それと、スネコスリの存在を忘れるネタを原作でもやっててワロタ。
第百一話
大坂府にて。
「これは凄んごいの❣❣」
大坂のシンボル、大坂城を見て、サリームは感激した。
「この時代じゃあ、大坂城は世界最大の建築物だからな。史実の城にプラスαで色々と要塞設備を搭載してるから、実質世界最強の城塞だな」
「我が国のアーグラでさえ、こうはいくまい!」
「アーグラ城塞か。俺は好きだがな、『赤い城』。総面積こそ大坂城だけど、アーグラは横に広いだろ」
「それだけじゃろ。あんなのただのデカい塀じゃ。色彩も一辺倒で華がない。戦争の為だけの城じゃ。それに対してこっちは城下に豊かな町がある。それだけでここら一体は栄えるじゃろう。しかもこのような城はジャパンの各地にあるのじゃろ?」
「版籍奉還をして武家政治が崩壊した現状。城を使ってんのは県知事か、城を買い取った元城主の華族連中だけだけどな」
「ふぅむ、益々凄んごいのぉ。このオオザカジョウと我が国のアーグラで一戦交えた場合、どうなるんじゃろうな」
仮に大坂城の目と鼻の先にアーグラ城塞が出現し、そのままインド軍と戦争状態に突入したとする。その場合においても俺はその戦争でインド軍を圧倒する自信がある。それも大坂城の能力のみでだ。
それだけ大坂城の築城には力を入れた。天下統一がなされ、武家体制も存在しない今、クーデターでも起きない限りその大坂城の城塞としての活力を利用する機会はないのだが、油断はできない。如何なる事態にも対応できるよう、『対東洋人』専用の超城として設計したのだ。
それに相対するように築城したのが『江戸ドラキュラ城』だ。こちらに関しては『対西洋人』専用に設計した超城。まず無いと思うが、列強国の侵略による本土決戦を行う場合の切り札として江戸城を持っている。元々はただの西洋風ドラキュラ城だったが、様々な状況を想定して数多くの改修を重ねた為、和洋が入り混じった奇妙な城塞となってしまってる。
「しかし残念なじゃったの。ミチヒトも来られれば良かったのに」
「この国の天皇はまだまだ雲の上の存在だからな。国内の情勢がキチンと整理されるまではまだ皇居に籠ってもらわねば困るんだ。拉致られた前例もあるしな。膿さえ取り除いてしまえば、日本でもインドのように皇帝が国の上に立つ存在になれるさ」
「早くそんな時代が来るといいな。ずっとあんな城の中に閉じ込められていては可哀想じゃ」
「まぁ、方仁の性格からして万人の上に立つのは苦手そうだしな。だが今のままだと結局の所、戦争等の責任は彼女に取らせる事になってしまう。まだまだ及第点が多いな」
「ヴラドならできるはずじゃ!我(おれ)のお墨付きじゃからな」
「俺が生きてる間にできれば.....な」
二日後、大坂湾にて。
「来た時は突然でなんの歓迎もできなかったからな。帰る時ぐらいは、形式に則った式典を開いてやったよ」
「有難い。褒めて使わすぞヴラド」
政府の用人数十名の見送りの元、蒸気船『咸臨丸』にて彼女を送り出していた。咸臨丸には、サリーム滞在中に慌てて本国から追いかけてきたインド帝国の高官達が乗船していた。
政府の用人は元大名だった者ら。天龍の家臣達は勿論のこと、小早川隆景や上杉謙信らも訪れていた。小早川隆景は海軍中将。上杉謙信は警察庁長官の地位にいた。
そして、良晴もまたここにいた。
「あんたがインドの皇帝様か。正直、戦国時代でムガル帝国とかの人間と関わるとは思わなかったぜ」
良晴が馴れ馴れしくサリームに話しかける。
「なっ、なんじゃこの猿は。ジャパンでは口を聞く猿に服を着せ、副官にする文化でもあるのか!?それともこの者こそが『ハヌマーン』!?」
「随分と失礼な奴だな!?猿だなんて久しぶりに言われたぞ!?」
「あぁ〜〜気付かれてしまった。我が国の特殊技術によって生み出されたモンキーマンの秘密が〜。こうなったらインドと共有でモンキーマン計画を進めますかね?」
「それは面白いのっ!」
「嘘教えんなっ!!」
「冗談はさておきじゃ。其方が話に聞いていたヨシハルとかいうヴラドの弟か?」
「あっ、あぁ」
急に真面目になるサリームに良晴は戸惑いを見せる。
「其方よ、ちょくちょく謀反を起こして国を騒乱に陥れているようじゃの。でもヴラドの弟だからという理由で今日まで許され続けているそうじゃな」
「なっ!?.....また天龍が余計な事を.....」
「いや、これはベルフェゴールから聞いた」
「大友宗麟〜!!!」
「まぁ聞け。其方には其方の信念と正義があって謀反を起こすのだろう。この行動によって真の平和が得られると思って。だがな、周りはどうじゃ?其方の我儘にいつまでも付き合える物好きがずっといてくれると思うか?」
「..........」
「結果ばかりを追い求めて過程を蔑ろにし過ぎては、いずれ足元を掬われるぞ。この我のようにな」
己より十は年下かという娘に説教されてしまった。思えば、この時代に来てからこんな事ばかりだった気がする。
「.....教えてくれ皇帝ジャハーンギール。結果ばかりを追い求めてしまう俺はどう生きていけばいい?」
「簡単じゃ。結果など捨ててしまえ」
「はぁ?」
「手段の為なら目的など選ばない存在になればいい。只々前へ突き進め。其方が信じた道じゃ。道の先なんぞぼんやり見ていないで只々進め。例えその先が嶮しい崖であろうとも、すぐにでも流されてしまいそうな濁流があったとしても、信じて突き進んだ者にのみ、未来は現れるというものじゃ」
「.....ぷっくくく。もしそんな事を仕出かしたら、そいつは本当にどうしようもない奴になるな」
「当たり前じゃ。古今東西、異常でなかった英雄などおるまい」
「ふっ、違ぇねぇ」
結局の所、彼女は俺の行動を何一つ否定しなかった。どっち付かずに迷走していた俺を元気付けようとしたわけだ。宗麟が何かしら気を利かせてくれたのだろう。後で礼を言わなくては。
「それでも我のヴラドには勝てぬがな」
「勝つさ。例え世紀を跨ぐこととなろうとも。世界の終焉が訪れようとも、その前に必ずな」
「良い心掛けじゃ。我は好きじゃぞ。そういう真っ直ぐな人間はな」
「有難う御座います皇帝陛下」
「にしししっ」
小さな褐色肌の皇帝は、笑顔で良晴に応えた。
「陛下との会談には宰相である俺を通してほしいんだが?」
天龍が近付く。
「ん?俺のこの国の地位はあんたと同等のはずだ。わざわざあんたに許可貰うはずはないんじゃないのかい?」
「俺はインド帝国の宰相として話している。それからすれば、お前は他国の部外者に過ぎん」
「うわっ、ズリぃ〜。知らん間に何から何まで力持っちまうんだもんな」
「お前もちっとは、自分で力を付けてみろ」
「くそ〜。やっぱ総理大臣になるっきゃないかなぁ」
「言っておくが、大日本帝国憲法こと明治憲法下において、総理大臣である首相には大した権限なんてないぞ?」
「マジっ!?」
「あくまで形式上のリーダー、政府の管理者、政府の顔に過ぎん。場合によっては軍部大臣の方が立場は上だ。史実において陸軍が大きな権限を持ったのはそれが理由だろう。
逆に、日本国憲法こと現代憲法では大臣の更迭なんかもできたりするから、その点においては現代憲法が上かもしれんな」
「そうなんか〜。アテが外れたなぁ」
「総理大臣になるつもりだったのか?まぁ軍部に権限を握られるのも面倒だから、首相にはある程度の力を与えてもいいのかもしれないな。憲法もまだ発布されていないし、内閣も創造されていないからな。その案はいいかもしれん」
「マジでっ!?よっしゃ!!」
「なんの話をしているのじゃ?」
「何。これからの日本の礎を作る上での大事な井戸端会議ですよ」
「??」
これは昨夜のこと。
「サリームを囮にする」
「えっ!?」
天龍の突然の発言に驚愕する石田三成。
「ちょちょちょ、待ってください閣下。
ジャハーンギール様は天竺の皇帝陛下ですよ!?それを囮にするなんて!」
「別に使い捨てにするわけじゃない。当然サリームは全力で守護する。それも万全の体制でな」
「しっ、しかし...」
「まぁ聞こう佐吉。何をやらかすのかは、知らぬが、それをやってのける自信があるのだろう天龍?」
大谷吉継は言う。
「まぁな」
「では聞かせてくれ。インド皇帝を囮に使ってまでして、お前は一体誰を嵌めようとしている?」
「ザビエルだ」
即答した。フランシスコ・ザビエル。正体不明の宣教師。10年以上前に死んでいるにも関わらず再び復活し、天龍ら吸血鬼勢と対立する者ら。裏で暗躍するばかりで、滅多に表に出てこない連中だ。
「奴らが表に出てきたのは今迄にたった三度だけ。
一つ目は、甲斐にてガスパール・カブラル率いる三名のエクソシスト共が正面からぶつかって来た時。しかしこれは、ガスパールを含む二名を殺害し、一名を捕虜とした事で解決した。
二つ目は、例のガブリエル・クロウ・アンダーソンが単騎でぶつかって来た時。しかしこれも、ガブリエルが俺の護衛である凪達に手も足も出せずに撤退した事で解決。
三つ目は、良晴を唆して戦争蜂起させた時だ」
「良晴様はなんと?」
「どうやら、あの戦が和睦で終わったと同時に姿を消したらしい。奴はザビエルに直接会っている。しかし、どのような顔だったか聞いてみたが、ザビエルは普段からローブのようなものを纏っていた為、顔を見ていなそうだ。当時の良晴は精神的にも異常な状態だったからか、気にする余裕もなかったそうだ」
「天龍様は?」
「ん?」
三成が問う。
「天龍様もザビエルに会われているのでは?南蛮で戦をしていたのでしょう?」
「残念ながら分からん。連中の代表は常に顔を名前を変えている。ローマ法王に化けていた時もあったさ。今度はまさか、善人で有名なフランシスコザビエルが長をしているなんてな。しかも基本的に司令官的立場で後方にいる為、ザビエルの正体は俺も分からん」
「そうですか...」
「そうなると、今のフランシスコザビエルも以前の人物とは別人の可能性もあるのか.....対策が立てづらいな」
「だが、奴らが裏で色々と暗躍している事には違いない。最近、何者かの手引きで多数のバテレンが日本を出入りしている情報も入っている」
「何者か...やはりキリシタン。いえ、サタン教にすら従わなかったクリスチャン共でしょうか?」
「いや、それだけではないだろう佐吉。未だに天龍の方針に反抗的態度を続ける元大名達というのも考えられる」
吉継は言う。
「島津に伊達に...いや、身内も考えられますね。信濃戦争時の過激派連中も考えられます。何れにせよ非国民のクズ共です」
「まぁまぁ、あくまで可能性があるってだけだ。あんま疑い過ぎて余計な処罰とかすんなよ?」
「ですが天龍様!仮に何者かが手引きしてバテレン共を我が国に引き入れているとして、どう対処するおつもりですか!」
「それが今回の囮作戦さ」
インド皇帝サリームを送り出す式典で、彼女を囮に使ってまでしようとしている事とは...
「俺が思うに、奴らがやろうとしているものの準備は既に完了していると読んでいる。だがそれを起動させる為の、キッカケが無いんだ」
「キッカケ?」
「この国でドンパチやらかすキッカケさ。それをこちらが作ってやるのさ。その為の囮」
「馬鹿な。自ら危険を呼び込むのか?第一、そこまで大々的な誘い込みでは奴らにも読まれているはず」
「当然、万全の体勢で迎えるさ。絶対にサリームを傷付けない警備網でな。そして連中が本当に俺の思う通りの奴らであるなら、罠であると知った上であえて飛び込んでくるだろう。そういう連中だ」
「まぁ、実際に連中との戦闘を行っているのは天龍様だけですから、連中のことは誰よりも詳しいのでしょうが、そう上手く行きますかね?」
「俺が編み出した策で上手くいかなかったものなど今までにあったかい?」
「結構あります」
「『天龍策に溺れる』なんてしょっちゅうじゃないか」
「あれぇ〜?」
当日の朝方。
「配置については以上だ。質問はあるか?」
「あらへんよ。うちらは怪しい奴を見つけては撃ちゃあええんやろ?」
「流石に発砲許可を出してからだ。誰でも彼でも撃たれたらかなわん」
「ははははっ!分かっとる分かっとるで!」
元紀伊雑賀鉄砲隊長、雑賀孫市。天龍の側室でもある。結婚後彼女は紀伊にて大名となった。だが版籍奉還にて大名職を辞し、現在は日本陸軍少将の地位にいる。
天龍は三成と共に、孫市と狙撃班の調整をしていた。
「まぁ任せとき!うちら雑賀衆にかかれば耶蘇の連中なんざ一網打尽や!」
「期待しているぞ孫市。我が国家の命運はお前達の腕にかかっているつもりで任務にあたれ」
「にしししし」
「謙信にも警察隊の導入は頼んでいるし、ひとまずはこんな所だな」
天龍は紙タバコを取り出し、口にくわえる。それを見た三成がすぐさま懐に手を伸ばし、そこから"マッチ"を取り出す。流れるような手付きでマッチの火薬部分をヤスリに擦り付ける。だが火付きが悪く、いつまでも着火しない。
「あれっ?あれっ?」
「ほれ、天龍ハン」
「うむ、すまない」
モタモタしているうちに、孫市が出した"ジッポライター"によってタバコに火を付ける。
「あぁぁぁぁ〜〜〜!!!」
「なんや?」
「ななな、何ですかその着火器具はぁ!?」
「去年、天龍ハンと沖縄旅行行った時にもろたんや。油さえ入れれば火ぃ付くから便利やで」
「天龍様ぁ.....」
「分かった分かった。今度お前にもやるよ」
昨今の日本の近代化に伴い、天龍の政策によってタバコ業界は革命を起こしていた。それまで主流とされていたキセルに代わる喫煙具として誕生したのが紙タバコである。比較的安価な材料で手に入る為、大衆タバコとしてこれが大ヒット。天龍もまた、それまで愛煙していた葉巻に代わり、積極的に紙タバコを吸い始めたことで紙タバコが大流行したのである。
それと同時期に現れたのが『マッチ』である。それまでは長年、火打石が利用されてきたが、いかんせん着火が面倒であった。天龍は新たなる着火器具として、マッチを提案。塩素酸カリウムと硫化アンチモンを頭薬とした摩擦マッチを製作。従来の火打石とは大きく変わった火付けの良さに、これもまた大ヒットしたのだ。
とはいえ、今現在のマッチと比べるとまだいかんせん火は付きにくかった。
「やっぱ、赤燐の方がいいかねぇ。時代に合わせて徐々に進化させるつもりだったけど、今みたくいざという時に着火しなきゃ意味がないからな」
「というかその、らいたぁ...なるものを普及させれば良いのでは?」
「ライターはまだ早い。燃料となるオイルも、油なら何でもいいわけじゃないしな。孫市にライターをくれてやったのは俺と同じく喫煙者だったからだ」
「だって.....煙を吸い続けたら病気になっちゃいますし」
「人間はそう簡単にゃあ死なんよ」
「天龍様が言っても説得力がありません」
「それもそうか。くくくく...」
微笑しながら、天龍は煙を大きく吹き上げた。
「そいじゃ、うちはもう配置に付くで。とはいえ、何も起こんのが一番なんやろうけどなぁ」
「まぁな。でも、精進はしてくれ」
「モチのロンや。そいじゃ、おおきに」
そうして孫市は去っていった。
「12名に及ぶ射撃手による護衛ですか。ここまで厳重にしてしまっては、奴らも現れないのでは?」
「前も言っただろう。こんな誘い込みにすら恐れ慄き、乗ろうともしない連中なんざ敵じゃない。来ないなら来ないでいいさ。それなら何の躊躇いもせずに叩き潰せるからな。だが、奴らは必ず動く。そう確信している」
「随分な信頼ですね。敵に対して」
「ただの敬意さ。裏切りとはいえ、一度は俺を滅ぼした連中だ。優れた王は慢心などせんさ」
「ですね」
「さぁ、配置に着こう。どんな未来が待ち受けてるか、今から楽しみだ。実に楽しみだ」
そして、その時は来た。
「ん?」
一発の射撃音。一閃が走ったかと思うと、サリームの近くの地面が軽く抉れる。直後、彼女の髪留めの飾りが割れ、結われていた長い髪がバラリと垂れた。
「なんじゃ。髪留めが割れてしまったのか?」
「.....リームッ!!!」
「えっ?」
血相を変えた天龍が彼女を庇うように押し倒してきた。
「なっ、なんじゃ!?何のつもりじゃヴラド!?」
「いいから伏せてろ!!撃たれている!!」
再び、そして次々に発砲音。サリームと天龍の周囲の地面が抉れ、数発の弾丸が天龍を襲う。
「え"っ!!?」
「大丈夫だ...大丈夫だから、絶対に顔を出すな」
天龍は辺りを見回す。慌ただしく狼狽える日本の政府連中や良晴。怯える迎えのインド連中。アクシデントに混乱する雑賀衆。
何処だ。何処から撃ってきた?誰が撃ってきた?
この万全の状態で何が起きた?
何故にこの状況になった?
いや違う。
どうすればこの事態を起こせる?
"誰を使えばこの状況を作れる?"
考え方さえ変えれば答えは自ずと見えてくる。
「...っ!!」
目当ての方向に視線を向ける。そして、見つけた。
「そういうことか...」
"ソレ"が視線に入り、天龍は哀しいような複雑な表情で微笑する。そして、半分諦めたかのような表情で、庇っているサリームに視線を戻した。
「ごめんなサリーム。俺の勝手で巻き込んじまって」
「ヴラド...?」
その直後、一発の銃弾が天龍の右側頭部を貫通。彼の頭蓋はまるでスイカ割りの西瓜の如く割れ、破裂。中の肉片や脳髄らの破片が全て真下のサリームの顔面に降り掛かった。
「ひぃっ.....!!!?」
そして、天龍はそのまま動かなくなる。
「嫌ああああああああああああああああああああああああああああっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
好いていた男の顔の崩壊が哀しかったのか、はたまた人間の崩れた脳内を目の当たりにしたのに驚愕したのか、それらの血肉が己の顔を汚したショックだったのか...
恐らくその全てだろう。その全ての出来事が、彼女の精神を壊す程の悲鳴を挙げさせた。まるで、この出来事を引き起こした張本人を祝福するファンファーレのように。
「天龍っ!!!」
「天龍様!...陛下!!」
その騒ぎの最中銃撃を避けながら、良晴と大友宗麟が近寄る。
「誰がこんなことを.....」
そうして良晴は見上げた。天龍の頭蓋を粉砕した銃撃を浴びせたと思われる射撃手の方向へ。射撃手は彼らからはやや離れた位置の、高台に悠々とこちらを見つめていた。
「ばっ..........馬鹿なっ!!!?」
その者はしたり顔でこちらに視線と、その巨銃の銃口を向けていた。すると"彼女"は懐に手を伸ばし、そこから一本の紙タバコを取り出す。それを口にくわえ、同じく懐から取り出した『ジッポライター』にて火を付け、ニコチンの排煙を己の肺一杯に溜め込み、そして吐き出した。
「どうして...........どうして君が」
その時だ。良晴の後方にて、頭部を失っているにも関わらず左手に拳銃を召喚し、その射撃手にそれを向ける天龍の死体の姿があった。
『どけ、良晴!』
「えっ?」
哀しみに浸るよりも早く、脳内に彼の声が聞こえた。咄嗟に右に避ける。すると、そのすぐ真横を5〜6発の弾丸が通り抜けるのが分かる。その弾丸は真っ直ぐその射撃手に向かっていく。
だが彼女は避けない。避けられないのではない。
避ける必要がないのだ。
「呻れ。『ナノマシン』」
それは一瞬の出来事。突如現れた銀色の不定形の盾が彼女を拳銃の弾丸から守護る。
「What!?.....あれはまさか....!?」
すぐに気付いたのは大友宗麟。それもそのはず。あの技はかつて自分が人間だった頃にも使用している技。
西洋の四大元素ではなく東洋の五行思想を利用し、応用して誕生した新たなる錬金妖術の金属の精霊。媒介とした金属によって様々な能力を持つそれは、使用者によって『ナノマシン』や『マーキュリー』と呼ばれた。アルカヘストの最強武器であり、同時に諸刃の剣でもあるそれは、術者の寿命と引き換えに、どんなものでも粉砕する力を与える。
『そうか.....お前もか。これは実に予想外だった』
頭部を碎かれ、死亡したはずの天龍の死体がムクリと立ち上がる。その死を目の当たりとしたサリームは、訳がわからないといった表情で混乱している。
『覚悟しろよ貴様ら。ただの敵対ならまだしも、裏切った者を安安と死なせてやる程、俺は甘くない。死以上の苦痛を味合わせてやる』
徐々に頭部を再生させていく。顎から鼻、そして眼球までを再生させた所でようやく彼の視界にその者らが写った。
「裏切り者には、死、あるのみだ」
天龍がそう吐き捨てると、
「「ぷっくくくくくくく..........アッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!!」」
その二人は途端に笑い出したのだ。
「アカンわ。アキまへんワ天龍ハン。それって、分かりやすいぐらいの常套句やないの!折角の大舞台、もっと"えれがんと"な台詞で吐き捨てて貰わナ!!裏切った甲斐もないっちゅうわけや」
「そうですよ。こちとら一大決心で祖国に唾を吐きかけてるんです。もっともっとこの状況を楽しんで貰わないと!.....ね?天竜様ぁ?」
そう、一人はその高い戦闘能力、将としての器、人間性を買われ、一国一城の主、または天下人の側室までに取り立てられた雑賀衆の頭首。
一人は、使い番上がりの小姓に過ぎなかった身から、一軍の将、関東管領代理の権限を手に入れ、大宗匠と呼ばれた千利休の後継者になるかもしれなかった人物。
雑賀孫市。
古田織部。
反逆...
ここに来て、古田織部と雑賀孫市の裏切り。織部は前回に裏切る伏線を張ってたけど、孫市は予想外だったと思います。ここから、どのような展開になるか、お楽しみ下さい。
次回予告
崩壊の始まり
〜そう、彼こそが〜