天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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早くに投稿するとか言って、全然できませんでした。
全ては艦これのイベントが重なったせいだ!
そうに違いない!٩(๑`^´๑)۶


第九十四話 12年前の出来事

江戸城。夕日が差し掛かる頃の屋上。地べたに座り込み、葉巻を吸う天龍と、彼の後頭部に拳銃の銃口を突き付ける良晴の姿があった。

 

 

「言え.....何があった?」

 

「俺が勝千代を殺した。これ以上に言うことがあるのか?」

 

「理由を言え!!あんたのことだ!どうせ何か理由があってそうなってしまったに違いない!」

 

「俺が個人的に勝千代が気に食わなかったんだ。それと、勝千代の死が俺に個人的利益をもたらすからだ」

 

「ちっ.....!」

 

 

良晴は拳銃を振り上げ、グリップで天龍の頭を殴り付けた。

 

 

「ぐっ.....!」

 

「そんな嘘で誤魔化し切れると思っているのか?真実だけを早急に述べろ!」

 

「..........分かった」

 

 

頭部からの流血を拭うこともなく、天龍は語り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今から12年前の話だ。ワラキアで大敗した俺は、前から目をつけていた日本に亡命したんだ。だが、すぐにでも反撃する気でいた。だがそれには兵が、軍がいる。そこで俺は戦国時代であった日本を統一し、その日本軍を使って連中にリベンジするつもりだった。

そこで目をつけたのが武田家。当時の当主は武田信虎。勝千代の父だった」

 

「武田.....信虎?」

 

「流れは安土城の時と同じだよ。信虎の遠征中に甲斐を占領。それを取り返そうとしてきた武田軍を単身で蹴散らした。当時はまだ吸血鬼の力がバリバリ使えたからな。ワラキアでの力の枯渇もあったが、相手が人間なら全く問題はなかった」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「往生際が悪いな武田信虎。貴様はこの私に負けた。さっさと軍を明け渡せ!」

 

「ふざけるな妖怪め!お前などにくれてやる兵など1人とていない!!」

 

「黙れ」

 

「ぐっ!!?」

 

 

天竜は信虎の頭を上から踏み付け、地面に無理矢理頭を付けさせ、土下座させた。

 

 

「引き際を読み込めぬ大将程醜いものはないぞ?」

 

「がぐっ.....!!」

 

「ちっ.....いいだろう。では一つゲームをしようか」

 

「げっ、げえむ?」

 

「なに、簡単な賭け事さ。この遊びに貴様が勝てば私は潔く引こう。二度と武田には関わらぬ」

 

「おっ、お前が勝てば?」

 

「武田家の持つ一切の権利を没収し、貴様には死んでもらう」

 

「っ.....!?」

 

「勝負の内容は貴様が自由に決めよ。私はどんな不利な状況であろうとも受けよう」

 

 

天竜は信虎を解放し、何処からか召喚した玉座にドカリと座る。

 

 

「くっ....勘助!!」

 

「はっ.....」

 

 

武田家軍師、山本勘助。

 

 

「ど、どう思う?」

 

「ふむぅ.....きゃつめはこの勘助めの戦略をいとも容易く打ち破りましてございます。妖怪変幻といえども、その能力は非常に高い。ここはきゃつめの案に乗るのが上策かと」

 

「ふむ」

 

「妖怪殿。勝負の内容は双六に致しまする。これは殿の大得意なのでの。ふぇっふぇっふぇ.....」

 

「ほう。スゴロクか」

 

「かっ、勘助!わしは双六のやり方こそ知っていても、そこまで強くはないぞ!?むしろ娘の次郎の方が強いくらいだ!」

 

「ふぇっふぇっふぇ。心配ありませぬ。この勘助めにお任せを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勘助の策略は、イカサマだった。信虎が振るサイコロと天竜が振るサイコロを瞬時に入れ替え、信虎にはいい数が出るように、天竜には不利な数が出るように仕掛けるのだ。

 

 

「あがり」

 

「ふぇっふぇっふぇ..........ふぇ!?」

 

「馬鹿な!!?」

 

 

天竜の勝利だった。

 

 

「あり得ない!何故負けた!?」

 

「それはイカサマの話か?」

 

「なっ!?」

 

「流石は名軍師山本勘助。常人には気づけぬであろうサイコロ捌き。恐れ入った。だが、常人までにはな。私もまた手を打たせてもらった。貴様がサイコロを入れ替えるよりも更に早い速度でサイコロを入れ替えさせてもらった。生憎、私も博打は得意でね」

 

「なっ!?.....なっ.....!?」

 

「イカサマでも勝てなかったのだ。私の勝ちでいいね」

 

「..........くそっ!!」

 

「さて、君の命と軍を貰おうか」

 

「.....一つだけ約束しろ!わしの命を持って、他の兵には一切の不遇を与えぬと!」

 

「とっ、殿.....」

 

「約束しよう。何しろ、私のものとなるのだ。悪い扱いなどせぬ」

 

「よかろう」

 

 

信虎は小太刀を取り出し、切腹の準備をする。

 

 

「待った。今すぐ死なれても困るのだ。貴様の命一つでも使い道は色々あるのでな」

 

「何っ?」

 

「こいつを飲んでもらう」

 

 

天竜は謎の薬瓶を取り出した。

 

 

「私特製の毒薬だ。飲めば半年間を苦しんだ後に死亡する」

 

「楽には死なせてくれんか。何故だ?」

 

「いきなり貴様に死なれても、貴様の兵は私には付かん。むしろ主君の弔い合戦とばかりに反抗するやもしれん。だが主君が瀕死となればどうだ?主君の為にと渋々私に仕えるだろう。半年もあれば充分。洗脳することなど容易い」

 

「.....ふっ、勝てぬわけだ」

 

 

覚悟を決め、信虎は薬瓶に手を伸ばす。その時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なりませぬ父上!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

突如乱入した少女がこちらに駆け寄り、薬瓶を取り上げ、そのまま飲んでしまった。

 

 

「かっ、勝千代!!?」

 

(勝千代?まさかあの武田信玄か?)

 

「怪物め!これしきの事で我が武田家が滅んでたまるか!貴様のような存在には、甲斐国も武田の兵も、欠片だってくれてやる...........もん.....か.....」

 

 

勝千代はその場に倒れてしまった。

 

 

「勝千代!!馬鹿な.....勝千代ぉぉ!!」

 

 

信虎が気を失った勝千代に駆け寄り、大いに嘆く。

 

 

「聞けば、信虎殿は嫡長女には不満とのこと。後継には妹君の信繁殿をと思い、そちらにより一層の愛着を注いでるいる様子。此度の嫡長女の死は好都合であったのではなかろうか?」

 

 

あれ?

 

 

「何故それを!?.....はっ!?」

 

 

思わず口走った勘助がすぐに気づき、口を塞ぐ。

 

 

「ん〜。流石に毒薬の飲み直しだなどという仕打ちも酷なものだ。よろしい。此度はその娘の命一つで満足しようか」

 

 

やめろ.....下衆な言葉を連ねるな。

 

 

 

 

「貴様ァァァ!!!!」

 

 

 

 

信虎が天竜の胸ぐらを掴む。

 

 

「むっ?」

 

「今すぐだ!今すぐ勝千代を生き返らせろ!!是が非でも死なせるな!!」

 

「しかし、貴様はその娘が嫌いであったのでは.....」

 

「己の子を愛せない親などあってたまるか!!!」

 

「っ.....!!?」

 

「子を愛さずに見殺しにしたり、自ら手にかけるような親など屑以下の畜生だ!人間ですらない!そんな奴など死んでしまえばいい!!」

 

 

 

「............」

 

 

 

「のう妖怪.....お前に子はいないのか?」

 

「..........いる」

 

「なら分かるだろう!わしの気が!勝千代を助けてくれ!頼むっ!わしの命はいくらでもくれてやる!だから.....勝千代を助けてくださいぃ.....」

 

 

涙ながらに信虎はその場に土下座した。

 

 

 

「無理だ」

 

 

 

だが、無情にもそう切り捨てられた。

 

 

「あの毒薬は私の血を媒介に調合したもの。ただの毒ではない。飲用してしまった以上、その者の死は決定される。彼女の死を止めることはできない」

 

「そんな.....!」

 

「だがだ。死を先延ばしにはできる」

 

「なっ?」

 

「どけ」

 

 

信玄のもとに向かい、横たわる彼女を抱き上げる。そして....."彼女の首筋を噛んだ"。

 

 

「なっ.....何を?」

 

「っ...........ふぅ..........こんな感じか」

 

 

天竜は彼女を信虎に預けた。

 

 

「俺の血をくれてやった。寿命付きのな。多分、10年間は生きられるだろう。特殊な形での給血だからな。人間のままで生きられる。多少の影響はあるだろうがな」

 

「10年間.....それでも勝千代は生きられるのか!?」

 

「生憎と私も今はジリ貧でね。これ以上はこちらが死んでしまうからな」

 

「それでも.....勝千代が生きられるなら」

 

「いんや、10年後にまた来るよ。その時にまた補充してやろう。まぁ、それまでに生き残れたらの話だがな」

 

「.....何故、そこまで」

 

「ふっ、気まぐれだ」

 

 

そう答える天竜はそのまま去ろうとする。

 

 

「まっ、待て!何も獲らぬのか!?

わしの首も、甲斐の領土も、武田の兵も」

 

「いらん、興が醒めた」

 

 

背中の翼を広げ、空に飛び上がる。

 

 

「待て!お主、名はなんと!?」

 

「ウラディスラウス・ドラグリア。ドラキュラだ」

 

「どらきゅら..........妖怪.....ドラキュラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

富士樹海にて。

 

 

「らしくなかったわね。どしたの?」

 

「うるさい」

 

「"あの子達"を思い出したの?」

 

「黙れ!!」

 

 

天竜は青白い面相となり、生気を感じなかった。

 

 

「そんな、死にかけになってまで何で助けたのよ。武田信玄なんて、そんなに重要な人間だっけ?」

 

「さぁな」

 

「あんな小娘助けたところで、"あの子達"が帰ってくるでもないのにね。貴方のミスで奪われた可愛い子供達は.....」

 

「..........」

 

「偽善者」

 

「偽善?はっ!.....善人を気取ったつもりなど」

 

「どうだかね。貴方が悪人であった頃のほうが少ない気もするけど?」

 

「ちっ.....」

 

「それでどうするのよ。せっかく獲った武田領を放棄しちゃって、これからどうすんの?"教会"連中をどうやって陥れる気なのよ?」

 

「織田に行くよ」

 

「まだ栄えてないわよ」

 

「あぁ、だから数年は待機して、それから向かうとする」

 

「随分と悠長だこと」

 

「それとだ。織田入りにおいて、私は一度記憶を消すことにする」

 

「..........」

 

「先程の一件で思い知らされた。私は心まで人を捨ててしまったのだと。己の夢と野望の為に人間を捨て、力を手に入れたのに、俺は肝心なものを失っていたようだ。教会に負けるはずだよ。だからあの子らは奪われた」

 

「"インゲラス"も"セリーン"も貴方と私の血を持った強い子達よ。いつか、両親の無念を晴らしてくれる時が来てくれるわ」

 

「その為にも、彼らが暴れやすい環境を作らねばならん。教会の目を欺くという理由も込めて、私にやり直しのチャンスをくれ」

 

「...........」

 

「カ―ミラ...........いや、光」

 

「分かったわ。乗ってあげる。勝率はあるんでしょ?」

 

「あぁ、今度は間違えないよ。私の記憶が消えている間は君も姿を消してくれ。まずは若い頃の君とも会わなければならないしね」

 

「長良川戦にはまだ2年あるわね」

 

「それまでに部下を集めるとするさ。出来る限り目立たないように、剣の弟子ということにでもしておくか?」

 

「懐かしい。とりあえずは任せるわ。またいずれ、再会しましょ。時が来るその時にまで」

 

「あぁ」

 

 

去り際に彼女は言う。

 

 

「.....教会に死を」

 

「教会に死を」

 

 

同じように天竜も返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は現代に戻る。

 

 

「そんな事が.....」

 

「あの一件が俺を変えた。信虎と勝千代との関係を目にしていなければ、俺はより凄惨なやり方でこの国を手に入れていただろう。貴様に後を継がせるなどという考えも当然浮かばなかった」

 

「勝千代はそれを?」

 

「.....記憶が蘇った時、俺は一目散で彼女の元へ向かった。人格が朧と統合され、完全な元のドラキュラとなった今でも天竜の記憶は残っていたからな。己のせいで死にかけていると知り、罪悪感が急に生まれたのだ。丁度今年が与えた寿命の切れ年だったしね。まぁ、これも計算のうちであったことは天竜は知る由もなかったがな。

だが、勝千代は断った。

それどころか、俺があの時の妖怪であると知っていたのだ。初めて会ったその日から.....」

 

「なんだとっ!?」

 

「唖然としたよ。そして、俺の記憶が消えていることにも気付いていたらしい。俺が軍師として武田入りし、そのまま乗っ取ることも、遠からず予感していたそうだ。

彼女は俺への負担と考え、あえて昔のことを口にしなかった。大した女子だったよ。あいつは」

 

「待て!勝千代はなんで断ったんだ?」

 

「もう未練がなかったらしい。自身の手で天下が取れない以上、武田信玄は必要ないと」

 

「だったら!!なんで武田信玄としてではなく、勝千代としての人生を見出してやらなかったんだ!」

 

「言ったさ。何度も.....何度も何度も、

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!

だが、彼女はいつも断ってきた。

ただ一つ、叶えたい夢を実現するまでは.....」

 

「夢?」

 

「この和睦さ」

 

「っ.....!?」

 

「そう、俺と貴様が再び手を取り、この国を治める事が何よりも夢だった。だが当時の時点で、お前の俺に対する反逆はすでに表面化しつつあった。近々起こる戦争すらも予感していた。最大まで激怒した貴様を抑えるには.....そう考えて、己の命を犠牲にするという考えが浮かんだらしい。それが彼女の最期の決断だったのだ」

 

「そんな.....」

 

「思えばだ.....武田信玄を勝千代に戻す以前に、勝千代と武田信玄の間で迷っていた彼女を完全な武田信玄に引き入れた、良晴。貴様の責任なのかもな」

 

「なっ.....!?」

 

「冗談だ。いずれにせよ、彼女は自らの意志でその道へ進んだであろう。貴様の干渉する以前に、俺との出会いによって武田信玄の運命は大きく変わった。死の日付もだ。あの暗殺事件はいずれにせよ回避されていたもの。貴様に罪はない」

 

「でも.....」

 

「むしろ、罪人は俺の方さ。俺と貴様が戦争を起こせば勝千代が出てくる。それを知ってて行動を起こした。全ては貴様と、俺の為に。私情を優先させた結果、勝千代は死んだ。もっと言えば、選択の結果において、俺は勝千代を切り捨てた。貴様とこの国、それと勝千代を天秤にかけ、前者に軍配をあげた。俺はそういう奴だよ」

 

「っ.....!?」

 

 

良晴が改めて銃を突きつけた。

 

 

「撃てよ。ほら」

 

「ふざけるなっ!!何だってお前は!!」

 

「貴様の為だ」

 

「はぁ!?」

 

「説明が面倒だ。渡した血を飲め」

 

「くっ.....」

 

 

ポケットから例の小瓶を取り出す。

 

 

「飲め。少なくとも、俺の考えの一端を掴めるだろう」

 

「くそっ!!」

 

 

良晴は銃を持ったまま口で栓を開け、そのまま口にする。

 

 

「っ.....!?」

 

 

舌にその血液が触れる。生臭さとか、鉄の味や臭いが鼻にツンとくる。

.....そう思っていたが、それとは全く違う感触に苛まれた。

 

 

美味い。

 

 

己の人狼の血がそうさせるのか、その血は果てしなく舌の神経を刺激し、それが全身に伝わる。絶頂すら覚えるその刺激に、腰が抜けそうになったが、それをなんとか耐える。人狼の血を刺激しないよう、少しでも吸血行動はしないように心がけていたが、この快感を覚えてしまうと、天龍を含めた吸血鬼が日課のように人食いをするのが納得できてしまう不可思議。

 

 

「えっ?」

 

 

その直後、頭の中に走馬灯にような描写の映像が走り抜ける。まるでヘッドギアを付けたかのように目前にその映像が流れる。

 

 

「あああぁ.....」

 

「.....」

 

「ああああああああぁぁ.....!!」

 

「それが真実だ」

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

拳銃もその場に落とし、泣き崩れる良晴。同時に恐怖の悲鳴も混じる。震えながらうずくまる彼を天龍は哀しげに見つめた。

 

 

「大丈夫か?」

 

「...........」

 

「俺を撃たないのか?」

 

「撃てるわけねぇだろ馬鹿野郎ぉぉ!!!」

 

「そうか」

 

 

天龍は立ち上がり、持っていた携帯灰皿で葉巻の火を消した。

 

 

「話は以上だ。これから今日の後始末を行う。気持ちが落ち着き次第、貴様も手伝え」

 

「うううぅぅぅ.....」

 

「..........」

 

「何であんたは.....」

 

「...........」

 

「何であんたはそんな生き方しかできないんだよぉぉ.....」

 

「俺が化物だからだ」

 

「っ.....!?」

 

「俺は化物だ。人間の感情は捨てたし、理解もできない。常に合理的考えで生きている。悟ったんだ。一度人を捨ててしまった以上、その者は二度と人に戻れないのだと。そう.....思い至ったんだ」

 

「くっ.....」

 

「貴様の罪はない。俺が全部引き受ける。今の俺の存在理由など、その程度しかない」

 

「そんな事.....」

 

「もうちょい頑張れよ良晴。貴様は.....君は俺よりもずっと大きな才能を持っているのだから」

 

 

『頑張れ』という言葉。天龍は努力をしている人間にそれを言うのは酷であるからだと。だから、彼がその言葉を使うのは、その相手を非難する時。努力しない相手を罵倒する時にだ。

最近の天龍はよく自分に対して頑張れと言う。初めは自分もそれを罵倒と捉えて、只々激昂していたが、改めて聞けばそれが激励の声にも聞こえてくる。

 

 

 

 

何故なら.....自分は何の努力もしていないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの話。天龍軍と良晴軍は正式に和睦した。そしてその結果、天龍兼ねてよりの望みであった版籍奉還が実施され、戦国大名というものが消滅した。それが、戦国時代の終わりを告げるものとなる。全ての領地は帝である天皇のものへと返還され、ここに天皇中心の中央集権国家が再び誕生することとなる。力を持った武士がいなくなり、日本国が真の意味で完全統一されたのだ。だが反発する者もいた。だが、中央集権たる天龍良晴の政府軍があまりに強大であった為に、それに対抗しうる手段がなかったのだ。

それに加え、天龍らが掲げた『四民平等』の宣言。それは、それまで虐げられてきた百姓らは勿論、果てには穢多非人をも救うものとなる。それに呼応し、反政府を掲げる国々にて一揆が多発。反政府派を行動を著しく制限するものとなった。それ以降、連中は鳴りを潜めている。過激派の事もある。間違った方針や圧政を続ければ、いつかきっと暴動が起きるであろう。史実で言うと西南戦争のような。

 

この国は改めて天皇主権国家になった。だが、その肝心な天皇たる方仁は未だ見つかっていない。宣教師らとの連絡もつかない。だが、早くに行動を起こさねば、疑い出す者も現れるだろう。是が非でも彼女を取り戻さねば、この国は終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、俺に子供ができた。信奈が妊娠したのだ。勝千代との結婚式以来、塞ぎ込んでいた自分達に唯一の希望のようなものができた。

男の子かな?女の子かな?

女の子だったら信奈のような美少女になるんだろうな。性格まで似るのは少し御免だが(笑)。男の子だったら俺みたいなワイルドな美成年(?)に育つに違いない!..........誰だ、今笑った奴!

一方十兵衛ちゃんも臨月に入り、出産を間近にしている。天龍にとって第.....六子だか七子だか?かなりの子沢山だ。西洋にいるっていう2人の子供も気になるな。

天龍にとっては数回目でも、十兵衛ちゃんには初めての出産だ。とても不安がっている。そこに同じく妊娠中の信奈が相談しに行ったりなど、2人に改めて親交が生まれ、とても嬉しく思う。

 

生まれてくる子供を見て、俺はどう思うのだろう?感動するかな?嬉しくて笑ってしまうかな?

子供はどう思うのだろう?信奈は別として、俺のような父に持って.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん............きっと悲しむよな。

俺みたいな奴を父に持ってしまって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

努力をしない。生きていく目標すら見出だせない。天龍がいなければ、ずっと前に死んでいたような俺を父に持って、子供は喜ぶか?喜ぶはずがない。だって.....

 

 

 

 

 

 

 

 

"自らの両親の手にかけた殺人鬼"な俺を.....

 

 

 

 

 

 

 

 

子供はきっと悲しんで産まれてくるに違いない。この子は生まれた時点で殺人鬼の子のレッテルを貼られるのだ。

「今の内に殺してしまうか?」

追い詰められた末にこんな独り言を言っていた。すぐに信奈にぶたれたよ。当たり前か。今の俺を見て、信奈も不安がっている。胎教にも悪いよな。しばらくは近づかないでおこう。うん。それがいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天龍は何故、この記憶を呼び覚まさせたのだろう。自分が両親を殺していたなんて記憶、ずっと消えていればよかったのに.....

 

それが彼には気に食わなかったのか。罪を罪として認めず、そもそも記憶から抹消して自分だけの幸せを掴もうだなんて、天龍よりも質が悪い。

罪に気付かせる。これが天龍の目的だったんだ。でも、結局は自分の力だけでは気付けず、彼の血の記憶というズルをしなければ達成できなかったのだ。それすら知らず、己だけが正しいと思い込んでいた自分を殺したい。

 

でも自殺は許されない。罪という呪縛から逃げることは許されない。そう、天龍が許さない。

きっと彼は俺に、罪を乗り越えることまで望んでいる。罪を乗り越え、心から我が子を愛せるように、成長しろと.....

 

 

 

 

でも、今の俺にとってそれは重すぎる課題だ。とても1人では持ち切れない。だから、今の俺にそれを受けることは出来ないのだ。愛する資格がないのだ。そう.....

 

 

 

 

 

 

 

今はまだ.....

 

 




はい。やっと今回で章末です。謎だらけの終わり方ですが、ちゃんとまた次回へ続きます。それではまた。
次回予告
良晴の"しせん"
〜諦めた男の...〜

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