「だ~か~ら~!天竜はんには雑賀衆に入って欲しいんや!」
「阿保か!俺は大和の大名だぞ!」
「え~!!さっきに見せてもろうた鉄砲の精度.....よほど達人でもああはならんで?」
「『二重撃ち』の事か?」
「そうそれや!先に撃った遅い弾の後ろから速い弾をぶつけて、破片を大量にばら撒くなんて.....」
「あのなぁ!!お前の立場分かってんのか?」
ここは大和。第2天竜塾。
摂津の第1天竜塾は小次郎に任せ、天竜はここで塾長を勤めている。弟子達が、過労死寸前の天竜を案じて移籍を提案したのだ。
といっても、天竜の授業を求めて摂津からの転校生も大量やって来たのも事実である。
天竜がこんな事を出来るのも、若狭勢鎮圧から天竜軍が一気に暇になったからだ。いや、暇にされたというのが正しいか.....
天竜軍の戦力拡大に危機管理を感じた長秀が信奈に通告しているのである。
「俺らは今、敵同士。こんな所で談笑してるんなんておかしいだろ?」
ここは天竜塾の職員室。孫市が急に訪れたので、急遽授業を切り上げ、今に至る。
「昨日の敵は今日の強敵(とも)っていうやんか」
「なんでやねん!」
「おっ!天竜はんも漫才するんか?」
「違う!身内にも関西娘がいるから移るんだよ!」
策士な天竜にとって、このように常識の通じない相手は苦手なのだ。
「うちも暇やねん。あんたのせいで未だににゃんこう宗とは仲悪いし、折角平和になったのに、漫才も南蛮蹴鞠もさせてもらえへんのや」
「それは悪かったな」
「まぁ、顕如とはお忍びでたまに会っとるんやけど.....」
「お忍びで敵国に愚痴を零しにくるのもどうかと思うがな」
「まぁまぁ、堅いこと言うなや」
「ちっ.....」
そこで天竜は思いつめたように語り出す。
「織田信奈は侵略を命令したが、俺は同盟によって紀伊を手に入れたいと思ってる」
「ふ~ん」
「紀伊には有力な大名がいない。代わりに力を持った2大勢力が存在する」
「雑賀衆と根来寺かいな?」
「他にも国人がちょこちょこといるがな」
「紀伊は厄介やで。根来寺だけやなく、高野山も強い力を持っとる。まぁ.....本猫寺にはかなわんけど」
「あぁ.....って!何でお前がこっち側なんだよ!」
「そういやそうやな」
ペースを狂わされ、イラつく天竜。
「この流れだと、雑賀衆は織田に協力してくれるのか?」
「う~ん。それは嫌やな」
「何でだよ」
「『織田さんに協力』なんて言ったら、まるきり雑賀衆が織田の家来みたく扱われるかもしれへんやん」
「まぁ、否定はしないな」
「天竜はん個人との同盟なら大歓迎なんやけどな!」
「なんじゃそりゃ」
「うちは本気やで」
「..........」
2人は真剣な顔つきになる。そして天竜は懐からとある用紙を取り出す。
「こいつ等を量産してほしい」
「なんやなんや?.....『雨陰千重洲陀』と『さらぶれっど』?さらぶってなんやねん?アラブ馬とはちゃうんか?」
「アラブ馬とイギリスのハンター馬を配合させた新馬だ。まだ世界に雌雄二頭しかいない」
「えげれす?そんな南蛮の国からよう持ってこれたな」
「まぁ、フロイスのつてでな」
「どうせなら大和で育てりゃええんやないの?」
「俺は今、信奈に目をつけられてる。雨陰千重洲陀同様、以前と違い、下手に動けばすぐに差し押さえられる」
「ふ~ん」
「頼めるか?」
「ええけど、うちらもお零れは貰えるんやろな?」
「あぁ、構わない」
「金はいくらまで出すん?」
「先程言ったように、下手に金を動かす事は出来ない。代わりに雨陰千重洲陀千丁をやる。それだけあれば量産もしやすいだろ?」
「まいどおおきに。交渉成立や」
「まずは雨陰千重洲陀で肩慣らしだ。成功すれば、次はもっと新型の鉄砲にも挑戦してみよう」
オリジナルを少数召喚し、後はこの時代の技術で大量生産させる。そうすれば少ないコストで未来兵器が盛大に用意できる。
「同盟の条件やけどな。南蛮蹴鞠でどうや?」
「は?」
「いや、今まではうちしか参戦してなかたんやけど、雑賀衆にも興味を持ち始めた輩が多くなってきたんや。.....でも、本猫寺とはもうできひんから、困ってたとこなんや。天竜はんも南蛮蹴鞠は知ってるやろ?」
「ん。まぁ、授業にも取り入れてるからな」
「やっぱ相手は経験者の方がええんや。本猫寺みたく、定期的に試合してくれるんなら同盟もいいで?」
「そんなんでいいのか!?」
「ええよ?戦で血みどろより、試合で汗まみれのほうが気持ちええもん!それで解決するなら平和万歳や!」
石山戦争時の地獄を経て、思い至ったのだろう。
「いいだろう。開催日はいつにする?」
「10日後でどうや?」
「分かった。それまでに選りすぐりの11人を集めておけよ?」
「そっちもな!」
とりあえずハル、小次郎、武蔵、ヒコ、阿斗、吽斗、佐介、大吾、良晴あたりでいいか。
「根来寺はどないするん?」
「今、大和の仏教衆と調停中だ。上手い具合に仲を作って根来寺との繋がりも用意してもらうよ」
「ふ~ん。まぁ頑張れや!」
「あぁ」
織田信奈や良晴では、仏教衆との仲を持つ事は到底無理だろう。信奈は仏敵。良晴はその愛人というのが世間一般の印象だ。だが、天竜は違った。
翌日、大和国。興福寺。
そこの坊主達は天竜についての噂話をしていた。
「新しい大和国の当主、羽柴秀長。本当に大丈夫か?」
「あの悪名高き松永の後釜だぞ?善人のはずがない!」
「しかもあの貪欲の塊、羽柴秀吉の義兄だ」
「でも安土城を襲ったと聞くぞ?」
「何月前の話だ!.....あぁ、思えば安土城の建築材料という名目で数々の仏像が没収され、砕かれた。なんといたわしや」
「そういえば、『黄泉帰りの白夜叉伝説』もあるが.....」
「話では、その羽柴秀長が今日、この興福寺を訪問するらしい」
「ふん。どうせ、金をよこせとでも言ってくるのであろう!」
そうして、天竜は興福寺に入った。
「今日はお招き頂き有難く思う」
「「「えっ!?」」」
何をされるかと身構えていた坊主達に対し、天竜が来て早々お辞儀をしたのだ。
「「「こっ.....こちらこそ!」」」
坊主達もハッと気付いてお辞儀を返した。
「失礼する」
「あ.....」
天竜はスタスタと前進し、仏像の前に立つ。何をするかと心配していた坊主達だったが、天竜はその場で仏像にもお辞儀をしたのである。そしてその場に正座をし、手を合わせる。
その光景を見つめていた坊主の誰もが直感した。この方は敵じゃないと.....
「いやぁ!秀長様は陰陽師であられましたか!」
興福寺の門主と談笑をする天竜。
「仏敵の松永弾正と大違いの秀長様が大和国を治めるれば安泰ですな!」
「それ程でもない」
「ところで、現在根来寺との交渉中だとか?」
「あぁ、今日はその事で相談に来た」
すると、門主は難しい顔をする。
「秀長様。私達興福寺は『法相宗』本尊は
『釈迦如来』です。対し、根来寺は
『新義真言宗』本尊は『大日如来』です」
「では無理なのか?」
「いえ、同じく仏教徒です。心から我らが訴えたのなら、聞いて頂く事はできるかもしれません」
「すまないな」
「いえ、秀長様のお心は我らにきちんと響いております」
「こう言うのもあれだが、信奈様の仏教嫌いは異常なのだ。『神仏習合』により、如来様は天照大御神と同一。つまり、姫巫女様への冒涜と同じなのに」
「秀長様もそう思われてましたか.....確かに、比叡山のように間違った信仰で金を巻き上げていた悪僧共もいましたが、だからといって全ての仏教がそうとは限りません!本猫寺のように、笑いにより人々に平和をもたらしたり、我らのように、貧困にまいった人々を保障したりなど、良き仏教徒は沢山いるのです」
「それは理解している」
「それらを全て同一に蔑み、理解しようとしない織田信奈こそ妖怪!日の本を巣食う悪鬼羅刹なのだ!」
プッ!と天竜は吹き出しそうになる。
『日本を救おうと尽力している者が、傍らでは日本を巣食う者だと思われているのだ』
「そんなに言っちゃ信奈様に失礼だよぉ?」
「順慶様!?」
寺の奥から誰かがやって来る。
「順慶.....筒井順慶か!?」
「ん?何で私の名前知ってるのぉ?」
見た目は、ちょっと長い袖の袈裟を身につけ、ノホホンとした表情の少女、筒井藤勝順慶。年は15~6歳ぐらいだろうか。本来なら天竜ではなく、この順慶が大和国を統治するはずだったのだが、未だ見ないと思ったらこんな所にいたのか.....
「松永久秀が大和の大名だったせいで、ずっと出れなかったんですよぉ。おまけに三好三人衆と同盟してたせいで信奈様にも睨まれちゃうしぃ.....」
そういうことか。久秀によって居城の筒井城を奪われ、大和から追い出されたという。大和奪還のために三好三人衆と組んだため、信奈と組んだ松永久秀に撃退されてしまったのだ。
「お陰で久秀が死んだ後も筒井城には戻れませんでしたぁ.....」
史実では、信長は完全に久秀と対立したために、久秀と対立していた順慶を仲間として迎え入れたが、信奈は未だに久秀を想っているらしく、久秀の敵だった順慶は信奈にとってもまだ敵なのだ。なんとも哀れな事だろうか。
「筒井城か。元は其方の城だ。早急にお返ししよう」
「.....!?ありがとうございますぅ」
順慶の表情がパァー!!と明るくなる。
「やっぱり秀長様は素晴らしいお方ですぅ」
「やっぱり?」
「見る目はあるんですよぉ?」
似たようなセリフを最近聞いたな。
「秀長様は興福寺の後ろ盾が欲しいんですかぁ?」
「あぁ」
「じゃあ。私のお願いをもう一つ聞いてくれたら、興福寺を動かしてあげますよぉ?」
「お願い?」
「順慶様!」
「じゃあ門主様は私のお願いを叶えられるんですかぁ?」
「うっ.....」
筒井順慶はこの興福寺の門徒だというが、彼女の地位は門主よりも上だというのか?
「構わない。そのお願いとは?」
「今宵。私の部屋にお越し下さぁい」
その夜。
「なるほどな.....」
そこには1人分の布団2つの枕。と程よい明るさの灯火。これは.....
「秀長様.....私の初めてを奪って下さぁい」
「ほう」
順慶は既に枕元で三つ指を揃えている。服装は寝間着。天竜も既に用意されていた寝間着を着ている。直前に坊主から手渡された時に大体の想像はできていた。
「いいんだな?」
「はい.....」
天竜は順慶を布団に寝かせ、彼も隣りに寝転がる。彼女は頬をほのかに紅潮させている。
「残念ながら、この房事で其方が俺に愛を求められても応える事は出来ない。それでも?」
「構いません」
「では.....」
天竜は順慶の上位をとる。そして、順慶のサラリとした髪を撫でる。
「可愛らしい顔をしてるな」
「..........」
信奈や十兵衛のような明るい美少女ではなく、月下美人のような印象であった。
「ん!.....」
天竜は順慶の首筋に口付けをする。続いて鎖骨に口付けをする。胸はそこまで大きくないようだった。
「あれ?」
天竜は異変に気がつく。
「うわぁっ!!?」
そして、真後ろに飛び退いた。
「きっ.....貴様!」
彼女の隠された秘密とは.....
3日後の近江。とある道中。
「全く.....安土城の帰りに天竜さんに会うなんてなぁ」
「お忍びで安土城に何をしに行ってたんだ?逢引きか?」
「なっ!!そんなわけないだろ!!.....信奈に播磨の戦況について呼ばれたから行ってただけだよ」
「ほう」
「天竜さんは?」
「最近、妹達と顔を合わせてなかったからな。長浜まで挨拶に.....」
「暇だねぇ.....」
「お前も少しは顔を見せておけよ?シンの奴.....お前の事益々嫌いになってるぞ?」
「うぅ.....俺はあの子に関しては諦めてるよ.....」
「手遅れになる前に仲直りしといた方がいいぞ?あって損する兄弟の絆なんてないからな」
「う~ん。そもそも何で俺たち仲悪いんだろうか?」
当然、天竜が裏で秀俊に教え込んでいるからである。
「さぁな」
「ねねはどうしてた?」
「いつも通りだ。城で1番年下なのに、母親みたいな態度で他の皆を仕切ってたぞ?」
「へぇ~」
その時、1匹の蜂が。
「うわぁっ!?蜂だ!」
良晴が狼狽えた所、蜂は一直線に天竜が乗っていた馬の鼻筋に針を刺す。
ヒヒーーーーンッ!!!
と突然馬が暴走。急に走り始めた。
「うわっ!!うわぁぁぁ!!!」
「いかん!今すぐ飛び降りろ!!」
「うぇっ!?.....やぁっ!!」
だが、その時手綱が尻尾に引っかかり、良晴は宙ぶらりんになってしまった。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ありゃりゃ」
3時間後。ようやく落ち着いた馬の元に天竜が近寄る。恐る恐る見てみると、なんと良晴はまだ引っかがっていた。
「ひぅ..........たす.....けて」
天竜は無言で良晴を降ろしてやる。
「なんか..........すまん」
「尻尾..........もう.....いらない」
良晴は汗で全身ビショビショだった。
「仕方ない。近くに寺があるようだからそこで休ませて貰おう」
「.....うん」
近江、観音寺。
「すみませんね住職。1部屋借りちゃって」
「構いませんよ。あの偉大な秀吉様と秀長様がお越しになられてこの程度のお持て成ししかできず、返って申し訳ありません」
「いやいや」
その時、良晴が起きてきた。
「うぅ.....頭痛ぇ.....」
「良晴。起きて大丈夫なのか?」
「ちょっと寝て楽になったよ」
「お構いなく。ゆっくりしていって下さい」
「「はい」」
その時、一人の少女がお盆に湯呑を2つ乗せ、やって来る。
「よろしければ.....」
「お!喉乾いてたから丁度いいや!」
「貰おう.....」
良晴は何も気にせずお茶を飲み、天竜は何かを思っている。お茶は、大きな茶碗にぬるめが入っていた。
「すまないが、もう一杯貰えるか?良晴は?」
「あぁ。俺も飲みたい」
「分かりました.....」
そうして少女は再び2杯の湯呑を運んでくる。
「おっ?なんか飲みやすくなったぞ?」
「あぁ.....」
2杯目のお茶は先程のお茶より少し熱めのお茶に、茶碗の半分くらいの量で出してきた。
「すまない、もう一杯くれ」
「天竜さん喉乾いてんの?じゃあ俺も.....」
「はい.....」
そうして3杯目を運んでくる少女。小さな茶碗に、湯気の立ち昇る熱々のお茶を入れている。天竜と良晴はそれも旨そうに飲み干した。
「ぷふぁ~!旨かった!3杯も飲んじまった
.....................あれ?これって.....」
良晴もようやく気付いたようだった。
「ところでお嬢さん。君の名前は?」
聞いたのは天竜だった。
「.....?私の名前は『佐吉』です」
その返答にピクリと反応する2人。この子は
『三茶の佐吉』こと、石田三成なのだ。
史実では、秀吉が信長から与えられた休暇を利用し、鷹狩りをしていた帰りにて寄ったこの観音寺にて、三成と出会ったのだ。秀吉にその才能を見出された三成は、秀吉の子飼いの将として尽力し、五奉行の1人まで出世。関ヶ原の戦いにて徳川家康と天下分け目の争いをするまでに至る、忠義の将として知られている。
秀吉の肩代わりをしている良晴には、どうしても手に入れておきたい逸材だ。
「なぁ、佐吉。俺の所に来ないか?」
「え?」
「お前には才能がある。こんな所で眠らせてちゃ勿体ねぇよ」
「そんな.....私なんかが.....」
その話を聞き、住職が急に興奮する。
「なんたることか佐吉!!羽柴様からの
お誘い.....光栄なかぎりであるぞ!お前の才能はわしですら凄いと思う。是非仕方させて貰いなさい!」
「住職様.....分かりました。私を連れて行って下さい!」
「そうかそうか!」
こうして、佐吉の羽柴家入りが決定したのだった。
しかし.....
「てっ.....天竜さん!?何やってんだよ!?」
今までの台詞は史実で秀吉が三成を口説く時に言った台詞。良晴もそれを言おうとした所だったのだ。だが、先に言ってしまったのは、史実では全く関係なかった羽柴秀長。天竜だったのだ。
「佐吉よ。これからは俺を天竜と呼ぶがいい。
身内は皆そう呼ぶ」
「はい天竜様!!」
信じられないという表情で天竜を睨む良晴。
「天竜さん.....あんたは一体何を.....何をするつもりなんだ.....」
翌日。摂津、第一天竜塾。
「全く信じらんねぇ!!」
「だから謝ってるだろう」
「普通に考えて俺に譲るだろ!?」
「おいおい。佐吉はモノじゃないぞ」
「こっちは真剣に話してるんだ!!」
「..........」
良晴は想像以上に怒っていた。
「天竜さん.....俺に協力してくれるんじゃなかったのか?なんだって自ら歴史を狂わせてんだよ!?」
「..........昔、日本史の授業で.....」
「.....!?」
天竜は急に昔話を始める。
「『石田三成は秀吉に仕官しなければ、同僚に忌み嫌われる事なんてなかった。仕官しなければ、関ヶ原で処刑される事はなかった』と言っていたのはお前じゃなかったか?」
「うぅっ.....!!.....確かにそんな事言ったけど、それとこれとは.....」
「同じだ。石田三成が秀吉に仕え、
敗軍の将になるのか.....
秀長に仕え、未知の道を辿るのか.....」
「俺は!!.....三成を敗軍の将になんか.....そもそも関ヶ原の戦いなんて起こさせ.....」
「よくもまぁ、確証の無いことを宣言できるな」
「くっ!!」
「安心しろ。俺に仕えさせたからには敗軍の将になんてさせないさ」
「天竜さんのその自信はどっから湧いてくるんだよ.....」
結局、良晴は天竜に丸め込まれて、石田三成を取られてしまった。
「ところで良晴。ホモのお前に頼みたい事があるのだが.....」
「....................は?」
今、信じられない2文字が混ざってたような。
「抱かれたがってる奴が1人いるんだ。
相手してやってくれ!」
「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て!!!!!!
何で俺がホモって前提で話が進んでるんだよ
!!!?」
「ん?3度の飯より男根が好きなお前が何を.....」
「年上だから自重してたけど.....
あんた一回死ね!!!」
話は3日前の興福寺に遡る。
「きっ.....貴様.....」
「..........」
順慶にお願いされ、順慶を抱こうとしていた天竜は、あるとんでもない事に気がつく。
「貴様.....女じゃないな!」
「..........やっぱり」
上半身だけなら誰がどう見ても、女性だと答えるだろう。だが、下半身には女性にはあってはならないモノが.....
「秀長様もお断りになるんですね.....」
「ばっ.....!!女だと思って近づいた奴が男だったら誰でもこんな反応するわ!!」
「男じゃないですぅ」
「いや、男だろ!!」
「体は男の子でも、心は女の子ですぅ」
ようするに御釜..........
ゲフンゲフン!!男の娘なのか.....
「抱いてくれなきゃ興福寺は後ろ盾にはなってあげませんよぉ」
「なっ!?」
興福寺で、門主以上に発言力を持っている順慶.....本当だろう。
「待ってくれ!!.....五日だ!!五日だけ心の整理させてくれ!!」
「五日ですかぁ.....」
そして今日が四日目。
「という事なんだ」
「あんたが抱かれろ!!!!!
何サラッと人に押し付けようとしてんだよ!!」
「嫌です。無理です。男は流石に.....」
「俺だって嫌だよ!!他に方法ないの!?」
史実では水攻めしてまで奪い取った紀伊。それが交渉だけで解決するのなら、これ程ベストなものはない。
「あぁ!!生きる為に何人もの女は抱いてきたが、男だけは専門外なんだ~!!」
「.....おい!?今とんでもない事をカミングアウトしなかったか!?」
「頼む良晴!!数学の成績を5になるようにしてやるから.....」
「ヤダ!」
「じゃあ、全教科オール5にしてやる!」
「ヤダ!」
「貴様!抱かなきゃ全教科オール1にして、お前から単位を剥奪して留年させるぞ!!」
「なんつ~脅しだよ!!
社会的に抹殺されるぐらいなら留年上等だよ!!」
結局、解決しないまま五日目がきてしまった。長浜城に寄ったのも、同性愛者を探す為だったのだが、見つからなかった.....
「秀長様.....」
順慶は今日もうっとりとした顔をして天竜に擦り寄る。真実を知らなければ、誰がどう見ても美少女なのだが.....
「何故私の身体は男なのかなぁ」
「..........」
「私は自分の事をずっと女の子だと思ってましたぁ.....でも、どれだけ男性を求めても誰も応えてくれない.....」
おそらくこの子は「同一性障害」なのだろう。
以前、この子を御釜などと思ってしまった自分を恥じる。
「せつない.....せつないのです秀長さまぁ.....」
涙目で訴える順慶。
それに対し、天竜は抵抗する理性をついに押し殺した。
「.....藤勝」
「.....ん!?」
順慶の幼名を呼び、彼女(彼)を抱きしめる。
ついに天竜の方が折れてしまった。
「.....脱がすぞ?」
「.....はい」
天竜は順慶の寝巻具を脱がし、下着に手をかける。目を瞑り、そっと脱がせた。
「あっ.....」
天竜はそっと目を開ける。そこには予想していたモノがついていたのだが.....
「こっ.....これは!?」
男のモノだけがあるのだと予想していた。
だが、そこには女性のモノまで存在していた。
「睾丸性女性化症候群!?」
昔読んだ、何かの小説に登場していた気がする。本来ならば、男子として生まれるはずだったのが、遺伝子の異常で女子の身体も同時に持ってしまったのだ。乳房もよく確認すれば、男性のものというよりは女性に近い。
男子と女子、両方の生殖器を持つ。男でも女でもない。人間としても未完成な、哀れな存在。当然、生殖能力は持たない。
「藤勝っ!!」
「ひっ.....秀長様!?」
天竜は順慶を思い切り抱きしめた。その目には大粒の涙が.....この涙は本物と信じたい。今まで嘘ばかりをついてきた俺の本当の気持ちをさらけ出したい。
「藤勝!藤勝!藤勝!藤勝!藤勝!藤勝.....」
仕切りに彼女(彼)の名前を呼んでやる事しか出来なかった。そして、自分の愚かさを知った。自分程度の不幸を地獄と呼んでいた自分が恨めしい。俺はただ運が悪かっただけ.....
この子は産まれた時点で地獄が決定していたのだ。それに対し、俺はまるで俗物のように他人に押し付けようとしていたのか.....
あぁ!愚かさの分だけ自分を殺したい!!
「秀長様.....秀長様.....」
順慶もまた、涙を流しながら天竜を求めた。彼女(彼)は誰かに認めて貰いたかったのかもしれない。
「私は人間だと.....男でも女でもないのなら、せめて天竜にだけは女として見てもらいたいと.....」
「藤勝.....」
「ん.....」
天竜は順慶に口付けをした。これには、愛などなかったかもしれない。ただの同情だったかもしれない。だが、天竜には順慶の想いを素直に受け止めてやるのが最大の優しさ認識する。
「秀長様.....」
「天竜でいい.....」
「天竜様.....」
この夜だけは、この2人は男女の間柄でいられたかもしれなかった。
翌朝。
天竜と順慶は同じ布団で朝を迎える。
「藤勝.....」
「はい。天竜様」
「本当に俺で良かったのか?もっと理解のある奴ならお前の事を愛し.....」
天竜が言おうとしたのを順慶は人差し指で止めた。
「天竜様がいいんです。私を認めてくれた.....
一夜だけでも女にしてくれた天竜様が.....」
そんな彼女(彼)を天竜は再び抱きしめる。
「お前は女だ!誰が何と言おうと俺が証明してやる!」
順慶はまた泣きそうになり、天竜の胸に顔を埋めた。
「藤勝.....俺は作りたい。お前と同じような悩みを持つ人も堂々と生きていけるような国を!世界を!」
「天竜様ならできます.....」
「手伝ってほしい!俺の天下取りを!」
「勿論」
天竜はまた一つ決意した。
もう、順慶のような社会的弱者が阻害されるような世など見たくない。俺が変えてやる。俺が作ってやる。真の天下を.....
この子らを真に考えてやれる天下人は俺しか.....天竜しかなれないであろう。それが望みなら、全ての弱者の希望なら俺が叶えてやる!!
「その為には倒れてもらうぞ、織田信奈!!」
題名と違って、メインは筒井順慶でした。
作中で語った小説とは「リング」のことです。
実在の症状なので不謹慎と思われるかもしれませんが、私は至って真面目です。これは、天竜の野望が、決して私欲なものではなく、必死に生きる全ての人達を守るためなのだと、読者さんに改めて理解して貰う為なのです。
その為に天竜は自ら悪人を演じているという事を忘れないでいて下さい。
次回予告
紀伊第2次南蛮蹴鞠大会(前編)
~裏切りの○○~