天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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あけましておめでとうございます。
前回投稿からかなり時間が経ってしまいましたね。作品自体はわりと早くに作ってたのですが、投稿という行為を忘れていました。すいません。
傷物語見に行きました!60分という短さに不安を覚えていましたが、次世代アニメを相関させる映像美に感動しましたわな。夏が楽しみだ。




第九十九話 天竺の問題児

ヌールッディーン・ムハンマド・ジャハーンギール。ムガル帝国第四代皇帝にして、新生インド帝国初代皇帝。幼名及び、天龍からの愛称はサリーム。皇位継承を巡り実父アクバルと争い、偶然にも渡印してきた天龍の協力を得て、アクバルを殺害。改めて皇位継承権を手に入れる。その際、国の名称をムガル帝国からインド帝国に改称した。

 

 

 

「よっ!来てやったぞヴラド!出迎えが遅いではないか!」

 

「連絡も無しに唐突に来日されても対応できん。第一俺は対馬で明と戦争中だったしな」

 

「なにシナとだと!?それでどうした。勝ったのか?」

 

「圧勝」

 

「素晴らしい!それでこそ朕のものである!」

 

 

サリームはペルシア語とチャガタイ語が混じり合ったような言語を話している。『バベルの塔の定理』のある"人間"では、自国民でも聞き取りずらいだろう。

 

 

「そこの女は何だ?ジャパニーズじゃないぞ?」

 

「こいつの名前はスー・チュンツァイ。明からの亡命者みたいなものだ」

 

「ほう。流石はヴラドじゃ!」

 

「まぁね」

 

「ところで、いつになったら宰相として我が国に帰ってくるのじゃ。ジャパンとインドが合わさり、一つの国となるのだろう?」

 

「ちょっと待っててな。準備中だからさ」

 

「分かったぞ!愛する者の為に朕はいつまでも待つぞ!良妻賢母とはそういうものらしいからな!」

 

「はぁ.....」

 

 

天龍のテンションはだだ下がりだった。理由は一つ。サリームが"ちょろイン"過ぎるからである。攻略難易度の高い女子を全力で堕としにかかり、服従させることを好む天龍にとって、勝手にドンドコ惚れ込んでくるサリームは苦手なのだ。

いや、そのような娘など日本の方にも結構いる。問題はまだあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日印同盟とやらだが、主体は当然インドなのであろう?」

 

「は?」

 

「は?ではない。当たり前じゃろう。弱小国ジパングを主体にするとでも思っていたのか?」

 

 

長崎の港にてサリームを迎え、官兵衛主導で新たに栄えた都市、博多のとある洋館にて彼女と会合していたのだが、思わぬ展開となった。

 

 

「サリームよ。どちらが主体だとか、どちらが上に立つなんてのは下らないことだ。『併合』とは即ち同位の存在となる事。インドも日本も全く等しい同じ国になるということなのだぞ?」

 

「分かっておる!だが、国の名前はどうする?国を治める帝はどうする?同じアジアンの人間とはいえ、文化も人種も違うのじゃ。完全なる合併なぞ無理であろう。どちらかを主体にせねば、折り合いが付かぬではないか!」

 

「ちっ.....」

 

 

サリームの言う通りだった。現に、史実の『大日本帝国』と『大韓帝国』の併合の際も、主体はあくまでも日本。植民地と取られてもおかしくはない合併だった。

第一、清国の滅亡により、従属国であった韓国は国家としても文化としても滅亡の一途を辿っており、日本に頼る他なかった状態。その衰退した韓国朝鮮民族のベースに合わせていては日本まで滅びてしまう。だからこそ、韓国朝鮮人の日本人化を目指したのだ。

 

当初の目的としては、インドとは合併という名の同盟を組み、対明国戦に備える予定であった。そうして亜細亜各国を吸収していき、その過程でインド人の日本人化を進めようとしていた。インド帝国が日本以上の勢力を誇っている以上、そのように騙し騙しでやっていく必要があった。その為の傀儡皇帝サリームを擁立したのだが、如何せん上手く行かないものなのだ。

父アクバルという強敵の前ではただのか弱き幼女に過ぎなかったこのサリーム。アクバル死亡後は打って変わる程の采配ぶりに驚かされるばかりである。良晴との戦争やその後の統治の問題で本土を離れなれなくなり、インドへは支援物資を送る程度の手伝いしかなかったにも関わらずだ。

彼女は1人の皇帝としてインド軍兵士を指揮し、ほんの半年程度でインド大陸を統一してしまった。当然、監視役で送っていたベルフェゴールこと『大友宗麟』の戦略の助言もあっただろうし、送った支援もこちら日本でも使われている『"未来の武器"』な為、完全に彼女の実力かどうか問われれば答えを渋りたくなるが.....

それでも、彼女は国の長としての大将を務めた。「億を越える人民の王」を務めたのだ。流石の俺でも脱帽しざるをえない。

腐ってもムガル帝国皇帝。彼女にもまた、名君アクバルの血が流れていたということかもしれない。

 

 

 

だが、それがむしろ問題でもある。

それでは傀儡としては約立たずであるからだ。インドが独自に成長してしまっては、我が国が介入する隙間がないではないか。

 

 

 

 

 

「.....俺の命令を聞けサリーム」

 

「嫌じゃ。何故宰相如きの命令を聞かねばならぬのじゃ。朕は皇帝であるぞ!」

 

 

めんどくせぇ。

 

正直、しばらくの間サリームと距離を空けていたのは失敗だった。こちらの目が届かぬうちに彼女は勝手に成長し、皇帝としての確たる自身を付けてしまっていた。これではなんの為に傀儡にしたのだ?

 

 

 

「とっ、取り敢えずそれは置いておこう。まず対明戦についての打ち合わせといかないか?」

 

「.....ヴラドよ。よもや使う兵はインドの民ばかりが中心であり、手柄だけをジパングが掠め取ろう思っておるのではあるまいな?」

 

「ギクッ!!?.....なんでさ?」

 

「ジパングはここ数年で統一されたばかり。言わば産まれたばかり赤ん坊国じゃ。にも関わらず隣国のシナとは敵対どころか戦時中の状態にある。国土だけなら朕のインドすら越える大国じゃ。まず勝てぬであろうて。しかし、都合よくジパングは朕のインドと同盟を組んでおる。では、やることは決まっておろう。インドにシナと戦わせて手柄だけジパングが貰う。そうであろう?

現に、ジパングはインド統一の際には同盟国にも関わらず全く協力の意志を見せず、ちょっとした支援を送ってきただけのくせに」

 

 

 

 

正直、予想以上の成長率だ。初対面時のバカさ加減が偽りであったかのような。親殺しは幼女をここ迄変えるか。

 

 

 

 

「待て待て待て!言っただろう、その時は運悪く内戦が続いて、インドに援軍を出す余裕が無かったと。それに送った物資は少なからず大陸制覇の役には立ったはずだ。旧世代の火縄銃や明から伝わった"火槍や石火矢"くらいしか火薬武器が無かったインド軍の兵力をガラリと変えたはずだ。そうだろう?」

 

「そうなのじゃがなぁ。朕はどうしても納得いかぬのじゃ!」

 

「何がさ」

 

「結婚の約束は何処へ行ったのじゃ何処へ!」

 

「えっ?」

 

「朕と婚約したじゃろう!!」

 

「あ.....」

 

 

そういえばそうだった。そもそもそれをキッカケにして同盟やら併合の話に発展したのだ。正直、本当にキッカケに過ぎなかったので完全に忘れていた。

 

 

「やっぱしないと駄目か?」

 

「駄目じゃ!断れば同盟を破棄し、颯爽と日本に攻め込んでやる!ヴラドを殺して朕も死んでやる!」

 

 

中途半端にヤンデレときたか。

 

正直口約束はしたものの、俺は結婚に対して積極的ではなかった。

俺は現在、日本国天皇こと方仁・インド皇帝ことサリーム、双方に宰相として仕えている。しかしこれは、かなりグレーな線で均衡を保っており、公にできる状態ではないのだ。未だ封権社会が根強い為か、二君に仕えている事に対する評価は低い。

結婚となれば話はまた変わる。結婚した所でインドの皇帝は依然サリームのままだ。しかし、皇帝の伴侶という立場は手に入る。子供が産まれれば、その子が次期皇帝。皇帝の父の立場も手に入るのだ。

かの平清盛はコレと似た方法よって朝廷すら掌握し、日本国において絶大的な権力を手に入れた。だが、何時の時代も何処の国でも、急激な成り上がりに対する評価は手厳しい。日本を征服した平氏は、それに反発する朝廷や源氏武家によって滅ぼされた。

きっとインドでも同じ事が起きるだろう。家臣や国民は日本からの間者によってインドが侵略されたと感じるだろう。きっと暴動が起きる。革命が起きる。文明開化したとはいえ、未だ弱小の日本は成すすべもなく、サリーム政権は崩壊。その隙を狙って英国あたりに植民地にさせる。

 

軽く考えるだけで、最悪な未来がよくよく見えてしまう。

 

 

「朕は絶対皇帝じゃ!朕のものに過ぎぬお主は朕の命令を聞いておればよいのじゃ!」

 

「............面倒臭い」

 

 

ボソリと呟く。

 

【違うよサリーム。貴様は絶対皇帝なんかではない。このヴラディスラウス・ドラグリアことドラキュラが、ムガル帝国を都合よく侵略し、征服する為だけに救出し、擁立させてやった皇帝だ。所詮は傀儡皇帝。所詮はただの幼女。俺が貴様のものではなく、貴様が俺のものなのだ。俺の人形なのだ。】

 

 

「ヴ.....ヴラド?」

 

 

サリームは天龍の異変を感じ取る。

 

【俺が生かしてやっているのだ。俺の機嫌を損ねれば、貴様のような小童など時代の荒波に打ち消されるだろう。虫ケラの如くに。

分からぬだろうな。分からぬであろうな貴様のような凡愚には。正しき事を学べぬ莫迦どもいつも早死する。貴様も死ぬかサリーム。貴様は邪魔だ。貴様の存在は邪魔だ。貴様の存在は我が覇道の前には障害となる石ころに過ぎぬ!殺すか?そうだ殺そう。殺すなら暗殺がいい。それもこの俺様の仕業と気付かれないように。】

 

 

「ごっ.....ごめんなさ!.....ち、朕が言い過ぎたのじゃ!だからそんな怖い顔はせんでくれ.....ヴラド.....謝るから」

 

「そうさ。そうなのさ。幼女1人を都合良く消す事などわけないのだ。ならどう消す?証拠を一切残さずにサリームをどう暗殺する?そうだ、爆殺しよう。彼女が搭乗する乗り物に爆弾を仕掛け、粉微塵にして殺そう。死体の判別も点かぬ程に、もしくは溺死させるか。サリームが帰りに乗る船を砲撃にて撃沈し、他の船員と共に葬ってやればいい。そうすれば、犯行を明の仕業と偽装する事もできる。明に皇帝を暗殺されたと伝われば、インドの国民は皆、対明戦の鬼となるだろう。死人や狂人となって積極的に参戦する。この俺の駒に、人形になるだろう!」

 

「ひっ.....!?」

 

 

感情のない顔で早口に淡々と己の暗殺計画を暴露する天龍に対して、サリームは膨大な恐怖感を覚える。声にならない悲鳴が漏れ、歯がカタカタと鳴り、少々だが失禁までしてしまう。今の彼にはそれだけの邪悪さがあった。

 

 

「サリ〜〜ム〜」

 

「ひぁっ!?ヤダヤダ.....殺さないで!!」

 

 

腰を抜かし、大声で悲鳴をあげながらサリームは後退る。今度は激しく失禁し、涙も同様に流れ落ちた。彼女にはもう、天龍は人には見えていなかった。それは"影"。漆黒の、何処までも深淵の黒の霧に包まれた『死』に、紅く光る眼球が二つ。

喰われる。殺される。

恐怖を具現化したその生物を前にすれば、皇帝の地位など紙一重に過ぎない。奴の前では、我々は等しく餌なのだ。

 

 

「サリ〜〜ム〜」

 

 

天龍と思わしき影がサリームの首に手を回す。

 

 

「助けて.....お母様.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冗談だよサリーム。本気にしたかい?」

 

「............え」

 

 

気づけば元の天龍の姿に戻り、穏やかな表情でサリームの頬にキスをする。それ迄がまるで、刹那に見た悪夢のように。

 

 

「うっく.....うわぁぁ.....」

 

 

サリームは緊張の糸が切れたように嗚咽を漏らし、そして。

 

 

「うわあああああああああああああああああァァァァァァん!!!!あああああああああぁァァァァァァ!!!」

 

 

彼女はその場で泣き出してしまった。皇帝としての権威を身に着けようとも、恐怖で感情を引き出されれば、彼女は実年齢に相応しく、か弱き幼女に過ぎないのだ。

 

 

「よしよし。怖がらせたな。ごめんごめんサリーム」

 

 

サリームをその身に抱き寄せ、頭を撫でてやる。

 

 

「うううううぅぅぅぅ.....」

 

「安心しろサリーム。俺がサリームを殺すわけがないじゃないか」

 

「うううううぅぅぅぅ..........うぅぅ」

 

 

 

 

「俺は美少女にも暴力は振るうが、殺すことはないんだぜ?」

 

 

 

 

「...........」

 

 

絶句した。

 

ならもし、自分が男子に産まれていたら?

もし、己が醜女の容姿に育っていたら?

 

彼は迷わず自分を殺していただろう。きっと。絶対に。

 

彼には人間としての感情がない。愛を感じない。感じるのは一つだけ、自分に利益があるかどうか。それしかないのだ。

それが怪物、ドラキュラ。

自分はそんな存在の主人なのだ。

 

 

「ごめんなさい.....ヴラド」

 

「いいよ。時にサリームよ」

 

「うん?」

 

「お前、処女か?」

 

「...........」

 

「いや、分かりきった問いだったな。すまない。質問を変えよう。初潮は既に済んでるのか?」

 

「.....しょちょう?」

 

「月経、生理、女の子の日。一月ごと股から血は出るか?子の産める身体になっているのか?」

 

「.....去年から。.....朕を吸血鬼にするのか?」

 

「よし、今夜俺の寝室に来い。抱いてやる」

 

「...........」

 

 

 

今までの自分なら跳んで歓喜し、頬を染めたことだろう。しかし、現在に至ってそれは無くなってしまった。従わなければ殺される。抱かれなければ喰われる。そういった感情がサリームに覆い被さっていたのだ。

 

 

 

「分かった。今宵朕はヴラドに抱かれよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"不倫は文化だ"

"セックスはスポーツである"

性欲に正直に生き、複数人と肉体関係を結ぶ人間はよくこのように性行為を表現する。

性行為に愛などいらない。性行為は愛確かめ合う為だけのものではない。愛を確かめ合う方法など他にいくらでもある。その行為に愛が無いからといって、不純であるだとか、汚れた関係だとか、身体を大事にしていない。ヤリチン、ビッチだとか。

そんなもの、他人には関係ない。迷惑をかけているわけではないのだから口を出すな。そんな考え方がある。

 

当の俺はというとだ。セックスがスポーツであるという考えがある訳ではないし、複数人と肉体関係を結んでいるからといって、それが愛のない無情な関係や、汚れた関係であるとも思えない。少なくとも、相手は己に対して最大の好意を向け、愛を感じていると言ってもいいだろう。

 

だが、この俺に愛はない。

 

誰かを愛した事がない。愛して性行為をした相手がいない。愛を感じるセックスなどしたことがないのだ。それは政略結婚にて関係を結んだ側室は勿論のこと、前妻のヒカリとも、現在の正室の十兵衛においても、愛は感じていなかったのだ。

だからといって、好きでもないのに仕方無く抱いたわけではない。幾らなんでも、俺とてそこまで捻くれているわけでもない。十兵衛のことは好きだし。他の側室や愛人達だってそうだ。ヒカリとだって、『好きだったからこそ、似合わない結婚なんて真似をした』のだろう。

 

そんな俺に子供が産まれた。7人もだ。子は夫婦の愛の結晶と言われるが、俺は我が子に愛を感じられない。愛を知らない家庭に産まれた俺には、愛の与え方が分からないのだ。

 

 

「でもまぁ、仕方あるまい。俺は所詮.....」

 

 

所詮吸血鬼。所詮悪魔だ。

 

愛を持たないから悪魔。それでいいじゃないか。

だからこそ.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『福岡城』。黒田官兵衛とその妹、松寿丸こと黒田長政の管理する城である。その一室を借りた。

インド皇帝サリームは見慣れぬ木造建築の和室や、床に横に二枚並べられた布団を前にそわそわとしながら、未だ現れない天龍を待っていた。

 

 

「真に.....大丈夫なんじゃろうか」

 

 

初めての夜伽を前にする彼女には、不安感しかなかった。つい先程、膨大な恐怖心を植え付けられ、絶望を覚え込まされた相手に抱かれようとしている。ましてやここは異国の地。逃げ場などは無い。好いた相手の故郷だからと来てみたが、些か早計であったと、サリームは後悔を覚えた。

 

 

「待たせたな」

 

 

襖を開け、天龍が入室した。

 

 

「............えっ?」

 

 

彼の姿形を見て、サリームは開いた口が塞がらなくなってしまった。

 

 

「よっ」

 

「もしかして、ゔっ.....ヴラドか?」

 

「うん、そだよ〜」

 

 

天龍は幼体化していた。元々中性的で、外見から性別が判断しにくい天龍だったが、幼体となっては余計に分からない。

整った顔つき、雪のように白い肌、腰まで伸びる長い黒髪、全体的にほっそりとした身体。大人の彼との共通点があるすれば、紅の瞳と滲み出る黒い邪気。

 

 

「どうしてなのじゃ.....」

 

「なにが〜?」

 

「どうして子供になっておる!」

 

「それが吸血鬼の能力だしな〜」

 

「朕を愚弄しておるのか!」

 

「べっつに〜」

 

 

口調まで子供のように変化している。先程の魔王の覇気とは打って変わった雰囲気に、サリームは戸惑うしかない。

 

 

「君の立場に立ってみただけさ。子供の君にね」

 

「朕を子供扱いするな!」

 

「子供だよ。大人の脳では感じられないものもある。真の意味で君を知りたかったからこそ、僕はこの年齢まで戻ったんだ」

 

「うっ.....く、お主は一体全体何がしたいのじゃ!」

 

「まぁまぁまぁ。今はしがらみも何も全部忘れてセックスしようよ」

 

「ちょっ..........んんっ!?」

 

 

反論しようとしていたサリームの口を唇で塞ぐ。そしてそのまま彼女を布団へと押し倒してしまう。

 

 

「ぷはぁっ!!.....いきなり接吻しおって!朕を馬鹿にしておるのか!」

 

「五月蝿いおにゃの娘はキスで黙らせろってね。まだバードキスだけだろ。これからは大人のキスだよ」

 

「待っっ......んんん〜!!!」

 

 

口内に舌を捩じ込まれ、己の舌に絡められ、舌の表、裏、口内の上側下側、歯、歯茎に至るまでを全て舐め取られる。

 

 

「だめぇ......こえらめぇ.....」

 

「ホレ、じゅるじゅる」

 

 

今度はサリームの短い舌を天龍の口内に吸い入れる。

 

 

「ヒタふわないでぇ〜.....!」

 

 

その舌が天龍のものなのか、サリームのものなのか、はたまた一本に繋がってしまっているかと錯覚する程に絡まり、それによって発生した大量の唾液が互いの口内を行き来する。

 

 

「どう?吸血鬼のヨダレは?滋養強壮、美容、万能薬に媚薬の効果もある。そこらの漢方薬なんかよりもずっと高価なんだよ?」

 

「もう、飲ませちゃやらぁ」

 

「お腹いっぱいかい?ならコッチだ」

 

「ひぅっ.....!?」

 

 

股間に手を伸ばす。

 

 

「濡れ濡れのぐしょぐしょだね。その年でいい感度だ。素晴らしく魅力的だよサリーム。小麦色の肌が美しく火照ってる」

 

「どうして.....こんなこと」

 

「僕のこの姿はね、只見た目を変えてるだけじゃないんだ。肉体そのものを幼体期まで退化させてる。この身体のこの外見こそ、当時の僕の姿さ。僕は生まれながらに化物だからね。一般の吸血鬼に出来ないことが僕にはできる。天竜も朧も出来ないことを、この"僕"になら可能となる。

幼体化の欠点は性格まで変わっちゃうことかな。僕は肉体を老若男女どれにでも変化させられるが、その分それに応じた性格の変化もしてしまう。僕の場合、子供になれば無邪気に、㊛になれば痴女っぽくなっちゃうんだ。爺婆にはまだなった事ないけど、案外口煩い老害になるかもしれないね」

 

「何を.....」

 

「初めての女の子には、僕の全力を捧げたいからね。大人の僕の身体じゃ君に負担かけちゃうかもしれないし、丁度いいだろ?」

 

「もう.....好きにすればいいのじゃ」

 

 

抵抗する気も失せたのか、仰向けにクタリと布団に寝転がり、無防備な状態となる。

 

 

「じゃあいただきます」

 

「んっ♡.....」

 

 

 

 

 

 

 

そうして、俺は彼女を抱いた。

 

考えてみれば、俺はいつも調略の際にはこの手を使っていたのだと思い出す。調略の天才、第二の姫武将殺しだなんて言われた事もあるが、只々セックスの上手さで㊛を魅了しているだけで、そんなに深い話はない。俺も単純な人間の1人だということだ。

 

サリームは非常に攻略の難しい娘だ。俺そのものに惚れさせる手はアクバルを殺害した際に完了しているだろう。だが、空いた期間の間に、彼女は皇帝としての自信を強化させた。精神面だけではなく、実力すらも伴って。それにより、プライドも発生したのだろう。天龍という男にベタ惚れにも関わらず、皇帝としてのプライドがある為、俺の前では仮面を被り、素っ気ないフリをする。

 

つまり、ちょろインのツンデレキャラの二重属性。幼女キャラやお姫様キャラも合わさり、崩壊すらしかかっている。

 

だからこそ、攻略が難しいのだ。殺してしまう道の方がよっぽど楽ではあるが、それはない。護りたいという感情が生まれた。彼女に俺という存在が必要なように、俺にも彼女という存在が必要になった。

愛してはいないが、好きになった。それだけだ。

 

サリームは皇帝とはいえ子供だ。その考え方は至ってシンプル。俺は500年以上も生きているが、その考え方は同じくシンプル。案外、相性が合うのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ♡.....はぁ♡.....はぁ♡.....はぁ♡.....」

 

 

行為が終わる。彼女は未だ余韻に浸って息を切らす。俺はその脇で葉巻で一服していた。流石に子供の姿で喫煙するわけにはいかないので、肉体は大人のものに戻っているが。

 

 

「は、初めての相手に.....激し過ぎじゃ.....」

 

「そうかな?大人の身体ならもうちょっと色々出来たんだけど」

 

「つっ、次やる時も子供の身体にするのじゃ!これは命令なのじゃ!」

 

「へーい」

 

 

次か.....

 

 

「なぁ、ヴラドよ」

 

「ん?」

 

「明日、『テンノウ』に会いたい」

 

「.....は?」

 

「このジパングの皇帝、テンノウに会いたいのじゃ。いや、むしろこの来日はそっちのが本命での」

 

「お前、また.....!」

 

「お願いじゃヴラド」

 

「なっ!?」

 

 

サリームが頭を下げた。

常に皇帝の権威を振りかざし、高過ぎるプライドのせいで、今の今まで決して頭を下げる事のなかったはずのサリームが頭を下げた。

 

 

「朕がお主の傀儡であることは理解している」

 

「っ.....!?」

 

「朕がインドで皇帝を名乗れているのも、そもそもここに生を成しているのも、全てはヴラドのお陰。ヴラドが現れなければ、朕のような小童は時代の荒波に押し潰され、消えていただろうと。朕はよくよく理解している」

 

「サリーム.....」

 

「きっと朕が出しゃばるよりも、ヴラドがインドを支配.....直接ではなくとも、朕を傀儡に、裏から支配するでも、インドを発展させるのは可能だろう。

だがな、"全く頼りにされぬのも、それはそれは虚しいものなのだぞ?"」

 

「...........」

 

「皇帝権限を振り翳すつもりはない。ヴラドの邪魔になるようなことは絶対にしたくはない。だがな、だがな?少しは役に立たせてほしい。そう思うのだ」

 

「それで方仁に.....日本国の天皇に会おうというのか?」

 

「うむ。朕が会ってどうにかなるものではない事は重々承知しておる。だが会いたいのじゃ。朕すら利用してみせたヴラディス・ラウス・ドラグリアが唯一忠誠してみせたという天皇に!」

 

「..........分かったよ」

 

「まことか!」

 

「ただし俺も同席する。こっちの皇帝様は他国のと違ってかなりデリケートだ。この俺が代行を務めなければならぬ程にな。余計なことをし過ぎぬよう、監視させてもらう」

 

「うむ。それで頼むぞ!」

 

「はぁ.....」

 

 

 

 

 

疲れた。彼女の心を開く為に一芝居打ったわけだが、これは上手くいったと言えるのだろうか?

無駄なまでに高いプライドを振り翳す彼女と対等な立場に立つ為に、彼女の理性をズタズタに引裂き、泣くぐらいに怖がらせてやった。彼女の心を丸裸にしてやる事で、初めて彼女の本心を聞き出せた。最悪の場合、脅迫しても良かったしな。

まぁ、案の定怖がらせて過ぎて、本当に泣かせてしまったな。そのお詫びとして、改めて彼女を丸裸にして戴いたわけだが、褐色美少女を喰うのも乙なものだな。うむ。

 

 

「そっ、それとなヴラド。先程の房時の最中に思い出したんだがな?」

 

「どうした?」

 

「そのな.....」

 

「どうした。言葉を濁さずに言え」

 

 

 

 

 

 

「あのな?.....イングランドやネーデルラントの使者が来て、ジパングとインドの同盟を破棄するように言ってきたのじゃ」

 

 

 

 

 

 

「へ?」

 

「いや、ちゃんとどちらとも断ったぞ!?流石にこれに了承したりして、ヴラドに嫌われたくはなかったしな。そしたら、ヴラドに会わせろって...

外交事業やら何やらは宰相を通せと言うたらそうなってしまっての。許してくれ」

 

「まぁ、怒りゃしないけどさ。ちっと早く言えよ」

 

「すまぬ。まずヴラドに会いに行く気持ちがいっぱいいっぱいで忘れてしまっていた」

 

「むぅ」

 

 

 

 

ここに来てイギリスとオランダか。

今の今まで、他国との関わりが明やインド、西洋との関わりはスペインポルトガル程度しかなかった分、その二大国の干渉は日本国の国際社会への進出を示唆させるものを感じさせた。

恐らく東インド会社関連の事だろうが.....

 

 

 

 

「まぁ、いいか。とりま放置だ」

 

「いいのか。それで」

 

「それどころではない。明とポルトガルの相手だけでも手一杯なのだ。ザビエル連中もあるしな.....」

 

「ざびえる?」

 

「お前は知らなくてもいい。これは俺と連中との戦争だ。もう周囲には迷惑をかけたくない」

 

「んん?」

 

「とりあえずこっちの陛下に会うんだな。東京の皇居の建築が遅れてるからまだ京都にいる。明日に会えるぞ。ヘリ飛ばすから」

 

「へり?よく分からんが、宜しく頼むぞ!」

 

「へいへい、皇帝陛下様」

 

 

イギリスとオランダか。悪い事にならねばいいと思うが。

 

 

 

 

 

 

 

「テンノウかぁ~。どんな奴なんだろうか」

 

「会ってからの楽しみにしておけ。ただ、公家連中を全員クビにしたから、わりと恨み買ってんのよ。う京都で暗殺されるかもしれんから気をつけろよ?」

 

「ひぃっ!?」

 

 

 

 




新年早々エロ回でした。久々の更新で文章やら展開に稚拙な部分がありましたが、早い段階で調子を取り戻せるようにしたいですね。
二人の皇帝
〜方仁は語る〜

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