天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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すいません。今回で終わりじゃありませんでした。次回で章末です。


第九十三話 講和の後始末

信玄が礼拝堂前にて咳づく頃、一方の祭壇前。

 

 

「いや、すまんな。またお前の世話になる」

 

「いえいえ。天龍さん、良晴さんと結婚式を担当してきましたが、やはりこれほど誇らしげで嬉しい役目は他にありませんから」

 

 

牧師兼シスターは元宣教師ルイス・フロイス。今はポルトガルの駐日大使を勤めている。

 

 

「また胸膨らんだんじゃないのか?どれ、ちと触診を..........げっ!?」

 

 

天龍がふと振り向く、そこには拳銃の銃口を向ける十兵衛、孫市、氏康、嘉隆、元親、信奈が!奥さんズ+@に銃口を向けられてるではないか!?

 

 

「冗談冗談!...........って長親まで!?」

 

「いやぁ〜.....なんかぁノリで」

 

「怖い怖い。腐っても魔太閤の妻たちだ」

 

「「「誰が腐ってるですって!!?」」」

 

「ひー」

 

「はっ!いい気味だぜ!」

 

「ほほう良晴くん。君が抱いてるのは誰かね?」

 

「へ?」

 

 

良晴の胸の中には半兵衛が。

 

 

「結婚式当日に浮気とはいいご身分だー」

 

「いやっ!?これは!!?」

 

 

すると、今度は良晴に銃口が向けられる。しかも、良晴の側室や愛人も追加されているので、倍の数になっている。武田家臣団からも殺意が向けられている。

 

 

「シム。やれやれな関白だね」

 

「そういいつつ、お前も拳銃向けてんじゃねぇか!」

 

「殿ぉ.....」

 

 

半兵衛は戦疲れと泣き疲れで、半分眠っていた。

 

 

「お二人共"モテモテ"というやつですね」

 

 

フロイスが言う。

 

 

「そんなお二人のHeartをお掴みになられた信玄さんはさぞ、素敵な御方なのですね!」

 

「いやぁ、半分は政略結婚だからなぁ」

 

「すると、この結婚にLOVEは無いのですか?」

 

「もちろんある。俺は勝千代を愛している」

 

 

天龍は迷いなく答えた。すると、良晴が微笑しながら続ける。

 

 

「勝千代とは初対面の時から感じるものがあった。史実では途中退場しちまう武田信玄が、まるでそれを感じさせない程に豪快に生き、この世を駆け巡っていた。思えばあの頃から惚れてたのかもな。だからこそ、俺も必死になってあの子を死の運命から救ったんだ。今だってそうだ。病弱にも関わらず、この講和を買って出た。こりゃ負けたなって思ったよ」

 

「ふふっ、誰が奴を嫌う?勝千代程自身の道を真っ直ぐに通す女子いるまい。そのブレない姿勢も、行動も、容姿も全部、俺にはドストライクだったね」

 

「..........素敵なお話の途中ですみませんが.....」

 

「「うぇっ!!?」」

 

 

両方の奥さんズが般若の面相で殺意を向けてくる。一方で武田家臣団は納得したらしく、うんうんと首を縦に振る。

 

 

「結婚って面倒臭いな」

 

「お前がそれを言うのか!?」

 

「かかかか...........さて」

 

 

 

 

このような茶番にも一切の反応を見せない連中がいる。それがこの戦争が激化した原因の一つ、過激派の連中だ。

 

 

 

 

「果てさて、どうしたもんか」

 

 

形式は講和のための政略結婚の為、その席も良晴側と天龍側とで別れている。右が天龍側で左が良晴側だ。まさに右派左派の論争だな。ちょっと違うか?

前の席に座る者らは、本気でこの結婚式を祝い、平和を求む者達。主に織田信奈や明智光秀、武田家臣団達だ。

真ん中に座るのは、結婚式自体に興味はないが、この戦争におけるやる気を無くし、穏便に済ませたい者達。主に長宗我部元親や小早川隆景らだ。

そして後ろの席。そもそもこの結婚式を呪い、すぐにでもぶち壊したい者達。過激派だ。

主なメンバーとして、良晴側は、前田利家、福島正則、加藤清正、伊達政宗、島津義弘、池田恒興。

天龍側は、佐々成政、津田信澄、蒲生氏郷、大友奈多(宗麟が不在な為)、筒井順慶。

 

 

「良晴」

 

「.....うん」

 

 

良晴に視線を送る。やはり同じ考えらしい。

信奈らが当然のように銃器を持ち込んでいるように、連中も隠し持っているだろう。規制した所で反論されるのは目に見えていた。中には信玄の暗殺を狙う者もいるだろう。信玄が死ねば再び乱世に逆戻り。そういう契約で講和したのだ。問題点は、彼らを一概に処罰できない点だ。

何故なら、天龍と良晴こそが戦争を始めた張本人であるから。

2人の独断で停戦させることができても、処罰はできない。戦争を続けようとすることを罰せられるようにするのならば、そもそもの原因である2人まで裁かなければいかなくなる。それを押し切って無理に処罰すれば、家臣達はもう二度と我々を信用しなくなるだろう。そこの調節が極端に難しいのが現状。今はイタチごっこをやっている暇はない。日本国が正規の国家として他国に認めさせる為にも、一早くの完全統一が必要なのだ。

 

 

「その為の結婚式だ」

 

 

そう、これはただの政略結婚ではない。日本がまた割れるか統一されるかを決定付ける重要な大儀式であるのだ。お前が未だ列記とした最強戦国大名、武田信玄であることを示し付け、馬鹿な連中を震え上がらせてやれ!頼むぞ勝千代。

 

 

 

『新婦ご入場!』

 

 

 

アナウンスと共に礼拝堂の扉が開かれ、此度の主役の花嫁、武田信玄が入場する。

 

 

「...........」

 

 

勝千代は至極穏やかな表情をしていた。今日という日をあれだけ楽しみにしていたのだ。さぞ満足であろう。

 

 

「.....勝千代」

 

「勝千代!」

 

 

優しく語りかけ、それと同時に良晴も声を出す。勝千代もまた朗らかな表情で返してくれる。

 

 

「さぁ.....決めてやろうぜ武田信玄」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祭壇前に到着した勝千代。だが、様子がおかしい。

 

 

「勝千代?」

 

「おい、勝千代?」

 

 

こんな時に眠っているのか?呑気な奴だ.....いや。

 

 

「...........まさか!?」

 

 

急に天龍が青ざめ、勝千代の首筋に手を当てた。

 

 

「.....やはり!.....玄朔!玄朔!!」

 

「はっ!」

 

 

霧の如く現れる曲名瀬玄朔。

 

 

「頼む」

 

「.....はい」

 

 

彼女は既に予感しているようであった。脈、鼓動、呼吸、瞳孔を調べる玄朔。暫く経って、彼女は振り返った。

 

 

「ご臨終です」

 

「..........」

 

「薬の効果がこんなに早く切れるとは.....」

 

「薬?」

 

「私が調合した薬です。病の苦痛を後にズラすことによって、苦痛を和らげていたんです」

 

「馬鹿が!なんてものをあいつに渡したんだ!!」

 

「えっ?」

 

「勝千代はあのままでも3日くらいは生きれたのだ!多少、苦痛があろうとも、結婚式さえ乗り切ってしまえば、3日もあれば講和なんていくらでも操作できたのに!!」

 

「そんな.....!?」

 

 

玄朔は己の早とちりを呪った。

 

 

「そんな.....嘘だろ!?」

 

 

良晴が激しく動揺する。無理もあるまい。だが、問題は観客たちの方だ。

 

 

「嘘です!!姫さまぁ!!!」

 

 

幸村が激しく泣きじゃくる。他の武田家臣団も同様であった。

 

 

「そんな.....馬鹿な」

 

 

宿敵の死に、上杉謙信は落胆した。

 

 

「天龍.....」

 

「良晴.....」

 

 

たった今、結婚相手を失った2人を羨む声を、十兵衛と信奈があげる。

 

 

「なんと.....哀しい定めなのだ」

 

 

義輝もまた、信玄の死を悔やむ。

 

 

「これは.....なんとまぁ...........ぷくくく」

 

 

家康は影で笑いを堪えた。

 

 

 

 

だが、問題は後ろの連中だ。

 

 

 

 

「死んだ!!武田信玄が死んだぞ!!」

 

 

過激派連中の誰かが歓喜の声を上げる。それに呼応するように周囲も大声で喜び合うのだ。

 

 

「手前ぇら.....!!」

 

 

良晴はワナワナと震える。

 

 

「これでこの茶番も終わりです!今すぐにでも再戦しましょうぞ!」

 

 

天龍側の人間が言う。

 

 

「関白殿下!あんなゴミ連中なんぞはさっさと滅ぼしましょう!後々の弊害になるだけです!」

 

 

良晴側の人間が言う。

 

 

「どっちも屑ね」

 

「害悪はどっちだかです」

 

 

信奈と十兵衛が呆れた声をあげる。

 

 

「貴様ら!言わせておけばぁ!!」

 

「戦争主義の異常者共め!!」

 

 

武田家臣団からは怒りの声があがる。

 

 

「...........」

 

 

連中の主君でもあった元将軍足利義輝は目を瞑り、黙っている。

 

 

「ふっ.....」

 

 

天龍はふと微笑した。そして.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、諸君らに問おう。戦争を起こして、その後はどうするのだ?」

 

 

信玄の死に落胆し、塞ぎ込んでいた天龍がふと立ち上がり、天龍軍の将と良晴軍の将の間で質問をする。

 

 

「我が太閤軍が勝てば、再び荒れた日ノ本を再統一できる。関白軍が勝てば、この俺手動の天下を奪い取り、良晴手動の天下にできる。それが双方の目的。そうだろう?」

 

 

どちらの者達もそうだと頷きあう。

 

 

 

 

「よくもまぁ、そんな戯れ言が吐けるものだ」

 

 

 

 

天龍はそれを一蹴した。

 

 

「もし本当にそうならば、どちらも望むのは平和な世のはず。なのに、何故貴様らは戦争を望む?双方に多数の被害が出る事が分かっているはずなのに、何故また乱世を望むのだ。これは私と良晴個人の問題、貴様らには関係ないだろう?私達の和睦に反対し、再度対立を望むのは一体何故なのだ?」

 

 

その問いに、連中は答えを渋った。

 

 

「答えは簡単だ。自身の領地を増やしたいからであろう。天下が統一され、各々の領地が確立してからは、国内で戦争でも起きない限りは領地を増やす機会がない。だからこそ貴様らは戦争を望む。自身の私欲の為に、多くの民の不幸を望む。情けない。この私の失態も含めて非常に憎らしい。そんな部下など.....」

 

 

天龍はふと謎の薬瓶を召喚する。

 

 

「ちょっといいですかい?」

 

「.....斎藤龍興?」

 

 

斎藤道三の孫にして義龍の息子の斎藤龍興。織田家の美濃統一後、斎藤家残党の龍興は各地に放浪していた。その過程で近衛前久、土御門久脩に拾われ、当時の天竜を追い詰める為の捨て駒にされた。雑魚程度にしか見ていなかった天竜は軽く脅して家財一切を没収し、放り投げてしまったのだ。

その後天竜が天下統一した際に、ちゃっかり降伏し、名目上は津田信澄の家臣として存在していた。どうやら信澄謀反にも一枚噛んでいるらしい。

 

 

「何をおっしゃられるのですか。我々は只々、殿下の国造りの少しの助けになればとの思いで行動を起こしているのです。そのようにおっしゃられては、我々が惨めではありませんか?」

 

「ほう?」

 

「殿下はただ御命令をなさるだけで良いのですよ。憎き関白軍の連中を駆逐せよと。我らは殿下の槍となり盾となりまする。さぁ!今一度ご命令をば!ただ戦をしろとおっしゃればよろしいのです!」

 

「.....命令?...........いいだろう。くれてやる」

 

「はい!なんなりと!」

 

 

 

「爛れろ」

 

 

 

「へっ?」

 

 

天龍は手に持っていった小瓶の中身を龍興にぶちまける。

 

 

「い"い"っ!!!?」

 

 

その液体がかかった瞬間、龍興の表面が溶けるように燃え上がった。中身は硫酸だったのだ。

 

 

「お"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁがががががががががががががががぁぁぁ!!!!!!?

 

 

その場で悶え苦しむ龍興。だが、その劇薬の強力な酸は龍興の顔面の皮膚を抉るように溶かしていく。

 

 

「ひぃぃぃ!!?」

 

 

隣にいた信澄が恐れ慄く。それは他の家臣たち、良晴の家臣たちも同様であった。

 

 

「誰にものを言っているのだ、この身の程知らずが。貴様のような下劣な存在がよくもこの私に口を出せたものだ。貴様らに任せろだと?この国は私のものだ。どうするかは私が決める。貴様ら駒はただそれに従い、動き、死んでゆけばよいのだ。駒が主人にしゃしゃり出るなよ」

 

「なんだとっ!...........うっ!?」

 

 

天龍の家臣がたまらず立ち上がるが、再び召喚された小瓶を突きつけられ、動揺する。

 

 

「どうした?何か言いたいことでも?」

 

「くっ!!」

 

「重ねて言おう。この国は私のものだ。この国を平和な世にしようが、乱世の頻発する不毛の世にしようが、全て私の勝手だ。逆らうことなど許さぬ。もし、それを阻む者がいるならば、何人足りとも、それを生かしてはおかぬであろう。.....それがもし、私の家臣であったのならば」

 

 

天龍両手に大量の小瓶を次々と召喚する。

 

 

「自軍の粛清に、私は一体何本の瓶を使えばよいのやら?」

 

 

極めて邪悪な表情で、彼は言う。それは天龍の家臣達を真から震え上がらせる脅迫となった。

 

 

「それがその男の本性だ!」

 

 

誰かが叫ぶ。それは良晴軍側の兵。池田恒興。賤ヶ岳の合戦の際、天龍が佐々成政に調略を命じていた姫武将である。元々2人は織田家臣時代から大変仲が良かったのだが、天龍良晴といった若い男子に見初められ、次第に恋慕をするようになる。そうして、佐々成政が通称"テン派"。池田恒興が"ヨシ派"となった。

話は戻るが成政の調略。これは結果的には大失敗に終わる。恒興は良晴に付くことを心に決め、成政と決別したのだ。それを逆恨みした成政もまた恒興を敵対視し、それが今回の過激派に繋がったそうな。

始めは恋話の一貫としての派閥が、日本を揺るがす大戦争に繋がる対立に発展しまうとは、何とも皮肉な話である。

 

 

「奴こそ私欲の為だけにこの日の本を天秤にかける魔王だ!奴をのさばらせておけば、いずれ破滅を呼ぶ!」

 

「キツいなぁ〜。成政と一緒に身体を重ねた仲ではないか。なっ、恒ちゃん?」

 

「黙れ!外道め!!」

 

 

恒興は懐から拳銃を取り出し、天龍に向ける。その時!

 

 

「むっ!?..........きゃっっ!?」

 

「誰がそんな命令出した?」

 

 

祭壇前から高く跳躍してきた良晴が恒興の持つ拳銃を蹴り上げて掴み、そのままその拳銃の銃口を恒興の額に突き付ける。

 

 

「誰がこんな命令を出したのだ!!」

 

「ひっ、ひいぃぃぃっ!!?」

 

 

恒興がまるで鬼でも見たかのように怯える。その通り、今の良晴の表情はまるで般若のそれであった。

 

 

「この俺の顔に泥を塗るつもりか?勝手は許さない。次、何かしてみろよ恒興.....」

 

 

その彼なしからぬ行動に、彼の家臣達は息を呑む。

 

 

「"ぶち殺すぞ.....ごみベラ"」

 

 

そう言い放った。

 

 

「もっ、ももも申し訳ありません!!!」

 

 

恒興は泣きながらその場で土下座する。良晴のこの行動には家臣達は疎か、信奈らも驚愕させる。優しかった彼があんな暴言を、ましてや女子に対してするなど、考えられなかったからだ。

 

 

「ふふっ.....」

 

 

その光景を見て、天龍はふと微笑した。

 

 

「それはそうと。今は式典の最中だ。騒ぎ出さないでもらおうか?」

 

「「「えっ!!?」」」

 

 

これには良晴も驚く。

 

 

「ちょっと待って下さい!武田信玄はもう.....」

 

 

佐々成政が尋ねる。

 

 

「私は武田信玄と結婚するのだ。彼女がどのような状態であるかは問題ではない。武田信玄は没しようとも武田信玄。すると何か?没した今、それはただの肉か?」

 

 

既に絶命した彼女の遺体を指差す。

 

 

「そっ、それは.....」

 

 

答えなど、始めから決まっていた。

 

 

「武田信玄殿です.....」

 

 

こう答えなければ殺されていただろう。

 

 

「宜しい。フロイス、続きを頼む」

 

「はっ、はい!!」

 

「天龍.....」

 

 

良晴も仕方なくそれに従う。

 

 

 

この前代未聞の結婚式は、信玄の遺体との結婚という形で幕を閉じることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

江戸城、屋上。

 

 

「「すぅー..........ふぅ〜.....」」

 

 

全てを終わらせ、一服付く二人。

 

 

「結局こうなっちまったか」

 

「仕方ねぇよ。まさか勝千代が.....あんな」

 

「言うな。分かっている」

 

 

勝千代の死は二人に大きな衝動を与えていた。

 

 

「ふっ、それにしてもあれはねぇだろ。いきなり家臣に硫酸ぶっかけるなんてよう」

 

「命あるだけの物種というものだ。お前の方こそ、女子にごみベラはねぇだろ。ごみベラは」

 

「ははっ、あん時は頭に血が登っちまって無意識にやってたよ。恒興には悪いことしたな」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃっひゃひゃは!!!

それでこそ貴様らしいというものだ!!」

 

「ふんっ」

 

 

 

「"勝千代は俺らの中で生きている"」

 

 

 

「えっ?」

 

「この事態を収集するのに相応しき言葉だ。ちと、古いがな?

講和の条件は『武田信玄の存命中』だっただろう?どのような形での存命かは明記されていないわけだ。だから、俺達が勝千代を想い続ける限り、武田信玄は不滅。講和は続くわけだ。本当なら、結婚式も無事に終った後、勝千代が息絶えた後の始末として考えていたものだが、これくらいの独裁も、たまにはよかろう?」

 

「てっ、天龍!」

 

 

良晴が尊敬の眼差しを向ける。

 

 

「それでいいよな.....勝千代」

 

 

空に向かってそう告げた。彼女はきっと笑顔で応えてくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話は変わるが....."方仁"はどこか知ってるか?」

 

「方仁?」

 

「その.....陛下だよ」

 

「あぁ.....」

 

 

姫巫女こと、日の本第106代天皇、正親町天皇。その諱は方仁。天龍良晴双方の味方であった人物だ。

 

 

「さぁ、知らねぇな。合戦始まる前に会って、それきりだぜ?」

 

「そうか..........陛下が攫われた」

 

「はっ!?.....何の冗談だよ!!?」

 

「公家連中を眷属にして、口封じしたせいもあるようだな。陛下は御所から連れ去られたよ。何者かの手によってね」

 

「何でそれを早く言わないんだ!!?言ってくれれば、すぐに探し出せたのに!!」

 

「お前はブチ切れていきなり戦争おっ始めるくらい不安定だった。俺がなんと言おうと聞く耳持たなかっただろうさ」

 

「そんな.....そんなのって」

 

「最後に会って、陛下と何を話した」

 

「俺が合戦を起こすって言ったら応援してくれたんだよ。それで.....」

 

「馬鹿野郎!!!」

 

「えっ!?」

 

「いいか!?陛下はこの日本中の誰よりも戦争を嫌ってるんだ。いくら天下泰平の為とはいえ、殺生の伴う戦争には否定的だった。俺の出陣にも、陛下は表では支持しつつ、裏では訝しげな心情であらせられたのだ!!その陛下が戦争を応援するなど!!.....あいつが認めるなど、断じてあり得ない!!!」

 

「じゃ、じゃあ!!俺が会った陛下は一体誰なんだ!?」

 

「知るか。操られた方仁という線もあるが、1番考えられるのは幻覚か変装で化けた別人だよ」

 

「そん.....な」

 

 

良晴は彼女こそ方仁と思い込み、彼女が天龍の子を身籠っている話を信じ、彼女の頼みともあり、"彼女を抱いた"。その、天皇と名乗った、全くの別人を、良晴は方仁と思い込んで抱いた。

そう思った瞬間、猛烈な吐き気が襲ってきた。

 

 

「んま、それは貴様の自己責任だ。どんな醜女と一夜を共にしていようと、知ったこっちゃない。問題は本物の方仁方だ」

 

「あっ、あぁ.....」

 

「犯人はザビエル連中だよ」

 

「あぁ、何となくそんな気がしていた」

 

「今の俺には、奴らと繋がる唯一のコネクションが貴様なのだ。だからこそ、方仁救出には貴様の尽力が必要不可欠となる」

 

「あぁ、全ては俺の責任だ。陛下を助けられるよう、頑張るよ」

 

「頑張る.....か。実に貴様らしい」

 

「それでも、俺とあんたがまた共闘とはね。対立してた期間が長かったせいか、不思議な気分だよ」

 

「いやいや、貴様も随分と自分勝手だな。一方的に対立し、殺意を向け、気が済んだら許して、仲直りからの共闘しようか。やれやれだな」

 

「それに至るまでの原因を故意に作ってたのは誰だよ」

 

「かっかっか」

 

「へへっ」

 

 

 

 

 

 

「ふぅ...........言わなきゃ駄目だな」

 

「何がだ?」

 

「今だからこそ言わなきゃならない真実だ。今の貴様はそれを知れる立場にある」

 

「だから何だよ?」

 

「"勝千代の死因さ"」

 

「っ.....!?」

 

「当然、ただの病死ではない」

 

「あぁ、アマテラスっていう神様がかけた呪いだろう?そいつがあんたを精神的に追い詰める為に、勝千代の死に関する歴史の強制力を無理矢理に引き起こしたって.....」

 

 

良晴は間接的に教えられた情報を話す。

 

 

「あぁそうだ。これは神の呪い。半人半神に過ぎない俺には到底敵わぬものであると.....少なくとも"当時それを知った天竜はそう思い込んでいたよ"」

 

「.....は?」

 

「記憶の制御と暗示によってそう思い込むように誘導されていた。だから真実にも気付けなかったし、治すこともできなかった」

 

「おい、どういうことだよ!?」

 

「朧との融合で全て思い出したよ.....」

 

「まっ、待てよ」

 

「勝千代を殺したのは.....」

 

「言うな!聞きたくない!!」

 

 

それを確信していた良晴は聞く耳持とうとしなかった。せっかく信用した彼にまた失望することとなるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝千代を殺したのは俺だ」

 

 

 

 

 

 




またかよ!って思うかもしれませんがご付き合い下さい。次回はなるべく早く上がらせます。
次回予告
12年前のできごと
〜男と少女と怪物と〜

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