天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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すいません。またサブタイトルをずらしました。


第九十一話 決闘の行く末

江戸城、屋上にて。

 

 

「ゲホッゲホッ!!.....ゲホッゲホッ!!!」

 

「姫.....」

 

 

咳づく信玄に昌幸が毛布をかけてやる。

 

 

「ケホッ...........なかなか終わらんな」

 

「はい。こんな戦い、初めて見ました」

 

「良晴.....」

 

 

信奈が見守る中、その2人の戦いは続いていた。

 

 

「はぁ!!.....はぁ!!.....はぁ.....!!」

 

「ぜぇ!!ぜぇ!!ぜぇ!!」

 

 

その時間なんと5時間。日も既に暮れていた。

 

 

「あぁ、もう!!本当につえぇなぁ!!」

 

「うっせ.....ふぅ、さっさと倒れやがれ」

 

「やなこった!」

 

 

再び刃が交わる。

 

 

「こっ、これでもか!!」

 

「くっ、決め切れん!!」

 

 

天龍がトドメに放った奥義を良晴が返し、カウンターを放つが、それも届かない。

 

 

「うっ!?」

 

 

疲れも溜まり、良晴の足がもつれる。

 

 

「隙あり!!」

 

 

天龍が突撃してくる。

 

 

「なんちゃって!」

 

 

すぐに体制を整えた良晴が左手にグレネードランチャーを召喚し、天龍に向けて発泡する。

 

 

「っ.....!?..........ふんっ!!」

 

 

上空へ跳躍し、榴弾の爆発を避ける。

 

 

「隙ができたのはそっちだな!!」

 

「くっ!!」

 

 

上空へ逃げ、見動きが取れなくなった天龍に対し、良晴はグレネードランチャーを捨て、左手を天龍に向ける。

 

 

「これが俺の妖力波だ!!」

 

 

真田幸村に放った必殺技。自身の魔力を熱戦にして放つ人外ならではの技。だが、彼女に放ったような広範囲に広がるようなものでは天龍には効かない。だからこそその範囲を絞り、天龍に向けて一点集中する。

 

 

「いい加減にくたばりやがれぇぇぇ!!!」

 

「無駄だ!!」

 

 

天龍が刀を構える。

 

 

「神無月!!」

 

「うえぇっ!!?」

 

 

敵の勢いを利用し、受け流すように斬り裂く攻撃である神無月。それを応用し、良晴の妖力波を受け流すようにに斬り裂く。そして、流れるように良晴に近づいてくる。

 

 

「どんだけだよ!!」

 

「言葉を返すぞ!くたばるのは貴様の方だ!」

 

「へっ!.....相良流奥義、必殺!刃飛ばし!!」

 

「い"っ!!!?」

 

 

文字通り、良晴が右手に持っていた刀を天龍に向かってぶん投げる。天龍は慌ててそれを刀で弾いた。反動により、天龍の技は決まらずに、彼は良晴の後方へと転げ落ちていく。

 

 

「へっ!どうだ!俺も作ったぜ新奥義!」

 

「あんなのどこが奥義じゃ!!」

 

「へへん!でも、予想できなかっただろ」

 

「自分の得物ぶん投げる奴なんざ予想できるか!」

 

 

戦いはまだ続く。

 

 

「どうなってるのよ.....良晴はさっき天龍との一騎打ちでボロ負けしたんじゃないの?ものの半日で何が変わるのよ」

 

「そんなの、簡単な答えです」

 

「えっ?」

 

 

信奈の疑問にとある人物が答えた。

 

 

「先の戦闘において、先輩は剣士として天龍に戦いを挑んでいたんです。だからそれ以上の力は使わないように.....天龍もそれに出来る限り合わせていたと思いますです。調子に乗り過ぎた結果かなり追い詰められて、ズルしてまで反撃してましたですが」

 

「十兵衛!?」

 

 

身重である天龍の妻、明智十兵衛光秀現る。

 

 

「ですが今は違いますです。この勝負の勝敗がこの国の命運を決めることとなるです。だから2人共本気で戦っているんです。天龍も先輩も己の全力を持って勝負しているです。異能の力も全て使って.....勝負が均衡するのも仕方ないですよ。でも、それも時間の問題です」

 

「...........」

 

 

自分以上に2人を理解する十兵衛。それが信奈に複雑な心情を思い起こす。

 

 

「うおおおぉぉぉあああああぁぁぁ!!!」

 

「がああああああああああぁぁぁ!!!」

 

 

未だ決着つかず。

 

 

「ふっ!!」

 

「う"っっ!!!?」

 

 

良晴が再び発泡したグレネードランチャーの榴弾が天龍の胸部に直撃し、その場で大爆発を起こす。最早、それすら避けられない程に疲弊していたのだ。

 

 

「はぁ!!はぁ!!はぁ!!......終わった.....勝った...........うえっ!!?」

 

 

爆炎の中から拳銃を構える天龍の姿が見えた。

 

 

「う"ぎっ!!?」

 

 

右肩に直撃した。しかし、思った以上の衝撃であり、彼の右腕をそのままもぎ取った。

 

 

「があ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁ!!!」

 

「『PfeiferZeliska』600NE弾、世界最強の拳銃さ。やっぱ威力の強い鉄砲は痺れるねぇ...........って、あり?脱臼してりゅ。やっぱ片手撃ちは駄目か」

 

「ぐぅ〜!!ぐぅ〜!!ぐぅ〜!!」

 

 

無理矢理腕を再生させる良晴。

 

 

「むっ.....胸ぇ.....」

 

「あぁ、これかい?実はチタン埋め込んでんだよ。中学時代はアフリカの紛争地帯に傭兵に行っててさ、胸に銃弾喰らってたのよ。そんでチタンを埋め込んだわけ」

 

「チ............タン?」

 

「チタンさえ埋め込んどきゃあ、なんとなるのだ!」

 

「なんつー.....ご都合主義」

 

「だとしても.....今のは流石に死ぬかと思ったぞ.....

ったく、隙さえあればグレラン、バカスカ撃ちやがって」

 

「へへへ.....そうだ。いい考えがある」

 

「あ"ん?」

 

「お互い、次の一発で最後にしよう。もうどっちも戦う余裕なんてねぇだろ?だったら.....な?」

 

「ふん。構わんさ。体力のもうない貴様にハンデを与えてやるくらいわな」

 

「へへ.....それでだ。お前.....もう一回あの技を使ってこいよ.....師走を使うんだ」

 

「..........」

 

「どうしたぁ?臆したのかぁ?2回目だもんなぁ。俺に見切られてるかもしれないしなぁ」

 

「良晴。先程も言ったが、師走は非常に繊細な技だ。体力に余裕がある時ならともかく、こうもバテていては操りきれん.....下手をすれば、お前を本当に殺してしまう」

 

「へっ、そりゃおっかない」

 

 

ハッタリじゃない。現に師走は俺の下半身を風化したように消滅させる程の威力だ。まともに喰らえば、人狼である俺でさえ、一撃で屠れるだろう。だが。

 

 

「安心しろい。絶対に受け止めてみせるさ」

 

「良晴.....」

 

「勘違いすんなよ?投げやりで言ってんじゃない。確信があるからだ。俺は確実にお前の師走を受けて、生き残ってみせる!」

 

「...........いいだろう。だが、絶対に避けろ!朧月光流の中にも、師走に対抗しうる技は存在しないんだ」

 

「分かってるさ」

 

「本当にやばいぞ?ハリポタで言うならば、アバダケダブラ並にやばいぞ?」

 

「いいから撃てよ!」

 

「............よかろう」

 

 

天龍は刀を一度鞘に納め、構える。

 

 

「.....いいんだな?」

 

「どんとこい!!」

 

 

刀を野球のバットのフォームのように構える良晴。師走を打ち返すつもりなのか?

 

 

「朧月光流最終奥義.....」

 

「朧月光流奥義.....」

 

 

そして、撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師走!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三日月!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっ...........どうなったの?」

 

「勝負がつきましたです」

 

 

信奈の問いに十兵衛が答える。

 

 

「じゃっ.....じゃあ、まっ、まさか!?」

 

「えぇ、そうです」

 

 

十兵衛はやや微笑しながら答えた。

 

 

 

 

「先輩の勝ちです」

 

 

 

 

 

「まっさかな.....」

 

 

仰向けに倒れながらに天龍は言う。

 

 

「俺の師走を打ち消すとはな。しかも三日月で」

 

「俺は三日月の謎を説いたまでだよ」

 

 

同じく体力を使い果たし、その場に座り込む良晴。

 

 

「ただ斬撃を飛ばすだけの技としてはちとショボいなって思ったんだ。遠距離に攻撃したいのなら、わざわざ新技なんざ作らずに遠距離武器を使えばいいんだから。コンボに使うにしたって、遠距離に攻撃する奥義は他にもあるからな。じゃあ、三日月とはなんなのかってね」

 

「お見通しだったか」

 

「気がかりだったのは、お前が三日月を使った状況だ。あん時は俺がトドメの技として文月を放っていた。それに対し三日月の斬撃が飛んできて、俺の文月を完全に消しちまった。俺にダメージを与えるでもなく、ただ、文月を消したんだ。余韻も残さない程に、跡形もなく。それで気づいたんだ!

"三日月には敵の奥義を打ち消す力がある"と。

三日月は攻撃の剣技なんかじゃない。

防御の剣技だったんだ。」

 

「ふっ」

 

 

天龍が微笑する。

 

 

「多分、朧月光流の奥義ならなんでも打ち消せるんだと思う。そもそも、朧月光流自体が普通の剣技と違うからな。朧月光流もまた異能の一種なんだろうと思う。だから師走も消せるんじゃないかと思ってな」

 

「だが、師走は通常奥義とは根本的原理が違う。次元が違うのだ。それなのによく打ち消せそうと思ったな。というか、どうして打ち消せたのだ?」

 

「だってさ、師走も三日月もお前の技なんだぜ?"自分の技が自分の技に通じるかなんて、試さない限りは実証できないじゃんか"。それなら、打ち消せる可能性も無くはないと思ってな」

 

「はぁ!?たったそれだけの理由で全てを賭けたのかよ!?」

 

「おうよ!」

 

「呆れた」

 

「でも、1番の心配は三日月が使えるかだったなぁ。一回見ただけで、教えて貰えなかったし」

 

「馬鹿言え。練習なしにぶっつけ本番で発動しやがったくせに。それも生半可なものじゃなくて、俺の師走をも消すくらいに完璧なやつをだ。本当に腹の立つ餓鬼だぜ」

 

「なははは。お前こそ何言ってんだ。全然本気で撃ってなかったくせに」

 

「ぷっ.....くくくくくくくくく.....!!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」

 

 

突然2人が笑い出した。ああも憎み合っていたにも関わらず、たった一度の決闘で、それら全てを消し去ってしまったのだ。

 

 

「良晴.....」

 

「ん?」

 

「お前の勝ちだ」

 

「あぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のことである。天龍は約束通り、双方に有利な講和の状態を作ってくれた。あまりに上手く行き過ぎるから、何か裏があるのではないかと疑ったが、天龍の様子を見ているうちに、そんな疑いもなくなった。改めてこの人を信用してみようと思ったのだ。

 

 

 

『停戦期間は、武田信玄存命中までとする』

 

 

 

「むぅ」

 

「まぁ、妥当だろうな。こうすれば、戦争やりたい過激派連中を納得させられる。その分、さらに勝千代が命を狙われる可能性が高くなるが、仕方あるまい」

 

「終戦じゃなくて、停戦か」

 

「俺ら上部連中が不戦の約定を交わしても、下っ端連中は未だに憎み合ってるんだ。完全な終戦にするには、もうちょい時間がかかるな」

 

「だな」

 

「それでだ。争いの発端にもなった宣教師連中についてだが」

 

「あぁ」

 

「今は保留にしよう。一概に処刑や国外追放は行ったりはしない。俺もあいつ等とは話したい事があるからな。だが、いずれ決着はつけるぞ?」

 

「分かった」

 

「それで今後の政策だが、このままの武家社会と維新による文明開化。どっちがいいかはお前が決めろ。勝者の権利だ」

 

「俺が!?」

 

「あぁ」

 

「俺は.....」

 

 

良晴は答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「武家社会.....は、もう終わりにした方がいいと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ維新か?」

 

「うん。俺もここ最近の動きで、他国が皆この日本を狙ってるって知って、武家社会のままじゃとても太刀打ちできないなと思ってな。新しい世で国を強くした方がいいと思うようになってきてる。でも、今すぐ変えるのは反対だ。他の皆とも話し合って、納得させてからゆっくりと変えていきたいと思う」

 

「何を悠長な!.....と言いたいところだが、やめておこう。お前がその道を選んだのなら、それに突き進むがいい」

 

「お前ちょっと優しすぎじゃね?ちょっと怖いんだけど」

 

「これでも君を尊重してるつもりだよ。罪滅ぼしも含めてね」

 

「...........」

 

「コホンッ。私を抜きにして会話を続けられては困るのだが」

 

「あぁすまん勝千代」

 

「私達は存在すら忘れられてるし」

 

 

会議の部屋は先程と同じ天龍室。ここには信奈らもいた。

 

 

「それと天龍!講和すんなら勘十郎返しなさいよ!あんたんところで人質になってんでしょ?」

 

「そうだよ天龍。それも頼む」

 

「俺は一向に構わないが、信澄を納得せにゃどうにもならんぞ?」

 

「はぁ?どうしてよ!」

 

「だってあいつは自分から俺に寝返ったんだぞ?わざわざ妻子を人質として押し付けてまでな。俺はてっきり織田が嫌になってこっちに来たのとばかり.....」

 

「「!?」」

 

「今信澄は越中で成政と共に陣を張っている。奴もまた過激派の1人だ」

 

「そんな.....どうして!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間に及ぶ会議も大詰めになり、天龍は一服しようと屋上に登る。すると先客がいた。

 

 

「あり?お前も吸うんだ。身体に悪ぃ〜ぞぉ?」

 

「ヘビースモーカーには言われたかねぇな」

 

 

喫煙者は良晴。一応成人しているので問題はない。銘柄は『マイルドヘブン』。天龍も隣りで葉巻に火をつける。

 

 

「戦争も終わっちまえばあっけないな」

 

「開戦した本人が言うか」

 

「火種をつけたのは誰だ?」

 

「ふふっ.....ふぅ〜」

 

「ははっ.....ふぅ〜」

 

 

互いにニコチンの煙を吐きあう。

 

 

「山中鹿之助の件は気の毒に思う。すまない。恨むなら俺を恨んでくれ。だから、源次郎を.....幸村を責めないでやってくれ」

 

「あぁ...........分かった。でもあいつも本望だったと思うぜ?戦いの中で、しかも真田幸村だなんて名将と戦って散れたんだから」

 

「...........」

 

「終わっちまったもんは仕方ないさ.....人は誰しも..........いつかは死ぬんだから」

 

「...........」

 

 

無理に笑顔を作ってみたが、彼にはお見通しのようだった。

 

 

「なぁ、天龍」

 

「なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が俺の両親殺したって話。あれ、嘘だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....................あぁ」

 

「そっか」

 

「信じるのか?これも嘘かもしれんぞ?」

 

「お前が俺に対してつく嘘に、真から悪意のあるものなんて無いんだろ?」

 

「...........」

 

「決闘効果ってすげぇよな。ただ殴り合うだけで互いの思ってることが分かり合えるような感じになれるんだもんな」

 

「良晴...........俺は.....」

 

「あんたは本当にいい奴だよ。俺のストレスの発散場所になってくれてたんだから。あんたのお陰で俺もだいぶ強くなったよ。そうとも知らずに俺は.....本当に馬鹿だった」

 

「良晴.....」

 

 

何を思ったのか、天龍は自分の突然こめかみに指を突き入れたのだ。

 

 

「天龍!?」

 

「待ってろ」

 

 

すると、そこから流れ出した血液を召喚した小瓶の中に流し込み、蓋をする。

 

 

「ほれ。やるよ」

 

「なんだよこれ.....」

 

「その血の中に"あの日"の俺の記憶を詰め込んでやった。飲めば分かる。あの日、本当は何が起きたのか。敏晴さんと葉子さんが本当は誰に殺されたのかを」

 

「..........」

 

「別に今じゃなくてもいい。気持ちの整理がついて、本当に真実が知りたくなったのなら、飲むといい」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「でも血は腐りやすいので早めにお召し上がり下さい」

 

「うっ、うん......」

 

「ふぅ〜」

 

 

また煙が吐かれる。

 

 

「天龍、六の件だが.....」

 

「案ずるな。それも一緒に入ってる」

 

「そっ.....か」

 

 

その一言で、六の件にも何かしらの事情があったと確信する。

 

 

「ありがとな..........兄さん」

 

「なんだ突然。気持ち悪いな」

 

 

そこに信奈が来た。

 

 

「あんたら、イチャイチャと何やってんのよ。気持ち悪いわね」

 

「2人してなんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天龍室。ここには信玄が1人でいた。万が一の為に、家臣や主治医の曲名瀬玄朔らは廊下で待機していた。

 

 

「ゲホッゲホッ!!ゲホッゲホッ!!」

 

 

痛々しい咳は止まらない。

 

 

「ゲホッゲホッゲホッ!!!ゲハっ!!!」

 

 

突然、信玄が吐血する。手で口を押さえた為に、信玄の右手が鮮血に染まる。

 

 

「はぁ.....はぁ.....はぁ.....はぁ.....くっ!!」

 

 

頭を掻き毟る信玄。

 

 

「なっ!!?」

 

 

だが、掻き毟った手には抜け落ちた大量の髪の毛があった。

 

 

「くそっ!!くそっ!!くそっ!!」

 

 

悔しさで布団を殴るが、衝撃で爪が割れる。

 

 

「はは.....」

 

 

つい笑い声が漏れる。

 

 

「情けない。これが武田信玄の末路か.....」

 

 

 

「姫.....」

 

 

 

ふすまの隙間から見ていた昌幸が哀れな友の無念さに涙を流す。

 

 

「いや、まだだ。ここで私が死ねば、2人の決意が無駄となる。意地でも生きなければ!」

 

 

そんな時、とある人物がこの部屋を訪れた。

 

 

「むっ!?」

 

「随分と苦しそうですね武田殿」

 

「徳川家康.....」

 

「あぁ、なんたることでしょうか。ああも憧れていた武田信玄殿がこうも哀れなお姿になって仕舞われるとは.....悲しい限りでございます。しくしくしく.....」

 

 

ヨヨヨと泣くような素振りを見せる家康。

 

 

「よく言うぞ、この狸め。目が笑っているぞ」

 

「くひっ.....」

 

 

一瞬だけ邪悪に笑った家康だったが、すぐに真顔になる。

 

 

「貴様もまた変わった。あの子狸が、一人前に武将の顔をするようになった。時間の問題では、真田の軍とて貴様には敵わなくなるであろうな」

 

「それは感激の至り」

 

「まともな人格に育っていればの話だがな」

 

「っ...........」

 

「今のお前は子狸でも中狸でも、そして勿論、大狸でも女狸でもない。今のお前は、下劣で醜い『蛇』だ」

 

「蛇?」

 

「あぁ、龍の威をかりた陳腐な蛇だ。貴様は天龍の一番悪い部分のみを鮮明に感化されてしまったようだな。見習う相手を間違えなければ.....いや、もっと自身を見間違わなければ、立派な武将になれたものを.....情けない」

 

「わっ.....私が蛇?.....下劣で.....醜い?」

 

 

ワナワナと震えながら爪を噛む。そして。

 

 

「黙れよ死に損ない」

 

 

信玄の真正面までぐいっと顔を近づけ、そう吐き捨てた。

 

 

「いいですとも。私は蛇です。太閤殿下を見習い、その生き方を変えた。小さな小さな蛇ですとも。ですが、この私にも大きな武器はありますとも」

 

 

舌舐めずりをする。

 

 

「"毒"ですよ。私には毒がある。蛇は蛇でも私は毒蛇。そこらの青大将とは違う。私の毒は強力です。既に何人かはその影響を受けてしまっている。そう、お姉様もその1人。そして、信玄さん。貴方もね」

 

「何が言いたい?」

 

「いいですかぁ。その低能な頭によくよく刻み込んで下さい。この世を最後に手に入れるのは、貴方のような武に強い方ではない。お姉様のように、頭のいい方でもない。サル関白のように、勇気溢れる方でもない。魔太閤のように、千里も見渡すような化物でもない。

最後に勝つのはこの私、蛇なんですよ♡

どんなに戦に勝とうとも、どんなに人を殺そうとも、どんなに策略を練ろうとも、どんなに歴史を作ろうとも!最後は毒が回って皆死んでしまうんです。そうして、あれよあれよとしている内に骸は積み重なる。その上にようやく立つのは、毒が回るのを待つに待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って!

天敵を全て排除した地を支配できる。毒蛇なんですよ。

その為ならば、何百年でも待ちますよ?

うひひひひひひひひひひひひひひひ!!!」

 

 

そうして家康は蛇のように信玄の頬を舐める。

 

 

「まずは最初の骸のできあがり。

さっさとおっ死ね。ばーーーか。

うひひひひひひひひひひひひひひひ!!!」

 

「下郎め」

 

 

その光景を廊下の昌幸らも見ていた。

 

 

「おのれぇぇ.....もう許さぬ!!」

 

 

刀に手をかけようとした昌幸を幸村が止める。

 

 

「落ち着き下され母上。今ここで暴動を起こせば、この講和は無かったものとされてしまう。それにここには曲者が多い。恐らくは服部の忍。出れば母上が死にまする」

 

「だが、この無念さはどうすれば.....」

 

「今は抑えてください。徳川家康はこの世にいてはならない大悪党です。その内、必ず天罰が下ります!ですから今は.....」

 

「それまで待つのか.....我らはなんと無力か」

 

「天罰を下すのは神だけではありません。きっとあの方が.....きっと.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、結婚式はようやく訪れる。

 

 

 

 




サブタイトル変更は決闘が予想以上に長引いたのが原因です。さて、次回は結婚式。和解した兄弟と、本性を現した家康。壊れていく信玄。無事に結婚式は迎えられるか?
次回予告
風林火山
〜疾きこと風の如し〜

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