天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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作品が安定期に入ったので、更新ペースが早くなってきました。


第九十二話 風林火山

「はぁ!?キリスト式ぃ!!?神前式でも仏前式でもなくか!!?」

 

 

式場を何処にするかという話し合いで、信玄が突然妙な提案をする。

 

 

「うむ。南蛮の者らが行うという結婚方式でやってみたいのだ」

 

「いやいや、お前は仏前式でなきゃだめだろ。"信玄"なんて法名も付けてんのに」

 

「だめ.....なのか?」

 

 

信玄が上目遣いでおねだりしてくる。涙ぐんでいて、かなり可愛い。

 

 

「駄目だ」

 

 

あっさり切り捨てられる。

 

 

「だって、俺がやなんだもん」

 

「我侭だな」

 

 

良晴が言う。

 

 

「だって俺、反キリストの総本山だし、何故だか教会の中って息苦しいし、宣教師どももウゼーし。てか、そもそも教会式が生理的にアレだし」

 

「じゃあ神前式にするのか?」

 

「ん〜。俺、今は日本の神とも対立しちまってるからなぁ.....なんか気不味いしなぁ」

 

「日本と西洋両方の神を敵に回してよく生きてられるな」

 

「どうせ俺は地獄の魔王様だよーだ」

 

「じゃあ仏前式か?」

 

「仏前式もなぁ。坊主に木魚叩かれながらするんだろ?なんか葬式みたいで味気ないし、縁起悪いし」

 

「お前もう結婚すんな!!!」

 

 

盛大に叩かれた。

 

 

「勝千代の好きな形式でいいじゃねぇか。だって.....もうこれが最初で最後になるかもしれねぇし.....」

 

「...........分かったよ」

 

「本当にいいのか?.....お前が嫌だと言うなら私も諦めるが.....」

 

「いいよ。宣教師とかは単なる言い訳だし。今度の主役はお前なんだから出来る限り善処してやる」

 

「おぉ、ありがたい!私も花投げとかが楽しみで仕方ないのだ!!」

 

「うわ〜〜デジャヴ」

 

「でじゃゔ?」

 

「いや.....昔、前のカミさんとちょっと.....あれは俺の黒歴史だったりして.....」

 

 

 

 

 

「あら?どんな黒歴史?」

 

 

 

 

 

「い"い"ぃぃぃ!!!?」

 

 

5mは飛び上がる天龍。

 

 

「なんてね、です」

 

「十兵衛かよ!!!」

 

「どうですか?似てましたですか!?」

 

「やめろよ〜.....心臓止まるかと思ったぞ」

 

「止まる気配の全くない心臓持ってるくせに、よく言うですね」

 

「もういいよ。どっか行けよお前」

 

「何がどっか行けですか!!身重の妻をほっぽいてあちこちで戦を起こして!やっと帰ってきたと思ったら結婚!!?ふざけるのもいい加減にしやがれです!!」

 

「おいおい。怒るのは胎教に悪いぜ?」

 

「五月蠅いDeath!!!」

 

 

空気が悪くなってきたので、良晴が口を挟む。

 

 

「十兵衛ちゃん、今は何ヶ月なんだ?」

 

「うぅ.....大体三月目ぐらいです。最近はつわりが酷くて酷くて.....もう辛いですよ」

 

「だから寝てろって言ってんだ!無理して堕胎なんかしたら離縁するからな!!」

 

「厶キーー!!!こんな旦那こっちから御免するです!!!」

 

 

そう言って部屋から出ていく十兵衛。

 

 

 

 

 

「仲いいな」

 

「どこが!!?」

 

 

信玄が謎の呟きをする。

 

 

「喧嘩してるうちは仲が良いと言うだろう。夫婦は会話がなくなった時点でもう終わりだろう。私の両親もそうだった」

 

「喧嘩してそのまま離婚しちゃ、元も子もないがな」

 

「んで、教会式でいいのか?」

 

「いいけど、何で突然それをやりたくなったんだよ?」

 

「いや、花投げがやりたくてな」

 

「そんなら花束やるから屋上からぶん投げてこいよ」

 

「.....天龍」

 

「分かったよ!!.....ブーケトスがいいのか?」

 

「あぁ、花投げをやってその花束を取れた者は次に結婚できるんだろ?」

 

「まぁ、そういう制度だな」

 

「たったその程度のことで"幸せ"というものを分け与えられるというのなら、是非そうしたいのだ。私はもうその幸せを得ることも、国の民に与えることもできぬ。だからこそ、私は最期にそれをやってみたいのだ」

 

「.....勝千代」

 

 

良晴が涙ぐんだ表情で言う。

 

 

「そっか...........そういうことならもうちょいお客さん呼ばなきゃな!流石に元武田の家臣団だけじゃ寂しいだろ。いっちょ連れてくっか!」

 

 

天龍が立ち上がり、何処かに向かおうとする。

 

 

「どっ、何処行くんだよ!?」

 

「ちょっくら飛んでくるよ」

 

「飛ぶ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

「おいおいおい.....」

 

「どうだ。いっぱい連れてきたぞ」

 

 

江戸城には各国の大名や名将が集まっていた。

 

 

「 ഞാന് എന്റെ കൊണ്ടുവന്ന ഞാന്!」

 

 

琉球からは尚寧王まで来ていた。

 

 

「何で自分まで連れてきたのよ!だって」

 

「いや、俺も人狼だから聞き取れてるけどさ」

 

「 အိမ်ထောင်သည်အတွက်ခင်ပွန်းခဲ့ဘယ်အ!」

 

「お前は更に酷くなってるな」

 

 

元薩摩大名、島津義久。

 

 

「何で結婚しちゃったのよダーリン!だってさ」

 

「だから聞こえてるよ!.....大坂で暮らしてて、標準語も練習してるくせに何で酷くなんだよ。ずっと薩摩に住んでる義弘の方がよっぽど綺麗な日本語だよ!」

 

「あれま、良晴殿。まんた結婚しもった?もう、姫さまに怒られたんほいならんですかい?」

 

「なんで長秀さんが薩摩弁になってんだよ!!」

 

「うふふ。冗談ですよ」

 

「冗談かい。でもちょっと下手だったよ?」

 

「いいお世話です!」

 

「ん?」

 

 

ふと良晴が視線を向けると遠くの方に、長宗我部元親と小早川隆景の姿を見かける。裏切った手前もあって気不味いのか、居心地悪そうにしている。

 

 

「あいつらとはまた今度だな」

 

 

争う理由がなくなった今、すぐにでも関係を修復する必要もない。今後ゆっくりと仲直りをすればいいと心で思う。

 

 

「だ〜ん〜な〜さ〜ま〜♪(怒)」

 

「げっ!!?」

 

 

隆景の隣りにいた、小早川秀秋が天龍の前に現れる。

 

 

「よっ、よう秀秋。げっげげげ元気だったか?」

 

「はいなのです。愛するテンお兄様に義妹をやめて妻にならぬかと言われ、歓喜して九州戦にて初陣を飾り、島津家久を討ち取る程の功績を見せ、いの一番に旦那様にお褒めいただこうと思った矢先!旦那様は九州平定直後に天竺に旅立たれ、秀秋は待ちぼうけ。帰ってきたかと思えば、ヨシ兄様と合戦。しかも秀秋は隆景お姉様の軍なので、憎き敵側に。必死にお姉様に寝返るように説得し、ようやくそれが叶い、愛する旦那様と共闘できると思った矢先に停戦。しかも、仲介人の武田信玄殿とヨシ兄様とで重婚。秀秋はまだ口約束だけで結婚式の話すらなかったのに、しかもその重婚を祝えと?それはそれはおめでとう御座いましたなのですよ?えぇ、はい。秀秋は元気なのです」

 

「本当に申し訳ありませんでした!!」

 

 

秀秋の存在をど忘れしていた天龍はその場で平謝りした。

 

 

「兄さん!元気?」

 

「おー!秀次じゃないか!あれからどうだ?人狼化の後遺症とかはあるか?」

 

「誤魔化すななのです!!!」

 

「はい.....」

 

 

天龍より強い秀秋。

 

 

「あっはっはっはっは!!!怒られてやんの!!浮気した数だけ修羅場迎えやがれ!!」

 

 

良晴が下品に笑う。

 

 

「と.....殿ぉ.....くすんくすん」

 

 

全身ボロボロで泥だらけの少女が近寄る。

 

 

「半兵衛!!?」

 

「太閤殿下の土砂崩れの罠から兵達を守る為に、自らの霊力全てを導入し、殿を含めた数多くの兵を救いました。兵達全員を脱出させた後、私も逃げ出そうとしましたが、唐突に霊力が切れてしまい、私は土砂に巻き込まれてしまいました。しかし、そこに丁度龍穴あったようで、土砂に含まてていた霊気が私に力を与えてくれ、なんとか脱出する事ができました。

皮肉ですね。自らが潰そうとしていた龍穴に助けられるなんて。そうしてやっと殿に再びお会いすることが叶ったかと思えば、殿は信玄殿とご結婚されるようで大変幸せそうで、幸せそうで。死にかけていた私は放っておかれ、存在を忘れられ.....

でも殿が幸せなら、私も幸せですよ。

くすんくすんくすん.....えぐっ.....」

 

 

やばい。マジ泣きしそう!?

 

 

「半兵衛!!俺がお前を忘れるわけないじゃんか!!ずっと心配してたんだぞ!?このイザコザが終わればすぐにでも迎えに行くつもりだったんだ!!」

 

 

そう叫びながら半兵衛を抱き寄せ、頭を撫でてやる良晴。

 

 

「ぐすっ、ぐすっ、えぐっ.....

嘘でも嬉しいです.....えぐっ、えぐっ.....」

 

「嘘なんかじゃないさ!!もう大好きだよ半兵衛ちゃん!!愛してる!愛しまくってる!!もう結婚しちゃいたーい!!ちゅっ!ちゅっ!ちゅっ!」

 

 

オーバーアクションで半兵衛の頬にキスをする。

 

 

「本当に兄と一緒でどうしようもない、下衆ね」

 

「確かに、浮気の数だけ苦労するようだな。あの男も」

 

「うっ.....」

 

 

信奈と信玄のジト目の視線に串刺される。

 

 

「あんたの気持ちがようやく分かったよ兄さん.....」

 

「お前と一緒にすんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、此度はめでたいのぉ信玄!」

 

「義輝様!?.....っ!」

 

「そのままでよい。辛いのだろう」

 

 

車椅子から無理に立ち上がろうとした信玄を気遣う義輝。

 

元足利幕府13代将軍、足利義輝。

 

 

「天龍の奴めが突然迎えに来た時には驚いたぞ!まさかぬしが結婚とはな!しかも重婚とはやるのぉ!」

 

「いえ!それは滅相もない!」

 

 

義輝は信玄の憧れの人物でもあった。上京に失敗し、とうとう再会する機会がなかったのが、こんな形で出会えて、本当に快く思える。

 

 

「病はどうなのじゃ?」

 

「えぇ、お陰様で今宵は身体も軽く、義輝様を見てさらに元気になれ申した!」

 

「それは何よりじゃ!」

 

「それと.....そっちは.....義元か?」

 

 

旧名、今川義元。桶狭間の戦いでの敗北後、一時はお飾りとはいえ征夷大将軍。さらには、足利義元として大御所まで登りつめた人物であるが、最愛の妹、今川氏真を失った悲しみで心を閉ざしてしまったのである。

 

 

「しょり〜しょり〜気持ちいいですね〜」

 

「うぅ、やめてくだされ姉上ぇ!」

 

 

虚ろな表情で隣りの小坊主の禿頭を撫でている。

 

 

「えっ!?足利義昭公!!?」

 

 

義昭は出家していた。毛利を使い、義元を倒して自分が将軍になろうとするも、天龍に拉致られ失敗。しかし、棚から牡丹餅で結果的に傀儡で将軍になれた人物。しかし、氏真を守れなかった天龍を敵対視し、出兵するも敗北して、強制隠居させられた。しかし最近、良晴の要請で再び出兵していたのだ。

 

 

「関白殿下の命とはいえ、また性懲りもなく出兵したからな。思い切って出家させたのだ」

 

「だからって髪まで剃らせることないじゃないではないか!髪は女の命なのじゃぞ!?」

 

「そうでもせんとまた出兵するじゃろう。全く、弱いくせに乱世だけは好きな奴じゃ。精々そのつんつるてんな頭を公開して猛省せい!」

 

「うぅ.....」

 

「つんつるて〜ん♪」

 

「だから触るでない〜!!」

 

 

義昭は半ベソで義元から逃げ回っていた。

 

 

「菊もやっとやっと回復したのだ。天龍に貰った槙島の風土が良かったのかもしれぬ。昔のようなおちゃらけていた頃のあの子に戻るのも時間の問題かもしれぬ」

 

「そうですね」

 

「全く、海道一の弓取りも酷い様ね」

 

「氏康!?」

 

 

元相模国大名、北条氏康。

 

 

「貴様、記憶が戻ったようだな?」

 

「お陰様でね。ご機嫌よう義輝殿」

 

「うっ、うむ」

 

 

関東に王国を作ることに拘っていた氏康にはあまり、義輝との面識はなかった。

 

 

「貴方、義元を不幸にしたら怒るわよ?」

 

「うっ、うむ。精進する」

 

 

元将軍にもこの態度だ。とはいえ、氏康もまた天龍の側室。義輝よりは立場は上だ。

 

 

「それよりさ、信玄。天龍どこか知らない?」

 

「あぁ、今は元妹を慰めているぞ?」

 

「あらそう。ちょっと用があんのよ。ちょっとあの茶人大名のことでね....じゃあごめん遊ばせ〜」

 

 

氏康が去る。

 

 

「では、拙者達は先に式場に向かってるよ。婚姻の式を楽しみにしているぞ!」

 

「あっ、はい!」

 

 

義輝達も去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりですね」

 

「おぉ、貴様か」

 

 

永遠のライバル。武田信玄と上杉謙信が対面する。

 

 

「痩せましたね晴信」

 

「逆にお前は太ったのではないか景虎?」

 

 

2人は互いを旧名で呼びあった。

 

 

「うふふふ。まさかこんなことになるとは.....豊臣秀長が大きな鉄の鳥に乗ってやって来た時には腰を抜かしたものです」

 

「飛行機と呼ぶらしいぞ?あれは」

 

 

天龍は小型ジェット機を乗り回すことで国中から各国の重鎮達を連れて来ていたのだ。

 

 

「貴方とも数奇な運命に結ばれたものですね。"六度"に渡る対戦を迎えたにも関わらず、結局決着はつかなかった」

 

「あぁ、五回も合戦したのに全然倒せずに近郊状態が続いた大国がだ。天龍が現れたと同時にすぐにひっくり返った。あれ程出し抜くのに苦労した相手が苦戦するのを見て、あぁこれはいけると思った矢先、私は奴めに裏切られて全てを失った」

 

「その彼と結婚するのはどこの誰ですかね?」

 

「ふふっ言うな。貴様も貴様だよ。奴の実子を知らぬ間に義妹に迎え、そのせいで奴の養子に成り下がったくせに」

 

「養子?.....あぁ、そういえば彼は私の義父でしたね。記憶から消していました」

 

「よく言うよ。妹可愛さに義父と戦うことを躊躇い、ズルズルと三年半も全く動けなかったくせに。まぁ、妹想いな点は共感するがな」

 

「それだけじゃない。私はきっと心の奥底で彼を恐怖していたのかもしれません」

 

「天龍を恐怖?」

 

「別に彼に殺されるのが怖いだとかの間の抜けた理由じゃありません。私は本来は死ぬ筈の存在でした。知っての通り、私は人間じゃない。鬼.....。母方が鬼の家系であり、私には生き別れた鬼の姉がいる。何度聞いても納得できず、耳を塞ぎ続けていました。でも、そうしているうち身体から魂が抜けていき、気づいた時には真っ白になっていた。何にもない無個性な女に。あぁ、私はこのまま死んでいくのだと思った矢先に現れたのが彼、豊臣天龍秀長。彼は私の命を助けた。やり方は強引だったけれど、少なくとも私は本来の姿になれた。自身の身体、生まれ、瞳の色。全てが嫌で、戦場でいつも頭巾を付けるだけだっただった私、閉じこもっていた私を引っ張り出した.....救世主と呼ぶにはかなり不釣り合いな奴。それが彼でした.....」

 

「貴様.....もしかして奴のことが」

 

「私は義を重んずる考えで生きています。その私が彼に義が無いとでも?」

 

「...........」

 

「この間.....姉に会いました」

 

「確か名前は...........松山主水」

 

「えぇ、それも偽名のようですがね。彼女との会話はほんの刹那。すぐに何処かへ消えてしまいました。.....でも、彼女は教えてくれた。本当の名前を」

 

「本当の名前?」

 

 

 

「あや.....綾と書いてあや。」

 

 

 

「ふ〜ん」

 

「その事を秀吉殿に伝えると、『あぁ、それは綾御前だ!』なんて申されて、何のことやら.....」

 

「良晴とはどうなんだ?ひょっとして、私が良晴と結婚すんのを知って妬いてんのかい?ん〜?」

 

「まさか。私と彼とはただの主君と家臣の関係。そのような下劣な感情は持ち合わせてはいませんよ」

 

「下劣とな。とわいえ、貴様程の人間が良晴の下に付くとはねぇ。いやまぁ、良晴が下等と言っているわけではないが、てかむしろ、上等な男子であるがな。私と違って貴様のような奴は良晴とは合わんと思っていたんだが?」

 

「さぁ、何ででしょう?」

 

「おいおい」

 

「ふふふ.....でも、彼もまた私には関係の深い方なんです。殻に閉じこもった私を無理矢理引き出したのが豊臣秀長で、そっと暖めてくれたのが秀吉殿。そういう簡素な関係なんです」

 

 

「もしかして貴様.....想い人両方を持っていった私に嫉妬しているのか?」

 

 

「........口が過ぎますね。悪い口はここですか?」

 

 

謙信は信玄の両頬を抓って引っ張る。

 

 

「いひゃい!いひゃい!やめへふへ〜!!」

 

「変なことを口走るからですよ」

 

「うぅ.....貴様、想像以上に面白い奴になったなぁ。昔とは大違いだぞ?」

 

「えぇ、だいぶ変わりましたよ。私の性格も、この時代も.....」

 

「だな」

 

「たった2人の青年が全て変えてしまった。因果なものですね。歴史というものは.....」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真田幸村が大泣きしながら信玄に近寄る。

 

 

「えぐっえぐっ.....姫しゃまぁぁ!おめでとう御座いましゅぅ」

 

「おいおい幸村。めでたいのに何故泣くのだ?お前はこれからも旧武田の軍勢を背負っていくのだぞ?それがこんな泣き虫でどうする?お前は亡き我が妹、信繁の名も継いでいるのだ。良き大将となれ!」

 

「はぁい!!」

 

 

続いて真田昌幸。

 

 

「姫」

 

「昌幸。お前は私の本当の親友だった。これからも母として幸村を支えてやってくれ」

 

「うぅ.....勝ちゃん.....」

 

 

山県昌景。

 

 

「姫さま」

 

「三郎、お前は可愛いんだからは背の高さは気にしなくても、いい男はお前を放っておかないだろう」

 

「はっ、はい!」

 

 

馬場信房。

 

 

「ひめさまぁ。わたしもうれしゅうございます」

 

「お前は身体の大きさも相まってよく怖がられるが、私はお前の個性も含めて好きだった。武田家の良き盾となってくれた。ありがとう」

 

「ひめさまぁ」

 

 

高坂昌信。

 

 

「姫さま!結婚なんていいです!私と一緒に隠居先へ逃げましょう!」

 

「弾正、お前の退却戦は本当に一級品なのだ。だからその臆病な精神を鍛えて、次の主君のもとでも精進しておくれ」

 

「うえぇ.....」

 

 

内藤昌豊。

 

 

「姫さま。私は一度姫さまを裏切ってしまいました。そんな私がこの最後の挨拶の場に呼んで頂けるなんて.....本当に嬉しゅうございます!」

 

「.................あっ.....あぁ、ありがとう修理」

 

「っ!?.....姫さまが名前を覚えてくれた!本当に!本当にありがとうごいまするぅ!!」

 

(ぶっちゃけ忘れてたけど、ちゃんと思い出せてよかった)

 

 

武田逍遙軒。

 

 

「姉上.....」

 

「孫六。影武者として長年、よく務めてくれた。もう危険な影武者として生きなくてもよいのだ。これからは1人の人間、孫六として生きておくれ」

 

「はい.....」

 

 

武田四郎勝頼。

 

 

「姉さま」

 

「四郎、とうとうお前に私の天下を見せてやることは叶わなかった。元は赤の他人であった其方を無理に妹に迎え、私の都合で振り回してしまった。本当にすまなかったと思う」

 

「姉さま。四郎は姉さまに拾われて不幸に思ったことは一度だってありませぬ。今まで姉さまと一緒にいられて、四郎は本当に幸せだったですよ」

 

「ありがとう..........幸村、四郎を頼む」

 

「はい!これからは勝頼様を主君として!姉として!いずれは武田の家督を正式に譲れるよう、精進致します!」

 

「......まぁ、お前がそのつもりならそれでもいいか」

 

 

全てを幸村に譲ってよいとも考えていた信玄でもあった。

 

 

「「「うぅぅ.....」」」

 

「おいおい、何故皆泣くのだ?葬式じゃあるまいて。私はまだ死んでおらんぞ?」

 

 

家臣達も察していた。信玄がもう永くない事を。

 

 

「私はそんななよなよとした家臣を持った覚えはないぞ?我が家臣団であれば豪快に笑って主君を送り出せい!!」

 

「「「はっ、はい!!!!」」」

 

 

応えを受け、信玄は微笑する。

 

 

「さぁ!いよいよ挙式だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、べっぴんさんだべっぴんさん!」

 

「親父臭ぇ感想だな」

 

「美しいものを美しいと言って何が悪い?変な言い回しでもすればいいのか?.....あぁ、君はなんて丹頂のように切れ長で、水辺に舞い降りた女神のように神々しいのだ〜.....しゃらくせぇ!真に美しいものを見た時には、美しいという言葉しか出ないくらい余裕が無くなんだよ!!」

 

「あぁ!悪かった悪かった!俺が余計なこと言ったよ!ったく、ベラベラ喋るオッサンだこと!」

 

「これ、新郎同士で喧嘩するでない」

 

 

信玄は、絹のウエディングドレスを着ていた。化粧もし、この日の華となっていた。

 

 

「ってか、本当にそれ被んのか?蛇足というか、むしろドレスに不釣り合いで台無しな気がするんだがよう?」

 

「まぁ、勝千代らしいっちゃ勝千代らしいけどさ」

 

 

信玄はウエディングベールの代わりに、武田信玄のシンボルでもある大兜を付ける気でいた。

 

 

「改造させたものだから軽いだろうけどさぁ.....やだな〜。頭から角生えた嫁さんと結婚すんの」

 

「この兜は私の、武田信玄の存在そのものなのだ。だからこそ、これが私なんだというものを証明したいのだ」

 

「ん〜。まぁいっか。主役はお前なんだし、好きにするといいよ。ただ、誓いのキスの時には邪魔になるし外すからな?」

 

「きす?それは接吻のことか?なんと!南蛮の結婚式では大勢の客の前で公開接吻するのか!随分と大胆だな!」

 

「知らなかったのか.....メインイベントなのに」

 

「そうだ、肝心なことを忘れてた!引渡し役は誰にする?通常は花嫁の父が務めるのだが.....」

 

「あぁ.....父は数年前に逝った。母も幼少時に」

 

「私が務めましょうか?」

 

 

昌幸が話を聞きつけてやって来る。

 

 

「おぉ!お前なら適任だ。是非頼む!」

 

「このしがない引率で宜しいならば」

 

「うし!全部準備は終わったな。良晴。俺達は先に礼拝堂で待ってよう」

 

「そういや、ドラキュラ城の中に礼拝堂があるというツッコミをするのを忘れてたぜ」

 

「一応、サタン教の創始者なんでね。飾りのつもりで作ったが、こんな事に役立つとはとても思わなかったよ。ほら、行くぞ」

 

「へいへい」

 

「天龍、良晴」

 

「「ん?」」

 

「私の最期の我侭に何から何まで付き合ってくれて、とても感謝している。2人を愛おしく思うぞ!」

 

「いいってことよ!俺らは美少女には優しいんだぜ?」

 

「そうそう天龍の言う通り。俺だって勝千代の為だったら鼻からスパゲッティ食べることだって厭わないんだぜ?」

 

「じゃあ食うか?鼻でスパゲッティ」

 

「いや、冗談だから」

 

「かかかっ!!」

 

「へっ!」

 

 

新郎2人が笑いあい、信玄はそれを穏やかに見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!?」

 

 

礼拝堂の前に車椅子が止められ、入場をまで待つ時間。この瞬間に異変は起きた。

 

 

「ゲホッゲホッ!!!ゲホッゲホッゲホッ!!!」

 

「姫さま!!?」

 

「ゲホッ!!あっ、案ずるな。ただの咳だ!ゲホッゲホッゲホッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前。

 

 

「いいですか?薬の効果があるのは三刻(6時間)だけです。それが過ぎれば、貴方様はもう.....」

 

 

信玄の主治医、曲名瀬玄朔が言う。

 

 

「ゲホッ!!ゲホッゲホッゲホッ!!!.....頼む。きょ、今日だけでも身体が保てばいいのだ。せめて今日だけでも.....」

 

「..........」

 

 

玄朔は黙って薬を渡す。

 

 

「強力な薬です。ひょっとすればもっと早くに効果が切れるかもしれない。効果が切れたら.....貴方様の身体は反動にきっと耐えられないでしょう。それでも飲みますか?」

 

「ゴクッ!」

 

 

返事を待たずして信玄は薬を飲んだ。

 

 

「これで.....これでいいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薬の効果が切れた。絶え間ない激痛が信玄を襲う。

 

 

(まっ、まだだ!!!まだ逝くわけには!!!)

 

 

 

『新婦ご入場!!』

 

 

 

アナウンスが入る。そして、礼拝堂の扉が開く。

 

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

 

 

意識も朦朧とした信玄が前に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは。

 

 

 

父、武田信虎だった。

 

 

 

「父.....上.....?」

 

 

 

隣には

 

母、大井の方。

 

 

「母.....上?」

 

 

 

父も母も穏やかな表情で迎えてくれた。

 

 

 

 

『姉上.....』

 

 

 

 

 

信玄の右手を誰かが握った。

 

 

「次郎.....?」

 

 

信玄の亡き妹、武田信繁。

 

 

 

 

『姫さま.....』

 

 

 

 

左手もまた握られる。

 

 

「勘助.....?」

 

 

信玄の軍師、山本勘助。

 

 

「あぁ.....」

 

 

 

バージンロードをみんなが一緒に歩いてくれる。痛みで苦しんでいた自身を和らげるように.....

 

 

 

「.....勝千代」

 

「勝千代!」

 

 

 

祭壇前の天龍と良晴が優しく呼びかけてくれる。

 

 

 

「あぁ.....私は.....」

 

 

 

 

 

 

なんと果報者であろうか。

 

 

この世に神という者が本当にいるのであれば感謝しきれぬ。

 

 

戦国大名として生きて、多くを殺し、多くの不幸を生んできた私には過ぎたる幸運。

 

 

この武田信玄。最期に極楽を見つけたり.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 大ていは 地に任せて 肌骨好し

紅粉を塗らず 自ら風流 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝千代?」

 

「おい、勝千代?」

 

 

 

 

祭壇前まで来た信玄。だが、返答は既になかった。その表情は赤子のように穏やかに固まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武田信玄、死去。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で一度、この章を占めとします。
最終回ではありません。
次回予告
講和の後始末
〜天龍と良晴の選択は?〜

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