天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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引っ越しの作業などで更新が遅れましたすみません!!
さて、久しぶりの天竜物語をお楽しみ下さい!!


第十話 暦道の陰陽師

 ドイツの民族同胞諸君!

 本年1月30日、国民結集の新しい政権が樹立された。私と、私の国家社会主義運動がこの政権に参加している。今や前提条件は達成されたと私は思う。この前提条件を勝ち取る事が今までの歳月の目的であったのだ。

 

 

 我々は決して虚言を弄したり、誤魔化したりはしない!従って私は、いかなる時も我が国民に対して、妥協したり口先だけの甘言を呈したりすることを拒否するものである。

 

 

 私は、我が民族の復活がおのずから達成されるとは諸君らに約束するつもりはない。我々が行動するのである、そう民族自身が手を取り合って行動しなければならないのだ。

 

 

自由や幸福や生活が突然空から降ってくると思ってはならない。全ては我々自身の意志と行動にかかっているのである。

 

 

 他所の助けを待ってはならない。我が国家、我が民族以外からの助けを頼んではならない!我々自身のうちに、ドイツ民族の将来は存するのである。

 

 

 我々自身がドイツ民族を、その固有の労働、勤勉、決然さ、不屈さ、頑強さによって繁栄させるのだ。そうして始めて、我々はかの祖先と同じ高みへと再び登りつめることができよう。かつて祖先もドイツを無為に手に入れたのではなく、己の力で築き上げたに違いないのだから。

 

 

 ドイツ国民よ、我々に4年の歳月を与えよ。しかるのちに我々を判断せよ!ドイツ国民よ、我々に4年の歳月を与えよ。私は誓おう。この職に就いた時と同じようにこれからも私は進むという事を。私は給与や賃金の為に行動するのではない、ただただ諸君らの為にのみ行動するのだ!

 

 

※アドルフ・ヒトラーより

 

 

 

 

 

 

 

 

第十話

「出でよ我が式神!」

 

 

巨大な魔法陣から出現したソレは一直線に地上の下級術師達を襲い始めた。

 

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!化け物ぉぉぉ!!!」

 

「よせぃ!!痛いぃ!!」

 

 

「暴れろ鉤爪竜!雑魚術師共を

斬り殺せ!食い殺せ!」

 

 

天竜が召喚したそれは、足に巨大な鉤爪を持った大きなトカゲであった。良晴はそれを見て思わず、昔図鑑で見たヴェロキラプトルという恐竜を思い出した。数は7匹。20人近くいた下級術師達は次々に人数を減らしてゆく。

 

 

「むぅ~!僕の邪魔をするのは許さないぞ☆」

 

 

大仏の肩に乗っていた術師は片手を天高く挙げ、頭上にて気を溜め、それが火の玉になる。

 

 

「消炭になっちゃえ☆」

 

「天竜さんっ!!!」

 

 

良晴が叫んだのも虚しく、術師が作った火の玉は天竜に向けて一直線に放たれた。天竜は.....

 

 

「出でよ装甲竜!

その硬さを見せてみろ!」

 

 

天竜の目前に背中が岩でできたようなトカゲが出現する。

 

ボシュゥゥゥッ!!!

という爆音がしたにもかかわらず、現状に変化はなかった。

 

 

「何ぃっ!!?☆」

 

 

良晴はそれを見て思わず、アンキロサウルスを思い出す。

 

 

「とどめだ!出でよ暴君竜!」

 

 

グォォォォォォ~!!!

という轟音のような鳴き声と共に現れたソレは、

 

 

「暴君竜よ!そのデカブツを捻り潰せ!!」

 

「ティラノサウルスかよ!!」

 

 

良晴も叫んだのも仕方がない。天竜が最後に召喚したのは、恐竜界でも代表的な白亜紀の大トカゲである。

 

 

「「「ひゃ~!!!竜だぁ~!」」」

 

 

恐竜を知らないこの時代の人からみれば、妖怪や怪物でも現れたように見えただろう。

 

 

「天竜!!やり過ぎよ!」

 

 

信奈が耐えきれずに叫ぶ。

 

 

「大丈夫!こいつらは私の絶対的な指揮下にあります!」

 

 

そこで、敵の術師が恐れ慄いた。

 

 

「竜を操るだとぅ!?勘解由小路が『黒天乃衣ノ龍神』の子孫であるという噂は本当だったか!!☆」

 

 

敵の術師が勝手に解釈をする。

 

 

「よし、暴君竜よ!破壊光線だ!」

 

 

天竜が高らかに叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が.....

『あの~.....ご主人、拙者はそんな大層なモノは吐けませんぜ?』

 

 

暴君竜が器用に喋る。

っていうか、喋れたのかよ!と、良晴。

 

 

「んじゃあ、一番の大技でやっちゃってくれ」

 

『承知!」

 

 

暴君竜はごぁぁっ!と大顎を開け.....

 

 

『音波砲!!!』

 

 

別に何かが出たというわけではない。だが、暴君竜が発した大咆哮は、波動となって伝わり、大仏にぶつかる。

 

一瞬の静寂が続く。だが、ダメージは確実に大仏に与えられ、大仏は背中から破裂した。

 

 

「うわぁぁ!!僕の盧舎那が~!!☆」

 

「すげ~.....」

 

「天竜.....あんたもう人間じゃないわ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な~んちゃって☆」

 

「何っ!?」

 

 

盧舎那仏の頭がバカリと割れた。中から出てきたのは、巨大な鬼だった。

 

 

「これが僕の切り札だよん☆」

 

 

二つの頭、8本の手足、6本の手には剣やら斧やら弓などを持った全長30mの巨人。

 

 

「両面の宿儺鬼か!」

 

「当ったり~☆」

 

 

その時、ヒュンッと暴君竜が消えてしまった。

 

 

「!?.....天竜さんっ!!式神消したら勝てないぞ!?」

 

「すまん良晴..........霊力切れた」

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

「いや、指輪無いから残留霊力だけで戦ってたんだけど、今切れちゃった。ごめん万事休す」

 

「ごめんじゃねぇ~!!!」

 

 

折角の救世主も肝心な所で使えないと頭を悩ましている時.....

 

 

「ねぇ、指輪が戻ればまた戦えるの?☆」

 

 

以外な所で術師から質問が来る。

 

 

「..........あんたの期待に沿えるかはどうかだが、今よりはだいぶ良くなる」

 

「ふ~ん。じゃあ今日は退散してあげる☆帰ろう宿儺」

 

 

すると、天竜のたった一言に振り返って帰ろうとする術師。

 

 

「ちょっと待て!あんたは安土城を潰しに来たんじゃないのか?」

 

「ん~..........そんな命令もされてるけど、僕は個人的に僕より強い人を探してるんだ。君が術師としても強いと分かった以上は、ここで潰しちゃ勿体無いもん☆今度は剣の勝負もしたいし」

 

 

そう言い、宿儺に乗りながらズシンズシンと振動させながら帰ってゆく術師。

 

 

「待て!お前の名前を教えろ!」

 

 

 

 

 

 

 

「主水.....鬼族の正統な子孫、

松山主水だよ☆」

 

 

「松山主水だと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして主水という術師が去った後、

 

 

「もう.....今度あんたが死のうが、そんなに気にしない事にするわ」

 

 

それが信奈の最初の一言。

 

 

「そういや、反魂の術使えるとか言ってたよな.....すっかり忘れてたよ..........それより天竜さんの格好.....」

 

「なんだ?」

 

「なんつ~羽織着てんだよ!!」

 

「そんなに変か~?」

 

 

天竜の服装は普通の黒い着物の上から、『浅葱色の羽織』を着ていた。袖口には『だんだら模様』。そして、背中には『誠』の文字が.....

 

 

「時代間違ってんじゃねぇか!」

 

「いや~。生き返った時、何故か全裸でな。白具足はどっかいっちまったし、どうせならと思って.....」

 

「......にしても新撰組はねぇだろ」

 

「どうせなら髪も結いたかったんだが、ちょっとギリギリだったからな。伸びたらサムライヘアーにでもするよ」

 

「いやいや!問題そこじゃねぇよ!!」

 

 

因みに新撰組の羽織は江戸時代の赤穂浪士が吉良邸討ち入りの際に着ていた羽織をモデルにしているという。

 

.....その赤穂浪士の羽織のモデルが天竜の羽織だという事はまた別の話。

 

 

『まぁ、ご主人を攻めないで下さい』

 

「「...........」」

 

 

信奈も良晴も言葉を失う。

 

 

「あんた誰?」

 

『あぁ、拙者は暴君竜です』

 

「えっ!!?」

 

 

さっきのような恐竜態ではなく、まるで平安貴族のような格好での登場で、思わず前鬼を思い出す。だが、口の上に髭をはやしているので、ハンサムだった前鬼と違い、ダンディだ。

 

 

「あれ?天竜さん、前に式神は出せないって言ってなかったっけ?」

 

「ん?.....まぁ、式神術覚えたのも最近だからな。それまでは召喚術しかないと思ってたからな」

 

「...........」

 

 

半兵衛と前鬼の活躍によって、この時代の術師や妖怪が減りつつある中で、この男の術師としてのステータスがどんどん上がっている事に疑問を抱く良晴。

しかも、松山主水という新手な術師も現れているし.....

 

 

「ぎゃぁ~!!テン兄様のおばけが現れた

なのです!!ナンマンダブ!ナンマンダブ!」

 

 

秀俊が異変に気づき、城から出てきた。

 

 

「おぉ、シン!元気にしてたか?」

 

「へ?ホンモノ?」

 

「あぁ!ちゃんと足もあるぞ!」

 

「あ!テン兄様がいますぞ!」

 

 

ねねも出てくる。

 

 

「「テン兄様ぁぁぁ!!!」」

 

 

2人が瞳に雫を溜めながら、天竜に駆け寄り、抱きつく。

 

 

「なんか妬けるな」

 

「兄弟愛っていいわね」

 

 

良晴と信奈がそれぞれの思いを呟く。

 

 

「ずっとこうしていたいが、そろそろ出陣しないと.....阿保な弟子が先走っちまってるからな」

 

「若狭に行くの?」

 

「はい、信奈様。ついでに土御門の手も捻ってきます!.....ミドロは何処です?」

 

「みどろ?」

 

「私の馬です。南蛮の商人から買ったアラブ馬にサラブレッドの暗示をかけた私の専用馬だったのですが.....」

 

「あぁ、あのでかい馬なら武蔵ちゃんが『形見分け』って言って乗ってったぜ?」

 

「何っ!?後でお尻ペンペンだ!」

 

『あのご主人。馬の代わりに鉤爪竜に乗りなされ。あれ程度なら私も召喚できます。術の補正があるので時速60kmはでます』

 

「『きろ』って何よ?」

 

「それより式神が式神を召喚する事について疑問を抱いてるんだが.....」

 

 

 

 

その後鉤爪竜が召喚され、天竜がそれに跨り、出発の準備をする。

 

 

「本当に兵を付けなくてもいいの?」

 

「私は信奈様の1万の兵を一人で追い詰めた男ですよ?向こうにいるハル達と協力すれば若狭兵ごときなんとでもなります」

 

「.....でも、貴方は一度負けてるのよ?」

 

 

それに対し、天竜は意味ありげな笑みを浮かべる。その意味に気づけたのは暴君竜のみであった。

 

「じゃあ行ってくる」

 

 

ギャァァァ~!!

という鉤爪竜の鳴き声と共に天竜が駆け出す。

 

 

 

全ては計画通り.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「尻尾取ってもらうの忘れてた!!」

 

 

それを見て信奈が爆笑する。今までは天竜の事もあって空気を読んでいたが、やはりツボにはまっていたようだった。

こうしている間に、暴君竜は何処かに消えてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、若狭にて

 

「左馬助様!もう無理です!退却しましょう!」

 

「ハル!ここでの退却は別に恥じゃない!次で挽回すればいいんだ!」

 

 

大吾や小次郎が言うが、左馬助は聞く耳を持たなかった。

 

 

「駄目!!ここで引けば、天竜様は犬死になる!」

 

 

 

「誰が犬死にだって?」

 

 

 

左馬助は驚いて振り返る。そこには一人の男がいた。巨大なトカゲに乗った浅葱色の羽織を着た武将が。以前見た時とはだいぶ服装は違うが、その男はまさしく彼.....

 

 

「てっ.....ててててて天竜様の亡霊が出たぁ~!!!私達があまりにも不甲斐ないからだぁ~!!

うわぁぁぁぁぁん!!!」

 

「う~む.....皆同じ言い分のようだな」

 

「天竜.....様.....?」

 

 

左馬助が震えるような声で話す。

 

 

「あぁ、左馬助」

 

「天竜様~!!!」

 

 

先程の秀俊、ねね同様に駆けながら天竜に抱きついてきた。天竜が1度死んでから、ずっと泣く事を我慢してきた左馬助だったが、ここで全てが崩壊した。

 

 

「あり?その兜俺のじゃん」

 

 

左馬助がかぶっていたのは、天竜の『白夜叉』をモチーフにした特別製の兜である。

 

 

「はい!天竜様のお力を少しでも分けて貰おうと.....でも駄目でした。私には、貴方のような大将としての器のない能無しでした.....」

 

 

天竜はクスリと微笑み、左馬助から兜を外し、その小さい頭を撫でてやる。

 

 

「それでも、必死に俺の軍を仕切ってくれた。

とても感謝してる。お前はよく頑張ってる」

 

 

そう言われた途端、左馬助は再びボロボロと泣き始めた。

 

 

「小次郎。今の戦況はどうなってる?」

 

「へ!?えぇと.....敵は軍を3つに分けて、それぞれ正面、左右で挟まれています」

 

「なるほど.....左右が邪魔だな。こちらも2つに分けるぞ」

 

「5千、5千にですか?」

 

「いや、2千、8千だ」

 

「は?」

 

 

無謀だと2人は反論した。敵の左右はそれぞれ4千の軍なのだ。8千の方は兎も角、2千の方は簡単に壊滅させられてしまう。

 

 

「半分ずつに分けた所で、戦況が泥沼化するだけだ。それよりも、片方に戦力を集中させて、短時間で倒した方がいい。そして、もう片方と合流して全軍で残りの敵軍を倒すのだ」

 

「.....しかし、それでは.....」

 

「あぁ、2千の軍はかなり厳しくなる。ただ、倒さなくてもいい。足止めだけなんだ」

 

 

天竜は小次郎の肩をガシッと掴む。

 

 

「頼む小次郎。お前しかいない。大吾と残った騎馬鉄砲隊も合わせて全力で足止めしてくれ!」

 

 

小次郎は一瞬困惑したが、決意する。

 

 

「元々は天竜様に拾われた命!天竜様のために尽くします!」

 

「すまん小次郎。頼んだぞ!」

 

 

そうして天竜軍は二手に別れることとなった。

 

 

「よし!ここで気合でもいれっか!」

 

 

天竜は左馬助から渡された兜を自分の頭にかぶる。

 

 

「皆のもの聞けぃ!!お前達の主人、羽柴天竜秀長が戻って来たぞ!!」

 

 

その声を聞き、元天竜軍の兵達が士気を取り戻す。

 

 

「天竜様だ.....白夜叉様が戻られた!!」

 

「白夜叉様が黄泉から帰られたぞ~!!」

 

「「「おおおぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

 

それに釣られ、信奈によって追加された兵達にも気合が入った。

 

 

「あの.....天竜様、いいですか?」

 

「ん?なんだ左馬助」

 

「天竜様はどうやって生き返ったのですか?」

 

「そりゃ〜反魂の術で.....」

 

「嘘ですね」

 

「..........」

 

 

この話は2人の間だけで小声でされた為、聞いている兵はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ!一気に畳かけろ!!」

 

 

天竜軍8千の兵が若狭右軍に突撃する。右軍の将を務めるのは中川清秀。天竜には直感で分かっていた。彼もまた操られているのだ。

恐らく高山右近も.....

 

 

「ひゃ~!!白夜叉様だ~!!」

 

「許して下され~!!!」

 

 

この様子だと足軽達にまでは術をかけていないようだ。あくまで近臣兵のみか....

 

 

「道を開けやがれ足軽共!!ボケッとしてると全員斬り飛ばすぞぉ!!!」

 

「「「ひぃっ!!!」」」

 

 

鬼が華麗に戦場を舞う。

 

 

 

 

 

 

 

一方、小次郎の軍。

彼女は倍ぐらいの兵力を持つ、高山右近の軍と戦っていた。

 

 

「怯むなぁ!!ここが正念場だ!!」

 

「「「おおおぉぉぉ!!!」」」

 

 

士気だけなら圧倒していたかもしれない。なにしろ、彼らの主人の天竜が戻ってきたのだから.....

一方の高山軍は、戦力はあるものの、兵達に勢いが足りなかった。主人の高山右近は操られているため、こんな時期に何故自分達が、仲間内で戦っているのか、よく理解できていないのだ。それでも、押されているのは小次郎軍であった。やはり、数での勝負では勝てないのだろうか?

 

 

「くそっ!あともう少し耐えられればっ!!」

 

「小次郎様!これ以上退却すれば、作戦に支障が.....」

 

「分かっているよ大吾。でも、これでは.....全滅だ」

 

 

その時、前方から一人の兵が駆けてくる。

 

「お知らせします!敵軍にて異変が起きています!」

 

 

小次郎は内心焦った。もしここで敵の援軍が現れたとなれば、自分の軍は確実に壊滅する。

 

 

「敵軍の後方から味方の援軍が到着し、敵軍に打撃を与えているようです!」

 

「何っ!?その援軍とは誰だ!?」

 

「武蔵様と氏真様のようです!」

 

「あいつら.....」

 

 

 

 

 

 

 

その頃の2人。

 

 

「全くぅ!!やっぱ、小次郎はあたしが手助けしてやんないとダメダメだな!」

 

「それ.....天竜が言ってた.....ツンデレ?」

 

「ちっ.....違ぇよ!!.....にしても天竜が生きてたとはな.....」

 

「死んだ振りとかあり得ない

..........死ねばいいのに」

 

「敵は小娘2人だ!一気に叩き潰せ!!」

 

 

敵軍が2人のもとに押し寄せる。

 

 

「じゃあ、ヒコ!例の新ワザやっちゃってよ!」

 

「人使い荒いな.....」

 

 

氏真は懐から鞠を取り出す。そして、それを敵軍の方に向かって蹴った。それだけでかなりの勢いだったが、それはただの鞠ではなかった。

 

 

「虐殺用風神蹴鞠!」

 

 

鞠の中央から4つの刃が飛び出す。それが、回転と同時に土星のような形となり、電動カッターのように、敵軍に飛んでゆく。

 

 

「ぐえっ!!」「ぎゃっ!!」「ぎゃひっ!!」

「どしゅっ!!」「にゅわっ!!」

 

 

そうして、敵軍が怯んだ所を今度は武蔵が斬りかかる。

 

 

「奥義!二刀乱れ斬りぃぃぃ!!!」

 

「奥義。一つの太刀」

 

 

「ひぇぇぇぇ!!化物だぁぁ!!」

 

 

彼女達は暴れるだけで数千の兵に匹敵する程の力を持っているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

戻って小次郎。

 

 

「おっす、小次郎!合流に来たぜ」

 

「天竜様!?もう左軍を倒されたのですか!?」

 

「あぁ。攻める所まで攻めたら、城の方まで退却しちまった」

 

「凄過ぎます.....」

 

「そっちも頑張ってくれてたようだな」

 

「はい!ヒコ達の援軍もあってなんとか!」

 

「そうか。あとでお礼言っとけよ?当然武蔵にもな?」

 

「うっ.....それは.....善処します」

 

 

天竜は合流した1万の兵の先頭に立つ。

 

 

「機は整った!!ここが快進撃だ!!全軍進めぃ!!!」

 

「「「おおおぉぉぉ!!!」」」

 

 

天竜軍1万が高山軍4千に対し、猛進撃をかける。

 

 

 

 

 

 

その頃の土御門久脩。

 

 

「う~ん。軍師としての仕事は初めてだけど、これ程上手くいくとはね」

 

 

玉座にだらしない格好で座る久脩。

 

 

「どうやらアレは本当にまやかしだったようだね。このまま、奴の軍は全滅の後をたどるよ」

 

 

ちょうどその時、日は沈み、辺りが暗くなってきた頃である。

 

 

「お伝えします!!奇襲をかけていた中川軍、高山軍、共に壊滅!自身の居城へ撤退しました!」

 

「何ぃぃぃっ!!?」

 

 

久脩が従えていた兵は1万3千。対して天竜軍は1万。数だけなら互角な所だが、天竜軍は大将である羽柴天竜がいなかった。そのために、4千ずつの両側からの奇襲で、確実に壊滅できるはずだった。

だが、どうだ?その奇襲部隊が返り討ちにあったのだ。もし、天竜軍の損害がほとんどなければ、本陣の5千に、天竜軍1万がなだれ込む事になる。

 

 

「やばいやばいやばい!!.....そうだ!僕には鬼兵隊があったんだ!人間共に鬼は殺せない!」

 

 

浮かれる久脩だったが、その兵は話を続けた。

 

 

「それが.....その鬼兵隊も壊滅の危機に陥っています.....」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

久脩軍本陣の前線にて。

 

 

「赤鬼参上!」

 

「青鬼参上!」

 

「黒鬼参上!」

 

 

3人の角の生えた武者が鬼兵隊に斬りかかっているのだ。しかも、いとも簡単に久脩の鬼達を撃退している。

 

 

「しっかし、私が前線で戦うなんて思いもしなかったなぁ」

 

「殿はいつも城にいましたからね」

 

「それは嫌味か、直正?」

 

「滅相もない。私も正直、久々の戦場で浮かれているようです」

 

「破目を外すなよ直正」

 

 

2人の会話にもう一人が参加する。

 

 

「氏綱殿こそ、仏頂面のくせしてうきうきしてるじゃありませんか?」

 

「..........言うな」

 

「はっはっはっは!!」

 

 

その3人は、丹波で散ったはずの

波多野秀治、赤井直正、荒木氏綱によく似ていたという。

 

 

 

 

 

 

「強い恨みを持って生まれた『鬼人』はその強さによって力を無限大に広げるが、即席で作られた『鬼人』など、腕力と再生力が高いだけで、そこまで強くはない。『羅刹』で充分倒せる」

 

 

「羅刹の術」

基本は「鬼人の術」と同じ。大きな違いは、生まれた鬼が「理性」を残しているかいないか。鬼を使役するには当然、理性を持っていない方が容易である。だが、理性を持った鬼をきちんと使役できたとなれば、これ程心強いものはない。ただ闇雲に暴れる鬼人と違い、羅刹なら頭脳を使った戦法が可能なのだ。

天竜はこの時の為に、例の3人を殺さずに、羅刹にしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

「おのれ~いったい誰が.....」

 

 

その時、一筋の月光が天竜軍の先頭を照らした。それを見て久脩は恐れのあまり、腰を抜かした。

 

 

「かっ.....かかか勘解由小路.....天竜!!?」

 

 

3日前に首を斬り落としたはずの男が目の前にいる。今日は満月。予言通り

「月が満ちたりし夜に蘇る」という形で復活したのだ。

 

 

「土御門ぉぉぉ~!!!」

 

 

天竜が一騎で久脩の所まで駆けてくる。そして、槍を一気に振り下ろした。

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

 

槍の刃が久脩の右手を斬り飛ばす。空に舞った久脩の右手を素早く掴み、中指についていた指輪を外し、自分の中指につける。その後、久脩の右手はボロ雑巾のように投げ捨てられる。

 

 

「うっし!間に合った!」

 

 

天竜が急いでいたのは訳があった。鬼兵隊の大将格である、鬼人義景が追いかけてきたからである。いくら天竜といえど、術なしで奴を倒すには骨が折れる。当然、秀治達よりも強い鬼なのだ。手っ取り早く指輪を取り返す必要があったのだ。

 

 

 

「南無大慈大悲救苦救難広大霊感白衣観世音!

地獄に戻るがよい、人の子よ!!」

 

 

天竜が呪文を唱えた。すると、鬼人義景の足元に魔法陣のようなものが浮かび上がる。そして、そこから無数の悪魔の手のようなものが伸び、鬼人義景を引きずり込む。

 

 

「ぐおぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

鬼人義景は抵抗をするものの、ズルズルと地面の魔法陣の吸い込まれてしまった。

 

 

「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ~!!!」

 

 

久脩がいきりたつ。

 

 

「ありがとう。土御門久脩。君のおかげで俺は人間を越えられる」

 

「なんだと!?....................はっ!!」

 

 

久脩は気づく。天竜がやろうとした恐ろしい計画を.....

 

 

「まっ.....まさか、読んでいたのか!

僕が君を殺す事を!

斎藤龍興を囮に君の軍を包囲する事も!

若狭の放棄さえも!」

 

「まぁ、最後の1つは『知っていた』が正しいかな」

 

「いや待て......あり得ない!他人を蘇生させる術はあっても自ら蘇る術なんて存在しない!!」

 

 

天竜は久脩のその言葉に対し、不気味な笑みを返すだけだった。

 

 

「さぁ、どうする?お前の切り札の鬼兵隊も鬼人義景も倒した。命乞いでもしてみるか?」

 

「まさか!!」

 

 

久脩は立ち上がり、構える。

 

 

「僕にはまだ、指輪の残留霊力がたんまりある!ここで君を殺して指輪を取り返し、右手はゆっくりと再生させるよ!」

 

「やってみろよガキンチョ」

 

「重力制御!哈っ!!」

 

「保護結界!」

 

 

久脩が放った技は、光の結界によって防がれてしまう。

 

 

「なっ!?」

 

「貧狼巨門隷大文曲廉貞武曲破軍!

時よ戻れ!」

 

 

天竜が放った技が久脩にかかる。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ.....................おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあ!!!」

 

 

久脩の身体がどんどん縮み、ついには赤ん坊の姿になってしまった。

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

随分と愛らしい姿になったなぁ!久脩」

 

 

天竜は赤ん坊の首根っこを猫のように掴む。

 

 

「おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあ!!!」

 

「貴様といえど赤ん坊を殺すには心が痛い...........そうだ!大人にしてやろう!」

 

 

天竜は赤ん坊をそこらに放り投げる。

 

 

「時よ進め!」

 

「おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあ..........うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ.....がががががががががががががががががががががががががががががが.....」

 

 

久脩は赤ん坊から元に戻させる。そこからさらに、青年→大人→老人と急激に成長させられる。

 

 

「おっと!ここで止めておくか。くくくくく.....年は90といった所か?」

 

「お.....おの.....れ.....か勘解由.....小路.....天.....竜」

 

 

上手く話せない程まで老化してしまった久脩。

 

 

「お前ら安部流は『天文道』の陰陽師。天候を操ったり、重力を制御できる。

対して、賀茂流は『暦道』の陰陽師。時間を止めたり、戻したり、進めたり自由なのさ!」

 

「そっ..........そん.....な.....」

 

「その姿のまま余命を過ごすがいい久脩。そして精々俺を恨むこった!くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」

 

 

天竜が足で久脩がトンッと押してやる。すると、ステーンッと転んでしまう。

 

 

「ぎっ!?」

 

 

その衝撃で骨がポキポキと折れてしまう。

骨粗鬆症のようだ。

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

 

これで勘解由小路こそが最強の陰陽師だ!!

 




天竜の復活回でした。
作中で天竜が行った戦略は、あのナポレオンが行った戦法のようです。
次回予告
謎の告白
~貴方を愛しています十兵衛殿~

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