天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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10巻を読んだ所、猫耳と尻尾を失った顕如が原作と私の作品でキャラがだいぶ違う事に気づきました。まぁ、9巻からの想像で書いたのでしょうがありませんが.....


第十一話 謎の告白

その日は大学の剣道の試合だった。

すでに決勝の大将戦。当然、私が大将である。

対戦相手を見ると、中々な好青年である。

試合が開始と同時に私は踏み込む。そして、私は気づいた。

こいつ.....弱いな。

たった一回竹刀を当てただけだが、それだけで実力が分かってしまったのである。この試合軽いな。.....そう思った時、

「ヒロ~頑張れ~!!」

対戦相手の恋人と思わしき女性が応援しているのが、目に入る。

そして、その天才的頭脳で全てを理解する。

今俺って.....悪役?

ポジション的にどう考えてもそうだ。だが、私は悪人じゃない。

ここは勝ちを譲るべきなんだろうか?そうして、悪役でない事を証明すべきでは?

何を考えてるんだ私は.....

そうだ!私にも応援してくれる女性はいる!

現在交際中のお見合い相手が!

「..........」

その席は空席だった。

風邪で今日は来れなかった事を今更思い出す。

「「勝って下さい先輩!」」

後輩の事など正直どうでもいい。これは私のメンツの問題だ。

適当に竹刀を振っていた所、対戦相手の面に当たってしまった。

「面アリ!!」

弱過ぎるだろ!?

私が強過ぎるのも問題であるが.....

 

「ヒロ~」「先輩~」「ヒロ~」

 

「先輩~」「ヒロ~」「先輩~」

 

「ヒロ~」「先輩~」「ヒロ~」

 

プツンッと切れてしまった。

コンマ1秒後には私の突き技が決まっていた。

 

「「「やりましたね先輩!」」」

 

「うるせぇよ。雑魚ども」

 

「「「え.....」」」

 

そして、対戦相手には、

 

「剣道は棒遊びとは違うんだぜ?

うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「くそっ!」

 

 

そうして私は心の中で泣いた。

 

「もう.....悪役でいいや」

 

この日から私の悪人デビューが始まったかもしれない.....

 

 

 

 

 

 

第十一話

 

大和の国にて。

 

 

「じゃあ、あんたは本当に関係ないんだな?」

 

「えぇ。私が信奈様の不利になるような事なんてしませんわ」

 

「松山主水とも会った事はないのか?」

 

「えぇ.....私より未来人の貴方の方が詳しいのではなくて?」

 

「いや、知らない事はない。

松山主水。美濃の生まれの剣閣だ。一時は織田家に仕えていたようだが、詳しい話は知らん。確か江戸時代の.....あっ、確か祖父も同じ名前だったからそっちか.....」

 

 

天竜が思案する。彼が鬼族の正統な子孫だとかいう話も、この話し相手に伝える。

 

 

「鬼族.....それに宿儺鬼ですか.....」

 

「なにか分かるか?」

 

「天竜殿は名のある術師の一族は皆、妖怪の子孫だという事はご存じで?」

 

「あぁ、安部は妖狐。賀茂は龍神。芦屋は天狗」

 

「そして私は蛇神です。そして、松山は鬼」

 

「それは『鬼人の術』とは違うのか?」

 

「全く別物です。鬼人は他の術師が鬼の力を欲して作り上げた紛い物にすぎませんから.....本物の鬼にはかなわない。そして宿儺鬼」

 

「『日本書紀』に登場する化物。大和朝廷の兵士によって飛騨に封印されたというが.....」

 

「どうやら封印を解いちゃったみたいですね」

 

「まいったな。そんな奴が相手なのか.....」

 

「あら?龍神は鬼すらも統治する程の強さだったと聞きますよ?」

 

「俺はそこから血がかけ離れ過ぎている。主水の方が血は濃いだろう」

 

「ふふふ」

 

 

天竜は大和のとある茶屋にいた。その店先である人物と待ち合わせをし、こうして会話しているのだ。その相手は誰もが納得するような美少女で、童顔ではあるが、煙管を吸っているので、大人の雰囲気が漂う。はたから見れば、美男美女がこうしてお茶を飲んでいる光景であり。通りかかった人物は皆、それに見惚れてしまう。

 

 

「それにしても、貴方の方が噂は凄いですよ?

『黄泉帰りの白夜叉』さん?」

 

「まぁな」

 

「仏教徒からも切支丹からも大評判ではないですか。神の生まれ変わりだと.....まさか本物の龍神にでもなるつもりですか?」

 

「そのまさかだよ」

 

「ほう.....」

 

「人々の指示を得るには、人間離れしたような行動が必要だ。『軍神謙信』『魔王信奈』のようにな。だが、それでは畏怖の念しか得られない。俺が欲しいのは、信仰心だ」

 

「あら?新しい宗教でも始めるつもりで?」

 

「いいや。民衆および兵からの指示が欲しいのさ。切支丹の指示する、イエス・キリスト。にゃんこう宗の猫神がしかり。処刑の3日後に蘇ったキリストが如く、鉄砲で撃たれても平気な猫神が如く、首を斬り落とされても3日後に蘇った神として俺が誕生する」

 

「へぇ~。でも、そのために一度命を落としたのは、高くついたのでは?」

 

 

その質問をされ、天竜は数秒間黙り、再び口を開く。そして驚くべき真実を告げる。

 

 

「実は生き返ってねぇんだ」

 

「!?」

 

 

これには彼女も驚く。

 

 

「すると貴方は幽霊で?」

 

「いやいや、そうじゃない。

そもそも死んじゃいないんだ」

 

「?.....首を斬られても生きていたと?」

 

「それも違う。あんたと同じ方法を使ったんだ」

 

「!.....なるほど」

 

 

「憑依の術」

自らの肉体を捨て、別の肉体に魂を移し替える事。別の肉体は死体でも、損壊がそれ程酷くなければ問題はない。別の肉体が生者の場合は相手の魂を封印するか、抹殺をする。封印の場合は、再び肉体を離れれば復活も可能である(その際、憑依時の記憶はない)。

 

 

「殺される直前に近くの兵に憑依してな。魂は殺さなかった。変死なんかで久脩に気づかれる可能性もあったからな。

まぁ、お遊びでかけた『残怨の術』にも面白いぐらい引っかがりやがったからな」

 

「.....元の肉体は『暦道陰陽術』による、巻き戻しで再生させたと.....」

 

「首だけだったから、完成に3日かかったけどな。まぁ、そのお陰でイエス・キリストに被った復活が出来たがな」

 

 

彼女は一度大きく息をついた。

 

 

「貴方には本当に驚かされますわ。『憑依の術』なんて、一度しか仕組みを教えてないのに、こうもあっさりと.....」

 

「くくくく.....」

 

「貴方には限界というものがあるのですか?陰陽術に限らず、幻術も多く修得なされて.....」

 

「これが龍神の血という事か.....」

 

 

天竜はスクッと立ち上がる。

 

 

「あら?お帰りに?」

 

「あぁ、聞きたい事は全部聞いたからな」

 

 

すると彼女は上目遣いで天竜を見つめる。

 

 

「もう日も暮れる頃です。今は包囲網も一段落している所で、急いではいないでしょう?」

 

「何が言いたい?」

 

 

すると彼女がうっとりした瞳で見つめてくるので天竜は思わず顔を赤らめる。

 

 

「幻術師といえど、私も雌です。強い異性には惹かれるものですよ?」

 

「まつな.....じゃない。果心居士!あんたと閨を共にするのは非常に魅力であるが、朝起きると色々とされて怖いのだ!」

 

「あら?私が何を?くすくすくす」

 

「初めての日は寝首を掛かれそうになり、次の時は、五寸釘付きの藁人形を大量に残していったじゃないか!!」

 

「くすくすくす。そんな事もありましたか?」

 

 

すると果心居士は襟元を緩くし、胸元をはだけさせる。

 

 

「前と違って、今回は齢17の乙女ですわ。味わってみたくはありません?」

 

「..........その台詞を普通の乙女が言うならば、俺も心を動かされるが、中身があんただと罠にしか聞こえないのだが?」

 

「あら?もう一つのとっておきの情報があるのですが?」

 

「むぅ~!!.....仕方ない負けたよ。今夜だけ付き合うよ」

 

「どうも」

 

 

そうして2人の美男美女は夜の街に消えていった。

 

 

 

 

 

翌日の朝。

ガバッと起き上がった天竜は辺りを見回すが特に異変は無かったので、ホッとする。果心居士はもういなかった。いつもながら、先に出て行ったようである。

さぁ、帰るかと身支度をしていた所、ある異変に気づく。

 

 

「財布盗られた.....」

 

 

根こそぎ持ってかれた。ああゆうのを魔性の女というのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

時は遡り、本猫寺前にて。

 

 

「おのれ雑賀孫市です!同じ鉄砲使いとして畏怖の念を抱きますです!」

 

 

本猫寺勢と同盟を組んだ雑賀孫市率いる雑賀衆が明智軍と衝突していた。だが、圧倒的に十兵衛が押されていた。

 

 

「八咫烏改・壱式!!」

 

 

雑賀軍も明智軍も鉄砲を専門とする部隊だ。だが、年季のある雑賀軍の方が戦法を理解していたのだ。

 

 

「うわっ!?また指揮官がやられたみゃ!!」

 

「では拙者が!」

 

 

ドーーーンッ!!!

 

 

「またやられたみゃ!!」

 

 

鉄砲隊の指揮官が優先的に狙撃されていたのだ。

 

当時の鉄砲隊は、指揮官の指示がなければ発砲はおろか、弾込めすらまともに出来ない素人ばかりだったのだ。だから、「敵の鉄砲隊を潰したいならば、まず指揮官を潰せ」というものがあるのだ。

 

対して雑賀衆は個人でも発砲が出来るように修行を施している。

織田家で同じように、個人でも撃てるのは天竜軍ぐらいだ。

 

 

「おまけに騎馬鉄砲隊ですか!天竜軍のように勢いはありませんが、非常に厄介です!」

 

 

十兵衛は北条、武田との交渉の際に伊達軍に協力していた雑賀の騎馬鉄砲隊を見ているのだが.....

 

 

「へ~。相手も騎馬鉄砲隊ですか。私が最初かと思ってたけど、雑賀の方が先に取り入れてましたか.....」

 

「そうですね天竜.....」

 

「..........」

 

「..........」

 

「ん?.....」

 

「なんです?」

 

「天竜?.....」

 

「はい.....」

 

「「..........」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャーーーーーーーーー!!!!!」

 

「うわっ!?何です!?」

 

「どうしているですか天竜!?死んだはずじゃ!?」

 

「あぁ、生き返りました」

 

「えぇっ!!?」

 

「んじゃ。ちょっと捻ってきますわ!」

 

「ちょっと!.....待つです天竜!!」

 

 

天竜は十兵衛が止めるのも聞かずに、己の騎馬鉄砲隊を連れてさっさと行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

孫市軍にて。

 

 

「大変です!孫市様!!」

 

「どないした?敵の援軍か?」

 

「敵軍と言うべきか......その.....猫が!子猫が大量に現れました!」

 

「は?」

 

「しかも本猫寺勢が戦いそっちのけで猫と戯れてます.....」

 

「なんやて!?」

 

 

 

 

 

 

 

「反魂の術っ!!」

 

 

天竜が術と共に空に放ったのは、猫の骨。300は軽く越す骨の欠片はそれぞれで再生され、大量の子猫になる。

 

 

「にゃーにゃー!にゃんこが沢山来たにゃー」

 

「極楽にゃ~!こんな所にあったのかにゃ~!」

 

 

直前まで戦っていた明智軍も仲間の雑賀衆もキョトンとする。

 

 

「孫市様.....私もあの子猫をモフモフしたいのですが.....」

 

「我慢せや子雀。きっと敵さんの罠や」

 

 

雑賀衆一部の女子達も子猫と戯れ始めたその時である。雑賀衆の男の一人が雄叫びをあげた。

 

 

「うぉぉぉぉ!!!あんな畜生なんかに惑わされやがって!!あんな毛むくじゃらなんてこうすればいいんだ!!」

 

「待て甚五郎!!」

 

 

この甚五郎という男。実は猫アレルギーであり、大の猫嫌いであった。本猫寺勢との協力にも渋っていた男だが、ついに本物の猫が現れてしまい、堪忍袋の緒が切れた。

子猫のうちの1匹を射殺したのだ。

その瞬間、穏やかな表情だったにゃんこう宗門徒達が凍りつく。

 

だがそれだけでなく、それをきっかけに他の猫達も次々にバタリと倒れ、絶命するではないか。

 

 

「やばいな、こりゃ」

 

 

孫市が呟く。

 

 

「おのれ~!よくもお猫様を~!」

 

「雑賀衆だにゃ!お猫様を殺したのは雑賀衆だにゃ!」

 

「許すまじ雑賀衆!!」

 

「真の敵は織田信奈じゃなくて雑賀孫市だにゃ!!」

 

「「「覚悟しろ雑賀衆!!!」」」

 

 

なんとにゃんこう衆門徒達が一斉に雑賀衆に襲いかかったのだ。その勢いはまさに死兵。例え己がどうなろうと絶命する最期の瞬間まで敵を攻め続ける修羅の如く。

 

史実で、伊勢長島の一向一揆にて、投降した一向宗を織田信長が皆殺しにするように指示し、実際に行った所、弾丸を免れた一向宗門徒達が死兵となって織田軍に襲いかかり、大打撃を与えたという。危うく本陣まで押し寄せたの事とか.....

それと同じ状況が、今回は雑賀衆に矛先を向けられている。

 

 

「あかん!相手は女の子ばかりや!間違っても撃ったらあかんで!!」

 

 

孫市からそう命令が下る。ではどうすればいい?説得でもすれと言うのか?それは無理な話だ。何を言っても聞かず、刀や農具を振り回すにゃんこう宗門徒達。なす術もなく、次々に斬られる雑賀衆。

しかもそれに乗じて天竜軍も動き出した。

 

 

「我らは今より本猫寺勢に加算し、雑賀衆を叩く!!全軍続け!!」

 

 

天竜の騎馬鉄砲隊がにゃんこう宗門徒達に協力するように参戦する。

 

 

「織田軍が私達の味方を!?」

 

「やっぱり織田信奈は悪い奴じゃなかった!!」

 

「「「一緒に雑賀衆をやっつけるにゃ!!」」」

 

 

もう敵も味方もメチャクチャであった。

 

 

異変に気づいた教如や下間衆が説得に回るも全く聞かない。今や、敵は雑賀衆に成り代わっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「孫市様!!織田方も騎馬鉄砲隊を出してきました!!」

 

「なんやて!?」

 

「しかも我らより最新鋭の鉄砲と『移動しながらの発砲』という匠な戦法を使ってきます!!」

 

「そんな阿呆な.....」

 

 

 

 

 

 

 

天竜は内心であの大笑いをしていた。にゃんこう宗は猫を崇拝する。大量に呼び出せば当然門徒達の動きは止まる。だが、雑賀衆は違う。アドレナリンが出まくっている中でそんなものが現れても、癒しどころか、邪魔物にしか写らない。蹴るなり叩くなりでよかったのだが、面白い具合に撃ってくれたので、門徒達を逆撫でるのは簡単だ。あとは残りの猫を全部死体に戻す事で、門徒達の精神を破壊し、死兵にする事に成功した。そしてどさくさに、門徒達を仲間につけた。

本猫寺と敵対した雑賀衆など、潰すのは容易。反対に雑賀衆の抜けた本猫寺を攻略するのも容易。

この2大勢力を分離させる俺の作戦。

すべて計画通り。

だが.....

 

 

ドーーーンッ!!

 

 

孫市の八咫烏の轟音が鳴り響く。

次々に天竜の騎馬鉄砲隊を撃ち落としてゆく。

 

 

「次!八咫烏改・弐式!」

「百間」

ドーーーンッ!!

次!八咫烏改・参式!」

「百間」

ドーーーンッ!!

 

「鉄砲の女神、雑賀孫市か.....

奴だけは並の兵では倒せぬか」

 

 

 

 

 

 

圧倒的に見えた孫市だが、実は焦っていた。

 

 

「孫市様!敵の鉄砲は連発式な上に小回りがききます!孫市様は兎も角、他の鉄砲隊の者では歯が立ちません!!」

 

「くそ.....ここまでか」

 

 

そうして孫市が思いがけない言葉を口にする。

 

 

 

 

 

「降参だ!!うちら雑賀衆はここで降参する!!」

 

 

 

 

 

背後を本猫寺勢に取られている今、退却という選択肢は最早無いのだ。

 

 

「だがその前に、織田方の騎馬鉄砲隊の代表の者に申しつけたい!!うちと一騎討ちの決闘せや!!応じれば他の鉄砲隊にも武装解除を命じる!!」

 

 

といった内容だった。

 

 

「その提案乗った!」

 

 

天竜は当然名乗り出る。

 

 

「あんた何者や?」

 

「羽柴天竜秀長だ」

 

「羽柴やて!?するとあんたが相良.....羽柴良晴の.....」

 

 

この情報は当然、孫市にも届いている。

 

 

「納得いったわ!この悪魔みたいな策略も、あの男の兄やったら説明つくわ!」

 

「ほう?その言い方だと知り合いみたいだな?」

 

「せや!羽柴良晴はうちが天下一の男と決めた男やで!!」

 

「良晴が天下一か.....くくくくく」

 

 

天竜は槍を近くの兵に預け、ウィンチェスターを装備する。そして、弾を一発だけ装填した。

 

 

「それは連発式なんやろ?なんで1発だけやねん」

 

「八咫烏とて1発だ。勝負を公平にするために1発ずつの勝負にしようぜ?」

 

「その提案乗った!」

 

 

孫市も八咫烏改・壱式だけ受け取ると、他の鉄砲は部下に預けてしまう。

2人ともうっすらと笑みを浮かべる。楽しんでいるのだ。この緊迫感を.....

 

 

「女性優先だ。そっちからどうぞ?」

 

「優しいな。でも、余計な気遣いは無用や!!」

 

 

2人はそのまま黙り込んでしまう。その光景を本猫寺勢、天竜軍、雑賀衆、それと遅れて来た十兵衛が見守る。

どちらも迂闊に動けない。

先に動くべきか、待ち構えるべきか.....下手をすれば相撃ちもあり得る。勝負は一瞬である。

 

 

「だぁっ!!!喰らえぃ!!!」

 

 

先に動いたのは孫市だった。その直後に天竜も発進する。

 

ドーーーンッ!!!

 

孫市の八咫烏が唸る。

 

 

天竜はそれに対しどう対処したかというと.....

 

 

ドシュッ!!!

八咫烏からの弾丸が一直線に天竜の心臓部に直撃する。

 

 

「やった!」

 

「天竜ぅ!!!」

 

 

歓喜の声をあげる孫市と悲鳴をあげる十兵衛。ところが.....

 

 

「喜ぶのは早いぞ?」

 

「ひっ!?なんでやねん!!」

 

 

一瞬だけぐったりした天竜だったが、すぐにむくりと起き上がったのだ。鎧ではなく、着物と羽織だけだったので、確実に貫いたと確信していた孫市だったが.....

 

 

「まさかっ!?顕如と同じ.....!?」

 

 

その次の瞬間、天竜は孫市の方向に飛び上がっていた。そして、孫市に抱きかかえ、巻き込むように落馬する。

土煙りが舞い、中で2人が取っ組み合う音がゴトゴトと聞こえた。

そして土煙りが晴れて、上位をとって銃口を向けていたのは.....

 

 

「うちの負けや」

 

 

天竜だった。

 

 

「あんたも顕如と同じ猫神の?」

 

「いや、俺は龍神の子孫だ」

 

「龍.....通りで勝てないわけや」

 

 

孫市はぐた~と地面の上に寝そべった。

 

 

「止めを刺せ。鉄砲の勝負で負けて死ぬんや。悔いはない」

 

「残念だったな」

 

 

天竜は袖口から何かを取り出し、孫市に渡した。

 

 

「これは.....まさか!」

 

 

天竜はウィンチェスターの銃槍を開いて、中に何もないことを見せる。

 

 

「弾は入ってなかった。始めから入れてなかった」

 

 

それを聞いて孫市はグッタリと気が抜けてしまった。洟から決闘にすらなっていなかったのだ。

 

 

「完全に私の負けや。天下一の男は

2人おったんやな!」

 

「その言葉、矛盾してるぞ?」

 

「それもそうやな!あっはっはっはっは!!!」

 

 

孫市の豪快な笑いと共に本猫寺包囲戦は終わりを告げた。

天竜は記念と言って、ウィンチェスターを孫市に与える。

 

 

「ええんか?」

 

「男は女に貢ぐものだからな。弾なら応じる分だけやる」

 

「ほんま、おもろい男やな」

 

 

その後、雑賀衆は全員紀伊まで引き上げ、本猫寺勢は門徒達が戦意喪失してしまったために、教如の判断で全面降伏。反織田同盟として毛利や将軍からの後押しもあった本猫寺だったが、それらの同盟からの抜ける事になったという。

 

その後、教如、顕如、信奈による会談が行われ、それに天竜、良晴、十兵衛も加わった。

 

 

当初、信奈側からの『本猫寺明け渡し案』は良晴と天竜の交渉により無くなる事となった。代わりに、にゃんこう宗は今後一切織田家の邪魔をしない事が約束されや。さらに、以前のように金品の貸し出しも再開する事となる。

以前までは強気だった教如も、天竜という新たな神の前に意気消沈してしまったらしい。

 

今後の事は顕如だけに任せても大丈夫だろう。今の2人なら姉妹でなんとか乗り越えられるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに裏話。

 

 

「そういえば顕如。お前の猫耳と尻尾だが、生やしたはいいが、神聖な力で生やしたわけじゃないから、鉄砲で撃たれたりしたら本当に死ぬぞ?」

 

「にょ~!!?じゃあどうすればいいにょ!?」

 

「さぁ?真面目に念仏唱えて信仰してれば戻るんじゃねぇか?」

 

「にょ~.....」

 

 

そこに良晴が乱入する。

 

 

「それより俺の尻尾も取ってくれよ!!にゃんこう宗の子達から猿神様!猿神様!って何故か拝まれるんだよ!!」

 

「それは無理だな。術はかけたが、生やしたのはお前の遺伝子だ。取るには刀で斬る以外にない」

 

「そんなぁ~!!」

 

 

本当は取る術もあるのだが、面白いのでこのまま放置してみよう。.....と腹黒い天竜であった。

 

 

 

 

 

 

 

大和の宿屋にて、同室の果心居士が質問する。

 

 

「防弾ちょっき?」

 

「そう。弾丸をも弾く未来の鎧だよ。これを着物の下に着ていたお陰だよ」

 

「へ~。でも、当たったのが胸で良かったですわね」

 

「ん?」

 

「頭に当たれば即死でしたよ?」

 

「あっ!!.....でも、兜あるし.....」

 

「鼻から下は素肌が出てるでしょう。そこに命中すれば、今頃は.....」

 

 

天竜は急に悪寒を感じる。

 

 

「顔全てが隠れる兜を作らなければ.....」

 

「くすくすくす」

 

 

 

 

 

 

 

 

この5日後である。

 

「好きです!私と祝言を挙げましょう

十兵衛殿!!」

 

「イ・ヤ・デ・ス!!なんで私と天竜なんかが!」

 

「愛してます!私と祝言を挙げましょう

十兵衛殿!!」

 

「言い方変えただけじゃないですか!!」

 

 

それでも『愛する』という言葉を使われ、真っ赤になる十兵衛。

 

ことの発端はこの前日に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

「天竜に大和を与えるわ!」

 

 

 

 

 

 

信奈のとんでも発言が炸裂する。

この事には、以前良晴が北近江を与えられたぐらいの衝撃が走った。

 

「勘違いしないで。あくまで管理を任せるだけよ。大仏の件もあるしね」

 

 

それだけではない。問題は若狭なのだ。

操られていたとはいえ、1度裏切ったという理由で、荒木村重は未だに謀反を続けているのだ。信奈が許すと言っても、中々帰らないのである。

 

 

「意地になってるのよあの子.....ああ見えて誇りは高い方だしね」

 

 

これでも怒らない信奈なのだ。相当信頼しているのだろう。

 

 

「貴方には摂津に残って弥助と交渉しなさい。そのための与力もつけてあげるわ」

 

「承知!」

 

「それが済んだら、大和を拠点に南近畿を吸収しなさい。紀伊を放っておいたのも、今回の失敗の一つよ」

 

「承知!」

 

 

こうして天竜は松永久秀に継ぐ大和の新大名となったのだ。

といっても、位は十兵衛の家臣のままである。

 

 

「あの.....信奈様?」

 

「なによ?」

 

 

ここは安土城。良晴達は摂津で待機してる為、ここには2人しかいない。長秀も席を外している。

 

 

「これで十兵衛殿の結婚できますよね?」

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

信奈は驚きを隠せずに.....

 

 

「はぁ!!!?あんた.....十兵衛の事.....好きなの!?」

 

「将来は子をなしたい程に」

 

「知らなかった.....」

 

 

良晴と十兵衛の関係しか考えていなかった信奈は、これが「三角関係」ではなく、「四角関係」である事を理解する。

 

 

「私が十兵衛殿と結婚すれば、貴方と良晴の恋路の障害が一つなくなりますよ?」

 

 

こんな事を言われれば、単純な信奈は.....

 

 

「それもそうね!あの子もそろそろ身を固める頃だろうし!」

 

「では今から求婚して来ます!」

 

「デアルカ!」

 

 

そうして天竜は安土城を出て行く。

その後、信奈はある事を思い出す。

 

 

「シロは十兵衛の家臣じゃない!」

 

 

最近、単独での進軍が多かったので、すっかり忘れていたのだ。

これでは信奈と良晴の関係と全く同じである。

 

 

「待ってシロ!!今のとりけしよ!!」

 

 

 

 

 

そして話は戻る。

 

 

「当然、主君と家臣の恋路はご法度です!だから私は貴方から謀反します!」

 

「は?」

 

「そして改めて信奈様に士官すれば、貴方と同等な立場になれます!」

 

「何訳わからない事を言ってるですか!」

 

 

最早屁理屈である。

 

 

「遺言にまで残したのです!それを叶えてあげるのが義理でしょう?」

 

「生き返った時点で無効です!」

 

「じゃあ、もう結婚はいいです!」

 

「ほっ.....やっと諦めやがったですか」

 

「結婚はいいので、子供を作りましょう!」

 

「もっとダメです!!」

 

 

最早駄々っ子である。

 

 

「大丈夫です!子供は小次郎との間に作った事にでもしておけば.....」

 

「最低です!」

 

 

どうすれば結婚してくれるのかしつこく迫る天竜。「こいつはこんな男だったのか」と十兵衛は理解する。左馬助の手前もあるし.....と十兵衛。

 

 

「いいでしょう!そこまで拒否されるというのであれば!私は死にます!!」

 

「えっ!?」

 

「死なせたくなかったら、結婚しなさい!」

 

「何でそうなるですか!!!」

 

 

そうして十兵衛はある発言をしてしまう。

 

 

「兎も角!私より偉い位にならないとダメです!!例えば、左大臣とか、関白とか.....」

 

「いいでしょう!なりましょう!関白に!」

 

「へ?」

 

「見ていてください!いずれは太閤にまで登り詰めてやりましょう!!」

 

 

十兵衛は言ってから後悔した。この男ならやりかねない.....

 

 

 

 

 

 

その後である。

摂津から播磨への帰り、十兵衛は良晴にとある質問をする。どうしても確認しておきたい事が一つあったのだ。

 

 

「羽柴先輩、天竜に関係する事で、『ヒカリ』という方をご存知ですか?」

 

「『ヒカリ』?」

 

 

それは以前、天竜が寝言で言っていた名前だ。十兵衛は今になってその名前が気になり始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

「あぁ、その人は天竜さんの奥さんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

「..........」

 

 

十兵衛の頭が真っ白になる。

 

 

「天竜はもう結婚してるですか?」

 

「うん。勘解由小路 光。結構綺麗な人だったぜ?」

 

「そうですか。では先輩は先に行っていて下さい。私は忘れ物を取りに引き返しますです」

 

「おっ.....おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんのっ!!!くそ天竜ぅぅぅぅ!!!」

 

 

怒りゲージMAXの十兵衛が全力疾走で引き返して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そこ頃の安土城。

 

 

「梅千代!」

 

「はい信奈様!」

 

 

とある小姓が呼ばれる。

 

 

「あんた.....天竜の与力になりなさい」

 

「わっ.....私がですか!?」

 

「そうよ。貴方は中川清秀とも高山右近とも親戚でしょ?いい説得役になるわ!」

 

「はぁ.....」

 

「天竜は人はいい方だから安心しなさい梅千代」

 

「はい..........あの、信奈様?」

 

「何よ梅千代?」

 

「その『梅千代』というあだ名、どうにかなりません?」

 

「あれ?本名じゃなかったっけ?」

 

「信奈様がつけた名前です!忘れたのですか?」

 

「あぁ!初めて会った時に貴方、梅の木に座ってたのよ。それがあまりに絵になってたから『梅千代』」

 

「そんな理由で名前変えられちゃ、溜まったものじゃありません!」

 

「貴方も無駄に誇り高いのね.....本名何だっけ?」

 

「左介です!!」

 

「あぁ、左介ね。あまり可愛くないじゃない」

 

「私もそう思ってます。近々改名を考えていますが.....」

 

「『梅千代』でいいじゃない」

 

「嫌です!『松竹梅』で一番下で華がありません!!」

 

「理由それだけ!?」

 

 

風潮を気にする娘だった。

 

 

「まぁ、いいわ。じゃあ左介!これより天竜の与力として精進しなさいよ?」

 

「承知しました!この古田左介重然、これより精進いたします!!」

 

 

こうして古田左介が天竜軍入りする事となる。

 




今回は、本猫寺戦でした!
孫市と一騎討ちする役を信奈から天竜に変更すればどうなる?というifストーリーです。
実際、子猫召喚して戦争が終わったら、どんなに平和だろうか.....
後半は次のストーリーへの間章です。
天竜の十兵衛への執着はいったい何故なのか!?
次回予告
ヒカリ
~知らされる天竜の過去~

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