途中ついて行けなくなるかもしれませんが、
ご了承下さい。
良晴は悩んでいた。大谷吉継は歴史上でも有名な秀吉の子飼いの将だ。三成に続き、彼女までもが天竜側に回ったのだ。
このままでは、将来的に自分に仕官するかもしれない武将。もしかすると、既に仕官している半兵衛や鹿之介達も、彼に吸収されるかもしれない。そうゆう予感が彼の脳内をよぎった。
「むっ.....村上武吉と!?」
天竜は十兵衛らに自分が単独で行っていた事を話す。昨日の一件があった以上、個人で解決するには無理があると悟ったのだ。
「この戦は時間次第で織田が勝つ事は充分あり得る。だが、終わる頃にはどちらもズタボロだ。その調子で四国や九州に攻め込むには無理がある。東から武田や上杉が攻めて来ても、四国部隊が本隊に加わる事は不可能だ」
「むぅ.....始めは何と無謀なと思いましたが.....和平.....案外いい案ですね」
「既に宇喜多家の動向は漏れている。毛利軍が上田城から移動を始める前に対処せねば.....」
「今日、天竜は村上武吉と会うのですよね?」
「.....あぁ」
「私達も会います!」
「何っ!?」
「こんな状況で貴方が襲われるのはどう考えてもおかしいです!その主犯の正体はきっと村上武吉です!」
「そうとは限らない」
「というか、その大谷吉継という娘に聞けばいいのではないですか?」
「いや.....刺客は元とはいえ、雇い主の正体を言ってならないのだ」
「そんなの!主君である貴方への裏切り行為でしょう!」
「そう言うな。この口の堅さは将来的に、吉継が敵に捉えられた場合にでも発揮されるだろう。それだけ信用できるものがある」
そう言って、吉継の頭を撫でてやる。彼女は頭巾の下でそっと頬を赤らめた。
「じゃあ、どうするですか!」
「...........どちらにせよ武吉と会ってみよう。これはそれ程単純なものではない気がする」
「はぁ.....」
その頃の安土城。
「備中の宿屋で火事が起こり、あの男が巻き込まれたとか.....」
「えぇ.....」
「凪殿の仕業でしょうか?」
「.....分からないわ」
「でも、よりによって備中で巻き込まれるとは.....やはりあの男は毛利と繋がっていたのですね」
「それもまだ分からないわ」
深く思慮する信奈と長秀。
「問題なのはシロ以外に怪我人が出た事よ。もしこれが凪の仕業で、命令したのが私だと明るみになったら.....」
「只事では済みそうにありませんね」
「ったく!もっと穏便に済ませなさいよ凪!」
備前と備中の境目にて。
「ごはぁっ!!」
「「天竜様!?」」
また刺客が来る可能性もあったため、両側に三成と吉継を配置し、「|||」このような形で移動していた3人。そんな時、刺客とは別に大きな問題が立ちはだかる。
天竜が吐血したのだ。
この異変に驚愕する2人。
天竜は必死に、落馬しないように踏ん張っている。
「どうゆう事だ三成!天竜様は病人なのか!?」
「いえ、術の反動らしいです。私も最近知りましたが、天竜様は他人の知らない所で苦しんでいるのです」
「うるせぇ.....あんまベラベラしゃべんな.....あいつらにばれたらどうするんだ.....」
天竜がぜぇぜぇと息切れしながら言う。
「天竜様!今すぐ療養すべきです!
今日の会談も中止なさりませ!」
「今更、療養しても無駄だ。数日だけ寿命が増えるだけだよ.....」
「そんな.....せっかく真の主に会えたと思ったのに.....」
落ち込む吉継の頭を天竜はそっと撫でてやった。
「心配すんな.....何もすぐに死ぬわけじゃない。お前らを放置して死んだりはしねぇよ.....」
まだ.....大丈夫なはずだ.....
備中、とある港。
「ここですか?」
「あぁ。ここで落ち合う事になっている」
結局来たメンバーは、
天竜、十兵衛、良晴、三成、吉継、半兵衛、官兵衛の7人だった。
これだけ揃えば、天竜も安心できる所があるが、固まれば返って危険という事もある。
「天竜様.....」
「大丈夫だ三成.....今はだいぶ落ち着いた」
今はもう大丈夫。それが偽りである事は天竜自身が1番よく知っていた。
「それにしても.....貴方達兄弟はよく似ていますですね」
十兵衛が突然言う。
「「ん?」」
「先輩は、半兵衛と官兵衛という智将を側につけ、
天竜は、三成と吉継という智将を側につけている」
確かにこの状況の2人はよく似ている。
と、天竜と良晴は思う。
「そして、何かと問題に巻き込まれる」
天竜と良晴はお互いに見合う。
「それと、女癖の悪さもです!(怒)」
「「うぅ.....」」
何かと姫武将にモテる良晴と、何かと姫武将を誘惑する天竜。方法は違えど、意外と似ている。
「というより、俺が天竜さんを目標にしてるからなのかなぁ」
「..........俺も実際、お前のせいで性格が改変してきているような気がするのだが.....」
己の生き様を見つめ直していた、
その時。
「羽柴秀長だな?」
気づけば天竜らは20人近い男達に囲まれていたのだ。
「そっちこそ、村上軍の者らか?」
「あぁ。武吉様は船でお待ちだ」
「船?」
連中の1人が指した先には、村上水軍の軍船が船舶していた。
「お前らはここに残れ。どう見ても怪しい」
「天竜!」
「いえ、お連れの方も同船しろとの事です」
「武吉がか?」
「はい」
「おう来たか天竜」
船に乗った途端、船が出港してしまい、7人は焦ったが、船上には会談用のような場所が用意されていたので、7人は渋々それに従う事に.....
「昨日と違って今日は豪勢だな!
貴方は明智光秀。そっちは羽柴秀吉かな?」
「そんな事はどうでもいい!昨日の答えを聞かせてもらおう!」
「まぁ、待て。せっかくだ。酒でも飲んでけ」
「ふざけるな!!答えは2択だ!
受けるか!受けないか!
さっさと答えやがれ!!」
「.....天竜?」
十兵衛は気づいた。天竜がぜぇぜぇと息切れしているのを.....
「答えは『受けない』だ」
「何っ!?」
「すまんなぁ。これはうちの姫さまの命令なんだ。悪く思うな」
「そうか.....」
普通ならここで終わりだった。だが.....
「話す事はそれだけじゃないはずだ!」
「ん?」
「とぼけるな!昨日の火事の話だ!」
「..........」
既に天竜は正気を失っていた。今までの状態が嘘だったかのようのに興奮している。さっきの吐血がきっかけだろう。
「お前の仕業だろう!正直に言え!!」
「ちょっと天竜!」
「そうだよ」
「..........何?」
「刺客を送り、それごと焼き殺そうとしたのは俺だ」
天竜は反射的に吉継の顔色を見る。頭巾で覆われていたが、その内では、怒りの表情が隠されていりのが分かった。
「て.....てめぇ.....!!」
「そこの頭巾ちゃんは誰かと思ったら紀之介かよ。よくもまぁ堂々と生きてるなぁ」
「くっ....」
「てめぇ!!!」
天竜は懐からマグナム銃を取り出し、武吉に向ける。
「どうゆうつもりだ武吉!!」
「ただの上等手段だ。ここでお前を始末できれば、毛利は確実に有利になる」
「だからって.....俺とお前の仲だったじゃないか!」
「それは直家が死ぬまでな.....」
「何っ!?」
「直家を殺したの、お前だろ」
その後、良晴らが一斉に天竜の方を向く。
「てっ.....天竜さん.....嘘だよな.....?」
良晴は信じられないという表情で天竜を見る。
「......................本当だ」
「天竜!!!!」
その次の瞬間、良晴が敵前にもかかわらず、天竜に掴みかかった。
「どうして!!どうしてだよ!!」
「...........」
「あんなに.....あんなに仲良さそうにしてたじゃんか!!」
「それは過去!もう過ぎた事だ!」
「過去だって!?」
「今更死んだ人間の事をぐちぐちと言うな!くだらねぇ!今は戦国!人1人の命の価値は極々小さい!」
「それを貴方が言えるのですか!」
発言したのは十兵衛である。
「死んだ妻の亡霊にいつまでも取り憑かれてたのは貴方じゃないですか!」
その発言に天竜が吹き出す。
「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!
そんなものお前を口説くためのでまかせに決まってるだろう」
「なっ.....」
「あの流れを作れば、お前が俺に俺に惚れるのは計画通りだった!女など単純だからな!」
「...........そんな」
十兵衛の瞳から涙が流れる。
「てめぇ!!」
「はん!たかが歴ゲーオタクのクズが!よくもいけしゃあしゃあと、俺を目標にしていると言えたものだな!」
良晴にまで暴言を吐く天竜。
「くすんくすん。最低です」
「鬼畜とはこの事だね」
半兵衛官兵衛も呆れた声を出す。
「...........まさか」
「..........」
三成と吉継は何か別の事に気付いたらしい。
「わっはっはっはっはっは!!!
ついに化けの皮を剥がしたな!
野郎共!!こいつらをまとめて片付けちまえ!!」
すると、刀を持った連中が続々と出現する。
「じゃまだカス!」
天竜は良晴を突き飛ばし、再び武吉に銃口を向ける。
「死ね!村上武吉!」
武吉は弾丸が発砲される直前まで、ニヤニヤとした表情をしていた。
「なっ!?」
弾丸は確かに武吉の額に当たっていた。
だが、弾丸は飴玉のように張り付いた。その後、ポロリとそれが落ちた。
「くそっ!!」
そこから次々と弾丸を発砲する天竜。だが、その全ての弾丸が飴玉のように張り付くだけで、彼を傷つける事に成功した弾丸は一つも無かったのだ。
「まさか!?」
「くくくくく.....」
武吉の額2本の角が現れたのだ。
角が現れたのは武吉だけじゃない。船員全員が鬼人化したのだ。
「て~んりゅう♫」
船の奥から声が聞こえる。
微かに幼さが残るものの、内に邪悪さを持った、天竜の知る声が.....
「お前は!?」
「相良良晴も久しぶり。今は羽柴秀吉かな?」
「土御門.....久脩.....」
若狭戦にて、1度天竜を倒したものの、復活した彼によって惨めに倒された少年陰陽師。土御門久脩。
かつて「金ヶ崎の退き口」にて良晴を死の寸前までに追い込んだ過去もある。
「貴様.....また鬼を作ったのか.....武吉が豹変したのはお前のせいか!!」
「ううん?この新しい鬼達は、きちんと自意識を残してる。そして、従来の鬼人や羅刹よりもずっと強い「鬼武者」さ」
「鬼武者?」
「久脩.....お前は俺が老いぼれに変えたはずだ。何故元に戻っている?」
「それは彼のお陰さ」
「.....!?...........主水!!」
「おっひさ~☆紀伊以来だねぇ!」
久脩の後ろから現れたのは、天竜の宿敵。松山主水。
「半兵衛ちゃんも久しぶり~☆」
「主水さん.....」
半兵衛が哀しみの表情で彼を見つめる。
「茶番は終わりだよ!まずは天竜を殺して!」
「ごめんね天竜くん。僕より久脩くんの方が立場が上だから逆らえないんだよ☆残念だけどね」
「ちっ.....!」
天竜はサブマシンガンを召喚した。
「上等だお前ら!」
天竜が叫ぶ。
「やっちまえ!!!」
武吉の掛け声が鳴り響く。
1分後。天竜の両腕が宙を飛んだ。
「がはっ!!」
「あははははは!!
惨めだねぇ!」
「ちっ.....宿儺か?」
「当たり!☆血肉を媒介にしたんだ。勿体無いけど、本体を封印されちゃ、元も子もないからね☆」
「くひゃひゃひゃひゃ!!上等上等!」
敵は天竜にのみ集中していた。その間、良晴らは被害を避け、船頭の方まで避難していたのである。
「シム。どちらも化物だね」
「...........」
良晴は傷付いて行く天竜を見て、複雑な思いだった。憎しみがあれば、哀れみもある。殺してやりたいという気持ちもあれば、死んでほしくないという気持ちもあるのだ。
「おめぇら.....『どろろ』って知ってっか?」
すると、天竜の切断された両腕の断面から刀の刃が飛び出てくる。
「お前らは邪魔だ。消えろ!」
「「「うわぁっ!!?」」」
天竜が睨みつけたかと思うと、次の時には良晴らは海の方まで吹き飛ばされていた。
「ん~?優しいねぇ☆逃がしてあげたんだ?別にいいけど☆」
「困るよ~!天竜の次は、弟の秀吉。その次は竹中半兵衛を惨殺しようと思ってたのにぃ!!」
主水と久脩が対象的な言動をする。
「ふふん。主水、俺の中のお前の評価が上がった気がするぞ?」
「そりゃどうも☆」
「ええい!五月蝿い!!武吉!さっさと天竜を殺してよ!!」
「そう簡単にいくか!!」
天竜は体を軸に、回転しながら斬りかかっていった。
「うわぁ!!溺れるですぅ!!
.....................あれ?」
沖のど真ん中に放り出され、てっきり溺死するかと思っていた十兵衛。だが、自らが不思議な泡によって水面に浮かび上がっている事に気づく。それは良晴らも同じだった。
「これは.....」
『拙者が岸まで送ってさしあげよう』
宙に浮かんだ狩衣姿の謎の人物が言う。
「あんた確か.....Tレックスの人!」
良晴が叫ぶ。
『暴君竜です。秀吉様以外とは初対面かな?我が主の式神でござる』
そうして、元いた港にまで流されてきた一行。
「..........なんであんたが俺たちを?あんたは天竜さんの式神なんだろう?」
『何故と問われても、我が主の命であるゆえ』
「天竜さんの命令!?」
さっきの応対からは、とても考えられない。
「そうか、やっぱり!
吉継ちゃん!」
「相わかった!」
三成と吉継が何かを確信する。
「暴君竜殿!私達をさっきの所まで戻して下さい!天竜様をお助けしなければ!」
「ちょっと、三成ちゃん!あんな奴助けに行く事ないよ!君らだって利用されてたんだよ?」
良晴がそう言うと、三成は怒りを露わにする。
「何処まで無能なんですか貴方は!」
「えっ?」
「何故あの時、天竜様が暴言を吐いて、貴方達を引き離したかまだ分かりませんか!!」
「天竜が.....」
十兵衛もまた耳を傾ける。
「天竜様はもう永くないんです!術の影響のせいか、寿命がどんどん削られ、今では吐血が日課となる程に.....」
「えっ.....」
『事実だ。我が主は孤独であるゆえ、死す時には人を遠ざけ、生者に未練を残させたくないのであろう』
「そんな.....」
「天竜ぅぅぅ!!!!」
十兵衛の叫びが虚しく響き渡る。
「死出魔術発動!!」
「「「ぐえぇぇぇ!!!」」」
天竜周辺の4人の「鬼武者」が一瞬にして髑髏に変えられる。
「ようやく、くたばったか.....」
天竜は身体に無数の刀を突き刺し、仰向けに倒れていた。両足もまた切断され、そこからはショットガンのようなものが生えている。切断された断面に召喚し、接合したのだ。
「.....にしても、とんだ化物だったなぁ」
武吉がそう呟く。30体近くいた「鬼武者」は、すでに8体近くまで減らされていた。22体は天竜の死ぬ気の抵抗によって撃退されたのだ。
「よもや.....天竜がここまで強かったとはね.....」
天竜の骸を見下し、呟く久脩。
「寿命切れがなければ、もう少し強かったと思うよ?☆だから勿体無いって言ったのにぃ☆」
「君みたいな戦い好きじゃないからねぇ僕は。僕の目的は、勘解由小路家の滅亡と天竜への復讐だからね」
『我の一族を滅ぼすとな?片腹痛いぞ小僧』
突然、足元の天竜から声がする。
久脩が反射的に彼を見るが、天竜は依然として骸であって.....
『たかだか狐の小僧が笑死。我と同等を語るか』
「誰だ!?どこにいる!?」
「これは☆.....」
『我の御姿を拝謁したいと?
ならよいさ.....こんな時には「冥土の土産」とでも言うか?ふくくくく.....』
すると、天竜の周りに黒い霧が出現し、彼を覆う。
『来たな.....』
遠く離れた港にて、暴君竜が呟く。
「まいったねぇ☆こりゃあ.....」
『ふくくくくく.....
あははははははははははははは.....
あひゃひゃひゃひゃひゃhたひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!』
霧の中から高笑いが聞こえる。
だが、その高笑いは天竜のものとは違う、女性のものだった。
「あれは.....」
霧が晴れた。
腰まで伸びる黒く、一直線な長い髪。
漆黒の西洋のドレス。
五尺八寸の長身。
死体のように白い肌。
まるで人形の如く整った顔たち。
『我こそが月読命なり』
「暴君竜殿!早く私達を船に戻して下さい!」
「私も!火事場にて救われた恩を今こそ返還したい!」
『お断りする。ここで其方らを護衛する事が拙者が我が主より与えられた命である』
「「そんな!!」」
『それ以前に無理だ。今あそこに戻れば貴方達だけでなく、拙者も殺される』
「「え.....」」
『讃えよ!我が名を!!
恐れよ!我が挙動を!!
その身に刻むがよい!
我、真の魔王、神たる、
月読命の名を!!』
「月読命~?だから何?」
『む?』
「どうせ君は、天竜の作ったマヤカシだろう?今更そんなので僕が驚くと思う?」
『ほう?』
「おいおい.....知らないよ?そんな事して☆」
だが、久脩は挑発を続ける。
「天照大御神とかならまだしも、月読命~?そんな不人気の神の名を語るなんて馬鹿じゃない?くすくすくす.....」
『我が不人気.....馬鹿.....か』
「あ~あ.....僕知~らない☆」
「前と同じで、僕を脅すだけで何も出来ないんでしょ~?」
『ふくくくくくくく.....
ここまで我をコケにした阿呆は数千年においても貴様ぐらいだぞ?』
「もう芝居はいいよ。誰かあの幻覚女を殺しちゃっていいよ!」
そうして鬼武者の中の1人が斬りかかる。月読命はただただ微笑しながら.....
『我が息子は鬼を髑髏に変えたらしいな?では我は髑髏のみを消し去ってやろう!』
「へぎゅわっ!!?」
月読命がその鬼武者に指差したかと思うと、その鬼武者は急にパタパタになってそこに崩れてしまった。
「えっ?」
『小僧。我を脆弱と罵ったか。その代償に貴殿は何を我にくれる?』
「えっ?えっ?えっ?」
月読命が1歩1歩近付いてくる。ゆっくり、ゆっくりと.....
女はただただ微笑しながら.....
「うっ.....嘘だろ!?.....まさか本物!?」
「僕は怖いから帰るね☆」
危機を察知して主水が霧のように消える。
『まだ成熟もしない餓鬼か。美味そうだ。生肝はどれほどの味だろうか?』
「ひっ.....ひぃっ!?」
ついに久脩の目前まで移動してきた。
『恐怖か?よいよい。
真の恐怖は生肝をよりよく味付ける』
「重力制御!!」
5000Gの重力が月読命にズシンとかかる。
『うむ、良いぞ。肩こりには丁度良い』
「そんな.....」
5000Gの重力を、月読命は防ぐ事も、避ける事もしない。攻撃そのものが効いてないようだった。
『では生肝を貰おうか』
そうして、久脩の胸をその手で貫いた。
『今しがた.....土御門久脩が死んだ』
港にて、暴君竜が言う。
「えっ?では、天竜様が!?」
『いや.....我が主はもう.....』
「そう。天竜くんは死んだはずだ。彼の中に何故彼女が?☆」
「「「松山主水!!?」」」
船に乗っているはずの主水が良晴らの真後ろにいたのだ。三成、吉継が構える。
「おっと!☆僕は君らに危害を加えるつもりはないよ。今回の事だって反対していたしね☆」
「誰が信用するか!お前が天竜様を追い込んだ一味には変わりあるまい!」
三成が叫ぶ。
『そうか。お前も奴らと同類か』
「ひぃっ!?月読命!?☆」
これまた船にいたはずの月読命が、主水のさらに後ろに現れる。
「ぼっ.....ぼぼぼ僕なんかより!
あの船に残っている連中を食べた方がよくないっすか!?☆」
『もう食うた』
「.....あらそう☆」
『1人だけ海に飛び込んで逃げた男がおったが、こちらの方が楽しそうだ』
「きっと村上武吉だね」
官兵衛が言う。
「それよりあんた誰なんだよ!!」
「天竜はどこ行ったですか!!」
良晴と十兵衛がそれぞれ叫ぶ。
『ほう。ここにも我に無礼な者らがおったか』
その呟きを聴いて、慌てて暴君竜が間合いに入る。
『お納め下さいませツキヨミ様!
この者らは無関係にございまする!』
『おう、賀茂忠行。其方も我が子孫なら、我が臣下に入り、今上制覇の手助けをするがよい!」
「そんな.....」
半兵衛が唖然とする。賀茂忠行は勘解由小路家の始祖。かつては、安倍晴明の師匠を務めていた事もある大陰陽師である。
『残念ながらお断りする。我が主の命は絶対である!』
『我を愚弄する気か?』
『生肝だろうが何だろうが持っていけばよい!だが、我が主の「良晴達を守れ」という命だけは絶対でござる!!』
「天竜さんが.....」
『くははははははははは!!!!
とんだ忠誠心だ!そこまで我が息子に惚れ込んだというか!』
良晴の脳内が混乱する。天竜さんの.....母親?
「そんな事より!
貴方は一体誰ですか!
天竜はどこ行ったですか!!」
『天竜?.....あぁ、あいつの名か。
あいつならもう、死んだぞ?』
「....................え?」
「勝手に..........殺すな」
「「「!!?」」」
月読命の中から声がした。
『なんだ、生きていたのか。
死ぬまでが契約だからな。特別に出してやろう』
すると、月読命の両腕に抱きかかえられる形で天竜が出現する。その姿は見るも無残であった。手足は斬られ、身体には無数の刺し傷が.....まるで達磨のようであった。
月読命はそっと天竜を地面に置いた。
「天竜!!」
十兵衛は彼の身体を抱き起こす。
「十兵衛..........良晴..........ごめん.....」
「「えっ?」」
「酷い事言った..........言って後悔してる.....」
「いいです!そんな事どうでも!!」
十兵衛は涙を流しながら叫ぶ。
十兵衛は心で確信していた。自分はこの男が好きなのだ。誰よりも1番.....
「あぁ..........ツキヨミ.....俺はあとどれくらいだ?」
『指で数える程度だ』
「そうか..........良晴」
「なっ.....なんだよ?」
「どちらにせよ.....俺を見習わない方がいい.....むしろ反面教師に生きてゆけ.....」
「..........」
「十兵衛.....」
「天竜.....?」
天竜は首をグイッと伸ばし、十兵衛にキスをする。
「どうかしてるのかな..........本当に好きになっちまってた.....みたいだ」
「天竜!?」
「十兵衛...........ありがとな.....」
「天竜?」
「..........」
「天竜ぅぅぅ!!!!」
天竜、2度目の死である。
『では、その肉体を貰おうか!』
「.....イヤです!!」
『殺されたいのか小娘』
「お前何なんだよ!!」
良晴も我慢出来ずに叫ぶ。
『我は月読命である。
朧.....天竜とは契約によって結びついておった』
「契約?」
『うむ。天竜が生きてる間、我は彼奴に力を与え、死す時には彼奴が肉体を献上するという契約をな。だから貴様如き小娘に邪魔される手立てなどないのだ』
「良晴さんも光秀さんもそのお方に逆らっては駄目です!」
半兵衛が言った。
「月読命様は天照大御神の妹君に当たるお方!月を象徴とした夜の神!本来ならお話をして頂くだけでも有り難いお方なのです!」
『ほほう。この世にもまだ、我が威厳を理解する人間がおったか!』
「えっ!?嘘っ!!神様!!?」
今まで残虐な言動しか聴いていないので、悪魔か何かと思っていた良晴。
『いい加減諦めよ小娘。天竜は既に昇天した。空の肉体が残っている今、我が有効活用するのが最も効果的ぞ』
「私は小娘じゃない!明智光秀です!!
死んでも天竜は渡さない!!」
『では.....望み通り殺してやる』
「十兵衛ちゃん!!」
『駄目でありんす。ツーちゃん』
『ちっ!.....貴様か』
今までは天竜の前にしか現れなかったはずのアマテラスが、良晴達の前に堂々と現れる。
「かっ.....一益ちゃん!?」
姿形は鹿角を除けば、一益や姫巫女に瓜二つ。だが、世の中には同じ顔の人間が3人いるという。別人である。それもそのはず、このアマテラスこそが、一益や姫巫女の祖先なのだ。
『わっちは天照大御神。気軽にアーちゃんと呼んでも良いぞ?くすくすくす』
それを聞いて、急に暴君竜が跪いた。
『頭が高いでござる!このお方こそ、太陽神!天照大御神であらせられる!!』
そう言われ、慌てて跪く良晴達。
十兵衛はただ、天竜にしがみついたままで.....
『ツーちゃん知ってるか?人間は心臓が止まっても、脳は7分間は活動を続けるでありんす。その間に天ちゃんを蘇生させれば、契約はまだ続くのではなかや?』
『そんなこと!例え姉上でも許さぬぞ!!』
『何を言うか。まだ7割も回復してないくせに天ちゃんが死にそうになって慌てて出てきたのではないかえ?』
この2人の神。見た目だけなら明らかに月読命の方が年上なのだが、どうやらこちらの方が妹らしい。
『くっ.....どうするつもりだ?』
『くすくす.....わっちに直談判してきた可笑しな老婆が出てきたのよう』
「可笑しな老婆とは滑稽じゃのうヒヒヒ」
「英賀のおばば!?」
「おばばさま!?」
良晴と官兵衛が叫ぶ。
現れたのは芦屋道海。官兵衛と良晴。
そして、天竜の師匠である。
「ヒヒヒ。寿命が無くなったのなら、継ぎ足せば良いのじゃ」
「「「寿命を継ぎ足す!!?」」」
『ふん!人間風情が!
空になった肉体に寿命を継ぎ足す事など、我にもできん!』
「わしなら出来ますとも.....
自らの命と引き換えに、残りの寿命をな.....」
「「なんだって!?」」
「前の時には、あと100年生きられると豪語したが.....実際はあと10年程しか生きられんのじゃ」
道海は語る。
「長寿の秘薬の効力はあくまで延命。
それで不老不死にはなれん。
薬の使い過ぎで、小僧同様に身体にガタが来てな。これ以上はどうにもならないのじゃよ」
「そんな.....」
「老いぼれの死にゆく婆と、
まだ未来への希望がある若者。
どちらの生命を優先すべきか。
それは明確じゃろう?」
「駄目だおばば様!」
官兵衛が耐えきれずに道海に走り寄り、
しがみつく。
「陰陽術をまた始めていい!
南蛮科学はもうしない!
キリシタンも辞めたっていい!
だから....だから!!
おばば様が死ぬなんて駄目だ!!」
「こりゃ、たわけ者!!」
「ひっ.....!?」
「官兵衛!ぬしの悪い所は、そのように自分勝手な所よう!陰陽術同様、南蛮科学もキリシタンも!一度やり始めたなら最後までやり通せ!!」
「はっ..........はい!」
官兵衛への説教の後、道海は天竜の骸の前に座り込む。
「此奴は悪党じゃ。此奴のせいで多くの罪なき者が不幸になった。それは認めてる。
...........だが、此奴のお陰で幸福を得る者も多いのも、これまた事実」
「おばばさま.....」
「英賀のおばば.....」
「前鬼は、陰陽師や妖怪の時代は終わりと言うたが............
こんな陰陽師がいてもわしはいい気がする!」
そうして道海は十兵衛が抱く天竜の胸に手を置いた。
「芦屋流陰陽術!神霊台!!」
『我はつまらん!帰る!』
そうして月読命は煙のように消えてしまった。
『ツーちゃんへそ曲げちゃったでありんす』
そして何時の間にか、松山主水も消えていた。
そこには、横に倒れる道海。それにしがみついて大泣きする官兵衛。それをただただ見つめる良晴、半兵衛、三成、吉継。ぐったりとする天竜を抱える十兵衛。
そして.....
「天.....竜.....?」
「すぅ.....すぅ.....すぅ.....」
呼吸が再開している。
「てっ.....天竜さんが.....」
生きている。生き返ったのだ。
天竜は生きかえったのだ!
立派に生気を取り戻し、失ったはずの両手足、ズタズタだったはずの刀傷が再生している。
さらに.....
「若返っている!?」
『10年の寿命.....そうゆう事かや』
天竜は若返っていた。27歳だった天竜の身体は、良晴と同じくらいの17歳の身体に.....
「どうゆう事だよ!?何で天竜さんが.....」
「きっと、寿命を戻したんでしょう。天竜さんの寿命は27までで止まってしまった.....だからこそ、年齢を戻したのでしょう」
「年齢を.....戻した!?」
混乱した良晴に半兵衛が説明する。
前から美形であった天竜は、完全な美少年になっていた。
「天竜ぅ!!天竜ぅ!!」
十兵衛はただひたすら、生き返った天竜に抱きつき、泣いている。
この備中にて、一つの物語が終わる。
そして新たな物語が始まる。
天竜を若返らせる案は前からありました。
若者が多いこの原作世界において、主人公達と年の離れた、道三や弾正はバンバン死んでるのに対し、10代20代のキャラはほとんど不死身。
このままでは、天竜が死んでも、悲しみが半減するのではないか!?
そうゆう考えから、このアイデアが生まれました。
キャラの改変により、読者さんの混乱も避けられませんが、
これからのNEW天竜をどうぞよろしくお願いします。
4章でまたお会いしましょう。
次回予告
少年天竜の冒険(前編)
~失われた10年を取り戻せ!~