。

義輝はそれもなんとか防いだが、衝撃で吹き飛ばされてしまった。

 

 

「朧月光流剣奥義、長月!」

 

「ほう.....これは予想以上だ」

 

「すごい.....」

 

 

十兵衛は天竜の勢いに蹴落とされ、その場を動く事すらできなかった。彼女は一度天竜と木刀にて勝負をしたが、彼は実力の半分も出してなかった。そこから10年分若返り、その分の実力も下がっているはず。にも関わらずこの強さだ。

 

 

「こちとら急いでんだ!

早めに決めさせて貰うよ!」

 

 

再び動く天竜。

 

 

「睦月!」

 

 

身体を軸に、回転しながら剣撃を喰らわす。一撃を防いでも回転して来た二撃目が襲い、さらに三撃、四撃と攻撃が止まらない。

 

 

「オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!」

 

「いけーーー!天竜!!」

 

「いけね!!目ぇ回った!!」

 

「天竜!?」

 

 

これが弱点でもある。

 

 

「はははは!大丈夫か?」

 

 

あれだけの攻撃を喰らわしたにも関わらず、義輝は至って平気な様子だった。

 

 

「あ~畜生!!

こうなったら次だ!!」

 

 

天竜が刀を下段に構える。

 

 

「水無月!」

 

 

地面スレスレまで刀を身体を下げ、相手が極めて狙いにくい状態に持っていく。そして、敵の無防備な足を狙う。

 

 

「甘いな」

 

「なっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、何が起こったのか分からなかった。天竜は突然目の前に現れた義輝の刀を避けるのが精一杯で、その最中に何が起きていたいか、全く分からなかった。

 

 

「これが朧月光流か.....」

 

 

天竜は刀を持っていなかった。刀は義輝の足の下にあったのだ。

義輝は瞬速にて来る天竜の剣撃を足で踏みつけて止め、ガラ空きになった天竜の身体に義輝の剣撃が振り下ろされたのだ。

天竜が咄嗟の判断で刀を手を放さなければ、肩からバッサリいっていたに違いない。

 

 

「武士の魂たる刀を踏みつけたのは謝ろう。だが.....」

 

 

義輝は足元の刀を手に取り、天竜の方へ放り投げる。

 

 

「剣術が特殊過ぎる。並の剣士なら、今のような剣術で楽に倒せていただろう。だが、私には返ってそれが読みやすい」

 

「なんだと!?」

 

 

放り投げられた刀を受け取る天竜。

 

 

「こんなものか?朧月光流は」

 

「.....!?」

 

 

天竜がギリリと歯ぎしりをし、柄を強く握り締める。

 

 

「撤回しろ!!朧月光流がこんなものだと!?」

 

「どこの流派かは知らぬが、この程度では私は倒せんぞ?」

 

「てめぇ!!」

 

 

天竜は頭をバリバリと掻き毟り、表情が一変する。

 

 

「朧月光流は僕と青蘭が何年も修行してやっと身につけた勘解由小路家の伝統の剣術!!それを侮辱するというのなら!!平安から千年続く賀茂の伝統を汚されたも同じ!!

万死に値する!!!」

 

「ほう?」

 

「天竜っ!?」

 

 

目が釣り上がり、真っ赤になっている。十兵衛はこの様子の天竜を一度見たことがある。安土城にて天竜の初の顔合わせの際、天竜の術を侮辱した良晴に対して、この状態になり、大規模の術を連発するという事件が起こっている。

 

これが天竜の激怒。

 

普段そこまで感情を変化させない天竜だからこそ、一度プッツンすれば、歯止めが効かなくなるのだ。

 

 

「コ・ロ・ス!!」

 

 

目的すらも忘却する程だ。

 

 

「朧月光流、卯月!」

 

 

天竜が刀を中断に構え、それを一気に突き出す。これぞ彼が最も得意とする攻撃技、「突き」。

だがそれでも、義輝は何ともないという様子で.....

 

 

「この程度か!」

 

 

超高速と言ってもいい彼の突きを受けても、冷静に対応する義輝。

 

 

「なめんじゃねぇ!!!」

 

「.....突きが...........増えてる?」

 

 

それまで一回に一突きだった突きが、一回に二突き、三突きと増加しているのだ。

 

 

「三段突きか.....これなら読めても防ぐのは難解であろう。だが、私にとっては毛が生えた程度の物!」

 

 

剣豪将軍堕ちず!!

 

 

「誰が三段突きだってぇ?」

 

「なっ!?」

 

「くっ!?」

 

 

三段と思われた突きの段数がさらに増加したのだ。

 

 

「四段突きだと!?」

 

「まだまだまだまだまだまだ~!!!」

 

 

五段目に突入する。

 

 

「あはははははははははははは!!!」

 

「まだ増えてるです.....」

 

 

既に六段目に突入している。

 

 

「あはははははははははははははは!!!」

 

 

大笑いを挙げているが、表情は激怒モードのままである。

 

 

「撤回しよう!確かに君とその剣術は相当なものだ!だが.....」

 

「あはははははははははははははは!」

 

 

 

「それでも私にはかなわない!!」

 

 

 

天竜のマシンガンのような蓮撃を受けながらにして、義輝はとある構えをとる。

それに一早く気付いたのは十兵衛である。

 

 

「天竜!!避けて下さい!!」

 

「あはははははははははははははは!」

 

 

興奮している彼の頭にはそんな言葉は入ってこず.....

 

 

 

 

 

 

「鹿島新当流奥義.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜!!」

 

 

 

 

 

「一つの太刀!!」

 

 

 

 

 

一つの太刀の前に、六段突きなど小技であるのか、一瞬にしてそれらの蓮撃を打ち払い、彼の凄まじい攻撃を喰らわせる。

 

 

「うぐわぁっ!!?」

 

 

咄嗟の判断により、天竜は左腕で身体を庇う。だが、そのせいで.....

 

 

「天竜!!」

 

 

義輝の凄まじいまでの攻撃を前に、天竜は吹き飛ばされてしまった。

 

 

「峰打ちだよ。先程までの無礼は許してほしい。だが、私も実力の高いを持ち合わせた剣士との真剣勝負は久しぶりでな。気持ちが高ぶっていたらしい」

 

 

そう言って、義輝は刀を鞘に仕舞う。

勝ちを確信したのだ。

 

 

「天竜!」

 

 

十兵衛が慌てて彼の下に駆け寄る。

天竜は仰向けに倒れながらも未だ右手で刀を握り締め、戦闘の意欲を保っている。ところが、彼の左腕は決して曲がってはいけない方向へと折れてしまっているのだ。

これでは碌に刀も持てないだろう。

 

 

「天竜と言ったか.....君は決して弱くはない。だが、私と相対するには実戦不足のようだな」

 

「ぐぐぐ.....」

 

 

既に立ち上がる気力もなさそうである。

 

 

「では、日本に戻るとしよう。君の怪我も早めに治療せねばな」

 

 

 

 

 

「待って下さい!!」

 

 

 

 

十兵衛が天竜の持っていた刀を取り、義輝に向け構える。

 

 

「家臣の失敗は主君が補うもの!!

今度は私の番です!!」

 

 

義輝はそれを聞いて、やれやれというような表情で見返す。

 

 

「お嬢さん、止めておいた方がいい。今の勝負は見ていなかったのかい?」

 

「私の剣の師は雲林院松軒!!

私も新当流の剣士です!!」

 

「なんと!?それは驚きだ。

助平の松軒殿が数年前にいい幼女を手に入れたと自慢していたのが懐かしいなぁ!」

 

「今度会ったらとっちめてやるです!!」

 

 

師弟生活を終えてから碌な話を聞かないので、どんどん師匠への忠誠心が削がれている今日この頃である。

 

 

「将軍様、御覚悟!!」

 

「同門のよしみだ。仕方ないな」

 

 

義輝は再び刀を抜く。

 

 

 

「「一つの太刀!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!!ここまでですか!!」

 

 

試合時間実に5秒!!

凄まじい剣撃が互いを相殺しあったのだが、最終的には義輝が十兵衛の刀を弾き飛ばして終わりとなった。

 

 

「天竜はこんな相手と戦ってたですか.....」

 

「もうよいだろう?

私も其方達の誇りにいつまでも付き合うわけにはいかぬ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんじゃねぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十兵衛の真後ろから天竜の怒号が響く。

 

 

「勝負は終わりだぁ!?

俺との決着はまだだろうが!!」

 

 

一人称も変化するほどの激怒ぶりだ。

 

 

「俺らの誇りに付き合えないぃ?

真剣勝負は手前ぇから持ちかけたんだろうが!!」

 

 

天竜は十兵衛から刀を奪い取り、構える。だが.....左腕は至って折れたままで、ダランとしている。

 

 

「今度は君が私を侮辱する気かい?

片腕で何をするつもりだ?」

 

「グチグチうるせぇな~。

やってみろよ逃げ将軍」

 

 

今の言葉には、流石の義輝も堪忍袋の緒が切れる。天竜が骨折しているのもお構いなしに斬りかかってくる!

 

 

「天竜!」

 

 

十兵衛の叫びも虚しく響く。

 

 

 

「一つの太刀」

 

 

義輝が素っ立っている天竜に刃を振りかざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

完全に勝利を確信していた義輝。

怒りのあまり刃で斬りかかってしまった事に後悔もしていたりもしていたが、そんな心配は全く必要なかったようだ。

義輝は天竜に対し、一太刀すら浴びせられなかったのだ。しかも、義輝の頬には一筋の切り傷が.....

だが、義輝にとってはそんな事などどうでもよく.....

 

 

「きっ.....貴様!!その技を何処で!?」

 

「どうでもいいよ.....そんなの.....」

 

 

天竜は義輝に向け、刃を向ける。

 

 

「あんたを倒すのはあくまで朧月光流だ!」

 

「ふん!おもしろい!!」

 

 

義輝もまた刀を構える。

 

 

「見せてみよ!!朧月光流とやらを!!」

 

「言われずとも!!」

 

 

次の一手が、この真剣勝負の終焉に繋がるであろう.....

 

 

 

 

 

「鹿島新当流!!」

 

「朧月光流!!」

 

 

 

 

 

「「奥義!!!」」

 




だいぶ前に天竜が使った剣術、「皐月」「神無月」の伏線を回収しました。
今回までで12技中、8技が公開されたわけですが、残りの4技も是非とも楽しみにしていて下さい!
次回予告
剣士としての覚悟
~朧月光流こそ天下無双の剣技なり~

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