天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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前回から1年近くの放置からの新話です。
実を言うと就活中でした(;_;
まだまだ普通に忙しいのですが、また急に創作意欲が湧いてきたので連載を再開します。できれば月に2話ぐらいのペースで投稿できたらなと思ってます。...なんて見込みのない宣言をして大丈夫なんだろか。

なんだかんだで、原作の信奈の野望も全然読めてません。ぶっちゃけ、原作とは全く別の方面へシフトしてしまっているので、少なくとも「原作10巻以降」の登場人物の、本作にも出てるキャラに関しては、性格や設定、性別などももう直し様のない状態になってしまっていますので、原作愛読者様には混乱する点も多々あると思いますが、もうこのままでいくと決めているのでご了承下さい。(宗麟や島津兄弟など)

いずれ蒲生氏郷のようのに、原作からのゲストキャラとかもまた増やせたらいいなとは思ってます。(相良義陽とか出したいっす)




第百二話 崩壊の始まり

「どういうつもりだ。貴様らは一体何が目的なのだ」

 

「それは天龍ハンこそ分かっとるんやないの?」

 

「なに?」

 

 

裏切り者である雑賀孫市が言う。

 

 

「うちらが個人で反逆したとでも思うとるんか?そな阿保な話があるわけないやんか」

 

「.....まさか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そのまさかさ。ドラキュラ伯爵』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....っ!!?」

 

 

その者は現れた。孫市や織部の背後。フードを被って面相を隠した男。嗄れた声に小さな体格。予想以上に年をとっているような。

 

 

「久しいなドラキュラ。それとも天竜、いや、勘解由小路天龍と呼んだ方が良いかな?」

 

「その声.....」

 

 

彼はフードを外す。そうして初めて彼の顔が大衆の前に出された。

 

 

 

 

 

 

「あれは.....塚原卜伝殿か!?」

 

 

 

 

 

 

上杉謙信が言った。

塚原卜伝。

鹿島新刀流の使い手として、多数の弟子を排出した偉大な剣豪。天竜もまた弟子の1人だった。

 

 

「おかしいと思ってたさ。俺は桶狭間戦が始まる3年前に一度記憶を消した。その後、織田に仕官するまでの4年間、俺はあんたと行動を共にしたはずだった。その"事実"自体は覚えている。

しかし、俺はあんた自身を覚えていなかった。いや、記憶が消されていた。天竜と朧の同化で全ての記憶を取り戻したにも関わらず、俺は塚原卜伝という人間を思い出させなかった。ようやく納得いったよ。

久しぶりだな、フランシスコ・ザビエル」

 

 

フランシスコ・ザビエル。

全ての黒幕。

 

 

「君がこのジパングに亡命する事は読んでいたからな。あえて泳がせておったのさ。しかし放ったらかしには出来ん。だからこそ、君のすぐ側にいたのさ。ドラキュラという存在を最も近くで観察できるように...」

 

「What!?...ザビエル様は日本人だった!?」

 

 

大友宗麟が混乱している。

 

 

「あのなベル。ザビエルは自在に面相を変えられるんだ。お前と会った時は、まさしくフランシスコザビエルの面相だったんだろ?多分、本当の顔はまだ誰も知らない。奴はフードこそ脱いだが、まだ覆面をしているようなもんだ」

 

「あっ、so you coat on」

 

 

ほとんど日本語じゃねぇか。

 

 

「しかもだ。奴は化けた対象は既に死んでいる者か、自らが殺した者を選んでるようだぞ。10年も前に死んだ、もしくは奴に殺されたザビエルに、同じく殺されたと思われる塚原卜伝。やり方は何も変わらないさ」

 

「いやいや、塚原卜伝氏には感謝しているよ。その意も込めて中国地方にある卜伝の墓には本物の彼の遺体を埋葬させて貰ったからねぇ」

 

 

その時、塚原卜伝の面相をした奴の顔面が歪む。まるで粘土細工のようにグニャグニャと不定形に変形し、やがて別の顔を形成する。

 

 

「っ....!?」

 

 

宗麟は思わず息を呑む。それはまさしくフランシスコザビエルの顔であった。ザビエルの顔は日本では有名な肖像画とはかなり違ったものだ。アレはザビエルの死後の数十年後に、彼を慕うキリシタンが想像で描いたものだ。それよりもむしろ、西洋で描かれた、本来の彼の顔に近い肖像画の方が今の奴の面相は似ている。だが、髪はしっかりと生え揃っているようだ。

 

 

「おやおや、頭は禿げてねぇのかい?」

 

「トンスラは私にとっては時代遅れの象徴ですからね。私の"部隊"では既に廃止にしております。初めて見る人には間抜けに見えますしね。サムライのチョンマゲと違って」

 

 

フランシスコザビエルの姿をした奴の声色は塚原卜伝時とは違って、若々しいものとなっていた。

 

 

「そりゃあいい。貴様ら教会の連中と戦うと、いつも頭のハゲに光が反射してウザったらしかったからな」

 

「普通の吸血鬼であれば、光を苦手とするものだが、君には光の攻撃は無意味だからねぇ。日輪も、十字架も、ニンニクも、聖書も効かない。教会内にも平気で侵入する。銀は効いても致命傷になり得ない。そして弱点であるはずの心臓は、

『相手によって有ったり無かったりする』

もう、どう倒せばよいのやら」

 

「え?」

 

 

その場にいた良晴は今のザビエルの発言に戸惑った。心臓が有ったり無かったり?心臓を潰す事が唯一の殺害方法であったはずなのに、それにすら確実性がないというのか?

 

 

「そんな存在にしたのは何処のどいつだ。お陰様で俺様はいつまで経っても死ねん」

 

「勝手に死なれては困るからだよ。君にはまだまだ利用価値があるからね」

 

「モルモットにされるのはもう御免なんでね」

 

「おい、天龍!」

 

 

たまらず良晴が天龍のもとへと駆け寄り、肩を掴んで呼び止める。

 

 

「なんだ?」

 

「さっきから何を言っているんだよ。モルモットだとか何だとか!」

 

「お前には話さん。まだ知るべき時ではない」

 

「はぁあ!?」

 

 

こいつはいつもそうだ。

 

 

「いずれ分かるさ。欧州での俺の時代についてだ。俺を殺してその血を啜れば、お前に相応しき答えが見えるだろう」

 

「結局そこかよ.....でも、心臓が有ったり無かったりって」

 

「奴の虚言だ。連中ならともかく、"お前は"気にしなくてもいい問題だ」

 

 

益々気になる言い方だ。俺はいつかお前を越えて殺さにゃならんのだぞ!?

 

 

「おやぁ?そこに見えるのは良晴くんではないかい?」

 

 

ザビエルがわざとらしく言う。始めから知っていた癖に。

 

 

「非常に残念な事だよ良晴くん。君とは一度共闘した際に、分かり合えていたと思っていたのだがねぇ。私としては、君ともう一度手を取り合いたいのだが?」

 

「うるせぇ!!何が共闘だ。俺と天龍をぶつけさせて、共倒れを狙っていた癖に、勝手な事言ってんじゃねぇ!!」

 

 

良晴はザビエルに唆され、賤ヶ岳の合戦や、信濃戦争を引き起こしてしまっている。

 

 

「おやおや、学習しないねぇ。またもや君はドラキュラに騙されているのか。一度は真実に気付き、救済されたというのに」

 

「黙れ!!今度は孫市や古田織部を洗脳した手前ぇになんぞに言われたかねぇ!!」

 

 

ザビエルに突っかかる良晴だったが、そこで天龍に制止された。

 

 

「あまり感情的にはなるな良晴。奴は言葉に魔力を乗せて喋り、相手を操る術も持っている。その力で数多くの人間を騙してきた。お前だってその一人だろう」

 

「くそっ!!」

 

 

天龍はザビエルへと向き直る。

 

 

「処でだザビエルよ。よもや貴様、孫市や織部を味方に付けた程度でこの俺様に勝てるとでも思っているのか?

ここは、我が家臣共が防備を固めている。宗麟を含めた眷属達も控えている。そんな状況で貴様はどう動く?」

 

 

そう問う。だが、ザビエルは不敵な笑みを浮かべるだけで。

 

 

「何故我々3人しかいないと思ったのだ?」

 

「なに?」

 

 

その時だ。控えていた、一部を覗いた雑賀衆の者らの多くがザビエルの背後に集まる。そして、その面相にかけていたと思われる術を解いた。

 

 

「.....なるほどな。雑賀衆のほとんどをすり替えてたってか。まぁ、雑賀の頭領の孫市が裏切ってる以上、普通にあり得る話だわな。

ハワード・ファタジア、ゼクスター・ヴィンストン、ロゥリー・ヴィクテリアス。随分とまぁ懐かしい顔ブレだ。何人か新参者もいるようだな」

 

 

雑賀衆に化けていたのは全員西洋の白人。何人かは数年前の"教会"との戦いで見た者達。全員が吸血鬼クラスの戦闘力を持ったエクソシスト共だ。

 

 

「しかし、これでもまだまだかね。他の眷属吸血鬼ならまだしも、君ドラキュラに挑むなら一千人の戦士を用意しても足りない」

 

「.....」

 

 

ザビエル自身、何かしらの策を持っているらしい。

 

 

「だから、今日は退いてあげるよ。そこの良晴くんが匿っているガブリエルとも合流せねばならないからね」

 

「なっ!?」

 

 

良晴は驚愕する。確かにガブリエルことガブリエル・クロウ・アンダーソンを匿っているのは良晴だ。とはいえ、天龍と良晴の関係が改善されてからは、付き合いが少なくなったのだが...

 

 

「では楽しみにしているよドラキュラ。君と私には、平穏な日常よりも、地獄のような戦乱こそ似合っているからね」

 

「ほざけ白豚共。地獄を見るのは貴様らだボケ」

 

「ふっくくくくくく.....いい威勢だ。では失礼しよう」

 

 

何かしらの術で退却しようとしたザビエル。だがその時。

 

 

 

 

 

「だが、こちらはこちらで貴様らに対抗するすべは少ない。なればここで、少々そちらの戦力を削らせて貰おうか!」

 

 

 

 

 

瞬時に飛び上がった天龍は一直線にザビエル一味に突撃する。刀を抜き、ザビエルらのやや上方でソレを振り上げる。

 

 

「クフフ...」

 

「なっ!?」

 

 

天龍が刀を振り下ろした瞬間、ザビエルは霧のように消滅する。同時に、孫市と織部を含めた多数のエクソシストごと消えてしまったのだ。

 

 

「くそっ!"形態変化の術"か!?」

 

『君からの贈り物さ。有難く使わせてもらっているよ』

 

 

スピーカーのように、どこからとも無く奴の声が響き渡る。

 

 

「貴様ら教会共はあくまで人間の術のみで俺らを駆逐するのがポリシーだったんじゃないのか?」

 

『痛い事を言ってくれる。我々も日々昇華しているということ。精々君達を苦しめさせて貰うよ。では、またいずれ...』

 

 

そうして声が聞こえなくなる。完全にザビエルらは去ったようだ。

天龍は渋々と良晴のもとへと降りてくる。

 

 

「おい、天龍!なんだよ今のは!?」

 

「形態変化の術か?簡単な原理さ。肉体を気体、もしくは液体へと変態させ、移動もしくは逃亡をする魔術。形態変化している最中は一切の攻撃ができず、攻撃に移るのであれば肉体を戻さねばならない弱点があるが、変化中はほぼ攻撃を受けないという強みもある。元々は俺ら吸血鬼が得意とする術だったんだがな。どうやらパクられたようだ」

 

「......」

 

「そっちじゃねぇって顔だな。奴との関わりの話だろ。またいずれ話してやるとでも言いたいが、それでは納得できるはずもないか」

 

「当たり前だ。お前は隠し事が多過ぎる」

 

 

一息つき、やがて彼はこう答える。

 

 

 

「.....ザビエルは俺の親だ」

 

 

 

意外な事に答えが帰ってきた。それも、とても理解できない答えが。

 

 

「は?」

 

「語弊があるな。正しくは生みの親というべきか。"俺を吸血鬼にした"のは奴だ」

 

「なっ.....!?」

 

「元々から神の血こそ引いてはいたが、それでも俺はただの"人間"だった。それを自分のモルモットとしていいように弄くり回したのが奴。俺をどうしようもない化物に改造したイカれ野郎だよ」

 

「じゃ、じゃあ!なんであいつらはお前の命を狙ってるんだよ!!」

 

「そりゃあ、研究材料だった実験体が言う事を聞かずに暴れ回ってるからさ。改造されてからの初期は洗脳され、奴の猟犬のような存在になっていたからな。呪縛が解けてからは自由に動かせて貰っている。それが気に食わない奴は十字教のエクソシスト共を動員してでも俺を殺しに...いや、捕獲しにかかっているというこった」

 

「.....」

 

「貴様の言いたい事は分かるさ。だが、俺の過去は口で説明するには長過ぎる出来事だ。特に、欧州における”100年”は特にな」

 

「それと、お前がよく言うもう”400年”の方もな」

 

「いや、そっちの方の説明は案外楽だよ。実際に経験した俺自身としては地獄そのものだったが、説明するとなれば一言で済む」

 

「じゃあなんだよ」

 

「内緒」

 

「おい...」

 

「僻むな僻むな。だがこれは本当に言えないんだ。ほぼ決心が着いてるお前を再び惑わす程の話だ。できれば墓まで持って行きたい事案なんでね」

 

「むぅ...」

 

 

なんだかんだで、俺はこの人のことを何も理解できていない。何も教えてはくれない。何も暴くことができない。

 

 

「そんなのは後回しだ。今はザビエルの対処が先だろう。謙信!」

 

「うむ」

 

 

元越後大名、軍神上杉謙信。

現在、警察庁長官。

 

 

「全国の邏卒隊【らそつたい】へ伝達せよ。各地のキリシタン共、クリスチャン共を検閲せよ。更に伴天連共を一斉検挙し、ザビエル一味を炙り出せ」

 

「承知した」

 

 

謙信は用意させた馬車に乗り込み、すぐに移動を始める。

 

 

「ベル!」

 

「はっ!」

 

「飛行船を使ってもいい。己の翼で直接飛んでもいい。急ぎ明へと渡り、レオを連れ戻せ。外交面を見直す為にも奴の力が必要だ」

 

「御意!閣下から頂いたこの御翼にて滑空し、直様にレオパルド卿をお連れしましょう!」

 

 

元筑後大名、大友宗麟。

現在、文部大臣。洗礼名ベルフェゴール。

 

元会津大名、蒲生氏郷。

現在、外務大臣。洗礼名レオパルド。

 

 

 

 

「それとだ...サリーム陛下」

 

「む?」

 

 

展開に置いてけぼりであったサリームに目を向ける。

 

 

「此度は大変失礼しました。我が国家はこれより欧州イスパニア所属の宣教師軍との戦争状態に入りました。インド帝国皇帝であらさられる貴方様にはこれ以上の我が国内停泊は大変危険となりましょう。なれば直ちに貴国へ帰還なさりませ。お帰りの際の護衛は我が国の海軍が全力でいたしましょう」

 

「ヴラドよ。我にもできることは...無さそうじゃな」

 

 

天龍の表情を見て、サリームはそっと察した。何かを言おうとしたらしいが、それを飲み込み、無言で振り返る。そして自らの意志で船の方へ歩みを進める。

そして、去り際に叫んだ。

 

 

 

「待っておるぞヴラド!我はおぬしと婚約した身じゃ。ジャパンとインディアが手を取り合い、纏まった国家としてこの亜細亜を占める大国とならん事を。その日が来るまで我はいつ迄も待とう。さらばじゃ!」

 

 

 

その台詞と同時に船へと駆け出そうとするサリーム。そんな彼女を天龍は手を掴み、静止させた。

 

 

「あっ...」

 

「何故にそのような哀しい表情で去られるのですか?」

 

「...」

 

 

決して振り向く事はないが、サリームは啜り泣きそうになるのを我慢しているのが、震える肩から気付かされる。

 

 

「まるで私がこの戦争で敗北し、死んでしまう事を予感しているかのような。そんな感情が見て取れる」

 

「だっ...だって!」

 

「だって?」

 

「我だってこの数ヶ月の間に勉強したのじゃ。今の亜細亜各国は欧州の"白い連中"に大きく劣っていると。そんな連中と戦えば、ヴラドは.....んっ!?」

 

 

天龍はサリームを抱き上げ、口付けをしてみせる。

 

 

「誰が負けるって?」

 

「ヴ...ヴラド?」

 

「俺とて元は欧州で100年も国を支えてきた欧州人だ。欧州で得た経験とこの日本国で学んだ知識を活かせば、伴天連なんぞ怖くも何ともない!

...確かに一度は敗走し、国を追われる結果になった。だが、負けたからこそ得るものもある。今度は負けん。折角ここまで掴んだ好機、みすみす彼奴らにくれてやる気は毛頭ない!」

 

「ヴラド...」

 

「勝つさ。勝って正式に結婚しようぜサリーム!」

 

「.....分かった!方仁にも宜しくな!」

 

 

そう言い残し、彼女は乗船した。

 

 

 

 

「嘉隆、インドまで送ったらすぐに戻って来い。これより開戦だ。連中の海上能力はいざしれんが、場合によっては海戦も考えられる。お前と隆景の海軍もまた重要となる」

 

 

元志摩大名、九鬼嘉隆。

現在、海軍中将。

 

 

「.....むぅ、分かったよ」

 

 

むくれた嘉隆は渋々軍艦に乗り込み、サリームをインドへと護送すべく、出航した。

 

 

「さらばだサリーム。いずれ辺獄で...」

 

 

去り行く船に哀しみの表情を浮かべながら、天龍は踵を返し、己の国へと視線を戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?どうしたんだお前ら。そんな間の抜けた顔で」

 

 

振り返ると、良晴を含めた面々が複雑な表情で自分を見ている。何人かは頬まで紅潮させている。

 

 

「お前さぁ...いや、分かってたけどさ。公の場でとか、とことん恥知らずなのな」

 

「はぁ?」

 

「いや、いいけどよ。でも、嘉隆姉さんとか可哀想だな。一応は奥さんの1人なのにさ」

 

「??」

 

 

何人かの女性が顔を紅潮させ、呆れ顔を浮かべている。普段からわりと、人前でキスをしているつもりだったが、そんなに刺激が強かったりのだろうか?

 

 

「いや、サリームってまだ幼女だろ」

 

「何を言う。彼女は既に立派なレディだ。肉体は未だ未熟であっても、精神は最早理想の女性として相応しいものとなっているだろう。とはいえ、子供らしさはらしさできちんと残しているのがまたメンコイのだがな」

 

「ロリコン」

 

「俺の歳からすれば人間はどれもかしこも赤ん坊と変わらん」

 

「...そうだったな。もう訳がわからないや。.....さて」

 

 

良晴は荷物を持ち、出発の準備に入る。

 

 

「何処へ行く?」

 

「大阪。フロイスとオルガンティノに会ってくる」

 

 

 

 

ルイズ・フロイス、オルガンティノ。

元ドミヌス会宣教師。

「元」というのは、つまりそのままの意味であり、2名は既にドミヌス会としての宣教師を引退しているのだ。今は亡き、ガスパール・カブラル、コエリヨといったフランシスコ会の過激な植民活動。日本国がキリスト教を厳格にした代わりに新たにサタン教を創設するなど行動にした事から、日本国でのキリスト教の布教を諦め、宣教師職を辞したのだ。

その為に本国へ戻る事が出来なくなり、天龍・良晴へ相談した所。

 

「学校の先生になればいいんじゃね?」

 

という良晴の短絡的な返答が現実のものとなり、かつては天龍領地に点々とあった寺子屋『天竜塾』が武家政治の終焉と共に発足した新政府樹立に際し、正式に学校というものを全国区へ広める政策が生まれる。

それが「学制」である。

まだまだ成長途中の制度ではあるが、既に東京・大阪に大人組の大学校、子供組の小学校が建設されており、本格的に授業が始まろうとしているのだ。(中学校も建設予定だが、小学生組の卒業に合わせて開校の予定)

オルガンティノは子供の方が向き合いやすいとのことから、東京の小学校で南蛮語や算数などを担当。

フロイスは大阪の大学校にてなんと、日本史と国語を担当。

 

 

「国語ってのは、つまり日本語を学ぶ勉強だ。それに日本史も教えるとなると、外国人のあんたにはちと荷が重くないか?」

 

 

天龍はそう尋ねる。対してフロイスは、

 

 

「あら、私は『Historia de Iapam。日本史』を書き上げるくらい、日本の歴史には自信がありますよ」

 

「俺も読んだが、人物紹介にだいぶ偏りがあったじゃんか。『神を信じる人は偉い。天才。名君!...神を信じない人は可哀想。哀れ。自惚れている』ってな感じでさ」

 

「うっ.....あの頃の私はまだまだ若気の至りでした。機会があれば書き直したいと思っています」

 

 

フロイスは赤面して、過去の著作物を黒歴史ノートのように語る。

 

 

「でも、今は違いますよ?織田信奈様や良晴さん。そして貴方様に出会えた事により、日本文化の素晴らしさを知り、よく理解しました。この国を決して潰してはいけない。この文化を絶やしてはいけない。そう思い、あえて難しい日本語と歴史の教科を選びました。これは神のお導きではなく、私自身の誇りに誓って決めた事なんです」

 

 

これに対し、天龍は返す言葉も無く微笑し、これを受け入れる。

 

 

あんたみたいな人が当時の十字教連中に少しでもいれば、俺も"馬鹿な真似"をせずに済んだかもな。

 

 

彼はこう語り、彼女を逆に困らせたという。

 

 

 

 

まだ正式な開校こそしていないが、体験入学という名目で近隣住民を無料で招待。長らく続いた戦乱が終わって得た、束の間の平和の期間を利用し、数多くの好奇心旺盛な若者が勉学を勤しもうと、教室は常に満杯状態だという。

中には、フロイス目当ての助平なオッサン共も混じっていたりするのだが...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確か今はオルガンティノも大阪の方へ大学校の視察に来てるはずだ。まとめて会ってくるよ」

 

「会ってどうする。彼女らとザビエルは別組織。文句を言ったところで、彼女らが困惑するだけだ。ザビエル共を追い詰めるには見当違いの道筋だぞ」

 

「俺かて彼女らが繋がってるなんて毛頭思ってないし、そこからザビエルとかいう奴らの手掛かりが掴めるとも思ってない。ただの安否確認だよ」

 

 

宣教師を辞めて日本の教師になった事から、フランシスコ会では彼女らを裏切り者扱いする者まで出ているという。そんな彼女らを良くて人質、悪くて見せしめに襲撃なんて事態も想定できる。その為に予め様子を見て、場合によれば良晴管轄の海軍の兵によって護衛させるとか。

 

 

「......むぅ」

 

「どった?」

 

 

良晴の返答に天龍は唖然としている。

 

 

「いやまぁ...お前も成長するんだなと思って」

 

「にしししし。俺も大物として板が付いてきたってか?」

 

 

いつもなら、「戯けが。一世紀早えよ青二才」などと馬鹿にされていたが。

 

 

「そうだな。歳を取るってのは怖いな。すぐに若いのに追い抜かれそうになる。クワバラクワバラ」

 

 

などと年寄り臭いことを言って、彼はその場を後にしてしまった。変わってしまったのは果たしてどちらの方なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを境に一同は解散。雑賀孫市、古田織部といった重鎮の裏切りといった波乱に満ちた惨劇となったサリームの送別会。これ以降は全国的に対ザビエル組織として各自が動いて行くこととなる。

 

俺も決断しなければならない。

まだ知らぬ、敵との戦いを。

 

 

そしてだ。

 

 

 

 

 

 

ガブリエル・クロウ・アンダーソン。

神の左。大天使の名を持った神父。

 

 

 

 

ドラキュラ殺しの勇者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんたは一体、どんな決断をするんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日から、天龍らは紀伊の雑賀衆の調査に入った。孫市の裏切りに賛同し、同じく裏切りを行う者がいるかもしれない。もしくは、雑賀衆全員が裏切っている可能性もある。心配になるのも当たり前だ。何故なら天龍の組織する陸軍の主力の大多数が元雑賀衆なのだから。

 

 

 

 

とはいえ、その心配は徒労に終わった。

裏切りは孫市の単独犯行。

『踏絵』紛いのことまでやったが、他にこれといった裏切り者はいなかったのだ。

鶴、小雀、蛍といった雑賀三姉妹という孫市側近も、実の弟の雑賀孫六まで孫市の謀反を知らず、雑賀衆はむしろ大混乱していたのだ。一先ずは信用できる孫六に雑賀衆の統治を任せ、「怪しい動きを見せる者が現れれば、直ぐ様捕らえよ」とだけ命令をしておく。

 

 

 

その命令の直後、

 

「私も姐様と運命を共にする〜!!」

 

と蛍が出奔しようとし、他姉妹2人に羽交い締めにされる少女が現れ、落ち着くまで軟禁状態にする事になった。

 

 

それだけ孫市の影響は雑賀衆でも大きかったのだ。

 

 

「さて、次は利休の所か」

 

 

少し前に弟子を殺され、傷心中の千利休。そこに、弟子が教会連中共に寝返り、日本に敵対したなんて聞かされれば、更に心を痛めることとなるだろう。だが、仕方ない。事実、それは起こってしまっているのだから。

 

 

「平和なんざ。そう簡単には手に入らんわな」

 

 

何かを諭したように彼は言った。

 

 

 

 

天龍は利休に会いに東京へ。

良晴はフロイス達を守りに大阪へ。

 

 

どちらも、その場所で何かしらの手掛かりが少しでも手に入ればと、ほんの少しの希望を胸に、歩みを進める事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、絶望はいつも見当違いの場所で生まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奈良県、興福寺。

土砂降りだったある夜、ここで襲撃事件が起きた。十字架を掲げた南蛮人”1人”によって行われたと、生き残った僧らが語る。

 

死者13名。

 

・興福寺外で見廻りをしていた僧兵が5名。

・何も知らずに犯人に迂闊に話しかけた僧が2名。

・無理矢理進撃しようとする南蛮人を止めに入ろうとした僧が4名。

・南蛮人の説得に試みたが、無残にも討たれた僧正が1名。

 

・『勇敢にも南蛮人に立ち向かい、互角の勝負を見せたものの、敢え無く敗北し、最も酷い方法で惨殺された、現日本陸軍少将』1名。

 

 

 

 

 

 

 

その者は、勘解由小路天龍が羽柴天竜秀長と名乗っていた時代からの旧臣。元僧兵でありながら大名に出世し、天竜と関係を持ち、彼の能力すらも与えられた存在。

 

 

 

 

 

 

『睾丸性女性化症候群』という病気に悩まされ、同一性障害にも陥っていた所を天竜に救い出され、以後彼に人生の全てを託した少女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元大和、筒井城城主。

元天竜軍家老。現日本陸軍少将。

 

天龍の愛人の1人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筒井順慶、死亡。

 

 

 

 




前書きでも書きましたが、本作は原作とあり得ないぐらいかけ離れる展開になりました。ましてや、前回から1年も経っているので、原作の内容も入れられるようで全く入れられてません。
(近衛前久が良い奴になってたり、良晴に義姉ができたり、島津が四姉妹だったり、影武者とか朧月夜とか出てきたり、二週目の良晴だったりとか、知らん間に設定増えすぎや!)
本当は九州攻めとかも詳しくやりたかったんだけどね。天龍中心の話ですし、やる暇もなく...

なにはともあれ新展開。本格化した異国からの襲撃、順慶の死。読者が何人残ってるかは分からないですが、また盛り上げていきたいですね。
誤字脱字等の修正も順次やっていきます。
次回予告
筒井順慶
〜私は貴方の為になれた?〜


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